.


マスター:ちまだり
シナリオ形態:イベント
難易度:やや易
参加人数:50人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/03/22


みんなの思い出



オープニング

●久遠ヶ原学園〜学生食堂
(‥‥はぁ〜。羨ましいなぁ)
 トレイに置いたピラフをひと匙食べ、湊ヒカリは憂鬱そうに頬杖をついた。
 中等部女子制服に身を包み、ショートのボブヘアと小顔で端正な容貌。
 通りかかった他の生徒が思わず立ち止まるほどの「美少女」であるが、いまは食事もろくに進まないほどブルーな気分らしい。

「こらっ。ごはんは楽しく食べないと、作ってくれた人に失礼だぞ?」

 ふいに誰かの指で額をちょんと突かれ、驚いたように顔を上げる。
 テーブルを挟んでこちらに身を乗り出していたのは、頭に大きなネコミミカチューシャを付け、その顔もどこか猫っぽい高等部の女子生徒だった。
「えーと‥‥どちら様です?」
「あたしは綿谷つばさ(jz0022)。いやもちろん赤の他人だけどさー。はたから見ててもすごーく悩んでるようだったから、ついお節介焼きたくなっちゃったワケ」
「え? あの、そんな‥‥大したことじゃないです」
 慌てて手を振るヒカリにお構いなく、つばさは向かいの席にストンと腰掛けると、自らも購買で買ってきたばかりの惣菜パンを頬張り始めた。
「まーまー、遠慮はいらないから。ひとつおねーさんに相談してみな? 力になったげるから☆」
「はあ。実は‥‥」
 ヒカリはおずおず片手を上げると、少し離れた席で楽しげに会食する女子生徒のグループを指さした。
「あの人たちみたいに‥‥か、可愛い服着てみたい、なんて思ってしまいまして」
「服買うお金がないの?」
「いえ。依頼の報酬を貯めてるから、お金は大丈夫なんです」
「なら買って着ればいーじゃん。うちの学園、私服OKだよ?」
「それはそうなんですが‥‥女の子のファッションとかそういうの、よく分からないもんで‥‥どのお店に行ってどんな服を買ったらいいのか、見当もつかないんですよ」
「え〜? もったいない。そんな美人なのに」
「美人だなんて、そんな‥‥それにボク、ここに転校するまで、ずっと制服でしたから」
(いまどき珍しいなぁ‥‥よっぽどお堅い学校だったのね)
「なるほどねぇ。ウンウン、そーいうことならお安い御用♪」
 つばさはポシェットからスマホを取り出すと、近くの斡旋所のナンバーをプッシュした。
「もしもーし」
『はい〜。あれ? その声はつばさちゃん?』
 電話口に出たのは生徒会員で斡旋所受付け担当の伊勢崎那由香(jz0052)。
 彼女はつばさのクラスメイトでもある。
 今は昼休みだが、依頼はいつ飛び込んでくるかわからない。
 那由香は今日の当番として斡旋所で弁当を食べていたのだろう。
『どないしたん?』
「急な話で悪いんだけどさ、次の日曜、校内の会議室で使える部屋ってあるかな?」
『ん〜、ちょっと調べなあかんけど。日曜なら、空いてる部屋はいっぱいあるはずやで』
「イベントの依頼出したいんだ。みんなでおニューの春物持ち寄って、学校で即席のファッションショー開くの」
『へえ〜、オシャレやなぁ。わかった、適当な会議室みつくろって、予約しとくわ〜』

●廊下
「――午前中にみんなで街に繰り出して洋服のショッピング。で、午後は学校の会議室でその服を見せっこするの。ヒカリちゃんも買い物のときみんなに教わって、ファッションショーでコーディネートの勉強ができるでしょ?」
「わぁ、面白そうですね。でも、ホントにいいんですか? ボクなんかのために」
「遠慮はいらないのだ♪ 実は、あたしもそろそろ春物の服買おうと思ってたとこだし。それにヒカリちゃんこんなに可愛いのに、制服しか着ないなんてもったいないよ!」
「えー、そんな‥‥綿谷先輩の方が綺麗ですよ」
 すっかり意気投合した2人は、学食を出たあとも楽しげにお喋りしながら廊下を歩いていた。
「――と。あたし、午後の授業の前にお手洗い寄ってくから」
「あ、ボクも‥‥」
 ちょうど廊下の脇に生徒用トイレを見つけて入っていく2人。
 つばさはぎょっとした。
 並んで歩いていたはずのヒカリが、なぜか男子用トイレの方へスタスタ歩いていくからだ。
「ちょ! ヒカリちゃん、そっち違う!」
「え?」
 ヒカリは驚いて立ち止まり、トイレのマークを確認したが。
 すぐホッとしたように笑った。
「やだなあ先輩、間違ってないですよ? だってボク、男ですから」
「‥‥‥‥え?」
 つばさは目を丸くして、後輩の顔を凝視した。

●斡旋所
 受付け脇の電話が鳴った。
「はい〜‥‥あ、つばさちゃん? 会議室の予約は取れたから、例の依頼はこれから公開するところやで」
『あ、あの‥‥その依頼、ちょっと告知内容変えてもいいかな?』
 心なしか、つばさの声はせっぱ詰まっている。
「? ええけど」
『ええと、その‥‥ファッションショーは同じだけど、ただし男の娘メインって‥‥』
「男の子? メンズファッションのショーやったんか?」
『そうじゃなくて男の娘! オトコノムスメだよ!』
「オトコノ‥‥ああ、アレやな? いま流行りの女装男子ちゅーヤツやな? アハハ、うちかてそれくらい知っとるがな〜」

 笑いながら電話を切った那由香は、さっそくデスクのPCに向かうと、パックのコーヒー牛乳をストローで飲みつつ依頼文の作成に入った。
「えーと『男の娘メインのファッションショー開きます』と‥‥しかし意外やな〜、つばさちゃんも男の娘やったなんて‥‥ん?」
 軽快にキーボードを打っていた那由香の指が、ピタリと止まる。
「つばさちゃんが‥‥‥‥‥‥男?」

 ヴフォア!!

 次の瞬間、那由香は口に含んだコーヒー牛乳を盛大に吹き出していた。


リプレイ本文

●久遠ヶ原島内〜商店街
 バスから降りた学園生徒一行は、街でも特に大きなデパートへと向かった。
 ここならば春物の衣類から小物アクセサリーまで、一通り揃うだろう。
「ふふふ♪ そろそろ違う服が欲しいなぁと思っていた所なのですよ♪」
 とほくそ笑むのはドラグレイ・ミストダスト(ja0664)。
 自ら複数の報道系クラブに所属するほど好奇心旺盛な彼は、今回も事前にファッション関連で評価の高いお店をチェック。小冊子にまとめて参加者に無料配布した。
「みんなの情報誌ドラグレイですよ♪ 今回は人気のお店を調べてきたのです♪」
 また愛用のタブレットPCを持参、午後に予定されているファッションショーもしっかり取材すべく意欲満々である。
 ちなみにドラグレイ自身のお目当ては、可愛くて露出度の低い服。
「おお♪ この服可愛いのですよ♪」

 獅子堂虎鉄(ja1375)の場合、女装時は「てとら」を名乗っている。
「てとら思うの。女装は外見だけじゃなく、内面も女装しないとだよね♪」
 にぱっと笑いつつ、売り場に着くとさっそく午後のファッションショーに備えて衣類をみつくろう。
「外見がおっけーなら、次は心の飾りつけ! やろっ♪」
 ショーではてとら(虎鉄)とユニットを組む予定の亀山 淳紅(ja2261)も同意する。
 なお「女装時は別人格(裏人格)」と主張する者は少なくない。
 たとえば鳳 静矢(ja3856)の女装時名(女性人格)は「鳳静香」。
(男の娘まつり‥‥楽しんで参りましょう♪)
 今回は弟分の藤沢 龍(ja5185)を伴っての参加だ。
「龍君、これどうかな?」
 自分の服とお揃いで赤色系統の服を薦めてみる。
「女装は初めてだから緊張するな‥‥」
「あら‥‥似合ってるわ、ふふふ♪」
 その一方で、静香(静矢)はヒカリにも服選びのアドバイスをしてやった。
「まずは自分の髪や線に合った衣装を考えると良いですわ。その上で自分の好きなアクセサリーを添えれば‥‥完璧ですわ♪」
「なるほどー、勉強になります!」
 まだ女性用の普段着が少ないため制服姿で参加のヒカリは、うんうん頷きながら熱心にメモを取る。
 その間、龍は静香に選んでもらった服の他、自らはアクセサリーとして赤いピアスを買うのだった。

「洋服を買いに来るなんて久しぶり、ただ最近の流行とか全く判らないのよね」
 婦人服売り場の一角。
 東雲 桃華(ja0319)は特に依頼とは関係なく、たまたま個人的なショッピングでデパートを訪れていた。
「でもこういう事に気を回せるようになったのは、心に余裕が出来始めたって事かしら」
 思えば学園生活や依頼にもだいぶ馴れてきた。
 もう1つの変化といえば、最近気になる男子生徒が現れたこと。
 そのため、桃華としてもこの春は女の子らしいファッションに気を遣わざるをえない。
「‥‥こういうのが好み、なのかな‥‥。でも、私には似合わないわよね‥‥こんな可愛い服なんて」
 ふいにエスカレーターの方からザワザワと人声が聞こえてきた。
「‥‥? ‥‥何か向こうの方が騒がしいわね」
 見れば、学生らしき男女数十名がエスカレーターを昇り、次々とフロアに上がってくる。
「どこの学校の遠足だろ‥‥って、あれうちの学園じゃない」
 ついつい好奇心から引き寄せられ、いつしか彼女もショッピングツアーの一行に合流していた。

 犬乃 さんぽ(ja1272)は厳密にいえば男の娘ではない。
 彼が日頃から女物のセーラー服を着ているのは、外国人で(間違った)日本かぶれの母親から教わった知識によるものだ。
 だが友人の緋伝 瀬兎(ja0009)は、さんぽが精神的にも「男の娘」だと誤解していた。
「折角だから忍者ファッション、レクチャーしよっか?」
「あ、それお願いするよ!」
「先に今風の忍装束を探そっか? 昔ながらのだと現代じゃ少し目立っちゃうっしょ」
「最新のニンジャ衣装だね?」
「上は和柄Tシャツにベストを合わせて‥‥ベストって裏に色々隠せるから便利なのよ」
「手裏剣とか煙玉とか、色々必要だもんね」
「下はふわっとしたミニのキュロットとニーソックスで絶対領域を演出、なんてどうだろ?」
「うん、それ何だかイケてる!」
 なぜ忍者装束に絶対領域が必要なのか? ちょっと不思議に思いつつも、それが現代のニンジャなのだろうと納得するさんぽ。
 互いに勘違いしたまま、次はコスプレ用の忍者服コーナーへ移動した。
 有事の際に備えて正統派の忍者服も必要というわけだ。
 いったいどんな「有事」なのかは謎だが。
「わぁ、これもニンジャ!」
 さんぽが目をキラキラさせる。
 数ある忍者服の中から瀬兎が選んだのは、色は地味だが女性用の所々露出したセクシー系。
 あまり忍んでないような気もするが‥‥。
「さっきの服から早着替え出来れば尚おっけー!」
 瀬兎はぐっと拳を握り太鼓判を押した。
「よーし。これで午後のファッションショーではバッチリ、ニンジャらしくカッコいいとこ見せちゃうから!」
 そのショーが「男の娘メイン」であることを、さんぽはまだ知らない。

 もちろん本来の目的である「ヒカリへの女装指南」も忘れられてはいない。
 男女を問わぬ参加者たちがヒカリを取り囲み、まだ女装の何たるかを知らぬ少年を未知の世界へと誘うべく、あれこれとアドバイスを始めていた。
「せっかくの機会ですし、女装してみますよー! そしてヒカリちゃんが男の娘の世界に入るお手伝いもしますよー!」
 自らも今回が初の女装となる櫟 諏訪(ja1215)は、ヒカリと共にいろんな服を一緒に試着。分からないことがあれば他の生徒に助言を仰ぎつつ、女性服一式にウィッグまで購入していく。
「湊さん! あたしもあたらしいお洋服が欲しかったんです! いっしょにえらびましょー!」
 丁嵐 桜(ja6549)がヒカリを誘い、春の新作コーナーを回る。
 自分の服選びを兼ねて、ヒカリの服を選んでやるのだ。
「春といえば、やっぱりピンクですよね!!」
 春物、そして女の子らしさをだすためにピンクを中心にチョイスしていく。
「男の娘になるにはツインテだ!」
 そう豪語するのは二階堂 かざね(ja0536)。
「え? でもボク、髪短いですし‥‥」
「問題なし! ウィッグやエクステつければいいんだから」
 自ら「ツインテは正義!」を信念とするかざねはヒカリに強烈なツインテ推しを行った後、自分用の買い物としてツインテ用リボンなど物色し始めた。
「まぁ細かい知識は抜きにするなら、とりあえず色合いさえおかしくならなければ安物でも十分じゃろうなぁ」
 それだけいうと、子猫巻 璃琥(ja6500)も自分の買い物へと戻る。
「とりあえず春モノって事でピンク系や白系の服でも見繕っておくかにゃー」
 猫耳ヘアバンドや帽子を何色か色違いで選ぶとカートに入れた。

 沙 月子(ja1773)は女性の立場から「女の子の格好=スカート」ではないことをヒカリに指摘した。
「確かに分かり易いですが、それだけでは合格点はあげられません。キュロット、ハーフパンツ、ブーツカット‥‥パンツスタイルでも十分な可愛らしさが出ます。要は組み合わせの問題です」
「そうですね‥‥」
「ここはあえてサブリナパンツをオススメします。トップスはカットソーでもポロシャツでも、キャミの重ね着でもいけますし」
「あ、じゃあこれとこれ、買います♪」
 月子お薦めのサブリナパンツの他、数種類のパンツファッションを購入するヒカリ。
 この日に備えて、かなりの軍資金を貯め込んでいたようだ。
 森浦 萌々佳(ja0835)はヒカリの好みを尋ねつつ、普段着として着れるようにコーディネーションのアドバイス。
 他の生徒でも服選びに迷う者を見つければ、親切にアドバイスしてやる。
「背の高い方は着物。背が低い方はゴスロリ。普段着がいい方はスカート中心でコーデするのがお薦めですよぉ」
「ちょっと失礼?‥‥綺麗な肌ね、お手入れはどうしてるかしら?」
 土方 勇(ja3751)は洗顔の大切さや、今のところ乳液やクリームは必要ないこと等をヒカリに説明した。
 勇自身、ルージュやマスカラにアイライン等を使ったメイクを施しているが、それが着ているゴスロリ服によく似合う。
「久遠ヶ原に来るまで、ずっと男子服だったのでしょう? ファッションもいいけど、まずはお化粧の基本から覚えておくといいですよ」
「いわれてみれば‥‥そこまで気が回りませんでした」
 勇はヒカリを連れて化粧品売り場に行き、肌に合う化粧水と美容液を一緒に選んでやった。
(お洋服は素敵な女性陣にお任せして、私は馴染みの和服をお薦めしましょう)
 全力全壊☆お色気♂くノ一スキル発動中の東城 夜刀彦(ja6047)は、馴染みの和装レンタル店からもらってきたカタログをヒカリに進呈。
「たまには和服も良いもの。華艶の世界にいらっしゃいな」
「でも振り袖って着付けが難しくないですか?」
「こちらは神楽坂 紫苑(ja0526)先輩。とても素敵な着付けをしてくださる方ですわ」
 と、同行の紫苑を紹介。
「あ、はじめまして」
 ペコリと頭を下げるヒカリ。
「もし和の装いにご興味がおありでしたら、一緒に学びに参りませんか? 初詣や成人式‥‥着る機会は色々ありますわ。いつでも気軽にいらっしゃってくださいね」

 そして――ついに下着売り場の前。

「それでは男の娘的下着選びを教えますね?」
 アーレイ・バーグ(ja0276)の言葉に、ヒカリは緊張で身を固くした。
 女性用下着はネット通販で2、3度買ったくらいで、リアルの下着売り場に踏む込むのは初めてなのだという。
「ファッションとして楽しむなら、このあたりにあるお洒落なAAカップあたりのブラで良いでしょう」
 といいつつ、試着室でヒカリの胸にブラを当ててみるアーレイ。
 当然ながら、ヒカリの胸はぺたんこだ。
「女の子的身体のラインを出したいのであれば、ある程度大きなカップのブラに詰め物をして使うことになります」
「‥‥こればっかりは仕方ないですよね」
 アーレイの巨乳を羨ましげに眺め、ヒカリは切なそうにため息をもらす。
 ブラについて一通り教えると、次はショーツ。
「ショーツもファッションとして楽しむならゴム強めのショーツをそのまま着用すれば大丈夫です。ですが‥‥パンツルックの場合そのままでは無理があります」
 アーレイはヒカリの股間をちょっと見やり、
「なのでアレを格納する特殊な下着を着用することになります」
「ええっ! そんな便利な物が!?」
「さすがにここには置いてませんので――」
 スマホを取り出し、アーレイは驚愕するヒカリに女装用特殊下着の通販サイトを見せてやった。
「大体こんなものです、興味が出たら試して下さい」
「ハイ!」

 同じ婦人服フロアでは、
「流行とかわからないからなー‥‥まぁ、ちっと質素な服でいいか」
 高野 晃司(ja2733)が自由気ままに女性服を見て回りながら、首を傾げる。
「男の娘に聞くのも‥‥かわいいと思う服でいいか」
(変装‥‥もとい女装して紛れたら僕だって分かるかな? なんてね)
 青柳 翼(ja4246)はちょっとしたイタズラ心に胸を躍らせつつ、こっそり女物の衣類をみつくろう。

 そんな中、Nicolas huit(ja2921)(ニコラ・ユィット)の心境はやや複雑だった。
(春の服を買うだけ‥‥買うだけだから!)
 ニコラは自分のことを「男の娘」だとは思っていない。
 たまに女物の服を着る事があれど、それはファッションであり、彼自身はお洒落なだけのただの男の子なのである。
 たとえ男の娘にしか見えなくとも。
(ヒカリにだって今年の春夏の流行くらいは教えてあげられるだろうけど、心の事は他の人に任せるよ。僕はジョソーでもオトコノコでも無いし‥‥やってる人のほうが良いよね?)
 そう思いつつ、ニコラは自分好みの服を見つけては、カード払いで景気よく買いこんでいくのであった。

 さて、今回の参加者が全て男の娘や女装男子というわけではない。
 ちょうど春物の新作が出回る時期とあって、ごく普通の買い物目的で参加した男女も少なくなかった。
(男の娘がメインのファッションショー‥‥か。最近の学園の様子を見ていると、普通に出来そうなのが何とも)
 周囲で嬉々として女性服を選ぶ男子生徒たちを眺めながら、天風 静流(ja0373)はこれも時代の流れかと思う。
 静流自身はもちろん女性、しかも相当の美人と呼んでよいルックスである。
 だが武道家である祖父の影響か、普段の生活も質実を旨とし、特段ファッションに対するこだわりはない。
「女の子らしい人は他に沢山いるしね。私くらいはマイペースにいっても問題無さそうだ」
 と、あくまで機能性重視で自分用の衣類をカートに入れていく。
「さて、何を買おうかなっと。‥‥お、これなんかよさそう」
 グラルス・ガリアクルーズ(ja0505)もまたノーマルな男子生徒として、春物の男性服を適当にみつくろい、気に入ったものを購入していった。
 彼に女装の趣味はないが、後学のため午後のファッションショーにも観客として参加しようかと思っている。
「せっかくだ、俺も彼女の為に指南受けさせてもらおうかね」
 麻生 遊夜(ja1838)もヒカリ同様、最近の女性ファッションに興味がある1人だ。
 といっても自分が女装するためではなく、彼女へのプレゼント選びの参考にするためだが。
 ヒカリの傍にいて他の参加者があれこれアドバイスするのを一緒に聞き、服装やアクセラリーの選び方など女性の好みに学ぶ。
 時にはヒカリに似合いそうな衣服に目を留め、薦めてやったりもする。
「こんなのはどうだろう?」
「ど、どうでしょう?」
「おお、似合ってるじゃないか」
 参加者の中に知人を見つければ談笑しつつ、彼女に似合いそうな落ち着いた感じの服や小物があれば購入した。
「‥‥喜んでくれるといいなぁ」
 この服を着た彼女の笑顔を想像して、何となく自分も嬉しくなる遊夜。
 やはり春は恋の季節である。
「買い物を楽しめるなんて久しぶりです。欲しいものはたくさんあるけど、節約しないと‥‥」
 牧野 穂鳥(ja2029)はこの日のために、ネットや友人の口コミなどからお店の情報を集めていた。
 自分用には可愛いシュシュや、シンプルなリングやネックレスのようなアクセサリーを吟味。
 また和物があればそちらを中心に回ってみる。
 ヒカリについては、まず彼の服選びが済んでから、その服に合うような小物を幾つか選んであげるつもりだった。
「趣味に合われるといいのですが‥‥」
 日常生活でも常に巫女服を着用している神城 朔耶(ja5843)は、
「この際私も湊様と一緒にファッション指南をしてもらうことにします!」
 と一念発起しての参加。
 女装云々は関係なく、日頃着慣れた自分の服装を思い切って見直すというのは、気分転換として精神衛生上も良いことなのかもしれない。
 ネコノミロクン(ja0229)は専ら自作アクセサリーのパーツに使うため、パワーストーンビーズ、リボンなどを購入していた。
 選ぶ石は緑やピンク等、春らしい色の物。
 意外にバリエーションは豊富で勾玉やハート型に研磨された石もある。
 ヒカリも興味深そうに覗きこんでいたので、それぞれの特徴や効果について分かりやすく説明してやった。

 女装に憧れる男性がいれば、逆に女性服を受付けない――というか、なぜか男装の方が似合ってしまう女性もいる。
 レギス・アルバトレ(ja2302)もそんな1人であった。
 女らしい服装は、肌の露出に抵抗があるためここ10年は着ていない。
 今日も何を着ていけばよいのか分からず、結局儀礼用制服(男性用)を着てきたのだが、それがまた困ったことに凄く似合ってしまうのだ。
(‥‥女がどんな感じに衣装を選ぶのか気になって参加したが‥‥妹の目が何か怖い)
 ちらっと傍らを見やると、妹的存在のRehni Nam(ja5283)(レフニー・ナム)と友人のソリテア(ja4139)が、何やら意味ありげに目配せしあっている。
 それもそのはず。
 レフニーの目的はこの機会にレギスに「女らしい服装」を着させ、なおかつソリテアと2人でファッションショーへ参加させることにあったのだから。
(レギスお姉ちゃんを可愛く着飾りたいのですよ〜)
 ショーではレギスの相方となるソリテアの衣装選びにも余念がない。
「んーと、普段の黒ゴスも可愛いけど、白ゴスはどうでしょう?」
「ゴス以外にも、こんなカジュアルなのもいいですね」
 ソリテア自身は普段がゴスロリ服なので、今回は気分を変えて別の服に関心がある様子だ。
(『七星の魔女』、ゴス以外にも挑戦です!)
 試着室から出てきたソリテアの姿は、ロリワンピ着用&ネコミミ装着という出で立ち。
「どうですか?たまにはこういうのもいいですよね」
 くるりと一回転しながらいう。
「てぃ、ティアさん、かわいいのです。お、おも、お持ち帰り〜っ!」
「え!? レ、レフニーさん!?」
 いきなりハグされ狼狽するソリテア。
 慌ててレギスの方へ話を振る。
「こんな感じのはどうでしょう? 私みたいなゴスロリとか、あとこれとか‥‥」
「いや着ないから。ショーには二人で参加しておいで?」
「ダメです! 普段は私服を着ないお姉ちゃんの私服姿で2倍、カッコいい系のお姉ちゃんのスカート姿で2倍、恥らう姿で更に3倍の1200万パワーなのです!」
 レフニーの気迫に押され、やむなくレギスは極力肌の露出が少ない春物の長袖ブラウス&ロングスカートに着替えてみた。
「お姉ちゃん、ステキなのです〜!!」
 興奮して目を輝かせるレフニーだが、おかげで自分の服を買うことをすっかり忘れている。
 恥ずかしさのあまり、レギスの顔は真っ赤だ。
(やれやれ‥‥)
 2人に振り回される中、ふとレギスの目はフロアの一角、ブライダルコーナーに止まった。
 思わず花嫁衣装を着た自分と、その隣に立つ「彼」の姿を想像する。
「――さんもこれ見たらきっと喜びますよ!」
 レフニーの言葉にハッとするレギス。
 いかに普段の服装が男っぽくても、恋人のことを思うとき、彼女もまた1人の乙女となるのだ。

●久遠ヶ原学園〜某校舎内
 イベント会場となる会議室では、午後に開催されるショーに備え、有志の参加者により前準備が行われていた。
「さて、いっちょやっつけっか!」
 頭にぐっと豆絞りを巻いた佐藤 としお(ja2489)が張り切って叫ぶ。
 彼の役割はいわば舞台監督。
 全体の流れや出演者・関係者の要望を聞き入れ、会議室の机等を使ってショーの舞台を作っていくのだ。
「誰か手伝ってくれますか〜?」
 としおの呼びかけに応え、何名かの生徒たちが手伝いに参加。
「男の子じゃなくて男の娘なんだ‥‥今はそういうの流行ってるんだね‥‥」
 常塚 咲月(ja0156)は他の生徒たちと共にステージ、及び花道の設営を行った。
「雰囲気出す為に、机って言うのが分からない方が良いよね‥‥?」
「どうせなら本格的な舞台にしたいな」
 元々会議室にあった備品で足りない分は、静流が学園の倉庫から借りてきた行事用の大道具・小道具で補完する。
「簡易的なものと言ってたが‥‥結構大掛かりなものになりそうだな」
 南雲 輝瑠(ja1738)はライトアップや室内の飾り付けを担当。
 元々会議のプレゼン用に音響設備は整っているが、さらに演劇部から借りたスポットライトなどを運び込み、ますます会場のセットはグレードアップしていった。
 ちょうど昼時とあって小腹の空いた咲月は、セットの陰で一休みしてお弁当を食べる。
 他の生徒に見つかると、弁当箱を差し出しお裾分け。
「――‥‥からあげ食べる‥‥?」

 会場設営が着々進んでいく頃、別の空き教室を借りた「控え室」では、舞台に上がるモデルたちが各々着替えやメイクなど支度を整えていた。
「一応全部必要な物は、そろっているみたいだな?」
「はい。レンタル店に値段交渉してフルセット借りてきました」
 夜刀彦に確認した紫苑は、さっそく彼の振り袖の着付けにかかった。
 柄は背が高い場合は派手目に、小柄な場合は控えめにするのがコツである。
 紫苑は馴れた手つきで手早く着付けてやった。
「よし、できたぞ。あ〜激しく動くなよ?乱れたら、直せないだろう?」
 そういう紫苑自身は長い髪をポニーテールに結い、顔には薄化粧。
 白手袋着用の黒のドレスをまとい、謎の喪服女(?)というコンセプトだ。
 ショーでは舞台の隅でピアノ演奏を担当する予定である。
 権現堂 幸桜(ja3264)はカタリナ(ja5119)から「この機会に男の娘アイドルデビュー」の話を持ちかけられていた。
『え? ま、待って! アイドルとか無理だよ』
 当初は断ったものの、結局は押し切られて出場することに。
 コスチュームは清楚なイメージでロングスカートを履き、本番を前に歌と踊りのリハーサルに励む。
「恥ず‥‥」
「恥ずかしがらないで! アイドルになるんでしょう?」
(アイドルになるなんて僕は言ってないよ! ‥‥なんて言えない‥‥)
 涙目で特訓に耐える幸桜であった。

「僕、こんな格好で人前に出るの嫌なのです!」
 御手洗 紘人(ja2549)はこの期に及んで虚しい抵抗を続けていた。
 ルーネ(ja3012)から共に「ツインアイドル」を結成しステージに立つことを提案されたのだ。
 ちなみに「こんな格好」とは紺のフェイクレイヤードニット(白タイ付)&薄茶に白の水玉のミニスカート&ベージュのヒールサンダル。
 ルーネによれば、紘人自身の女性人格「チェリー」が見立てた衣装だという。
「ほら、もう腹括って。男(の娘)でしょ?」
「ル‥‥ルーネさぁぁん‥‥」

「妥協したとなれば流派の恥、全力をもって参加しよう」
 人気のない別の教室で、中津 謳華(ja4212)は独り静かに呼吸を整えていた。
「はぁあああああ‥‥!」
 グキグキッという鈍い音と共に、骨をずらし、筋肉を絞り、しわ寄せとして胸と尻に肉つきを集中させ、喉を弄り声質を女性のものに変える。
 おおっ何ということか?
 身長187cm・体重78Kgの筋骨逞しい男の肉体が、たちまちにして萌え萌えキュン☆な美少女へと変っていくではないか!
 これぞ中津荒神流107神技が2つ、女身整体術と如意変声。
「‥‥我が流派に妥協の文字はない」
 恐るべし、中津荒神流神技!

 再び控え室。
 青空・アルベール(ja0732)は悪友の月子、そして恋人の萌々佳からよってたかって女装を施されていた。
「振袖! 振袖着ましょうよ! 春らしく!」
 月子が着付ける振り袖は梅と鶯柄。
「髪はエクステで長くして、花の簪。紅梅にしますか‥‥うん。よく似合ってますよ」
「似合ってるならいい‥‥いいのか?」
「いやん、すーちゃん(青空)可愛い〜!」
 青空の弱々しいツッコミも虚しく、振り袖の美少女と化した恋人の姿に、感極まったように萌々佳が叫ぶ。
 だが彼女はそれだけでは物足りず、控え室にいる他の男子生徒のメイクやヘアセットを手伝うべく走り回った。
「男の娘コーディネーターに、あたしはなる〜!」
 本番を前に緊張する出場者を前に、紅鬼 蓮華(ja6298)が女性モデルとしての心構えを内心から見た目まで親切に指導。
 それでも尻込みする者がいれば、男女を問わず優しく抱き締め、相手が落ち着いてから体を放すと、
「はい、笑って。うん。可愛いから自信持ちなさい♪」
 と元気づけてやる。

●新春男の娘フェス!
「よし完璧だっ!」
 どうやったらこんなの出来るんだ? と驚くほどの豪華さで完成したイベント会場を見渡し、としおが満足そうに額の汗を拭う。
 ちょうど開場時刻を迎え、室内には徐々にギャラリーの生徒たちが増えてきた。
「ふむ、何やら面白そうなことをやっているではないか」
 入り口をくぐった天沢 紗莉奈(ja0912)は窓に厚手のカーテンが引かれ、代わりに天井の照明が点けられた会場を見渡す。
「見知った顔も出るようだし、観客として見させてもらおうじゃないか」
「なに、下僕共が何か行事に参加すると聞いてな‥‥ならば主たる我輩が見届けてやらぬ訳にもいくまい」
 なぜか手製の重箱弁当10人分を抱え、ラドゥ・V・アチェスタ(ja4504)が入室。
 大事な下僕(ともだち)のため弁当を運ぶのも、また主たる者の務めなのだ。
「はてさて、皆さんの頑張りを拝見致しましょうか」
 ラドゥと同行の石田 神楽(ja4485)は楽しげにデジタルビデオカメラの準備。
「神楽よ、撮影の方は任せたぞ」
「はいはい、ラドゥ様♪」
 さらに準備を済ませ出番待ちの男の娘モデルたちも集まってくる。
「‥‥本当に男なのか疑わしくなるほどの男の娘が多いな‥‥」
 裏方の仕事が一段落したので客席に落ち着いた輝瑠は、男の娘モデルの面子を眺めて半ば呆れ、半ば感心したように呟いた。
「確かに男の娘のレベルが高いな。女子が紛れて『誰が本物?』なんて問いかけをされたら、混乱してもおかしく無い気がするな」
 設営の手伝いを済ませた静流も同じ感想を抱く。
(男の娘‥‥というから何かと思うたが、何だ、女子しかおらんでは無いか)
 ラドゥに至っては男の娘を男と見抜けず、全員が女性かと思っている。
 その隣で、
「ふむ、なるほどなるほど。面白いです♪」
 神楽がさっそく「男の娘たち」を撮影開始。
 むろん、盗撮にならないよう撮影前には本人の承諾を得てから。

 ふいに天井の照明が消え、会場がふっと暗くなる。
 舞台袖に待機する月子がスポットライトを操作、ステージを照らし出した。
「よく考えればここが一番の特等席ですね♪」

「さぁ、はじまりました。本日のファッションショー‥‥こんな可愛い子が女の子のはずがない!」
 スポットライトの中、マイクを持った赤毛の少女が元気よく沖縄弁で喋る。
「司会は魂の実況者、与那覇 アリサ(ja0057)と解説は不可能を可能にする男‥‥の娘、清清 清(ja3434)にお願いするさー!」
 アリサの恋人でもある清が舞台袖から現れると、客席から大きく拍手が挙がった。
 次いでサブ司会の虎綱・ガーフィールド(ja3547)も現れ舞台挨拶。
「さぁ始まりました、一体誰得なこの新春・男の娘まつり! なお企画立案は最近男の娘説が流れている綿谷つばさ(jz0022)さんです!」

「え? あたしが? ‥‥何で?」
 舞台袖で裏方を務めていたつばさがキョトンとする。
 そんな彼女の背後からてとらが声をかけた。
「悪いけど、そのネコミミカチューシャ、ちょっと貸してくれない?」
「? うん、いーよ」
 頭のカチューシャをひょいと外して渡すと、つばさはすかさずポシェットからスペアのネコミミを取り出して装着。
 いったい幾つ持ち歩いているのか?
 一方、
「ええい、男なら度胸で乗り切れ! 私も一緒に出てあげるんだから!」
「え? え? おど‥‥え? そんな、絶対無理です!」
 未だに出場を渋りルーネと揉める紘人の元に駆けつけたてとらが、
「騒音防止!」
 その頭にネコミミカチューシャを被せると‥‥。
「よーし、雷斗がんばるにゃ♪」
 紘人の人格が豹変した。
 ‥‥よく分からないが、とにかくそういうものらしい。

「さぁ! 準備はいいかこのショタコンどもがっ!」
 虎綱のかけ声と共に、喪服姿の紫苑がピアノ演奏開始。
 音楽に合わせ、モデル役の男の娘(一部リアル女性)たちが、咲月の誘導に従いエントリー順に花道を通り入場を開始した。
「さーて一番手は?」
「初等部4年のレイ(ja6868)君。夢は『カッコいいお兄さんと仲良くなりたい』さー!」
「わー、これは可愛らしいピンクのゴスロリドレスなのです!」
(でも‥‥こう‥‥男の娘向きじゃないよな‥‥オイラ)
 フリフリレースのドレスを翻しながら、内心ちょっと躊躇うレイ。
(でもやるからには全力で頑張るぞ!)
 迷いを振り捨て、モデルウォークしてモデル立ちしてポージング。
「うふん♪」
 客席から歓声と拍手が巻き起こる。
「次は外見12歳だけど実は大学部2年! ドラグレイ・ミストダストさんさー!」
「男の娘に歳の話は失礼なのです。えーとこちらもゴスロリ系ですが、イヌミミがアクセントになって、可愛さがより際立ってるのですねー」
「おーっと今度は純和装! 高等部1年青空・アルベールさんさー!」
「振り袖の柄が春らしくて良いのですー」
(とにかく、あんまり見ないで欲しいのだ‥‥っ)
 顔で笑って心で泣く青空。

 出番が終わり控え室に帰るなり、青空は涙を堪えつつ男性服に着替え、引き返すとこっそり客席に入る。
 美味しそうな弁当を広げるラドゥ一行に気づき、弁当を奪おうと図るも。
「まずは手を洗って来い」
 ぺちりと額を叩かれ、
「うぐ‥‥流石、母は強し‥‥!」
 手洗いの後、改めて和気藹々と弁当を食べるのだった。

「期待の新人! 高等部1年滅炎 雷(ja4615)さんさー!」
「ネコミミにメイド服。オーソドックスなコーデですが、初女装とは思えない弾け加減がナイスなのですよー」
 雷としては買い物時「何を買えば良いか分からないからネタに走ってみよう!」という苦肉の策である。
「どんな風にやればいいか分からないけど、やるからには全力でやるよ♪」
 もはや恥じらいなど振り切って、舞台上でノリノリにアピールした後、
「にゃあ♪」
 とポーズをキメた雷に拍手喝采が降り注いだ。
「学園を代表するといってもいいあの制服アイドル、今日の為に用意してきました」
 スーツ姿で舞台に現れたカタリナによる紹介の後、ロングドレス姿の幸桜が登場。
(せめてあの子と一緒ならなあ‥‥)
 歌って踊り、特訓の成果を存分に披露しつつも、今この場にいない親友の顔を思い浮かべ、ちょっとしんみりする幸桜。
 無事歌い終え、拍手に包まれ退場しようとした時、
『スカート、翻して下さい!』
 インカムを通し、カタリナから突然の指示。
「えっ!?」
 驚きながらも反射的に翻そうとして、ズベッとこけてしまう。
 あわや下着が丸見えに――!
 だが虎綱が咄嗟の機転で会場の照明を全て落し、事なきを得た。
「申し訳ありません! 皆様のボルテージの上がりようでブレイカーが落ちてしまったようです!」
 1分後には再びライトが点灯、何事もなかったかのようにショーは続行。
 揃いの衣装で龍と並んで舞台に上がった静香(静矢)は自らマイクを取って挨拶。
「皆様こんにちは‥‥私達『クオン・シスターズ』の歌を聴いてください♪」
(兄さんと出られるのはすごく嬉しい)
 と張り切って踊りながら歌う龍だが、曲の途中で静香がこけて一瞬スカートの中が見えてしまう。
「きゃ、きゃぁ! み、見ちゃだめー//」
 再び会場の照明が落ちる。
 虎綱、大忙し。
 諏訪は午前中に買ったタートルネックの服を着てネックレスをつけ、服の上からバックル大きめのベルトを締め、下はショートパンツにブーツを履いたアクティブなスタイルで颯爽と登場。
「こんな感じの服装で大丈夫でしょうかー?」
 ちなみに頭の上に飛び出したクセ毛には萌々佳の手でリボンが巻かれ、チャームポイントとなっていた。
 さんぽは先頃久遠ヶ原学園内で撮影された戦隊ヒーロー番組のキャラ「クオンチェリー」のコス(赤い魔法少女風スカート)で登場。
「みんな、新番組『くおん☆フルーツ』もよろしくね♪ ‥‥そして、これがっ」
 くるっと一回りしつつ、チェリー衣装を脱ぎ棄てて、ニンジャ衣装に2段変身。
「これがボクのニューニンジャだっ!」

 その後控え室に戻った時、初めて「男の娘メインのショー」と知り。
「はわわわ、ボク、女装してないし男の娘じゃないよぉ」
 と赤面したが後の祭りである。

「中等部1年、高野 空さんさー!」
「こちらは女装用の芸名なのですねー」
(タカノソラ、万を辞して登場だぁ♪ ってか?)
 恥ずかしいなどという感情は何処かに置き忘れ、女装姿の晃司はステージでとびきりの笑顔を振りまいた。
「あぁ楽しい」

「高等部1年、ルーネさんと御手洗 紘人さん。こちらは男女ユニット『ツインアイドル』を結成しての登場さー!」
「リアル女の子と男の娘のコンビも良いものなのですー」
 ルーネの服装は紘人に合わせ、白のテーラードジャケット&桃のクレリックシャツ(リボン付)&紺のバギーパンツ&ベージュの革靴。
 今は別人格「雷斗」に変っている(らしい)紘人と2人で、90年代アイドルデュオのヒット曲「ロンリー熱帯魚」を熱唱する。
(出てくれたのはいいけど‥‥紘人さん、何だか人が変ったみたい)
 内心でやや戸惑うルーネ。
 まあ本当に人格が変ってる(らしい)わけだが。

 神技による女身化の後、チャイナドレスに着替えた謳華は、念のため控え室や客室にいる知人の目の前を通り過ぎてみたが、誰も彼だとは気づかなかった。
(ふっ‥‥完璧だな)
 満足げに頬を緩めると、片手を腰に当て羽扇を広げ、妖艶な足取りで花道を進む。
「さて次は‥‥中津荒神流、一子相伝の奥義が神秘のベールを脱ぐ! 高等部2年中津 謳華の登場さー!」
「なっ‥‥!?」
 確かに女身整体術は完璧だった。
 だがしかし。
(不覚っ‥‥うっかり本名で出場エントリーしてしまったぁー!!)
 舞台を前に踵を返し、嵐のような拍手の中を急いで引き返す。
「謳華ぁー、写真撮るよー。ほらスマイル♪」
 客席から友人の神楽がニコニコ笑いながらカメラを向けた。
「ちょっと、撮らないでください!」
 ダッシュで会場から飛び出すと、整体術を解いて男に戻るため、手近の空いてる教室に飛び込むのだった。

(やっぱりスタッフの人に頼んでおいてよかったな)
 退場していく謳華の背中を見やりつつ、翼は胸をなで下ろす。
 彼は事前にスタッフに話を通し、「匿名希望」でエントリーしていたのだ。
 翼の衣装は白のマキシ丈ワンピースと薄色のカーディガンに白の鍔広帽子。
 化粧は薄い清楚系。
 ミドルでストレートの黒エクステを装着。
 幸い知人に気づかれることもなく、初の女装を無難に終えた。
「高等部1年、こちらも振り袖姿の東城 夜刀彦さー!」
「白地に花笠松と松竹梅柄。振り袖は未婚女性の正装なのですよー」
「さてお次の方は?」
「圧倒的女子力と評判の、紅鬼 蓮華さんなのですよー!」
「そうそう。控え室ではモデルアドバイザーとしてもお世話になったのさー!」
 ミニスカートに肩を出したセクシーコスで舞台に現れた蓮華は、優雅な仕草で「本物の女」の魅力をこれでもかとアピールした。

 そしていよいよ最後の出場者。
 淳紅はカーキ色パーカライナー付きモッズコート&暖色系の花柄プリントチュニック&パステルピンクのストール&肌色パンスト&パンプスを身にまとい、後ろ髪をピンで調整しつつのシュシュでサイドテールという髪型。
 淡いクリーム色のドルマンシャツ&黒いリボンタイ+デニムホットパンツ&黒ニーハイ&ブーツ&シルバーブレスレッドで着飾ったてとらと2人でアイドルユニット「シシカメ」を結成。
「いくでー! 3・2・1・GO!」
 人気アイドルグループ「AKS47」の「大声サファイア」を、キレあるダンスを披露しつつ元気よく歌う。
 その最中、てとらは客席に飛び降りると、ヒカリの手をぐいと引っ張った。
「一緒に歌お♪」
「え、でも‥‥」
 今のヒカリの服装は空色のカットソー&ピンクのカーディガン&キュロット&青縞模様のハイニーソに赤い革靴。髪はツインテのウィッグという姿。
 さらに勇の手で薄化粧を施して貰っている。
「女の子になりきっちゃえ!」
「ほいマイクっ! 楽しもっ、ヒカリちゃんっ♪」
 おずおず舞台に上がった少年に、淳紅がすかさずマイクを回す。
 それをきっかけに、本日参加のモデルやギャラリーも総立ちとなり、全員で「大声サファイア」を歌いながら踊り始めた。
 もはや男も女も男の娘もない。
 最高潮に達した喧噪の中、
「ヒカリさん! オイラとチューしようぜ!」
 おもむろに歩み寄ったレイがいう。
「キ、キス!?」
「大丈夫! フレンチだから大丈夫!」
「そ、それなら‥‥」
 目をつぶり、年下の少年と軽く唇を重ねた。
 すぐに顔を離すが、ヒカリの目つきは夢見るようにうっとりしている。
(これが‥‥女の子のキモチ?)

 イベント終了後。
「湊様にとっていい思い出になればいいですね」
 会場の片付けを手伝いながら、朔耶が微笑む。
 日頃巫女服しか着ない彼女だが、たまには別の服を着るのもいいかもしれないな、と思いつつ。
「この学園では性別などお構いなしとばかりに、男の娘とか女装男子とかよくおるからのぅ」
 ゴミを集めたポリ袋をまとめ、璃琥も笑った。
「細かい事気にしてもしかたないからのぅ、楽しんだもの勝ちじゃよ」
 ドラグレイはタブレットPCを立ち上げ、早速ショーの様子を記事にすべくテキストや画像をまとめている。
 お菓子片手にショーを堪能したかざねは、
「男の娘も可愛いけど、やっぱり本物の女の子のほうが可愛いわよね」
 と、ちゃっかり自己完結するのであった。

<了>


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 鏡影・緋伝 瀬兎(ja0009)
 野生の爪牙・与那覇 アリサ(ja0057)
 命繋ぐ者・神楽坂 紫苑(ja0526)
 知りて記して日々軒昂・ドラグレイ・ミストダスト(ja0664)
 dear HERO・青空・アルベール(ja0732)
 ヨーヨー美少女(♂)・犬乃 さんぽ(ja1272)
 獅子堂流無尽光術師範・獅子堂虎鉄(ja1375)
 エノコロマイスター・沙 月子(ja1773)
 歌謡い・亀山 淳紅(ja2261)
 雄っぱいマイスター・御手洗 紘人(ja2549)
 誠士郎の花嫁・青戸ルーネ(ja3012)
 愛を配るエンジェル・権現堂 幸桜(ja3264)
 十六夜の夢・清清 清(ja3434)
 縁の下の力持ち・土方 勇(ja3751)
 撃退士・鳳 静矢(ja3856)
 泥んこ☆ばれりぃな・滅炎 雷(ja4615)
 災禍祓いし常闇の明星・東城 夜刀彦(ja6047)
重体: −
面白かった!:27人

鏡影・
緋伝 瀬兎(ja0009)

卒業 女 鬼道忍軍
野生の爪牙・
与那覇 アリサ(ja0057)

大学部4年277組 女 阿修羅
撃退士・
マキナ・ベルヴェルク(ja0067)

卒業 女 阿修羅
双眸に咲く蝶の花・
常塚 咲月(ja0156)

大学部7年3組 女 インフィルトレイター
くず鉄ブレイカー・
ネコノミロクン(ja0229)

大学部4年6組 男 アストラルヴァンガード
己が魂を貫く者・
アーレイ・バーグ(ja0276)

大学部4年168組 女 ダアト
黒の桜火・
東雲 桃華(ja0319)

大学部5年68組 女 阿修羅
撃退士・
天風 静流(ja0373)

卒業 女 阿修羅
雷よりも速い風・
グラルス・ガリアクルーズ(ja0505)

大学部5年101組 男 ダアト
命繋ぐ者・
神楽坂 紫苑(ja0526)

大学部9年41組 男 アストラルヴァンガード
お菓子は命の源ですし!・
二階堂 かざね(ja0536)

大学部5年233組 女 阿修羅
知りて記して日々軒昂・
ドラグレイ・ミストダスト(ja0664)

大学部8年24組 男 鬼道忍軍
dear HERO・
青空・アルベール(ja0732)

大学部4年3組 男 インフィルトレイター
仁義なき天使の微笑み・
森浦 萌々佳(ja0835)

卒業 女 ディバインナイト
楽園へ誘われし娘・
天沢 紗莉奈(ja0912)

大学部4年255組 女 阿修羅
撃退士・
喜屋武 響(ja1076)

大学部3年283組 男 ルインズブレイド
二月といえば海・
櫟 諏訪(ja1215)

大学部5年4組 男 インフィルトレイター
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
獅子堂流無尽光術師範・
獅子堂虎鉄(ja1375)

大学部4年151組 男 ルインズブレイド
鎮魂の閃舞・
南雲 輝瑠(ja1738)

大学部6年115組 男 阿修羅
エノコロマイスター・
沙 月子(ja1773)

大学部4年4組 女 ダアト
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
喪色の沙羅双樹・
牧野 穂鳥(ja2029)

大学部4年145組 女 ダアト
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
茨の野を歩む者・
柊 朔哉(ja2302)

大学部5年228組 女 アストラルヴァンガード
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
雄っぱいマイスター・
御手洗 紘人(ja2549)

大学部3年109組 男 ダアト
覚悟せし者・
高野 晃司(ja2733)

大学部3年125組 男 阿修羅
お洒落Boy・
Nicolas huit(ja2921)

大学部5年136組 男 アストラルヴァンガード
誠士郎の花嫁・
青戸ルーネ(ja3012)

大学部4年21組 女 ルインズブレイド
愛を配るエンジェル・
権現堂 幸桜(ja3264)

大学部4年180組 男 アストラルヴァンガード
十六夜の夢・
清清 清(ja3434)

大学部4年5組 男 アストラルヴァンガード
世紀末愚か者伝説・
虎綱・ガーフィールド(ja3547)

大学部4年193組 男 鬼道忍軍
縁の下の力持ち・
土方 勇(ja3751)

大学部4年5組 男 インフィルトレイター
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
撃退士・
星乃 滴(ja4139)

卒業 女 ダアト
久遠の黒き火焔天・
中津 謳華(ja4212)

大学部5年135組 男 阿修羅
『力』を持つ者・
青柳 翼(ja4246)

大学部5年3組 男 鬼道忍軍
黒の微笑・
石田 神楽(ja4485)

卒業 男 インフィルトレイター
撃退士・
ラドゥ・V・アチェスタ(ja4504)

大学部6年171組 男 阿修羅
泥んこ☆ばれりぃな・
滅炎 雷(ja4615)

大学部4年7組 男 ダアト
聖槍を使いし者・
カタリナ(ja5119)

大学部7年95組 女 ディバインナイト
紅蓮の龍人・
藤沢 龍(ja5185)

大学部4年253組 男 ルインズブレイド
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
夜を見通す心の眼・
神城 朔耶(ja5843)

大学部2年72組 女 アストラルヴァンガード
災禍祓いし常闇の明星・
東城 夜刀彦(ja6047)

大学部4年73組 男 鬼道忍軍
心折る絶望すら乗り越えて・
紅鬼 蓮華(ja6298)

大学部6年298組 女 阿修羅
泡沫なる夢いつかの約束・
子猫巻 璃琥(ja6500)

大学部4年135組 女 ダアト
序二段・
丁嵐 桜(ja6549)

大学部1年7組 女 阿修羅
ごはんがかり・
レイ(ja6868)

高等部1年28組 男 ディバインナイト