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マスター:茶務夏
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:7人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/04/02


みんなの思い出



オープニング


 依頼を解決した君は、帰り道、ふと思い立って桐生市に立ち寄った。
 大悪魔アバドンにより県外の人々の意識から「消えた」群馬。悪魔どもの猟場となったこの県は、しかし撃退士によって解放され、二〇一七年の今は復興に向かっている。桐生市もまた然り。

 どんな道のりを辿ろうと、桐生市は人類の手に取り戻されたのかもしれない。だが現実の道のりは一つであり、そのルート決定に君は大きく関わっていた。
 すでに三年以上前の、あの夜。
 アバドンらが倒された後もこの街を治めていた悪魔の准男爵ファズラ(jz0180)。彼女のヴァニタスである山下穣二と山下八津華。
 君と彼女たちとの接触、その結果導かれた結論が、今の桐生市をもたらしたのだ。


「悪魔の世界じゃ、上役が死んだりして指揮系統が混乱しても部下への力の配給はしばらく続くらしい。まあそうだよな。大将が討ち取られたら部下も戦力ダウンなんて、戦になりゃしない」
 君たちを手引きして桐生市に入れた穣二が、月の照らす夜道を案内しながら話す。
「なので、アバドンらがくたばって大混乱の今、例え消息不明になっても、しばらくはお嬢への力の供給に問題はない。お嬢経由で生き永らえてる俺たちもな」
 それは、オペレーターのスランセ(jz0152)にすでに話していて、彼女経由で君たちも聞いていた話だ。しかし彼にしてみれば念は押しておきたいのだろう。
「だから、いずれお嬢が学園に降伏したとばれるまでは、俺も今の力を保っていられる。……どんな危険な任務へも放り込める、なかなか便利な捨て駒になれると思うぜ?」
 今回連絡を取った際、桐生市内部への手引きの他に穣二が提示した手札がこれだった。
「だからその代わり、お嬢と八津華の身の安全は保障して欲しいんだ」
 一旦足を止めると、改めて君たちに深く頭を下げた。
「ま、お嬢がおとなしく降伏してくれるかが一番の問題なんだが……それだけでなく、群馬県庁が落ちてから、また別の厄介ごとも出てきてな」
 それは初耳な気がした。詳しく訊く。
「群馬はもう駄目だからこっちへ来いって、よその悪魔からスカウトのヴァニタスが何度か来てる。今のところお嬢は断ってるし、昨日来たばかりだから今夜は来ないはずだが……もし来てたら面倒なんだよな」
 どう面倒なのか。
「強さは大したことないと思うんだが、とにかく隠れることと逃げることが大得意なんだ。俺らとあんたらが協力してると知れたらお嬢へご注進しかねない」
 すでに見られていたら、この先で出くわしたら、どうするのか?
「そいつの使うルートはここまで避けてきたんで前者はないと思う。見てたらあいつは一言言わずにいられないと思うしな」
 隠密にしては口が軽い。
「スキルが効果抜群なんだよ。で、後者の場合、そいつは送る八津華とたぶん同行してるはずで、打ち合わせはしてある。あんたらが八津華と茶番を演じてる間に俺がそいつの居場所を突き止める。最後は八津華に殴ってもらえばそれまでだ」
 穣二にしてはずいぶん好戦的な気が。
「人間を殺すのに躊躇のない野郎だし……八津華もあいつのことは嫌っていてな」
 そんな話を聞きながら、河川敷へ差し掛かった。


 八津華はため息をつく。
 二人同時にファズラの元を離れるわけにはいかず、八津華はファズラの傍にいることにしていた。しかしそのせいで、嫌な来客を迎えて送り届ける形になった。
「いや、今日も空振りでしたよ。ディアボロ制作に忙しい、他のことは考えていられない、とね」
 来客――ヴァニタスのグレダラツがこぼす。初めて来た時に見た姿は、暗赤色の髪に緑の瞳の痩せた中年男、唇をしきりに舐めながらのねっとりとした話し方が苦手だった。
「ならばなおさら我が主の元へ来るべきなのですがねえ。魂の搾取については研究を相当進めており、ここにファズラ様の技術が加われば、もっと効率よく大量に人間を処理できるのですから」
 しかし今、その姿がどこにいるかはわからない。目にしてはいるはずなのだが道端の石ころのようにまるで認識できない。
「こんな仕事を長年続けていると、色んな方にお目にかかります。どうもファズラ様は、よろしくない」
 穣二は「一分ほど見ているとどうにか見える」と言っていたが、経験の差なのか八津華には一向にわからなかった。
 さっさと桐生市から出て行けばいいのに、だべりながらゆっくり進む。その声を無視するわけにもいかず、足取りは遅くせざるを得ない。
「あのお嬢さんはアバドンたちの死後、臆病になっていらっしゃるようだ。身を縮めてルーチンワークをこなしていればいずれ嵐は過ぎ去るというかのように。実際は、嵐はもっともっと強くなっていくのにね。いずれ彼女を吹き飛ばすまで」
 言ってることはともかく、口調がすべて台無しにしていた。面白がるような、せせら笑うような声音。
「ここで力尽きていくのを見るには忍びないのですよ」
 まったく逆の事態を願っているようにしか思えなかった。
「それ全部、ファズラさんに直接言えばいいのに」
 グレダラツはいつも、ファズラと数分言葉を交わすと引き上げてしまう。
「いやいや、見物人が余計な口出しをしてはいけません。自発的に来ていただかないと、後々禍根が生じかねませんのでね」
 八津華はその弁明になおさら不快感を覚える。
「それに、私はむしろあなた方が気になります」
「え」
「何か企んでいませんか?」
「別に」
「妙に返答が早いですね」
「いつも通りだけど」
「数度お目にかかりましたが、普段のあなたはもっときちんと考えてから口を開くように見えますけどね」
「私のストーカーか何か?」
 不快感は早いうちから露わにしている。なのに、あるいはそれゆえにか、グレダラツは穣二よりも、下手すればファズラよりも、八津華に絡みたがっていた。

 河川敷に差し掛かった。県境の桐生市は、インフラがあまり壊されなかったこともあり隣県から来る電気が生きている。今も街灯や照明が周囲を明るく照らしていた。
 八津華は足を止める。索敵は隣のヴァニタスより得意なようで、助かった。
「どうしました?」
「敵」
「ほう」
 自分が演技だの細かい手加減だのなんてできないことは自覚している。だから、ばれないようにするには、せいぜい全力で殴るしかない。
「ファズラさんは、殺させない!」
 八津華は、穣二と打ち合わせていた合図――声高らかな宣言――を送ると、撃退士たちと戦闘に入る。
「姿見せてくれない? 巻き添えで撃ちかねないから」
 見せてくれれば一撃で必ず落とすのにと思いながら、グレダラツへ忠告してみるが。
「心配ご無用。金棒や雷の範囲は知ってますし多少はかわせますので、ファズラ様謹製ヴァニタスの戦いぶり、特等席で見物してますよ」
 厄介なスキルを持っているのである。
(まあ、散らばって逃げ回ってもらえれば……)
「しかし愚かな連中だ。ディアボロに囲まれれば逃げようもないのに」
「……そうね」
 不審を招かないためには手近のディアボロを残らず呼び寄せるしかなかった。
(大怪我したら後で治すから許してね!)


 穣二が姿を消した後、君たちは言われた通り散開して戦闘のふりをしようとした。
 しかし、周囲から象だの虎だの牛だのが寄って来る。八津華の攻撃から逃げるには難しい距離内に押し込められた。
 穣二がグレダラツの居場所を突き止めるのは一分後という話だが……それまで無事でいられるだろうか?

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リプレイ本文


 ディアボロの群れが壁のように東と南を塞ぐ。いや、攻撃も何もしないからまさに壁だ。混乱の中、何人かの仲間とははぐれてしまった。
「ランバージャックデスマッチのつもり? 半端だけど」
 桜庭愛(jc1977)が周囲を見渡して言った。水色のコスチュームをまとい、アウルを全身に展開して闘う彼女はプロレスラー。が、その声は、常よりも尖る。
「また厄介な事になってるな……というかあの悪魔のお嬢さん絡みではそれが当たり前か」
 桝本 侑吾(ja8758)の言葉は、これまでファズラ関連依頼に関わってきた全員の気持ちを代弁していた。目標のファズラに会う前に、今夜二度目の面倒。
 ともあれ、トラブルは撃退士の日常。
「ふー、これは長い一分間になりそうですね」
 氷月 はくあ(ja0811)は激しい戦闘の予感に少しわくわくしつつも、グレダラツ撃破にはどうすべきか冷静に思案し始め。
「えぇと、ヤラセだとバレないようガチで戦いつつ時間を稼ぐんですね。了解しました!」
 Rehni Nam(ja5283)は小声で方針を確認し。
(山下にはわるいけど、八津香とたたかうぞ! だってばれたらみんなこまるもんな……)
「ますもと! がんばるぞ!」
「おーがんばれー。重体になったら任せた」
 アダム(jb2614)は決意を固めつつ、隣の侑吾とゆるい会話をし。
(侑吾さんも来てくれたし、改めて頑張らないと)
 クリフ・ロジャーズ(jb2560)は気合を入れる。侑吾と愛、レフニーらは、潜入の際の一件の後に合流した増援だ。
「下手に演技をするよりも全力で戦った方が良さそうですね」
 まず、雫(ja1894)が飛び出した。


 雫のストレイシオン召喚を見ながら、八津華も前進する。
 穣二から聞いているのだろう。撃退士たちは敵と戦うように振る舞う。
(ほんと、ごめんなさい)
 呼んでおいて襲い掛かるなんて三流の悪党みたい。それでも、グレダラツに結託がばれたらまずい。ファズラに報告されたら計画が完全に崩壊する。手加減はできない。
「食らえ!」
 雷が八方に奔り、雫とストレイシオンと侑吾を捉える。雫は避けたが召喚獣には当たり、侑吾は魔具で受けた。
「それはこちらの台詞だ」
 聞き覚えのある、なのに冷たい声。
 クリフが魔法書で攻撃し、八津華は慌てて避けた。
 続けて。
「さって、やるか。言っておくが容赦はしない」
 侑吾が詰め寄ってきてウエポンバッシュ。傷は軽いが吹き飛ばされて位置取りがずれる。
 さらに。
「下賤なあくまめ! 成敗するぞ!」
 アダムが弓からアウルの矢を放つ。天界の攻撃がやや肌に痛い。
 知り合いと言えるようになった面々と戦うのは特につらい。
 残る三人は八津華にとって初顔。はくあの狙撃は軽傷。厳しい顔で迫る愛は女子レスラーのような姿だが、構えは中国拳法に近そうな。そしてレフニーはストレイシオンに幼子のような呪文を唱え傷を癒していた。
(一分間保つのかな?)
 そんな懸念は、次の瞬間に覆された。


「貴方には此処で退場して貰います」
 雫が無造作に剣を振るう。
「痛ッ!」
 斬られた八津華は想像以上のダメージに驚く。
 そして感じ取る、斜め後ろからの銃撃。
「!」
 残像を残し、はくあの銃弾を避ける。回避スキルを初めて使った。
 クリフの遠距離攻撃は、なぜか明後日の方向へ。アダムは光の翼で宙に。しかし「敵」はまだ多い。
 爆弾を生み出し、すかさず起爆した。

 はくあはすぐさま気づき、「守護の弾丸」を放つ。爆弾に当たった結果ほんのわずか爆破の方向性がずれ、雫とナイトミストを駆使したクリフは回避。
「そんな攻撃、当たりませんよ」
 挑発しつつもクリフは内心どっと冷や汗をかく。
 防護結界発動でもストレイシオンは大ダメージ、レフニーと侑吾もかなりの傷。
「マスモトさんはこちらへ!」
「了解、っと」
 剣魂で回復したが全快には遠い。侑吾は雫とレフニー自身を包む癒しの風の範囲へ入る。

「許さない!」
 愛が襲い掛かって来た。接近戦で肘打ちや蹴り。普通にかわせばいい。
 でも、その殺気は迫真のもの。群馬出身の生き残りだろうか。
 八津華はまた残像でかわす。


「私まで爆弾に巻き込まないで欲しいですねぇ、八津華さん」
 ねっとりとした口調で、どこからか声がした。

(出てきましたか)
 ヒールで召喚獣と共有する傷を癒しながら雫は目を凝らす。
 誰かがいるのは最初から感じていた。が、どこにいるかの把握はまだ困難。度の合わない眼鏡を斜めにかけさせられているような、猛烈な違和感。
「伏兵?!」
 驚いたという体ではくあがでたらめに撃つ。
「加勢か、どこにいる?」
 クリフが闇の翼で上昇した。
「いえいえ、私グレダラツはただの見物人。気になさらず」
 撃退士の演技は見抜いていないようで、グレダラツは面白げに話す。
「さ、八津華さん、侵入者退治がんばってください」
「言われなくても!」
 雫へ石化光線が放たれる。間一髪回避。
「ほぉ、今の攻撃をかわすとはすごいですねぇ」
 粘つく声を聞き流し、レフニーは生命探知。反応はあるが、位置把握の段で感覚が狂う。「ヤツカの傍にいます」としか言えない。
「特等席で眺めていたいですからねぇ」
「この、ストーカー」
「眺めて面白いというだけですよ。劣情などはありません」
 憎々しげに言う八津華に、愉快そうに応じる。
 アダム・愛・侑吾が攻めるが、これらは残像などでかわされた。
「ほらほら皆さん、もっとしっかり!」


 雫はフェンリルも召喚し攻撃させる。しかし残像で回避。はくあと侑吾の攻撃も外れた。
「でも皆さんどうやって市内に入れたんでしょうね? 誰か手引きでも?」
「もー!! いまいそがしいんだ! しずかにしてないとおこるからな!!」
「例えば今ここにいない――」
 アダムを無視して話す声を、レフニーが断ち切った。
「以前にも見えない敵とは戦いましたが、塗料を掛けるなどは用意がないため今回不可能です」
「ほぉ」
「なので範囲攻撃で炙り出します! まずは私から!」
 言いつつ、味方を避けて八津華を範囲に収める形で「生体レンジ」!
「熱いっ!!」
 八津華が呻く。
「発想は妥当ですな。ただその辺の対策はしてるんですよぉ」
 情報通り、グレダラツは範囲攻撃回避スキルを有していた。
「続きます!」
 クリフはファイアワークス、だが。
「おやおや、私にははぁずれぇ。あなたさっきから外してばかりですね?」
 揶揄する声が響き渡る。
「一人ずつ潰していけば済む話。ですよね?」
「……!」
 唆されるように雫へ金棒を振り上げる八津華。だがその腕にアウルの矢が!
「させない!」
 アダムが空から八津華の動きを注視していた。
 愛の攻撃を、八津華は三度残像で避ける。


 雫の大剣を残像でかわす。最初の一撃の印象が強すぎて、もう食らいたくない。
 上空からのクリフの攻撃にも残像を使ってしまう。一度に二回しか使えないのに。
 周囲に雷を放とうとして、またアダムの弓と、はくあの狙撃とに出鼻を挫かれた。きっちり距離を保ち位置取りにも注意しているはくあは、狙うに狙えない。
 そして侑吾が斬りかかる。
「さてどうした?」
 振るわれる剣は予想以上に速く、八津華は懸命によける。
「あなた方すごいですね! こんな必死になってる八津華さん初めて見ましたよ!」
 グレダラツの揶揄に、侑吾は小さく舌打ちした。
 続いて愛が瞳に獰猛な色を湛えて迫り来る。
 群馬の犠牲者の怒りを、八津華は初めて間近に感じた。残像で逃げたいが今回はもう使えない。
「他にも敵がいるね。燻り出してあげる」
 言って仕掛けるは「複合関節技」! 八津華の関節を極めながらその衝撃は周囲と自身にまで打撃を与える!
「自爆技ですか、怖い怖い」

 レフニーは生命探知を「蒼き月の加護」と交換した。


「何をしているか判りませんが、厄介な能力を持っている貴方にも出て来てもらいます」
「私は観客なんですがねぇ」
 雫の敢えての的外れな言をグレダラツは鵜呑みにしている。フェンリルに縦横に暴れてもらった。
 次いではくあはグレダラツ狙い。まだ当たるとは思わないが、いそうな方向へ闇雲に。
「はは、外れてますよ……」
 その声がやや震えているように聞こえてはくあは首を傾げるが、今さら検証もできない。
 クリフは再びグレダラツを大きく外しファイアワークス。揶揄を悔しがり、攻撃下手と思わせる。
 そんな中、八津華がアダムの矢が届かない位置で爆弾を炸裂させた。はくあの守護の弾丸が効いたか雫はかわせたが、侑吾と愛は当たり、特に愛はかなりの痛手。しかしそこで蒼き月の加護が発動! 気絶を免れる。
 愛と侑吾の攻撃は残像にかわされ、レフニーの癒しの風が雫と集まった侑吾と愛を回復。


 雫は一旦ストレイシオンを還し再召喚。
 八津華は直線状の愛と侑吾とレフニーを狙うように移動。はくあの牽制でも止まらない。
「あぶない!」
 石化光線が放たれる寸前、アダムは急降下し、侑吾は彼の動きを守るよう長剣をかざし……天使は愛を抱えて射線を外れた。
「ありがとうねアダム君!」
 レフニーと侑吾は受け、石化はしない。
「その程度か?」
 また体力の半分以上が削れながらも、侑吾は当初から変わらずじっと八津華に対峙する。
「う……」
 クリフは移動し、また攻撃を外す。
「いやぁ当てられない攻撃お疲れさまです」
 レフニーの生体レンジをグレダラツが嘲笑う。これと愛の攻撃は八津華も残像回避。
 侑吾は剣魂を使い、位置を変える。


 雫は一旦フェンリルを戻し、大きく移動して愛へヒール。
「あなたは懲りませんねぇ。学習能力がないというか」
「そうね、私は大馬鹿者だし♪」
 グレダラツの嘲笑に、愛が反応した。
「見せてあげるよ。群馬出身の女子レスラーの強さをね♪」
 身構えると、再び自爆覚悟の複合関節技!
 八津華はなぜか引き寄せられるように近づくと、そのまま技を食らう。
(これが、プロレスラー……!)
 しかしその気迫をせせら笑う者もいた。
「いやはや、群馬人はわかりやすい。アバドン結界の消失前からたまに来ていましたがね、逃亡を手伝ってやると簡単にこちらを信用してくれるんですよぉ。何人も糧にさせてもらいました」
「貴様!」

「八津華さんもノリがよろしい。まさか打ち合わせでも?」
「ち、違う!」
 慌てて離れると、大勢を捉える形で雷!
 レフニーと侑吾は受けたが、かわし損ねた雫はストレイシオンと二重ダメージ、愛は再び気絶しかかるがまたも蒼き月の加護が発動。
「まだいけるな」
 侑吾は目の前に来た八津華を斬る。
 八津華の回避能力は低くない。しかし侑吾の剣は、会心の一太刀となった。
(撃退士って……強い!)

 レフニーは、自身と近くにいた愛と侑吾へ、最後の癒しの風。


 倒れかけていた雫は己へヒール。
 ほぼ全員が、状況を睨み動けない。即応できるように、八津華に目を凝らしている。
「お見合いなんて面白くないですよぉ、ほら戦って戦って!」
 煽られたせいでもあるまいが、侑吾と愛が攻めて来る。ともに残像で回避。
 そして八津華は。
 すぐ近くの雫へ、金棒を大きく振りかぶる。

 アダムの矢とクリフの攻撃を物ともせず振り下ろされんとする金棒。八津華にとって最強の攻撃。
「予定とは違いますが!」
 はくあが放つは「金剛雷」!
 退魔の銃弾は狙い過たず金棒を捉え、持ち主の手から弾き飛ばした。

 レフニーはアウルディバイドで癒しの風を回復。
(もうすぐ一分……審判の鎖も準備しないと……)
 周到な備えは、しかし、無駄に終わる。


 まず気づいたのは雫。
「もう、いいですよね?」
 その一言に撃退士たち全員が肯く。
「どうしましたぁ? 降伏ですか撤退ですか?」
 ずっとわからなかった顔が、今は丸見えだ。自分は傷つかないと思い込んでいる、弛みきった表情。
 修羅場を数多潜ってきた撃退士は、一分よりも速く、彼のスキルを無効化できていたのだ。
「……貴方を倒してもいいようです」
 答えながら、グレダラツの背後にフェンリルを再召喚!
「ひいっ?!」
 氷狼の一撃が掠め、彼の逃げ足を削ぐ。
 それでも駆け出した彼を、軽視していた方向から二度目の金剛雷が撃ち抜く。
「ふふ、全てはこの一射のための布石!」
 さらに高所から、追撃のファイアワークス。
「これさえ当てられれば、他はどうでもよかったんだ」
「な、なぜ私ばかり、八津華は……」
「演技はなかなか大変でした」
 レフニーがにんまりと笑う。
「ファズラに伝えてやる。そうすれば全部台無し――」
 よたよたと逃げるヴァニタスに、愛が走り寄り。
「みんなの仇!」
 ドロップキックで豪快にとどめを刺した。


「八津香……いたかったか? ごめんな……てかげんするとばれちゃうとおもったんだ……ごめんな」
「俺もすみません」
 天使と悪魔はヴァニタスの少女に頭を下げる。
「い、いえ……」
 しどろもどろの八津華に、雫が話しかけた。
「先程の手合せですが随分と殺気が籠っていたような気がするのですが?」
「え」
「まさかとは思いますが、途中から演技だと忘れていませんでしたよね?」
 目を逸らしたら、愛と目が合う。
「ひっ……」
 と、戦闘中とは打って変わって明るい笑顔を見せた。
「迫真の演技だったでしょ?」
「え……」
「このアングルなら猜疑心強くても騙しきれると思ったんだよね。まあ、群馬の生き残りなのは事実だけど」
 途中まで安堵していた八津華は改めて頭を下げる。
「ごめんなさい……これ以上ひどくしないために、もう少し力を貸してください……」

「ちゃんと、ファズラさんと話し合いましょう」
 再合流して謝る穣二に、クリフは真摯に言った。
「捨て駒がどうとか、そういうのはいいです。ファズラさんにしても、嫌な奴らの側にいるのがもったいないほど、過度なことはせずちゃんと考えて行動する人だから……あなたたちとはもう戦いたくないし、学園に来てほしいなと、ずっと思ってるんですよ」

「俺は今後も戦ってもいいんだけど、クリフ君とアダム君はそうじゃないみたいだしな」
 八津華は最後に回復を終えた侑吾と話している。
「私は……戦えない。さっきわかった」
 力は与えられたが、心は一般人。犠牲者の怒りに怯え、力に振り回されるのが関の山。
 強い相手にも臆せず挑む撃退士たちとは覚悟が違う。
「あなたたちと戦うなんて、なおさら無理」
 侑吾はぼんやりした風情で「そうか」と言う。
「迷ったり悩んだり、そういうのは少ない方がいいんじゃないかと思う」
 ポケットに手を入れ、しかし何も取り出さず、頭をかく。
「飴食うか? 今は持ってないけど」
「ありがと……後で、ちょうだい」

「ありがとよ。まあ、まずはお嬢に会わにゃ――」
 穣二がクリフに答えた時、音がした。

 本来珍しくもない、けれど今の桐生市では聞きそうにない、車の駆動音。
 穣二がよく運転していた軽トラがやや離れた位置へ緩やかに止まり。
「騒がしいぞよ」
 その運転席に、ファズラが座っていた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: ヴァニタスも三舎を避ける・氷月 はくあ(ja0811)
 前を向いて、未来へ・Rehni Nam(ja5283)
 くりふ〜くりふ〜・アダム(jb2614)
重体: −
面白かった!:8人

ヴァニタスも三舎を避ける・
氷月 はくあ(ja0811)

大学部2年2組 女 インフィルトレイター
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
我が身不退転・
桝本 侑吾(ja8758)

卒業 男 ルインズブレイド
天と魔と人を繋ぐ・
クリフ・ロジャーズ(jb2560)

大学部8年6組 男 ナイトウォーカー
くりふ〜くりふ〜・
アダム(jb2614)

大学部3年212組 男 ルインズブレイド
天真爛漫!美少女レスラー・
桜庭愛(jc1977)

卒業 女 阿修羅