餅つき大会当日。
会場のグラウンドには、いくつもの臼と杵が並べられた。
天気は快晴。絶好の餅つき日和である。
「よーし、今日は正月らしく餅つきだ!」
声を張り上げるチョッパー卍は、割烹着姿だった。
その後ろでは、おなじく割烹着の雪ノ下・正太郎(
ja0343)が、蒸籠で餅米を蒸している。衛生面にも配慮して三角巾とマスクを装着した格好は実戦的だが、正義のヒーロー・リュウセイガーを知っている者からすると微妙な違和感が否めない。無論、正義のヒーローらしくまじめに大会のお手伝いだ。
「ここが餅つき会場か」
鳳静矢(
ja3856)は、熊の着ぐるみ姿でやってきた。
頭には獅子舞のかぶりもの。法被を着込んで下駄を履き、ネクタイと赤いマフラーをなびかせている。
異様な風体だが、静矢いわく『これが餅つきの正装』らしい。久遠ヶ原じゃなかったら通報されてる。
「お餅は食べる専門でしたが、今回はつくのです♪」
駿河紗雪(
ja7147)は、着物で参加していた。
一見動きにくそうだが、彼女にとって着物は戦闘服。餅つきなど楽勝だ。
「つき餅は神事やお祭りと、祝いごとに欠かせない食材と聞きました。つまり穀物は縁起物……ひいては小麦を原材料とするフランスパンは最強ということですね!」
ドジャアアン!というSEをバックに、シェリア・ロウ・ド・ロンド(
jb3671)はフランスパンを掲げた。
たしかにフランスパンは最強だ。ただしフライパンとカレーパンには(ry
そんな2人をやさしく見守るのは、藤井雪彦(
jb4731)
今日は、仲良しの女性陣をエスコートする役だ。
(特に紗雪ちゃんにカッコイイとこ魅せたい……!)
などと、むやみに張り切っている。
そんな雪彦を後ろから見つめているのは、稲葉奈津(
jb5860)
(なぁ〜んか最近、雪彦……紗雪ちゃんに近づいてってるわね? いざとなったら、紗雪ちゃんを魔の手から救わなきゃ!)
一方的に死亡フラグを立てられてしまった雪彦。
はたして彼は、奈津の魔の手から逃れられるのか!?
「餅米が蒸し上がりましたぁ……みなさん、どうぞぉ……」
月乃宮恋音(
jb1221)が、大量の餅米をかかえて持ってきた。
今日は牛の着ぐるみではない。正月らしく着物姿だ。
湯気を噴き上げる餅米はツヤツヤ輝いており、そのまま食べてもうまそうなほど。
それぞれの臼に餅米が投入され、餅つき体験希望者が杵を手に取る。
ここで、パンダヶ原学園長・下妻笹緒(
ja0544)が杵をかついで登場!
「たしかに餅はうまい。あんこを入れても大根おろしをからめても、雑煮にしても汁粉にしてもうまいのは認めよう。だからこそ集まった者たちも様々な食材を持ち込み、『いかにして食べるか』というところに意識が向くのも仕方がない。……しかし、しかしだ。餅つきの醍醐味は、やはり餅をつくという行為そのものにあるのではないか。である以上、魅せなければならない。音楽と餅つきが融合した、新時代の餅つきを……!」
そう宣言すると、笹緒はラジカセのスイッチを入れた。
流れだしたのは、爆音メタル!
「さぁ来い、卍! メタル餅つきだ!」
「アーーライッ!」
卍が七色の長髪を振り乱して駆け寄った。
失踪するツーバスのリズムに合わせて、クソやかましい餅つきが始まる。
ヘドバンしながら杵を振り下ろす笹緒。
おなじくヘドバンしながら餅をこねる卍。
なにがなんだかわからんが、とにかく勢いだけは凄い。
これはもう餅つきではなく、餅つきという名の別の何かだ。
そう。笹尾たちは、餅つきというパフォーマンスをひとつ上のステージにまで昇華させたのである!
まぁ出来上がるのは普通の餅なんだけど。
「阿吽の呼吸での杵さばきに掛け声、とても素晴らしいですね」
ユウ(
jb5639)が、感嘆の声を漏らした。
魔界出身の悪魔である彼女は、餅つきを実際に見るのは初めてだ。
とりあえず見学の構えだが、まともな餅つきが見られるのだろうか。
「ぺったん、ぺったん、もち、ぺった〜ん♪」
深森木葉(
jb1711)は、白装束にうさみみカチューシャ、うさぎさんグローブとうさぎさんブーツという格好だった。
今年は卯年ではないが、餅つきといったらウサギさんなのだ。
でも、餅をつく気はない。餅を返す役とかやってみたいが、紅白の餅になったら大惨事だ。ドジっ娘Lv99は伊達ではない。
自覚できるようになっただけ、彼女も成長したと言えよう。
「新年の風習、よろしいですわね」
長谷川アレクサンドラみずほ(
jb4139)は、いつもの悪友をつれてやってきた。
染井桜花(
ja4386)、ラファル A ユーティライネン(
jb4620)、川内日菜子(
jb7813)。
そんな面々の中に御笠結架(
jc0825)が混じっている光景は、ヤンキーどもに拉致された新入生さながらだ。
「では、餅つき対決をはじめましょうか」
当然のようにみずほが言い、当然のように光纏した。
「……受けて、立つ」
クールに応じて、おなじく光纏する桜花。
赤い晴れ着をたすきがけにして、やる気満々だ。
それはいいが、ふたりとも杵を持ってない!
そう。彼女らは自らの拳で餅をつくつもりなのだ!
が、そうと聞いてはラファルも黙ってられない。
「ようするにだ。餅米に強烈な打撃をぶちかましてやればいいんだろ? 楽勝楽勝」
なにか間違った解釈を口にして、腕まくりするラファル。
学園一メカな撃退士である彼女は、機械化腕に装着された拳打機で全力パンチをぶちこむつもりだ。……って、おい。誰か止めろ。
「人が自分の拳をどう使おうと勝手だが、私の拳はそんな軽い物ではない……少なくとも杵ではない」
日菜子は、この対決を静観するかまえだった。
とくに止める気もなく、日常風景のように眺めている。
「餅つきは初めてですが……意外と重いのですね」
ただひとり、結架だけは杵をかついでいた。
足下がよろけてるが、大丈夫だろうか。
ともあれ、4人の臼へ餅米が投入された。
餅つきバトル開始だ。
「うふふ、これでもちゃんと学んできたのですよ? 蒸した餅米を臼に入れてすりつぶし、ある程度つぶれたら叩いて餅にするのですわね」
みずほは、ていねいに餅をすりつぶしていった。
ほかの3人も、それを見てまねをする。
「叩くときのコツは、できるだけ素早く餅を連打すること、だそうですわ。……ならば、やることはひとつですわね! このわたくしの拳で、餅を連打いたしますわ!」
言うが早いか、みずほの超高速連打が炸裂した。
餅米ごと粉々になって、吹き飛ぶ臼。
「あら……壊れてしまいましたわ」
みずほが残念そうに呟いた。
その横では、おなじく全力で餅米をブッ叩いたラファルの臼も地面に埋まって真っ二つ。
「……コツは、全力で殴ること……ただし臼を破壊しない程度に」
みずほたちと同様に拳で餅をつきながらも、桜花は力を加減していた。
打拳一発ごとに臼は悲鳴を上げるが、ぎりぎりのところで壊れない。
「……饂飩や蕎麦の麺打ちと一緒……力をこめればコシがでる……餅も似たようなもの」
「コツはわかりました。……では、いきますっ!」
先輩たちの行動を見てから、結架は杵をふりかぶった。
ところが、杵が重いのと眼鏡の度が合ってないのとで、思いきりよろけてしまう。
ガスッという音がして、杵がみずほの後頭部に叩きこまれた。
「ぐふっ!?」
「……あ、あら? すみません。結構むずかしいのですね」
みずほに一発入れるとは、かわいい顔してなかなかやりよる。
「よーし、やりなおしだー! 今度は加減するぜー!」
スペアの臼を持ってきて、ラファルは懲りずに光纏した。
まずは両手にバリアコートを塗って……狙うはみずほの胸部!
「いくぜぇぇー!」
「これはお餅ではありませんわ!」
左腕で胸をおさえながら、右腕一本で百裂拳を放つみずほ。
「アバーッ!」
ラファルは死んだ。
と同時に、桜花の餅つきも完了。
「……できた」
こうして、仁義なき餅つき対決は桜花の圧勝に終わった。
ていうか、桜花以外餅つきしてないし!
「餅つき、いいよね。息のあった共同作業、真冬なのに流れる汗……冬だと体から湯気が出たりもするよね〜。うんうん色っぽいよね。事故に見せかけて嫌いな奴を葬り去るのにも使えるし」
なにやら頬を上気させて風景を眺めているのは、秋水橘花(
jc0935)
彼女にとっては、目に映る男女すべてが欲望の標的だ。
しかもどこかから手に入れた撃退酒をしこたま飲んでおり、いまの彼女に理性はない。
餅つき大会にそんなものを持ってくるとは……。
「ねぇ卍さん。餅つき手伝って」
不破十六夜(
jb6122)が、杵を手にやってきた。
「いいぜ。俺はいまノッてるからな!」
「じゃあ、こねる役をおねがい。先に、これをかけておくね」
十六夜が、風の烙印と大地の恵みをかけた。
「あ? なんでこんなものを……?」
「万が一の保険だよ。でも安心して。ボクに任せておけば大丈夫だから」
と言いながら、自分に炎の烙印をかける十六夜。
「おい! 天魔と戦うワケじゃねーんだぞ!」
「うん。でも、できるだけ力強くついたほうがおいしいらしいよ? さぁ位置について」
「イヤな予感しかしねぇ……」
「いくよー? それっ!」
全力で振り下ろされる、杵という名の凶器。
みごと、卍の右手に命中。
「グワーッ!」
「あ、あれ? よし、もう一度! えいっ!」
「グワーッ!」
「う〜ん、うまく息が合わないね?」
「わざとだろ、おまえ……」
「そんなことないんだけど。……あれ? お餅が赤いような……? でも、ずんだで隠せば大丈夫だよね!」
無茶なことを言い出す十六夜。
最近、姉に似てきたな。
そして、ずんだ餅には砂糖のかわりにサッカリンを大量に使用。
「甘いほうがおいしいよね♪」
最近、姉に(ry
「自身を省みず、餅のために命を賭す……さすが久遠ヶ原の餅つき、凄いですね……」
血を見る餅つきに、ユウは認識を改めた。
どだい、まともな餅つき大会になどなるわけなかったんだ!
「皆、落ち着いて餅ついて!」
あまりの騒ぎに、歌音テンペスト(
jb5186)が注意を呼びかけた。
おお、しばらく見ないうちに歌音がマトモなキャラになってる!?
「餅はついてもつかれるなと昔から言うので、あたしも餅を突きます。この日のために脳内で修行をかさねたハワイアン空手の必殺突きで。オリジナル技の真空ハイメガ(略)歌音砲(仮)も拳にこめて、エェイと突きましょう。でも本当に突きたいのは、おんなの(この発言は蔵倫により削除されました)」
ぜんぜんマトモになんかなってなかった!
「では皆さん、たのしく突いて突かれて食べちゃいましょう♪」
駄目だこいつ……早くなんとかしないと……。
「では私が、正しい餅つきの作法を教えよう」
静矢が『正装』でウェンディスの前に立った。
さっきも言ったが、獅子舞ヘッドにクマの着ぐるみ。赤いマフラーとネクタイを首に巻いている。どう見ても頭おかしい。
にもかかわらず、「期待している」と返すウェンディス。こいつも頭おかしい。
「いいか。魔具で餅をつけてこそ、一流の撃退士!」
静矢が戦鎚を抜き放った。
「着ぐるみにマフラー、ネクタイ……そして魔具で餅をつく! これが撃退士流の餅つきだ!」
「おお!」
こうして、ウェンディスの人界知らずがまた一歩エスカレートした。
そのころ。シェリアもまた杵以外のモノで餅をついていた。
それはなんと、フランスパン!
杵に匹敵するほどの超重量パンを使い、『重い、硬い、ふやけにくい』の利点を生かして餅をつくぜ!
「シェリアさん、杵を持つ姿が勇ましいねっ☆……でもそれ、杵じゃなくて……いえなんでもありません」
なにか言いかけて、口ごもる雪彦。
「さすがはシェリちゃん♪ フランスパンはお餅もつけるのですねー」
紗雪は普通に杵で餅をついていた。
参加者の中では数少ない、杵で餅をつく人である。
「小麦で稲を突くって、なんかイヤラシイ……小麦×稲で穀物系カプとかありかも……ぬふふ……」
なにか腐ったことを口走るシェリア。
それを耳にした奈津は、なぜか顔を赤らめながら「ヤダッ、激しい……」とか呟いてる。
なんなの、この腐女子空間。
そんな二人をよそに、雪彦は紗雪の臼につきっきりだ。
「ボクが、くっつかないように〜しっかりお餅を返すから、安心してついてね〜♪」
「はい。でも気をつけてくださいね」
「大丈夫だよ〜☆ これでも撃退士だからねっ♪」
とか言いながら、紗雪の着物姿に見とれる雪彦。
紗雪のリズムに合わせて餅を返しているが、どうにも危なっかしい。
(紗雪ちゃん〜着物姿もやっぱり可愛い〜☆ 見とれ〜〜……あっ!)
グシャッ!
フラグどおり、杵が雪彦の手を打ち抜いた。
なにか、手の形が有り得ない形状になっている。パラサイトにでも乗っ取られたのかって感じだ。
「あわわ……すぐに治療を!」
ヤギ印のサバイバルキットを取り出す紗雪。
「大丈夫だよ〜。ほら、つかみどりとか多く握れるようになるしっ☆」
痛みをこらえて微笑む雪彦は、やたらポジティブだ。
しかし、そんな彼を奈津が放置するわけない。
(こいつ絶対、紗雪ちゃん狙ってるよね? 私の大事な親友に手をだすなーー!)
「ねぇ雪彦。私のほうも手伝ってよ〜」
「おっけ〜☆ 手伝うよ、なっちゃん」
「ありがとう。さぁ雪彦……いくわよ〜☆」
素敵な笑顔で杵をふりかぶる奈津。
だが、笑顔とは裏腹に全身から殺気が溢れている。
「死ねぇーーー!!」
ドグシャアアアッ!!
渾身の力で振り下ろされた杵が、臼を粉砕した。
「あ、あぶねっ! いま、死ねぇ言わなかった?」
間一髪で手を引っこめて、gkblする雪彦。
「やだな〜。ちょっと力が入っちゃっただけだよ〜♪」
笑顔を返しながら、奈津は(チッ……外したか……)と内心舌打ちしていた。
久遠ヶ原の餅つきは、命がけである。
そうして餅をつき終えたら、次は丸める作業だ。
紗雪は不器用な手つきで、奈津は器用な手さばきで、つきたての餅を丸餅にしてゆく。
雪彦は紗雪を見つめて鼻の下をのばしてるだけだし、シェリアは腐った妄想に浸るばかり。
それでも気にせず、創作餅に着手する紗雪。
きび餅を使って、作るのはペットのセキセイインコ『きいろ』だ。
「きいろちゃん、喜んでくれるといーね♪」と、奈津。
しかし、くりかえすが紗雪は不器用!
「なかなか上出来なのです♪」
とか言って作品を見せびらかしてるが、どう見ても失敗作だ。
無論、やさしい友人たちは誰もそんなこと言わない。
「ん。あれは……」
義眼をキラッと輝かせて、桜花(
jb0392)はさりげなく杜玲汰に近寄っていった。
「やあ、杜君。新年おめでとう」
「おめでとうございます。今年もよろしくおねがいします」
「うんうん。どうやら撃退士としてはうまくやっているようだね、安心した。私もそろそろ追い抜かれるかな?」
「いえ、まだまだ全然ですよ」
「そうは思えないけど……ああ、これ食べる?」
桜花は紅い餅を差し出した。
食紅で着色した、甘い餅だ。
「じゃあ遠慮なく」
なにも疑わず、玲汰は餅を口に入れた。
桜花がニヤリと笑う。
「ところで知ってる? 赤いお餅って今は食紅を使うけど、昔は人の血を使ってたんだよ? 私の作った赤い餅……どうだった?」
「ええ……っ!?」
玲汰の表情が凍りついた。
「ふふっ、もちろん冗談だよ。本当に血を使ったら、酸化して黒くなっちゃうしね」
「で、ですよね」
「ところで、このあと私の部屋に来ない? ちょっと銃について話したいと思ってね? 安心してよ、保護者の許可は取ってるからさ」
「いや、あの……」
どんだけ玲汰の人生を狂わせる気だろう、この人。
だが、そこへ。
すっかり酔っ払いと化した橘花が、千鳥足でやってきた。
「というわけでお姉ちゃん、アタシと餅つきしよ! アタシがつくから、お姉ちゃんはこねてよ!」
「な、なんだ、突然!?」
背後からしがみつかれて、うろたえる桜花。
橘花の両手が、するっと上着の裾から入り込む。
「いいだろ〜? アタシのお餅もこねこねしてよ〜イイコトしよ〜よ〜」
「あ……っ、ちょ……っ」
胸のお餅をこねこねされて、おもわず反応してしまう桜花。
これはチャンス! じゃなくてピンチ!
「先輩は僕が守ります!」
玲汰が躊躇なく拳銃をブッ放した。
以前、桜花からもらった銃だ。
「ぐはっ!」
血煙を上げて倒れる橘花。
「ったく……この色ボケ妹は……」
危うく難を逃れた桜花は、あきれたように呟いた。
残念! 次はもっとうまくやれ、橘花!
そんな騒ぎがありつつも、だんだんと餅ができてきた。
参加者たちは、それぞれ持ち寄った具材で餅を調理して、思い思いに堪能している。
きな粉や餡子、大根おろしに磯辺焼き、ベーコンチーズや餅ピザなどの変わり種もある。
ユウは、レクチャーを受けてから餅つきを。そうして自分のついた餅を使って、きな粉餅やぜんざいを配っていた。しかも漉し餡と粒餡の両方を提供するという配慮で、漉し餡派VS粒餡派の抗争を回避している。すばらしい。
しかし、とりわけ異彩を放つのは、正太郎の持ちこんだビーフカレーだ。
それだけで食べても十分すぎるほどうまいカレーを持ちこむとは、ある意味反則。日本人のDNAに刻み込まれたカレー欲が無限のカレー愛を呼び覚まし、『カレーは飲み物』という呪文が会場を席巻する。その一帯だけ、餅つき大会ではなくカレー大会のようだ。
「あ〜やちゃん、お餅食べよぉ♪」
そんなカレーの誘惑にとらわれず、白野小梅(
jb4012)は亜矢のところへやってきた。
もはや同世代の友人を呼ぶかのような自然さだ。
「ん? 好きに食べれば?」
「じゃなくてぇ……んとねぇ、ふつーに食べてもつまんないからぁ、いろんな味をためしてぇ新味発見しよー!」
「無駄にアグレッシブよね、あんた」
と言いながらも、つきあう亜矢。
というわけで、ふたりは駄菓子屋へ。
「まず、これー♪」
小梅が選んだのは、ヘビースターラーメンだった。
封を開けて餅にまぶし、口へポイ。
「……ん、ふつー」
「まぁフツーよね」と、亜矢。
次に小梅が手にしたのは、駄菓子のカレースナックだ。
それを袋の上から粉々にして、やはり餅にまぶす。そして一言。
「カレーだぁ♪」
「まぁカレーよね」と、亜矢。
さらには、カップワンタンに餅を入れて「中華雑煮ぃ♪」
「まぁ雑煮よね」
という具合に、新味発見と言いつつ無難な食品でおなかを満たす小梅であった。
残った食品は、親切にも餅ごと会場へ返却。
新味のフ●スク餅が、一部参加者に被害を与えたという。
ひととおり手伝いを終えた恋音は、袋井雅人(
jb1469)と一緒に餅を満喫していた。
百合華も同席しているが、幸子は出勤日なので不参加だ。
3人は、雅人の用意したチーズフォンデュ鍋を囲むように座っている。
最近キャラが薄いことに気付いた彼は、今年からチーズフォンデュキャラをめざすことにしたのだ。……でもカレーやラーメンと違って、だいぶ難しいキャラだと思うよ、それ。
「いいえ、そんなことはありません! 私はチーズフォンデュキャラを確立してみせます!」
地の文に対して堂々と抗議する雅人。
「お、おぉ……? がんばってくださいねぇ……?」
わけがわからず、うろたえる恋音。
「ええ、がんばりますとも! 恋音、今年も色々な意味でよろしくお願いしますね!」
「こちらこそ、よろしくおねがいしますぅ……。百合華さんも、よろしくおねがいしますねぇ……」
「はい。こちらこそ」
そんな挨拶を交わしながら、餅を食べる3人。
フォンデュもさることながら、恋音の作った蜂蜜バター餅やベーコンチーズ餅も上出来だ。
ただし、どれもカロリー高めなのが怖い。
「あの、私はこのあたりで……最近ダイエットしてるので……」と、百合華。
恋音が首を傾げる。
「そうなのですかぁ……? 太っているようには見えませんけれども……」
「えと……まぁ……」
胸が太っているとは言えず、百合華はうつむいた。
この件に関しては、後日じっくり相談だ。
そんな巨乳ふたりをよそに、雅人は通りすがりの卍を呼び止めた。
「こんにちは、卍君。今年もよろしくおねがいしますよ」
「あー、まぁテキトーによろしくな」
と応じながら、ベーコンチーズ餅をつまむ卍。
「ところで卍君。以前から気になってたんですが、女の子には興味ないんですか? 女の子と付き合うのは、すごく気持ちがいいですよ!」
「なんだ、いきなり」
「どうなんですか。興味ないんですか?」
「あるに決まってんだろ」
「でしたら、亜矢さんはどうでしょう。おすすめの物件ですよ」
「冗談だろ、あんな事故物件」
「しかし、いつも仲良くしてますよね?」
「あの馬鹿がつきまとってくるだけだ。俺は、おっぱいがでかくて頭の悪い女が好きなんだよ」
「では、亜矢さんのおっぱいが大きくなればいいんですね?」
「そうは言ってねぇ」
「いえ、これは真剣に討議すべき事案ですよ。おふたりのためなら、私は協力を惜しみません!」
「よけいなお世話だっつの!」
ここに亜矢が乱入すると収拾不能だったので、小梅GJ!
「やっぱり、この時期はお餅でしょう!」
浪風悠人(
ja3452)は、静矢の餅つきをサポートしながら、つきたての餅を調理していた。
持ってきた材料は、枝豆とピザソース、そしてピザ用の具材。さらに、五平餅のタレと割り箸だ。
テーブルに餅を広げてピザ生地みたいにしながらチーズやタマネギ、ピーマンなどをトッピングしてピザソースをかける。これをつつんで焼けば、ピザ餅のできあがり。
すりつぶした枝豆に砂糖をまぜて餅にまぶせば、ずんだ餅。
割り箸を割らずに柔らかい餅を練りつけて、砂糖、醤油、八丁味噌、すりつぶしたクルミとゴマを混ぜた特製タレをつけながら焼けば、五平餅だ。本来は粳米を使うのだが、今回は餅米で代用。岐阜県あたりではよく食べられている郷土料理だ。
そこへやってきたのは、大食漢の元海峰(
ja9628)
持ってきたのは『マイ箸のみ』という、筋金入りの食いしんぼうだ。調理する気ゼロ。
そのかわり、餅をついてくれた人や調理してくれた人には感謝合掌。
そして、いざ実食!
「ずんだにピザ餅、五平餅……いろいろあるのだな。たのしませてもらおう」
そう言うと、海峰は目を覆っていた包帯を解いて光纏した。
彼は両目を失明しているが、光纏したときだけうっすらと見えるのだ。
べつに光纏しなくても飯ぐらいは食えるが、『せっかくだし、どんな餅か見てみたい』という食いしんぼう思考ゆえの行動である。
いざ食べてみれば、どれもこれも皆おいしい。
「君たち、化学は得意かな?」
咲魔聡一(
jb9491)が、眼鏡を光らせながら話しかけた。
口には五平餅をくわえており、手にはぬいぐるみ。腹話術のようだ。
「いいかい? 炊いてデンプンをα化させた糯(もち)米をつくとこんな質感になるのは、つくことで糯米のデンプンを構成するグルコースであるアミロペクチンが絡み合うのが理由だそうだ。ちなみに粳(うるち)米をついてもこうならないのは、糯米の糯デンプンが絡まりやすいアミロペクチンのみで出来ているのに対し、粳米の粳デンプンが直線状で絡まりにくいアミロースを二割ほど含んでいるからだね」
聞き手を無視して一方的に講義する聡一。
話はまだ続く。
「さて、デンプンがβ化する……つまり固まる前のつきたての餅は、よく伸びて扱いにくい。現に僕も冷静に話しているように見えるかもしれないが、餅が伸びすぎて噛み切れないので相当あせっている。端的に言うと、餅が喉に詰まっている……誰か助けて……へるぷ、みー」
「まずい! 早く餅を吐き出させねば!」
静矢が戦鎚をふりかざして突撃してきた。
そして慎重に『手加減』しながら、聡一の背中へハンマーをぶちこむ。
「んぐぐっ!?」
しかし、餅は取れない。手加減してる場合じゃなかったんだ!
「うぅん……ここは、私にまかせてくださいますかぁ……?」
おずおずと、恋音が手をあげた。
昨年の餅つき会では3人の撃退士を病院送りにした彼女だが、今回こそはとばかりに手加減無用の炸裂掌(魔攻781)を聡一の背中へ!
ちゅどおおおおん!!
「っっっ!?」
餅を喉に詰まらせたまま、悲鳴をあげることもできずに聡一は帰らぬ人となった。
本日最初の犠牲者である。
「ぺったん、ぺったん、餅ぺった〜ん♪ きな粉餅とあんころ餅、とってもおいしいですぅ〜♪」
謎の歌を口ずさみながら、木葉は自作の餅を配っていた。
形が不揃いだとか、大きさが違うだとか、みんなわかってても口には出さない。
久遠ヶ原の仲間は、みんなやさしいなぁ(棒
「えへへ〜、クレームが来ないっていうことは結構うまく作れたのかもです。せっかくなので、あたしもたくさん食べますよぉ〜。のど詰まらせたりしませんよぉ〜。大丈夫なのですっ!」
みずからフラグを立てて、餅を頬張る木葉。
これで餅が詰まらなかったら詐欺だが、果たして……?
「はむ。もぐもぐもぐ……んぐっ!……うにゅぅぅぅ……!!」
そりゃそうだよね、詰まるよね。
というわけで、救助隊出動!
「餅を喉に詰まらせたのね! あたしにまかせて!」
歌音が掃除機を引きずりながら走ってきた。
嗚呼、よりによって歌音とは……木葉南無。
「こういうときは、掃除機を使えば良いと聞いたわ! つまり餅の詰まった喉部分を取り外し、掃除機のホースかノズルを取り付けて代用すれば良いのよ!」
素っ頓狂なことを真顔で言いつつ、ぎらりとメスを取り出す歌音。
あまりの恐怖に、木葉はゴクリと餅を飲みこんだ。
「と、とれたのです! もう大丈夫なのです!」
「でも、また詰まる可能性はあるよ。この機会に喉を取り替えるべき!」
「し、死んじゃうのですぅ〜!」
「なにごとも、やってみるまでわからないよ! さぁ勇気を出して!」
「イヤですぅぅ〜!」
木葉は逃げだした!
不毛な餅つき対決のあと、結架は己の不始末を反省しつつ料理に移行していた。
まえもって柔らかく焚いておいた小豆と砂糖、蜂蜜を持参して、腕によりをかけるのは『善哉』
砂糖は少なめで、蜂蜜の優しい甘さが主軸だ。
その上品なぜんざいに、つきたての餅と両面を焼いた餅を入れる。
こうすることで、二種類の味が楽しめる寸法だ。
「よろしければ皆さんもどうぞです。温まりますよ?」
結架が呼びかけると、次々に客がやってきた。
この寒さの中、ぜんざいは大人気だ。
おいしそうに食べる皆の笑顔に、結架もほっこり微笑む。
「卍さんとウェンディスさんも、よろしければおひとついかがですか?」
「おう、試食させてもらうぜ」と、卍。
「これはうまい。俺は小豆の餡子が大好物でな。これはたまらん」
餅つきそっちのけで、ぜんざいを啜るウェンディス。
「よし、これで最後だ。体を温めて帰ろう」
会場の餅料理をかるく全制覇して、海峰が訪れた。
いままでの経験上、殺人料理も覚悟済みだったが、サッカリンのずんだ餅以外はマトモなものばかりだった。
「このぜんざいを食べて、甘い物で甘い物の口直しだ」
海峰は、勢いよくぜんざいをかっこんだ。
その直後。
「んがんぐ……っ!」
餅が! のどに!
「どうした! 喉を餅に詰まらせたのか!?」
錯乱しながら、日菜子が『縮地&全力疾走』で駆けつけた。
「いいか、私の拳は玩具ではない。人を救うための拳だ。多少痛いだろうが、撃退士なら大丈夫。窒息死するよりはマシだろう。では救助活動を始める!」
日菜子が選んだのは、背部叩打法だった。
後ろから胸を片手で支えて俯かせ、もう片方の手で肩甲骨と肩甲骨の間を……十字斬り・閃火!
すぽーーん!
「アバーッ!」
海峰の口から餅が飛び出すと同時に、彼はエビ反り状態でカッ飛んでいった。
「結果はともあれ、餅は取れた。ノープロブレム!」
言動が完全にラファルだよ、日菜子ちゃん……。
さて、最後の犠牲者は稲野辺鳴(
jb7725)
彼は「餅うめぇ超うめぇ」などと呟きながら、餅つき大会をエンジョイしていた。
彼にとって主食であるところの汁粉は、まず押さえる。次に、砂糖醤油で味付けした磯辺焼きもマストだ。
「今年は重体にはならねぇ。絶対にだ」
というフラグを立てるのも忘れない。
彼は去年の今ごろ、『神社の境内で餅を喉に詰まらせて友人に喉をカッ切られ、病院送りにされた』という意味不明な過去を持っている。今年はそんな目に遭いたくないのだ。
しかし、そのとき!
なんと! 餅が! 喉に!
「またか! 喉が餅にモチったか!?」
日菜子が錯RUNして駆けつけた。
海峰のケースを反省として、今度はハイムリック法を選択。
腹部を背後から抱え上げ、拳をみぞおちに突き上げるように当てて……
「ええい、ややこしい! 烈風突・業火だ!」
「ッッッ!」
体を『く』の字に折って、派手にノックバックする鳴。
だが、餅は取れない!
「ここは私に……今度こそ、助けてみせますよぉぉ……」
恋音が渾身の炸裂掌を叩きこんだ。
さっきと逆方向に体を折り曲げて吹っ飛ぶ鳴。
でも、餅は取れない!
「いまこそ、あたしの出番ね!」
歌音が両手に5台ぐらいの掃除機をかかえて走ってきた。
彼女の理屈だとホースだけで事足りるはずだが、なぜ本体ごと……しかも5台も……。
「待て! 今度は手加減しない! 我が紫鳳翔で引導を……もとい手当てを……!」
負けじと静矢が出てきた。
みんな人命救助に必死だ。
まぁ炸裂掌くらった時点で鳴は病院送りなんすけどね……。
恋音の炸裂掌って、味方を重体にするためにあるのかな……。
こうして数人の負傷者を出しつつ、餅つき大会は日が暮れるまで続いた。
翌日、校内掲示板には『餅はよく噛んで食べましょう』という老人ホームみたいな注意書きが貼り出されたという。