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「なんだあの明らかにわかりやすい悪者系」
桝本 侑吾(
ja8758)はウビストヴォの視界へ飛び出した。
「悪魔のお嬢さんとかそこの子供狙うとか、モテそうにない小者っぷり甚だしい暑苦しさな上に変質者か、救えないな」
スキルと併用して、言葉でも挑発する。
「あン? てめえら失せろつってんだよ!」
スキル自体は効かなかったが、言葉は悪魔を苛立たせたようだ。
「あんな上司じゃ昭穂さんも溜息ばかりだったろうな‥‥」
ヘルゴートを用いたクリフ・ロジャーズ(
jb2560)は西のディアボロ五組の迎撃に向かいながら、最前倒したヴァニタスへ他人事とは思えない同情を抱く。
ウビストヴォは、クリフが昔仕えていた悪魔に性格も嗜好も似ていた。不快な記憶に刺激され、常に比べてかなり冷めた感情を抱く。
その思いを反映するように、吹き荒れる氷の夜想曲! 五組の敵のうち北側三組が食らい、うち二組を眠らせた。
「もうウォーミングアップも済んでますし、全力で屠ると致しますワ」
ミリオール=アステローザ(
jb2746)も言葉こそ強いが、戦闘を楽しむことを排した分、普段より冷静だ。敵の態度や言動から理解不能なタイプと察し、ただ狩る気にしかなれない。
事前に「冥殺の白銀」を準備した彼女も西へ向かう。
武器をグラビティゼロに変更、負担が体力を削るが、代償に更なる高火力を得る。
そしてクリフを巻き込まない形で南側三組に「深淵女王」! これも南端の一組にはかわされたが、二度の攻撃を受けた中央のライダーとサイドカー乗員は撃破、さらに冥殺の白銀の追加効果でその南の乗員も倒した。
「噂をすればのご登場だけど、何て言うか納得だわ。あの主にしてあのヴァニタスありねぇ」
クラウディア(
jb7119)はストレイシオンを戦場のやや東側に召喚しつつ、自身は西へ。
「くふふ。この程度のディアボロであの護りを突破できると思ってるの?」
ファズラ勢は、象も獅子も黒豹も肌身でわかる強さ。一山いくらのウビストヴォ勢と比べるのも論外だ。
「それも私たちの攻撃を凌ぎながら」
光陰護符でミリオールが攻撃したライダーへ追撃、容易に倒した。
五組中二組を簡単に倒され、悪魔は叫ぶ。
「てめえも行け!」
池の東にいたノコギリ装備型の一組が南へ。少女へ遠距離から三攻撃、ロケットランチャーは象が庇い、ボウガンと銃はライオンが引き受ける。高速回転するノコギリがライオンの身を裂いたが、大した傷にはなっていない。
(おれ、なんにも見捨てたつもりはないんだぞ。‥‥でもそりゃ忘れられてたら、見捨てられたきもちになるよな‥‥)
少女の傍で身構えながら、堕天使のアダム(
jb2614)は思う。
(おれは娘をまもってやる。絶対まもってやるし、群馬も取り戻して、見捨てられたきもちなんて全部なくしてやるからな!)
「娘! とりあえず自分の安全確保を最優先にしろ! つまり、象にかくれてろっ」
「う、うん」
象の脚の陰から比沙子が答えた。
「まずはライダー止めるのが良さそうだなァ」
御神島 夜羽(
jb5977)がアダムに提案し、迎撃に入る。
「ありがたく思えよォディアボロ。ガキ守るついでに手ェかしてやる」
ジェットレガースを装備し、「射殺す八閃」で斬撃の蹴りを繰り出す。
「こっからがお楽しみだよなァ!!」
アダムと連携した攻撃で立ち向かう。
「お前如き小物が、格上悪魔を殺す? 随分と面白い冗句ですね」
闘気解放を使用した雫(
ja1894)も、悪魔の近くから言葉で挑発する。
「彼女が言ってましたよ、上司に媚び諂っていると」
ヴァニタスのことを思う。倒すべき敵ではあったが、その境遇に何も感じないほど雫は冷めていない。
「大方自分より格下と見ている相手の前でしか大言壮語を吐けないのでしょう?」
「てめえ‥‥」
敵の怒りをかき立てるには充分すぎる罵倒。侑吾の言と併せ、怒りを昂ぶらせる。
ただ。
「物陰から何言ってやがる!」
西から来る五組にも備えた雫の位置は、瓦礫で隠れて相手に見えなかった。
「まずはその姿拝ませろよ」
ホバークラフトと残る二組のサイドカーが三発のロケットを瓦礫に撃ち込み、瓦礫は呆気なく崩壊した。
「メスガキの分際で、でかい口叩くなァ、おい?」
西側唯一無傷の一組が東進、ロケットで象を攻撃。射程の短い銃は雫を狙うが回避。
「くたばれ!」
悪魔が配下を使い猛攻をかけた。三体の乗組員に弩で雫を撃たせる。さらにナパームを雫へ発射、傍にいた文 銀海(
jb0005)とオーデン・ソル・キャドー(
jb2706)が巻き込まれるが、当たったのはオーデンのみで軽傷。
兵士級悪魔当人は侑吾へ魔力弾を放つ。かわせなかった侑吾へ銀海がアウルの鎧を付与。そして池の奥にいた銛装備型が東から回り込み侑吾を攻撃、これはボウガンだけ命中。さらに池の西にいた火炎放射器装備型が隣接して雫を狙い、火炎放射器に銀海が巻き込まれ自身にアウルの鎧。
しかしそれだけ多くの攻撃に狙われながら、雫が食らったのは弩の一撃のみだった。
「今日の私は機嫌が悪いです」
火炎放射器型に「地すり残月」! ライダーとバイク、サイドカーと乗員にまとめて大ダメージを与えた幼い少女は大剣を構え、悠然と前へ進む。
銀海は使いきったアウルの鎧を「流水針」に切り替え、瓦礫の陰で待機。
「動かないな‥‥」
「ヴァニタスの次は悪魔‥‥休む暇もないですね。これで終わりだといいですが‥‥」
紅葉 公(
ja2931)の攻撃は外れる。悪魔を挑発で誘き寄せ、銀海が動きを封じる予定だったのだが。
「池から出ないつもりかもしれませんな」
オーデンは火炎放射器型へウェポンバッシュ。ライダーを撃破しつつ北へ吹き飛ばす。
比沙子は南下、周りを猛獣が守るが、一般人の少女の足取りは遅々としたものだ。
*
クリフは再度氷の夜想曲。一組は撃破したが、眠りの解けたもう一組には紙一重でかわされる。
「本尊に動く気がないのなら、今仕留められるものを仕留めましょう」
雫は火炎放射器型の乗員を倒し、完全に無力化した。
「西か南か北か‥‥悩みますワ」
ミリオールはやや引き返し、無傷なまま横を通り過ぎた一組へ深淵女王。今度は当てるが撃破には少し足りない。北からオーデンも斬りかかるがかわされる。
「‥‥ふむ。アダム殿、御神島殿、後は頼みます」
「な、何だてめえ?! 変態か?!」
「おや同胞につれない言葉を。幼女凌辱が趣味な貴方こそ、余りにも品がありませんが」
後事は仲間に託し、北へ進むがんもどきの被り物をしたはぐれ悪魔は、ペストマスクの悪魔に驚かれる。
「しかし、幸い群馬は忘れられていた土地。貴方の存在も、なかったことにしてあげますよ」
「ほざけ!」
悪魔は周囲へ一斉攻撃。が、雫はロケットランチャーを、オーデンはナパームを回避。乗組員の弩などは刺さったものの、ここで前回の戦闘同様ストレイシオンの防御効果が発揮されて軒並み無効化、悪魔の魔力弾を受けた侑吾がかすり傷を負うのみに留まった。
公がマジックスクリューで悪魔を狙う。乗組員に肩代わりされたがその一体を朦朧とさせた。
「これでどうだ!」
アダムはノコギリ型のライダーの機先を制し、撃破!
クラウディアはクリフが仕留め損ねた敵を撃つが、かわされる。敵は東へ向かいがてらライダーたちがミリオールとクラウディアを撃ったがこちらも外れ。比沙子を庇った象にはランチャーが命中。
「貴様もガキを狙え! 象どもに庇わせろ!」
悪魔が銛型に指示すると、撃退士に動揺が走る。
象たちは少女の防護に徹し、複数回のカバーが可能。しかし数と手数に任せて攻められると、回数的に上回られかねない。
「ロケット弾はきつくても矢ぐれぇは‥‥」
夜羽が自身も少女を庇う覚悟を決める一方、北でも動きはあった。
「抵抗できない子供を狙うとは、許せん‥‥当初の予定とは違うが!」
銀海が銛型バイクに審判の鎖を放ち、麻痺に成功! さらに侑吾が正面に立ちウェポンバッシュで池に沈める。
ライダーと乗員が池から引っぱり上げるが、そこまで。南下の余裕まではない。
「何してやがる、使えねえクソ野郎が!」
「配下を責めるとは、つくづく無能な上司ですな」
サイドカー乗員だけとなったノコギリ型は比沙子を狙うが象と豹に阻まれる。ミリオールらが仕留めきれなかった一組も来るが、こちらも武装は短射程のノコギリで、少女を狙うには手数が足りない。夜羽に乗員が倒された。
比沙子たちは南下しつつ、獅子が癒しの風を自身と象らに使う。
*
「そんなに乗っていては狭いでしょう? スペースを空けてあげますよ」
オーデンが岸からホバークラフトに飛び移り、ウェポンバッシュで乗組員を落とす! 朦朧状態の敵はかわしようもなく、水面を跳ねて岸に。
「落ちやがれ!」
ウビストヴォが薙刀でオーデンを斬るが、シールドで受けてかすり傷に抑える。
「悪魔相手‥‥と覚悟してましたが、意外と耐えられそうですな」
「抜かせ!」
さらにランチャーでオーデンに零距離射撃、食らうが半分も削れはしない。
「おっと、まだ倒れませんよ? 煮込まれれば煮込まれるほど、おいしくなるのがおでんです」
残る乗組員は雫と侑吾を狙うが、雫はまたも回避。しかしナパームの火炎を侑吾と銀海が浴びて、かなり危なくなってくる。銀海は流水針で、侑吾は剣魂で自己回復。
公は、池から上がった銛型のライダーに背後からマジックスクリュー、朦朧とさせてまた動きを封じる。乗員は遠距離からロケットを象に撃ちつつ、自身は公を撃ち、多少傷を負わせた。
クリフはスキルを交換しつつ、ミリオールは冥殺の白銀を再度使用しつつ、北へ。雫は二度目の闘気解放。
クラウディアは蒼竜を再召喚しつつ先ほどと同じライダーを背後から襲う。倒し損ねたが、ツインクルセイダーに持ち替えた夜羽が撃ち倒した。生き残りの乗員が撃ち返すが、予測回避でかわす。
ノコギリ型は同じくサイドカーのみの攻撃、ランチャーは象が受け、銃は獅子が盾になる。
アダムはライダーのみになった一組を狙うが巧みにかわされた。比沙子に接近したそれは獅子に妨げられる。
ここで、余裕のできた黒豹が動いた。乗員だけとライダーだけ、二組のウビストヴォ勢を電撃でまとめて攻撃し、倒すには至らないがかなりのダメージを与えて麻痺させる。そして迅雷的スキルで元の位置に引き返し比沙子を守る。
「味方としては頼もしいな」
「当てにし過ぎない方がいいとは思うけどな」
ファズラ勢に感嘆する銀海に侑吾が呟く。
「あの悪魔のお嬢さんだって、結局は悪魔なんだし」
*
「オーデンさん、巻き込まれないよう離れてほしいですワ!」
「了解です」
オーデンは岸へ飛び移る前に再び乗組員にウェポンバッシュを試みるが、奇跡的な動きで回避される。
公は、ライダーが朦朧状態な目の前の銛型は無視し、悪魔にマジックスクリューを狙うが当たらず。乗員に再び銃で狙われたものの、今度は回避。
「ヒヒッ、てめえらの攻撃なんざ当たるかよ!」
「ギャアギャア騒ぐなよ。本当にみっともないな」
侑吾の挑発は効かず、雫や公へ狙いが向きそうになる。
その時、池の北側へ回り込んだクリフが、氷の夜想曲から切り替えたファイアワークスを放った! 悪魔とホバーと乗組員二体、さらに銛型をも包み込み、ライダーを倒す。
「小さい女の子を執拗に狙うとか‥‥救いようのないペド野郎ですね」
「すかした面してんじゃねえよ、力のないはぐれ風情が!!」
「耳が腐るので無駄に叫ばないでくれません? ‥‥馬鹿なんですか?」
冷淡な言葉が、悪魔の激昂を誘った。
「死ねやあっ!!」
魔法でクリフを攻撃するが、ナイトミストで回避。
乗組員とナパーム弾が侑吾やオーデンや雫を狙うがすべて回避。
ロケットがクリフを襲うが、これもナイトミストで回避!
「何で当たらねえんだぁっ、クソがっ!!」
「やかましいですワ」
深淵女王が悪魔とホバークラフトを包み込む。
「ふふ、無数の世界の中にはこんな物質も存在するのですワ‥‥」
冥魔に効果的な毒が混ぜられた一撃は、白銀の光を放ち、乗組員二人を撃破!
乗員だけが残っている組は、ロケットを発射しつつ獅子など手近な相手を銃で狙う。夜羽は今回は回避しきれず負傷、反撃は倒すに至らない。
その敵への攻撃は外したものの、クラウディアは蒼竜を動かして雫に声をかける。
「相手が池を出ないなら、こっちが近寄ってやるしかないわよねえ」
池に入った竜、その頭に雫が乗る。
「天魔が人を糧とするのは、納得も理解もしませんが嫌悪感までは抱かない‥‥」
射程に捉えた雫がフランベルジェを振りかぶる。
「だけど、お前のように意味もなく命を弄ぶ奴はこの世に生かしておけない!」
振り下ろす斬撃が水面に刻むは三日月! ついにホバークラフトも破壊し、悪魔にさらなる傷を負わせる。悪魔はどうにか翼で池の上へ。
残る敵は少ない。銀海の審判の鎖は外れるが、アダムは少女に迫りかけていたライダーを倒す。
岸の乗組員が弩で射るが、クリフはこれも回避した。
黒豹の雷撃が再び炸裂、夜羽が倒し損ねた敵や公と銀海の近くにいる敵にとどめを刺す。
*
南東から、ファズラ作の猛牛がやって来た。撃退士たちを認めて鼻息を荒くするそれに、夜羽が声をかける。
「ま、いきり立つなよ。おまえの出番はなさそうだぜ?」
「仕掛けますので待ってほしいのですワ!」
「宣言なんかしてんじゃねえ! その前にぶった斬ってやらあ!!」
手負いの悪魔がようやく池を離れて岸辺へ出て、ミリオールと雫へ薙刀を振るう。しかしどちらにもかわされる!
そして放たれる深淵女王は‥‥悪魔が回避!
「へ、へっ、大したこと‥‥」
「油断禁物ですな」
オーデンに斬られた悪魔は、ダメージが限界を超える。
「い、いてえ、いてえよぉ‥‥頼むから命だけは‥‥」
「前言撤回。惨めな命乞いなんかしない分、あのヴァニタスの方があんたよりまだ上出来だったわ」
雫を乗せた竜を動かしつつ、クラウディアが遠距離攻撃。天界の気は、重体の悪魔には実によく効く。
「これしきの痛みで、殺された人たちへの手向けになるとは思いませんが」
クリフが包囲を完成させファイアワークス。悪魔のペストマスクが外れ、貧相な顔が露わになった。
「下種がっ‥‥」
雫の荒死は一撃だけだが大打撃。
苦痛と恐怖に身を捩らせるウビストヴォの頭部が、遠距離からの一撃で弾ける。
対岸からの、公の通常攻撃が決着をつけた。
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「あ、倒しちゃったのね。一人フルボッコタイムやれると思ったのに、ちょっと残念」
軽やかな声が、上空から降り注ぐ。
撃退士たちが見上げると、禿鷹と、同じような翼を背に生やした少女とが飛んでいる。
黒髪黒瞳ながら、右目は灰色。手甲に包まれた右腕は不自然なまでに太い。そんな異形の出で立ちながら、十歳ほどの姿に似合わぬ落ち着きと不思議な明るさとが同居している少女だった。
(続く)