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マスター:有島由
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/12/05


みんなの思い出



オープニング

●緑の支配下
「腕の調子はどうだい?」
 どこともなく、広がる景色に視線を投げながらリノフェスは言った。
「……どうでしょうね」
 青野健は前に向けていた視線を自らの利き手に落としながら答えた。
 焼けただれた腕は既にそこにない。使えない腕は捨てた。今は緑色の蔦が絡まり合って腕のような形を形成している。
 リノフェスが与えた、腕。炎で焼けてしまうだろう、それは頼りない。決して自分から求めたものではなかった。隻腕でよかった。
 けれど、この上司はまだ青野に働けと言うらしい。
「――蠅は、蠅でしかないのに。必至だよねぇ……」
 鬱屈と、呟くリノフェスだが言葉ほど気にしていないだろう。彼は自らの作り上げた空間を楽しむことに忙しいらしく、視線を外さない。
 面倒くさがりのリノフェスは他の天使たちにどやされて人間回収に来たというのに、今なお義務よりも自分の趣味に没頭している。

 広がる緑の平原、美しい花々の芽吹く様、キラキラと光を反射しながら落ちてゆく噴水の水。――美しい光景だ。
 だが、どんなに美しくとも、三日で飽きる。
 ゆったりとした空間は時間が流れない。動物はいない。虫もいない。
 何もしない、何も起こらない光景にいつまでも浸っていることは青野にとっては苦痛だった。
「いいのですか。早々に上納しなくて」
 結界内の人々は既に回収を終えている。人間からの感情抜き取り作業も滞りなく行われ、次なる行動に出ても支障はない。
 天界は上下関係に厳しい。リノフェスほど下っ端ならば更なる上司に一定量を上納する義務がある。それを長期間に渡り怠っていたため、今回の強制搾取という手段を取らざるを得なくなったのだ。
 だが、リノフェスはいつまでたっても動こうとしない。
 深緑の瞳は切れ長で、晒された額には雫型のエメラルドを中央に配したサークレット。その細身には長衣を纏い、緑色の艶やかな長髪を背に流す男の姿は気品に溢れ、優雅と言えた。
 だが、怠惰にすぎる。
 青野がリノフェスに出会ってから少々の時が経っているが、彼が自ら動いているところなどほとんど見たことがない。歩くことさえ稀で、常に椅子に座って、何かを眺めている。
 「高貴なる自分は急かしく動く必要がない」というのが口癖だ。

 青野にとってリノフェスは最も嫌いな部類に入る。
 青野がシュトラッサーになった経緯だけでなく、このリノフェスという男の中身が嫌いだった。それでも、自分は命散らすまでこの男の命のままに動かなければならない。
 いつか、その首に牙を剥けることができたら。
 リノフェスはそんな青野の心を見抜きながら、それを利用していた。その憎悪こそがリノフェスにとっての忠誠だからだ。
「――ああ、やっぱり」
 呟くと、リノフェスは青野に手振りした。
 何をどう考えての感想なのかは知らないが、そのジェスチャーは青野に行って来い、という命令である。
 眉をしかめたまま、青野は草原を歩もうとした。その背に、何かが投げつけられる。
「これは?」
「新しいオモチャだよ」
 黒い線が曲線模様を描く、拳大の種。
 青野はそれを持って、ゲートを抜け出した。

●幻想する日常
「ご武運を」
 そう、言って小さくなる背を見送ったのはつい先ほどだ。
 北西端に向かう守衛隊と西端に向かう守衛隊のみが未だ駅に残っていた。
 各守衛隊四人ずつ、計八名。残響に気を配りながら、ホームを歩く。
 ホームの一部箇所に地下へと降りる、整備扉があるはずだ。そこから下水の方にまで道は繋がっている。人気がないせいか、広いせいか、寒々しく感じた。
 冬は陽が落ちるのも早い。影ってくる前に、と非常電源を弄って駅に明かりを入れるも、陰鬱な印象に変わりはなかった。
「――隊長」
 呼びかけてきた隊員に言葉を返さず、北西守衛隊の隊長は西守衛隊の隊長と顔を見合わせた。眉を寄せて厳めしい表情を作る西守衛隊隊長の表情に、自分も同じような顔をしているのだろう、と悟る。
 隊員の感じていることは、杞憂ではない。勘違いではない。今、この場にいる全員が感じている。
「各員警戒を続けろ。安全の確認ができ次第、本部に連絡をする」
 北西守衛隊隊長の言葉に、両隊員が動く。
 各自、光纏して武器を構えていた状態からすぐさま動ける様に、身体強化系のスキルをかけはじめる。
 上下に広いホーム内を確認するため、動き始めた。途端。

 キキキキィイイイ!
 踏切音とともに、駅に電車が止まった。
 あまりにも唐突な事態に、瞬時に警戒が高まった。電車から降りてくる人物を予想して、一斉に武器を向ける。
 全員の視線が集まる中、ホームに止まる電車から人が溢れだした。
(これは、夢か?)
 武器を構える守衛隊たちの事など関係ないというように、大人や子供。男性や女学生、妊婦に老人。降りてくる人々は様々で、活気にあふれている。雑然とした空気がホームに広がってゆく。そこにあるのは日常だ。
 近づいてくる彼らに警戒のまま、武器を向けるが当然のごとく横を通って階段へ向かい、あるいは隣のホームで次なる電車を待ち始める。
 一体なんなのか。不安と、混乱が湧きあがるはずなのに、どうしてかこの状態を理解し、現状が呑み込めてくる。
「皆さん、ここは危険です! はやく避難をっ」
 呼びかけた。当然だった。
 街は封鎖され、この駅には電車が止まらなくなった。この駅を迂回するように、電車が出ているはずだ。だがそれを運転士がそれを知らないあるいは忘れているなどでこの駅に通常運行してしまったのだろう。
 呼びかけ、一般人に注意を呼びかける。

 あまりにも不自然だった。けれど、常識的に考えて、その不自然を見逃してしまった。
 故に、静かなホームに携帯の震える音が複数、鳴り響いていた。

 ぐしゃり。
 小さく震える機械を躊躇いもなく潰し、靴は退けられた。
「――趣味が悪いな……」
 リノフェスに持たされた新たなサーバントを横に見上げ、青野健は呟いた。

 もぐもぐと口を動かしながら糸を吐きだし、獲物の拘束を強くする巨大な虫。毒々しい緑色のワームは守衛隊八人を糸に縛り付ける作業に夢中だった。


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リプレイ本文


 夜の気配が駅を包み込んでいた。
 電灯さえつくことのない街中で唯一、駅のみが非常灯に照らし出される様は不気味そのものと言えた。人気がない、ということが更に拍車をかける。
「連絡がないってことは、連絡入れる前に行動不能にされたか、連絡できない状況が続いてるってことだ」
 地領院 恋(ja8071)は駅舎を睨みつけながら、現状を口にした。
 街の各地に散らばって戦闘をこなしていた恋たちが再び駅まで戻る頃には、北西守衛隊と西守衛隊からの定期連絡が途絶えて既に半日が経過していた。
「む、一撃でやられちゃったのかにゃ?」
「守衛隊の方々は総勢八人ですし、それは考えにくいですねぇ」
 首を傾げた狗猫 魅依(jb6919)に神雷(jb6374)が否を唱えた。
 実際、奇襲を掛けられたとして一撃で全滅したのでなければ誰かが連絡を入れるぐらいの隙はあるはずだ。
「広範囲の状態付与系……それならば……あるいは……」
 ふと、Viena・S・Tola(jb2720)は口を開いた。それに向坂 玲治(ja6214)は頷き、思案する。
「罠か……」
 たとえば踏み込んだ瞬間に、仕掛けが発動する。もしくは仕掛けられたそれに獲物が自ら踏み込んでゆく。そうして、碌な状況理解もできないまま体が動かなくなる。敵の思うまま、という奴だ。
(だが、その場合は相手に情報が洩れてなきゃ、待ち伏せなんて――)
「思った以上に……早い……」
 ヴィエナが小さく呟きを漏らす。
 そう言えば、以前にも地下ルートを使用して結界内から街人を安全に避難させたという。敵からしてみればしてやられた感があったろうが、今回はそれを逆手に取ったということか。
 以前、敵から逃げおおせた道ほど安全の確定しているルートはなく、使わない手はない。
「卑怯な手、使いやがって!」
 怒りに語気を荒くする幽樂 來鬼(ja7445)の隣、鳳 覚羅(ja0562)は武器を握り直した。
「守衛隊の奴らが心配だ、行こうぜ」
 夜劔零(jb5326)が声をかけて駅に踏み込んだ。
 身は軽く、けれど警戒は最大限に八人は夜闇から光の方へ向かう。

 非常灯に照らされるだけのホームに入り込んだ時、甲高い音が暗闇に響いた。
「何か、来る!」
 音のやってきた方向を睨みつけながら覚羅が注意を喚起する。玲治を先頭にしてホームを歩んでいた一行は線路から離れるよう、壁側に移動した。それからほどなく見えたものに、來鬼は思わず声を出した。
「電車……?」
 速度を落としながらホームに入ってくる鉄の箱は電車だ。けれど理性でわかる。それはありえない、と。
「こんなもん、嘘っぱちだ!」
 夜も暗い田舎町に止まる電車などない。特に、閉鎖されている街になどやってくるわけがない。けれど來鬼の言葉など知らぬとばかり、電車の中に詰めこまれた人たちがホームへと降りてくる。
 偽物か、本物か。來鬼に考え込む必要などなかった。
「皆様……暫し……お耐え下さい……」
 ヴィエナがその背に翼を出現させると、羽ばたき始める。彼女が上昇するためのものではない、前後へと動かす翼は徐々に速度を増してゆき、その場の空気をかき混ぜる。
「ふんにゅ……っ!」
 滑りやすいホームに足を突っ張らせながらやり過ごした魅依が見た時には既に線路上の電車もホームにいた人たちも消えていた。それと代わるようにいたのは、
「青野……っ!」
「やぁ、久しぶりと言っておこうか――撃退士?」
 毒々しいほどの蛍光緑の巨大虫を横に、長身の男――青野は顔の前に交差していた両腕を解くと激昂する來鬼たちへと親しげな笑みを浮かべたのだった。


「成程、人命優先の撃退士にはうってつけの幻覚、ってわけか」
 青野を睨みつける零の視線に、青野はただ肩を竦めるだけだった。その動作が余計に腹立たしい。
「……っあそこに!」
 空気が入れ替えられ、幻惑の解かれたホームに神雷は目を瞠った。
 ホームの壁が白く汚れていた。ベッタリと張り付く白いソレと壁の間に、僅かだが何かが挟まっているように見える。大きさと形から、それが人だとわかる。
 神雷の指摘に、來鬼は壁を見るともう一度、サーバントを見た。巨大な虫型のそれは芋虫ワームと呼ぶに相応しく、またくちゃくちゃと動かされ続ける口元に白いものが見えている。
「糸――。幻覚をかける間に拘束する、って作戦だな?」
 白いものの正体を言い当てた玲治に、だが青野は笑みを深めるだけだった。
「それが分かったところでどうということはない!」
 青野は欠けたはずの腕に携えた鞭を振るおうとし、
「――っなぜ、」
「チマチマやったんじゃ、あんたには適わねェ。こっちは最初っから全力なんだよっ!」
 急に動きの止まった青野に、恋は踏み込んだ。シールゾーンの効果範囲内、から更に踏み込む。
 ヴィエナが幻惑を破った際に無ノ咆哮の衝撃を浴びせたのだ。距離が届いていたかどうか、一か八かな部分もあったがこれで先手は取った。
(いけるっ!)
「あの時と同じかぁああ!!」
 青野は以前、恋のシールゾーンの効果を受けて攻撃が強制中止された。その結果、追いつめられて利き手を焼き失うこととなった。その時を思い出したのか、激情のまま吼え新しい腕に握る鞭を振るいあげた。
「く……っ!」
 鞭がしなりをきかせながら襲い掛かってくるのに、恋は後退を余儀なくされた。回避に専念する恋を猛追する青野の鞭を、槍が絡め取った。
「よう、こっちも相手してくれねぇか。青野さんよ」
 にやりと笑いながら思い切り腕を退く。
「このまま綱引きといこうぜ」
 玲治の握る槍と青野の握る鞭の引っ張り合いはそう長い時間均衡を保たれなかった。壊したのは零だった。密かに死角から接近した零が腕を突き出す。
「黄泉に誘いし我が粉塵よ! その身固まり全てを封じん!」
 零の声に呼応し、立ち昇る粉塵に包まれ身動きが取れなくなる青野。鞭を握る腕だけが粉塵の檻から覗いている。新緑色の、植物の腕だ。
「あんたは譲れないもののために戦った。あたしはそのことを忘れない。だから、その誇りを抱いたまま、消えろ!」
 恋は所持していたウォッカを青野の腕に投げつけた。同時に、オイルライターに火をつけ、投げ込む。

「―――ぁああああああっ!!!」
 地獄を覗いたかのような、絶叫が上がった。

「おいおい、お前の嫌いな天使様がわざわざ作ってくれた腕だろう……?」
 零は揶揄を込めながら言った。
 植物の腕が燃やされたあの瞬間、体に燃え移るのを防ぐために青野は自らの腕を千切ったのだ。
「……ハッ! 大嫌いな天使様にもらった腕だから、だよっ!」
 痛覚はあったはずだ、と零は眉を寄せた。
 青野は明らかに憔悴している。粉塵の壁から抜け出すのにも尋常でなく力を使ったはずなのだ。立っていることさえ、もはや青野には難しいはず。だが、
「――温情は、掛けねぇぜ」
 敵と戦うのに、その理由や背景など関係ない。
 零は瞬きすると、憎悪に染める銀の瞳で青野を睨み据えた。


「幻惑の能力か……。いまいち判明しないな、下手に近づかない方が得策かな……」
 ワームの口から断続的に放たれた糸切り払いながら覚羅は口にした。その背後で、ガトリングを構えた神雷が掃射に入る。
 ワームはかなり大きく、駅舎の中では自由に動くとはいかないようだった。攻撃を糸で迎撃しているが、ほぼ通っていると言っていい。ただ、油断はできなかった。いつまた、幻惑に囚われると限らない。
 接近戦を避けねばならない故に、攻めあぐねているのもまた事実だ。
 その時、絶叫が聞こえた。青野と戦闘している恋と玲治の方だ、何か進展があったのだろう。それと同時、ワームの気が逸れた。それは確かな好機だった。
 魅依がアブラメリンの書から生み出した幾本もの槍を一斉にワームへと放った。ワームの口から吐き出される糸が槍を撃ち落してゆく。
「そこ、だぁっ!」
 槍の雨の作った多くの死角の中を縫い接近した來鬼が村雨で斬りつける。軽い感触とともに内部の柔らかな肉の感触が刃に伝わる。
 痛みに体を來鬼とは反対側へと捩らせたワームの目に映ったのは蒼色の風だった。
 巨大な赤目を真っ二つに割られ、甲高い声を出して喚くワームは盛大に身を動かす。無茶苦茶な動きではあるが、その巨体にぶつかられてはかなわないとヴィエナと來鬼は再び距離を取った。
「……なんだ?」
 急に動きを止めたワーム。その背が、パリパリと割れてゆくと低い振動音とともに現れたのは毒々しい色合いをした翅だった。
 脈の浮き出る薄い羽根に続き、身が殻から姿を現す。
「……これは……鱗粉……?」
 人よりも感覚の優れているヴィエナが初めに気付いた。
 翅に纏わりついている、鱗粉。それは幻惑の効果のあるそれだった。
「色々出て来ますねぇ……わしはさっさと本丸と戦いんですよねぇ」
 虫の次は蝶か、と神雷は溜息をつく。
 はぐれとはいえ、神雷は悪魔だ。本心を言えば、早く天使と戦いたいのだが、敵方は手を変え品を変え、と対応しそろそろまだるっこしい。
「炎焼」
 顔を上げたその手もとに、槍が現れる。物質的な槍ではなく、炎を槍の形状にして留めたものだ。燃え盛る槍の熱が空気を暖めるよりも早く、神雷はワームの羽へと投げつけた。
 またもワームは――いや、蝶は甲高い鳴き声を出した。
 右側の羽が鱗粉ごと焼失したことで崩したバランスを、糸でどうにかしようとホームに吐きつける。
 体を固定しようという方策が見え梳き、覚羅はカーマインの鋼糸をもう一方の羽に絡ませた。
「もう飛ばさせにゃいんだっ!」
 壁の柱を伝って、飛ぶ蝶の巨体に飛び降りた魅依。その体を取り巻くように三日月形の刃が無数に出現している。魅依が蝶の体に着地するのに応じて、刃がその体を、翅を、斬り付けてゆく。
 もはやバランスを取るどころの話でなく、両翅を失った蝶型サーバントはズンッ、と重い音と共にその巨体を地に落とした。
「なん、で……植物じゃないん、じゃっ!」
 月の光に血色が反射する大鎌を來鬼は振りかぶった。淡青色の炎が刃から出現し、ワームを滅多斬りにした。


 ワームを倒したことで全員がフリーとなったことを見て、青野は溜息を一つ吐き出した。
 皆、十全とは言えなくとも戦いに響く様な傷はないと見える様子に、笑いが込み上げる。
「――虫は植物を食すものだ。しかし、時に植物は虫を食うと、君らは知っているかい?」
 笑いを押しつぶして、青野は紡いだ。
 青野にとって、ワームは相性が良くない。ワームの幻惑範囲に入らないよう、注意しなければならないし一方で青野は自分の攻撃を当てないように手加減しなければならない。そもそも、青野は戦闘タイプではないし正面からの激突もスタイルには合わない。
 つまり、
「使徒を、なめるんじゃないよ人間どもぉおおお!!」
 シュトラッサー青野健の本領発揮は、これからだということだ。

 叫ぶと同時、青野が両手を勢いよく地面につける。突然の行動に警戒を強めるよりも早く、それは起こった。
「……っ!!」
 地震。

(いや、そんなはずない。これは――)
「屋根が……っ」
 神雷の声に、視線を跳ね上げる。そこにあったのは植物の蔦。
「――な、」
 何故、とは口に出なかった。無ノ咆哮の効果時間はそう、とっくに過ぎている。
 ハッとして正面に向け直した視線の先、地面から伸びあがる植物と植物の間に笑みが見えて、恋は歯を食いしばった。
 抜かった。油断したつもりはなかったが、甘かった。
 青野足元から地面に向かって放たれていたスキルは目に見えずとも、駅舎を軋ませ、ゆっくりと――けれど確実に覆い囲っていた。
 張り巡らされた包囲網の中、徐々に増えてゆく植物に向かって無茶苦茶に槌を振るい、取り払う。植物の奥、泰然と笑みを浮かべる青野まで、あとどれほどの距離か。
「くそぉおおおおお!!」

 目前の植物を退かすのに、あるいは気絶したままの守衛隊を護る為に動く者たちの中、一人、猛然と青野へ走る者がいた。
 襲い掛かってくる植物を恐れもせず、歩みを躊躇うこともなく、前へ前へと突き進む。モーションなどはないに等しく、植物の壁の間に微か服の切れ端が見えるのみの姿をけてどヒタと見据え、振りかぶる。
「青野ぉおおおおお!!!」
 まるで殴りつけるかのように放った零の攻撃はその衝突地点から炎を生み、青野を火達磨にして吹き飛ばした。

「これで救助対象は全員か?」
 意識を失っている守衛隊の面々から糸を剥ぎ取りながら玲治が言った。
 戦闘中に一回も意識を取り戻さなかった彼らはよほど深い眠りについているようだが、これも幻惑の作用かも知れない。
「……早く……目を覚まされると良いのですが……」
 結果的に、青野を誘き出すための餌の役割を果たすこととなった守衛隊たちに罪悪感を抱きながら、ヴィエナは目を伏せた。

 動くことのなくなった植物を退かし、恋は青野へと歩み寄った。
「……なんて、顔してやがる」
 劫火の炎は未だ消えることなく、けれど動くこともないその青年の姿に背を向けた。
 人の悪であり、又悪役たろうとした青野健。その死顔は何とも、――満足そのもので。グッと拳を握りしめる。

 來鬼は青野を一瞥するが、すぐさま聞こえた言葉に視線を動かした。
「……残りは、あの怠け野郎を消すだけだ」
 忌々しげに呟いて空を見上げる零。
 そこにあるのは闇色に染まる夜においてもその存在感を失わない、輝くゲート。不気味で不吉なその扉の内にはどんな世界が広がっているのだろうか。きっと、主人に似てくそみたいな世界に違いない
「――潰してやる」
 來鬼は低く、短く、胸中を吐露して歩み始めた。

 東の空が白く、明らみ始めている。
 対策本部から伝えられている次の作戦はゲート内部の調査。念入りな準備を必要とするだろう。再び太陽が顔を隠す時間まで、撃退士たちに暫しの休息が訪れたのだった。



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 女子力(物理)・地領院 恋(ja8071)
 守るべき明日の為に・Viena・S・Tola(jb2720)
 久遠の絆・夜劔零(jb5326)
重体: −
面白かった!:8人

遥かな高みを目指す者・
鳳 覚羅(ja0562)

大学部4年168組 男 ルインズブレイド
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
肉を切らせて骨を断つ・
猪川 來鬼(ja7445)

大学部9年4組 女 アストラルヴァンガード
女子力(物理)・
地領院 恋(ja8071)

卒業 女 アストラルヴァンガード
守るべき明日の為に・
Viena・S・Tola(jb2720)

大学部5年16組 女 陰陽師
久遠の絆・
夜劔零(jb5326)

大学部3年230組 男 陰陽師
永遠の十四歳・
神雷(jb6374)

大学部1年7組 女 アカシックレコーダー:タイプB
諸刃の邪槍使い・
狗猫 魅依(jb6919)

中等部2年9組 女 ナイトウォーカー