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マスター:ちまだり
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:7人
リプレイ完成日時:2013/06/25


みんなの思い出



オープニング

●とある悪魔の占領地域
「‥‥う〜む‥‥」
 人里離れた山奥に建つ古びた洋館。
 その一角の研究室で、悪魔Dr.デモスは独り頭を抱えて悩んでいた。
 魔界きっての天才造魔師(自称)。
 彼の悪魔としての興味は、戦闘よりも専らオリジナルディアボロの創造にある。
 ただ強ければ良いというわけではない。
 その姿をひと目見た人間がこの世に生まれたことを後悔するほどの恐怖――そう、まさに名状し難い「宇宙的恐怖」の根源ともいうべき芸術的なモンスターこそが彼の理想とするディアボロ。

 ねこレスラー(失敗作だったけど)。
 七福神(素体が足りず五福神だったけど)。
 その後は2足歩行のイカ型ディアボロやメイド仕様のグールなんかも構想してみた(途中で飽きて放り出したが)ものの、どれも今ひとつ己が理想に届かない。

「いかんな‥‥スランプじゃ」

 スランプ――それは彼ほどの天才(自称)にして、時に陥る陥穽である。
 偉大な頭脳の奥よりふつふつと湧き上がる創造のパトス。
 夜空の星のように煌めくアイデアの断片。
 だが具体的な形にしようと制作にとりかかった瞬間、それは気まぐれな妖精のごとく雲散霧消してしまう。

 そんな風にして苦悩すること数ヶ月。
 ‥‥何となく「明日から本気出す!」といいながらゴロゴロしてるニートとあまり変わらないような気がしないでもないが。

「少し外の風にあたってくるか‥‥」

 研究室を出て階段を降り、屋敷の居間を通ると、そこでは助手兼秘書役の若い女性――ヴァニタスのビアンカがソファーでくつろぎ、呑気に紅茶を飲みお菓子など摘まみながらTVを見ていた。
「君、そこで何をしておるのかね? 仕事は?」
「あ、あら博士‥‥いらしてたんですか?」
 驚いて振り返った女ヴァニタスは、取り繕うような笑顔を浮かべた。
「いえあの、書類整理が一段落したので、ちょっと休憩を――」
 実際には2時間ほど前からサボっていたのだが。
 基本的にヴァニタスは主の悪魔から供給される生命エネルギーで活動している。
 故に食事や睡眠の必要もなく、極端な話、24時間不眠不休で活動することが可能なのだ。
 もっともビアンカの場合、主のデモスが1日の殆どの時間を研究室にこもって過ごしているのをいいことに、資料集めや書類整理など与えられた最低限の仕事だけ適当にこなし、後は半日のんびりTVを見たりPCのネットゲームをやりこんだりと、かなり怠惰な毎日を送っていたが。

「人間のTV番組じゃと? 全く、くだらんモノを‥‥」
 怠け者の秘書をジロっと睨んだデモスの視線が、次の瞬間TV画面に釘付けとなった。
 画面の中では、イグアナをベースにディアボロ化させたような恐ろしげな怪人が、色とりどりのコスチュームに身をまとった人間の戦士数人と戦っている。
「こ、これは‥‥!?」
「え? いま人気の特撮ヒーローもの『学園魔法戦隊くおん☆フルーツ』ですけど」
「タイトルなどどうでもいい! それより、なぜ人間の作った番組にディアボロが登場しておるのだ? 奴ら、既に奉仕種族を作り出す技術まで手にしておったのか!?」
「はぁ?」
 きょとんとした表情で、TVと悪魔を見比べるビアンカ。
 やがてクスクス笑いながら手を振った。
「いやですわ博士。これ、作り物の怪人ですよ? 劇中じゃ『地獄獣』って呼ばれてますけど‥‥要するに中に人間が入って動かす着ぐるみですわ」
「何じゃと?」

 およそ5分後。
 デモスはビアンカと揃ってソファーに座り、番茶を啜りながら「くおん☆フルーツ」を視聴していた。
「これが着ぐるみ? 生きてるようにしか見えんが‥‥」
「まあ昔に比べると随分リアルになりましたわね。特殊メイクとかCGとか、色々進歩しましたし」
 ポテトチップスをパリパリ囓りつつ、ビアンカが答える。
 デモスは内心で焦燥に駆られていた。
(何ということじゃ‥‥人間ども作った紛い物のクセに、わしが構想中のディアボロよりずっとカッコいいではないか‥‥!?)
 画面の中では、いったん倒された後に復活し巨大化した地獄獣「イグアナモン」が、ヒーロー達の乗り込んだ巨大ロボット「フルーツオー」の巨大剣に一刀両断され大爆発するところであった。
「ふ、フン、弱いのう。それにセンスも貧弱‥‥わしが生み出す芸術的ディアボロの足元にもおよばんわ」
「そうですか? でも私、特撮パートの方は別に興味ないんです。戦隊のリーダー役やってる俳優が好みのタイプだから視てるだけで」
 番組本編が終わると、EDの途中で突然画面がスタジオに切り替わり、主役を演じるイケメン若手アイドルが笑顔で登場した。

『いつも応援してくれるよい子のみんなにビッグニュースだ! 君たちの考えたすごい地獄獣をハガキに描いて応募してくれ。優秀作は本物の地獄獣になって番組に登場するぞ! そして応募してくれたみんなに、もれなく番組グッズのプレゼントが――』

「それじゃ、私はこれで仕事に戻りますわ」
 ビアンカがそそくさと居間から立ち去った後も、デモスは固まったようにソファから動かなかった。
(待てよ? ‥‥なるほど、この手があったか!)

●久遠ヶ原学園〜斡旋所
「な〜つばさちゃん。ついさっき、妙な依頼が入ってきてん」
 生徒会ヒラ委員で斡旋所スタッフの伊勢崎那由香(jz0052) が、たまたま遊びに来ていたクラスメイトの綿谷つばさ(jz0022)に話題を振った。
「なになに、どんな依頼?」
「近日制作開始の特撮ヒーロー番組『ディアボロマン』第1話に登場する敵の魔獣を大募集! 希望者はデザイン画と設定書を持参、監督自ら目を通し審査します! ‥‥ちゅう公募依頼なんやけど」
「要するに新番組の宣伝も兼ねたコンテストね。別に珍しいことじゃないのだ」
「それが‥‥依頼主が『泥喪巣プロダクション』って聞いたこともない制作会社でな。PCで検索しても引っかからんし‥‥これって、もしかして詐欺ちゃうねんか?」
「うーん、確かにそれは怪しいのだ〜」
 依頼内容のプリントアウトを眺めて、つばさも首を傾げた。
 ついでに斡旋所のPCで『ディアボロマン』の公式サイトを探してみたが、やはりそんな新番組の情報はない。
「もし偽の公募だとして、いったい何が目的なのかな?」
「う〜ん‥‥応募してきた子供たちに、怪しい商品を売りつけるとか」
「それは許せないのだ! この依頼、うちの学園だけ?」
「どうやらネットを通して全国的に募集してるようやで。ただ新聞やTVには何も出とらんから‥‥ひょっとして広告やCM出す予算もあらへんとちゃう?」
「ますます怪しいのだ。念のため、うちの生徒が行って確かめた方がよくないかな?」
「そやな〜。とりあえずプロバイダに通報して、ネット募集の方は削除してもらうよう頼んでみるわ」

 さっそく受話器を取り上げる那由香。

 だが2人とも、まだこれが悪魔Dr.デモスの恐るべき計画の序章にすぎないとは知る由もなかった‥‥。


リプレイ本文

 受付を済ませ会場入りすると、ホール内の客席には30人ばかりの応募者達がまばらに座り、コンテストの開始を待っていた。

「なるべく騒ぎを起こさず、こっそり調査しなくちゃなのだ」
 綿谷つばさ(jz0022) が仲間の撃退士達に振り返った。
「もし悪巧みなら潰さなくちゃ」
 つばさの言葉に犬乃 さんぽ(ja1272)が頷く。
「‥‥でも、魔獣大募集か‥‥ボクの考えた悪者がテレビに――」
 その勇姿を想像しただけで胸躍り、瞳をキラキラ輝かせるさんぽ。
(本物の募集だといいなぁ)
「戦隊物の敵募集と聞けば、これは参加するしかないわね!」
 雪室 チルル(ja0220)は不敵な笑みを浮かべる。
 あわよくばコンテストでも入選を狙っているようだ。
「こういうのは俺だって嫌いじゃないぜ? むしろ好きだが‥‥無邪気に参加できない俺の年齢が憎い」
 会場で浮いてしまわないか? と心配していたミハイル・エッカート(jb0544)が、客席に結構大人もいるのを見てひと安心する。
「おー! まじゅーなんだぞー! 俺すげーまじゅー描くんだぞー!!」
 彪姫 千代(jb0742)には何やら凄い構想があるらしく、客席に着いてからもすっかりノリノリ、鼻歌交じりでイラストに手を入れている。
「我輩が最強の魔獣を考えてしんぜようではないか!」
 マクセル・オールウェル(jb2672)の脳裏から「調査」の2字は忘却の彼方へ。
「‥‥うまくいけば『ギョーカイ』から声が掛かるかもしれぬ」
 リンド=エル・ベルンフォーヘン(jb4728)もまた夢を膨らませる1人。
「それなら『くおん☆フルーツ』や、他の特撮作品に関われたり‥‥」
 むろん依頼であることは自覚している。だが人界に来てから特撮ヒーロー番組にハマっているリンドとしては、思わぬチャンスにテンションうなぎ登り。傍目には無表情だが、背後でその尻尾が激しく暴れている様がそれを物語っていた。

 一方、ステージの袖から客席の様子を窺いながら――。
「思ったより応募者が少ないのう。せっかくホールまで借りたというのに」
 Dr.デモス――いや、今は監督兼プロデューサーの泥喪巣義昭が、ヴァニタスのビアンカにぼやいていた。業界人っぽくジャケット&スラックスを着込み、ベレー帽とサングラス、それに付け髭で変装しパイプなどふかしている。
「ですからTVや新聞でもっと派手に広告を打てば良かったんですわ」
 こちらもレディースーツに伊達眼鏡で変装したビアンカが反論した。
 ちなみに「ディアボロマン」という偽番組のタイトルも彼女が適当に思いついただけで、それ以上詳しい内容は全然考えていない。

「おっす! オラ御供!」
 いきなり背後から御供 瞳(jb6018)に大声で挨拶され、
「のわっ!?」「ひっ!?」
 2人は腰を抜かさんばかりに驚いた。
「あんたが泥ソースだっちゃかー?」
「いえ、こちら今回の番組を監督される――」
「オラ泥ソース大好きダッチャヨ。だから頑張るっちゃ!」
「ほ、ほう。わしのことを知っとるのかね?」
「全然知らないッチャ!」
 がくっ、と前へつんのめるデモス。
「でも特撮っていえばヒーローが悪者をやっつけるっちゃね? オラそーゆーの大好きだっちゃ!」
「‥‥まあ期待しておるぞ」
「カントクー、コンテスト会場の写真撮ってもいいかな?」
 瞳の後ろから、デジタルカメラを携えたチルルが尋ねた。
 一応、調査依頼ということは忘れていないようだ。
「うむ。好きなだけ撮るがよい」
 今回、戦うつもりはないのでディアボロは連れてきていない。また裏方で働いてるのは人間の派遣会社に依頼して呼んだ一般人のスタッフばかり。要するに(自分達の正体以外)見られて困る所など何もない。
(くくく‥‥わしは貴様らのアイデアからめぼしいのを頂くだけ。我ながら完璧な計画じゃわい)

 やがてコンテスト開始の時刻になると、ステージ上に司会のビアンカがマイクを手に登場。
「皆様、本日は多数のご来場、誠にありがとうございます。皆様の作品はかの有名な泥喪巣義昭監督が自ら審査致します!」

「そんな監督いたっけ?」
「さあ‥‥初めて聞いたわ」
 客席からザワザワと声が上がる。

 が、後からパイプをくわえ現れた泥喪巣のいかにも偉そうな出で立ちに騙され、入り口で登録した受付番号順に従い、1人ずつ舞台上に昇ると持参した応募作品を発表していく。

「次は雪室 チルルさんの作品。名前はアルティ‥‥え?」
「アルティメット・タクティクス・インカ―ジョン・ロボット。略して『あたいロボ』!」
 長いネーミングに思わず口ごもったビアンカに代わり、ステージ上に立ったチルルは胸を張って魔獣の名を叫んだ。
「で、ではどういった設定で――」
「コンセプトはずばり『戦わずして勝つ』!」
「は?」
「無茶苦茶高い物魔防御・体力とそれ以外を全て切り捨てた極端な構成。あらゆる攻撃を耐え続け、相手のやる気を圧し折る戦法よ!」
「ではビジュアルを拝見します」
 ビアンカはイラストをスキャナーにかけ、その場で舞台上のスクリーンに映写する作業に入る。
 魔獣のデザイン画はイラストの得意な友人に頼んで描いてもらった。
 鉄壁の防御力を象徴するため、外観は身の丈5mの西洋甲冑をイメージした重騎士風。
 ‥‥のはずだったが。

 舞台上の大スクリーンに映し出されたのは、2等身にデフォルメして描かれたチルル自身。
 ロボットなので口の部分は腹話術の人形式で開閉、目は縦棒で大変コミカル。
 有り体にいえば魔獣というよりゆるキャラである。

「あちゃ‥‥!」
 友人へイラスト発注の際、何か手違いが起きたらしい。
 客席からどっと笑い声が起きる。
 チルルは赤面、顔から湯気が出る様な思いで慌てて舞台から降りた。

「バニー!」
 さんぽの掛け声と共に、スクリーンに彼の魔獣が映された。
 ボロボロの忍装束を纏った、人間サイズの白ウサギ。
 その姿はもふもふで、思わず頬ずりしたくなりそう。
「ええと、犬乃さんの応募作『魔忍獣ヌケニン★バニー』ですね? でも魔獣というには可愛らしいような‥‥」
「はーい! ヌケニンの凶悪さと、兎の可愛さ混ぜてみました! 耳は、ハサミがモチーフなんだ」
 ビアンカの質問に元気よく答えるさんぽ。
「一見人畜無害の可愛い姿だけど、油断をするとその恐ろしい跳躍力と、ハサミ状になった耳で首を刎ねてくるんです」
「け、結構凶悪ですわね」
「悪のヌケニンと兎の力を持った恐るべき魔獣です!」
 瞳を輝かせ解説しながらも、泥喪巣やビアンカの姿をそれとなくチェック。
 少なくとも学園のデータベースに記録された天魔ではないようだが。
(‥‥考え過ぎかな?)

「失礼。私、こういう者です」
 ぱりっとしたダークスーツにサングラスという出で立ちで舞台に上がったミハイルは、某映画会社(偽装だが)の名刺を差し出し挨拶した。
「今回のコンテスト、及び新番組は当社としても非常に興味深いものです。ゆくゆくは劇場版制作、海外公開なども検討してみたいと思いまして」
「む‥‥有り難い話じゃが、まだこちらも企画が動きだしたばかりでのう」
(‥‥怪しいな)
 普通、プロデューサーならばこの手の話には喜んで飛びついて来るはずだ。
 歯切れの悪い泥喪巣の態度にミハイルは疑念を覚える。
「ではミハイルさんの応募作、『進撃の射手』をご覧下さい!」
 慌てて間に入ったビアンカがプロジェクターを操作する。
 スクリーンに登場したのはスナイパーライフルを構えたミハイル自身。
 ビアンカをはじめ、会場内の女性客から歓声が上がった。
(ふっ、当然だ‥‥俺の写真を元に画像加工ソフトで修正、イケメン度1.5倍増しだからな)
「今時の特撮モノは子供だけじゃなく母親もターゲットだ。主役だけでなく悪役もイケメンなら更に視聴率UP!」
 さらには進撃の射手がライフルで目標を狙撃したり、周りを囲む複数の敵と両手に拳銃を構え格闘術を駆使して渡り合う動画DVDも持参して上映する。
「ちとオーバーアクションじゃな。隙が大きすぎるぞ」
「ちっち。こいつはドラマだろ?」
 ミハイルはクールに人差し指を振り、
「画面映えするから、これでいいんだよ」
「そうですわ! イケメンだから許されます!」
「ビ、ビアンカ君‥‥落ち着け」
「おっと言い忘れた。こいつには弱点があってな、ピーマンが苦手なんだ」
「わしが求めてるのは最強魔獣じゃ。弱点などいらんぞ?」
「分かってないなあんた。愛されるキャラになるには、どんなに最強でも弱点は必要だぞ?」
 泥喪巣に対しビシっと指を突きつけるミハイル。
「‥‥!!」
 老人の口からぽろりとパイプが落ちた。
「不覚っ! 盲点じゃった‥‥わしとしたことが!」
 まあ彼の場合、盲点以外を見つける方が難しいが。
「ときに、この後の選考スケジュールは?」
「本日のコンテストで何本か候補作を選出、当社で厳密な審査の結果、採用作品の応募者様にご連絡します。もちろんその時は規定のデザイン料をお支払いしますわ」
(ふむ。この場で応募者をどうにかするわけじゃなさそうだな)

「オーデン・ソル・キャドー(jb2706)と申します。以後、お見知りおきを」
 舞台に上がったオーデンはまず紳士的に一礼、そして自らの応募作をスクリーンに映した。
「何じゃこれは?」
「おでん‥‥ですね。多分スジ串かと」
 首を傾げる泥喪巣にビアンカが小声で説明した。
「然り。彼女の名は『スージー』。おでんダシの中で煮込まれていたスジ串が巨大化した魔獣で、主に全国各地のコンビニに出現します」
「これ女の子ですの?」
「串だけに、勿論関西のスジであります。決して関東風の練り物では無い」
 オーデンはビアンカの言葉など聞いてなかった。
「スジと言えば牛スジを指すのは、見た目からも明瞭です。関東のスジは、寧ろスジ蒲鉾と表記するのが、適切かつ親切というものでありましょう。一方、関西の牛スジは‥‥」
 その後、小一時間に渡ってオーデンによるスジ考察が続くのだが以下略。

「オラの考えたさいきょーの敵がこれだ!!」
 パイプ椅子に座りぐったりした泥喪巣達にお構いなく、元気よく舞台に駆け上がった瞳が叫ぶ。
 間もなくスクリーンに現れたのは、
 ‥‥足。
 上空5mにある雲状の物体から2本の巨大な素足がにょっきり生えている。
 太腿から下にあたる部分だが、筋肉の付き方やびっしり生えたすね毛から見て逞しいオヤジの足だろう。
「これは一体‥‥?」
「名前は『ビッグフッター』。このでっかい足で走り回って敵を蹂躙するだべさー!」
「強い敵=でっかい敵」という信条を持つ瞳は当初全長50mくらい、巨大ロボもびっくりの魔獣を構想したのだが、「最大5mまで」という応募規定のため泣く泣くスケールダウン。
 規定の範囲内で最大の魔獣を考案したのだ。
「確かこんな妖怪がいましたね。足洗とか‥‥」
 生理的に受付けないのか、どん引き状態のビアンカが呟く。
「フム‥‥面白い!」
 対照的に泥喪巣は目を輝かせ、熱心に採点した。

「まず必要なのは筋肉であるな」
 舞台上で開口一番、マクセルがいった。
「筋肉は力強さの象徴ゆえ、弱そうな敵では画面に映えぬ」
「それはまあ、確かに」
「それから筋肉であるな」
「はぁ?」
「筋肉なくば重厚さが足りず、強く見えないのである。それではヒーローが魔獣を倒してもスカッとできないのである」
「そ、そうですわね」
「そして筋肉であるな」
「あのう‥‥」
「敵対した際の絶望感は敵の戦力を如何に大きく見せるかにある。筋肉はそれを端的に表わすに向いているのである」
「‥‥」
「そう、つまりこのような‥‥!」
 映し出されたのは、ほぼマクセル同様の金髪モヒカンマッチョな漢。
 違いといえば、彼に比べ色白でヒビが入った様な乾いた皮膚感くらいか。
「む? どこかで見たようなデザインであるな‥‥まあ良いか」
 マクセルは泥喪巣を見やった。
「ところでプロデューサー殿! 魔獣のスーツアクターは決まっているのであるか?」
「いや‥‥」
「ならばこの魔獣マスミラのスーツアクターは、是非我輩に!」
 もはやスーツを着るまでもないと思うが。
「ま、まあ考えておこう」

 何とも男臭い魔獣が続き、何やら毒気を抜かれた舞台上に、尻尾を振り振りリンドが上がる。
「コンセプトは『恐怖』。俺的に怖いと思うものを色々ミックスしてみた」
 その言葉通り、スクリーンに映ったのはタコやナマコなどの水生動物をベースとしたぶよぶよのボディに、人の顔を無数に貼り付けたような大層不気味なビジュアル。
 ただでさえ赤黒くてヌルヌルしていて気持ち悪いところ、リンドの描いたクレヨンでの設定図が神レベルに下手くそで更に気色の悪い事になっている。
「うぷ‥‥」
 思わずビアンカが口許を押さえて顔を背けるが、泥喪巣の方は「おおっ」と感嘆の声を上げ身を乗り出した。
 そこは同じ悪魔同士、何か琴線に触れるものがあったらしい。
「この人面から伸びる舌を伸ばし、水中に相手を引きずりこんで、説明するのも憚られるような酷い事をしてくるのだ」
「おお‥‥これじゃ! これぞわしが求めていた名状し難き恐怖!」

「見てくれ! 俺が考えたすんげーまじゅー!」
 最後の登壇となった千代が自信たっぷりにデザイン画を披露した。
 彼の脳内イメージでは巨大な黒き虎。
 数本の尻尾を生やし、口から炎を吐いて暴れ回る‥‥はずだった。
「あんなあんな! すげー大きくてガオーって鳴くんだぞー!」
「‥‥」
 会場全体がシーンと静まり返っていた。
 スクリーンに映っていたのは、千代の理想とはほど遠い、真っ黒の塊が人型になって周りに触手が大量に生えた、「怪人磯巾着男」としか表現しようのない生物だったのだから。
「何だか、さっきの魔獣に似てますわね」
「ウム。特にこの触手の部分がな」
「触手? よく分かんねーけど尻尾がいっぱいでそれで人を捕まえてたりするんだぞー!」

「やっぱり‥‥どうしましょう、ネタ被りですわ」
 千代には聞こえないよう、ビアンカと泥喪巣はひそひそ密談。
「いや、これはこれで面白い。つまり眷属という設定でだな――」


「では本日、候補作として選ばれた作品を発表致します」
 ビアンカが読み上げたのは、つばさを除く撃退士達の魔獣8体だった。
「どうもお疲れ様でした。最終選考の結果は、後日ご連絡しますね♪」

 かくしてコンテストはつつがなく閉会となった。

「面白くないのだ。あたしの応募した猫耳ドラゴンがボツだなんて‥‥」
 むくれるつばさをよそに、撃退士達は早くも誰の作品が採用されるかで盛り上がっている。
「もし詐欺じゃなくてまっとうなテレビ番組なら、こいつが悪役として暴れるのか。胸熱だな!」
 ミハイルがちょっと興奮気味に語れば、
「撮影時期までにキグルミを着た状態でのアクションを学び、極めてくるのである!」
 マクセルは既にやる気十分。

 誰が知ろう? これがあの恐るべき戦いの序章になるとは――!

(続く)


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
撃退士・
彪姫 千代(jb0742)

高等部3年26組 男 ナイトウォーカー
伝説のシリアスブレイカー・
マクセル・オールウェル(jb2672)

卒業 男 ディバインナイト
おでんの人(ちょっと変)・
オーデン・ソル・キャドー(jb2706)

大学部6年232組 男 ルインズブレイド
誇りの龍魔・
リンド=エル・ベルンフォーヘン(jb4728)

大学部5年292組 男 ルインズブレイド
モーレツ大旋風・
御供 瞳(jb6018)

高等部3年25組 女 アカシックレコーダー:タイプA