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マスター:茶務夏
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
形態:
参加人数:10人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/09/25


みんなの思い出



オープニング

●十数年前〜数年前〜群馬侵攻直後
「いいんじゃないか」
 相談を持ちかけられた山下穣二がそう言うと、少し年上の従兄は息を吐いた。たぶん、安堵の吐息。だからさらに言葉をつなぎ、背中を押す。
「好きな人との子が欲しい。こんな自然な気持ちも他にないだろ。気に病む必要なんかないっての」
「‥‥ありがとう」
 その日ずっと強張った顔をしていた仲の良い従兄は、ようやく表情を緩めた。

 色々手を尽くした末に生まれた子は、八津華と名付けられた。
「この子が大人になるまでがんばらないとな」
 髪に白いものが混じり始めていた従兄は、愛する妻とともに笑って、小さなその子を見つめていた。
 残念ながらその言葉は、何一つ叶わなかったが。



「無茶するなあ」
 親子全員で大事故に遭った八津華。彼女が長いリハビリを終え、唯一の身近な親族である穣二の家に引き取られての転校初日。
 まさかクラスのボス猿的存在の男子といきなりどつき合いの喧嘩をやらかすとは思わなかった。
「やられた以上、じっと我慢してる道理はないわ」
 まだ十歳なのに、大人びた口調で落ち着き払って答える少女。だが保健室のベッドにのびていて、整った顔は殴られて腫れ、右腕は少し歪んだせいで外されている。
 交通事故の前は、もっと明るい子だったのだが。
「ま、都会から来た奴はもやしっ子だなんて古臭いイメージに囚われてた向こうがバカなのよ。義手を外す嫌がらせまではできても、こっちが義眼を外してみせたら怯むような根性なしだし」
 いや、それは怖いと思う。
「でも、義父さんに迷惑かけたことはごめんなさい。義手の修理もしてもらわないといけないし」
「気にすんな」
「え‥‥」
「相手に一生ものの怪我をさせたわけでもないしな。先生たちにも事情は聞いた。俺でも怒る」
「‥‥うん」
 しばらく無言で天井を見つめた後、八津華は静かに口を開いた。
「生きたいの。こんなことになって、こんな体になって、色々なくしたけど、それでも生きていきたい。漫画読みたいし、野球観戦したいし、義父さんのお店を手伝いたい」
「ああ」
「でも、あいつにバカにされたままただ黙ってるのは、違うと思った。生きてても死んでるような、そんな風にはなりたくなかった」
「ああ」
 ベッドの横に座り、穣二は義理の娘の頭を撫で続けた。



 おぞましい悪夢のような光景から、穣二は目覚めた。家の壁をすり抜けて化物が現れ、穣二の背中を刺し貫き、庇っていた八津華まで‥‥。
「おお、起きたか?」
 二本の角を生やした金髪緑眼の少女が自分を見下ろしていた。なぜか空になった豆腐のパックを手にしている。
「うぬは今後、わらわの下僕として働くぞよ。もし忠実に働くならば、うぬの娘を生き返らせてやってもよいぞよ」


●群馬侵攻から少し後
「それでよ、その『愛し合ってる』とかほざく男と女をディアボロにしてやったんだ。で、命令してやればたちまち殺し合いよ。さっきまで抱き合ってた奴らが相手の身体に牙たてて、肉をむしゃむしゃ食い合ってやがんの! 生き残ったのは女だったかな、男を骨の一本も残さず食い尽くしちまった。傑作だろ?」
 トゥラハウスに招集されての各地の成果報告会において、ウビストヴォが他の悪魔たちとそんな話で盛り上がっていた時、不意に背後から声がした。
「その行為に、どんな益があるのです?」
 貧相な二本の角を生やした幼い娘は、姿に似合わぬ堅く真面目な口調で問い質してきた。
「その場でディアボロに変えたということは、収穫できる魂はごくわずか。そして片方をむざむざ食べさせたということは、残るディアボロは一体。変なことをせずゲート結界に連れ込んで収穫すれば2のエネルギーと二体のディアボロを得られたものが、微量のエネルギーと一体の損傷したディアボロだけだなんて、ひどい損じゃありませんか?」
 たしか、ファズラ(jz0180)とかいう没落貴族の娘。非力で貧弱、戦闘なんててんで苦手なくせに、魂収穫に関する理屈をトゥラハウスに吹き込んだら気に入られ、ウビストヴォの縄張りと隣接するもっと人口の多い地域を任された小娘。
「そ、そんなの、人間どもをびびらせるために決まってんだろうが」
 自分が楽しみたかっただけとも言えないウビストヴォがしどろもどろに答えると、教えを請うように真剣な顔をしていたファズラは、表情を一変させて鼻で笑った。
「あなた天界の回し者ですか? 感情をかき立てたりしなくても魂の収穫に影響はありませんよ? 何できちんとやれないんです? 馬鹿なんですか?」
 正論とともに放たれた侮蔑。
「て、んめえ‥‥!!」
 まともな戦闘もできないガキの癖に。
 激昂したウビストヴォが瞬時に詰め寄り殴りかかろうとすると。
 ファズラはそれより速く、ディアボロを召喚した。象だ。
「ぐえええっ!?」
 即座に振り抜かれた象の鼻にみっともなくも吹き飛ばされ、ウビストヴォは壁に叩きつけられそうになる。透過能力がなければちょっと危なかった。
 外から戻ってくると、出迎えるのは侮蔑の視線。油断していたとは言え、悪魔がディアボロに痛めつけられるなど屈辱の極み。
 一方、ファズラに対する視線も微妙なものではある。放埓な悪魔の性向を無視する発言、自身が戦わずディアボロを使役した行為。混沌を好み武を重んじるこの集団では、どちらも多くの反感を買ってもおかしくない。しかし不文律に反したからと声高に咎めるのもためらわれる、そんな状況。
「よくやったファズラ」
 それを打ち破ったのは、いつの間にか現れたトゥラハウスだった。
「桐生市は人間一人当たりの平均収量で領内トップクラスだ。総量はいささか物足りないが、長い目で見ればこちらもトップを狙えるだろう。他の者もよく魂の収穫に励むように」
 この軍の実質的な頭目にそこまで言われては、誰もファズラに手を出せない。
 ウビストヴォは、視線に殺意を込めてファズラを睨む。
 貧相な少女は、それを平然と受け流した。


●午後三時五分
「撃退士ども! 俺のヴァニタスを壊したのはむかつくが、今は見逃してやる。俺はファズラを殺しに行くからそこを退け!!」
 ホバークラフト型ディアボロに乗り、薙刀を構え、ペストマスクをかぶる悪魔ウビストヴォは、君たちに向かってそんなことを叫びながら池の中央に陣取る。ホバークラフトは直径二メートル、三体の乗員型ディアボロが同乗して手持ちの武器や武装を構えている。
 その周囲に直衛のごとく三組のディアボロ、さらに西からも五組のディアボロが現れる。いずれもサイドカー付きバイク型ディアボロと、それに乗った二体の人型デイアボロ。
 一方、君たちの背後では象型・獅子型・今しがた到着したばかりの黒豹型が、敵意も剥き出しにウビストヴォの率いる群れを睨んでいる。とは言え、新たな脅威に再び脅え出した比沙子を守りながらの戦いは苦戦すること必定だろう。逃がそうとすればバイクに一気に距離を詰められて襲われる危険性もあるのが厄介だ。
「ハハッ! お誂え向きにガキがいやがる! ファズラの野郎、魂奪ってねえ人間のことは大切にしやがるからな、おいてめえら、徹底的にあのガキを狙え!」
 ウビストヴォの声に、西側五組のディアボロたちが肯きを返す。
 さて、どうするべきか。

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リプレイ本文


「なんだあの明らかにわかりやすい悪者系」
 桝本 侑吾(ja8758)はウビストヴォの視界へ飛び出した。
「悪魔のお嬢さんとかそこの子供狙うとか、モテそうにない小者っぷり甚だしい暑苦しさな上に変質者か、救えないな」
 スキルと併用して、言葉でも挑発する。
「あン? てめえら失せろつってんだよ!」
 スキル自体は効かなかったが、言葉は悪魔を苛立たせたようだ。

「あんな上司じゃ昭穂さんも溜息ばかりだったろうな‥‥」
 ヘルゴートを用いたクリフ・ロジャーズ(jb2560)は西のディアボロ五組の迎撃に向かいながら、最前倒したヴァニタスへ他人事とは思えない同情を抱く。
 ウビストヴォは、クリフが昔仕えていた悪魔に性格も嗜好も似ていた。不快な記憶に刺激され、常に比べてかなり冷めた感情を抱く。
 その思いを反映するように、吹き荒れる氷の夜想曲! 五組の敵のうち北側三組が食らい、うち二組を眠らせた。
「もうウォーミングアップも済んでますし、全力で屠ると致しますワ」
 ミリオール=アステローザ(jb2746)も言葉こそ強いが、戦闘を楽しむことを排した分、普段より冷静だ。敵の態度や言動から理解不能なタイプと察し、ただ狩る気にしかなれない。
 事前に「冥殺の白銀」を準備した彼女も西へ向かう。
 武器をグラビティゼロに変更、負担が体力を削るが、代償に更なる高火力を得る。
 そしてクリフを巻き込まない形で南側三組に「深淵女王」! これも南端の一組にはかわされたが、二度の攻撃を受けた中央のライダーとサイドカー乗員は撃破、さらに冥殺の白銀の追加効果でその南の乗員も倒した。
「噂をすればのご登場だけど、何て言うか納得だわ。あの主にしてあのヴァニタスありねぇ」
 クラウディア(jb7119)はストレイシオンを戦場のやや東側に召喚しつつ、自身は西へ。
「くふふ。この程度のディアボロであの護りを突破できると思ってるの?」
 ファズラ勢は、象も獅子も黒豹も肌身でわかる強さ。一山いくらのウビストヴォ勢と比べるのも論外だ。
「それも私たちの攻撃を凌ぎながら」
 光陰護符でミリオールが攻撃したライダーへ追撃、容易に倒した。

 五組中二組を簡単に倒され、悪魔は叫ぶ。
「てめえも行け!」
 池の東にいたノコギリ装備型の一組が南へ。少女へ遠距離から三攻撃、ロケットランチャーは象が庇い、ボウガンと銃はライオンが引き受ける。高速回転するノコギリがライオンの身を裂いたが、大した傷にはなっていない。
(おれ、なんにも見捨てたつもりはないんだぞ。‥‥でもそりゃ忘れられてたら、見捨てられたきもちになるよな‥‥)
 少女の傍で身構えながら、堕天使のアダム(jb2614)は思う。
(おれは娘をまもってやる。絶対まもってやるし、群馬も取り戻して、見捨てられたきもちなんて全部なくしてやるからな!)
「娘! とりあえず自分の安全確保を最優先にしろ! つまり、象にかくれてろっ」
「う、うん」
 象の脚の陰から比沙子が答えた。
「まずはライダー止めるのが良さそうだなァ」
 御神島 夜羽(jb5977)がアダムに提案し、迎撃に入る。
「ありがたく思えよォディアボロ。ガキ守るついでに手ェかしてやる」
 ジェットレガースを装備し、「射殺す八閃」で斬撃の蹴りを繰り出す。
「こっからがお楽しみだよなァ!!」
 アダムと連携した攻撃で立ち向かう。

「お前如き小物が、格上悪魔を殺す? 随分と面白い冗句ですね」
 闘気解放を使用した雫(ja1894)も、悪魔の近くから言葉で挑発する。
「彼女が言ってましたよ、上司に媚び諂っていると」
 ヴァニタスのことを思う。倒すべき敵ではあったが、その境遇に何も感じないほど雫は冷めていない。
「大方自分より格下と見ている相手の前でしか大言壮語を吐けないのでしょう?」
「てめえ‥‥」
 敵の怒りをかき立てるには充分すぎる罵倒。侑吾の言と併せ、怒りを昂ぶらせる。
 ただ。
「物陰から何言ってやがる!」
 西から来る五組にも備えた雫の位置は、瓦礫で隠れて相手に見えなかった。
「まずはその姿拝ませろよ」
 ホバークラフトと残る二組のサイドカーが三発のロケットを瓦礫に撃ち込み、瓦礫は呆気なく崩壊した。
「メスガキの分際で、でかい口叩くなァ、おい?」
 西側唯一無傷の一組が東進、ロケットで象を攻撃。射程の短い銃は雫を狙うが回避。
「くたばれ!」
 悪魔が配下を使い猛攻をかけた。三体の乗組員に弩で雫を撃たせる。さらにナパームを雫へ発射、傍にいた文 銀海(jb0005)とオーデン・ソル・キャドー(jb2706)が巻き込まれるが、当たったのはオーデンのみで軽傷。
 兵士級悪魔当人は侑吾へ魔力弾を放つ。かわせなかった侑吾へ銀海がアウルの鎧を付与。そして池の奥にいた銛装備型が東から回り込み侑吾を攻撃、これはボウガンだけ命中。さらに池の西にいた火炎放射器装備型が隣接して雫を狙い、火炎放射器に銀海が巻き込まれ自身にアウルの鎧。
 しかしそれだけ多くの攻撃に狙われながら、雫が食らったのは弩の一撃のみだった。
「今日の私は機嫌が悪いです」
 火炎放射器型に「地すり残月」! ライダーとバイク、サイドカーと乗員にまとめて大ダメージを与えた幼い少女は大剣を構え、悠然と前へ進む。
 銀海は使いきったアウルの鎧を「流水針」に切り替え、瓦礫の陰で待機。
「動かないな‥‥」
「ヴァニタスの次は悪魔‥‥休む暇もないですね。これで終わりだといいですが‥‥」
 紅葉 公(ja2931)の攻撃は外れる。悪魔を挑発で誘き寄せ、銀海が動きを封じる予定だったのだが。
「池から出ないつもりかもしれませんな」
 オーデンは火炎放射器型へウェポンバッシュ。ライダーを撃破しつつ北へ吹き飛ばす。

 比沙子は南下、周りを猛獣が守るが、一般人の少女の足取りは遅々としたものだ。



 クリフは再度氷の夜想曲。一組は撃破したが、眠りの解けたもう一組には紙一重でかわされる。
「本尊に動く気がないのなら、今仕留められるものを仕留めましょう」
 雫は火炎放射器型の乗員を倒し、完全に無力化した。
「西か南か北か‥‥悩みますワ」
 ミリオールはやや引き返し、無傷なまま横を通り過ぎた一組へ深淵女王。今度は当てるが撃破には少し足りない。北からオーデンも斬りかかるがかわされる。
「‥‥ふむ。アダム殿、御神島殿、後は頼みます」
「な、何だてめえ?! 変態か?!」
「おや同胞につれない言葉を。幼女凌辱が趣味な貴方こそ、余りにも品がありませんが」
 後事は仲間に託し、北へ進むがんもどきの被り物をしたはぐれ悪魔は、ペストマスクの悪魔に驚かれる。
「しかし、幸い群馬は忘れられていた土地。貴方の存在も、なかったことにしてあげますよ」
「ほざけ!」
 悪魔は周囲へ一斉攻撃。が、雫はロケットランチャーを、オーデンはナパームを回避。乗組員の弩などは刺さったものの、ここで前回の戦闘同様ストレイシオンの防御効果が発揮されて軒並み無効化、悪魔の魔力弾を受けた侑吾がかすり傷を負うのみに留まった。
 公がマジックスクリューで悪魔を狙う。乗組員に肩代わりされたがその一体を朦朧とさせた。
「これでどうだ!」
 アダムはノコギリ型のライダーの機先を制し、撃破!
 クラウディアはクリフが仕留め損ねた敵を撃つが、かわされる。敵は東へ向かいがてらライダーたちがミリオールとクラウディアを撃ったがこちらも外れ。比沙子を庇った象にはランチャーが命中。
「貴様もガキを狙え! 象どもに庇わせろ!」
 悪魔が銛型に指示すると、撃退士に動揺が走る。
 象たちは少女の防護に徹し、複数回のカバーが可能。しかし数と手数に任せて攻められると、回数的に上回られかねない。
「ロケット弾はきつくても矢ぐれぇは‥‥」
 夜羽が自身も少女を庇う覚悟を決める一方、北でも動きはあった。
「抵抗できない子供を狙うとは、許せん‥‥当初の予定とは違うが!」
 銀海が銛型バイクに審判の鎖を放ち、麻痺に成功! さらに侑吾が正面に立ちウェポンバッシュで池に沈める。
 ライダーと乗員が池から引っぱり上げるが、そこまで。南下の余裕まではない。
「何してやがる、使えねえクソ野郎が!」
「配下を責めるとは、つくづく無能な上司ですな」
 サイドカー乗員だけとなったノコギリ型は比沙子を狙うが象と豹に阻まれる。ミリオールらが仕留めきれなかった一組も来るが、こちらも武装は短射程のノコギリで、少女を狙うには手数が足りない。夜羽に乗員が倒された。
 比沙子たちは南下しつつ、獅子が癒しの風を自身と象らに使う。



「そんなに乗っていては狭いでしょう? スペースを空けてあげますよ」
 オーデンが岸からホバークラフトに飛び移り、ウェポンバッシュで乗組員を落とす! 朦朧状態の敵はかわしようもなく、水面を跳ねて岸に。
「落ちやがれ!」
 ウビストヴォが薙刀でオーデンを斬るが、シールドで受けてかすり傷に抑える。
「悪魔相手‥‥と覚悟してましたが、意外と耐えられそうですな」
「抜かせ!」
 さらにランチャーでオーデンに零距離射撃、食らうが半分も削れはしない。
「おっと、まだ倒れませんよ? 煮込まれれば煮込まれるほど、おいしくなるのがおでんです」
 残る乗組員は雫と侑吾を狙うが、雫はまたも回避。しかしナパームの火炎を侑吾と銀海が浴びて、かなり危なくなってくる。銀海は流水針で、侑吾は剣魂で自己回復。
 公は、池から上がった銛型のライダーに背後からマジックスクリュー、朦朧とさせてまた動きを封じる。乗員は遠距離からロケットを象に撃ちつつ、自身は公を撃ち、多少傷を負わせた。
 クリフはスキルを交換しつつ、ミリオールは冥殺の白銀を再度使用しつつ、北へ。雫は二度目の闘気解放。
 クラウディアは蒼竜を再召喚しつつ先ほどと同じライダーを背後から襲う。倒し損ねたが、ツインクルセイダーに持ち替えた夜羽が撃ち倒した。生き残りの乗員が撃ち返すが、予測回避でかわす。
 ノコギリ型は同じくサイドカーのみの攻撃、ランチャーは象が受け、銃は獅子が盾になる。
 アダムはライダーのみになった一組を狙うが巧みにかわされた。比沙子に接近したそれは獅子に妨げられる。
 ここで、余裕のできた黒豹が動いた。乗員だけとライダーだけ、二組のウビストヴォ勢を電撃でまとめて攻撃し、倒すには至らないがかなりのダメージを与えて麻痺させる。そして迅雷的スキルで元の位置に引き返し比沙子を守る。
「味方としては頼もしいな」
「当てにし過ぎない方がいいとは思うけどな」
 ファズラ勢に感嘆する銀海に侑吾が呟く。
「あの悪魔のお嬢さんだって、結局は悪魔なんだし」



「オーデンさん、巻き込まれないよう離れてほしいですワ!」
「了解です」
 オーデンは岸へ飛び移る前に再び乗組員にウェポンバッシュを試みるが、奇跡的な動きで回避される。
 公は、ライダーが朦朧状態な目の前の銛型は無視し、悪魔にマジックスクリューを狙うが当たらず。乗員に再び銃で狙われたものの、今度は回避。
「ヒヒッ、てめえらの攻撃なんざ当たるかよ!」
「ギャアギャア騒ぐなよ。本当にみっともないな」
 侑吾の挑発は効かず、雫や公へ狙いが向きそうになる。
 その時、池の北側へ回り込んだクリフが、氷の夜想曲から切り替えたファイアワークスを放った! 悪魔とホバーと乗組員二体、さらに銛型をも包み込み、ライダーを倒す。
「小さい女の子を執拗に狙うとか‥‥救いようのないペド野郎ですね」
「すかした面してんじゃねえよ、力のないはぐれ風情が!!」
「耳が腐るので無駄に叫ばないでくれません? ‥‥馬鹿なんですか?」
 冷淡な言葉が、悪魔の激昂を誘った。
「死ねやあっ!!」
 魔法でクリフを攻撃するが、ナイトミストで回避。
 乗組員とナパーム弾が侑吾やオーデンや雫を狙うがすべて回避。
 ロケットがクリフを襲うが、これもナイトミストで回避!
「何で当たらねえんだぁっ、クソがっ!!」
「やかましいですワ」
 深淵女王が悪魔とホバークラフトを包み込む。
「ふふ、無数の世界の中にはこんな物質も存在するのですワ‥‥」
 冥魔に効果的な毒が混ぜられた一撃は、白銀の光を放ち、乗組員二人を撃破!
 乗員だけが残っている組は、ロケットを発射しつつ獅子など手近な相手を銃で狙う。夜羽は今回は回避しきれず負傷、反撃は倒すに至らない。
 その敵への攻撃は外したものの、クラウディアは蒼竜を動かして雫に声をかける。
「相手が池を出ないなら、こっちが近寄ってやるしかないわよねえ」
 池に入った竜、その頭に雫が乗る。
「天魔が人を糧とするのは、納得も理解もしませんが嫌悪感までは抱かない‥‥」
 射程に捉えた雫がフランベルジェを振りかぶる。
「だけど、お前のように意味もなく命を弄ぶ奴はこの世に生かしておけない!」
 振り下ろす斬撃が水面に刻むは三日月! ついにホバークラフトも破壊し、悪魔にさらなる傷を負わせる。悪魔はどうにか翼で池の上へ。
 残る敵は少ない。銀海の審判の鎖は外れるが、アダムは少女に迫りかけていたライダーを倒す。
 岸の乗組員が弩で射るが、クリフはこれも回避した。
 黒豹の雷撃が再び炸裂、夜羽が倒し損ねた敵や公と銀海の近くにいる敵にとどめを刺す。



 南東から、ファズラ作の猛牛がやって来た。撃退士たちを認めて鼻息を荒くするそれに、夜羽が声をかける。
「ま、いきり立つなよ。おまえの出番はなさそうだぜ?」

「仕掛けますので待ってほしいのですワ!」
「宣言なんかしてんじゃねえ! その前にぶった斬ってやらあ!!」
 手負いの悪魔がようやく池を離れて岸辺へ出て、ミリオールと雫へ薙刀を振るう。しかしどちらにもかわされる!
 そして放たれる深淵女王は‥‥悪魔が回避!
「へ、へっ、大したこと‥‥」
「油断禁物ですな」
 オーデンに斬られた悪魔は、ダメージが限界を超える。
「い、いてえ、いてえよぉ‥‥頼むから命だけは‥‥」
「前言撤回。惨めな命乞いなんかしない分、あのヴァニタスの方があんたよりまだ上出来だったわ」
 雫を乗せた竜を動かしつつ、クラウディアが遠距離攻撃。天界の気は、重体の悪魔には実によく効く。
「これしきの痛みで、殺された人たちへの手向けになるとは思いませんが」
 クリフが包囲を完成させファイアワークス。悪魔のペストマスクが外れ、貧相な顔が露わになった。
「下種がっ‥‥」
 雫の荒死は一撃だけだが大打撃。
 苦痛と恐怖に身を捩らせるウビストヴォの頭部が、遠距離からの一撃で弾ける。
 対岸からの、公の通常攻撃が決着をつけた。


「あ、倒しちゃったのね。一人フルボッコタイムやれると思ったのに、ちょっと残念」
 軽やかな声が、上空から降り注ぐ。
 撃退士たちが見上げると、禿鷹と、同じような翼を背に生やした少女とが飛んでいる。
 黒髪黒瞳ながら、右目は灰色。手甲に包まれた右腕は不自然なまでに太い。そんな異形の出で立ちながら、十歳ほどの姿に似合わぬ落ち着きと不思議な明るさとが同居している少女だった。
(続く)


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 歴戦の戦姫・不破 雫(ja1894)
 男だから(威圧)・文 銀海(jb0005)
 くりふ〜くりふ〜・アダム(jb2614)
 おでんの人(ちょっと変)・オーデン・ソル・キャドー(jb2706)
重体: −
面白かった!:7人

歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
優しき魔法使い・
紅葉 公(ja2931)

大学部4年159組 女 ダアト
我が身不退転・
桝本 侑吾(ja8758)

卒業 男 ルインズブレイド
男だから(威圧)・
文 銀海(jb0005)

卒業 男 アストラルヴァンガード
天と魔と人を繋ぐ・
クリフ・ロジャーズ(jb2560)

大学部8年6組 男 ナイトウォーカー
くりふ〜くりふ〜・
アダム(jb2614)

大学部3年212組 男 ルインズブレイド
おでんの人(ちょっと変)・
オーデン・ソル・キャドー(jb2706)

大学部6年232組 男 ルインズブレイド
ファズラに新たな道を示す・
ミリオール=アステローザ(jb2746)

大学部3年148組 女 陰陽師
能力者・
御神島 夜羽(jb5977)

大学部8年18組 男 アカシックレコーダー:タイプB
Trick or Treat?・
クラウディア(jb7119)

大学部6年33組 女 バハムートテイマー