.


マスター:牛男爵
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/03/16


みんなの思い出



オープニング


 昼休みの教室で、自称最強クノイチ・矢吹亜矢はコロッケパンをかじっていた。
 手元には、『2015・久遠ヶ原学園修学旅行』と書かれたパンフレットがある。
 それを見つめる亜矢の目は、いつになく真剣だ。

「どうした、矢吹。えらく真剣な目つきじゃないか。読めない漢字でもあったのか?」
 話しかけてきたのは、担任教師の臼井。
 その名のとおり、頭髪がちょっと寂しい中年男だ。
「そうじゃないわよ。毎年毎年、修学旅行のたびに思うんだけど……この旅行先って、だれがどうやって決めてるの?」
「それはまぁ、学園側で旅行先の人たちと予算や日程を調整してだな……」
「ふーーん。……でもさぁ、旅行先は生徒に決めさせたほうがいいと思わない? 今年だって色々選択肢はあるけど、もっとほかに行きたいところがあるかもしれないでしょ?」
「それはそうだが、生徒ひとりひとりの希望にこたえることはできないだろ」
「でも、アンケートをとるぐらいしてもいいんじゃない? それで人気の高い旅行先があれば、来年検討できるでしょ?」
「それはまぁ、たしかにな。……しかし、一体どうした? 矢吹にしては、ずいぶんまともな意見じゃないか」
「ふふ……久遠ヶ原生のひとりとして、ちょっと意見が言いたかっただけよ」
 ただ単に、自分の行きたい旅行先を主張したいだけだった。
 ちなみに亜矢が行ってみたいのは、伊賀の里・忍者屋敷。
 忍者として生まれたからには一度は行っておきたいと、つよく願っている次第だ。

「たしかに、矢吹の言うことにも一理ある。生徒の意識調査は大切だな」
「でしょ? だから、アレよ。あたしが聞いてきてあげる」
「そうか。じゃあよろしくたのむ」
「いやいや、『よろしくたのむ』じゃなくて! あるでしょ! ほら! 寸志的なものが! 生徒たちに貴重な時間を割いてもらうんだから、ギャラは必要だよね!?」
「……まぁ意義のある調査内容だから、すこしは学園が負担してくれるかもしれないが……」
「『かも』じゃなくて! ちゃんと払ってよね!」
「うむ……まぁ、調査に協力してくれた生徒には、いくらか包むことにしよう」
「もちろん、あたしにもね! ……というわけで、いざ突撃アンケート開始! みんなで忍者村に行くのよ!」




リプレイ本文


 突撃取材をはじめた亜矢が真っ先に目をつけたのは、忍者仲間の陽波透次(ja0280)だった。
「ちょっと、そこのぼっち! アンケートに答えて!」
「僕ですか? お金がもらえるなら答えないわけにいかないですね。お金は正義ですし……生活費ほしいし……」
「じゃあ訊くわよ? ずばり、修学旅行で行きたいところは? もちろん伊賀の里よね?」
「いいですね……忍者村とか、興味あります。現役忍者として、一度は遊びに行ってみたいですね」
「でしょ? で、実際に行ったら何がしたい?」
「そうですね……まずは、じっくりと博物館を見てまわりたいです。次に、からくり忍者屋敷でからくりを見抜く洞察力をきたえる修行をしたり……忍者道場で免許皆伝の巻物コンプリートしたり……木造では日本一の大きさを誇る大黒様も見てみたいし……忍術バーベキューも食べたいです」
「やけに詳しいわね」
「まぁ忍者ですから。……きっと、独りでまわっても楽しいですよね? 独りで見てまわっても、たのしいですよね!? 忍者とは、孤高がジャスティスですよね!?」
 なぜか涙声で訴える透次。
 以前に比べて奇行は減ったが、まだ少しおかしいようだ。



「ん……ちょっと、遅れちゃった……」
 愛須・ヴィルヘルミーナ(ja0506)は、小走りに食堂へ向かっていた。
 手に持っているのは、学園のパンフレット。
 そこへ、亜矢が声をかける。
「そこのロリ巨乳! 止まりなさい!」
「ふえ……っ?」
「アンケートよ。修学旅行で行ってみたいところは?」
「ん……ごめん。いま急いでるの……。お話があるなら……ついてきて……」
「ちょ、どこ行くのよ!」
 というわけで、ふたりは食堂へ。

 昼休みの食堂は、生徒でいっぱいだ。
 その片隅で、愛須・セラフィーナ(jc1239)はホットミルクを飲んでいた。
 ヴィルヘルミーナと待ち合わせをしているのだ。
「あら。なんか似てるわね。もしかして姉妹?」
 おもに胸を見ながら、亜矢が問いかけた。
「ん……お姉さんじゃなくて、お母さんだよ……」
 と、ヴィルヘルミーナ。
 それを見て、セラフィーナはクスッと笑う。
「初めまして、ヴィルヘルミーナの母です。いつも娘がお世話になってますわ」
「って、あんた。どう見ても高校生ぐらいじゃん!」
 亜矢は大袈裟に驚いた。
「ふふっ……。いつも姉妹に間違われますが、ちゃんとした母親ですわ」
 やわらかく微笑みつつ、手作り弁当を娘に渡すセラフィーナ。
 その様子は、とても親子に見えない。

「まぁいいわ。ふたりに質問よ。修学旅行で行きたい場所はどこ?」
「そうですねぇ……温泉とかもいいと思うけど、きれいな海で海中遊泳とか行ってみたいわね」
 セラフィーナが答えた。
「ん……私は、大きなテーマパークとか……アトラクションがいっぱいある遊園地に……行ってみたい」
 こちらの答えは、ヴィルヘルミーナだ。
「つまり……海中テーマパークね!」
 亜矢が二人の意見をまとめた。
 それを、乱雑にメモ帳へ書き込む。
「なにか、変わったことをしてるんですのね。……よければ、これからも娘と仲良くしてやってくださいな」
 そう言うと、セラフィーナは礼儀ただしくお辞儀した。
 彼女は久遠ヶ原に来て日が浅い。今日は、娘に学園を案内してもらおうと待ち合わせていたのだ。
 しかし、このカオス空間久遠ヶ原を案内するのは、かなり大変なことだろう。
 よく考えれば、この学園を歩くことこそ真の修学旅行かもしれない。



「単純に行きたい場所、というのであれば中国。成都のジャイアントパンダ繁殖センターになるだろう。理由は言わずもがな、もふもふパンダちゃんに埋もれる以上の愉悦などないからだ!」
 下妻笹緒(ja0544)は、いつものように演説をはじめた。
 亜矢も慣れたもので、「へー」などと反応が薄い。
「……しかし、しかしだ。修学旅行となれば、話は別だ。ただの旅行であれば、自身が望む場所に行けば良い。だが修学とはすなわち、学び、知識を得ることに他ならない。すべてが望み通りにかなって、なにが修学と言えようか」
「じゃあどうするのよ」
「いいかね。世は常にままならぬもの。それを体験するには、生徒の行きたいところになど行かせてはならない。であれば……ここで使うのはダーツ!」
 そう言うと、笹緒はどこからともなくダーツと世界地図を取り出した。
「ダーツ……? はっ、まさか!?」
「そう、修学旅行先はダーツで決めるべきなのだ。この世界地図を壁に貼り、ダーツを投じ当たった場所に赴く。それでこそ真の修学旅行!」
「それ、どこかのTV番組と同じよね。個性がないわ。却下却下」
「あれは日本地図だが、私は世界地図を使うことを提案する。それでこそ、これからのグローバル社会を生き抜くための……待て、最後まで話を聞け!」



「今日こそ究極の一杯を……!」
 とある部室にて──
 今日も、究極の一杯のために余念のない漢がいた。
 彼の名は、ラーメン王・佐藤としお(ja2489)
 作っているのは、無論ラーメンだ。
 ただのラーメンではない、その名も『超死辛麺(デスラーメン)』
 このラーメンに必要なものは、『死のソース』
 だが、現状日本で買えるものには限界がある。その限界を超えるには、現地での購入が一番だ。狙うは、ただひとつ……『ブレ●ーズ・16ミリオン・リザーブ』
 その辛さは殺人級で、瓶を開封するにはゴーグルと手袋が必要であり、触れるだけで火傷し、じかに舐めようものなら命の危険もあるという最強ソースである。
「これさえあればっ……!」
 と、どこまでも真剣にラーメンを作るとしお。
「としおさん、がんばってくださ〜い♪」
 華子=マーヴェリック(jc0898)が、横から応援した。
 としおの言ってることはマニアックすぎてサッパリだが、そこは愛嬌でカバー。
 というか、ラーメンは好きだけど辛いのは苦手なので、手伝うのも一苦労だ。

「ちょっと、あんたたち! ラーメン作ってる場合じゃないのよ!」
 亜矢がドアを蹴り開けて乱入してきた。
「……? としおさ〜ん、だれか来ましたよ〜♪」
 のんびりと声をかける華子。
 おいおい。『だれか来た』ってレベルじゃねーぞ。
「ふたりとも! 修学旅行でどこへ行きたいか、いますぐ答えなさい!」
「え? 修学旅行? アメリカでいいんじゃね? さもなければ、究極のラーメンで全員天国逝きだよ☆」
 としおが迷わず答えた。
 華子は頬に手を当てて、うっとり顔だ。
「天国逝き……いいですね〜。としおさんの作る超死辛麺には、毎回意識を持っていかれてるのですよ〜♪」
「まじめに答えてよ! 一応、学園からの依頼なんだから!」
 よりによって、亜矢から『まじめにやれ』と言われるとは。
「はいはい、旅行先ですね〜? どこだろうと構いませんよ〜♪ としおさんと一緒なら、たとえ火の中水の中〜♪」
「どこがいいのよ、こんなラーメン馬鹿!」
「ひとつのことに集中する男の人って、すてきですよ〜? なんでわかってもらえないのかな〜」
 きょとんとする華子。
 これはある意味、お似合いのカップルかもしれない。



「修学旅行も学業の一環ですから、堅めの行き先もアリではないでしょうか?」
 楯清十郎(ja2990)は、まじめな顔で取材に応じた。
 いつもの、アンパンきめてる彼とは違う。
「というわけで……僕が行ってみたいのは最高裁判所。この国の司法権を司る最高機関です。どうせなら、傍聴席で裁判の見学もしたいですね。裁判してない裁判所って、見学する意味が薄いですし」
「そんなの、あんた個人で行けば?」
「生徒の意見が反映されることに意義があると思うんですよ。せっかくなので、矢吹さんも協力してください」
「協力? なにを?」
「まずは、日ごろの騒ぎから騒乱罪で逮捕されましょう。そして頻発するディアボロの出現と爆発騒動を内乱罪にできれば、被告人として証言台に立てますよ。生の裁判を見れる機会も少ないでしょうし、皆から特別な目で見られること間違いなしです」
「ただの前科者でしょうが、それ!」
「いえいえ、ただの前科者ではありません。一級の前科者ですよ。では、いまから警察を呼びますので……って、あれ? いない!?」
 うすうす予想はしてたが、まともな答えを返す人がロクにいないぞ!



「修学旅行の行き先? とくに希望はないが……しいて言うなら、『撃退士の就職先が一番多い県』だな」
 そう答えたのは、礼野智美(ja3600)
「え……?」
 亜矢は首をひねった。
「そもそも、『修学旅行』だろ? 『なにかを学ぶための旅行』なんだ。生活のために中学・高校で就職する生徒もいるわけだし。先達がどういう環境で働いているか、とか。彼らの話や実際の仕事先の見学とかも、将来のことを考えると見ておきたい」
「まじめか!」
 関西風にツッコミを入れる亜矢。
 だが、智美は冷静だ。
「まじめで悪いか? 一応フリーランスでやっててよく学校に来る人もいるけど、あれは例外みたいなもんだしな……。あと、撃退士にならなかったら今までの学資返却ってことになってるが……『日頃は教師だけど非常時には撃退士として行動』って人の場合、学資返すことになるのか知りたいし。ためしに訊くけど、おまえ知ってるか?」
「知ってるわけないでしょ!」
「やれやれ、役に立たないな。……まぁ俺の回答は以上だ」
 それだけ言うと、智美はクールに去っていった。



「あっ、まともなほうの桜花発見!」
 亜矢が近寄っていったのは、染井桜花(ja4386)だった。
 ここは学食。桜花はいつものように黒い和服を羽織り、緑茶を飲んでいる。
 手元にあるのは、『猫でもわかる世界の暗殺術』なるタイトルの本だ。
「……なに?」
 亜矢に気付いて、桜花は顔を上げた。
「妙な本ねぇ……どうしたの、それ」
「……図書室で借りた」
「ふーん。まぁとにかくアンケートよ! 修学旅行で行きたいところは?」
「………」
 桜花は無言で本を閉じると、緑茶を一口すすって吐息をついた。
 それから、すこし考えて答える。
「……奄美大島が良い。……とくに加計呂麻島……ここに行ってみたい」
「かけろまじま? なにそれ」
「……南国の観光地だ……『日本の里100選』にも選ばれている。……もっと言えば、とある映画のロケ地だ」
「なんて映画よ」
「男はつらいy
「待って! 著作権著作権! あれよね、四角い顔のテキ屋が毎回女の子にフラれる話よね! わかったから! じゃあね!」
 ふぅ、危ないところだった。



 月乃宮恋音(jb1221)は、調理実習室で何やら作業していた。
 今日の放課後、佐渡乃明日羽とスイーツ作りをするため、その準備をしているのだ。
「見つけたわよ、恋音! さぁ質問に答えなさい!」
 亜矢が扉を蹴り破って飛び込んできた。
「お、おぉ……? 修学旅行の希望、ですかぁ……? でしたら、アメリカを希望しますぅ……」
「理由は!」
「そのぉ……いろいろと大きいと言われる、あの国であれば……自分の極端な体型も、目立たない気がするのですよぉ……。それに加えて、服や下着もサイズの合うものがありそうですしぃ……」
「そんな人外境の胸、アメリカでも無理よ!」
「うぅ……っ」
 現実をつきつけられて、言葉を失う恋音。
 なぜか亜矢は勝利者の顔だ。
「まぁいいわ。アメリカに1票ね」
「あのぉ……少々おまちを……」
「なによ」
「『希望』ということであれば……私は『天界』か『冥界・魔界』を希望しますぅ……」
「はァ!?」
「……そのあたりに旅行できるようになる、ということは……ある程度の共存による平和的解決が成立した、ということになりますよねぇ……? それから、個人的に天魔の体型制御能力を研究したいというのも、ありますぅ……」
 いいことを言ってるが、実現不可能だ!
 おっぱいを小さくするのもな!



「邪魔するわよ!」
 亜矢は、茶道部の部室をスパーンと開けた。
 そこでは、和服姿のユキメ・フローズン(jb1388)が茶をたてている。
「あら、いらっしゃい」
「あたしが何をしに来たか、もうわかるわね?」
「修学旅行の希望調査……? まぁせっかくだから、お茶を飲んで行きなさい」
 ユキメは、たてたばかりの抹茶をスッと差し出した。
 きっちり茶菓子も添えられている。抹茶も茶菓子も、かなりの高級品だ。
「あら、おいしそう」
 と、あぐらをかいて茶菓子をほおばる亜矢。
 ユキメはクールな微笑を浮かべつつ、その様子を見守っている。
「そうそう、アンケートね。どこへ行きたいかということなら、私は京都が良いわ。……あるいは、どこか温泉が有名な場所でも良いけれど」
「温泉好きなの?」
「ええ、とても。……深夜に入る露天風呂ほど、ぜいたくなものはないと思うわ」
「それは同意」
「あとは、宿によって食事も違うから、それも楽しみね……」
「じゃあ京都の温泉でいいじゃない」
「そうね。それも悪くないわ」
「オッケー、京都に1票ね。よし、次!」
 亜矢は抹茶を一気に飲み干すと、茶室をあとにした。



「なにか、甘い匂いが!」
 亜矢が開けたのは、家庭科室の扉だった。
 そこで何やら調理しているのは、秋姫・フローズン(jb1390)
 青と白を基調にしたメイド服に身をつつみ、襟元にはタイを締めている。
「あ……こんにちは……」
「なに作ってるの?」
「ええと……お昼のついでに、季節の果物を使ったタルトを……。試作品ですけど……よかったら、食べますか……?」
「もちろんよ!」
 というわけで、ここでも紅茶と洋菓子をごちそうになる亜矢。
 タルトも紅茶も、とても上質な味わいだ。
「うん、上出来上出来。じゃあアンケートよろしくね♪」
「修学旅行、ですか……。そう……ですね……これといった地名は、ありませんが……南国のほうに……行ってみたいですね」
「ずいぶん曖昧ねぇ」
「具体的な場所は……思いつかないのですけれど……。珍しい食材とか……探してみたいです……」
「オッケー、南国のどこかね。よし、次!」
 亜矢は紅茶を一気に飲み干すと、家庭科室をあとにした。



 アメリア・カーラシア(jb1391)は、教室で自作の中華弁当を食べていた。
 中身は、炒飯、エビチリ、焼売など、チャイナカフェ『赤猫』のものと同じだ。
 身につけているのは、いつものように露出多めのハンドメイド服。
 そこへ、亜矢がやってきた。
「突撃、となりの昼ごはん! ちょっと時間をもらうわよ!」
「ん〜? どうしたの〜?」
 水筒に入った玉子スープをコップに注ぎつつ、にっこり微笑むアメリア。
「緊急調査よ。でもその前に、弁当をすこし分けてくれてもいいのよ?」
「お弁当? いいよ〜」
 気前良く応じると、アメリアは弁当箱のフタに焼売やエビチリを取り分けた。
 そのエビチリを食べた亜矢は、「からっ! でもうまっ!」と一言。
「それで〜? アンケートだっけ〜? ん〜、私は中国がいいな〜。あとは、香辛料が有名な国とか〜。店の仕入れの参考にもなるし〜」
「タイとかメキシコとか?」
「そうだね〜。どうせなら、各国の香辛料をもとめて世界一周とか〜」
「世界一周……そうか、その手もあるわね! よし、次!」
 亜矢は玉子スープを一気に飲み干すと、教室をあとにした。



「私が希望する行き先は……『宇宙でブラックホールと戦ってみよう!』なのです!」
 袋井雅人(jb1469)は、ものすごいことを言いだした。
 これには、さすがの亜矢もビックリだ。
「待って。ブラックホールって、あれよね? なんでも吸いこんじゃうやつ」
「そうです! 来年の修学旅行はみんなで宇宙に行きましょう! そして、ラスボスのブラックホールと戦うのです!」
「それは……無理じゃない?」
「私に不可能はありません! 恋音と一緒なら、宇宙でもアメリカでも天界でも魔界でも……どこだって楽しめるのですよ!」
 今日の雅人は、やけにアグレッシブだった。
 そう、彼は自覚しているのだ。自分に求められているのは現実的な修学旅行先を答えることなどではなく、どれだけ場をカオスにして笑いを取れるかということなのだと。
「でもブラックホールって……」
「私の笑いのネタは、『おっぱい』と『ラブコメ仮面』だけではないのです!」
「そんなにハードルあげて、次から大丈夫?」
「もちろん! 男は前進してこそ前に進めるんですよ!」
「そ、そうよね」
 よく見ると当たり前のことを言ってるだけだが、勢いに押されて納得してしまう亜矢であった。



 深森木葉(jb1711)は、中庭のベンチで日向ぼっこをしていた。
 そこへ、颯爽と亜矢が参上!
「かくかくしかじかというわけで、さぁ答えて!」
 だんだん説明が雑になってきたが、伝わればいいんだ!
「修学旅行で行きたいところですかぁ〜。え〜っとですねぇ……」
 小首をかしげながら、「う〜ん」と考えこむ木葉。
 そして、にぱっと笑顔になる。
「思いついたのですぅ〜。あたしは、『熊野古道』を踏破してみたいですぅ〜。平安衣装の壺装束を羽織って、ゆっくり歩いてみたいですねぇ〜。秋だと紅葉もきれいそうですねぇ〜。あ〜、でも夏は木漏れ日が気持ちいいかもぉ〜」
 その眺めを想像して、ニコニコ笑顔になる木葉。
「熊野古道って、どこ?」
「紀伊半島ですぅ〜。でも、いまの季節だと花粉でくしゅんくしゅんしちゃうかなぁ……? 冬の雪山は……あたしだと遭難しちゃいそうですねぇ〜」
 想像しながら、木葉はてへっと照れ笑いした。
「修学旅行なら生徒も大勢いるし、大丈夫じゃない?」
「えへへっ〜。とにかく熊野古道がいいですぅ〜」
「OK。熊野古道ね」
 これはDiv2の管轄なので、行こうと思えば行ける。ただし実行するかは(ry



「修学旅行の行き先ですか。それなら行ってみたいところ、ではなく……来ていただきたいところがあるのですが、それでもよろしいかしら?」
 そう答えたのは、長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)
「いいわよ。どこなの?」
「こちらですわ」
 みずほはスマホを取り出すと、一枚の写真を見せた。
 写っているのは、緑に囲まれた湖。
 湖畔には、立派な城が佇んでいる。
「ここはイングランド北部のウィンダミアという所ですわ。湖水地方と呼ばれる一帯ですわね。有名なうさぎの児童書はご存知かしら? その舞台となったとされている場所ですわ。こちらに観光に来ていただき、宿泊していただく、というのはいかがかしら」
「へぇー。いいじゃない。お城は好きよ、あたし」
「あら、乗り気ですわね。では、よくご検討くださいな。宿泊場所なら、わたくしが用意いたしますわ。いま見せた写真の城はわたくしの実家なのですけれど、ホテルにもなっておりますから。さすがに全員は無理ですけど、ある程度の人数なら大丈夫ですわよ」
 みずほは優雅に微笑んだ。
「宿泊場所を考えなくて済むのはいいわね。これはポイント高いかも」
 ただ、問題は料理だ……!



「修学旅行で行ってみたいところ、ですか?」
 問い返して、炎武瑠美(jb4684)は頬に指をあてた。
 黒い髪が綺麗な、おとなしめの女の子だ。
 そのまま、沈思黙考すること十数秒。
 そして唐突に、「私、ココアが好きなんです!」と、瑠美は声を張り上げた。
「え? ココア?」
 意味がわからず、ひるむ亜矢。
「そう、ココアです! なので、おみやげに買えたりとかできればいいな……って! ……でも、そういえば、ココアの原料のカカオの原産地ってどこなのでしょう?」
「えーと、きっとアレよ、アフリカのどこかよ!」
「アフリカのどこかですか!」
「そう、アフリカ!」
 謎のテンションで話をすすめる二人。
 亜矢はいつもどおりだが、瑠美は大好きなココアの話でキャラが崩壊してるようだ。
「考えてみてください。原料が沢山あれば、ココアが沢山飲めます! カカオを木から採るのなら、私やれますよ!」
 光纏して、大剣を抜く瑠美。
「これで、えい、えいって木を叩けばいいんですよね?」
 と言いながら、瑠美は酔っ払いみたいに剣を振りまわした。
 これは危険が危ない。
「カカオって、たしかチョコの原料にもなりますよね? チョコ好きなお知り合いもいるから、その方にもお裾分けできそうです」
 瑠美は、すっかりうっとり顔だ。
 無論、亜矢はとっくに離脱していた。



「修学旅行で皆さんと行きたい所ですか……そうですね、あえて挙げるなら、フランスのモン・サン=ミシェルですね」
 やさしい口調で、ユウ(jb5639)は答えた。
 それを聞いた亜矢は顔をしかめる。
「え? フランスの、なに?」
「モン・サン=ミシェルです」
「なにそれ」
「フランス西海岸、サン・マロ湾に小さな島があるのですが、島全体がカトリックの修道院になっておりまして……」
「ストップ! むずかしい話は禁止よ!」
「とくに難しい話ではないのですが……。この島は、海の満ち引きによって大きく景観が変わります。実際にその街中を歩くのは、どのような気分か……この身で体験してみたいですね」
 そう言うと、ユウは優しく微笑むのだった。



「修学旅行の行き先……? んぅ……どこでも良いの、です?」
 華桜りりか(jb6883)は、両手にチョコレートをかかえてモグモグしていた。
「どこでもいいわよ。ただの調査だし」と、亜矢。
「そう、ですね……ベルギー、スイス、フランスあたりに行ってみたいの。とくにベルギーは外せないの、です。高級で少し高いのがこまるのですが、一番だと思うの。それに、スイスは乳製品がおいしくて、ミルクやホワイトを発明した国らしいの……。それから、フランスではお料理にも使うらしいし……」
「それ、なんの話?」
「んん、なんのお話か……です? 修学旅行で行きたいところ、でしょう? だから、どこもチョコがおいしい国なの。つまり毎食チョコがたのしめそうなの、です。ふふ……これぞ名付けて、『チョコ食いだおれツアー』……です?」
 チョコレート天国の妄想に浸り、ふんわり嬉しそうな笑顔を浮かべるりりか。
 毎食チョコというのは周囲から怒られるかも……と一瞬だけ思うが、そんなことを気にしていたらチョコレート中毒の称号は名乗れない!
「うーん……これはやっぱり世界一周かしら……」
 むずかしい顔をして、亜矢は次の取材相手を探しに行った。



「やっぱタコ焼きは最高やな〜。人類の英知の結晶やでぇ〜」
 などと言いながら、ゼロ=シュバイツァー(jb7501)はデッキチェアに寝そべりつつ、タコ焼きをツマミにビールを飲んでいた。
 ここは、とある校舎の屋上。
 だがレイアウトは改造されまくって、南国のリゾート地みたいになっている。
「この鳥類、またこんなことしてる!」
 亜矢が血相を変えて近寄ってきた。
「ん? また何か用かいな。こりひんやっちゃなぁ」
「いいから答えなさいよ! あんたが修学旅行で行きたいところを!」
「行きたいところか……。あ、スウェーデンやな。なんでも美人がようさんおるらしいからハーレムでも作りたいもんやな〜」
「美人なら、ここにいるでしょ!」
「……てか、それよりも俺、いまタコ焼き集めてんねん。あと25個で神になれるかもしれへんねん。やから宣伝しといてや、たのむわ。なぁにタダとはいわん、いまからタコ焼き焼いたるから遠慮なく食うてってくれや」
 亜矢の発言を完全無視して話を進めるゼロ。
 だが、彼の作るタコ焼きは神の領域に達している!
「ほら食べぇや。うまいで〜?」
 と言いながら、超激辛タコ焼きを亜矢の口に突っ込むゼロ。
「ごほっ、げふっ!」
 むせかえる亜矢。
 久遠ヶ原には激辛マニアが多いな!



「は、はい……!? 取材ですか……!?」
 いきなり声をかけられて、北條茉祐子(jb9584)はびっくりした。
「そんなに驚かなくても……。来年の修学旅行のために意見を聞いてるのよ。どこか行きたいところはある?」
「行ってみたいところ、ですか。では……伊勢に、行ってみたいです」
「伊勢?」
「はい。もしできるのなら、二見輿玉神社で海に入る禊をする正式な参拝をしてみたいなって思います。修学旅行は2月なので、海に入る禊は無理かもしれませんが……。でも、学園では寒中水泳大会とかあるみたいですし。……そういえば矢吹先輩、出場されてませんでしたか?」
「あの水泳大会はなかったことになったのよ! いつもの馬鹿どものせいで!」
「そ、そうですか……。でも、お伊勢さまならおかげ横丁もあって買い物も楽しめますし、斎王の生活体験とかできる施設もあるみたいですから、修学旅行には良いかと思うんです、けど……」
「学を修めるってヤツね。まぁいいんじゃない?」
「あの……なんだか盛り上がりに欠ける回答でごめんなさい……」
 茉祐子は頭を下げたが、そもそもこのイベシナで盛り上げるのは無理だ。



「縮地……からの、鬼神一閃ですぅ〜!」
 神ヶ島鈴歌(jb9935)は、校舎の屋上で訓練に励んでいた。
 そこへ、のこのこ近付いてくる亜矢。
 そのとたん、無意識に反応して大鎌で斬りかかる鈴歌。
「ちょ……!?」
「わわぁ〜! 亜矢さん、避けてください〜!」
 とっさに身をかわす亜矢と、軌道修正する鈴歌。
 その方向がたまたま同じだったため、大鎌の刃はみごと亜矢の脳天に命中した。
「あばーッ!」
「亜矢さーんっ!」
 だが、亜矢は死ななかった。
 あぶないあぶない。コメディじゃなければロストしてたぜ。
「すみませんでしたぁ〜。……それで、ええと……修学旅行の希望先ですねぇ〜?」
「そのとおりよ! さぁ答えて!」
 亜矢の脳天からは、血がピューピュー噴き出している。
 それを見ないことにして、平然と答える鈴歌。
「そうですねぇ〜、私としては……レモンや蜂蜜を栽培している農家訪問。またはレモネードのレモンで有名な、アマルフィやシチリアに行きたいですぅ〜♪」
「本当にレモネード馬鹿ねぇ」
「おいしいレモネードを広げるためにも、さらなる研究は必要なのですよぉ〜♪」
 熱く語る鈴歌のレモネード愛は、どこまでも本物だった。



「あ、アンケート、ですか……?」
 亜矢につかまった茅野未来(jc0692)は、涙目で顔を上げた。
 無理もない。まだ小等部3年生。しかも久遠ヶ原に来たばかりだ。
「おびえなくていいのよ。来年の修学旅行でどこに行きたいかっていう取材だから」
「ふぇ、え? 修学旅行……? 取材……?」
 びくびくしながら、必死で答える未来。
 子供と動物以外には、超人見知りなのだ。
 それでも、先輩の取材ならと頑張って答える。
「あの……ど、どこでもいいなら、ボク……じゃない私、『うさぎ島』に行ってみたい、です……」
「うさぎ島?」
「あ、はい……うさぎさんがいっぱいいる島らしい、です。一度で良いので行ってみたい、です……!」
 すこしテンションが上がってきて、未来は目をキラキラさせた。
「猫島じゃなくて、ウサギ島……。それはモフラーにウケるかも」
「うけますよ……! うさぎさんにごはんあげたり、ふわふわの毛をなでたり、一緒に日向ぼっこしたり……きっとたのしい、です……!」
 実際、これはウケるだろう。
 周知のことだが、久遠ヶ原にはモフモフ欲に取り憑かれた者が多いのだ!
 でも実際に行くかは(ry



「修学旅行で行きたいところ? それは当然ハワイです! ワイハーです!」
 マリー・ゴールド(jc1045)は、えらいハイテンションだった。
 山奥育ちで海に憧れを持ち、おまけにミーハー魂全開の彼女にとって、旅行といったらハワイなのだ。
「ワイハーって、あんた。昭和じゃないんだから」
 あまりのテンションに、亜矢も引き気味だ。
「時代とか関係ありません! ビーチでサーフィンして、ロコモコ食べて、アロハヲエですです!」
 ミーハー魂全開で、フラダンスのマネをしながら南国に思いを馳せるマリー。
 ヤバいコレはマジだと、亜矢も気付いた。
 ……が、こういう祭りに乗るのが亜矢!
「ふ……上等よ。あたしのフラダンスを見なさい!」
 どこからともなく出てくるウクレレ!
「さぁ、一緒にアロハヲエ〜です♪」
 マリーのスマホから、ハワイアンミュージックが流れだした。
 そして、ふたりのドヘタクソな……もとい、つたないステップが刻まれ始める。
 だが、周囲の評価など関係ない。この瞬間、マリーの脳内では、この世の天国が展開されていたのだから。



「あー……つかれた……」
 踊り疲れた亜矢は、顔でも洗ってリフレッシュしようと女子トイレに入った。
 その洗面所にいたのは、鈴羅木昴留(jc1227)
 外見は美しいが、内面はアレな感じの大人の(?)女性である。
「よし、あんたで最後よ。ずばり、修学旅行の希望先は?」
「え……? じゃあ費用がかけられないから……新潟あたりで」
「渋いチョイスねぇ……。でも費用はかからないのよ! たぶん!」
「え……? じゃあワイキキ……ワイキキビーチで泳ぎたい……」
 と答える昴留だが、実際はカナヅチである。
「ワイキキ! いいわね!」
「あとはハワイかな……ホエールウォッチとかショッピングとか、してみたい」
 なんと、昴留はワイキキがハワイのオアフ島であることを知らなかった。
 しかし、ここで亜矢が指摘。
「ワイキキって、ハワイの一部じゃない?」
「ええ……っ!?」
 驚愕する昴留。
 そこへ、さらに亜矢が問いかける。
「ハワイ以外、なにかないの?」
「じゃあ、セーシェル。……待って、理由は訊かないで」
「……」
「……」
 なぜか沈黙する二人。
 そもそも、まったく英語ができない彼女らに海外旅行など無理なのだ!



「……ということで、あたしの意見を含めると、2票入ったのはハワイと忍者村。つまり、ハワイの忍者村に決定ね!」
 調査結果をまとめて、亜矢は臼井教師に提出した。
「そんなもの、あるわけないだろ」
「なければ作ればいいのよ! または伊賀の忍者村をハワイにするとか!」
「そういう迷惑行為は、学園の中だけにしてくれ……」
「はっ……つまり、学園を南国化して忍者村にすれば……!」
 謎のイベントを考える亜矢。
 はたして、今回の調査には意義があったのだろうか──




依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
ロリ巨乳・
愛須・ヴィルヘルミーナ(ja0506)

中等部1年1組 女 ディバインナイト
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
道を切り開く者・
楯清十郎(ja2990)

大学部4年231組 男 ディバインナイト
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
花々に勝る華やかさ・
染井 桜花(ja4386)

大学部4年6組 女 ルインズブレイド
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
撃退士・
ユキメ・フローズン(jb1388)

大学部7年291組 女 阿修羅
微笑みに幸せ咲かせて・
秋姫・フローズン(jb1390)

大学部6年88組 女 インフィルトレイター
真紅の赤薔薇・
アメリア・カーラシア(jb1391)

大学部7年7組 女 インフィルトレイター
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
ねこのは・
深森 木葉(jb1711)

小等部1年1組 女 陰陽師
勇気を示す背中・
長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)

大学部4年7組 女 阿修羅
惨劇阻みし破魔の鋭刃・
炎武 瑠美(jb4684)

大学部5年41組 女 アストラルヴァンガード
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
Cherry Blossom・
華桜りりか(jb6883)

卒業 女 陰陽師
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
守り刀・
北條 茉祐子(jb9584)

高等部3年22組 女 アカシックレコーダー:タイプB
翠眼に銀の髪、揺らして・
神ヶ島 鈴歌(jb9935)

高等部2年26組 女 阿修羅
撃退士・
茅野 未来(jc0692)

小等部6年1組 女 阿修羅
その愛は確かなもの・
華子=マーヴェリック(jc0898)

卒業 女 アストラルヴァンガード
UNAGI SLAYER・
マリー・ゴールド(jc1045)

高等部1年1組 女 陰陽師
撃退士・
鈴羅木昴留(jc1227)

大学部4年100組 女 アカシックレコーダー:タイプB
撃退士・
愛須・セラフィーナ(jc1239)

大学部4年3組 女 アストラルヴァンガード