ある日の斡旋所。
「サバト‥‥ですって!? な、なんということ‥‥!」
告知を目にした沙 月子(
ja1773)は、全身を奮いあがらせた。
「あ、沙先輩! 良かったら参加――」
「ええ! 勿論是非に! 悪の秘密結社(自称)総司令である私が、全面協力させて、頂きますとも!」
申し込み具合を見に来た大貫薫(jz0018)に詰め寄り、瞳輝かせ協力宣言する月子はオカルト系には詳しい口。
●企むモノ達
屋外で、佐藤 としお(
ja2489)は蝋燭で蛇の姿を再現しようと格闘中。既に白線引きで下絵は完成済み。
「先輩、良かったら使って下さい」
「凝った燭台だなぁ」
薫は土産用に準備していた燭台の余りをとしおに預けた。火を入れるのは直前だ。
「黒ミサって、どの程度にすればいいのかしらね?」
黒いテーブルクロスのシワを伸ばしながら、瑠璃堂 藍(
ja0632)は首を捻る。
「流石にパーティとして成立する範囲、且つ薫嬢の期待に沿える範囲‥‥ということでしょうねぇ」
おどろおどろしいモノにするより、黒ゴシック調にしてはどうか、と猫柳 睛一郎(
jb2040)。
「悪魔の方々に本場の様式をお聞きできたとしても、実践は別の話でありますからね」
「‥‥そうよね。ところで、さっきからあなたが持ち歩いてるクーラーボックス、中身は何?」
藍の視線が睛一郎の足元に置かれている箱に注がれる。
「食材だったら厨房の方に持っていくけど」
睛一郎はくすりと哂い、声を潜め、囁く。
「ここだけの話、実はナマ――」
「猫柳様、例のモノをお持ち頂けたと聞いたのですが」
が、話を遮る者あり。無駄なシワひとつない黒スーツに白手袋、ぴっと伸びた背筋。誰が見ても「執事だ!」と指差すであろうGuildenstern(
jb2525)がすいと出現。
「おお、ギルの旦那か。丁度今その話をしていてね。中身の確認をしてくれるかな?」
「それでは失礼致しまして‥‥」
ギルと呼ばれたGuildensternは丁寧な手つきで開錠。中を検め、目を細める。
藍からは中身が見て取れない。しかし蓋が開けられた途端鼻に付く生臭さを感じとった。この臭いどこかで――と考えているうちに蓋が閉じられる。
「確かに。これは立派なナマ首で御座いますね」
「!?」
「後ほど祭壇の方に捧げ――」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 生首って‥‥!」
意味ありげな笑みを浮かべる悪魔が首と言い、生臭さ。嫌な予感がする、と藍はギルを押しのけ、箱の中身を確認しに走る。ことと次第によっては――
「首というか‥‥頭だ。魚の‥‥」
蓋を開けてみればナマモノの首から上だった。
「はい。見事な鯛の御頭です。魚介関係がお好きな方には満足して頂ける一品になるかと」
「今朝絞めたばっかりだからねぇ。鮮度も抜群だよ」
HAHAHA、と声を合わせて笑い合う睛一郎とギルの様子に、藍は脱力。
(‥‥悪魔でもこういったジョークはやれるのね。上手くやっていけるといいけど)
「何かあってからでは遅いのです!」
萬木 直(
ja3084)は人と天使と悪魔が集まる怪しい集会と聞いて、警備をさせて欲しいと志願。
まだ準備時間であるが、危険物が持ち込まれないとも限らない。目を光らせて歩く、ひとり警邏隊。
「寒い中お疲れ様です。差し入れですが宜しければ」
「なんと美味しい。身体の奥から力が湧いてくるようだ」
N(
jb2986)が持ってきたのは熱を通したヤギ肉をだった。助かる、と採る小休止。
しかし長くは続かなかった。遠く聞こえてくる重く響く足音と奇声。
「ふははははははは! 退け、退け! 踏み潰されたくなければ道を開けろ!」
他者を排除しようとする高圧的な印象、何を思ってそんなことを叫んでいるのかは分からない。だが只ならぬ事態であるのは確か。直はNに短く礼を述べ、飛び出した。
遠巻きから人が、問題の人物を怯えた様子で見ていた。人垣を掻き分け、直は直視し、驚愕。
「な、なぜあの天使が!!」
どこかで見た敵陣所属天使まんまの姿があったから。引く台車には複数の丸い弾。
「ふはははは! 火薬弾のお通りだ! 道をあけぃ!」
白昼堂々学園に忍――んでないけど、乗り込んでくるとは敵ながら天晴れ。
ひとりで敵うかはわからない、けれど直は勇敢に、道を阻むように飛び出した。
「止まれ! ここを何処だと心得ている!」
「ふははは! 答えてやろう! ここは学園! ここは宴の会場! そして我はギメ=ルサーである!」
ギメ=ルサー=ダイ(
jb2663)は名乗りを上げると同時、筋肉を見せ開かすようなポージングを取って見せた。
「尚、筋肉天使と間違われることを嫌う! あれは別人だ!」
「別人‥‥だと‥‥!?」
ふぬっ、と筋肉を隆起させながらギメは力説。
「しょ、証明するものは!」
「首謀者からコレを預かっている」
差し出された紙片を警戒しながら摘み、読む。
『禿が噂される天使ではなく確かに禿だから多分別人です』
「た、確かに主催者大貫の印がある、な。お騒がせ失礼致しました! ご協力に感謝します!」
直は深く謝罪した後、敬礼でギメを見送る――紛らわしい奴もいるものだ、と。
「魔法陣を描くのはいいのですが。問題は召喚に使う必要がない、ということですよね」
呪われた魔術書を参考に、床に魔法陣をテーピングしながら月子は想う。見上げれば目前に、イービルローブを纏った悪魔――藍晶・紫蘭(
jb2559)が既に居るのだ。
「そもそも黒ミサといいますのは実際に悪魔を召喚し、崇拝するものではなくてですね――」
(笑顔の悪魔に黒ミサを説かれるという現状もどういうことでしょうか)
月子は不思議でならなかったが、紫蘭の説法は続く。
「皆さんの心の中には少なからず悪魔が住んでいます。心の声に従うことこそがですね――」
将来叶うなら教師になりたいと願う紫蘭の口上は上手かった。融和派の悪魔として、天魔人が集まり、隔てなく楽しむであろう事が嬉しくて成らなかった。緩やかでいいから、と祈る。
●黒ミサといえば。
カタリナ(
ja5119)は月臣 朔羅(
ja0820)と共に、ゴテゴテしい意匠の戦闘服(いしょう)と化粧で全身を仕立て、早めに会場入り。準備は完璧だった――はずだ。
カタリナはバイオリンを得意としているが、場に合わせギターに持ち替え。
朔羅は肌に密着するようなスーツの上からコートを羽織って。
世紀の終焉を彷彿させる悪魔の様相で、俗世の宴にかっかと熱意を燃やす男、土方 勇(
ja3751)という仲間も得た。
3人は今、幕の下りたステージ上に立っている。
「楽屋、誰もいなかったですが、私たちだけということはないですよね?」
ギターを確かめながら、不安気な声を漏らすカタリナ。
「メイクも着替えも終えて来たわけだし、準備が早かっただけじゃないかしら?」
朔羅は状況を冷静に分析。会場側からはガヤも聞こえている、人は既に入っている。
「我々は独りじゃない! 今日はノットサンタ、サタンの為にある日! 恋人たちというヤギを捧げる祭事!」
勇がどの方向に燃えていたのかわかった気がした――が、一先ず措いといて。
「時間です。往きましょう!」
開幕の花火の音が聞こえた。同時、幕が上がり始め、一筋の光が差し込み、開けてゆく視界。
はじめが肝心。カタリナはキッと正面を見据え、全身にオーラを纏う。同時、弦を力強く弾き、叫ぶ。
『今宵は黒ミサ、魔女に悪魔の皆様、ヤギの血肉を存分に分け合‥‥ぇえええええ!?』
衝撃を受けたのはカタリナ側。朔羅も「あら?」と口元に手をやる。
ステージ下には、立食パーティに興じる――結構普通の雰囲気。停止する思考。
けれど勇者は内に居た。
「恋人もちは居ないなぁああ!? そんな宴は中止になった! 中止になったんだ!」
――ウ‥‥? ォオオオオオ‥‥!?
中には同意を躊躇った者も数人居たようだったか気にしない。大は小を飲み込む。
(カ、カタリナさん。せっかく人は集まっているのですし、このまま舞台、しちゃいましょう!)
朔羅の決意がカタリナの背を押す。
退くに退けない戦場で、戦う決意をしたカタリナはソロギターを披露。
あわせてコートを脱ぎ捨て、情熱的に踊る朔羅は不意にバックからフロントへ移動、そこで、
「そこのお兄さんも一緒にどぉう? 一緒に激しく踊りましょう」
「え、あ、あぁ」
瀬尾伊織(
jb1244)の手を引いてステージに引き上げ、踊りを促す。必要なのは形じゃない、勢い。隣では勇が精神力を奪えそうな不思議な踊りを踊っている。
「これから沢山美味しいものたべるんや、腹ごなし代わりや! めぇ一杯おどったる!」
恥ずかしがっていてははじまらない、度胸を持ち合わせていた伊織は、朔羅にリードされるまま踊り狂った。
こうして独断と偏見と、学生補正の掛けられた黒ミサは幕を開ける。
月子がトワイライトで怪しい光を演出し、としおの描いた蛇が、身に火を灯す。
蝋燭の火が消えるまで、長い夜を楽しむとしよう。
――‥‥
「一時はどうなることかと思ったけれど、盛り上がってくれてよかったです」
「はい。この後も演奏を続けてみてもいいかも」
舞台袖に下がり、アレコレ話し合うカタリナと朔羅の元にお届けもの。
「メリークロミ〜サ〜! ステージお疲れ様。興味深かったよ。で、主催者のところいったら、こっちにって言われてね。役に立てるかな?」
浮世離れした印象を受ける女性――Relic(
jb2526)が円盤を差し出した。BGMに如何だろうか? と。
更に、
「好い舞台でございました。アーティストの皆様、幼子の血――に見立てたトマトジュース等如何でしょう?」
Nが飲み物の差し入れ。言い直しは天使のRelicを意識しての事だろうが、当人が気にした様子はない。
「噂のヤミナベはないのかい?」
「ヤギナベでしたら別に用意させて頂いておりますよ。宜しければお持ちしますが」
「勿論食べる!」
Nの申し出に、ふたつ返事で頷くRelic。
が、のち。輝く瞳で鍋に箸をつけ、クサヤに悶絶した。尚、伊織はセーフ。勇が投下した肉まんを引き当てた。
●望み臨めぬ邂逅
(話が合えばいいんだが‥‥)
目深にニット帽を被り、同類に声を掛け歩く颯(
jb2675)。
引鉄は異なれど、主に嫌気が差し離反した者が多く安堵するのだった――が、そんな気の緩みが事態を招く。
「凪、美味いぞ。食べてみろ」
焼き菓子を手に取った桐生 直哉(
ja3043)は、恋人・澤口 凪(
ja3398)の口元に寄せた。
「ありがとう! では、いただきますっ」
元気な笑顔を向け、ぱくりとかじり付く凪。
「直哉さんにも、はい、どーぞ!」
甘いお返し。菓子を手に背伸び。
「え。あ。あ〜」
倣おうとしたところ、後頭部に視線を感じた。振り返る直哉。
「ああ、僕を気にすることはない。知るところだろうと知らぬところだろうとべたべたしているのだろう?」
何を今更、と天上院 理人(
ja3053)が呆れたように肩を竦めてみせる。
「べ、べたべたって‥‥あぁ、そーかそうか! 気づけなくて悪かった、な!」
茶化しに対する照れ隠し。直哉は再び菓子を手にすると、
「なんだ? って、い゛っ‥‥!」
理人に向き直り、口を開かせる為、指で頬を力いっぱい引っ張った。
「いいから口を開けろ、食わせて、やろうっていってんだ!」
「そ゛んな、必要は‥‥な、い!」
理人は理人で、直哉を引き離そうと必死に抵抗――するも逃れられない。
(‥‥あれ、なんだろう‥‥さびしいというか、‥‥)
元気にじゃれあう男ふたりの不思議な姿に、凪は胸に針が刺さった気がした。食べて貰えなかった手の中の菓子。行き場を失って自分の口に運ぶ。同じ菓子のはずなのに、ぜんぜんおいしくない。次第にふくらみだす頬。
直哉は、再び背後から視線を感じた。振り返り、凪の異変に焦り、駆け寄る。理人に構っている場合でない。
「わ、悪かった。機嫌をなおして、な?」
「お構いなく。どうぞおふたり仲良くいちゃついてて、です」
「いちゃついてて、って‥‥」
直哉と正対するのを避けるように、凪は身体を横にずらす。同時、ひとりの少年と目があった。
(しまっ!)
居る可能性を考えるべきだった。颯は凪に背を向け走り出す。
「‥‥ま、待って!?」
幻を逃がさないように、弾かれた様に立ち上がり、飛び出す凪。直哉と理人は反応が遅れる。
「何してる、追え!」
「あ、ああ。すまない!」
只ならぬ事態であることを理人も理解。けれど追うべきは桐生だ、と直哉を押し出した。
(やれやれ。澤口には悪いことをしたかな? これでも桐生を応援しているつもりなんだが‥‥)
理人はひとりになって、好物のカツサンドを食べながら反省タイム。
居た筈の場所に立って、見渡して、だけど見つからなくて、立ち尽くす凪。声を張るも呼応したのは、直哉だけ。
「大丈夫、か?」
不安そうな瞳で見上げ、呟く凪。
「‥‥亡くなった弟に、そっくりな子がいたんです‥‥」
けれど見失ってしまった、見間違いだったのかな、と肩を落とす凪を、直哉はそっと包み、撫でた。
●白い羊とGoTo鍋
「宮垣殿よ。三田(サンタ)さんは見つかりそうであるか?」
凛とした声で鍔崎 美薙(
ja0028)が尋ねると、
「判らないな。ひとりくらい混じっててもいいと思うんだけどね」
一見美男に見紛う風貌の宮垣 千真(
jb2962)が嘆息しながら応じた。
「目印は赤と白。白はもこもこして――って、あっ! きっとあれにちがいない!」
「ど、どれじゃ? ぅぉ!?」
美薙の手を引いて駆け出す千真。自身より頭ひとつ小さな存在に、ぎゅっと抱きついた。
「ぴきゃ!?」
不意打ちに悲鳴を上げたのは不破 怠惰(
jb2507)。頭に重みを感じる。見上げれば千真が帽子の飾り、羊人形にしがみついているではないか。
「君が噂に聞くサンタさんだね! 会いたかったんだよ!」
もふもふ、と羊に頬を摺り寄せる千真。
「なるほど。確かに目が赤く、髪が白く在るな」
帽子の主、怠惰の顔を覗き込み、なにやら納得している美薙を見、怠惰が叫ぶ。
「だ、だれがサンタ=サンだ! わ、私は怠惰ちゃん! はぐれ悪魔であるぞ!」
必死に熱い抱擁からの脱出を果たした怠惰は、天使がどうとか、サンタの服は血塗れだとか必死に反論。
ほどなく、
「ほほう。宮垣殿はテイマーであるのか。何が召喚できるのか?」
怠惰は溢れる興味心から、美薙と千真を質問攻め。
「確か大きな龍と小さな龍ではなかったか?」
「大きい方がみたいぞ!」
悪魔には現状願っても叶わないセフィラビースト召喚。
驚かせてしまったお詫びに、と千真は喚ぶ。
正面に展開した月と太陽の紋が収まると、1体のストレイシオンが身体を丸めた状態で出現。
「ふぉおお!? こ、これがしょーかんじゅ‥‥!」
感激した怠惰はぺたぺたと全身を触り、果てには背に乗って頬擦り。至極の時間を味わった。
「何の騒ぎかと来てみれば美薙じゃないか。よかったら鍋とかどうだい?」
牛乳で満たされた土鍋を手にしたまま、騒ぎを聞きつけてきた久遠 栄(
ja2400)が声を掛ける。
「おお、栄んではないか。ふむ。中身が見えぬがよい香りじゃ。言葉に甘えるとしようかのぅ」
ほらふたりも、と手近な卓の上に鍋を置き、栄は簡単な説明をした。
「具材は好きなのを入れてくれ。出来れば最高の具で頼む」
「私はこれを進呈しよう」
怠惰が食べかけのショートケーキを投入すると、溶けながら沈んでいった。
「鍋といえば力がつくものをというが」
「ケーキは十分に力の元である!」
美薙の疑念には怠惰が全力反論。
「強そうなもの、か。身体に星が付いてる人形なんてどうだろう?」
「待て、それは食べ物じゃな――」
怠惰の突っ込みを待たずして、千真は赤い帽子を被った指人形を投入。
「‥‥再考の余地ある具ばっかりな気がする」
「大丈夫じゃ栄ん。酷い具でも檸檬をかければどうにかなると祖母が――って、あ」
ばっちゃん。
「すまぬ、手が滑った」
美薙の手から零れた檸檬も鍋に合流。けれど気にしない。気合でどうにかなるはずだ、と栄に試食を勧めた。
ままよ――不安に思いながらも箸を入れてみれば、ワカメに絡まった人形が取れた。
「無敵に、おいしいれす‥‥」
栄は涙しながら味を感想したという。
人天魔、隔たりなく笑いあい、繋がるのは心明るくなることじゃ、と美薙は心に温かみを覚えた。
●シフクを満たす
「給仕さーん、配膳よろしゅう頼みますよぃ」
参加に際し氏家 鞘継(
ja9094)は考えに考えた。黒ミサといえばヤギらしいが、何か用意できないかと。
結果、白ヤギをイメージしたミルク鍋を考案。寒い夜には熱々の鍋に限る。
「はいはーい! って、あっつ‥‥!?」
給仕と呼ばれた笹本 遥夏(
jb2056)が、鍋の熱さに掴んだ手を引っ込める。
「その衣装じゃ零したら惨事だからねぃ、注意ですよぃ。食べた人は黒ミサの恐ろしさを思い知ることですよぃ、‥‥ふはははは!」
注意を促しつつ、作業に戻る鞘継。肉の臭み抜きに余念がない。
(くぅ〜惨事って、これ渡したの旦那やないけ!?)
食事衣装付きのバイトと聞いて来てみれば、呉服屋の養子なる鞘継に捕まった。当人和服だし、最近落語に興味あるし? と期待したものの、差し出されたのは、時期だから、とミニスカサンタ服。しかもサイズが小さい。
(仕組まれた罠を感じる‥‥くっ! だがハンパはあかん! やったる、うちはやったるわい‥‥!)
ここまで来てはもう引けない、と開き直る遥夏。零さないよう気をつけて持ち、運ぶ。
「またせたなー! 旦那お勧めのミルクヤギ鍋やで! あっついうちに食べてな!」
宴の恥じはかき捨て。営業スマイルで、遥夏は卓にどすん、と大きな鍋を置く。蓋を開ければ香り立つ白い湯気。
「わ〜美味しそうだね。えへへ‥‥それじゃ、いただきまーす」
礼儀正しく温和な印象、けれどどこか果敢無くて。マルグレーテ・イェルザレム(
jb2495) は遥夏が見守る前で器用に箸を使い、口に運ぶヤギ肉。
「‥‥ん、ちょっと癖があるけどこのくらい問題なし。おねーさんもどうかな? 美味しいは幸せだよ?」
「そ、そやな。ちょ、ちょっとだけなら」
まだ食事を食べていなかった、と気づくや休憩宣言。マルグレーテの正面に座り、共に鍋をつつきながら談話する。かなりの量だったが殆どマルグレーテが美味しく平らげた、とも。
●和洋けぇきと魔法陣
「お菓子がいっぱいあって幸せだねぇ」
なによりタダで食べられる、と秋代京(
jb2289)。
「僕も24時間体制で食べ続けられるよ」
マイフォーク&ナイフを操りながら天羽 伊都(
jb2199)。
「まだまだ沢山ありますよ! 存分に食べてくださいね!」
黒井 明斗(
jb0525)は己もそこそこに次々料理を運び込む。
「僕が作った和菓子もこの辺にあったはずなんだけど」
そういえば、と京は首を巡らした。
丁度反対側で。
「しゅくめいのらいばるマーシュよ、お前も参加していたとはな」
チョコーレ・イトゥ(
jb2736)は、対面した堕天使に言葉を投げる。口の周りに白い生クリームがついたままで、はぐれ悪魔としての威厳はない。
「こちらこそ。しゅくめいのらいばるチョコーレさん」
マーシュ・マロウ(
jb2618)は煎餅を齧りながら、知人がいて良かったと応答。
「もう『けぇき』は喰ったか? 甘くて美味いぞ?」
「『けぇき』、ですか?」
探そうとするも、マーシュにはどれがけぇきか判別できなかった。だから、
「これだ。『しょぉとけぇき』と言ってな、『いちごべりぃ』が王道であり」
等とチョコーレも先ほど知ったばかりというのに、自慢げに熱く語りだす。。
「なるほど。では頂きます――‥‥!」
薦められるまま食べた途端、背に光の翼が発露。フォークを咥えたままの姿勢で風船の様にゆらゆらふわふわ浮遊しはじめる。
「お、おい。何処へ行く!?」
足を掴み、引き戻すチョコーレ。マーシュは「危うく昇天してしまうところでした」と嘆息した。
「これはなんというけぇきでしょう?」
新たなけぇき? を手に首を傾げるマーシュだが、チョコーレも言葉に詰まる。まだ知らないものだ。
「和菓子、和風のケーキだよ。僕が作ったんだ」
助け舟。京が対面から笑顔で語りかけた。
「和菓子なら飲み物はお茶ですよ! すぐ持っていきますのでお待ち下さい!」
親切心溢れる明斗は、急須と湯呑を手に走る。
「――甘いな」
「和風けぇき、ちゃんと覚えました」
「何かお取しましょう。気になるものは?」
と明斗が尋ねると、口を揃えて「チョコレート」と答えた。
「あっちの方で食べたよ」
もぐもぐ。ひたすら食べ歩きの功績、伊都が記憶を辿り場所を示すと、一行は移動を開始。
「ふぅ‥‥完璧だ。この完璧さを理解できる者はいないものか!」
魔道書を片手に、皿にケーキにフルーツに、チョコペンで紋様を刻むのはキャロライン・ベルナール(
jb3415)。
禍々しい雰囲気の演出に一役かってやろうと始めたが、描いている傍から皿が減ってゆき完成に時間がかかった。
「次はどの魔法陣を描くとしようか――って、またなくなっている、だと!?」
驚愕するキャロライン。だが犯人はすぐ傍に居た。というか居座っていた。
「ね、チョコレートでしょ? さっき結構食べちゃったから心配だったんだけど」
大食い筆頭・伊都が平らげる。
「皿にちょこれぃとが残っているぞ! もったいない!」
「マシュマロがあれば最高です」
皿に描かれたチョコを残すとは何事だ、と指摘するチョコーレとマーシュ。
和気藹々。
「そ、そこな女ども! 少しは感動するとか感謝するとか恐れ慄くとかしてみせい! 特にそれは最高傑作で‥‥!」
黒い雰囲気が台無しだ、とキャロラインが叫ぶ。
(食べ物なのに食べてはいけなかったのでしょうか?)
(女、では俺のことではないな。もう一皿頂こう)
(僕たちも男だから関係ないですね、秋代さん。気にしない気にしない)
(あ、うん。そ、そうだよね。別に女に間違えられた訳じゃない、よね)
なんと、全力で凄んだキャロラインの叫びは、効果がなかった。主に性別が合ってなかったから。
もう一声、と構えたキャロラインの元に、明斗が近寄った。突然過ぎて一瞬身を引く。
「魔法陣は天使様が! え、ええと。僕は黒井明斗といいまして」
友人の非礼を詫びつつ、何かの縁と、和解の握手を求めた。
「そ、そこまで言われて無下にする私でもない。こちらこそ宜しく頼む――って、な、」
握り返した途端、明斗は笑顔のまま顔を紅く染め、全身を強張らせてしまった。慌てるキャロライン。
この間にも魔法陣は消失していく、甘いもの好き達の胃の中に。
●人の魔釜と悪魔のおでん
「あ、麦‥‥じゃないビア。こんにちは」
あまりにも小柄で凡庸で、釜の陰に隠れていた人影。声を掛けられて気づける黒伊睦美(
ja0121)の存在。
「うぉっと!? あ、相変わらず居るんだか居ないんだか分かりづらいな‥‥あんたは」
せっかくの宴、はっちゃけて楽しもう、と思った矢先出会っちゃったよ知り合いに。睦美ならそんなコトを詠むだろうか。ビアージオ・ルカレッリ(
jb2628) は内心警戒しながら挨拶を返した。
「何作ってんだ?」
「洋風煮込みなんだけど、麦‥‥じゃない、ビアもどう?」
「いちいち挑発的だよな、おまえ。まぁせっかくだし腕の具合でもみてやろうじゃねぇか」
にやり口の端を吊り上げて挑発返しのビアージオ。対する睦美も負けない。唸らせてくれると仕上げに掛かる。
〜10分後〜
「おいしくな〜れ‥‥ぶつぶつ‥‥おいしくな〜る‥‥――これで、よし」
煮え滾る釜の中身は血の様に真っ赤。気泡に混じって浮き沈みする海老の頭、蛸姿の腸詰、悲鳴を上げたそうな顔のアンコウ。
「‥‥具材は高級そうなのに見た目がアレだな」
ビアージオは確かに唸った。けれど睦美も唸った「最初はこんなはずじゃなかった」と。
「で、でも味は普通のはず」
ずい、と睦美はビアージオに皿を突きつけた。口にした感想は――素材に救われた感大。
睦美といがみった後、ビアージオは再び歩き出した。そして耳にする怪しげな呪文。
『今宵はサバト、魔女も悪魔も歌い踊り吼える』
歪な覆面で顔を覆ったオーデン・ソル・キャドー(
jb2706)の文言だ。
(あれは‥‥悪魔か? ちっ、生まれが選べないのは仕方ないにしても行き過ぎは見逃せねぇ)
元天使としてか元神父としてか、ビアージオは走った。
「おい、あんた!」
『さあ、我が血肉を満たした白き器で、貴公のハラワタを支配してみせよう! ‥‥おや、お客様ですか? 出来立ておでん如何です?」
なんとも紳士的な応対で、呆気に取られるビアージオ。気付けば皿と箸を握らされていた。
「黒いハンペン等極上でしてね。さすが練り物。どんな色形になっても期待は裏切らない。勿論ダイコンやタマゴも味が染みていますとも。加えて」
熱く語りだすオーデンの横で、ビアージオは思った、黒伊の物より、黒い物の方が安心して食べられると。
●鳥と
「先日はどうも‥‥といえばいいのかしらね? あれから進展はあって?」
会場内を見学していたイシュタル(
jb2619)は、籠を抱えた貴布禰 紫(jz0049)の前で足を止める。
「進展、かぁ。大鳥と使途のだよね? 誘拐は起きてないし、目撃情報もないってコトくらい、かな?」
斡旋所に入ってくる情報には注視しているが、目立つ動きはないという。使途については、
「居場所がわかれば、本格的に討伐依頼が出るはずだよ。逃がせないだけの作戦と機会を考えないとだけど」
と応答。
「‥‥そう。人にとって敵視すべき行為の目立つ使途だものね。当然でしょうけど、事件の関連性について――」
「はっぴーくろみさ〜☆」
真っ白なワンピースを身に纏った純真の権化、羊山ユキ(
ja0322)が紫に側面から飛び込んできた。
「はっぴー!?」
「いえ‥‥どうやらお客さんのようね。私はこれで。機会があれば、またあいましょ」
入れ替わるように去るイシュタル。悩むばかりでなく息抜きも必要のはずだ、と。
「はて、もしかしてお邪魔しちゃったですか??」
と首を傾げるユキに、紫は否定。
「先輩が御神籤なお菓子をくれるときいて☆ ひとつくっださいな♪」
言うが早いか引くが早いか、ユキは籠の中から小さなクッキーを手にとった。
「あ、丸ごとは食べちゃだめだよ!?」
「大丈夫ですよ〜♪ どれどれ――『意欲満々でも自分のリズムは乱すな』‥‥って、つまり?」
中から出てきた紙片に書かれた文字を見て、
「ユキちゃんはユキちゃんのまま頑張れ、ってことかな?」
「なるほどなのです☆ ではではお菓子を食べるのと配るの、お手伝いするです〜☆」
部活で鍛えたお菓子への熱意を、ユキは存分に発揮する――が、配るより食べた方が多かったとか。
●奇術士と奇食士
暗幕で囲った小さなステージの中央、見世に興じるは紺屋 雪花(
ja9315)。
幼い頃仕込まれた奇術、ここで見せずどこでみせる?
「私は‥‥セツカの、大きい大きいおばあで‥‥」
口から発せられたのはしわがれた老婆の声。若い雪花の声とは明らかに異なる。が、
「咬呀! 我之知るよ! こういうのニホンじゃイタコいうあるよな!」
食は戦争。雪花の用意した魔女風ケーキをひとくちで飲み込みながら、天藍(
ja7383)が囃し立てた。
「そういうのは大声で言わない方が、というか降霊術っていってあげた方が」
「やてるコト一緒ある! あー、黒ミサ分かてたら我も山羊でも筮竹でも持ってきたてぇのに!」
黒のドレスを纏う高虎 寧(
ja0416)が、ぼそぼそと伝えてみるも天藍は何処吹く風。食べて食べて食べながら、今度は割り箸を折り始める。
「なにしてるの?」
「簡易筮竹つくてるアル!」
雪花の奇術に触発されたのか、ヤル気を見せる天藍。
観客席が暴走する間にも雪花の奇術は進む、
「さぁ、私からも宴に華を贈りましょう‥‥さぁ!」
掛け声に合わせ光舞い踊る桜の花弁が周囲を彩る。
「ん〜、春になったら桜の下で昼寝もいいわねぇ。あ、膝枕とかあると完璧」
光の幻術を眺めながら、寧は想う。誰の膝枕がいいだろう、と。
「僕も負けてられないね」
光の花弁を手に受けて。カボチャのマスクの内側でくすり微笑むエイルズレトラ マステリオ(
ja2224)。
「フハハハハ、そこのお嬢さんパンプキンスープ等は如何かな?」
所謂魔女鍋を持ち込み、沸騰する内容物を長い棒でかき混ぜながら、甘い香りと言葉で人を誘う。
「‥‥ん。よく私を捕捉した。驚いた。勿論食べる」
忍び歩きと擬態を駆使し、食という獲物を仕留めて歩いていた最上 憐(
jb1522)。表情は特に変えず、言葉だけで驚きながらも、足を止めた。
「気に留めて頂き恐悦至極。それではお手を拝借。注ぎましたるは何の変哲もないスープ! ええ、手にはタネも仕掛けもなし!」
「‥‥ん。何もない。大盛りにして欲しいくらい」
皿は鮮やかな橙色。どこか物足りなさ気な憐。
「それではお望みを叶えてみせましょう! ワン、ツー‥‥はい!」
憐に気づかれぬよう袖内に仕込んでいた筒の中身を一斉開放。
ぼふっ、っと橙を緑のパセリが埋め立てた。更に虚空からスプーンを取り出し、皿に添える。
「‥‥ん。増えた。感動。頂く」
恭しく頭を垂れるエイルズレトラ――だったが、
「‥‥ん。おかわり」
「へ?」
「おかわり。全力で。大盛りで」
カレーが好きだけれどパンプキンも美味しい、と空になった皿をエイルズレトラに突きつける。
「そ、それでは具沢山でお届けしましょう!」
驚きはあれど、エイルズレトラは鍋が空になるまでスープを振る舞い続けた。
●古今東西天魔人
「黒ミサ‥‥か、ずいぶんと懐かしい言葉だ」
「確か人間が悪魔を呼び出そうとして行う儀式‥‥だったか?」
悪魔であるケイオス・フィーニクス(
jb2664)の呟きを、天使である不動神 武尊(
jb2605)が敏感に察知する。
けれど間に流れる空気に緊張感はなかった。どちらかというと昔語り。
「天使の俺には関係ない‥‥いや、昔の俺ならば潰しにやってきていた可能性はあるな」
懐かしいことだ、と鼻で笑う武尊。
「こんな儀式で簡単に召喚されるようなヤツは相当酔狂で悪戯好きな変わり者だぞ?」
まともなヤツは呼べないだろう、とケイオス。天使悪魔それぞれの視点から黒ミサについて語り合う。
「え、ええっとケイオスさん。こんばんは。お話中お邪魔かな?」
そこへ話しかけてよいものか、と悩みながら佐倉井 けいと(
ja0540)が割って入った。
「ん、構わないが‥‥誰だ?」
「私はサボテン同好会部長のけいとだ。なかなか話す機会がなくてな。今宵話せればと思ったのだが」
「そういうことならこちらこそ。人の見解というのも聞いて見たい」
さて、何から話そうかとケイオスは手近な椅子を引き、けいとを座らせ、己も腰掛ける。
「迷惑でなければ俺もいいだろうか? 悪魔がどうしてここに居るのか‥‥そういった話に興味がある」
「構わないさ。異種族異文化交流会らしいしな、存分に意見を出し合おうではないか」
きっかけが、ひとつ、ふたつと繋がって輪ができる。輪が完成してしまうと、なかなか外野は入りにくいものだが――帯刀 弦(
ja6271)は違った。
「やあ、人に天使に悪魔が揃ってとは面白いね。もしよければ飲み物なんてどうだい? 酒もあるんだけど」
手にグラスと瓶を持ち、どうだろうかと勧めて見せる。
「人間はミセイネンだと酒が飲めないと聞いた。お前はどうなのだ?」
「おや、ご存知で。これは失敬。では普通のジュースをどうぞ」
武尊の指摘をかわしながら、弦は飲み物を振舞い、輪に加わった。
「もしよければ名前を教えてもらえないかな? ああ、ここに文字で」
「集会ではカキヨセ等もあると聞いたことが‥‥サインでも集めているのか?」
読めるか読めないか程に小さく書かれた文字が並んでいる。けいとが顔を近づけ読んでいると、
「いや。悪魔に名前を書かせ従わせようとする契約書‥‥そちらに似ている気がする」
昔語りに繋がって、思い出すケイオス。そうなのか? と目を向けてくるけいとに頷きを返して。
「おや、それもご存知で。巧くはいかないものですね」
弦は肩を竦めた。
「仮に名前が書かれたとしても其れが本名と知る術はないだろう? むしろ逆に――」
こんな話はしっているか? と武尊が語りだす。視点が違えば伝わる話も違っている、そんなやり取りが4人の間で交わされていった。
すぐ横では和気藹々――とは言いがたい説教の最中。
一応主催者扱いの薫が百嶋 雪火(
ja3563)の前に正座させられている。
「皆良識があって、普通のパーティに仕上がったから良かったけど。間違いがあったらどうするつもりだったの?」
「え、えーっと流行ってる爆破運動よりはまとも、だと思ったんだけど‥‥」
実は、薫、同様の結構多くの人から突っ込みを受けていた。今日、何度目だろうと目を逸らす。
「ライゼもライゼよ。知らないことは悪いことじゃないけど、安易に返事していいものと悪いものはあるわ」
くるりと振り返り、背後のライゼ(jz0103)にも一言。
「そこは――悪魔なら知っていて当然という口ぶりでどうにも聞き返し難く‥‥」
もごもご。そういえば、と雪火は思い出す。1年程前秘密裏にパーティを教えて欲しいと頼まれたことを。
「持ち帰って検討する、とかもできたでしょうに。さ、いい機会よ。多分本来予定していたであろう『クリスマス』についてじっくり教えましょうか」
薫釈放、ライゼ拘束。雪火は用意していた資料を開き、子供に教えるかのよう、丁寧に説明を始める。
「アハッハハ! 教師してるのにくりすますをしらないってかー!? きゃはは! まぁ、私も黒ミサしらんけど!」
弄れそう気配を察知し、ケラケラと笑いながら海城 恵神(
jb2536)がにじり寄ってきた。背には天使の象徴たる光の翼。ライゼの眉が動いたようにもみえたが――耐える。
「悪魔だから黒ミサを、と思いついたわけじゃなかったってことね。なるほど」
「黒ミサだから闇鍋した、ってわけでもなかったのか‥‥って俺は普通のしか食わないからな!」
ヤギだったり闇だったり、如何かと料理が勧められる中。フローラ・シュトリエ(
jb1440)と黒葛 琉(
ja3453)は、それぞれ雪火とライゼのやりとりを見て考えた。
「みてみい、この縦縞ハンカチーフをこうして〜、こうすっと〜‥‥ほーれ! 横縞に!」
ケラケラと、挑発を止めない恵神。このままではどちらかというと、雪火に怒られるだろう。その前に、
「まあまあ、恵神さんもその辺で。みかんとかどうです? 美味しいけど」
琉が止めに入るため、食べ物を勧めてみた。すると瞳が輝く。
(落ち着いてくれるかな――って、ぇええ)
安堵したのも僅か。恵神はみかん中央の空洞部に親指を突き刺してみせた。
「ああ、そういえば子供とかがよくやるかも。天魔でもそういった遊びをするの?」
だったら発想のレベルは近いのかもしれない、フローラは感じるままに聞いてみた、が。
「いんや。さっきそこでまじっくをやっててな! あるあるにーちゃんから簡単にできる宴会芸? を教えてもらった! 面白かったぜー!」
そうこうしている間に解放されるライゼ。交換に捕まえられる恵神。種族にお構いなし、話は長そうだ。
聞いてみたいことがあるのだけれど、とフローラ、琉が交互に尋ねる。
食については人間側についてから同じものしか食べないけれど、不自由したことはない。宴についても楽しくしているのを見るのは楽しいもの。
「わたくしが最初考えていたのは、雪火さんに説明頂いたくりすます、ですね。けれど、沢山の方が楽しく過ごせればと考えていただけですので、趣旨はほぼ同じに収まったと思っておりますわ」
終わりよければ全てよし――的にごまかされた気がしたが、間もなく終演の時。外では花火が準備されているはず、と皆に知らせる。
●〆
よく晴れた夜の外。花火の打ち上げ準備が進む中、一足早く外に出ていたのは神凪 宗(
ja0435)と薫。
「先ほどの話は聞かせてもらったが、予感通り大貫殿の好奇心暴走による宴だったか‥‥。まぁ、大事にならなくてよかった」
説教風景を観察した結果の納得。薫的には、開催時期は間違ってないのだけれど、とひとりごち。
「‥‥そうだ。本来の行事に沿ってコレを渡しておこう。風は引かないようにな」
「あら? 先輩ふとっぱら! ありがとうございます! 中身は何かしら」
宗は己の荷袋の中から両手に収まる程度の軽い包みを薫に手渡した。感謝する薫。
さて中身は、と早速開こうとしたところで、空に光の華が咲く。
打ち上げ花火。
「グフ、フフフ〆はやっぱりこれだろう!」
としおが発案し、ギメが怪しまれたものの、無事運び込んだもの。
最初のひとつが打ち上げられれば、後は自動的に連鎖するよう仕組んである。会場のほうから大きな歓声が聞こえ、したり顔のとしお。
けれど不安定要素はあるもので、最後の1つだけが打ち上がらなかった。
「あっれー‥‥? 仕掛け間違えたかな?」
最悪危険だけど手でつければいいかと、としおが覗き込んだ次の瞬間!
カチッ――‥‥ドーーン!
夜空に大輪の華が打ち上げられた。光の中に大の字に四肢を広げる人の影――としお? 弾と共に打ち上がってしまったらしい。
宗と薫が現場に駆けつけると、地面には全身黒ずみになりながらも生還を果たした、としおの姿があったと、さ。
おしまい。