その日の放課後。最初の案内役として登場したのは、玉置雪子(
jb8344)だった。
「はぬ……っ!?」
奇声を発して青ざめるカルーア。
以前、猫島で戦った(?)とき、雪子とは顔をあわせているのだ。
そんなカルーアの様子を見て、「あっ……フーン」と察してしまう雪子。
いきなりピンチだが、雪子はカルーアの正体になど興味なかった。確証もないし、追及しても仕方ない。そんなことより、もっと面白いことがある。
雪子は「フヒヒッ」と笑いながら、カルーアに近付いた。
「久遠ヶ原学園へようこそ! 歓迎しよう、盛大にな!」
「あ、ありがとうです」
「しかし、本当の入学はこれから!」
雪子はスマホを突き出した。
そこに表示されているのは、久遠ヶ原を舞台にしたネトゲのトップ画面。
「いいですか。まずは、この規約をしっかり読んでくだしあ」
「は、はいです」
なにもわからないまま、とりあえず読むカルーア。
「そしたら、ここに名前とメアドを記入してくだちい。次にパスワードも。それから、種族と性別と年齢、身長……あとジョブも記入してくださいね」
「あ、はい」
「いいですか。ちゃんと間違いなく記入してくださいね。大事なことなので二度言いました」
「記入したのです」
「おめでとう! これでカルーアちゃんも真の久遠ヶ原生だ! あとは部室で交流するなり、教室で依頼を請けるなり、好きに学園生活をエンジョイすればおk! ……なに? 具体的にどうしろと? しょうがないにゃあ……ここにSC購入のボタンがあるじゃろ? 次に数字を選ぶじゃろ? 大きければ大きい数字ほどいいゾ〜これ。さぁおまえの諭吉を数えろ!」
「意味不明ですぅー!」
「フヒヒ。ここで多額の諭吉を払わせてク■ウドゲートさんに媚を売r……おや、だれか来たようだ」
ガシャーンとドアをぶち破って、突入してきたのは最上憐(
jb1522)
「……ん。今日の。案内役を。引き受けた。まずは。カレーの聖地。食堂へ。行く」
カルーアの首根っこをつかむと、憐はズルズルひきずって歩きだした。
雪子はドアの下敷きになって機能停止。行動がメタすぎたんだ。
そのまま食堂へ乗りこんだ憐は、カレーを寸胴鍋で注文。
「……ん。カレーは。飲み物で。あることを。教えるよ。実演するよ?」
言うや否や、寸胴鍋をさかさまにして中身を胃袋へ流し込む憐。
たちまち鍋一杯を飲み干し、カラになった鍋を置いて一言。
「……ん。カルーアも。ためしに。飲んでみたら? 遠慮はいらない。飲んで。飲んで」
「ムリですぅぅ!」
必死で拒否するカルーアだが、憐は無言で二杯目の寸胴鍋を注文した。
そして、無理やりカルーアの口を開けさせ、寸胴鍋を押しつける。
「ふぐぅ……ッ!?」
「……ん。力を。抜いて。飲まないと。鼻から。逆流するよ?」
「ごぶぅぅぅッ!?」
カレーまみれで悶絶するカルーア。鼻だけじゃなく、耳からも逆流してる。
このままではカレーで溺死だ。まさか、こんな依頼で命の危機に陥るとは。
──数分後。カレーの海の中で、カルーアは痙攣しながら倒れていた。
「……ん。カレーは。飲み物だと。わかったね? でも。昼の食堂は。飢えた生徒が。襲来して。戦場になるので。昼に。来るときは。覚悟して。油断すると。目当てのモノを。入手できず。餓死」
最後に少しだけ案内らしいことを言い残すと、憐は『擬態』と『隠走』を発動して、こっそり食堂を離脱した。そして購買でカレーパンを購入。
こうして食堂と購買の代金を『案内指導料』としてカルーアに押しつけ、思う存分カレーを満喫する憐であった。
当然払いきれなかったカルーアは、体で(皿洗いなどで)代金を払うハメに。
「うぅ、ひどい目にあったです……」
カルーアが食堂を出ると、ヴェローチェ(
jb3171)がやってきた。
「カルーアちゃん発見ですにゃ! 堕天使になったのにゃね♪ よろしくですにゃ! 早速お友達になるにゃ♪ ユウジョウ!」
勝手に堕天したと思い込み、一方的に友達宣言するヴェローチェ。
「ところで、猫属性マスターしたかにゃ? え、ダメ? 付与の儀式が不完全だったにゃねー。今度あたしのご主人様に儀式してもらうといいにゃ♪ すっごく気持ちよくて、頭が真っ白になっちゃうにゃん♪」
「それはたのしみなのです」
「うんうん。さて、あたしはトイレを案内するにゃ。いざというとき、おもらししたら大変にゃからね!」
てわけで、ふたりは女子トイレに移動。
使いかたを説明するという名目で、ふたり一緒に個室へIN!
マッハで蔵倫の予感だが、大丈夫! 外からは見えない! サウンドオンリー!
「カルーアちゃんは、撃退士の強さの秘密を知ってるかにゃ? それは『絆』にゃ。仲間同士の絆があるからこそ、実力以上の力が出せるのにゃ。というわけで、あたしたちも絆を深めるために連れションするにゃ!」
「は、はずかしいのです!」
「にゃにゃ? 女の子同士が友情を深めるなら、連れションが一番にゃ♪ さ、見ててあげるからにゃ。大丈夫にゃ、撃退士の女の子は皆してるにゃよ。もしできないにゃら……撃退士のフリしたスパイかもしれないにゃね」
「わ、わかったです! 連れションするのです!」
衣擦れの音と、水の流れる音がした。
言っとくけど、音だけだよ!
「これで、あたしたちは親友にゃね。カルーアちゃんも真の撃退士にゃ♪」
「よかったですぅ」
「親友同士だし、ここも拭いてあげるにゃ♪」
「そ、そこは駄目なのですぅ!」
「おっと、手が滑ったにゃ」
「ひにゃァアア……っ!」
サウンドオンリー!
「旦那さまぁ、もうオラのこと愛してないだべかぁ?」
のっけから恒例の旦那様愛を熱弁するのは、御供瞳(
jb6018)
こう見えても既婚者の田舎っぺ女将13歳は、今日も平常運転。
と思いきや、いつもと違って発言が疑問形だ。これはいよいよ、エア旦那様っぷりに本人も合点がいったのか?
「お盆になっても旦那さまぁは帰ってきてくれないっちゃ。だども、それでは旦那様ぁは死んでることになっちまうがら、やっぱり生きてるんだべ」
とまぁ、どこまでも前向きな瞳であったとさ。どっとはらい。
そんなエア旦那さまラブ全開の瞳は、自分の住んでいる所を大紹介。
どこかといえば、久遠ヶ原学園墓地!(ババアーん!)
四国の山奥を故郷とする瞳は、山神様への生贄……もとい山奥神社の宮女。
しかし、ど田舎であっても穀潰し一匹を飼うのは容易ではなく、瞳も好き勝手やってはいたが、ちゃーんと村の役には立っていたそうな。
その役割とはイタコ。『イタカ』ではなく『イタコ』すなわち霊媒である。
旦那様ぁの生霊とともに日々天魔と闘うイタコ戦士の原典は、ここにあったのだ。
というわけで、旦那様ぁの行方を捜すため学園に来た瞳は、学園の霊的守護を預かって霊園の管理人をしているのであった。
今年はわりと忙しく、肝試しのショバ代管理でガッポガッポと……
それは置いといて、まぁそんな関係で瞳の霊園案内は深夜、依頼とは無関係の肝試しを開くという形で行われたのであった。
が、ここまで説明したところで字数が尽きた。
どんな案内をしたのかは、想像にまかせる!
というか、丸投げすぎるぞぉぉ!
翌日の放課後。学園案内の続きで、深森木葉(
jb1711)がやってきた。
「では飼育小屋に行くのですよぉ〜。かわいい動物さんたちがいるのですぅ〜」
無邪気な笑顔で案内をはじめる木葉。
昨日のような危険はなさそうだと、カルーアは胸をなでおろす。
「まずは、うさぎさんですよぉ〜。かわいいのですぅ。もふもふですよぉ〜」
扉を開けて、ウサギをモフろうとする木葉。
だが、小屋に入った直後。ウサギの掘った穴につまずいて、木葉は思いきりスッ転んだ。
しかも、転んだ先には黒くて丸いものが!
べちゃっ
「えへへっ、転んじゃいましたぁ〜」
ウサギの糞を眉間にくっつけたまま、笑う木葉。
「気を取りなおしてぇ〜。次はにわとりさんですよぉ〜」
今度は転ばないよう、木葉は慎重に鶏小屋の扉を開けた。
その瞬間、「「コケェ〜!」」と雄叫びをあげながら十数羽のニワトリが一斉に襲撃!
「きゃわぁ〜! 痛いのですぅ〜! つっつかないでぇ〜!」
なんというリアクション芸。
だが、木葉の舞台はまだ続く。
「えううぅ……。お次は、こいさんですよぉ〜」
餌の麩を持って、池に向かう木葉。
さすがに、鯉に襲われることはないはず……
そう思って麩を投げると、足を滑らせて池にドボン!
「はわぁ! た、たすけてぇ〜!」
餌と間違えられて、鯉につつかれながら沈んでゆく木葉。
すると、そこへ!
風のように駆けつけたのは、ロリコン桜花!
「いま助けるよ、木葉ぁー!」
このシチュ、つい最近プールで見たばかりなんだが……。
というわけで、無事に救助成功。
当然のように行われる、ディープ人工呼吸&おっp……心臓マッサージ。
「ありがとう、桜花ちゃん。今日も災難なのですよぉ……。ぐしゅんっ!」
「いけない、木葉。風邪ひいちゃう。はやく着替えないと! カルーアも、さぁ一緒に!」
桜花は有無を言わせず、ふたりの手を引いて走りだした。
めざすは、女子更衣室!
更衣室へ向かう間、桜花(
jb0392)はカルーアに話しかけた。
「私はあなたのこと、知ってるよ? ……え、人違い? そんなわけないよ? 私、年下なら匂いだけで判別できるんだから。……でもまぁ、そういうことにしておいてあげる。あなたにも事情があるしね?」
匂いで天魔を判別ってルール違反……まぁ言ってるだけだからいいか。
「で、今日は私に会いに来てくれたの? ……え、学園案内? ふふん、素直じゃないなぁ。……ま、そういうことにしておいてあげる。ということで、私が案内するのは女子更衣室ね!」
「更衣室です?」
「知ってる? 更衣室ではみんな服を脱ぐんだよ? つまり更衣室にいる撃退士は、魔具魔装なしの無防備状態なわけ。あなたには有益な情報でしょ? ……え、ただの新入生? ま、そういうことにしておいてあげる。なんでこんなこと教えるかって? 私は少年少女の味方だからさ!」
「おお……いい人なのです」
「ま、それでも敵にはなってほしくないけどね? この学園にも少年少女は大勢いるし……あなたが彼らに危害を加えるなら、私はあなたと戦わないと……え、ただの新入生? ま、そういうことにしておいてあげる」
てなところで、更衣室に到着。
桜花が扉を開ければ、そこには江沢怕遊(
jb6968)の姿が!
「ふわあっ!? び、びっくりしたのです!」
「びっくりしたのはこっちだよ、怕遊ぅー!」
どさくさにまぎれて抱きつく桜花。
ちなみに怕遊は、フリフリドレスで女装なう。
「おー。カルーアちゃん、丁度よかったのです。いまから行くところだったのですよ」
「あなたも案内役です?」
「そうなのです。久遠ヶ原学園生の心得を教えるのですよ♪」
「それは期待なのです」
「では、学園生の心得その壱!」
一瞬ためて、怕遊は言った。
「久遠ヶ原に入るなら異性装しろ! なのです!」
「いせーそー?」
「久遠ヶ原では、入学したら女装か男装をするという暗黙の了解があるのです! これは、一人前の撃退士なら性別に関係なく依頼をこなさなければならないという教えからきているのです! つまり撃退士は、男でもあり女でもある存在! 異性装をすることで、自らの性別を捨てて新しい自分に生まれ変わるのです! そうすることでやっと、久遠ヶ原の一員になれるのですよ♪ ここに、カルーアちゃん用の男子制服を用意したのです! さあ着替えるのですよ♪」
いつになく熱い口調で押し切る怕遊。
その勢いに押されて、やむなく男装するカルーア。
って、この子……2回しか登場してないのに着ぐるみと異性装クリアかよ……。
だが、怕遊の授業は終わってない。
「学園生の心得、その弐! 変態になれ!」
「変態……?」
「そうなのです。撃退師の任務は大変なのです。ときには闘いに疲れ、自分を見失うこともあるのです……だからこそ! 自分の芯になる絶対的な変態性を持つことで、自分を見失うことなく常に先を見据えられる立派な撃退師になれるのですよ♪」
「おお……」
妙に納得するカルーア。
今日の怕遊は攻撃力高いな!
さて、残る案内役は長谷川アレクサンドラみずほ(
jb4139)だけ。
彼女が指定の待ち合わせ場所に行ったとき、そこにはカルーアを含む4人の姿があった。
「あら、ご友人が一緒ですの?」
「この人、離れないのです」
カルーアの背中には、子泣きじじいみたいな桜花が。
おまけに、木葉と怕遊も捕まっている。
「まぁ人数が増えても問題ありませんわ。わたくしは部室棟を案内いたしますわね。どうぞ、こちらへ」
「おぉ、すごくマトモっぽい人ですぅ……」
感動の声をもらすカルーア。
たしかに、この中ではマトモなほうだと言えよう。この中ではな!
「さて……ここが、わたくしの所属する拳闘部の部室ですわ。どうぞ、中へ」
招かれるまま、カルーアたちはドアをくぐった。
みずほが説明をはじめる。
「ここは何かと申しますと……練習したり雑談したり、部活に勤しむのがこの場所の本分ですが……皆さんが交流を取ることこそ、じつはこの場所で一番大切なことなのかもしれませんわね。……というわけで、お茶会にご招待しますわ」
英国貴族のみずほにとって、アフタヌーンティーは心やすらぐ時間。
無論、紅茶も茶菓子も万全だ。
紅茶はディンブラ。
菓子はスコーンとブラウニー。
おまけに、木葉の作ってきたおはぎ。
「おー、どれもおいしいのですー♪」
両手にスイーツを持って、笑顔をとろけさせる怕遊。
「おはぎと紅茶が、意外に合いますよぉ〜」
木葉も嬉しそうだが、本当に合うのだろうか。
「まって、ふたりとも! お茶熱いから、フーフーしてあげる!」
唇をとがらせながら、ティーカップではなく怕遊の頬に迫る桜花。
「……まぁこれも異文化交流というものですわね」
生暖かい目で見つめながら、みずほは優雅にミルクティーを飲むのだった。
「ところで皆さん、よろしければ拳闘部に入りませんか?」
さわがしいお茶会のあとで、みずほが勧誘した。
「拳闘って、なんなのです?」
「御存知ありませんか、カルーアさん。では、この機会に体験してみてはいかがです? わたくしがお相手いたしますわ。もちろん手加減はしますので」
「ぜひ体験するのです。これも調査なのです」
「ではリングにどうぞ。よければ、ほかの皆さんもどうですか?」
「いいね! KOされた少年少女は、私が全力で介抱してあげる!」
みずほの提案に、桜花は瞳を輝かせた。
こうして体験スパーリングが始まり、『つい本気になってしまった』みずほの拳によって、4人仲良くKOされたのだった。
後日カルーアが『撃退士は変態ばかり』と報告したのも、無理からぬことと言えよう。