.


マスター:茶務夏
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:10人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/09/09


みんなの思い出



オープニング

●正午
「食らいやがれ!」
 ルインズブレイドの少女がバイク乗り型ディアボロをぶった斬る。陰陽師の悪魔が範囲魔法攻撃で、サイドカー付きに改良されたディアボロたちを乗り手も機体もまとめて吹き飛ばす。
「群馬は返してもらうよ!」
 阿修羅の少女が槍を構え、小型のホバークラフト型ディアボロに騎乗するウビストヴォと対峙する。ゲート内であり撃退士に不利だが、ダアトの少年やバハムートテイマーの少女らと巧みな連携を取り、悪魔をその場へ釘付けにする。
「もらった!」
 マグナムを手にしたインフィルトレイターの少女が、悪魔たちの死角から狙い澄ました一撃を放つ。アウルの弾丸は、ここまでの戦いですでに損傷していたゲートのコアを見事に破壊した。
「!」
 ゲートの主である悪魔の顔色が一瞬変わるが、すぐに高笑いする。
「人間は狩り尽くしたんだ、ゲートなんざもういらねえよ!」
 アカシックレコーダーの少女を跳ね飛ばして包囲を脱出し、別の場所で戦っていたヴァニタスに生き残ったディアボロたちを率いて撤退するよう念話で指示。
 ウビストヴォは自身のゲートから逃げ去った。



「くそっくそっくそっ!!」
 ホバークラフト型ディアボロを駆りながら、ウビストヴォは呪詛を吐き続ける。撤退の際の言葉は負け惜しみに過ぎなかったようだ。
「撃退士なんざディアボロに毛が生えた程度の連中じゃなかったのかよ?! 何であいつらあんなに強いんだ!?」
 バイク型ディアボロで並走しながら、人だった時の名を豊田昭穂というヴァニタスは、主である悪魔を冷淡に見つめる。
 先日の遭遇戦の際に見聞きし感じたことを、昭穂は正確に悪魔に伝えた。しかし彼は、撃退士を強いと考えず、自分の配下を弱いと考えた。ディアボロの改良を進めていたところで撃退士たちの襲撃に遭い、あえなく敗れた。
「おい女」
「はあい」
「キリューシに入り込んで、ファズラ(jz0180)の居場所を探り出せ。俺に念話で伝えれば、すぐに突っ込んで行ってあの小生意気なクソガキをぶっ殺してやる。下剋上だ」
 何て雑な計画。身分を得れば、もちろん魔界から分け与えられるエネルギーは増える。桐生市という領地もそこに生き残っている一般人も彼のものになる。しかしそれをこの粗暴な悪魔がどこまで活かせるか。それにディアボロの指揮権までは動かない。野良ディアボロだらけになった領地で、最大の資源たる一般人をどれほど守れるか。
 そもそも、彼が最初から同行しないのは、彼とてファズラの作るディアボロと無駄に連戦したら洒落にならない傷を負うからだろう。昭穂は地雷を踏ませる生贄というところか。
「うまくいけば今度は俺様が准男爵だ。てめえもちっとは強くしてやるぜ」
「はあい」
 ともあれ、主の意向は断れない。
 以前みどり市内の巡回中、遠目に桐生市の布陣を観察した。ファズラは前から下剋上を警戒して境界警備を充実させていたが、県境にもディアボロを振り分けるようになり、多少配備に穴が生じた。
 その脆いポイントへ、ディアボロたちを先行させて西から襲わせ、浮き足立ったところを北から突くなどすれば、どうにかなるのではないか。
 そんなことを考え、ディアボロに命令を出していた時、ヴァニタスの強化された視力が、視界の隅に動くものを捉えた。
 この切羽詰まった状況下、本来は無視しなければならないのだが。
「ウビストヴォ様、少し寄り道しますー」
「何考えてんだこのクソ女!?」
「こんな風に作ったのはウビストヴォ様ですよぉ?」



 一旦遠く離れ、停車。かぶっていたペストマスクを消し、服を替え、武装バイクも普通のバイクに変形する。
 ゆっくり引き返すと、隠れていた十歳ほどの少年は警戒した様子で昭穂に振り向いた。金色の光を纏っている。
「久しぶりね、ケンくん」
「あきほ先生‥‥?」
 幼稚園で世話をしたのは何年前か。あの時に比べると大きくなり、逞しくなった。
「先生、アウルに目覚めて生き残ったの。ケンくんも?」
 優しく声をかけると、昔のように抱きついてきた。歳に似合わず子供っぽい仕草。悪魔の襲来以来、この子はどんな人生を歩んできたのか。
「お、おれは、――」
「まあいいか」
 完全に油断していた相手の喉笛を爪で掻き斬る。驚きに呆然とする幼い子に、意識が失われるより速く次々と、傷と苦痛を刻んでいく。
「幼稚園で雪が降った日のこと覚えてる? ケンくん、雪が積もった庭に踏み込んで足跡たくさんたくさんつけてたよね。私もあれと同じ。きれいなもの、かわいいもの、愛おしいものをぐちゃぐちゃにしたくてたまらないの」
 原形を留めなくなりつつある相手へ、最後に告げる。
「特にね、昔幼稚園で担当してた子を見るとね、もう辛抱できなくなっちゃうの。可哀相にね、ごめんね」
 これが今の自分の本性。それでも、少しだけ悲しくて。
 マスクを着けるのはやめて、しばらく素顔で走ることにした。

●午後一時
「ついさっき、みどり市のゲートは破壊されました。エリア内のディアボロは掃討されつつあります。悪魔ウビストヴォとそのヴァニタスは行方をくらましていますが、みどり市全体は人類に奪還されたと言っていいと思います!」
 ――殺された人は帰って来ませんが。
 その言葉を今は呑み込み、堕天使のスランセ(jz0152)は撃退士たちに向けて、唇に笑みを形作る。天魔の存在がいかにこの世界に害悪をもたらしているか、それを考えると締めつけられそうな気持ちになるが、この場でそんな表情を見せても意味はない。
「今回皆さんには、みどり市のゲート跡付近に転移し、その南東にある桐生市――准男爵ファズラの領地への潜入を試みて欲しいんです。県境には猛獣型ディアボロがびっしりですが、みどり市との境界なら多少は警戒が緩んでいるのではないかと考えてのことです」

●午後三時
「桐生市出身のフリーの撃退士よ。多少は土地勘があるし、よかったら同行させてもらえない?」
 撃退士たちのグループに出くわした瞬間は動揺したが、幸い昭穂の顔は知られていない。話をし、相手の目的が桐生市潜入と知り、利用できると判断した。



 ちょっとした池が目印のそこが、警備ポイントの弱点だった。
「この先の桐生市側の警備は少し薄いはず‥‥あら、ディアボロ同士の戦闘ね」
 先行させていた連中が、ファズラ勢と戦っている。今日ここの見張りを担当していたのは折悪しく象型だ。合流が遅れたのでもう全滅してると思っていたのに意外と粘る。
「象さん、象さん!」
 理由はすぐわかった。七、八歳ほどの少女が象の足元で泣いている。象はそれを庇うように一歩も動かず、サイドカー型ディアボロに据えたロケットランチャーの砲撃を律儀に浴び続けている。タフなタイプなのに、かなり弱っているようだ。
「ファズラのディアボロは支配地域の一般人防衛を最優先するわ。おかげで満足に戦えてないみたい。ウビストヴォ様のディアボロを利用すれば、増援が来る前に象を倒して市内へ潜入できそうね」
 そこまで言って、幼女の顔に凍りつく。
 まさかここへ来て一日に二人も出くわすとは。
「比沙子ちゃん‥‥」
 撃退士に問われ、「幼稚園で担任していた子」と答える。そう言えば、みどり市の幼稚園でも池や水辺が好きな子だった。
 可愛く成長したものだ。
 ああ、我慢できない。


リプレイ本文


(‥‥似ている)
 撃退士を名乗る豊田昭穂という女と同道して以来、雫(ja1894)の疑念は膨らみ続けていた。
 前回遭遇したペストマスクの女ヴァニタス、ウビストヴォの配下と背格好が一致してる。口調は違うが声も似てる。幼稚園の先生をしていたとも言っていた。
「群馬の情勢にずいぶん詳しいのですね」
「県境の結界が解けてから、時々みどり市経由で桐生市を目指してたのよ。だからウビストヴォとファズラの方針はわかるわ」
「今度は様付けしてあげないの?」
 クラウディア(jb7119)が愉快そうに笑った。天界の気を身にまとい、しかし出自も精神も悪魔である少女。
「悪魔を様付けするのって、下僕か崇拝者くらいよねぇ。ねえ、アナタはどっち?」
「聞き違いじゃないかしら?」
 女はしれっと否定する。同じくその言葉を聞き咎めていた雫や紅葉 公(ja2931)、クリフ・ロジャーズ(jb2560)の疑念は弥増すが、動くにはまだ足りない。
「それより、戦わないの? 今ならウビストヴォ勢を利用すれば象型を倒すのも楽なはずよ?」
「確かに、あの象にはきっと苦戦するのですワ」
 堕天使のミリオール=アステローザ(jb2746)がしみじみ呟く。彼女は象型強化版のマンモス型と以前タイマンめいたことをやり、痛手を負った。
「でも今は、こっちが優先ですワ!」
 ミリオールはするすると南下してウビストヴォ勢の裏を取る。そして放つは「深淵女王」。サイドカー付きバイクと乗員二体、それら三組十二体を完璧に巻き込んで、黒金属の触腕が蹂躙し、サイドカー乗員などは早くも瀕死。
「現状は、ディアボロに襲われている少女を護ることが最優先でしょう」
 はぐれ悪魔のミズカ・カゲツ(jb5543)が縮地を用いてバイクに迫る。
 雫たちが昭穂を警戒しているのが気になる。心構えはしておくべきだろう。しかしそこは仲間に任せ、自分は自分にできることを。
 同じように南へ走るのは佐藤 七佳(ja0030)。尋常でない移動速度を誇る彼女はバイクの背後に接近、ライダーへ斬りつける。
「?!」
 しかし不意を突いたはずのその一撃は、警戒されていたかのようにかわされた。
 クラウディアも南へ。しかし召喚したストレイシオンは昭穂の近くへ置く。
「すまない、任務遂行のため、後衛にて指示をお願いできないだろうか? 地理に詳しいあなたが倒されてはうまくない」
 文 銀海(jb0005)が阻霊符を発動しつつ、昭穂に提案した。初めて訪れた群馬に強烈な印象を受けてきたが、今は目の前のことに集中する。
「私はむしろ中衛についてもらえばと。奇襲も怖いですし」
 雫の主張は無論、監視しやすく逃がしにくいから。断られた場合は仕掛けるつもりで、クリフもスキルの準備をする。
「了解よ。なら雫ちゃんや桝本くんが前衛かしら?」
「ふぅん‥‥」
 昭穂を見て、桝本 侑吾(ja8758)は前に。様付けへの不審が、信頼できる仲間たちの言動を経て強い疑念に変わる。しかしまだ仕掛けてこないようだ。雫も油断はせず昭穂に隣接して移動し、今のうちに闘気解放をしておく。
「バイクがこっちへ来るぞ!」
 アダム(jb2614)が警告する。象を襲っていたバイクの一台が、撃退士に狙いを変えたように向かって来る。
 バイクから銛が、サイドカーからロケットランチャーが、ライダーがボウガンを、サイドカー乗員が短銃を発射!
「雫さん大丈夫ですか!?」
 ライダーをライトニングで倒した公が声をかけた。
「‥‥なぜ、残らず私を狙うのでしょう」
 銛を斬り払い、返す剣の腹でロケットを彼方へ弾き飛ばした雫が呟く。矢と銃弾はかわせなかったが傷は軽い。
「しかたないんじゃない? あなた強いし」
「どうしてそれをあなたが知っているんです?」
 クリフも昭穂の隣に来て問う。雫が歴戦の強者と見た目だけで判断するのは難しい。
「風格とかそんな感じよ。それより、私とおしゃべりしてる暇あるの?」
 二台目のバイクが、クリフへロケットランチャーを放ちつつ象へ向かっていった。その他の三攻撃で少女を狙い、庇わせて象の反撃を封じる。
 クリフはロケットの直撃を受け、大きな傷を負った。そこへさらに突っ込んでくる三台目!
 ミリオールは遠距離から飛来したロケットを、侑吾は矢をかわしたが、銃弾を食らったクリフは昏倒する。
「クリフー!」
 自身に銛が刺さったことも忘れ、アダムが叫んだ。



 昭穂を中心に妙な雰囲気なのは多少離れてもわかる。しかし今は、飛び出した自分たちにしかできないことを。
 少女と象に迫った一台。七佳はライダーを、ミズカはサイドカー乗員を、ともに愛刀の建御雷で斬り捨てた。

「なぜ、あなたはおしゃべりする暇があるのでしょう。まるで自分が攻撃されないことがわかっているかのように」
 剣の切っ先を向けた雫の問いに、昭穂は答えない。雫も答えは期待しない。
 昭穂の顔を魔法のようにペストマスクが覆った。バイクもドリルが装備された禍々しい形状に変化していく。
「あぁ、これ以上我慢するなんて無理ね。すぐ目の前に可愛い教え子がいるんだもの、この手で嬲り殺しにしないと気が済まない」
「教え子って、さっき言ってた比沙子って子のことか? なんで殺そうとするんだ?!」
「あなたにはわからないでしょうねえ、堕天使の坊や」
 嘘や悪意に疎いアダムを、ヴァニタスは見下すように笑う。
「そもそも、突破させません」
 雫が昭穂の正面に立つ。雫の後ろにはアダム。昭穂の背後は銀海とストレイシオン。クリフは倒れたが、侑吾が彼を庇いつつ昭穂を包囲している。
「甘いわよぉ」
 先んじて昭穂が動く。バイクを急発進させ、ドリルで雫とアダムを跳ね飛ばさんとし、突破した後はライダーの倒されたバイクに乗り換え。接近していたもう一台のバイクからは、それらを援護するべく手近な撃退士へ攻撃が乱射される。
 しかし、ヴァニタスたちの動きこそ防げなかったものの、撃退士たちの怪我は軽い。ストレイシオンの防御効果が絶妙のタイミングで発動し、シールドで身を守るアダムやクリフを庇った侑吾はほぼ無傷で済み、雫はドリルの回避に成功していた。
「足止めします。フォローをよろしく」
 周囲に声を掛け、雫はフランベルジェを振りかぶった。
「さあ、あの時の続きといきましょうか!」
 前回威力を発揮した荒死。ただし今回は五連撃。そして相手も、回避至難な正面衝突中というわけではない。三撃をかわし、サイドカーとバイクで一撃ずつ肩代わり。壊れかけのサイドカーも破壊にはぎりぎり届かない。
「反撃よぉ、強くて可愛いお嬢ちゃん」
 ロケットランチャーと短銃を食らう雫。防御効果で傷が浅いのは不幸中の幸い。
「撃退士に成りすました目的は何ですか?」
 公はライトニングで昭穂を狙うが、同乗する瀕死のサイドカー乗員に肩代わりされ、そちらの撃破に留まった。
「ウビストヴォ様に命じられて、桐生市へ侵入してファズラを探すのよー。同じ目的を持つ者同士、できればもっと協力したかったんだけど」
「じゃあ、まだ正体を明かす必要なんて‥‥」
「しょうがないじゃなぁい。ちっちゃい可愛い子を見ると殺したくなるんだもの」
「本来の目的見失うなんて、随分と堪え性がないのねぇ」
 公との問答を聞きながら、クラウディアは呆れた。
(もう少し賢く創れなかったのかしらね、ウビストヴォとやら。これじゃ駄作よ、駄作)
 それに比べれば魂吸収を優先する点といい、ディアボロに拘りを持ってる点といい、ファズラとは話が合いそうだ。
 彼女は南から東進し、自身の射程に収まるバイクを狙う。先刻クリフの攻撃を奇跡的にかわしたが二度は続かず、サイドカー乗員は亡骸と化した。
 ミリオールも、続いて侑吾も、同様にライダーを狙ったが、悪運が強いのかひらりひらりとかわされる。手数を早く減らすはずが、とんだ誤算だ。
「大丈夫か? すぐに治療するからな」
 銀海がクリフに駆け寄り「流水針」を用いる。快癒とはいかないが、気絶からは回復しそうだ。
「アダム、クリフは私に任せて」
「お、おう」
 銀海に促され、横たわる友を案じていたアダムは動く。
 まずは、戦闘に巻き込まれヴァニタスにまで狙われている少女を助けねば。そのためならディアボロと共闘してもいい。
 アダムは意思疎通を使う。
(娘。おれは撃退士だ。助けに来たからあんしんしろ!)
 次いで、瓦礫の陰に隠れろと指示しようとした時。
「撃退士なんて信じられない!」
 遠くから、幼い少女の叫びが聞こえてきた。
「?!」
「撃退士は群馬を見捨てたってみんな言ってるもん!」
 その声へ咄嗟に反論する術を、堕天使は思いつかなかった。



「あたしは貴女の嗜好を否定しないわ。人間も似たようなことはしてるもの」
 踵を返して一気に昭穂の懐へ潜り込んだ七佳が言う。人が獣狩りを楽しむように、天魔が人狩りに享楽を覚えることもあるだろう。
「速い!?」
 建御雷が狙うはバイク。サイドカーを盾にしようとする昭穂の操作を掻い潜り、剣は走る。
「でも天と魔と人の数だけある思いの一つなら、それは正義じゃなくて独善よね」
 七佳が目指すのは、全ての命にとっての正義。ならば昭穂の独善は、比沙子のために阻まれねばならない。
 七佳はバイクを一刀両断した。
「今のアナタ、いい的になっちゃいそうね」
 クラウディアは、ストレイシオンに荒死の反動で動けない雫をくわえさせて移動、昭穂から守る壁になる。
「‥‥脅威、恐怖とは往々にして気づかぬうちに這いよるモノなのですワ♪」
 バイクから降りざるを得ない昭穂に、ミリオールが囁きかける。昭穂が敵と見抜けず騙されたことへの意趣返しもちょっぴり。
「周りの方は気をつけて! 深淵女王!」
 ミリオールが今すぐ放てる最強の攻撃が、ダメージ転嫁できない昭穂を捉えた。苦痛の呻きが仮面から漏れる。
「酷いですね。初めてのフリをするなんて」
 目覚めたクリフがファイアワークスで攻撃。昭穂を火花で包むのはヴァニタスの狂態を少女には見せたくないという配慮だが、彼女の仮面は傷一つついていない。
「おれたちのことは信じなくていい!」
 懸命に考え、大声で少女に呼びかけながら、アダムは昭穂に弓を向けた。
「象にしっかり守ってもらえ! こいつはおれたちが必ず倒す!」
 言いながら放つアウルの矢は、昭穂の身に深々と刺さる。三連続の攻撃はかなりの手応え。そろそろ気絶が狙えるか。
「危険なのはロケットですね」
 ミズカも大駆けしてライダーを斬る。三度の回避は叶わず倒れ、動ける敵はこれで昭穂のみ。サイドカーの武装は意味を失う。
 しかし昭穂はなお怯むことなく、そのバイクに乗り込んだ。
「まるでヤドカリですね」
 雫がぽつりと呟く。
 公がライトニングで仕掛け、侑吾がウェポンバッシュ。二人の攻撃でサイドカーが微塵となる。
「行かせない」
 西へ吹き飛んだ昭穂に、侑吾は短く告げた。
 銀海が再びクリフを癒やす。



 クリフのファイアワークスが、アダムの弓が、侑吾のウェポンバッシュが、昭穂を捉えきれずかわされる。
 天魔の眷属になってしまったものは戻れない。しかも人に害をなすのなら、倒すしかない。
 侑吾はそう割り切っているが、天魔の友二人はこんな相手すら思いやる。それが、優しく、尊いものだとは理解できる。
(二人が動揺してるとしても、俺が引きずられちゃいかんのだが)
 ミズカの剣はバイクを盾にされる。ここで止めねば少女に接近されかねない。
「この程度の速度なら‥‥!」
 そこへ踏み込んだのは七佳。スキル「封意」を使用し、予想通りバイクに阻まれるがスタンが発動、移動不能な盾と成り果てる。
「ふふ、安心は禁物ね。増援が来る前に倒さないと、大変よぉ?」
 攻撃を重ねついにバイクを破壊したクラウディアだが、ふと疑問を覚えた。
 なぜこの女は、わざわざそんな情報を口にする?
 彼女のストレイシオン、そのカバーを必要としなくなった雫が、闘気解放をしつつ昭穂へ近寄りながら言う。
「余計なことかも知れませんが、残された教え子には貴方が人として死んだと伝えます。それが、人とヴァニタスの間で揺れ動く貴方への手向けです」
「それは、必要ないんじゃないかしらねぇ」
 公のライトニングに撃たれ、激しく身悶えしながら、昭穂は応じる。
「豊田昭穂の魂は、人間として死んだから。今この体を動かすのは、後から植えつけられた別の魂。それが昭穂の記憶を利用してるだけ」
「‥‥なぜ、その傷で気絶しないんです?」
「そんな人間っぽい機能、ヴァニタスには不要ってウビストヴォ様がね」
 公に答えつつ、包囲脱出も叶わない昭穂はそれでも標的を探す。
 小さい子がいいが、雫はまだ遠い。ゆえに。
 ミリオールに向けて放たれる魔力の光弾。当たりはするが、堕天使の防御を抜くほどではない。反撃の「吸引黒星」で簡単に全快。
「ちっちゃい子殺したいんですけどねえ」
 さらに傷を負いながらケタケタ笑う昭穂。
「あれが、ヴァニタスか‥‥」
 クリフを癒やしつつ、銀海が痛ましいものを見る目を向けた。



「終わらせましょう」
 七佳の封意が再び決まり、スタン。ズタズタな姿はヴァニタスの限界も超えた損傷を知らしめている。ただ、マスクはなおも無傷。
「あなたがどれだけ苦しんだか話して下さったのに、助けられなくてすみません‥‥」
「謝る必要なんてないのに。害虫みたいなものですよぉ? 動けるようになればまたちっちゃい子を殺しに行くし」
 クリフに対し、昭穂は軽い雰囲気で手を振る。
「そう作られましたからねー。もっとも、もしかしたら私は人間だった時からこんな願望を抱えていたのかもしれませんけど」
「そんなことはありません!!」
「‥‥優しい方ですねぇ」
 クリフのファイアワークスが昭穂を包む。再起不能と呼べそうな傷。しかし動きはなお止まらない。
 他を制し、雫が前に出た。弱々しく放たれる魔法弾を簡単にかわす。
 今回の荒死は三連撃。初撃を外してしまったのはどうしてか。
 それでも、続く二度は命中させて。
 一撃で動きの止まった肉体が、二撃目で粉々になっていく。
 ついに外れることのなかったマスクを、最後に真っ二つにした。



 剣魂やミリオールの「快癒の第三腕」まで使い、一行は全快した。
「あの‥‥」
 肩を落とすクリフを励まそうとしたアダムが振り向くと、比沙子が象と桐生市からの増援の獅子の陰からちらりと顔を覗かせる。
「助けてくれて、ありがとう」
 その言葉に、アダムは笑みをこぼす。そしてクリフの肩を叩いた。
「少なくとも今、戦うつもりはありませんよ」
 クリフは声をかけて慎重に進み、ダークフィリアで象の傷を癒やす。少女はもう一度、さっきよりも弾んだ声でお礼を言った。
「甘いわねぇ、撃退士って」
 クラウディアが苦笑する。

 命のやり取りを終え、空気がやや緩んだ時。
「あン? 女の奴、くたばっちまったのか? つくづく役立たずだなぁ!」
 北の方角から下卑た声が轟いた。
(続く)


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 歴戦の戦姫・不破 雫(ja1894)
 天と魔と人を繋ぐ・クリフ・ロジャーズ(jb2560)
 ファズラに新たな道を示す・ミリオール=アステローザ(jb2746)
 Trick or Treat?・クラウディア(jb7119)
重体: −
面白かった!:9人

Defender of the Society・
佐藤 七佳(ja0030)

大学部3年61組 女 ディバインナイト
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
優しき魔法使い・
紅葉 公(ja2931)

大学部4年159組 女 ダアト
我が身不退転・
桝本 侑吾(ja8758)

卒業 男 ルインズブレイド
男だから(威圧)・
文 銀海(jb0005)

卒業 男 アストラルヴァンガード
天と魔と人を繋ぐ・
クリフ・ロジャーズ(jb2560)

大学部8年6組 男 ナイトウォーカー
くりふ〜くりふ〜・
アダム(jb2614)

大学部3年212組 男 ルインズブレイド
ファズラに新たな道を示す・
ミリオール=アステローザ(jb2746)

大学部3年148組 女 陰陽師
銀狐の絆【瑞】・
ミズカ・カゲツ(jb5543)

大学部3年304組 女 阿修羅
Trick or Treat?・
クラウディア(jb7119)

大学部6年33組 女 バハムートテイマー