.


マスター:牛男爵
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/05/22


みんなの思い出



オープニング


「先輩は、撃退士になって一番ショックだったことって何ですか?」
 先月入学したばかりの後輩からそんなことを訊かれて、矢吹亜矢は少し考えこんだ。
 じきに、ポンと手をたたいて答える。
「撃退士になってショックだったのは、食費がかかるようになったことね」
「そんなことですか……? 先輩はもう何年も撃退士の仕事をしてるんだし、もっと衝撃的な経験とかあるんじゃありません?」
「そりゃまあ、任務中に知り合いが死んだりとかはあるけど。そんなの、すぐに慣れちゃうのよ。でも、食費は毎日のことじゃない? 死んだ人のことなんか気にしてられないぐらい深刻なのよ。それに、もうひとつ大きな理由があるし……ほら、わかるでしょ?」
 意味深に問いかける亜矢。
 だが、後輩は首をかしげるばかりだ。

「ウソ、わからないの? 教えてあげてもいいけど、それこそショックだよ?」
「そこまで言われたら気になります。教えてくださいよ」
「じゃあ教えてあげるわね。『ショックだったこと』でしょ? だから、食費。ショック費。あっははははははは!」
 お粗末な駄洒落を披露して、げらげら笑う亜矢。
 後輩は、どうにか愛想笑いを浮かべるのが精一杯だ。

「あー、おもしろかった。でもね、食費がかかるようになったのはマジよ。ほら、撃退士って基本的に体力使うからカロリー消費も凄いし、病気にもかかりにくいから毎日快食快便で、毎朝かならず
「あ、はい、わかりました。もういいです」
 強引に話を打ち切ろうとする後輩。
「ちょっと。最後までしゃべらせてよ。それこそ、出し切れなかったウンコみたいに
「わあああああああ! そういう話は結構です! 先輩も女子高生なんだから、もうちょっと言葉を選んでください!」
「そんな、お上品な……。あたしの知ってる撃退士で、必殺技使うときに『ウンコー!』って叫ぶ人いるよ?」
「百歩ゆずって、男の人ならまぁ……。でもパーティー組みたくありませんね……」
「まぁ、あたしのことなんだけどね」
「ダメじゃないですか!」
 後輩が、バンッと机をたたいた。

「……で? なんでそんなこと訊いてきたの?」
「ああ、新聞部に入ったんです、私。それで、なにか記事を一本書けって言われて……。『撃退士になって一番ショックだったこと』っていうテーマで書いてみようかなと思ったんです」
「へぇー、ちょっと面白そう。じゃあ手伝ってあげるね」
「え? いや、いいですよ。悪いですし」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。こういうのは慣れてるんだから。あんただって、記事を書くのに専念したいでしょ?」
「それはまぁ……手伝ってもらえるなら、助かるのは確かです。でも、お礼も何も出せませんよ? ほんとうにいいんですか?」
「いいの、いいの。どうせヒマだから。大船に乗ったつもりで待ってて」

 そんな調子で強引に話をまとめると、亜矢は「じゃあ早速、突撃取材してくるわね」と言って教室を出ていった。
 無論、取材に行く前にチョッパー卍を誘うのは忘れなかった。




リプレイ本文

「さて、どこから行こう」
 ICレコーダー片手に、亜矢は周囲を見回した。
 見つけたのは、赤いマフラーの男。
 千葉真一(ja0070)だ。
「よし、今回もトップバッターよ!」
 勝手に打順を決めて、亜矢は突撃した。
 面倒そうに卍が続く。

「新聞部の取材? で、一番ショックだったことかぁ……」
 真一は少し考えて、「とくにないと思……」と言いかけたところで、ピキッと動きが止まった。
 そして、正義のヒーローにあるまじき黒いオーラが漂い始める。
「……ああ、あった。あったよ……。あれはそう。科学室でヒーローマスクGを強化していた時だ……。調子良く行ってたし、大失敗もまだ問題ないと思ったんだが……。なぜ……」
 不意に光纏すると、邪悪なオーラをまきちらして真一は叫んだ。
「なぜ、にくきゅうブーツに化けた!? なぜだっ!?」
 坊やだからさ……と言いかけて、口を閉ざす卍。
「落ち着いて、あんたはヒーローなんだから」
 亜矢がなだめた。
 真一は我に返って光纏を解き、溜め息をつく。
「悪い。あれは屑鉄化するよりショックだったんで……。高価なアイテムのときは保証書を使うんだが、まったく不覚だった……」
 遠い目をする真一。
「あの一件で、突然変異には油断がならんという教訓を得たよ。ははは……」


「あれだけ爽やかな男が、あんなに取り乱すなんて……」
 取材を終えた亜矢は、驚いたように言った。
「それだけ衝撃だったんだろ」と、卍。
「まぁいいわ。次よ、次」


「新聞部の取材?」
 問い返したのは、ナナシ(jb3008)だった。
「そう。一番ショックだったことを教えて」
「まぁ私も最前線にいたことが多いから、人の生き死になんていくつも見てきたけど……そんな暗い話を掲載したって、読者がついてこないと思うのよね。……というわけで」
 ナナシは勿体ぶるように言うと、こう続けた。
「そうね、一番は突然変異かしら」
「またかい!」
 おもわずツッコむ亜矢。
「『また』って?」
「……なんでもない。つづけて」
「いま、屑鉄にならないキャンペーンやってるでしょ? あれの一番最初のとき、喜んで保証書つけずに強化したんだけど……4Lvくらいで、みごとにS装備がTシャツに変わってくれたわ……。『屑鉄化はしないけど突然変異しないとは言ってない』とでも言いたげな、あの白衣の天魔の眼差しが、いまでも忘れられないわ……」
「まぁ気持ちはわかるけど」
「深夜2時くらいにやってたから、本気で放心して次の日は何も手につかなかったわ……。あれね、世間は汚いってしみじみ感じた一件だったわね……」


「まさか突然変異ネタをかぶせてくるとは……」
「みごとな天丼だ」
 などと会話しながら、次の相手をさがす亜矢&卍。
「ネタ的にはおいしいけど……よし、次はあの子にしよう。きっと凄いネタがあるはず!」


 亜矢が話しかけたのは、黒百合(ja0422)だった。
 学園屈指の危険人物である彼女なら、相当な体験をしてるはず!
「一番ショックだったことォ……? あァ、あれよあれェ……S装備が突然変異したときィ♪」
 超ステキな笑顔で答える黒百合。
「またかい! あんた、敵に捕まって死にかけたとかあるでしょ!」
「あんなの大したことないわよォ……。それより、あの糞眼鏡ェ……超がつく貴重品をパンツにしやがってェ……どうしてくれようかしらァ……。あァ、思い出したらまたムカついてきたわァ……。石打ちィ……火刑ェ……串刺しィ……どれがいいかしらァ……。痛覚を麻痺させてェ……全身を解体して蟲に内臓を喰わせるなんてのも素敵よねェ……♪ あなたは、どんな方法が好みィ……?」
 牙を剥き出して、凶悪な笑みを浮かべる黒百合。
 やばい、科学室の先生の命がマッハでヤバイ!
「まァいいわァ……ちょっと科学室に行って糞眼鏡のツラを拝んでからァ、どんなやりかたがいいか考えるわねェ……。あ、ちなみにさっきのは冗談だからァ……本気にしないでねェ……? じゃ、またねェ♪」


「どう見ても本気でしょ、あれ」
 立ち去る黒百合の背中を見つめながら、亜矢は肩を震わせた。
「みんな感謝がたりねぇよな。あの教師がいなけりゃ強化できねぇのに」
「いなくなったら、次の担当が来るだけでしょ」
「まぁ……黒百合が無茶しないといいな……」


 そんなわけで癒しがほしくなった二人は、矢野胡桃(ja2617)を訪ねた。
「撃退士になって一番ショックだったこと? それは、たったひとつです」
「なになに? お父さんが変態だったこと? それとも右腕が変態だったこと? それとも、手作り料理が大量殺戮兵器だったこと? まさか突然変異じゃないよね!? それはもういいからね!?」
 物凄い勢いで、亜矢が釘を刺した。
 ちょっと引きつつ、胡桃は答える。
「ちがいますよ……。ショックなのは、彼氏のことです」
「なに? 浮気?」
「いえ、せっかく出来た彼氏なんですけど……大規模作戦の直前だと大規模の話。依頼出発前だと依頼の話という具合でですね……。甘い会話の一つもできないんです! まだ私たち15にもなってないのに! まるで、枯れた老夫婦! 縁側でお茶をしばく老夫婦!」
 泣きそうな顔で、胡桃は声を上げた。
「……ただのノロケ話?」
「そうです! ただのノロケ話! ただの愚痴です! でも私はもっとこう……かわいい恋愛してみたいんです! 青春したいんです!」
「それ、記事にしていいの?」
「かまいません! 私はもっとイチャイチャしたいんです!」
 ひらきなおる胡桃。
 しかし、ただのノロケ話をどうやって記事に……。


「まぁあれよね。ぜんぶ男が悪いのよ」
 などと、勝手に決めつける亜矢。
「あいつの彼氏って、たしか……」
「タコ焼き中毒のヤツでしょ」
「ああ……」
 卍は弁護の言葉を思いつかなかった。


 次の取材相手は、袋井雅人(jb1469)
 今日は珍しく普通の制服だ。一体どうした?
「私が一番ショックだったのは『こんな自分に恋人が出来たこと』です! 記憶喪失で生きる気力を失っていた私は、彼女と出会って気力を取りもどし、恋愛の素晴らしさに目覚め、ラブコメ推進部まで作ってしまったのですよ!」
 発言内容もマトモだ。マジでどうした!?
 と思いきや、すぐに本性が。
「そして……彼女が好きになって初めて、私はおっぱいに目覚めたのです!」
 グッと拳をにぎりしめて断言する雅人。
 あぁいつもどおりか……と納得する、亜矢と卍と俺。
「最近ショックだったのは、おっぱいディアボロ退治のとき、気合を入れておっぱいを揉みにいったら誰のおっぱいも揉めなかったことです! あれは大ショックでした! もし次があったら、今度は理性をかなぐり捨てて揉みに行きますよ! 次のおっぱい依頼はいつですか! なんなら、亜矢さんのおっぱいでもいいんですよ!?」
「近寄るな、変態!」
「アバーッ!」
 亜矢の釘バットが薙ぎ払われて、雅人は廊下の窓をブチ破りながら落ちていった。


「ったく! これだから男は!」
「あれは、ああいう生物なんだよ。女にだっているだろ、ああいう種族が」
「なんで恋音は、あんなのと付き合ってんの!?」
「そう言うな。雅人にも、いいところはある」
「たとえば?」
「ええと……ひからびた寿司を食ったりとか……? よし次いこう」
 卍は諦めが早かった。


 次はマトモな人にしようと、亜矢は雫(ja1894)をつかまえた。
「おふたりに会うと、私の冷静さが削られていく気がするのですが……」
「大丈夫、今回は取材だから」
「そうですか。ではまぁ……最近ショックだったのは、身体能力ですね。先日の身体能力検査で、クラスの男子全員より高い数値を出してしまったのがショックで……。体の柔軟性で勝つのならまだしも、筋力でも勝ってしまったのは女子として思うところが……」
「まぁあんたのレベルじゃねぇ」
「雌ゴリラと陰口を叩く男子がいたのですが……すこしお話をしたら理解してくれました」
「お話、ね……」
「ええ、OHANASHIですよ。肉体言語の……」
 無表情で淡々と告げる雫。
 陰口男子の生死が危ぶまれる。
「もしも新聞に掲載する場合、匿名希望でおねがいします。わかってくれると思いますが、もし約束が破られたら……」
「わかってるって! 太平洋の藻屑になりたくないし!」
「くれぐれも、おねがいしますよ……?」


「ホント、男って最低ね。女子に向かって『雌ゴリラ』なんて」
「ああ。ゴリラなんてかわいいもんだ」
「殴られても知らないわよ、あんた」
「実際ゴリラと戦ったら3秒で勝つだろ、あいつ」
「いや10秒ぐらいは……」
 そんな会話をしつつ、亜矢と卍は次の獲物をさがすのだった。


「ねぇ、そこのイケメン君。取材いい?」
 亜矢が話しかけたのは、カミーユ・バルト(jb9931)
 尊大な空気をまとった、貴族風の男だ。
「取材? かまわないとも。そこに掛けたまえ」
 言われるまま、亜矢と卍はホールのソファに腰を下ろした。
 亜矢の説明を聞いて、カミーユは語りだす。
「撃退士になってショックだったこと……。そうだね……これは嬉しいショックなんだけれど。頭の良い女性が多い、ということかな? 僕の撃退士としての経験はまだ浅いけれど……女性がこんなに活発に、しかも利発に動くものだとは思わなかった。一般人だったとき僕の周りにいた女性たちとは大違いだ。僕は久遠ヶ原に来て、新たな女性の魅力を知ったよ。これは、僕独自の帝王学にも応用させてもらう。じつに面白い」
「へぇ、いいこと言うじゃない」
「見たところ、亜矢君もそんな魅力の持ち主のようだね。活発で利発……すてきな女性だ」
「そ、そんな優しい言葉ひさしぶり……。この学園の連中は、みんなあたしにひどいのよ」
「それは照れ隠しで言ってるんじゃないかな? ほら、きみは素敵すぎるから」
 歯の浮くセリフを平然と口にするカミーユ。
「あなた、いい人ね! あたしと友達にならない? いえ、なるべきよ!」
「いいとも。亜矢君を僕の友人にしてあげよう」
 カミーユは、上から目線で応えるのだった。


「なに、あの人! メアド交換しちゃった!」
 亜矢はすっかり浮かれていた。
「見たところ新入生だな」と、卍。
「じゃあ、戦いかたを手取り足取り……」
「雅人と同じレベルに堕してるぞ、おまえ」
「あんな変態と一緒にしないで!」
「まぁどうでもいいが……。お、回避野郎がいる。話聞こうぜ」


「撃退士になって一番ショックだったこと……ですか」
 エイルズレトラ マステリオ(ja2224)は、すこし考えて語りだした。
「そうですね、僕はもともと忍者になろうと思って日本に来たんですが、現代の日本に忍者は存在しないと知って、それがショックでしたね。伊賀や甲賀など忍者ゆかりの地も探しましたが、資料館なんかはあっても本物の忍者はいませんでした」
「わかる! あたしも子供のころ忍者に憧れてたし!」
 亜矢が大声で賛同した。
「ともかく僕は鬼道忍軍の道を選びましたが、これって絶対忍者とは違いますよねえ? ……っていうか、忍軍が夜目きかないとか、ひどくないですか? 忍者って闇夜に忍ぶものなのに、夜目が利かなかったら忍ぶだけで一歩も出歩けませんよ。転職して『夜目』か『夜の番人』あたりを引っ張ってこようとしたら、どちらもジョブ専用ですし。それと、ニンジャヒーローって正直どうなんでしょう。『忍ぶことを捨てて』って……それもう、忍者であることを捨ててますよね。まぁ囮役としては役立つ技ですけれど……ときどき、忍者として疑問に思います。それから……(以下2万字略)」
 エイルズの忍者談義は、延々つづいた。


「はぁ……相当な忍者マニアね、あいつ」
 疲れた顔で、亜矢が言った。
「でも陰陽師になってたぜ?」
「はァ!? 裏切り者じゃない! 抜け忍は許されないわよ! 抹殺よ、抹殺!」
「黒百合も抜け忍になってたぞ。あれも抹殺するのか?」
「そ、それは……!」


「うるさいわねぇ。なに騒いでるのよ」
 近寄ってきたのは、月丘結希(jb1914)
「あ、取材させて。新聞部の記事でさぁ……」
 亜矢が説明した。
「一番ショックだったこと? そんなこと聞いてくるなんて、あんたららしくないじゃない。フツーすぎる」
「しょうがないでしょ。後輩にたのまれたのよ」
「ふぅん。……まぁそうね、プライベートなことは話したくないわね。このまえボツ食らった論文の概要でも聞く?」
「論文?」
「そう。ここの生徒を見る限り、アウル覚醒には『美麗な容姿』と『読みかたがわからない名前』『高い変態性』が重要な要素になってるわ、そうよね?」
「たしかに」
「あとは、異様に高い男の娘率もそうかしら。とにかく、アウル覚醒者は『普通』とかけはなれた人間が多いのよ。だからアウルの検査基準を見直して、そういう資質を持つ者を優先的に検査しろって書いたんだけどね。結局、因果関係が認められないとか言われたのよ。ありえなくない?」
「因果関係は、実際あるわね」
「でしょう? なのに、学会の連中ときたら……(以下5万字略)」
 結希の愚痴と批判は、いつまでも続いた。


「あのバカ、どれだけしゃべるつもりよ……」
 さらに疲れた顔で、亜矢は廊下を歩いていた。
「カレー談義のときからわかってたろ、ああいうヤツだって」
「甘く見てた……」


「そこのふたり! 取材をしているそうだな。私の話を聞くと良い!」
 ずんずんと、廊下の先からパンダがやってきた。
 言うまでもなく、下妻笹緒(ja0544)だ。
「一応聞くけど……」
 イヤな予感を受けつつ、亜矢は応じた。笹緒の論説といえば、クソ長いことで有名だ。
 案の定、彼のトークはこう始まった。
「ではいまから、撃退士になってショックだったことベスト100を答える!」
「「げええ〜〜!」」
「第100位! 最初は『パンダだ!パンダだ!』とちやほやされていたのに……いつのまにか『あーパンダねハイハイ』的な扱いをされるようになったこと! まぁ由々しき事態ではあるが、人は経験し、いかな状況にも慣れる生きもの。これもまた仕方のない事象であろうと考慮し、この順位となる」
「それ、ダイジェストにならない?」
「第99位! それは『撃退士になって一番ショックだったこと』などという心揺さぶるテーマを新聞記事にしようとする優秀な新入生が、なぜ我がエクストリーム新聞部ではなく……名もなき新聞部の一員となってしまったのかということ! これはじつに妬ましくも、嬉しくもあるニュースと言えよう! 久遠ヶ原の未来は明るい!」
「これ、かるく一時間コース……?」
「第98位! 昨日ためしに買ったコロッケパンが(以下10万字略)」
 笹緒のワンマントークショーは、いつ終わるとも知れなかった。


「なんなの、あいつ……。あんな活動的なパンダいるかっての……。九官鳥にでもなればよかったのに……」
 二時間のトークショーを満喫させられた亜矢は、すっかり疲労困憊だった。
「まて。九官鳥になったら、もっとひどい」
「ああもう。マトモなのはカミーユだけじゃない……」


 などと言ってるそばから、変態の首魁が登場した。
 佐渡乃明日羽と、月乃宮恋音(jb1221)だ。
「新聞の取材だって?」
 と、明日羽。
「あんたには聞かないから!」
「でも恋音ちゃんが答えたいってよ? ねぇ?」
 その問いかけに、恋音は顔を紅潮させてうなずいた。
 なぜかスクール水着姿だ。
「なんなの、その格好!」
 亜矢がツッコんだ。
「そのぉ……もうじき夏なのでぇ……」
「理由になってない!」
 そこへ卍が、「いいからさっさと終わらせろ」と口を出した。
「では……撃退士になって一番ショックだったこと、ですねぇ……? うぅん……ひとつに絞るのは難しいですねぇ……。たとえば、事務員として学園に来たはずが『能力適性が高い』という理由で現場に回されてしまったこととか……覚醒してからというもの、胸の発育が異常に加速してしまったことなど……」
「ロクなもんじゃないわね」
 亜矢が溜め息をついた。
「良いこともありましたよぉ……。袋井先輩と出会って恋人になれたことや……すばらしい報告官と出会えたことなどぉ……」
「どっちも、ただの変態よ」
「ともあれ……良くも悪くも、撃退士は一般人より衝撃的な事態に遭遇しやすいので、取材がんばってください……」
 頭を下げる恋音。
 そのとたん、水着の胸部分がパツンと弾け飛んだ。
「まぁ……こんな具合に……」
「じゃあ恋音ちゃん、このまま遊びに行こうね?」
 そう言うと、明日羽は恋音を連れ去るのだった。


「ああもう! 変態ばっかり!」
 亜矢は怒りで元気を取りもどしていた。
「待て。あそこにマトモなヤツがいる。鬼畜だが、変態ではないはずだ」
「あれは、コロッケパンを人質にした男……。いいわよ。聞こうじゃない」


「撃退士になって一番ショックだったこと……ね」
 呼び止められて、月詠神削(ja5265)は足を止めた。
「おまえなら色々ありそうだ」
 卍が煽った。
「たしかに色々あるが……一番は、そうだな……小学生の女の子を、この手で殺したことだよ」
「そいつぁハードだな。くわしく話せ」
「話せば長くなる。簡単に言えば、俺たちはあるヴァニタスに囚われた少女を助けに行ったんだ。……で、ヴァニタスの策にはまった俺は、敵の幻影をかぶせられていた女の子を、そうと気付かないまま封砲で撃った。……当然、即死だ」
「胸くそ悪い天魔だな」
「あの日、俺はあいつを討つと誓った。……べつに、仇討ちなんて上等なものじゃない。償いにだって、なりはしない。それでも、俺はあいつを追い続けた。追い続けて、いまだ誓いを果たせずにいる……。あれからもう、二年が過ぎた。当時のことを覚えている者は、もう多くない。俺がやるしかないんだ」
「おまえはもっと冷淡なヤツだと思ってたぜ」
「……ま、もしこれを新聞に載せるなら、ついでに書いといてくれ。俺みたいにはならないよう、気をつけろってな」
 クールに締めると、神削は皮肉な笑みを残して去っていった。


「なに、いまの! シリアスすぎるんだけど!? さっきまで、スク水ぱっつんとか言ってたのに!」
 動揺する亜矢。
「ここには色んな連中がいるってこった」
「うーん。シリアスもいいかも。影のある女って魅力的じゃない?」
「おまえがシリアスになれるのは、死ぬときだけだ」
「ぐぬぬ……!」
「つーか、もう暗くなってきたじゃねーか。よけいなことしてねぇで、どんどん進めるぞ」



「突撃取材……か、一体なにかと思えば。今日は用事もないし、とくに問題はないが……」
 応じたのは、天風静流(ja0373)
「なにかない? ショックだったこと」
「ショックなできごとか。そういう事件に巡りあうこと自体、そうそうないと思うが……。ああ、そういえば以前、自身を普通と称したら知り合いから『ダウト』とか『えっ……?』と言われたのがね……。撃退士になった時点で、世間的には普通ではないのかもしれんが、撃退士としてはそこまで特別なことをした覚えもないし……。私自身、とくに有名人というわけでもなし、なぜなのかと疑問に思うところはあるな」
「久遠ヶ原には自覚のない変人が多いのよ……」
「なるほど……。まわりとの認識が乖離しているだけかもしれんが、色々と難しいものだな……。この学園内を見てまわれば、いろいろな意味で突き抜けている人など山のようにいるのだがね……」
「まさにそういう連中を相手にしてきたばかりよ……」
「ま、私からは以上だ。取材の続きを頑張るといい」



「自分にインタビューだと……!?」
 雪之丞(jb9178)は、驚いて振り返った。
「そう! ショックだったこと、なにかない!?」
「突然そう言われてもな……こういうのは慣れてないんだ……」
「緊張してるの? イケメン兄さん」
「いや、自分は……まぁいいか……」
 亜矢が間違えるのも無理ないが、雪之丞は男装の麗人だった。イイネ!
 ともあれ、慣れない様子で雪之丞は淡々と応える。
「うーん……なんというか、目的や信念もないやつが多いことに衝撃を受けたな。なんとなくで戦えるというのが、自分にはわからん。闘争とは、明確な理由や目的を持って行うものだと思うのだが……」
「まー、戦い自体が目的って人もいるし」
「そうか……。自分は悪魔の血を引いているので、難しく考えすぎるのかもしれん」
「大丈夫! この学園にいれば、すぐにキャラが崩れるから!」
「それは、大丈夫なのか……? まぁ、つまらない答えで悪いな。おつかれさま」



「撃退士になって一番ショックだったこと、ねぇ……」
 と言って、東雲凪(jb9404)は腕組みした。
「なにかない? なければ次いくよ!」
 亜矢が急かした。
 凪は思いついたように話しだす。
「あー……あれかな」
「あれってどれ!」
「そう急かさないで。……ほら、入学すれば武器とか防具とか、学園からの支給である程度は整うものだと思ってたんだけどさ。実際に渡されたのはクロスボウ一丁だよ? それ以上の装備がほしければ自腹を切れってさぁ……。しかも、ほしかった狙撃銃ときたら、たっかいのなんの。あれ、ぼったくりじゃない?」
「あー、スナライは高いよね。あたし、空蝉のコストで消したことあるけど」
「それは、どういう……セレブか?」
「あたしの話をしてもしょうがないでしょ」
「そうだな……。とにかく、ショックだったのは撃退士の生活が厳しいってことだね。天魔を倒す武器を手に入れるために、依頼を受けて天魔を倒すなんて……世の中の矛盾と不条理を垣間見たよ」
「つまり、学園長はケチと」
「そうは言わないけど……いや、言ったことになるのかな……」
 はっきりと言っていた。



「変わった取材だな……。ショックというより、あきれたことならあるが……」
 天宮佳槻(jb1989)は、冷めた口調で取材に応じた。
「あきれたことって?」
「あれだ。周囲に手間をかけさせてアイドル気取りになってる者についてだな。記事にするにはいろいろ差し障りがありそうだが」
「そ、それは差し障りありまくりよね」
 亜矢は慌てた。
 が、佳槻は気にせず続ける。
「たとえば、ちょっとしたミスや不注意で他人に手間をかけさせた……までは仕方ないとする。でもそうなったら、しっかり反省するか、手間をかけさせた人間に詫びるかするもんだろう? ああいうタイプには困ったものだ」
「そ、そうね。ゴメン。これは記事にできないと思う……」



「ショックだったこと、ですか……。撃退士が、あたりまえのように天魔と共闘していること、ですね」
 ジーナ・フェライア(jb8532)は、不慣れな日本語で応えた。
 亜矢は「あー、そうかもねぇ」と相槌を打つ。
「人界に下った天魔が、久遠ヶ原の学生には違いなくとも……ああ、いえ。善い悪いではなく、ただ驚いたというだけです。そういう意味では、ここの学園長が一番の驚きの対象ですけれど。久遠ヶ原に身を寄せる天魔は日を追って増えているようですし、自らの立ち位置をよくよく考えてみる必要があるのかもしれません。……このような回答でよろしいでしょうか?」
 ていねいに答えて、ジーナは愛想良く微笑んだ。
「OKOK。十分よ」
「そうですか。では、私はこれで……」
 内心、どうせならもっとプラス思考になれることを聞けばいいのにと考えつつ、ジーナは立ち去ろうとした。
 そのとき。彼女の眼前を、巨大な鳩が!
「ヒッ……!?」
 あまりの衝撃に、気を失って倒れるジーナ。
「ちょ……! ヒールできる人いないー!?」


「……む? なんだ、おまえたちは」
 ロンベルク公爵(jb9453)は、腕(翼)をひるがえして問いかけた。
「は、鳩……!?」
 かなりの動物PCを見慣れている亜矢も、鳩は初めてだった。
「なにを言っている? 私は鳩ではない! 見てのとおり、誇り高き吸血種だ!(ふんす)」
 ドヤ顔で言い放つ公爵。
 どこから見ても鳩である。
「うん、時間ないからスルーして説明するけど……」
 亜矢が取材の目的を説明した。
「ふむ、ショックだったことか……。話してやらんこともないが、まず豆をよこせ! 話はそれからだ! くりかえすが、私は鳩ではない! 血を啜るぞ!」
「チョ■ボールでいい?」
「ほほう! 豆をチョコで包むとは! 人類め、うれしい不意討ちを!」
 翼をバッサバッサさせて喜ぶ公爵。
 ふわふわの羽毛が、盛大に舞い散る。
「では答えよう。……そうだな、やはり『豆』だろう。ここに来てからというもの、私は大勢の人からさまざまな豆をもらった。学園の外では、なにかというと金を要求されるが、ここではその必要がない! 人界に来て多くの豆を食したが、私はひよこ豆が気に入ったぞ! あの硬さが素晴らしいのだ……!」
 しみじみだらだらと、豆を語る公爵であった。



「わたくしのショックだったこと……これは大きいのがありますわ」
 体を震わせながら、長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)は語りだした。
「おお、期待しちゃうよ?」
 亜矢がハードルを上げる。
「わたくし……一度、あの、いわゆる……Gと戦うことになったのです……。でもわたくし、いままでGを見たことがなかったのですわ……。それで何も知らず依頼に出たら、Gを素手で殴ることになって……顔に飛びかかられた時はもう……」
 どんどん声が小さくなっていくみずほ。
 あまりのしょうもなさに、亜矢はガッカリだ。
 しかし、隣にいた緋流美咲(jb8394)は無駄に盛り上がる。
「Gにも拳一本を貫き通す、その心意気……さすがです! ぜひ、その拳を私にも……ハァハァ……」
 尊敬と興奮の眼差しを向ける美咲。
「そういや、こいつも変態か……」
 亜矢が溜め息をついた。
「一応訊くけど、あんたにはないの? ショックだった話」
「あります! 私、剣術を習ってるんですけど、稽古のとき相手の竹刀が当たるたびに、なんだかドキドキして快感になってたんです……。その快感が、いつくるのか、どこにくるのか……じらされて……はぁぅ……♪」
「どこがショックなのよ!」
「わかりませんか! 訓練で私自身が強化されたせいで、最近は敵の攻撃が当たりにくく! 感じにくい! それがショックなのです! これはもう、Mの悲劇! ……ああ、でも、この精神的ショックもまた……ゾクゾクしますぅ……♪」
「本当に変態ね。救いようがないわ」
「そ、そんな……もっと罵ってくださいぃ……」
 ハァハァと息を荒げる美咲。
 亜矢はもう、相手をする気力もない。
「敵の攻撃が当たらなくなったのは、美咲さんが鍛えられたのだから当然ですわ。ひとつアドバイスするなら、斬られたことを想像して常に緊張感を持ちながら訓練するのはいかがかしら?」
 みずほが真面目に助言した。
「斬られたところを想像……じわじわと皮膚が切り裂かれて……血が、血がぁぁ……いた気持ちいい……♪」
 妄想の世界に没入する美咲。
 もうダメだ、この人。
 だが、そこに一匹のGがカサコソっと。
「ひいいっ! いやーっ! こないでー!」
 錯乱して、Gではなく美咲をブン殴るみずほ。
「はぅあああっ♪」
 最高の笑顔で吹っ飛ぶ美咲。
「よし逃げよう」
 亜矢と卍は、被害を受ける前に脱出した。



「ショックだったのは、変身できないことだ」
 川内日菜子(jb7813)は、迷いなく断言した。
「ヒーローを志したり、ヒーローを名乗る撃退士は少なくない。私もその一人でいるつもりだ。皆、光纏やスキルで変身したり、コスチュームを持っていたりするだろう。どうにか自分にもできないかと研究に研究を重ねたのだ。寝る間も惜しんで鍛錬したこともある。……だが、やはり私にはできなかった。無念だ」
「敵に待っててもらってコスチュームに着替えたら?」
 無茶なことを言う亜矢。
「着替えてる間に殺されそうだな……。それに、私はコスチュームで依頼を請けたこともある。だが、あれは動きづらいのだ。いいものを使えば、お金だってかかる。そんな高いものを着て戦闘なんてできないだろう。……はぁ、変身したい」
 がっくりと肩を落とす日菜子。

 そこへ、ラファル A ユーティライネン(jb4620)が乱入してきた。
「落ち込んでる場合じゃねー! ヒーローはヒーローらしくしろ!」
「ラル……」
「それにな、どうしても変身したいってーなら、全身を機械化する手もあるぜ? ロボット大好きだろ?」
「全身は無理だろうに」
「いいや、可能だぜ? 俺の体の8割が機械なのは履歴書で公言してるが、じつは10割機械なんだぜ」
「「な、なんだってーー!?」」
 日菜子も亜矢も卍も、ついでに野次馬たちも声をそろえた。
「驚いたみてーだな。見ろ、俺の姿を!」
 ラファルが偽装解除すると、人工皮膚の下から金属の外装が現れた。光纏と同時に、全身機械の戦闘用ロボが降臨。
「いつものラルじゃないか」
 日菜子が言うと、ラファルは「ちっちっ」と指を振った。
「こいつを見ろ」
 ラファルが胸の外装を開くと、内部は機械だらけだった。心臓のあるべき場所には、星形のアウルリアクター。さらにウィッグをはずして側頭部のスイッチを押すと、頭蓋がカパッと開き、中にあるのは極小ICチップ一枚だけ(注:実際には頭部模型を使用)
「「おおーー!」」
 みんなが驚いたところで、ラファルはいつもの仕事を思い出した。
「さて、おまえら。秘密を知ったからには生かしておけねーな。全砲門一斉発射!」

 ちゅどおおおおん!
「「アバーーッ!」」


 勝手に秘密を暴露して勝手に口を封じるとは、さすがラファル!
 ともあれ、いつもどおりの爆発オチで今回も一件落着!




依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 釣りキチ・月詠 神削(ja5265)
 真ぽっぽ砲・ロンベルク公爵(jb9453)
重体: −
面白かった!:14人

天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
撃退士・
天風 静流(ja0373)

卒業 女 阿修羅
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
ヴェズルフェルニルの姫君・
矢野 胡桃(ja2617)

卒業 女 ダアト
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
釣りキチ・
月詠 神削(ja5265)

大学部4年55組 男 ルインズブレイド
撃退士・
金咲みかげ(ja7940)

大学部5年325組 男 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
こんな事もあろうかと・
月丘 結希(jb1914)

高等部3年10組 女 陰陽師
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
誓いを胸に・
ナナシ(jb3008)

卒業 女 鬼道忍軍
勇気を示す背中・
長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)

大学部4年7組 女 阿修羅
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
烈火の拳を振るう・
川内 日菜子(jb7813)

大学部2年2組 女 阿修羅
誠心誠意・
緋流 美咲(jb8394)

大学部2年68組 女 ルインズブレイド
撃退士・
ジーナ・フェライア(jb8532)

高等部3年32組 女 陰陽師
秘名は仮面と明月の下で・
雪之丞(jb9178)

大学部4年247組 女 阿修羅
能力者・
東雲 凪(jb9404)

高等部2年19組 女 インフィルトレイター
真ぽっぽ砲・
ロンベルク公爵(jb9453)

大学部5年90組 男 ナイトウォーカー
恐ろしい子ッ!・
ハル(jb9524)

大学部3年88組 男 アストラルヴァンガード
孤高の薔薇の帝王・
カミーユ・バルト(jb9931)

大学部3年63組 男 アストラルヴァンガード