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マスター:有島由
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:10人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/02/11


みんなの思い出



オープニング

●勝ち組宣言
「やった、勝った。――俺は、俺は、俺は勝ち組だぁあああああ!!!」
 プレゼントを片手に、拳を空中へと突き上げた男がいた。久遠ヶ原学園に通う撃退士の一人、保津高峰だ。その横で雑誌を読んでいた友人の撃退士、佐原は飲みかけのペットボトルをちょうどいいと、保津を黙らせるのに使用した。
「うっせぇ」
「何も投げるこたぁ、ねぇだろお!」
 バハムートテイマーである保津自身の身体能力は地を這っている。雑誌を片手に投げたナイトウォーカーであるところの佐原の攻撃がほぼ直撃したようで、不満を告げてくる。若干ウザイな、などと思いながら佐原は雑誌からちらっと視線を保津に向け、
「きもい」
 きらきらと期待の眼差しを向けてくる保津に閉じた雑誌を顔面直撃させた。顔を抑えて盛大に転がる保津の手から零れ落ちたものを拾い上げて、机に乗せる。散々、もらったなどと叫んでおいて床に転がすというのもどうかと思った。
 丁寧に包装紙に包まれたそれは柔らかなもので、中に入っているのは防寒具だとあたりを付けたがもらった本人である保津は中を確認しようなどとは思わないらしい。包装紙の上につけられたリボンが解かれた様子がない。
「保津」
 ようやく聞いてくれるか! と期待に次の言葉をまつ保津。
 佐原にはわかっている。いや、この保津の様子を見れば誰だってわかるだろう。聞いてほしいのだ、誰にどうやってこのプレゼントをもらったのか。その入手方法を。
「やっぱ、ウザイわ」
 床からプレゼントを拾い上げるために挙げていた腰を再び椅子に降ろして、雑誌を広げる。聞かずとも、わかる。これは前日のイベントで保津が得た取得物。男子の誰もが羨む、女子からのプレゼントである。その渡された意味を改めて確認するまでもない。詳細に興味があるわけでもない。ただ、皆の関心は一つ。
(誰がやったんだ、こんなウザイ奴に)
 どの女子が誰を好きか。誰と誰がカップルになったか。射止めやすくなった女子と望みの潰えた女子の把握に努める男たちの視線が保津に集まっている。
 先ほどからなにがしかを伝えるためにそこらの男が佐原に向けて奇っ怪な動きを繰り返していたが、雑誌に顔を隠して佐原は読書に勤しむ。佐原はただ、この騒ぎが迅速に終わってくれることであって、誰彼の色恋に巻き込まれるつもりはない。
(ただ、見つけちゃったもんは仕方ないよな……)
 雑誌から顔を上げることなく、ただそのプレゼントのことは無視ができない。

●偽装者
「うぉおおおおおおお!!! ないっ! ないぞ、俺の宝!」
 朝、学校に来てから繰り返される保津の言葉はかれこれ、十分以上。近くで聞いている佐原の耳が痛くなってくる。保津の捜している「宝」とは、昨日だか一昨日だかに女子にもらったプレゼントらしい。いわく、持って帰ったはずなのにない。最後に見たのは放課後、自分のカバンに入れる際、机の中から取り出したというのだ。
 昨日と全く同じ場所で、同じポーズで、まったく違うことを同じように叫ぶ保津。
「探せ、探し出せ! 俺の、俺の彼女(候補からのプレゼント)をっ!!」
「しらねーよ」
 あちこちで雄たけびを上げるのは気のせいだと思いたい。が、そうも言ってられないようだ。昨日と同じコントを繰り返そうにも、佐原には否定するだけの潔白さがなかった。
 ウザイという評価を突っ込むのは改め、今後を考える。何せ、佐原は昨日とは違い、既に第三者ではなくなっていた。
(お前のプレゼントを取ったの、俺だしな……)
 包装紙の間に挟まっていたカードに書かれていた男子生徒の名前は保津ではなかった。そのことに気づいた佐原は女子の名前もわからないので、メッセージカードの名前に直接、事情を話して持って行ったのだ。家に持ち帰ったという保津の発言は妄想だ、相当浮かれていたのだろう。ここでそのことを話すのはけれど、まずい気がする。
 周囲で上がる、盗難の声に自分が濡れ衣を着せられる可能性がある。いや、そもそもお前らは本当にプレゼントなぞもらっていたのか、と突っ込みたいのだが。保津のプレゼント盗難に便乗する生徒の数が把握できない。本当に盗難された奴もいるのかもしれない。
(さすがに、困った)


リプレイ本文

●黒(黒子)と黒(男子)
(く、黒一点だと……?)
 たらり、と額から汗するような気持ちで英 知之(jb4153)は依頼に臨んでいた。
 この依頼、リア充批難者が紛れ込むと予想していたというのに、これでは真面目に調査しなくてはならんではないか。依頼を受けたからには真面目にこなすつもりではあったが、周囲の不真面目を放置する予定でもあったのだ。
 それが彼の本心、いや内面だ。外面はできる男、年齢相応の真面目でスーツを着こなす青年である。
 知之の予想外はそれだけではない。自分がモテ男だと周囲に認識されんがために被害者を装う輩には鎌をかけるという方法で盛大に恥をかいてもらうつもりが、なんだこれ。のろけか、のろけなのか。本物の被害者はいた。プレゼントの詳細を、渡されるところから至極細やかに延々と続けるという、本者だ。詳細に話を聞くに限り、地獄のような責め苦を受けなければならないのか、俺は。
「も、もういいです。十分にわかりましたからっ!」
 ひとまず区切りをつけ、話を別に移す。話が全く進まないでは困るのだ、時間も精神的にも。
「それで、犯人逮捕の時に協力をお願いできますか?」
 もちろん、と大きく頷く被害者に背後で舌打ちしたのは秘密、ということにしておこう。誰も気にしないので。

「同行、よろしいですか?」
 何やら難しい顔をしている知之に只野黒子(ja0049)は声をかけた。
「ああ、助かる。――風紀委員の方はどうだったんだ?」
 黒子はこの、学園内での盗難事件に際し、協力をしてくれそうな組織に助勢を仰いでいた。被害者の数や規模は大きいものの、事態は学校への訴えになることはなく、依頼というごく個人的な方面によって露呈してしまったため、学校自体、動けなくなっているのではないかと思ったからだ。学校へと訴えが出ていたならば。それは盗難という犯罪の方面で正式に対処を取られただろうが、依頼者の意向はごく個人的なものであり、相手も生徒だからそんな大事にしたくないということだった。故に依頼と相成ったわけだ。
 それでも、捕獲の際の人数投入に関しては人手の問題もあり、助力をしたのだ。しかし、
「動けない、という回答でした」
 もし、学校が動くような事態ならば、被害はもっと拡大していただろう。それを考えれば自由に動ける、今の状態の方がよかったのかもしれない。
「……そうか。こっちは被害者と偽者を見分けるのに手こずっていて。時間がかかっている。本物の被害者はわりと協力的だが、その分、詳細を語りたいらしくてな」
 長話に付き合わされている、と暗に伝える知之。事前に分かっていたことだ、だからこそ黒子も見込みのない風紀委員から離れてこちらの方に加わるというもの。
「任せてください、見極めならば得意ですから」

●動機
 ネピカ(jb0614)は隣で必死に言葉を紡ぐ、アリシア・レーヴェシュタイン(jb1427)を見つめた。気弱でおどおどしているのに、ネピカが話さない代りを務めようと、必死なのだ。
 ネピカは普段から、言葉を口にすることがあまりない。話すべきことはスケッチブックに書き、ネピカのコミュニケーションはほぼそれで成り立っている。それでいいと思っているし、今まででも今も変えようとは思わない。だから、調査するにもスケッチブックを片手にだし、実際に動くときでも一人が多い。けれどアリシアはネピカとともに動くといった。ネピカの調査に、自分も同じ意向だから、とついてきて、積極的に動こうとしている。
(大人しい性格なのに、無理しおって)
「あの……少し、お話伺っても、よろしいでしょうか?」
 話しかける、というだけの行為にも勇気を振り絞って。
 他の誰かとともについていけば、自分が矢面に立って相手と会話することもなかったし、調査も楽だったろう。
「ネピカさん?」
「……(なんじゃ)」
「あ、いえ……なかなか、目星つきませんね」
 小首を傾げ問うネピカにアリシアは苦笑して言った。
(恨みを買うとはとても簡単なことじゃ。本人の意図とは関係ない)
 ある人は些細なこと、と思っていても、他の人からは大きなことかもしれない。それを考えろと言われてもたいていの人間は理解ができない。自分以外の視点から物事を考える、ということはそもそも自分本位な考え方であって、自分以外の視点があるということすら気づかないものが多い。
「……(横恋慕、とかどうじゃ)」
 スケッチブックに書いて提案する。
 被害者への恨みがどこから来ているのか、なぜ今起こったのか。それを考えると、被害者本人ではなく、プレゼントを挙げた人物に関わりのある人物と考えると、プレゼントを盗んだ理由として最もスマートだ。
「そうですね……、次はそちらの関係者に聞き込みをしましょうか?」
 表情を明るくしたアリシアにネピカは頷く。

 番場論子(jb2861)は考えていた。依頼の内容からするに、犯人は多い。取り残しなく捕まえるにはどうするべきか。
「こっちは只野とともに動いているが、それでも時間はまだかかる」
 知之と黒子は被害者の確認と協力者の募りだ。被害者の中には虚偽申告者も潜んでいるようだから時間がかかっている。そして、特定した被害者の周辺の聞き込みをアリシアとネピカが行っている。
「えっと……恨みの線、何人かピックアップできました。メールで送った通りです」
 犯人が恨みならば被害者に関わりのある人物だろう、ということだ。知之たちが被害者特定に時間がかかるといっても、アリシアたちは特定された被害者一人に対して周辺複数人に対して聞き込みをしている。進捗状況が芳しくないと思っていたが、こちらは当りを引いていた。
 これら容疑者は現在、メル フィース ロスト(jb4155)がヒリュウを使って監視中である。
「容疑者は教室にいるようですから、次の作戦に移りましょうか」
 会議室にいる面々の中、論子の言葉に応えたのはシェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)だ。演技には自信がありますの、といって立ち上がるシェリア。メイベル(jb2691)の用意したプレゼントを手に乗せている。プレゼントの内容物に関して、ひと騒動あったが、メイベルは人界に疎い。多少外れた――カッターナイフとレースのハンカチを仕込むというのも、結局は爆裂元気エリュシオンZとタオルに入れ替えられている。どうして最終的にそうなったか、の紆余曲折は省くにしても、役立つプレゼントである。箱には時代劇の知識を引用し、二重底にしてGPSを仕込んである。
 もう一人、無言で席を立ったのは浪風 威鈴(ja8371)だ。
 ではお願いします、といって論子は二人を見送った。他のメンバーは犯人たちが動くまで、とりあえず待機だ。

●釣れるもの
(あなどれない……っ)
 普段は着用していない女子制服に恥ずかしげにスカートの裾を掴んでいる。足元がスースーして慣れないと先ほど言っていた。顔を伏せて真っ赤になった顔を隠そうとしているが、効果はなさそうだった。
 そんな様子の威鈴にプレゼントを渡されてデレデレとした顔を隠すこともなくプレゼントを受け取る犯人、いや馬鹿者。
 シェリアも負けず劣らず、自慢の演技で恥らいつつお淑やかに一言。
「――以前から貴方の事をお慕い申し上げておりました。どうか、これを受け取って」
 これでばっちり、GPSプレゼントを受け取らせた。相手もメロンメロン状態だ。
 しかし、威鈴は演技ではない。ただ、服装が恥ずかしいだけで犯人への演技とかではないのだ。ゆえに、天然恐ろしい――。
 一足先にきっちり、ストレートに終わらせたシェリアは未だ恥ずかしげに顔を伏せる威鈴と共に会議室へ帰還しながら思うのだった。

 Sadik Adnan(jb4005)は威鈴の付けたマーキングを召喚したヒリュウ、キューに追わせていた。以前、学園に来るまでは結構なサバイバルを生きてきたサディクは獲物の釣り方をよく心得ている。それが人であっても動物であっても、変わりはない。ひたすら静かに、時を座して待つ。そして好機を――逃さない。
 マーキングをつけたプレゼントは盗まれていた。威鈴の手渡した容疑者は、被害者に恨みは持っていても、犯人ではなかった、ということだろう。しかし、それでもプレゼントは犯人の元にあることに変わりはない。
「よくやったぜキュー。お手柄だ」
 アジトを見つけたキューを撫でてやって、サディクはアジトの様子を伺った。
 ここにいるのはサディクと威鈴、メイベルの三人だ。隠密に秀でているアリシアはまだ会議室だ。もう一つ、シェリアの仕掛けた罠、GPS付きのプレゼントの方が動かないからだ。それにネピカとシェリア、追跡のための人員としてヒリュウ召喚のできるメルもいる。知之と黒子は協力者を連れてくるために今はいない。論子は光の翼を使って窓の外からアジト内を見張ってる。乗り込みのタイミングを携帯で知らせてくるはず、と思ううちにポケットの中が振動する。
「降伏するならよし、抵抗するなら容赦しねぇ!」

「な、お前らなんなんだ!」
 犯人お決まりの動揺した台詞。
「話は聞かせていただきましたっ! 御用ですよ、御用っ!」
 芝居がかった言葉で以て突入する、メイベル。
 突きつけられた事柄に顔を蒼白させる者、悔しげに顔を歪め睨みつけてくるもの、様々だ。
「俺たちは終わりだ……、こんなことして」
 呆然と膝をつく者、悪態をつく者。反応は様々だった。
「だから嫌だったんだよ、こんな女々しいこと!」
 やってられっか、とヤサグレる者。敵意を表してくる者。
「くっ!」
 振り返り、アジトにしていた空き教室のもう一つの扉から抜けようと走る数名。
「リア充を恨むのは勝手だが、盗みは犯罪だ」
 だから観念しろ、といったのは後ろのドアから入ってきた知之。その隣には黒子。して、背後に連なるは被害者であり、この捕り物の加勢者。
 逃亡しようとした犯人はその人数に怯んだが、こちらも撃退士。そこ以外に退路もないので勢いのまま突破しようとアウルを発現しようとして――
「おら逃がすか! ヒヒン、やれ!」
 サディクの召喚したスレイプニルに押しつぶされる。
 光の翼を解いて入ってきた論子は押しつぶされた犯人の一人に近寄ると、あなたがリーダーかと問いただした。
「あなたたちがしたのはプレゼントした方の気持ちも踏みにじることです」
 首を振らない犯人に、そう伝える。

 一方、動き出したGPSプレゼントを追うネピル、アリシア、シェリア、メルの四人はそれが他の皆がいる、アジトと同じ場所へ向かうのを知った。
 予め、携帯に連絡をしつつ尾行する四人。サイレントウォーク・ハイアンドシーク・隠密を行使したアリシアを容疑者の傍に、少し離れたところから三人は尾行する。
 もう一つのプレゼントの行方の方は論子が逐一連絡をくれているので状況はわかる。その一方で、四人の追う容疑者はまで尾行に気づかず、リーダーたちが捕まったことも知らずにいる。当たり前だ、今頃は黒子が拘束した犯人たちの所持している携帯を取り上げている。メール送配信やWeb閲覧の履歴調査し、仲間と思われる者を片っ端から誘き寄せ、随時捕獲している。情報を持つ者はすべてこちらの中、というわけだ。

 様子を伺っていると、仲間らしきものが集まり、容疑者ともめ始める。
 そのまま、引きずるように容疑者を引きずってアジトに入り――滑る。
 教室中にまかれたワックスだ。犯人たちを捕まえた後、教室には軽く罠が仕掛けられていた。アリシアが提案し、論子が実践したものだが、効果があったようだ。他にもピアノ線が仕掛けられたりしているのだが、気づいてないようだ。
 俄かに立ち上がって逃れようとする彼らに、入り口のドアを塞ぐようにシェリアは前に出る。
「モテないからと盗みを働くなんて笑止千万!」
 わたくしが一度お灸を据えて差し上げましょう。そう言って笑みを乗せるシェリア。
 ネピカは無言のままスケッチブックを見せ、説教する。
『仕返ししたい、って気持ちは分からなくもないのじゃ。
だがのう、プレゼントを奪うのはいかんぞよ。それはプレゼントを渡した人までも傷つける行為だからじゃ。仕返しはもっと上手にのう』

「一網打尽、ですね!」
 笑みを浮かべるメイベル。けれど問題はそうたやすく解決するものでもない。
「なん……で……奪うの? モテて……いい……ことあるの……?」
 目を真っ直ぐ見つめながら問う威鈴に、犯人たちは目を逸らした。
「わかんないんだよ……。自分がそんな立場にならなきゃ、その惨めさなんて、わかんないんだ!」
 そんな態度を取る犯人たちを前に憤る被害者たちを、けれどサディクは手で制した。
「なんかよくわかんねぇけど。嬉しさってのは自分だけじゃ空しいぜ? もっと周りと祝いあえよ」
 盗むのは、わりぃけどさ……と漏らすサディクに知之も同意する。
「そうだ、盗みは悪い」
 俺も本音と建前が逆になりそうだ、と言いながら深く頷く。
 ばつの悪い顔をして自らを反省し始める、被害者たち。
「これにて一件落着!」
 とメイベルが締めくくった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

新世界への扉・
只野黒子(ja0049)

高等部1年1組 女 ルインズブレイド
白銀のそよ風・
浪風 威鈴(ja8371)

卒業 女 ナイトウォーカー
残念系天才・
ネピカ(jb0614)

大学部4年75組 女 阿修羅
迷える作画者の導き手・
アリシア・レーヴェシュタイン(jb1427)

大学部2年300組 女 ナイトウォーカー
仲良し撃退士・
メイベル(jb2691)

大学部2年193組 女 陰陽師
炎熱の舞人・
番場論子(jb2861)

中等部1年3組 女 ダアト
絆は距離を超えて・
シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)

大学部2年6組 女 ダアト
開拓者・
Sadik Adnan(jb4005)

高等部2年6組 女 バハムートテイマー
エリート(自称)・
英 知之(jb4153)

大学部7年268組 男 ダアト
撃退士・
メル フィース ロスト(jb4155)

大学部1年17組 女 バハムートテイマー