●状況1:でかいウニが転がってきた
「海鮮物は、まだ早い!」
ほろ酔いからさめた平田平太(
jb9232)は激怒した。必ず、かの邪智暴虐のウニを除かねばならぬと決意した。
「この場所をとっていたのは私たちです! 人の花見を邪魔しないでいただきたい!」
光纏して、アウルをまきちらす平太。
『怒ることはほとんどない』というわりに、ずいぶんな怒りようである。
だが、花見を邪魔されたのなら仕方ない。この怒りは当然だ。なんせ平太は、今日の花見のために2週間前から場所取りをしていたほどの花見好き。邪魔者は許さん!
「うおおぉぉ! こっちへ来い! かかってこいよおおぉ! 私を倒してから先に行けぇぇぇ! 仲間は殺らせんぞぉぉぉ!!」
無駄に熱い口ぶりで、あおりまくる平太。
まるで、どこかの元テニス選手みたいだ。
ともあれ、平太は弓矢をかまえた。
これで、ウニの口を射貫き……射貫け……
「く、口が見当たらない……っ!?」
まぁ、時速60kmで転がってるし……。
「ならば、体を張ってでも止める! 止めてみせる! いくぞぉぉぉお!」
真正面から突撃して、盾で殴りに行く平太。
……結果はお察しください。
「花見を邪魔するとは、不埒なディアボロめ! このドロシーが成敗してくれますわ!」
ドロシー・ブルー・ジャスティス(
jb7892)も激怒した。必ず、かの邪智暴虐のウニを(略
なんせ彼女は、タダ飯に釣られて花見に興じていたのだ。平太と違って非常に個人的な怒りだが、この怒りも当然だ。世の中に、タダ飯ほどうまいものはないからな! 邪魔されれば激おこになるのも無理はない!
「黒! トゲ! 見た目悪! よって成敗! いきますわよ!」
外見だけでウニを憎悪するドロシー。
彼女は大剣を抜き放つと、アウルをまとって突撃した。
策? 戦術? そんなものはない! 我こそ正義! よって正面から叩きつぶすのみ! そう、正義の勝利は約束され……
ばこーーん!
みごとに吹っ飛ばされて、酒や弁当を巻きこみながら地面を転がるドロシー。
「馬鹿な……! 正義が敗れることなど、ありえませんわ! 今度こそ成敗……!」
全身に米粒をくっつけながら、こりずに突撃するドロシーちゃん(11)
策などない! なぜなら正義は正義だから! そう、正義こそジャスティス!
すぱこーーん!
ああ……『正面から戦うと勝ち目ゼロ』って言ったのに!
だからこそ正面突撃したんだって返されそうだけど!
「良いところに肴が来ましたね」
雫(
ja1894)は、ベロベロに酔っぱらいながら立ち上がった。
ころがってくる敵を焼きウニにして酒の肴にしようと考えているのだが、それ盛大にNG! NGです! ディアボロを食べてはいけません!
「さぁ行きますよ」
右手に火炎放射器、左手に亜矢を装備する雫。
この盾さえあれば、防御の心配はない!
「これでもう、紙装甲なんて言わせませんよ」
「ちょ……あたし戦闘不能! 戦闘不能だから!」
亜矢が血まみれで抗議した。
だが、最近フリーダム思考に磨きがかかってきた雫にとって、抗議は想定内だ。
「大丈夫、あなたならできます……それに、人って簡単には壊れませんから」
「壊れる! 壊れちゃうよぉぉ!」
聞きようによっては、微妙にエロい。
「集中できないので、口を閉じてください。さぁ戦闘開始です……!」
たいへん穏便かつ平和的な話しあいによって、雫は亜矢を黙らせた。
そして、「死ぬ死ぬ死ぬ……!」とか叫ぶ亜矢を盾にしたまま、ウニに向かってダッシュ。
どかーーん!
まぁ、こんな化け物を忍者で止められるはずなかった。
よし、次!
「ふ……」
秒殺された仲間たちを、生暖かい目で見つめるパンダがいた。
下妻笹緒(
ja0544)である。
彼は団子をかじりながら、こんなことを言いだした。
「花より団子とは、よく言ったものだが……そう、やはり団子なのだ。花より弁当でも、花より焼肉でもなく、あくまで団子。ちょっとつまむ程度の菓子、甘味、デザート。本来、花見席で楽しむには、その程度の軽い食事がベストなのだろう……。そう考えるとウニ、カニ、イカでは、少々腹に重い。……否、だれかが勝手にウニ型と言っているだけで、あれは栗なのではないか? カニやイカは焼けばそのままおいしいが、ウニ単品で出されても少し困るところも怪しい」
めずらしくマトモなことを言ってるなと思えば、数秒後には謎の理論が展開されている笹緒マジック。
そして、彼は結論を導き出した。
「そう考えれば、すべて辻褄が合う。自然な甘さで、ほっくほく。団子に匹敵する花見菓子! 焼き栗! ならば、あのトゲも毒がありそうに見えるが、じつは毒などないのだ。だって栗だから。大丈夫。私は自信を持って、正々堂々と、正面から剥きにいく……っ!」
超越的な確信を胸に、数珠をひっさげて走りだす笹緒。
いや待て、そこはエア突撃だろ! 実際に突撃してどうするエアァァ!
ばこーーん!
そんな騒ぎの中、聖蘭寺壱縷(
jb8938)は木陰で熟睡していた。
撃退酒を飲み、おいしい料理を食べ、満開の桜を満喫してスヤスヤ眠る彼女は、とても幸せそうだ。そもそも花見をたのしむために参加した壱縷は、まさか天魔が襲来するなどと思わず、油断しきっていた。
眠れる森の少女に、巨大なウニが迫る!
砂煙を巻きあげ、轟音を立てて爆走するウニ!
「むむぅ……さわがしいですねぇ……まだ眠いのですよー……」
すにゃすにゃ言いながら、目をこする壱縷。
見れば、いままさにウニが突っ込んでくるところだ。轢かれる前に目がさめてよかった。まぁ結果は変わらんが。
「僕の睡眠の邪魔とは……穏やかじゃない、のですよ……?」
とりあえず光纏して胡蝶扇を手に取ると、壱縷は身構えた。
そのまま、無言で戦闘開始!
あざやかな手つきで投擲される扇!
ぱしーーんと弾き返される扇!
逃げるヒマもなく吹っ飛ばされる壱縷!
ばこーーん!
うん。寝起きとはいえ、ひどすぎた。
次の人おねがいします!
「ウニといえば、焼きウニ!」
狩人のようにカッと目を輝かせたのは、嶌谷ルミ(
jb1565)
彼女はこの惨劇を見てもなお、花見する気満々だった。
「だって、おなかへっとるし。撃退士の数は十分やし……」
たしかに数は十分だったが、正面突撃する人が多すぎた。
そこへ声をかけてきたのは、ジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)
「やぁ、お嬢さん。ボクと一緒に稲荷寿司しない?」
いちどネタを振ると、何度も使われます。
「稲荷寿司? ええなあ……じゃなくて、いいですねえ」
「よし、決まりだ。花を愛でながら、お稲荷さんを……」
そんなナンパの最中に、ウニが転がってきた。
「ナンパの邪魔は、許さん……!」
いつになく真剣な顔で光纏するジェラルド。
「じゃあ、終わってからやね……ですね」
田舎者と思われたくないルミは、ふだんの口調を隠すのに必死だった。
あまり隠せてないが、そのほうがかわいいとも言える。
では、戦闘開始!
「不埒な輩に、慈悲はない……!」
ワイヤーをのばして拘束を試みるジェラルド。
プツン。
ちょっと無理だった。
「範囲攻撃いきますよ! 気をつけて!」
こんがり醤油味の焼きウニにしたるわと思いながら、ルミは炎陣球を発動した。
しかし、高速回転するトゲが火弾を撥ね返してしまう。
「むう……あれは、ウニの中でもとりわけ凶暴なガンガゼ型……!」
ジェラルドが得意顔で語りだした。
「知ってるんですか、ジェラルドさん!」
「以前、報告書で見かけたことがある。名前の由来は、発見者であるGun Gazzetから取られており、その生態は……
ずどばごーーん!
「ミギャーー!?」
「きゃあああ!?」
ストライクされて、派手に吹っ飛ぶ二人。
戦闘中に雷電してるから……。
「本日は完全休業状態ィ……。悪いけど、手のあいてる人たちで処理してねェ……」
いつも鬼のような暴れぶりを見せる黒百合(
ja0422)だが、今日はおとなしかった。
重体だし、せっかくの花見だし、戦闘意欲皆無!
敵の攻撃が届かない樹上に陣取って、日本酒と団子で花見を満喫!
う、嘘だ……こんなの黒百合じゃない……! まさかニセモノ!? 本物はどこかに監禁されてるとか!?
「ほら、そこォ……がんばりなさいよォ……。そんなウニみたいなの、たいしたことないでしょォ……?」
声援とも罵倒ともつかない声をかける黒百合。
どうやら本物だ。
だが、そのとき。突っ込んできたウニが、黒百合の座っている木をヘシ折った。
「あらァ……?」
やむなく地上に着地する黒百合。
そこへ、Uターンしてきたウニが迫る!
「いいところに、盾が落ちてたわァ……♪」
黒百合が拾ったのは亜矢だった。
「いや、もう無理! 無理!」
「なに言ってるのォ……? 弱きを守るのも撃退士の役目でしょォ? 重体で弱ってる私を守りなさいよォ……♪」
亜矢を無理やり盾にして、黒百合はウニに立ち向かった。
ばこーーん!
「アバーッ!」
トリプル重体になって吹っ飛ぶ亜矢。
黒百合は余裕で空蝉!
盾の意味なし!
「ごめんねェ……? でもちょっと楽しかったわァ……」
そう言うと、黒百合は再び高みの見物に戻るのだった。
「今日はみんな運がいいぜー。ラファルズリサイタルの初日だからなー」
高らかに笑うのは、ラファル A ユーティライネン(
jb4620)
おそらく『みんな運が悪いぜー』の間違いだが、こう見えてラファルはアイドル。ファンだっている! 非常にコアなファンが!
だが、今日のラファルは撃退酒でベロンベロンだった。シラフでもヤバイってのに。
「さぁ、もっと飲め! 花見だ! 宴会だ!」
謎のテンションで、長谷川アレクサンドラみずほ(
jb4139)の肩をバンバンぶったたくラファル。
「もうすこし静かに飲みませんか? 今日はお花見。きれいな桜を見て、おだやかな心で紅茶をたのしむ……そういう時間が大切ですわ」
優雅な口ぶりで言うと、みずほは紅茶を一口。
たいへんエレガントな空気だが、あちこちから悲鳴や破壊音が聞こえてくる。
「まったく、騒々しいですわね。くりかえしますが、おだやかな時間が大切なのですわよ。みなさん、もうすこしお静かに! お静かになさい!」
無論、静かになるはずもなかった。
というより、すぐ隣のラファルが最大級にうるさい。
「いくぜ、一発芸! 瞬間キャストオフ!」
ずばーんと脱衣するラファル。
しっかり『俺式光学迷彩』で潜行してるから見えないよ! やった、蔵倫は守られた!
……って、いやいや! 潜行って完全な透明になるわけじゃないからね!? 知っててやってると思うけど! ちゃんと見えてるからね!? あなた全裸ですからね!?
「しっかし、あいつら良くやるよなぁ。見ろよ、また一人吹っ飛ばされた。ははははは、人がゴミのようだぜ!」
げらげら笑いながら、撃退酒を飲むラファル。
邪魔が入らないよう、みずほにも潜行をかけてある。ラファルの策に抜かりなし。
「こんなに騒々しい花見、初めてですわ……」
ティーカップを持つみずほの手は、怒りで震えていた。
●状況2:でかいカニがビームしてる
「蟹コーセン……だ、とっ!?」
その言葉に触れたとき、佐藤としお(
ja2489)は愕然とした。
どれだけ愕然としたかというと、ショックのあまりオツマミのカニカマに話しかけてしまうほどだ。それ単に酔っぱらってるだけじゃん? と思うかもしれないが、そのとおりだ!
「そうか、なるほど……おまえは世に蔓延るブラック企業に対してのアンチテーゼだなっ! ……そうだよな、毎日毎日安い賃金で朝から晩まで働かされて、意見しようものなら上司が出てきて『文句があるなら他へ行け!』と、パワハラの嵐! こちとら休日返上で働いてるってのに、ちょっと見かけないと思ったら日焼けしてお土産だ!」
感極まって、涙ぐむとしお。
もしカニカマに意思があれば、「いや別に……」とか答えただろう。
だが、としおの一人芝居は続く。
「わかる、わかるぜ! おまえの気持ち! さあ、俺の胸に飛び込んで思いっきり叫べよ!」
ここにもまた、シューゾー化する男が。
次の瞬間。としおの胸に、熱い光線が飛びこんできた。
ずどぉぉぉん!
空高く吹っ飛ぶとしおは、なぜか満足げだった。
あと、カニを優先的に指名したのは彼だけだった。
というわけで、ウニもカニも元気なままだぞ! どーすんだコレ!
●状況3:Hなイカが暴れてる
OPで亜矢が吹っ飛ばされる、数分前。
エナ(
ja3058)は、のんびりと花見をたのしんでいた。
「ゆっくりお花見する時間も、今までありませんでしたからねぇ……」
激辛麻婆弁当を肴に、激辛トムヤムクンを飲みつつ、普通に花見をするエナ。
彼女の周囲の空間では、異常な値のスコビル値が検出されている。
そこへ、ぬるりと近付いてくる触手。
だが、なぜか触手はエナではなく弁当を狙いに。
「あ……ちょっと、何するんですか……!?」
奪われまいと、弁当を引っ張るエナ。
そして、弁当の奪いあいが始まる。
「それ、みなさんのお昼です! 返さないと、いい焼き加減にしますよ……?」
黒い微笑を浮かべると、エナは容赦なくファイヤーブレイクをぶっぱなした。
じゅわぁーっと、良い焼き加減にされてしまうゲソ。
「良い香りですね……。だれか、毒味とかします……?」
ディアボロは食用ではありませんよ!
だが、触手を一本焼いたぐらいでは大したダメージにならなかった。
這い寄ってくる無数の触手!
あとはわかるな!?
「チーズだ……チーズがある……フヘヘヘへ♪」
チーズ中毒のシエル・ウェスト(
jb6351)は、それだけのために参加していた。
前回の治験で稼いだ金は、とっくに使用済み。今月分のチーズを買う金もないのだ。
「フヘヘ……チーズ食べ放題、飲み放題ィィ……!」
シエルは、酒を肴にチーズを飲んでいた。
ここ久遠ヶ原では、食べ物を飲み物にしてしまう人が多い。
ともあれ、シエルは大満足だった。そう、天魔が現れるまでは!
なんと、いつのまにか背後に忍び寄った触手が、チーズを奪っていったのだ。
「な……ッ!? 私のチーズがぁぁッ!? 今日はチーズさえ食べられれば良かったのに……! あの、腐れイカ野郎がァァ! 食べてたチーズだけならまだしも、チーズ詰めてたタッパーまで持って行ってェェ! 絶対に許さない……! 腹かっさばいてペースト状にしてやる……!」
酒酔いとチーズ中毒の発作で、シエルは情緒不安定だった。
光纏し、ペ子ちゃんみたいに舌なめずりしながら、四つん這いで走るシエル。……これはペ子ちゃんというより、暴走した人型決戦兵器じゃないか?
しかし残念ながら、チーズ欲に取り憑かれたシエルは冷静な判断が出来ず、あっさり触手に捕まってしまう。
「あああ……っ! チーズ! 私のチィィィズゥゥゥ……!」
発言が全てチーズだったシエルは、そのまま触手の餌食に。
描写はカット!
「んにゅー、あれが噂のイカ天……乙女の貞操は僕がまもる! まかせろー!(バリバリ」
九鬼龍磨(
jb8028)は、だいぶ出来上がっていた。
光纏しても酔いはさめないし、目は据わってるし……っていうか白目むいてるし。実際コワイ。
「さぁかかってこい! こっちだ!」
挑発しながら、タウントを使う龍磨。
では遠慮なくと、触手が襲いかかってくる。
「ほーら、脂の乗ったお肉だよー♪」
大笑いしながら触手に拘束されてしまう龍磨。
いろいろアウトなので、ほとんど書けない! すまん!
とりあえず、触手を噛み千切ったときは男性陣一同蒼白だったぞ!
じつは、故郷の通過儀礼で男も女も経験済みの龍磨。イカ天はエロいと評判を聞いていたのに、実体験してみれば大したことなかったため、激おこなのだ!
「このヘタクソ! ふにゃ○ん! 甲斐性なし! これが蔵倫を脅かすと噂のイカ天か!?」
拘束を逃れた龍磨は、手当たり次第に『唐竹割り』で斬りまくる!
斬って斬って斬りまく……使用回数3回なので、即終了!
「え、ちょ、ま……!」
有力な攻撃手段を失った龍磨に、もはや打つ手はなかった。
お察し(略
「なんという修羅場……! いいでしょう、ここは私たちにまかせてください!」
袋井雅人(
jb1469)は、月乃宮恋音(
jb1221)とともに出撃した。
彼らは、『イカ天召喚士』の称号を持つ者。この名に賭けて、負けるわけにはいかない!
周囲の期待が集まる中、恋音は迷わず敵に駆け寄った。
その称号をイカして真横に座り、話しかける。
「あのぉ……いっしょに、お花見をしませんかぁ……?」
「ぜひ! 一杯やりましょう!」
撃退酒を差し出す雅人も、やたら乗り気だ。
……いや……おふたりさん、この作戦は一体……。
説明しないと誰もわからないので、字数がないけど説明しよう! じつはこの二人、過去に謎の力でイカ天を呼び出したことがあるのだ! このイカ天には見覚えが! もしかすると、以前仲良くなったイカ天では……!?
「…………」
人語を理解できないイカ天は、無言で二人に襲いかかった。
が、恋音は動じない。いまこそ、イカ天召喚士の力を発揮するとき!
「……襲ってくるということは……別のイカ天さんですねぇ……? でしたら、仲良しイカ天さんを召喚しますよぉ……」
すると、どこかに隠れていた二体目のイカ天が登場!
「さぁ、戦ってください! 触手大決戦です!」
『薙ぎ払え!』的に、命令を下す雅人。
「私たちも、力を貸しますよぉ……」
恋音は『異界の呼び手』で、一体目のイカ天に対して拘束を試みる。あとから来たほうのイカ天には、友達汁を使用。完璧! 完璧だぁぁぁ!
……なワケなくて、呼ばれて飛び出てデロデロ〜ンなイカ天は、2匹そろって恋音たちに襲いかかってきた。だって、こんなのと仲良くなるとか無理だし!
「これはいけませんね。いったん逃げましょう」
雅人が冷静に提案した。
ふたりとも重体中なので、うかつな行動は取れない。
でも重体中なので、逃げることも出来なかった。
ニュルニュルッと絡みついてくる触手。
「おおぉ……!? これは、計算外でしたぁぁ……!」
ふるふると首を振りながら、恋音は雅人ともども触手の餌食に。
「計算どおりにしか見えないよ……?」
離れた場所で優雅に紅茶を飲みながら、明日羽は微笑むのだった。
「あ! ぼくのお菓子が……! 許さないのですよ!」
触手にケーキを叩きつぶされた江沢怕遊(
jb6968)は、怒りに燃えて立ち上がった。
相手は荒ぶりまくるイカ天2匹だが、どうにかできるのか?
「このお酒……撃退士が酔っぱらうなら、天魔にも効くはずなのです!」
怕遊は両手に酒瓶を持つと、スカートをひるがえして走りだした。
よし、安定の女装率だ! 『最近この子、お菓子食べてセクハラ受ける以外なにもしてないよ!』とか言って悪かった! ちゃんと女装もしてた! 正直すまんかった! 女装してるとパワーアップするとかいう設定ならよかったね!
「さぁ撃退酒をくらうのです!」
両手の酒瓶を勢いよくブチまける怕遊。
結果から言うと、天魔には効き目なかった。仮に効いたとしても、デロ度が上がるだけだと思うけど! そればかりか、触手に絡め取られた犠牲者たちが余計に酔っぱらっただけだ!
「お? おー? 予想が外れたですかぁ……?」
呆然とイカ天を見上げる怕遊。
その足首に、触手がニュルッと巻きついて……
カーーット!
──というわけで花見会場は惨劇の坩堝と化していたが、月丘結希(
jb1914)は戦う気など一切なくマイペースに花見をつづけていた。
ウニに吹っ飛ばされる撃退士や、乱れ飛ぶ蟹光線など、花見のアクセントとして丁度良い。
だが、ただ遊んでいるだけではない。戦闘不能になった者たちを引きずって安全な場所まで移動させるという気遣いぶりなのだ。その際、倒れた者たちの弁当から好みのオカズをつまみ食いするぐらいは当然の権利だろう。
引きずるときは、持ちやすいよう足首をつかんで引きずっているが、それぐらいは仕方ない。引きずられる犠牲者は石ころなどにガツンガツン頭をぶつけているが、戦場に放置されるよりはマシなはず。
イカ天と戦っているグループに対しては、適切なタイミングで仮想ディスプレイを空間上に投影させてモザイク代わりにするという、ナイス気配り。ありがとう、おかげで蔵倫は守られた!
「ここには、いい仕事する湯気さんとかいないからね」
などと言いながら、さりげなく戦闘シーンを撮影しておくのは忘れない結希であった。
「さぁ、僕たちのライブで盛り上がろ! みんな〜! Are you ready!?」
ステージの上で、春日遙(
jb8917)はマイク越しに声を上げた。
「花見と言ったらゲリラライブですよね! 見ていってくださーい!」
遙の横に立つのは、川澄文歌(
jb7507)
前回のエア花見では1曲で終わったが、今回は違う。本気だ。本気でセットリストを練ってきた。これが、MS……もとい天魔も泣いて謝……喜ぶ、怒濤の2時間ライブの内容だ!
・夕暮れをあなたと
・やきにくの歌
・届かないWinterSong
〜幕間 神楽舞披露〜
・心まで繋いじゃって
・From your CARROTs☆
・みんなに届け♪HappySong
・久遠なるエリュシア
・あけぼのweekサクラ咲く
こんなに歌詞書けるかぁぁぁ!
字数制限! ジスー・セイゲーン!
でも曲数すくなすぎだろ! 平均1曲あたり15分って、どんなプログレ!?
まぁそれはともかく、ライブは始まった。
ものすごく盛大に! 超盛大にだ!
なんか歌の途中で撃退士があっちこっち吹っ飛ばされてるけど、気にせずライブ続行! 戦闘? なにそれ? この世に必要なのは音楽だけ! ノーミュージックノーライフ! 悪魔と恋人になれるんだから、海産物とも理解しあえるはず! 音楽に国境はない! 音楽は自由だぁぁぁ!
「海産物さーん! 私たちの歌、とどいてますかー?」
文歌が『アイドルの微笑み』で呼びかけた。
「みんな、今日ここで僕たちのファンになっちゃおうよ!」
遙もノリノリで声をかける。
言っておくが、周囲には血まみれ粘液まみれの撃退士たちが10人ぐらい倒れている。この状況でライブ続行とは恐ろしい。ブラックメタルバンド顔負けだ。ここまでやれば、文歌たちの熱い想いは海産物たちに届くはず!
だが、現実は非情だった。
どんなに真剣だろうと、しょせん相手は天魔。なにも伝わりやしない。
というわけで、ステージ上で熱唱する文歌と遙の背後から、触手が伸びてきたよ!
そして二人は、あられもない姿にぃぃぃ!
でも歌はやめない! 触手まみれになっても、決して!
そういうAVあるよね!
よし次!
そんな騒ぎから離れたところで、いつもの仲良し組はマイペースに花見をたのしんでいた。
「やっほう、今回は普通の花見だぜ! 見てくださいよ、桝本さん。桜が咲いてますよ! これでこそ、花見ってものですよね!」
久瀬悠人(
jb0684)は、やけにテンション高めだった。
おかしいな、今日は飲んでないはずなんだが。
「前はエアだったが、やっぱり桜は咲いてるほうがいいな」
淡々とビールを飲む、桝本侑吾(
ja8758)
今日もまた、大量に用意した唐揚げで一杯やる算段だ。
「花が咲いていると、お酒もおいしいわね」
日本酒の注がれた杯を手に微笑むのは、シエロ=ヴェルガ(
jb2679)
今日は撃退酒じゃないから、酔って胸元をはだけたりしないぞ!
そんな飲んだくれ二人をよそに、悠人はヒリュウのチビを召喚した。
ドジャアアアン! と決めポーズを作って登場するチビ。
「あら、チビじゃない」
と言いながら、シエロがチビを抱き寄せた。
知ってのとおり、ヒリュウの視覚は召喚者と共有されている。
つまり……わかるな!?
「今回こそ、本当の桜をたのしむぞー!」
クリフ・ロジャーズ(
jb2560)もまた、妙に張り切っていた。
「ほんとうの桜っていうことは、にせものの桜もあるのか?」
興味津々で問いかけたのは、アダム(
jb2614)
「ええと……ニセモノっていうか……」
「ないのか? この桜はほんものなんだな?」
「う、うん」
にこっと微笑むクリフ。
じつに平穏かつ幸せそうな光景だ。
だが、そこへやってきたのは、何人もの撃退士たちを拘束したままのイカ天。
拘束って響きがアレだけど、大丈夫! 健全なことしかしてないよ! だって触手だし!
「あら……。普通に花見が出来るものだと思ってたのだけれど……」
シエロが、黒い笑みを浮かべた。
せっかく花見をたのしんでいたところに、天魔が乱入してきたのだ。多少は怒りもする。
「なんか変なのが出てきたんだが、なぜだ……? 嘘だと言ってよバー(ry」
少々驚きながらも、悠人は平然と飲み食いしていた。
その隣では、クリフがポカーンとしている。
しかし、すぐに気持ちを切り替えて臨戦態勢をとり、ヘルゴートを……
と思ったところで、侑吾が「桜に潮の香りは合わないだろ……」と呟きながら、ゆらり立ち上がった。三度の飯と三度の酒が好きな侑吾にとって、酒席を邪魔するものは例外なく抹消されるべき。
というわけで、無造作に大剣を抜き放ち、普通に走って行って、適当にウェポンバァッシュ!
ドバァァァン!
何本かの触手が千切れて、捕まっていた者たちが落ちてきた。
しかし、まだイカ天本体は生きている。
「食えない上に酒の邪魔をする奴に、遠慮はいらないよな」
ぼんやり真顔で言いつつ、ふたたびバッシュ!
炸裂音とともに、爆発四散するイカ天!
ああ……あれだけみんなが苦労した敵を、一方的に嬲り殺しだなんて……侑吾のバッシュはチートすぎる……ぜんぶ俺のせいだが……。
「さすがっす、桝本さん! ホント、パねえっす!」
悠人が、手放しで絶賛した。
「美しいウェポンバッシュでしたよ……」
クリフは真顔でコメントしながら、腰を下ろして飲みモードに戻っている。
「ク、クリフがきゅんとしてるだなんて……」
なぜかぷるぷるしているアダムは、どうやらクリフにほめてもらいたいようだ。
「たいこうして、べつの敵をたおしにいくぞ! おれだって、封砲できるこだからな! ルインズだからな!」
張り切るアダムだが、正直不安だ。
だって、天魔と戦ってるところ見たことないし!
「くぜ! いくぞ! おとこは拳だ!」
「しょうがないな、つきあうか……。いったんお別れだ、チビ」
戦闘用にグロリアを召喚して、アダムに付きそう悠人。
そのとき、アダムたちの反対側から二体目のイカ天登場!
一匹目と同じで撃退士が捕まってるけど、ミダラーなことはしてないよ! 本当だよ! 健全だよ!
「あらあら。……それじゃ私も今回は、らしくしようかしら」
シエロは艶めかしく微笑むと、触手を一本つまんで胸に抱きしめた。
「花見の邪魔はダメよ……? それならいっそ、私と愉しみましょう?」
と言いつつ、触手を指先で撫でるシエロ。びくんびくんする触手。
「はっ! シエロのおっぱいがあぶないぞ!」
アダムが戻ってきて、カッと目を見開いた。
「いつもおっぱいおっぱい言ってるアダムが、そんなこと言ってもね……」
「おっぱいはだいじだぞ! みてろ、シエロ! これが、おとこの拳だ!」
アダムは無駄にカッコいいポーズを決めると、渾身の右ストレートで封砲を放った。
ずどぉぉぉん!
触手が千切れ、つかまっていた撃退士たちは普通に巻き添えをくらった。
「なにか巻きこんだ気もするけど……。とりあえず、それは拳じゃない。封砲だ」
眠たそうにマジレスする悠斗。
「悠人さん、マジレスありがとう」と、クリフ。
「お、おれの体からほとばしってるから、拳なんだからっ、なんだからなっ!」
アダムは言い張りながら、悠斗をてちてちした。
クリフがやってきて、その頭を撫でる。
「うん、まぁ、かっこよかったよ、アダム」
「そうか? おれ、かっこよかったか?」
ぎゅっと抱きつくアダムにゃん401歳。
「……まぁ多少の犠牲は出たようだけれど、結果オーライよね」
と、シエロが言った。
「戦いに犠牲はつきものだよ」
クリフはシリアス顔になって、イカ天に黙祷を捧げた。
「ところで、服が濡れちゃったわ。上着貸しなさい」
「うわ……っ! ちょっと待って。自分で脱ぐから」
シエロに服を奪われそうになって、クリフは慌てて脱いだ。
「しーちゃん、大丈夫だった? はい、上着」
シエロの肩に服をかけるクリフは、いつになくダンディだった。
「よーし、そろそろ〆の時間だな。ならば俺のターン! オンリーライブ開催だ! 曲は『北墓場』!」
バンシーズクライを発動して、ジャイアソ顔負けの怪音波で歌いはじめるラファルがいた。
あまりの騒音に、天が震え、大地が揺れる。死体も裸足で逃げだすレベルだ。
「ラファルさん……わたくし何度も、おだやかに過ごすべきと申し上げましたよね?」
みずほが、女神のごときアルカイックスマイルで問いかけた。
手にしたティーカップに、ビシッとヒビが入る。
「ウボボエ〜♪」
ラファルには聞こえてない。
それだけでなく、目の前をゴロゴロ転がるウニも、ブクブクうるさいカニも、あーうー言ってる戦闘不能者も……なにもかもが、みずほのティータイムを妨害する存在でしかなかった。
そして、ついにみずほはキレた。
英国式の紅茶が彼女の体内を駆けめぐり、アウルを暴走させる!
「しずかにできないなら、わたくしの手で黙らせてあげますわ……!」
まずは、ラファルに右アッパー!
「ウボボア〜ッ!?」
空高く舞い上がり、脳天から落下して動かなくなるラファル!
次には、向かってきたウニを肝臓打ち一発で粉砕!
カニは心臓打ちで沈め、生き残ってた撃退士たちも全員KO!
とどめにMSも吹っ飛ばして終了!
ひ、ひどすぎる……!