『自由にカスタマイズしたロボットを殴って、ストレス解消しませんか』
体育館の前に、そんな看板が出ていた。
久遠ヶ原では理解困難なイベントが頻繁に開催されるが、これもまたそのひとつ。
「なに、ストレス解消ロボ? ……ふむ、お誂え向きだな」
これは参加せねばと、ニヤリ微笑んだのは麻生遊夜(
ja1838)
彼が選んだのは、中年男性型ロボットだ。
その外装を、婚約者の父親そっくりにカスタマイズする。
「いや別に、婚約の挨拶に行ったときに殴られたこととか、恋人との二人きりの時間をつぶされたこととか、デートの予定を狂わされたこととか、バレンタインの本命チョコが間違って親父殿に届けられたこととかを、恨んでるわけじゃないんだけどさぁ……」
言いわけするように、一人つぶやく遊夜。
口では笑ってるが、目が笑ってない。
「ただまぁ、予行練習ぐらいは……してもバチはあたらねぇよな? なんせ、次は結婚の挨拶になるだろうからな……」
悪党顔で、遊夜は二丁拳銃を抜いた。
そして、至近距離から銃弾の雨を降らせる。
ズドガガガガッ!
衝撃でロボットが倒れた。
それを見た遊夜の顔に、深い笑みが浮かぶ。
(ストレス解消? 失礼な。手加減する練習ですよ?)
心の中で、ひっそり呟く遊夜。
「とはいえ、これは耐久試験でもあるんだよな? ならば……せっかくだ、最後は全力全開でやらせてもらう!」
遊夜は親父ロボを起こすと、華麗なステップで前後左右から銃撃を加えた。
間断なく降りそそぐ、弾丸の嵐。
やがて銃声がやんだとき、ロボットは穴だらけで転がっていた。
婚約者の父親さん、保険に入ったほうが……
「あ、ロボットはそのままでいいです」
注文を訊かれて、ミーム=ロサ(
jc0447)は答えた。
実戦経験のない彼女は、戦場へ出る前の様子見にと参加したのだ。ロボットの外見にこだわりはない。
「ただ、もし可能なら反撃するようにしてもらえますか?」
「可能だが、戦闘力はゴミだぞ?」
「それでもいいので」
というわけで、少女ロボに反撃スイッチが入れられた。
「本来の目的とは多少ずれますが……まあ、やってみましょう」
ミームはピストルを抜いて、相手と向かいあった。本気で戦う気だ。
「うぅ……緊張しますね」
武者震いしながら、ミームは狙いをさだめて発砲した。
頭部や心臓などの、急所狙いだ。
が、うまく当たらない。
「えいっ!」
走ってきた少女ロボが、ブンッと拳を振った。
その寸前、ミームは悪魔の翼で宙に逃げている。
そして、ロボットの頭上から銃撃を浴びせた。
「いたたた」
頭をかかえて逃げる、少女ロボ。
「少々残酷な気もしますが……」
ミームは、ストライクショットを放った。
背中を撃たれて倒れる、少女ロボ。
とりあえず目的をとげたミームは、「ありがとうございました」と平等院に礼を述べて立ち去るのだった。
「ロボットの外見は、私自身でおねがいします」
それが、水無瀬雫(
jb9544)のリクエストだった。
現物が目の前にあるのだから、一番データが採りやすい。平等院は大歓迎だ。
ロボットはすぐに出来上がる。
「なるほど。ロボットとは思えない質感ですね」
雫は感触をたしかめると、ウォーミングアップをはじめた。
まずはアウルなしで、まだ慣れていない阿修羅の感覚をつかんでいく。
ロボットの反撃モードをONにしたので、組み手も一応形にはなっていた。
体が暖まったところで、氷霧を使っての回避訓練。
しかし、あくまでもストレス解消用の殴られロボなので、あまり訓練にならない。
「まぁ新しく覚えた技を試せるだけでも、よしとしましょう」
雫は痛打の威力をたしかめると、次に穿天・水牙と斬魔・水刃の使い心地を確認した。
ロボットは頑丈で、その程度ではビクともしない。
「本当に丈夫ですね……。しかし、絶対に壊れないと言われると本当かどうか試したくなります。攻撃特化ではありませんが……」
そう言うと、雫は全力で拳を叩きこんだ。
よろけて倒れる、雫ロボ。
「とりあえず、こんなところですね」
破壊はできなかったが、慣れないジョブで相手を倒せただけでも上出来だった。
「カスタマイズは、私自身で……ドMな私自身でおねがいしますぅ……」
緋流美咲(
jb8394)は、包み隠さず己の性癖を公言した。
彼女が参加したのには、理由がある。明日羽様と奏歌ちゃんにもっといじめてほしいという欲求不満ストレスを発散させるためだ。
「さぁ……良い声で鳴きなさい!」
ビシッと鞭をふるう美咲。
「ひぅぅッ!」
太腿を打たれた美咲ロボが、悲痛な声を上げる。
その姿に、思わず我を忘れて鞭を振り続ける美咲。
「ひぃ……っ。痛い、痛いぃぃ……!」
「あぁ……なんだか、自分がいじめられてるみたいで……はぅぅ……」
鞭を当てながら、まるで自分が責められているかのように体をよじる美咲。
鞭打つ手は止まらず、半裸の美咲ロボは全身ミミズ腫れで悲鳴を漏らした。
その口に鞭の柄をつっこんで、美咲は言う。
「声出すなって言ったよね……? 次に声を出したら許さないよ? はぁぅぅ……」
言葉責めしながら、自分の言ったことに反応してビクンビクンしてしまう美咲。変態すぎる。
「明日羽様……奏歌ちゃん……私は、こう!こう!こうして欲しいのですぅ〜! ひぅぅっ……!」
全力アピールする美咲だが、ふたりとも見てない。
そんな放置プレイをされて、よけいに燃え上がる美咲。
そろそろ彼女には医者が必要だ。
月乃宮恋音(
jb1221)は、百合華と一緒だった。
自由にロボットをいたぶれるということで、今日は責め側体験をするために参加したのだ!
恋音が注文したのは、百合華ロボ。
「なんで私ですかぁ……!?」
「ご自分の姿のほうが、気兼ねなく責められるかとぉ……」
「うう……」
困惑する百合華。
「ともかく、やってみましょう……なにごとも経験ですよぉ……」
恋音は、以前明日羽から聞いたことを思い出しつつアドバイスした。
言われたとおりに、自分そっくりのロボットをいじめる百合華。
「んああ……っ♪」
良い反応を返す、百合華ロボ。
耐久テストどこいった。
「いいですねぇ。では少々休憩して、次は私のロボットを……なんなら私自身を……」
と言いながら、ジュースを飲む恋音。
だがしかし! その中身は撃退酒だったのだ! またか!
「ふふ……百合華さぁん……私が責めかたを教えてあげますねぇ……?」
酔って豹変した恋音は、百合華を押し倒した。
そして、希釈した例のクスリを一口。
肥大化したおっぱいが、百合華を押しつぶす!
「むぎゅううう……!?」
「どうですかぁ、百合華さぁん……」
「ひぬ……ひぬぅぅ……!」
悶絶する百合華。
恋音に殺人の前科がつく日は近い。
「外見も自由なのですね。それでは……」
草摩京(
jb9670)が注文したのは、どこにでもいるようなキモメンだった。
しかも、脂ぎった中年オヤジと、メガネバンダナリュックのブサヲタ。
「なぜ、こんな注文を?」
平等院が訊ねた。
「良い質問です。私は神社の娘ですが……、日ごろ神社に来るたびイヤらしい目で見てきたり触ろうとしたり……萌えだのなんだの叫んで撮影していったり、変なポーズを要求してきたり……そういった男どもに、辟易しているのです。境内で暴力は厳禁ですし、戦うに値しない者を相手に刃を抜くわけにもいかず、気迫や怒気で追い返していますが……今日は鬱憤を晴らさせて頂きましょう! ふ……ふふふふ……!」
京は『悪王子・招来』で黒いオーラを纏うと、鬼神一閃を乗せて殴りかかった。
まずは、中年オヤジロボへ軽いジャブ。
次に、アゴ先へのフック。
よろけたところでボディを叩き、顔面ストレートを打ち抜く。
とどめに、天へ突き抜ける渾身のアッパーカット!
ドシャアアッ!
中年ロボは死んだ。
それを見たキモヲタロボが震えだす。
「あははははは! キモ・即・斬!」
グシャアアッ!
京の拳風が吹き荒れて、キモヲタロボも死んだ。
その背中をぐりぐり踏みつけながら、京は哄笑するのであった。
(全盛期のババアを超えるのも、面白いかもネ)
そう考えて、長田・E・勇太(
jb9116)は試験に参加した。
彼の言う『ババア』とは、上官でもあり師匠でもある老婆のことだ。
「ミーの相手は、この外見とデータでおねがいスルネ」
勇太は、全盛期時代の師匠の写真とプロフィールを平等院に渡した。
「このロボットはアウルを使えんぞ? パワーとスピードを上げるのは簡単だが」
「それでいいネ。ぜひ、ババアそっくりに作ってほしいヨ」
「ふ……まかせておけ」
じき完成したのは、まさに勇太の記憶どおりのババアロボ!
「では、はじめまショウ!」
勇太は光纏すると、拳銃片手にストレイシオンを呼び出した。
ガチ戦闘モードで、まずは超音波。
相手が怯んだところで、ハイブラストを叩きこむ。
しかし、機敏な動作でババアロボは攻撃を回避。一直線に、勇太との距離をつめる。
「ナンテ速さ……! 人間(ヒューマン)のクセに!」
勇太は拳銃を捨てて、拳で迎え撃った。
そこへ、ババアロボのサミング(目つぶし)が炸裂。
「アウチ!」
顔面をおさえて、勇太は後ずさった。
「まだだ! 来い! 化け物!」
なんとか踏みとどまる勇太だが、そのとき既に敵は目の前にいた。
そして鳩尾に突き刺さる、強烈な前蹴り。
「グワーッ!」
軍人らしい無慈悲な攻撃に、勇太は敗れた。
師匠超えならず!
「ロボットの耐久試験……? なんかおもしろそー」
来崎麻夜(
jb0905)は、クスクス微笑んだ。
外装には、あえて遊夜を選択。
「先輩の偽者とか幻覚とか、もし襲われたとき動けなかったら困るからね」
それが理由だった。
遊夜本人がこの場にいるので、情報スキャンは完璧だ。
「うん、そっくりだね……見た目は」
こくりとうなずく麻夜。
しかし、その顔には冷たい笑みが張りついている。
「でもやっぱり……違うねぇ。……ボクに近づく動きが違う匂いが違う喋り方も違う苦笑する顔も違う頬を掻く癖も違う驚く顔も違うボクから離れる動きも違う雰囲気が違う……それに、笑顔が違う。……うん、やっぱりボクが先輩を見間違えるわけないよね」
一気に吐き出して、麻夜はクスクス笑った。
「んー、予定とは違うけど耐久試験に貢献しようか。……じゃ、全力で行くね?」
麻夜は髪芝居で遊夜ロボを縛り上げると、次にChange Houndで自己強化。
一足飛びに間合いを詰めて、Abolish Ostentationを全力で叩きこんだ。
ドグシャアアアッ!
凶悪な一撃を受けて、バウンドしながら転がっていく遊夜ロボ。
「んー、まぁまぁ……かな?」
すっきりした顔で、麻夜は呟いた。
「ではやってみよう。……え、ストレス? 八つ当たり? ……ないよ?」
嘘か本当か、ジョン・ドゥ(
jb9083)はそう言いながらやってきた。
選んだ外装は、まぁ適当にという感じで、叩き甲斐のありそうな格闘家っぽいロボ。
「さっそく、テストをはじめようか」
まずは、奇門遁甲を発動。
ロボットに幻惑を与える。
「ぐおお……っ!」
うめき声をあげる、格闘家ロボ。
次に呪焔で温度障害を。痛打でスタンをぶちこむ。
即座にスキルを入れ替えて、紅魂で自己強化。
続けて災禍武装による毒を浸食させ、とどめに終焉を放って石化。
「グワーッ!」
苦悶したまま、ロボットは動かなくなった。
「これが、俺の打てるバステ技すべてだ。どうせマトモにやっても破壊できないんだろうから、バステへの耐性テストをしてやろうってね。人っぽくしてるなら、バステにもほどよく掛からないとリアリティに欠けるだろ?」
わりと真面目に考えてるジョンだった。
平等院は、「悪くない発想だ」と一言。
「全種類のバステを与えることが出来ないのは残念だが、真面目に協力しても問題ないよな?」
「もちろんだ」
「……しかし、バステで相手を苦しめるのって、案外良いな……クセになりそうだ……」
ふふっと笑うジョン。
どうやら、なにかに目覚めてしまったようだ。
「ストレス解消用ロボとは……なかなかもって面白いことを考えつくものだね、人の子は」
尼ケ辻夏藍(
jb4509)は、アンニュイな表情で周囲を見回した。
見れば、参加者たちはそれぞれ好き勝手なことをしている。
「まぁ私は、本来の耐久試験に協力しようかね」
そう言って、夏藍は殴り甲斐のありそうな格闘家ロボをオーダーした。
彼は、陰陽師にしては珍しい拳闘派だ。
ふだん白兵戦に専念する機会が滅多にないので、今日は遠慮なく殴りに来た次第。
「さて、行くよ?」
まずは祈念を捧げ、正面から殴りかかる。
反撃モードONなのでロボットも殴り返してくるが、夏藍の相手ではない。正面からだけではなく、側面や背面からも拳を見舞う。
「ほら、強度のテストならすべての箇所を殴っておくべきだろう? ついでに、私の殴りやすい箇所はどこなのかも見極めておこうと思ってね」
飄々と微笑む夏藍。
しゃべってる間も、拳撃は止まらない。
「せっかくだ、覚えたばかりの技も試そうかな」
ふと思い出したように、夏藍は闘刃武舞をぶっぱなした。
飛来した無数の剣が、格闘家ロボを切り刻む。わりと容赦ない。
「いいね、このロボット。一台ほしいな」
「さすがに、これは譲れんな」
夏藍の言葉に、平等院は短く答えた。
「あ、やっぱり駄目か。ならいいや」
それだけ言うと、夏藍は体育館をあとにした。
そのロボットを見た瞬間、佐藤としお(
ja2489)はフッと微笑した。
「このロボットは、僕自身……。まだまだ旨いラーメンを作ることのできない自分自身だ!」
としおの顔つきが、みるみるうちに悪鬼のごとく変貌した。
そう、これは理想のラーメンを作れない自分への怒り。炎の激情だ。
「撃つ……撃って撃って……撃ちまくる!」
としおは光纏すると、ありったけの自己強化スキルを発動した。
そのまま、怒りにまかせて拳銃を乱射する。
「うおおおおおお! 死ね! ラーメンも満足に作れない僕よ、この場で死ね!」
狂ったように撃ちまくるとしお。
ロボットは仁王立ちで、「もっと撃てええええ! これは試練! ラーメンの極意を極めるための試練! これを乗り越えたとき、僕は究極のラーメンに一歩近付くんだああああっ!」などと叫んでいた。ただのマゾかも。
「うおおおおお!」
「ぬあああああ!」
雄叫びを上げる、としお&としおロボ。
冷静に見ると、かなりアタマおかしい。きっとラーメンの過剰摂取(オーバードーズ)による副作用だ。
やがて、としおはアウルを使い果たして仰向けに倒れた。
同時に、ロボとしおも倒れる。
「あぁ……最っ高だ……」
両者は満足げな笑みを浮かべると、意識を失った。
桜花(
jb0392)は、うつろな表情でやってきた。
平等院が不審げに問いかける。
「どうした? いつもと様子が違うな」
「そう? ……ああ、ロボットはかわいい女の子にして。服装も、幼女っぽいドレスで」
「なんだ。いつもどおりか」
納得する平等院。
じきに、注文どおりの幼女ロボが完成した。
「一口に耐性って言っても、色々あるよね。……叩く・斬る・刺す・ねじる・潰す・削る・熱する・引っ張る・溶かす……。快感で壊れる人もいるらしいから、その耐性ってのもあるよね? あなたはどこまで耐えられる?」
怖いことを言いながら、桜花は無表情で幼女の頭を撫でた。
恐怖のあまり、幼女ロボは震えている。
「じゃあテスト開始。まずは……これから」
135mmライフルを手にすると、桜花は幼女の胸に銃口をつきつけた。
トリガーを引いたとたん、衝撃で幼女の体が前後に揺れる。
「あぁ、やっぱりこれぐらいは想定内か……じゃあこれは?」
そう言うと、桜花は薬瓶を床に並べた。
端から順に、塩酸・硝酸・硫酸・シアン化水素酸・アジ化水素酸・フッ化水素酸。
「あなたが何で出来てるか知らないけど、どれかは効くでしょ」
「ひぃぃぃ……!」
見るからにヤバげな物質を前に、おびえる幼女。
それを見て、桜花はフッと微笑むのだった。
テスト内容は残酷すぎて蔵倫!
(私たちの身体データを、どこから入手したのでしょうね)
状況を見て、雫(
ja1894)は疑問に思った。
どう考えても、ろくな答えが思い浮かばない。
「とりあえず、ロボットは私と同じ姿で。ただし性格は、普通に育ったときのものをシミュレートしてください」
「よかろう」
かるく請け合う平等院。
そして完成したのは、妙に明るいロボ少女だった。
会話するまでもなく、雫(小等部5年)にとっては違和感バリバリである。性格はマトモだが、とても自分とは思えない。
「我ながら、違和感がある言動ですね……。ひとつ訊きたいのですが、なぜ私しか知らないことまで再現されているのですか?」
「くくく……盗撮や盗聴など、お手のものだよ」
にやりと笑う平等院。
これには、雫(Lv40)も黙ってられなかった。
「……ぶちのめす」
神威→薙ぎ払い→徹し→烈風突き→乱れ雪月花→荒死
以上のコンボが炸裂して、平等院は死んだ。
が、これはロボット!
本物の平等院は、メイドカフェの件で入院中だ!
「さぁ世界征服や」
ゼロ=シュバイツァー(
jb7501)は、平等院の技術と知識を盗み取り、大量の恋音ロボと雫(小等部5年)ロボを作り上げた。
それはもはや、地球はおろか天界魔界冥界のすべてを支配し得る圧倒的戦力!
「フフフ……大量の魔王ロボとか雫さんロボとか、もう世界を牛耳れるやないか」
ゼロの言うとおりだった。
この軍団が完成したことによって、天魔との戦いには終止符が打たれ、人類は勝利するだろう。
「さぁ暴れてこいや! 世界よ、俺の力で焦土と化すが良い!」
ソファにもたれて高みの見物を決め込みつつ、早くも勝利の美酒に酔うゼロ。
敗北の不安は1ミリもない。
そこで、ふいにゼロは思いついた。
「せや、亜矢に耐久テストしてもらお」と。
もちろん、『亜矢の』耐久テストだ。
電話一本で亜矢を呼び出し、魔王軍団の前に放り出すゼロ。
「亜矢〜アトラクション作ったから楽しんでな〜♪」
「なんなの、これ!」
「アトラクション言うたやろ。世界征服完了の前祝いや。ははははは」
高笑いして、ふんぞりかえるゼロ。
そのとたん、ソファから転げ落ちて彼は目をさました。
なんという夢オチ!
行動が無茶すぎたんだ!
「ストレス解消用ロボットか。思う存分ためさせてもらうぜ。ぶっ壊してもいいんだよなぁ?」
鐘田将太郎(
ja0114)は、ニヤリと笑った。
平等院が「好きにしたまえ」と応じる。
「そうかい。じゃ、おまえそっくりにしろ」
「ならば私を殴れ」
「は?」
「私はロボットだ。遠慮はいらん」
「そうかい。んじゃ、さっそく……」
将太郎は光纏し、闘気解放で気合を注入した。
そして放たれる、鬼神一閃!
ズドオオッ!
平等院は3mほど吹っ飛んで、すぐ立ち上がった。
すかさず追撃する将太郎。
「俺はワルじゃねぇ! なのに、なんで悪人扱いされなあかんのだ!」
ドカバキ!
「初めての告白でフラれたぜ、こんちくしょう!」
ビシバシ!
「俺は鐘田だ! 鎌田じゃねえぞ!」
バシュウッ!
愚痴を叫びながら、大鎌をブンまわして八つ当たりする将太郎。
ある意味、彼こそが最も正しく今回の依頼を理解していると言えよう。
だが、彼の溜めこんだストレスはこの程度で解消できるものではなかった。
「うおおおおお! どいつもこいつも! 気に入らねえええ!」
破壊衝動が抑えきれなくなった将太郎は、全身から地獄の業火のごときオーラを噴き上げて、周囲のもの全てに襲いかかった。ロボットも撃退士も、手当たり次第に殴って殴って殴りまくる!
数分後。彼は束縛や睡眠、石化などを食らって、カウンセリングルームに運ばれた。
「ぐぬぬぬ……私の場合、無抵抗の相手をぶん殴るなんて逆にストレスが溜まってしまうのです! ならば御本人はもちろんのこと、それを模したロボットさんも混ぜこぜにして大宴会をしてしまいましょう! 少々早い忘年会です!」
無茶を言い出したのは、袋井雅人(
jb1469)
「これは耐久試験なんだが」
と言う平等院を、「アルコール耐久試験ですよ!」と強引に言いくるめて宴会開始!
モデルの許可が出ていた参加者たちのロボットが、一堂に会する!
「これは……なんという楽園!」
恋音、桜花、美咲、中将、ラファル、W雫という女性陣に囲まれて、雅人は有頂天だった。
相手は全員ロボットだが、見た目は完全ハーレムだ。
平等院の手を借りて、撃退酒はもちろん、獣化薬や胸部肥大薬、ロリ幼女化薬など、いたずらグッズも勢揃い!
「これを使えば、いくらでもラキスケできますね!」
雅人は一度、『ラキスケ』という言葉を辞書で引くべき。
そのとき、彼の目が輝いた。
「おお、明日羽さんのロボットまで!? せっかくの機会なので、おっぱいを揉ませてもらいましょう!」
躊躇なく襲いかかる雅人。
その直後。明日羽ロボの対戦車ロケットが、彼を灰にした。
「好きな外装で、耐久試験……なるほど」
ヒビキ・ユーヤ(
jb9420)は、こくりとうなずいた。
外装に選んだのは、麻生遊夜だ。
「俺を選んだか。よろしくな」
と、遊夜ロボ。
「ん……んー? そっくり……?」
ユーヤは、微妙な顔で首をかしげた。
納得できないような表情を浮かべながらも、とりあえず遊夜ロボに抱きついたり、おぶさったり、頬ずりしたり、膝に乗ったり、膝枕してもらったり、膝枕したりと、いろいろ試してみるユーヤ。
「……ん、わかった。本物とは、ほどとおい」
こくりと首を動かし、ユーヤは光纏した。
「やることはやったから、あとはお仕事。……ふふ、うふふ……耐えられる? 耐えられるかしら? たのしみね、たのしみだわ」
無邪気に微笑むユーヤ。
その表情のまま、ギガントチェーンをジャラリと抱え、ゆっくり歩きつつ『鬼降し』を発動。
さらに『練気』で力をためて──全力をこめた乾坤一擲!
グシャアアアッ!
遊夜は派手に吹っ飛び、動かなくなった。
「……ん、全力でやった、満足」
うなずくと、ユーヤは本物の遊夜のもとへ走っていった。
自分自身をロボットに投影する者は何人かいたが、雁久良霧依(
jb0827)もその一人だった。
ただし彼女の場合、モデルにしたのは小学生時代の自分。
黒髪ロングで白ワンピ姿の、おどおどした美幼女だ。
しかもどういうわけか、後ろには濡れた布団が干してある。
どうやら、おねしょをしてしまったというシチュらしい。
「またやったのね! 今日はたっぷりとお仕置きよ!」
叱りつけながら、幼い自分を膝に乗せてパンツを下ろし、お尻を平手打ちする霧依。
一発ごとに、パンパンと良い音が響く。
「ごめんなさい、もうしませんんん!」
泣き叫ぶロリ霧依。
聞く耳持たず、霧依はスパンキングをつづける。
柔らかさと弾力をそなえた尻の感触と、泣き叫ぶ声が最高だ。サドすぎる。
やがて、お尻を真っ赤にさせてグタッとなるロリ霧依。
だが、この程度は序の口だ。
「立ちなさい! まだ終わりませんからね!」
力ずくで立ち上がらせると、霧依はロボットを倉庫へ連行した。
そして中に閉じこめ、ドアを施錠して密室にし、裸に剥いて跳び箱に縛りつけ……蔵倫蔵倫!
耐水性のテストとか、しなくていいから!
「胸が大きい人が多いです!」
あたりを見回して、夜雀奏歌(
ja1635)は大声を上げた。
胸が貧しい彼女にとって、巨乳は敵なのだ。
そこで思いついたのは、恋音ロボを作ってブッ壊すこと。
「本人は攻撃できないから、ここでうっぷんを晴らすのです!」
「お、おお……?」
うろたえる恋音ロボ。
そこへ容赦なく、目隠&兜割り!
認識障害と朦朧を与えた上で、影手裏剣を心臓へ。
ぽよ〜〜ん♪
「は、はね返された!? むきゃー!」
ロボットのおっぱいに負けて、逆上する奏歌。
数分後、恋音ロボはスクラップになった。
そこで奏歌は閃いた。
「あ、実際できないこともできるのでは!」
彼女が注文したのは、美咲のボディに自分の頭を乗せた、アイコラみたいなインチキロボ。
はたから見れば悲しい行為だが、奏歌にとっては切実だ。
「うーん……こんな大きさになりたいです」
ボディをペタペタさわる奏歌。
しかし、やはり巨乳は敵だ。
「何度見ても、けしからんおっぱいです! うきゃー!」
「ひぃぃ、未知の感覚が襲ってくるのですぅぅ!」
おっぱいを集中攻撃されて、悶える奏歌ロボ。
やればやるほど悲しい。
「にゃもにゃも、ついにこの日が来たでぃすよ!」
戦場ヶ原中将(
jc0516)は、まな板をひけらかすように登場した。
彼女が選んだ外装は、ラファル A ユーティライネン(
jb4620)
「にゃもにゃも、ガハラちゃんをいつもいぢめる、アライグマしゃん(ラファル)をメッタメタのギッチョンギッチョンにするでぃす!」
「やれるもんならやってみなー!」
本人っぽく応じる、ラファルロボ。
本人もロボだから、ややこしい!
「にゃもにゃも、アライグマしゃん覚悟でぃす! にゃが、ロイトナント家に444年に渡り代々伝えらし拷問術『悶絶427年殺し』で、この世の地獄を見せてやるでぃすよ! この怨み、晴らさでおくべきか!」
中将は光の翼で飛び立つと、ワイヤーでラファルをぐるぐる巻きにした。
そして、コマみたいにキリモミスクリュー回転させつつ、頭から壁へ叩き込む!
同時に、炸裂符乱れ打ち!
ズドババババ……!
吹き荒れる爆風と爆音。
やがて煙が晴れたとき、そこには変わり果てたラファルが!
これはひどい。中将グッジョブ!
「にゃもにゃも、アライグマしゃんBBQにしちゃったぜ! 悪だろ〜!」
得意げに胸を張る中将。
まな板まな板。
「なぜ私はここに……ストレスなんてありませんのに……」
平田平太(
jb9232)は、呆然と立ちつくしていた。
「あれは人形でしょうか。自然に話してますが、人形なんでしょう……。ではストレス発散を目的とせず、この場にいる私は何なのでしょう。人以外この場にいるのは……あぁ、私は人形だったのか!」
謎の理論から謎の答えを出す平太。
彼の妄想は止まらない。
「しかし、なぜ人形の私が自分と同じ人形を? ……そうか! これは仲間たちで同士討ちさせて、ほくそ笑むために……! くそ! 人間め! 時期が来れば……! でも従っちゃう! 悔しい!」
ものすごい勢いで暴走する平太。
なにも考えずに依頼を受けた結果がこれだよ!
ともあれ、平太は『そこらへんに転がってる普通の丸太』を装備した。
今日の平太は確変入ってるので一応言うが、どこぞの吸血☆アイランドと違って丸太は普通そこらへんには転がってない。
……はっ、もしやこの『丸太』とは隠語!? つまり人体実験用の(略
ということは……平太が装備してるのは美咲!?
その丸太のことか! ふざけやがって!
「みんな、丸太は持ったな? 行くぞォ!」
とか一人で叫んで、一人で突撃する平太。
武器(美咲ロボ)を丸太みたいに抱えて、「すまぬ……すまぬ……」と口走りながら、彼はリアル美咲を滅多打ちにした。
「はぅぅ……っ♪」
「これは、いい丸太だな……」
この人たち、もう駄目だ。
「良識、それは投げ捨てるもの」
遠い目をして格好つけるラファル。
唐突に、彼女は笑いだす。
「ぎゃははは、おまえもあいつも俺様のものだぜー!」
今日のラファルは、セクハラだけが目的だ。ハクスラではない。
最初の標的は桜花だ。
先日の依頼で相棒にセクハラした罪状により、ギルティ。
「くらえ、桜花ロボ! これが罪の報いだ!」
ロボットと間違えたフリして、桜花本人を襲撃するラファル。
ちなみにこのとき、桜花は幼女ロボをドロドロに溶かすという猟奇プレイに溺れていた。
「アバーッ!」
一斉射撃を浴びて、吹っ飛ぶ桜花。
インガオホー!
「次はみずほだぜー! 花見で俺を殴った罪状によりギルティィ!」
でも本人は怖いので、みずほロボにセクハラするラファル。
「教育してやる」と言いながらロボを個室に連れ込み、「俺の尻を舐めろ」などと命令。
でも、みずほロボがそんなことするわけない。
「破廉恥な……恥を知りなさい!」
「まったくですわ!」
扉を破って突入してきた長谷川アレクサンドラみずほ(
jb4139)が、ラファルに殴りかかった。
「くそ! 歓迎委員会か!」
バゴシャアアアッ!
ラファルは屋根を突き破り、星になった。
うん、色々ひどい。
みずほは、そのロボットを平等院の前につれていった。
「こちら、よく出来てますわ。……でも、平等院さんはおわかりではありませんわね。相手の攻撃を紙一重でかわしてパンチを当てる……そこに快感があるのですわ。データを提供いたしますので、このロボットをわたくしと同じ戦闘能力にしてくださいな」
「無理だ。ロボットにアウルは使えない。単純にスピードとパワーを上げることはできるが」
「それで結構ですわ」
というわけで、アウルが使えない分を補おうと超絶チューンされたロボットが完成した。
「上出来ですわ。わたくし、自分自身と戦いたかったのですもの。自分の弱点も知りたかったですし。……というわけで、勝負ですわ!」
「受けて立ちますわ」
両者、仮設リングにIN!
だが、みずほは気づいてなかった。このロボットの耐久力とパワーに。
カーーン!
バキィィッ!
ゴングと同時に、みずほロボの拳が音速で炸裂した。まさに瞬殺。
そして、これが惨劇の幕開けだった。
AIに植え付けられた殺戮衝動が、みずほロボを殺人機械へと変えたのだ。
結果、会場に集まった撃退士とロボットが1人残らず行動不能にされるまで、1分もかからなかった。
この騒動は、のちに『長谷川みずほロボ事件』と呼ばれ、学園の記録として残ることになる。