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マスター:朝来みゆか
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
参加人数:75人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/01/22


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

●2033年1月15日、朝

 目覚まし時計が鳴り始める。
 加賀谷 真帆(jz0069)は目を閉じたまま頭上に手を伸ばし、アラームを止める。
 しばらく布団のぬくもりを味わった後、ゆっくり這い出る。畳敷きの部屋だ。
 鴨居に吊るしたハンガーにはベルベットの着物コートがかかっている。
 交通機関での移動を考え、洋装と迷ったのだが、こんな機会はそうそうないから訪問着で出かけることにした。
 黒と白磁で染め分けた流水模様の地に、淡色で四季の花草が描かれた古典の柄だ。
 着物の世界は奥深く、わからないことばかりなので、お店のひとに薦められるまま選んだ。防寒対策で足袋は二枚重ねるつもりだ。

 十年前、アウルの低下を自覚した真帆は撃退士を引退した。
 もちろん迷ったが、周囲の足を引っ張るのは嫌だったし、思い出を汚したくなかった。
 こうして一般人として穏やかな生活を送れるのも、あの頃皆で戦った結果、つかんだ平和ゆえだ。
 年を重ねるのも悪くないと思う。

 昨夜は早めに布団に入ったが、楽しみでなかなか寝つけなかった。
 真帆は障子を開けて空模様を確かめた後、鏡に向かう。
(んー……肌の調子は80点ってところかな)
 ドレッサーには化粧品一式と腕時計、往復葉書の往信部分が置いてある。


「久遠ヶ原学園 同窓会のお知らせ

 皆様 お元気ですか。
 寒い日が続きますが、お仕事や子育てに忙しくご活躍なさっていらっしゃることと思います。
 リニューアルした旅館を借りきって一泊二日、懐かしい仲間と楽しいお喋りに花を咲かせてみませんか。

 ※ 数年前、島が沈むという噂が流れましたが、完全なデマです。

 * 2033年1月15日(土)13時〜 受付開始
 * くつろぎの宿・つるばみ(久遠ヶ原島)

 経費は卒業時にお支払いいただいた会費を積み立て運用してまかないます。
 お食事は豊富に用意してありますが、飲み物や乾き物の持ち込み歓迎です。
 現地までの交通費は各自でご負担ください。

 出欠のお返事は12月15日までに、返信葉書にてお知らせください。
 皆様とお会いできるのを楽しみにしております。

          久遠ヶ原学園2011年・2012年入学生 有志」

(あと数時間……久しぶりに皆と会えるんだ)
 時計は午前8時2分を示している。
 美容院での着付けと髪のセット、島へ渡る船の時間を考慮しても、お化粧にかける余裕はまだある。


リプレイ本文

●1月15日、12時50分

「まさかここで働くことになるとはねぇ……」
 風呂掃除を終えたつるばみ従業員は正面玄関に回った。木戸を開いて第一陣を出迎える。
「ようこそ、お疲れ様でした。同窓会ご参加のお客様ですね」

 静馬 源一(jb2368)は何食わぬ顔で受付を済ませた。
 実は前日から宿に潜入し、至るところに罠をしかけた。変装や変化の術をフル活用したおかげで、従業員にはばれていないはずだ。
 普段は真面目な教師だが、同期入学の仲間に会えるとあって弾けている。
 宿からは窓越しに島の中枢である学園が見える。
「久しぶりの我が学び舎、青春の久遠ヶ原っ!」
 心はいつでもティーンエイジャーを標榜し、二十年前と変わらない外見ではしゃぐ武田 美月(ja4394)。
 スーツ姿の若杉 英斗(ja4230)が和装の真帆に目を丸くする。
「もしかして加賀谷さん? お久しぶりです」
「若杉くん!?」
「真帆先輩、訪問着よく似合ってますね」
「藤花ちゃんこそ。素敵〜」
 玉子色に花を散らした訪問着で現れたのは雪成 藤花(ja0292)。真帆とは相変らず姉妹のように容姿が似ている。
「若杉くんも引退したのかぁ」
「怪我が元で……。今は天魔を相手に日本語や日本文化を教えてます。一緒にナターシャ(jz0091)と戦ったのが懐かしいですね」
 教職に就いた同窓生は他にもいた。
 卒業間際に君田 夢野(ja0561)と結婚したフェリーナ・シーグラム(ja6845)もその一人。学園の戦技教官だ。
 カルマ・V・ハインリッヒ(jb3046)は田舎に引っ込み、小学校教師を務めている。
「これ、差し入れ…に持ってきました」
 カルマが地酒を見せると、幹事が顔を輝かせた。
「おー、カルマくん、ありがとう」
(ウィズの言ったとおりですね)
 人間の世界では、こういうときに差し入れを持っていくものだと聞いております、と。
 ウィズレー・ブルー(jb2685)はお菓子の小さな包みをいくつも用意し、挨拶がてら配っている。
「カルマさんとウィズレーさんはつき合ってるんだっけ?」
 二人は顔を見合わせる。
「腐れ縁の茶飲み友達ですね」
 幾度か剣を交えた。種族は違えど、今は近い価値観を共有している。
 人間には長い時間である二十年も、二人には瞬きの間に等しい。

 そしてパンダにとっては――
 下妻笹緒(ja0544)は杖をつきながら、くつろぎの宿つるばみに到着した。
 歩くのがやっとのご老体。頭は白髪に覆われ、もはや白熊と呼んでいい。
 人間の二十年はパンダにはおよそ六十年に相当するため、これも仕方のないことなのだ。
「ほっほ、久しぶりじゃの」
 懐かしげに皆の顔を見回す笹緒だが、ボケ始めているため友の名が出てこない。
「今は何してるんですか?」
 英斗が問う。
「洗濯物なら取り込んだ」
 白と黒の歩く辞書だった若かりし彼の雄姿を知る仲間達は目頭を押さえた。
 同様に外見が変わってしまったのは、戸次 隆道(ja0550)だ。度重なる戦いを経て体は傷だらけ、髪も真っ白となった。
(二十年前は何でもできる気がしていましたが……もう、四十も越えてしまったと)
 フリー撃退士として飛び回る隆道だが、語る言葉は多くない。問われない限りは何も答えない。黙って懐かしむだけだ。

(非モテ騎士友の会か……。そんな事もやってたなぁ)
 星杜 焔(ja5378)に声をかけようとした英斗の携帯電話が震えた。
「もしもし、うん、さっき会場に着いたよ。君の分もちゃんと皆さんに挨拶しておくさ」
「誰と喋ってるんだろ? エア彼女…じゃないよね」
 報道のプロ、栗原 ひなこ(ja3001)のつぶやきは第二陣の到着にかき消された。
「敦志くん、額拡がっt……今日はよろしくね!」
「おう」
 如月 敦志(ja0941)がカメラを掲げた。


●1月14日

 ときは一日さかのぼる。日本と八時間の時差がある地で、カタリナ(ja5119)は権現堂 幸桜(ja3264)にワンピースを手渡した。
「え? えっと…何で?」
「同窓会ですから。皆それを期待してるでしょう?」
 カタリナは平然と答えると、スーツケースに女性用の衣服ばかりを詰める。
「期待なんてしてるはず……」
 言葉を呑みこみ、幸桜はフリルつきのワンピースを握りしめる。
「あ、日本に着いてから着替えたら駄目かな?」
 妥協案を探るも、
「こっちでアルテナと待ち合わせです」
 妻の返事はすげない。
 約束の空港ロビー。アルテナ=R=クラインミヒェル(ja6701)が手を振っていた。
 停戦後もならず者天魔との小競り合いは各地で起こり、アルテナが経営する片田舎の孤児院周辺もまた悶着に巻き込まれた。解決に尽力したのが、既にドイツに生活拠点を移し、家業の貿易商社での実務と天魔対策を担っていたカタリナだ。
「私一人では無理でした。お世話になり感謝します、フラウ・カタリナ」
「お互い様です。最近はやっと静かになりましたね」
 はたから見れば三人の女性が日本へ向けて飛び立った――

 別の便でエリス・シュバルツ(jb0682)もドイツを発った。
 アラン・カートライト(ja8773)は妹をアメリカに残し、十年ぶりに太平洋を越える。

「はいはい、AmenAmen」
 教皇となった皇 夜空(ja7624)は立場上、専用ヘリを使い、お忍びでの来日だ。
 姿は二十年前のまま老化していない。

 一足早く成田空港に到着したのは、レイン・レワール(ja5355)とブラッド・ラークス(jb3021)。
 入国審査で訪日目的を問われ、
「同窓会? 一晩タダ飯って聞いたんだが」
 答えるブラッド。係員が失笑する。
 同じ頃、イアン・J・アルビス(ja0084)も成田に着いた。


●1月15日、15時

「リナさん? 覚えてますか、シーグラムですっ! ユメノと私は撃退活動と演奏会をしながら世界を巡ってるんです」
 フェリーナはカタリナの腕にぶら下がる勢いで再会を喜んだ。
「相変わらず綺麗ですね」
 Rehni Nam(ja5283)は幸桜と対面するなり、その美貌をほめた。
「元気そうでよかった」
「はい、ジュンちゃんと結婚して九年目です」
 亀山 淳紅(ja2261)は夢野、カタリナと共に、恩師である高柳 基(jz0071)を迎えに行っている。余興の準備をしなくてもいいRehniは旧友とのお喋りを楽しむ余裕がある。

 エリスは柘植 沙羅(jb0832)に抱きついた。
「本当綺麗になって…元気にしていましたか……?」
「元気そうで安心したよ」
 恥ずかしがり屋だった沙羅はエリスを躊躇せず抱きしめ返し、額に再会のキスをした。口づけの応酬。
 家業を継ぎ、地域密着型組長として生活を送る中で沙羅も変わったのだ。
「加賀谷様は本当、お久しぶりですね……」
 微笑みながらエリスが真帆に話しかける。
「ミルクの子供達は元気にされていますでしょうか……?」
 懐かしい仔猫の名前を聞き、真帆が頬を緩める。
「うん、今でも学生さんが面倒を見てくれてるよ」
 エリスは獣医師見習いとして奮闘している。もともと動物は好きだったが、戦いを通じ、人の生き死に関わった経験がその道を志すきっかけとなったのだ。

 宿の近くの空き地に垂直離着陸機が着陸した。
 巻き起る風の中、硝煙を纏って現れたのはファング・クラウド(ja7828)。イギリス陸軍でSAS SWATの部隊長を務めている。
「や、どうも、皆さんお変わりないですねぇ」

 島内の研究所から訪れた麻生 遊夜(ja1838)と樋渡・沙耶(ja0770)は人だかりを見て面食らった。
「卒業後は知人とは全く会えなかったから……」
「ずっと研究で箱詰めやったしな、今日くらいはのんびりするといい」
 二人とも科学者である。特に沙耶は外出もろくにせず、研究に没頭してきた。
「とりあえず挨拶回りでもいくかね?」
「あ、遊夜さん、早速懐かしい顔が」
 旧友を見つけた沙耶は廊下を小走りに急ぐ。
「ソラさん……久しぶり。ちゃんとお相手見つかった?」
 沙耶にとって黒瓜 ソラ(ja4311)は学園で最初に一緒のクラスになった同級生である。
「独身を貫いてますよ」
 荷物をほどきながらソラは答える。撃退士を引退し小説家になった。
「やっぱり見つかってないか」
 遠慮のない沙耶の言葉も、二人の信頼の証といえる。
「宴会場、行きましょうか」
 ソラと沙耶は連れ立って宴会場へ向かう。遊夜も続く。この同窓会が妻の息抜き、慰労となればと考えている。
 宴会場は百畳の大広間だ。視界を遮る柱もなく、三桁に近い数の参加者を見渡せる。
 ソラのもとへ大股で近づいてくるスーツ姿の男――いや、女性の姿は、ギィネシアヌ(ja5565)だ。
 長かった髪をばっさりと切り、革のアイパッチを装着した姿は百戦錬磨の撃退士そのものだ。
「小説家になったって? ちゃんと食べてるか?」
「ネア先輩こそ! ご活躍のようですね。相当稼いでらっしゃるのでは?」
「いやー、難易度と報酬の釣り合わない厄介な仕事ばかり受けてるからな」
「体だけは大切にしてくださいね」
 学生時代は先輩に認められたいと願っていた。沈みがちなソラは幾度となくギィネシアヌに励まされた。
 今は別の道へ進み、確かな人生の手応えを感じている。
 いくつかの言葉を交わした後、ギィネシアヌがつぶやいた。
「強くなったなソラ」

「うむうむ、見違える者等ばかりじゃ。よき哉よき哉」
 大江の山から降りてきた朱頼 天山 楓(jb2596)は裸足であぐらをかき、我が子の成長を見るまなざしで酒をあおっていた。
 人間界へ移り住んだのは数百年前。こんな爺にまで招待状とは律儀じゃのう、と返信葉書に書いた。

 周囲が仰ぎ見る長身は190センチの大台に乗った十八 九十七(ja4233)だ。
 天魔との停戦協定が結ばれた後、人と人が争う戦場を転々としている。薄黒く日焼けし、イケメン化が加速した。
「よぅ、相棒」
 ギィネシアヌがグラスを持って近づいてきた。砂色の世界を巡る十年間でも偶然の再会を重ね、酒を酌み交わした仲だ。
「相も変わらず、ちっちゃいぎーちゃんですこと」
「平和な同窓会で会えるとは思ってなかったぜ」
「案内状が九十七ちゃんを追って各国を転送されてきたんですねぃ。何にせよ島が沈没してなくてよかったですねぃ」
 二人はウォッカで乾杯する。
 生き延びてきた今日までの日々に。正義を求め歩いてきた道筋に。

 ひなこは学生時代の映像を再生するミニプレーヤーと、写真を収めたアルバムを持ち、皆に奇声を上げさせていた。
 恥ずかしい青春の証拠、いわば「ビフォー/アフター」のビフォーを握っているひなこの立場は強い。さらにアフターを撮るべく、敦志がカメラを構えている。
 畳の隅を踏み、作動したワイヤーに吊り上げられそうになった一色 万里(ja0052)は難を逃れると、
「初めましてですわね。わたくし、国家撃退士をしております、一色という者ですわ。お見知り置きを」
 忍者屋敷風の罠を作った首謀者の源一に名刺を差し出した。
 大人びた反応はそこまでで、伊達眼鏡を外した万里は大広間に用意された料理を嗅いで舞い上がる。
「あ、鍋? ボクはキムチ鍋と豆乳鍋希望だよ。親睦も深められて心身温まる鍋こそ、和食の基本! 天魔の皆も知ってる常識だよね」
「わー、最初来たときは誰かと思ったよ〜」
 豹変した口ぶりをひなこが指摘すると、
「うん、国家云々ってつく仕事だと、礼儀作法とか言葉使いとか面倒だよね」
 万里は日頃の苦労を語り始めた。

「高い高いー」
 ぐずる娘をあやすのは癸乃 紫翠(ja3832)。他に二人の子を家に残してきたが、ミシェル・ギルバート(ja0205)とは今も恋人夫婦である。
「学園ってこんなだった?」
 中にいるときにはわからない、外から見て気づく真実もある。そして時間が教えてくれることも。
 ミシェルは傍らに立つ夫と子に寄り添い、目を細める。学園に来た当初は考えられなかった幸せに囲まれている。
 でもまだ撃退士を続けている仲間の何と多いことか。
「……現役、復帰しようかな」
 つぶやいたミシェルを、紫翠がたしなめる。
「子供のことを第一に考える約束だったろ? この子はまだ五歳だし、撃退士も当時よりはるかに多いんだし」
「ごめんなさい……アタシが今守るべきなのは、この子達だね」
 ミシェルは不安そうに服のすそをつかむ娘を抱き上げる。
 紫翠がミシェルの頭をそっとなでた。
「役に立ちたいって思う気持ちは立派だよ」
 ありがとうと微笑むミシェルの腕の中で、小さな娘も笑う。
「私も引退して、家庭を守る盾になりました。男の子が二人います。あ、旧姓は夏野ですが、今は翡翠です」
 夏野 雪(ja6883)が酒を片手に夫妻に話しかける。
「うちの息子二人は大学生と中学生。今日はバイトと部活です」
 紫翠の言葉に、雪はあら、と目を丸くする。
「うちは長男の受験で……でもそろそろ育児も楽になったし、やっぱり女の子も欲しいな〜」
「旦那様は…今日は?」
「急な用事で来れなくなって」
 単身の参加となった雪はやれやれといった顔で杯を飲み干す。
 Rehniも子育て談義に加わる。双子のうち、撃退士を夢見る息子はRehniが槍の稽古をつけていること。娘は声楽を志し、夫と義母が教えていること。そして。
「……そろそろもう一人欲しい、かも」
「引退後も人生は続きますからね」
 人生を引退しない限り、撃退士を辞めても新しい一日はやってくる。
「地に足のついた生活というのは大変ですけどやり甲斐もありますね。引退したことは後悔はしていませんけど」
 チャイナドレスがよく似合う周 愛奈(ja9363)がきっぱりと言う。
 忘れられるはずがない。特別な時代だった。
「幼い正義感から撃退士になって、多くの時間を学園で過ごしたのですから。今となっては懐かしい思い出ですね」
「私は旧支配地域で農業復興支援をしてるんだ」
 用意してきた制服を着た美月が言う。
「昔やってたことも、今やってることも、どっちも命を守る大切な仕事だって思ってる! もしよかったら後で、お子さんも一緒に一緒に温泉入らない?」
 美月の誘いに、ミシェルはぜひ、と微笑んだ。

 喧騒の中、幹事がマイクを手に取る。
 と、金タライが落ちてきて幹事の頭を直撃する。源一のしかけかと思いきや。
「全く……馬鹿ばかりだな、俺も含めてだが」
 実は夜空も源一と共にトラップを作っていたのだった。
 目を回した幹事に代わって、梅ヶ枝 寿(ja2303)がマイクを引き継いだ。撃退活動のかたわら、ローカルFMラジオのDJも務めている。
「超懐かしい面子ぞろいなんですけど! とりあえず乾杯っ」
 既に飲み始めている面々もあらためて酒を注ぐ。長い夜に及ぶ大宴会が始まった。
 楯清十郎(ja2990)はこの世にいない仲間の分の杯をこっそり盆に置いた。
「しんみりするより明るく騒いでる方がいいかもしれませんね」

「二人とも美人になって……」
 権現堂夫妻を見つけるなり、敦志がひなこコレクションから引っ張り出した二十年前の写真は、幸桜が水着コンテストの女性部門で準優勝したときのものだ。
 幸桜は複雑な気持ちで苦笑いする。
「ばかもの! わしゃまだ現役じゃ!」
 誰に年寄り扱いされたのか、杖を振り回して怒っているのは白熊……笹緒である。
 影野 恭弥(ja0018)は天魔との戦いで失った右目を黒の眼帯で覆っている。左目に映る世界は今も紛争が絶えない。
 何年経とうとも変わらない。死ぬまで戦い続けると、ある人に誓った。
 今回が最後の学園訪問になるかもしれない。恭弥は一人、外に出た。

「仕事面でアピールしたい子いる?」
 寿の言葉に、鷹司 律(jb0791)が真っ先に応じる。
「皆様お久しぶりです。現役を辞めて、今では普通の警察官です」
 実は警察内でも名簿上に記載がない特務機関に属しており、諜報活動をしている律だ。
「徹夜ってスキル、現役でお持ちの方いらっしゃいますか? いれば是非来ていただきたいんですが。貧乏暇なしな職場ですので」
 どっと笑いが起こる。
 次に淳紅が手を上げた。
「声楽家やってるでー♪」
 あの頃描いていた夢を形にした淳紅である。火傷により撃退士の前線からは退いたが、声帯に後遺症が残らなかったのは幸いだった。
「最近は正式なコンサートだけやなくて、私的な歌謡ショーもやってるんで遊びきてな! 以上、宣伝でしたっと♪」
「私生活はー?」
「おかあさ…やなかった、れふにーちゃんと夫婦やでー」
 照れながら答える淳紅。
 そこからは酒の力も大いに作用するノロケ大会である。
 学園生同士で結婚した参加者が皆の前に立たされる。
「僕も学生時代に恋愛しておけばよかったかな」
 異世界の再生事業に取り組む清十郎がつぶやく。
 鈴代 征治(ja1305)は既にかなり飲んでいる雪に背中を押され、立ち上がった。
「遊夜さん、鈴代です」
「む…面影がなくは、ない…かな?」
 自分ではどこか変わっただろうかと思っていた征治だが、友の目を通してみれば変化はあるらしい。数年前にアリス・シキ(jz0058)と小さな喫茶店を開いたことを報告する。
「料理とお茶が大好きな奥様ですものね」
 Rehniが言えば、雪がうなずく。
「機会があれば喫茶店へいらしてください。最高の一杯をご馳走しますよ」
 PRを終え、征治は腰を下ろす。同じ愛妻家として遊夜と話に花を咲かせるのもいい。
「流石ですね、やはり」
 ファングが言う。いつか征治の店で紅茶を賞味してみたいと思う。
 続いて星杜夫妻。焔は藤花と共に児童施設を運営しながら、小料理屋の主人として腕を振るっている。妻と子供達と育てた野菜やハーブを使い、亡き父の味を継いだ料理に真心を込める毎日だ。
「児童施設と料理屋って大変じゃないの?」
「手が行き届く規模でやってますよ〜」
 焔は目を閉じる。思えば人生の選択の礎は全てあの頃に得た。非モテだった自分が伴侶と出会った。
「学食のカツカレー人気だったよねぇ。今日は皆に、うちの看板にもなってるカツカレーを振舞いたいな」
 焔は用意してきた鍋を携帯コンロに載せた。食欲を刺激する香りに学友達が沸き、鍋へと群がる。
「まず飯だ」
 ブラッドはレインから離れて食卓に突進した。

「学園に残ってはいたけど、皆がいるとやっぱり懐かしい感じだなぁ」
 澤口 凪(ja3398)と桐生 直哉(ja3043)はかつて共に暮らしていた学生寮で働いている。焔のカツカレーの味もまた時間を巻き戻すのに一役買ったことは間違いない。
「澤口さんって呼ばれたのも久々だったし、ね」
 いたずらっぽく笑う凪に、直哉が穏やかに応える。
「笑い方、昔と変わってないな」 
 二人は熱気あふれる大広間を抜け、宿の庭に出た。自然と手をつなぐ。
「この学園で、皆に…そして貴方に会えて、家族になれて。今日まで繋がってきたことはとても幸せだよ」
「みんなと繋がり続けることができたのは、凪がずっと帰る場所を守ってくれたからだよ」
「子供達のことも寮の子達のことも、いつも温かく見守ってくれてありがとう」
「愛してますよ、直哉さん」
 夕暮れの庭で、二人は愛と感謝をあらためて伝え合う。

「いやー変わってなくて安心したわ」
 寿の視線は敦志の一点に結ばれている。
「まだ生きてたか……安心した」
 百々 清世(ja3082)が示唆するのも敦志の――生え際である。
「だから、禿げないって言ったろ?」
 敦志は笑って頭に手をやる。額は若干広くなったきらいもあるのだが。
「寿、ヘアピンはどうしたんだ?」
「ピンつけなくなった理由? そりゃもうアレよ、聞くも涙、語るも涙のものがたr……」
 言いかけて寿は青木 凛子(ja5657)に駆け寄った。
「変わってねえにもほどがあるし! りんりん還暦過ぎてるって何だそれ! 孫とかマジか!」
「これでもおばあちゃんなのよー。孫が可愛すぎてどうしよう」
 凛子は発展途上国でのボランティアを経て初孫誕生を機に帰国した。色気も健在。若返った容姿のまま、アウルの驚異を更新し続けている。
「きゃー! レイちゃん」
 一際高い声を上げ、凛子がレインにハグをした。レインも凛子を抱き留める。
「送った絵葉書は届いていただろうか?」
「レイちゃんの旅行記をあたしが書けそうなくらいよ」
 再会の感動はしばらく収まりそうにない。


●夕日が輝く頃

 スーツ姿の男達が島に降り立った。
 加倉 一臣(ja5823)、小野友真(ja6901)、月居 愁也(ja6837)、夜来野 遥久(ja6843)の四人だ。
 既に船の中で、愁也は友真に鉄拳を与えた。会うなり笑顔で髭剃りを突き出されたのだ。皆に気づかれへんかったら困るやろ、とは友真なりの気遣いか。果たして。
「は、にぎやかだね相変わらず」
 宿の外にまで聞こえるざわめきに、愁也が肩をすくめた。
 一臣が友真と連れ立って大広間に足を踏み入れる。
「お、元気そうだな! 背水の陣…か」
 対面するなり敦志の額に視線を固定する一臣。
「敦志さん、オールバックは生え際目立つで……?」
 友真も真顔で指摘する。
 そろいもそろって、と苦笑しながら敦志は二人の手に視線を落とし、カメラのシャッターを切る。昔と変わらぬ左手薬指、銀の指輪だ。
「相変わらず仲睦まじいようで」
「勿論仲良くやってますv」
 敦志は愁也に声をかけた。
「愁也はどうだ? 頭皮は大丈夫かー?」
「俺は平気だけど、敦志…さらに生え際後退したんじゃね?」
 どいつもこいつも、である。
「高柳先生! ご無沙汰してます、月居です」
 恩師を見つけた愁也は忠犬のように駆け寄る。仕返しとばかりに敦志はその背中を写した。
「月居? ずいぶん変わったな」
「似合うでしょ? なぜか皆ダメ出しするけど」
 ムサいんだよ、と一斉にツッコまれた愁也は口を尖らせ、
「ワイルドなのにー」
 長めの髪と顎髭に手をやった。
「月居がいいと思うならいいんじゃないか」
 白髪の増えた基は教え子を優しいまなざしで包む。
 遥久はにぎわう会場を眺める。卒業と同時に起業した会社も波に乗り安定した。二十年前に学園で得たものの大きさを思う。
「何しみじみしてんだ。おっさんくせぇな、遥久」
「おい、四歳年上」
 遥久は一臣をにらむと、英斗に一礼した。
「……若杉殿、変わりませんね」
「絶望戦隊の写真あるよ〜」
 ひなこが昔の写真を出せばもう止まらない。どこまでも盛り上がる。
 清世は輪から外れてワイングラスを傾けるアランを見つけ、
「相変わらず寂しい奴ねー。おにーさんがいねぇと一人ぼっちかよ」
 肩に手を回した。
「……長い間会ってねえのによくわかったな。嗚呼、お前の大好きな紳士だぜ」
「かわいーアランちゃん、一緒に飲んであげる」
 四十代、男二人。今夜は酒が進みそうだ。

「お姉ちゃん! 久しぶり!」
 地領院 夢(jb0762)は待ちかねた再会にワンピースの裾を翻した。
 結婚式に参列してもらって以来だ。直接顔を見られるのはやはり嬉しい。
「ん、久しぶり。病気してない? 元気……だな。何よりだ」
 地領院 恋(ja8071)は抱きついてきた夢の頭をなでた。
 島のデマの話にひとしきり笑った後、恋がふと真面目な顔で問う。
「結構長い間、撃退士してたよね。どうして戦いの道を?」
 普通だった彼女を何が支えたのか、恋は疑問だったのだ。
「あの大変な時代に、お姉ちゃんや兄さんの力になれる力を使わない理由なんてないよ。でも、それはいつの間にか関わった人達のために、に変わったの。だから平和になるまで続けられた」
「そか。そうだな。夢ちゃんは良い撃退士だ。当時はずっと一緒だったのにね。気づかないもんだ」
 結婚引退した夢がずっと平和に暮らせるよう、恋は願う。
「あ、友真君」
「来てたんやねー! 二人共元気そうで何より」
 同じフリー撃退士の友真が名刺を取り出した。
「援護必要なら呼んでな。ホラー耐性も昔よりはついたから」
「それは……いや、君ももう立派なヒーローか。ならありがたく使わせてもらうよ、困ったときに」
 恋は笑顔で名刺を受け取った。

「見た目が一番変わったのは私でしょうか」
 入学時は十歳にも満たなかった愛奈が黒い目を輝かせる。
 笹緒が左右を見回し、青いロングヘアの女性を指さした。
「え? 誰?」
 幹事をサポートして回る彼女を、宿の従業員だと思っていた者も多いようだ。
「チルルですよ。覚えてませんか?」
 雪室 チルル(ja0220)が名乗ると、驚きの声が上がる。
「もういい年です。あたいって言わなくなって久しいですから」
 雅楽川 碧(jb3049)が首をかしげる。
「年とは何やろか? 未だに年齢ちゅう概念は理解できんで。うちが変わったとすれば、髪が少し伸びたことやろか」
 袴姿の神楽坂 紫苑(ja0526)はゆっくりと酒を口に含む。
 白い肌、一つに束ねた髪、以前はかけていなかった眼鏡。片足は義足となり、杖なしでは歩けない。
 実家の稼業と技を継いだ紫苑は幽霊や守護霊、この世ならざるものを見てしまう。眼鏡はそれを防ぐ障壁なのだが――
「やばい、油断した」
 眼鏡をかけ直したすきに、頭痛とめまいが紫苑を襲った。気づいた紅葉 公(ja2931)が紫苑を介抱する。

「ま、たまには寿司を握るのも悪かねえわな」
 天城 空牙(ja5961)は仕込んだネタを広げ、およそ十五年ぶりとなる「天城寿司」を開店した。すぐに屋台の前に列ができた。
「好吃好吃、うめもん食える幸せあるー」
 天藍(ja7383)の参加目的は、おいしいものを食べること。
(同窓だの、顔も覚えてねぇあるが……)
 旧知との再会は二の次である。
 変わらないね、と驚く真帆に天藍は飄々と答える。
「中国じゃ別に珍しくねぇのことよ」
「本当に年食ったよなぁ俺達」
 夜鷹 黒絵(ja6634)が寿司を頬張りながら、天音 みらい(ja6376)に言う。久しぶりに会う気恥かしさも手伝い、つい不器用な口調になる。
「うちの娘は空牙と黒絵ちゃんのこと大好きですし、家に帰ったら自慢しときましょう。あ、ドS先輩がお酒飲んでます」
 一升瓶を次々と開けている日谷 月彦(ja5877)を見て、みらいは手を振った。
 黒絵は壁にもたれ、旧交を温める学友達を眺めた。

「なぁ、このメンバーだろう? セッションしようや!」
 夢見幻想音楽部の“楽”友だった淳紅とカタリナ、そしてフェリーナが集った。しかし補佐として夢野を支えてくれた暮居 凪(ja0503)の姿はない。
「あ、電報が届いていますよ」
 従業員がマイクを取った。

 お久しぶりです、と言っても、私を覚えている人はいるでしょうか? 暮居凪です。
 私は今、トラブルシューターをしています。天魔との揉めごとに対応していると、あの依頼斡旋所を思い出し、皆さんを思い出します。
 どこかでお会いした際はよろしくお願いします。

 来られないのか、と夢野が落胆したところに電話がかかってきた。
『――あぁ、つながりましたね。依頼です。2日後に演奏会、5日後に……という、失礼! 後ほど資料を送ります!』
 騒音と笑い声の合間に元気な凪の声が聞こえた。
「ナギさん、か。再会が楽しみですね……」
 フェリーナは薬莢型のヒヒイロカネを握りしめ、二十年前に思いを馳せる。彼女には戦友という呼称がふさわしい。

 同窓生を遠巻きに眺めつつ、壁に背を預けて酒を楽しむのはハルルカ=レイニィズ(jb2546)。
「正直なところ、戦争が終わるとは思わなかったよ。けれど、そうだね――キミ達人間に賭けた私の選択は、どうやら正しかったらしい」


●18時

「……永遠の十代だって仰る方はいますか?」
 にやりと笑うのはオルフェウス・ローラン(ja4079)。漂泊の詩人として定住しない生活を送っている。
 万里がピースサインで応える。
「そういえば噂になってた久遠ヶ原島が沈むって話。ならず者天魔の仕業で、未然に防いだ人達がこの中にもいるって本当ですか?」
 ビール瓶片手の清十郎に問われ、楓は視線をそらした。あえて名乗りはしない。もう済んだ件だ。陰で屠った。

「遅くなった。悪い」
「智ちゃん、こっちこっち」
 宿入口で美森 あやか(jb1451)は親友の礼野 智美(ja3600)を認め、手を振った。
 あやかの夫は悪魔である。同窓会で島を訪れる機会に、現在久遠ヶ原学園に通う高校生の一人息子の様子を見てきたところだ。
「幹事さんには遅れるかもしれないって話しておいたから。もう始まっているわよ。あ、でも…入るの、気を付けてね……」
 智美が、ん、と目を見開く。
「地方出張の帰りに名産の酒買ってきたんだけど、持ち込むのまずいか?」
「大丈夫だと思うわ。酔い潰しちゃった方が宿の被害少なくて済むかも」
 あやかもクッキーを焼いてきた。問題は、宿が忍者屋敷の呈をなしていることだ。

 宴会が佳境へ差しかかる頃、学園敷地に侵入する一つの影があった。
 身軽に校舎屋上へと上り、煙草に火をつける。すっかり日が落ちて寒い。
 見上げる夜空は学生だった頃と変わらないが、あれほど充実した日々はもう二度と戻ってこないだろう。
 恭弥が吐く紫煙は静かに空へと溶けてゆく。

「まいったぜ。ここで遅刻とかホント勘弁だな」
 千葉 真一(ja0070)は現役撃退士であり、特撮俳優だ。
 撮影スケジュールが押して無念の遅刻だが、鍛えた体でトラップは無意識に避け、無傷で宴会場に滑り込んだ。
 まず見つけたのは同期のイアンだ。
「よっ、元気そうで何よりだ」
「今でも頑張っている人が多いようで安心しました。ハリウッド進出、おめでとう」
「あぁ、日本に帰ってきたばかりなんだ」
 先週まで特撮映画のプロモーションでハリウッドに行っていた真一である。
 逆にオーストラリアで何をしているのかと問われ、イアンは答える。
「村の自警団で活動中です。警察がいないので、毎日駆け回っています。やりがいはあるので問題はないですけどね」
「がんばってるんだな」
 真一の優しい相槌に、イアンは酔いに任せた愚痴をこぼす。思い返せば初めての級友が真一だった。
「あれほど言ってるのに、兄さんは無茶ばかり」
「すっかり頼られてるのか」
「フォロー入れるこっちの身にもなって欲しいってものですよ!」
 イアンは現自警団長の兄に不満がいっぱいなのだ。
 ふと真一は、同じ英雄部だった清世の姿に目を留めた。
「百々先輩、女の子に刺されたとか離婚訴訟だとか噂に聞いたけど、元気そうだな」

 騒ぐ皆を少し離れた場所で眺める公は、勧められる酒を断らず、さらに自分でもちびちび注ぎながら飲み続けている。
「紅葉ちゃんがこんなにお酒強いなんてな」
「ザルってゆーか、ワク……?」
 一臣と清世が驚くほどの酒豪ぶりである。
 チルルは高虎 寧(ja0416)に近況を訊ねた。
「高虎家の総代を継いで色々忙しいところ。うち自身は『生涯の主』を得て、その身の回りの業務に勤しんでいるわ。守秘義務があるので話せないのだけれど、おちおち寝てる暇などないし、安眠できた昔が羨ましい」
「つらいこともありましたけど、学園生活は楽しかったですよね」
 チルルが言えば、
「生き甲斐は感じられるので……満ちている人生…かしらね……」
 徐々に寧の語尾がほどけてくる。緊張が緩み、懐かしい雰囲気に包まれる中で眠気を催したようだ。
 九十九 遊紗(ja1048)は従業員に毛布を借り、眠り込んだ寧にそっとかけた。
 喧騒を避け、仕事の電話に出ているのは蛇蝎神 黒龍(jb3200)。島内で古書店を経営する黒龍は、フリー撃退士としての収入を神話関連の蔵書収集に充てている。
 忙しなくノートパソコンを操作する黒龍の隣で、鴉女 絢(jb2708)は真帆を呼び止めた。
「真帆先輩、依頼ではお世話になりました。結婚は?」
「縁がないのよね……」
 真帆が首を横に振る。なるほど同じ境遇らしい。
 ふと見れば、同窓生にもイケメンはあふれているのに。
「マスコットキャラは俺の相棒の『ジーク』だよ」
 アッシュ・クロフォード(jb0928)は運営するボランティア団体【Last Best Hope】のチラシを手に、気さくな笑顔を見せている。
 活動内容は天魔との戦いで被害を受けた地域の復興支援だ。農業復興に詳しい美月が名刺を差し出した。
「協力し合えそうだね!」

「ドイツにも遊びに来てくださいね」
 カタリナと幸桜の連絡先をもらったレインは目を輝かせた。
「行く! ドイツか、久しく行ってないね」
「城や大聖堂…あとビールがうめぇよな」
(ゆっくり話してぇだろうし、退散しとくか。天魔の奴に話を聞くのも悪かねぇ)
 ブラッドはレインを残し、広間の一角へ向かう。
 ベルメイル(jb2483)とメレク(jb2528)が静かに語り合っている。
「そういえば昔、俺は問うたね。『人と天魔は共に生きることができると思うかい?』なんて」
「そうでした。あのときは人と天魔が組み天魔と戦った歴史があり、『思います』と答えました」
「戯れに一つ、同じ質問をしてみようか。メレク君、二十年前のあのときと今とで、答えは変わるものかい?」
「変わりません。己の理屈を無理強いする人や天魔が増えない限りは」
 ふむ、とベルメイルがうなずく。
「俺はそうだね……昔は正直、難しいと思っていた。何を言われても仕方のない立場だと。今かい? できると信じているよ。なぜって、こうやって俺が、人と一緒に生きることができているからさ」
「ベルメイルさんは今、どんなお仕事をなさっているのですか」
「ゲームショップ店員だよ」
 堕天からつながる運命の変転は不思議なものだ。
「メレク君は?」
「現役を退いた後、色々人間の技術や知識を学び、今は執事をしております」
 外見が変わらなくとも、変化のある二十年だったのだ。
 
「じゃあそろそろ余興を、よかったら聞いてください」
 二十一年前に夏フェスで演奏した【Catch the Glory】の再演だ。
「一緒にどうです?」
 すっかり中年になった基もカタリナと幸桜に引っ張り出される。
 フェリーナが微笑みながらストラトキャスターを鳴らす。
 ――同期に聴かせる演奏は最高のものを!――
「昔みたいに激しい動きは厳しいけど…歌唱力も歌への想いも、あの頃よりずっと。まだまだ頂点へ行きますよ、人生これから!」
 淳紅の声には情熱がにじむ。
 聞きながらアルテナは懐かしむ。無茶ばかりしていた頃を。
(皆がいなければ私は今この世にはいなかったでしょうね)
 何が契機となるかはわからない。アルテナは力いっぱい拍手を送った。
 基のピアノも加わったゆめげんバンドの演奏に続き、オルフェウスが即興詩を披露した。
 二十年間で喪った旧知の友人達。ある者は病で、ある者は戦いで。自ら命を絶った青年もいる。
(彼らが忘れられようが忘れられまいが、詩人であるわたしは覚えている)
「歌い続けましょう……今、このときも」
 続いて碧がハンカチを取り出した。
「このハンカチ、こうやって一振りすると……カメラ登場や!」
 碧は喝采を浴び、従業員にカメラを手渡す。
「ほな、記念に皆で写真撮影しよ♪ 頼むで」
 笑顔で数枚撮った後、何か叫ぼうと言い出したのは誰だったのか。
「ロンリーで何が悪いのよー!」
 絢のシャウトが宿に響いた。


●20時

 酒と肴を楽しんでいた楓が眉を上げた。
「せっかくのよき日を邪魔だてする者にはお仕置きが必要じゃろうな」
「あれ、朱頼さん帰っちゃうの?」
 呼び止めるアッシュに、ちと用事ができてなと断り、楓は疾風の速度で宿を出る。察知した気配は、同窓会を邪魔しようと企てるならず者天魔。酒を片手につぶしに向かう。
「子供と夫が待ってるから。また会えるといいね!」
 遊紗が手を振り、帰っていった。
 同じ頃、迎えにきた側近に抱えられて、紫苑も会を辞した。
 
 携帯電話に緊急依頼の四文字を認め、遥久は一臣と友真、談笑中の愁也を呼んだ。
「やれやれ…ゆっくり同窓会も満喫できねェ。出汁が取れるうちはこき使う気か」
 ぼやきつつも仕事モードに切り替わる一臣。友真と肩を並べて歩き出す。
「初心に帰ったなー。ヒーロー頑張りますかね!」
 見送る基に愁也は誇らしげな笑顔を向ける。
「希望も未来も、ちゃんと見えてるよ!」
 背を預け預かる存在がそばにある限り。
 遥久も笑顔で基に会釈する。毎日を積み重ねた先がこの二十年後だった。
「オミ、友真 、愁君、遥君、またね〜」
 四人の背中が消えた後、レインはブラッドの酒につき合う。
「ねぇ、マンション見に行ってみない?」
「明日帰る前に寄ってみるか」
 ミシェルと紫翠は翌日の約束を交わす。学生時代に一緒に住んでいた、二人の始まりの場所だ。

 花束と酒を手に一人の悪魔が夜の海へ向かう。
 闇に溶けそうな黒い服に身を包んだ彼女の名はハルルカ。
「戦火に散った魂達、その中には同窓生もいるだろう。ならば私と飲み語ろうじゃないか。今日は『同窓会』なのだから」
 寄せては返す波のように思い出をたぐり、忘れえぬ瞬間に目を凝らす。積もる話の前に――乾杯。

 宴の後の大広間は飲み続ける数名を残し、静かになった。
 隆道も次の仕事への英気を養った気がしている。
「さぁて、明日からまた頑張りますか!」
 真一が伸びをした。
 そのとき轟音と共に大爆発が起こった。
 崩れる壁、上がる煙。厨房が廃墟と化してゆく。
「この光景どっかで見覚えが……」
 記憶のどこかがつながり、同窓生達はずっと給仕をしてくれたつるばみ従業員が佐藤 としお(ja2489)であると気づいたのだった。


●夢から醒めた朝

「うわわ?!」
 寮の自室で目覚めた澤口凪は二十年後の同窓会を思い返し、頬を染める。鮮明な初夢だった。
 藤花も未来を辿りながら微笑む。

 次々と目を覚ます撃退士達。夢が霧散する。
 ここは久遠ヶ原。天魔との戦いはまだ続いている。
 でも未来の自分は笑っていた。それはとても幸せで、胸躍る図だ。
 2013年1月。真の二十年後に向けて新しい一日が始まった。いつか繰り返すデジャヴ。目の前に広がる光景を自分は懐かしく思うだろう。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:33人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
散らぬ華を抱く・
一色 万里(ja0052)

大学部1年151組 女 鬼道忍軍
天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
守護司る魂の解放者・
イアン・J・アルビス(ja0084)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
ラッキーガール・
ミシェル・G・癸乃(ja0205)

大学部4年130組 女 阿修羅
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
先駆けるモノ・
高虎 寧(ja0416)

大学部4年72組 女 鬼道忍軍
Wizard・
暮居 凪(ja0503)

大学部7年72組 女 ルインズブレイド
命繋ぐ者・
神楽坂 紫苑(ja0526)

大学部9年41組 男 アストラルヴァンガード
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
修羅・
戸次 隆道(ja0550)

大学部9年274組 男 阿修羅
Blue Sphere Ballad・
君田 夢野(ja0561)

卒業 男 ルインズブレイド
無音の探求者・
樋渡・沙耶(ja0770)

大学部2年315組 女 阿修羅
厨房の魔術師・
如月 敦志(ja0941)

大学部7年133組 男 アカシックレコーダー:タイプB
撃退士・
九十九 遊紗(ja1048)

高等部2年13組 女 インフィルトレイター
最強の『普通』・
鈴代 征治(ja1305)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
哀の戦士・
梅ヶ枝 寿(ja2303)

卒業 男 阿修羅
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
優しき魔法使い・
紅葉 公(ja2931)

大学部4年159組 女 ダアト
道を切り開く者・
楯清十郎(ja2990)

大学部4年231組 男 ディバインナイト
懐かしい未来の夢を見た・
栗原 ひなこ(ja3001)

大学部5年255組 女 アストラルヴァンガード
未来へ願う・
桐生 直哉(ja3043)

卒業 男 阿修羅
オシャレでスマート・
百々 清世(ja3082)

大学部8年97組 男 インフィルトレイター
愛を配るエンジェル・
権現堂 幸桜(ja3264)

大学部4年180組 男 アストラルヴァンガード
君のために・
桐生 凪(ja3398)

卒業 女 インフィルトレイター
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
愛妻家・
癸乃 紫翠(ja3832)

大学部7年107組 男 阿修羅
撃退士・
オルフェウス・ローラン(ja4079)

大学部6年201組 男 ダアト
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
胸に秘めるは正義か狂気か・
十八 九十七(ja4233)

大学部4年18組 女 インフィルトレイター
インガオホー!・
黒瓜 ソラ(ja4311)

大学部2年32組 女 インフィルトレイター
失敗は何とかの何とか・
武田 美月(ja4394)

大学部4年179組 女 ディバインナイト
聖槍を使いし者・
カタリナ(ja5119)

大学部7年95組 女 ディバインナイト
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
懐かしい未来の夢を見た・
レイン・レワール(ja5355)

大学部9年314組 男 アストラルヴァンガード
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
魔族(設定)・
ギィネシアヌ(ja5565)

大学部4年290組 女 インフィルトレイター
撃退士・
青木 凛子(ja5657)

大学部5年290組 女 インフィルトレイター
JOKER of JOKER・
加倉 一臣(ja5823)

卒業 男 インフィルトレイター
人形遣い・
日谷 月彦(ja5877)

大学部7年195組 男 阿修羅
幻想童話黙示録・
天城 空牙(ja5961)

大学部4年213組 男 阿修羅
託された約束・
星乃 みらい(ja6376)

大学部6年262組 女 ダアト
大正浪漫女中・
夜鷹 黒絵(ja6634)

大学部6年121組 女 阿修羅
命抱く騎士の矜持・
アルテナ=R=クラインミヒェル(ja6701)

大学部5年152組 女 アストラルヴァンガード
輝く未来を月夜は渡る・
月居 愁也(ja6837)

卒業 男 阿修羅
蒼閃霆公の魂を継ぎし者・
夜来野 遥久(ja6843)

卒業 男 アストラルヴァンガード
手に抱く銃は護る為・
フェリーナ・シーグラム(ja6845)

大学部6年163組 女 インフィルトレイター
心の盾は砕けない・
翡翠 雪(ja6883)

卒業 女 アストラルヴァンガード
真愛しきすべてをこの手に・
小野友真(ja6901)

卒業 男 インフィルトレイター
懐かしい未来の夢を見た・
天藍(ja7383)

大学部8年93組 男 アストラルヴァンガード
神との対話者・
皇 夜空(ja7624)

大学部9年5組 男 ルインズブレイド
特務大佐・
ファング・CEフィールド(ja7828)

大学部4年2組 男 阿修羅
女子力(物理)・
地領院 恋(ja8071)

卒業 女 アストラルヴァンガード
微笑むジョーカー・
アラン・カートライト(ja8773)

卒業 男 阿修羅
ウェンランと一緒(夢)・
周 愛奈(ja9363)

中等部1年6組 女 ダアト
でかにゃんもともだち・
エリス・シュバルツ(jb0682)

大学部3年126組 女 バハムートテイマー
絶望に舞うは夢の欠片・
地領院 夢(jb0762)

大学部1年281組 女 ナイトウォーカー
七福神の加護・
鷹司 律(jb0791)

卒業 男 ナイトウォーカー
大貫薫の迷路助手?・
柘植 沙羅(jb0832)

大学部1年302組 女 バハムートテイマー
猛き迅雷の騎獣手・
アッシュ・クロフォード(jb0928)

大学部5年120組 男 バハムートテイマー
腕利き料理人・
美森 あやか(jb1451)

大学部2年6組 女 アストラルヴァンガード
正義の忍者・
静馬 源一(jb2368)

高等部2年30組 男 鬼道忍軍
フラグの立たない天使・
ベルメイル(jb2483)

大学部8年227組 男 インフィルトレイター
無尽闘志・
メレク(jb2528)

卒業 女 ルインズブレイド
黒雨の姫君・
ハルルカ=レイニィズ(jb2546)

大学部4年39組 女 ルインズブレイド
撃退士・
朱頼 天山 楓(jb2596)

大学部5年29組 男 阿修羅
セーレの友だち・
ウィズレー・ブルー(jb2685)

大学部8年7組 女 アストラルヴァンガード
子鴉の悪魔・
鴉女 絢(jb2708)

大学部2年117組 女 ナイトウォーカー
懐かしい未来の夢を見た・
ブラッド・ラークス(jb3021)

大学部8年230組 男 ルインズブレイド
セーレの友だち・
カルマ・V・ハインリッヒ(jb3046)

大学部8年5組 男 阿修羅
撃退士・
雅楽川 碧(jb3049)

大学部2年25組 女 バハムートテイマー
By Your Side・
蛇蝎神 黒龍(jb3200)

大学部6年4組 男 ナイトウォーカー