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マスター:ちまだり
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/08/05


みんなの思い出



オープニング

●とある地方都市〜郊外

 ドオォォ――ン!!
 腹に響くような轟音と共に、武器を持った男達が吹き飛ばされた。

「何だ‥‥何なんだ、こいつら!?」
「ディアボロか?」
「し、しかし‥‥ロボットや人間みたいな奴もいますよ!」

 彼らは近在の撃退署から派遣された国家撃退士たち。
『街外れの工事現場に怪物の群が現れた』
 命からがら避難した作業員たちからの通報を受け、どうせまた山から腹を空かせた野良ディアボロどもが下りて来たんだろう――と高をくくって出動したものの。

 その行く手に現れたのは、彼らが日頃相手にしているディアボロとは明らかに異質なモンスターの群だった。
 かといってサーバントでもないだろう。
 仮にも「天使」を名乗るプライドの高い連中があんなイロモノ‥‥もといユニークな奉仕種族を生み出すわけがない。

「と、とにかく撃て撃てー! 奴らを街に近づけてはならん!」

 気を取り直した指揮官の命令の下、インフィルトレーターやダアトたちが一斉に銃撃と攻撃魔法を浴びせる。
 だがしかし。
 ズゴゴゴォー‥‥
 身の丈およそ5m、見かけは2等身の女の子みたいなゆるキャラ風デザインの巨人はあらゆる攻撃をものともせず、逆に全く同じ攻撃を反射するように放ってきた。

「うわぁぁぁ!?」

 自らが発射した銃弾や魔法をそのまま撃ち返され、負傷した撃退士たちが倒れ伏す。
(||)←こんな感じの少女型巨人の両眼がキラーン! と光るや、ボディ表面に受けた損傷がみるみる回復していった。
 なぜか周囲に倒れた撃退士たちのダメージも一緒に回復していく。
「あ、あれ‥‥?」

 いや安心するのはまだ早い!
 巨人の背後から忍装束に身を包んだもふもふの白兎、高級ダークスーツを着こなしグラサンをかけたイケメン狙撃手が、ウサミミに偽装した鋭いハサミやスナイパーライフルでばったばったと撃退士を蹴散らしていく。
 高さ3mくらいのおでんダネ・牛スジ串にしか見えないディアボロはプルプルのボディで物理攻撃を吸収し、その巨体から熱いダシ汁を振りまいて撃退士たちの体を焼いた。
 撃退士たちの頭上に黒雲が湧いたかと思うや、筋骨逞しくびっしりとすね毛を生やした巨大な中年男の両足(だけ)が踏み降ろされ、ようしゃなく蹴飛ばし踏みにじる。
「――フンッ!」
 壮絶な戦場の真ん中で、全身これ筋肉隆々の金髪モヒカン男(なぜか背中に天使のような翼がある)が誰と戦うわけでなく、独りで\ナイスバルク!/なマッスルポーズを決めていた。

「いかん! ここはひとまず」
 撤退だ――と言い終える前に、指揮官の体が何者かの触手に高々と持ち上げられた。
 いつの間にか忍び寄った黒い磯巾着男(としか言い様のない怪物)は、全身の触手で宙吊りにした指揮官に赤い液体を吐きつけた!
「おわぁ〜〜!?」
 ジュゥゥ‥‥という不気味な音を立て、指揮官の衣服だけが溶かされていくではないか!

「ああっ何てことだ――俺たちの指揮官が白ブリーフ愛好者だと!?」
「ショック受けるのそこかよ!? とにかくこの場は不利だ、俺たちだけでも逃げ‥‥いや一時後退して応援を呼ぶぞ!」

 辛うじて魔獣たちの攻撃を免れた2人の撃退士が現場近くを流れる川の岸辺まで撤退するも、水中から伸ばされた別の触手に捕らえられたちまち川の中に引きずりこまれる。
「「アッー!?」」
 水の中で口に出すのも憚られる様なひでぇ目に遭わされる男たちの口から、悲鳴とも歓喜ともつかぬ叫びが迸った!

 かくして30分足らずの戦闘で撃退士1個小隊が壊滅。
 幸い命に別状はなかったものの、むしろ精神的なダメージの大きさから帰還者は全員放心状態という惨憺たる結果に終わった。

●とある悪魔の占領地域
「ウハハハ! 見たか、我が芸術的ディアボロ軍団の力を!」
 魔法の水晶球に浮かぶ撃退士部隊壊滅の様子を眺めながら、悪魔Dr.デモスは高らかに笑った。
「すごいですわ博士! 今度はいけそうじゃないですか!?」
 助手兼秘書の女ヴァニタス・ビアンカも興奮気味に叫んだ。
「さあ、このまま一気に街へ攻め込ませましょう!」
「いいや。それはまだじゃ」
「え?」
「ふっ。こんなのはまだ序の口。わしもあれから人間どもの好む『トクサツ』とかいうのを研究してのう」
「ああ、それで最近、リビングでヒーロー戦隊もののDVDばかり鑑賞なさってたんですね? 私、てっきり博士がオタクになったのかと――」
「どうやらトクサツにはある種の様式美があるようでな。まずこうして騒ぎを起こすといずれ人間どものヒーロー戦隊が出動してくる。いわば人類の切り札というところじゃな。その場合、戦場は人里離れた工事現場や荒れ地が選ばれるらしい」
「あのう、それはあくまでTVのお話で‥‥」
「そこでわしのディアボロ軍団がヒーロー戦隊をコテンパに叩きのめす! 夢と希望を打ち砕かれた人間どもは戦わずして我が軍門に降る! 完璧な計画じゃろ!?」
「まさか、敵の増援が来るまであそこで待機させるんですか? え? それじゃ、わざわざあんな偽コンテストをでっち上げて新作ディアボロを公募したのも――」
「むろんじゃ!」
「‥‥」
(私、何でこんなアホ悪魔のヴァニタスにされてしまったのかしら‥‥)
 暗澹とした気分で水晶球を覗き込むビアンカ。
 だが、そこでハッと気付いた。
 ディアボロ軍団8体のうち2体は触手モンスター。
 もし次に送り込まれる撃退士部隊の中にイケメンやショタ美少年がいたら?

 イケメン×触手=\うほっ!/

「ハカセ! ここ、この水晶玉に録画機能はないんですかっ!?」
「? そんなものはないが‥‥」
 ビアンカは踵を返し、ダッシュで研究室を飛び出した。
 自室からビデオカメラを取ってくるために。

●久遠ヶ原〜斡旋所
「こりゃまたけったいなディアボロが現れたもんやな〜」
 現地撃退署から緊急依頼を受けたスタッフの伊勢崎那由香(jz0052)が、依頼内容をPCに入力しながら呆れたようにぼやいた。
 傍らでは、暇つぶしに遊びに来ていたクラスメイトの綿谷つばさ(jz0022)が、購買のコロッケパンをモグモグ頬張りながら、室内に置かれたTVのニュース映像に見入っている。

 初動の国家撃退士を返り討ちにした後、8体のディアボロはなぜかその場に居座り、あたかも人類側を挑発するごとく、各々ポーズを決めたり触手を揺らめかせたりタップダンスを踊ったりしてパフォーマンス(らしきもの)を続けていた。

「あれ? このディアボロたち、何だか見覚えあるぞー」
「気のせいやないか? 調べてみたけど、どれも過去に出現記録のない新顔やで?」
「でも、確かにどこかで見たような‥‥う〜にゅ‥‥あ!」

 つばさは思い出した。
 つい先日、「新番組制作記念」と銘打って催されたオリジナル魔獣の募集コンテスト。
 何やらうさんくさいイベントだったため応募者を装い調査したものの、その時点では特に怪しい所も見当たらなかったので報告だけ済ませ、後はすっかり忘れていたのだが。

「あたし達の考えた魔獣をパクってディアボロにしたのね‥‥許せないのだ!」
「お、落ち着きや。別につばさちゃん達の責任やないで? 悪いのは悪魔の」
「――何であたしが応募した猫耳ドラゴンがあの中にいないの!? 徹夜でイラストまで描いたのに!」
「怒るとこ、そこかいな‥‥」

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リプレイ本文

●戸惑う創造主たち
「あれ、あたいが応募したあたいロボ‥‥!?」
 2等身の少女型巨人を見た雪室 チルル(ja0220)が驚きに目を丸くする。
 それもそのはず、巨人の外観はコミカルにデフォルメされた彼女自身だ。
「あたい知ってる! あれって著作権侵害ってやつよね?」
 ぐっと拳を握り、チルルは怒りを露わにした。
 悪魔相手に著作権保護法が適用されるかは定かでないが。

「わわぁ、ボクの考えたバニーがほんとに動いてるよ!」
 ディアボロ軍団の中に自ら応募したヌケニン☆バニーの姿を認め、思わず瞳を輝かせる犬乃 さんぽ(ja1272)。
 だがすぐに思い直して怒り出す。
「‥‥でも、天魔の陰謀だったなんて、絶対に許せないから! 胸を膨らませ魔獣を考えた人々の夢や、ちびっ子の思いを踏みにじるような事、ボク、絶対に許せないもん!」

 同じく敵の中に自身とそっくりのスナイパーを見つけ、ミハイル・エッカート(jb0544)は忌々しげに舌打ちした。
「ディボロなんぞ作りやがって。まだ詐欺事件のほうがマシだ」
 本人に比べイケメン度1.5倍増し。
 おまけに武器は高価そうなスナイパーライフル。
 いやそういう風に設定したのはミハイル自身だが。
(‥‥べ、別に悔しくないんだからな!)

「我輩がここに居るのにマスミラがあそこに居る! 一体全体どういう事であるか!?」
 マクセル・オールウェル(jb2672)が愕然とする。
 というか「まだ相手がディアボロである」という事実に気付いてない。
「何故でしょう? 敵方にオールウェル殿、そっくりの方が居ますね。はっ! よもや、生き分かれた兄弟なのでしょうか?」
 オーデン・ソル・キャドー(jb2706)に訊かれても、
「あれは着ぐるみである! 何処の誰が入っているかは知らぬが‥‥くっ、これは話をつけねばなるまい‥‥」
 いや中の人はいませんから。

(こ‥‥この状態では、アレと満足には戦えそうもないか‥‥)
 リンド=エル・ベルンフォーヘン(jb4728)は川に潜む魔獣の姿を思い浮かべる。
 先の別依頼で負ったダメージがまだ癒えてない。
(だがアレを産み出した元々の要因は俺だ、俺が責任を持って始末せねば‥‥!)
 内心で悲壮な決意を固めるのだった。

「おー‥‥俺の考えたまじゅーがいないんだぞ‥‥」
 シュンとなって肩を落とすのは彪姫 千代(jb0742)。
 いや、彼の応募した魔獣だってちゃんといるのだが……本人の理想と、応募したデザイン画のギャップがあまりに大きすぎたため気づいてない。

●その魔獣は俺が殺る!
「オラたちのアイデアを盗んでディアボロにするなんて悪魔ってのはひどい奴だっちゃ」
 自らが応募した魔獣・ビッグフッターと戦うべく、さっそく御供 瞳(jb6018)が飛び出した。
「とはいえ‥‥うまく再現したもんだっちゃな〜」
 だが一点気に入らない処があった。
 臭いである。
 確かに応募した設定書には「足が臭い」と書いた。
 だがそれはあくまで「田舎の土臭さ」といった素朴な香りをイメージしてのことであり、断じて都会オヤジの水虫臭を嗅ぎたかったわけではない。
「リテイクだっちゃ! バラバラにして制作者に突き返してやるっちゃ!」
 にわかに怒りがこみ上げてきた瞳は、ビッグフッターの間合いギリギリまで近づくや反転、スカートをチラッとめくりお尻ペンペンして挑発した。
「ほーれ、来れるもんならこっちさ来ーい」
『うごぉおおお!』
 どこに目や耳や口が付いているのか知らないが、ディアボロ(の足)は怒りの雄叫びを上げて瞳を追いかけ始めた。
 そのまま工事現場の採石場までおびき寄せると、迷路のごとく入り組んだ岩と岩の間を素早く逃げ回る瞳。
 阻霊符の効果範囲内で動き辛いことに苛立ったか、ビッグフッターは岩ごと少女を押し潰そうと渾身の蹴りを放ってきたが。
 ぺきゃっ。
 その拍子に己が小指を岩に打ち付けてしまった。
『んごわぁぁぁぁ!?』
 苦悶の叫びを上げながら、片足でピョンピョン飛び跳ねる大型ディアボロ。
 ‥‥痛いんだよね、アレ。
 チャンスと見た瞳は手許に大剣を召喚して反撃に移った。
「被造物のおめだづがデミウルゴスたるオラたづに勝てるわけねーべ!」
 アキレス健を狙って渾身の斬撃!
 魔獣の巨体が、上半身(?)を覆う黒雲もろともガクっと地面に跪いた。

「マスミラぁぁ! スーツアクターは、中の人は我輩が先約であるぅー!」
 己と瓜二つの魔獣と対峙し、マクセルが怒鳴った。
 違いといえば、マスミラの方が若干乾燥肌というくらい。
『‥‥フンッ』
 挑発するがごとくマッスルポーズを決めるマスミラ。
 負けじとばかりマクセルも己の筋肉を誇示し、暑苦しい男同士のポーズ合戦が始まる。
「ふっ、無駄なのである。いかに逞しく見えようが、おぬしの筋肉は所詮着ぐるみ――」
 突如、相手の方から殴りかかってきた。
「ぬおっ!?」
 そのパンチ力は明らかに天魔レベル。
「なんと!? わ、我輩のマスミラがディアボロに!? という事はこの筋肉は偽物ではなく本物という事であるか?」
 ここに至ってようやくマクセルも事態を理解した。
 咄嗟に殴り返しながらもそのショックは大きい!
 なぜならマスミラの筋肉は、マクセル自身が理想とするボディラインを意識してデザインしたものなのだから。
(くっ、勝てない‥‥我輩は、我輩はどうすれば‥‥!)

「スージーを、彼女を攻撃する事が、果たして私に出来るのでしょうか?」
 宙に浮かんだ巨大なおでん型ディアボロを前に、オーデンは自問自答していた。
「出汁の沁みた、あのプルプルのボディーを、私はこの剣で斬らねばならぬのでしょうか?」
 相手は自らのおでん哲学の結晶ともいうべき存在なのに。
「‥‥それでも私は決着を付けねばなりません。おでんの主役は、出汁なのか、タネなのか? この永遠の疑問に」
 片刃の曲剣を振るい斬りかかる。
 だがその刃はプリプリのボディに弾き返され、お返しとばかり熱い出汁を頭から浴びてしまう。
「攻撃を全て吸収するとは‥‥、流石『おでん七福神』の一柱である、牛スジ串です」
 しかもマスクを通して染みこむその出汁がなかなか美味い。
「残念です。ぜひ貴女を肴に、ちょいと一杯ひっかけたかったのに‥‥ですが勝負はこれからです」
 しれっとした口調でいうなり、覆面のはぐれ悪魔は再び曲剣を構え直した。

 高い崖の上に立ち、逆光を背に登場したさんぽは、ディアボロ達にビシっと指を突きつけた。
「最強魔獣軍団‥‥この世界の平和は、ボク達が護る!」
 その言葉に反応したのかどうかは不明だが、早速忍装束をまとった人間大のウサギがこちらに向かって来る。
「とうっ!」
 崖から飛び降りながら、すばやく手裏剣を放って牽制。
 ウサ耳に偽装したハサミで襲いかかるヌケニン☆バニーの攻撃を八岐大蛇で受け流す。
 互いに死力を尽くしたニンポー合戦だ!
 忍装束から覗くバニーのフカフカした白い毛皮がふと目に入り。
(うっ‥‥もふもふ‥‥したい‥‥!)
 さんぽの心に生じた一瞬の隙を衝き、バニーのハサミが少年の首を襲う!
 だが彼の首が胴から離れることはなかった。
「ふう‥‥この首輪がなかったら、危ない所だった」
 間一髪、「アレスの首輪」がさんぽの首を守ったのだ。
 すかさず後退、再度の攻撃を仕掛けようと動くバニーを狙い、さんぽの刃が閃く!
「より素早く、そして一撃は必殺、それが真のニンジャの力だっ!」
 神速の隼突きがバニーを捕らえ、次の瞬間には魔獣の首を撥ね飛ばした。


●平成ピーマン合戦
 己の鏡像ともいうべき魔獣対策として、ミハイルは生ピーマンを微塵切りにした皿を持参していた。
 ただし彼自身も大のピーマン嫌いのため、決して良い気分ではなかったが。
 臭いを嗅がないようマスクを被り、敵に対して風上の方向へと移動。
「進撃の射手」も直ちに反応した。
 標的をミハイルに定め、接近しつつ銃撃を加えてくる。
 ‥‥が、1発撃つごとにいちいち大袈裟に地面を転がり、キザなポーズを決めるのは如何なものか?
「助太刀するわよ!」
 チルルを始め、手の空いた撃退士たちが周囲からピーマンを投げつける。
 ボコボコボコ!
 両者の見分けがつかないため、その半分はミハイルへぶつけられてきた。
「うわっやめろー!」
「ありゃ? 両方苦しんでるっちゃ……どっちが偽者だべ?」
「とりあえず両方に投げればいいのよ!」
 首を傾げる瞳にチルルが叫び、無慈悲な無差別ピーマン攻撃を続行。
「奴のイケメンぶりと装備で見分けろよ!」
 リンドの投げた剛速球ピーマンをアサルトライフルの銃身で打ち返しながら怒鳴るミハイル。
 その言葉をきっかけにピーマン攻撃はディアボロの方へ集中したが。
(‥‥な、何だこの敗北感は‥‥!?)
 ともあれ早々に決着をつけるべく、オーバーアクションで隙だらけのディアボロに接近したミハイルは、ピーマンの皿をパイ投げの要領で敵の顔面に叩き付けた。
『ギャアアアア!!』
 悲鳴とともに硬直し、装備のライフルもろともボロボロ崩れ去る「進撃の射手」。
「気持ちは分かるが‥‥そこまで苦手だったとは」

●恥もピンチも遙かに超えて
 己が考案した魔獣ガワラーの姿を求め、リンドは慎重に川岸へ近づいた。
 案の定、浅瀬に一歩踏み込んだ途端、水中から触手のような「舌」が伸びてくる。
 咄嗟に闇の翼で空へと逃れた。
 リンドを追う様に、ガワラーはその醜怪な全身を現して岸辺に上陸。
 計画通り陸上へおびき出すのには成功したものの、そこで敵の長い舌に捕らわれてしまった。
『‥‥?』
 はぐれ悪魔であるリンドの下半身は鱗に覆われ尻尾の生えた竜人。つまり人間とは若干体の作りも違う。
 一瞬ガワラーも戸惑った様だが、すぐ「何でもいいや」とばかりリンドの全身に舌を這わせ、じゅるりじゅるりと弄び始めた。
「ちょっ、こら、よせ! そ、そこは‥‥ヒャハハハ!」
 くすぐったさと気色悪さと恥ずかしさに耐えかねて全力でもがくリンド。
 鱗のおかげで最後の一線(?)は辛うじて守っているものの、この鱗が実は意外に敏感で、思わず新たな世界に目覚めてしまいそうである。

 そのすぐ近くでは、千代がサンダーへと吶喊していた。
「お前だけ余分なんだぞー! みんな自分の考えたまじゅーなのに俺のだけいなくてお前がいるんだぞー!!」
 あっという間に触手に捕らわれた。
「わ! く‥‥くすぐったいんだぞ! やめるんだぞー!」
 抵抗する千代に、容赦なく赤い溶解液が浴びせられる。
 たちまち裸同然の姿と化す千代だが、彼はあまり気にしなかった。
 むしろ服がなくなるにつれて元気が増してくる。
「お前くすぐったいんだぞ! 冥虎! あの変な紐(触手)ごと食べちゃえなんだぞ!」
 千代の体から湧き上がる闇の瘴気が虎を象り魔獣に食らいつく。

 一方、千代を救出するため駆けつけたさんぽやチルルも相次いでサンダーの触手に捕まり衣服を溶かされた。
「みっ、見ちゃ駄目だもん」
 服を溶かされ真っ赤になるさんぽに対し、下着姿になってもお構いなしに攻撃を続けていたチルルだったが、頭のウシャンカを溶かされた途端にキレた。
「ウシャンカの仇ー! 絶対にやっつけてやる!」
 怒りのブリザードキャノンが魔獣を貫く!
 猛反撃を受けついに力尽きるサンダー。
 だがその寸前、捕らえていた撃退士達を置き土産とばかり弟分ガワラーの方へ放り投げた。
「これ以上は、駄目だもん!」
 空蝉の術で新たな触手を避けるさんぽだが、そのためますます露出度が増すことに。
 千代とチルルはリンド共々触手(舌)の洗礼を受けることとなった。
「ちょ、こらー! はーなーせー!」
「や‥‥なんかこいつ変なんだぞ‥‥やだ‥‥怖いんだぞ!! やだー! 父さんー!」
「ええい、いい加減にしろっ!」
 業を煮やしたリンドはパイオンのワイヤーで舌をまとめて絡め取り、魔獣の本体へブラキウムの剣で斬りつけた。
「お前なんかだいっっっっっっ嫌いなんだぞ!!!」
 辛うじて触手責めを脱した千代が舞虎の斬撃を加える。
 陸上では動きの鈍いガワラーも、立て続けの攻撃を受けやがて動きを止めた。

●強敵(とも)よ、さらば
 その間、マクセルとマスミラはひたすら不毛の殴り合いを続けていた。
 相手の筋肉美に目を奪われ、つい押され気味になってしまうマクセルだが。
 ふと気付いた。
 一見完璧なマスミラの筋肉。しかしバック・サイドのラインに一部不完全な部分があることに。
「そうと分かればこちらのものである!」
 勝機を見いだしたマクセル、肉体をパンプアップさせ改めて反撃に移ろうとした、その時。
「お前ら、いい加減にしろ! とりあえずどっちがどっちだ?」
 バケツを抱えたミハイルが駆け寄り、両者に頭から水をぶっかけた。
『UGYAAAA!』
 突如苦しみだしたマスミラが、そのまま飴のごとく溶けていく。
「我輩の拳はどこに振り下ろせば‥‥」
 呆気ない幕切れに呆然と立ち尽くすマクセルであった。

 頭上高く急上昇したスージーが、その串をミサイルの様に発射した。
「それは必殺技シュピースフォイヤー!?」
 原案者だけありその動きを察知したオーデンは咄嗟に回避。
 串を射出した直後、スージーのボディはバラバラに分解して地上に落下した。
「その技は‥‥貴女自身の命をも奪う最後の手段だったのですね」
 帽子を胸に当て瞑目するオーデン。
 今宵の夕飯は「彼女」を偲び牛スジ串を食べようと心に決めながら。

 残す魔獣はあと1体、それまで何もせずボーっ佇んでいたあたいロボ。
「こいつはあたいが全力でやっつける!」
 とにかくこの魔獣は黒歴史として葬りたいチルルが全力で斬りかかった。
 当然、反射攻撃で自動的に同じ攻撃を受ける。
「はうっ!? な、なかなかやるわね‥‥さすがあたいといったところね!」
 彼女に続き、他の撃退士達も一斉攻撃を開始した。
 ちなみにあたいロボ自身は何もしない。いや、反射攻撃以外の時間は自動回復に費やすため他に何もできないのだ。
 攻撃を終えた撃退士はあたいロボの足元に走り、同じく回復の恩恵を受けつつ一休み。
 はたから見ると何やら長閑な戦闘だが‥‥。

 いかに防御力が鉄板とはいえ徐々にダメージが蓄積し、自動回復も追いつかなくなった巨人の体がグラリと揺れる。
 その表面にヒビが走ったかと見るや、音を立ててその場で崩壊した。

「正義は勝つんだもん!‥‥って、服」
 己のあられもない姿に気付いたさんぽが物陰に逃げる。
「勝負には勝ったが、何か大切なものを失ったような気がする‥‥」
 眉間を押さえてぼやくリンドに、衣服についたピーマンの臭いをしきりに気にするミハイル。
「結局俺の描いたのいなかったんだぞー」
 千代は膝を抱え、地面に「の」の字を書いていた。

 かくして世界の平和を守った撃退士達に、報道ヘリの実況放送を通して見守っていた全国の子供達から惜しみない拍手が送られたという。

<了>


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
撃退士・
彪姫 千代(jb0742)

高等部3年26組 男 ナイトウォーカー
伝説のシリアスブレイカー・
マクセル・オールウェル(jb2672)

卒業 男 ディバインナイト
おでんの人(ちょっと変)・
オーデン・ソル・キャドー(jb2706)

大学部6年232組 男 ルインズブレイド
誇りの龍魔・
リンド=エル・ベルンフォーヘン(jb4728)

大学部5年292組 男 ルインズブレイド
モーレツ大旋風・
御供 瞳(jb6018)

高等部3年25組 女 アカシックレコーダー:タイプA