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沿岸地域、市街地。過去に起きた戦闘により破壊された、住宅の跡地。
そこには幾度と目撃されている大天使の姿だけでなく、戦闘用に準備された物であろう、サーバント四体の姿もあった。
「久々に出てきたと思ったら、得物も替えてイメチェンか?」
サーバント四体を隔て、銃を顕現させたカストルに対し、向坂 玲治(
ja6214)は問う。
「……さて。これはやるべき事の違いと言うべきか」
カストルは肩を竦め、銃を構えるのと同時、サーバント四体に指示を下す。
常に単身で行動していた今までとは違い、サーバントを従えての戦闘を展開せんとする彼。
「戦闘用のサーバント、それに銃ですか……」
それに明らかな差異を感じた十三月 風架(
jb4108)は、最大限の警戒を以て、彼を迎撃せんとする。
「おや、今日は後ろから見物かい? ムラマサちゃん」
「未だその名で呼ばれようとは、な」
「……あぁ、本名とかどうでもいいよ。僕にとって君はムラマサちゃんだから」
その一方で、普段と変わらない反応を見せる砂原・ジェンティアン・竜胆(
jb7192)。
「使徒と言い、主と言い……似ている事だな」
またその立ち振る舞いから、かつて相見えた男の姿を思い浮かべる鳳 静矢(
ja3856)。
「貴様は正宗とも相見えた事がある、という訳か。奇妙な縁だな」
静矢の言葉を聞き、彼と同じように自らの使徒――正宗の姿を思い描いたカストルは、深く息を吐き、その視線を『敵』に投ずる。
「だが、もはやあの時のように悠長に戦っている暇は無い。貴様らとて、そうだろう?」
「……戦いの傷が癒えて復興し始めたこの地に、なんの用があると言うのですか?」
雫(
ja1894)が問うのと同時、カストルは銃を構え、臨戦態勢へと移行した。
「そういう事ならば、致し方ありませんね……」
もはや、ただ言葉を交わしている余裕は無いと判断。
雫はその身に邪神を宿すかの如く、禍々しい紅の光を放つ武具を構え、真っ先に彼の元へ飛び込んでいく。
その速さ、威圧感。彼女は易々とサーバントの隊列を超え、カストルの元へ迫る。
「……前の敵に集中しろ。此方は私だけで十分だ」
だがカストルは決して動じず、深く腰を落とす。
蛇行し、狙いを定められないように努める雫だったが、カストルはその銃口を何処かへ向けたまま、動かない。
「この地には重要な拠点も何も無い、貴方たちが目を付ける理由は無い筈でしょう」
その間にも雫は着々と距離を詰め、彼の元へ辿り着くかと思われた、が。
「見えている物だけが全てとは限らない。物事には常に裏側が存在するものだ……!」
カストルは彼女の動きを捉えたように引き金を引き、疾風を纏った弾丸を放つ。
放たれた弾丸は正確に雫の動きを捉え、一瞬にして彼女の元へ到達。
彼女はその弾丸を避ける事は敵わないと判断し、進行しつつの防御に踏み止まった、が。
「失われし氷神の力、今一度解き放たん!」
カストルはその僅かな隙を突き、手中に氷の刃を生成。それを彼女に向けて放った。
絶対零度の刃は雫を捉えるや否や、彼女の肉体を一瞬にして凍結させる。
「氷刃、ノヴァの……いや、ポルックスの?」
その技を見た風架は、彼と同じく、過去に幾度と相見えた天使の姿を思い浮かべて。
しかし前列で盾を構える騎士型、そして後列で銃を構える銃兵型サーバントの位置を調整すべく、かつて相見えた天使の力を警戒しつつも、立ち回る。
そして彼は、血液によって手甲を形成。神速の一撃を以て、騎士型サーバント一体を吹っ飛ばそうとする。
サーバントは風架の攻撃を盾で防御するも、その衝撃によって後退し、銃兵と隣接する場所にて踏み止まる。
「離脱し、引き続き敵の立ち回りを防げ」
一時は位置調整に成功したものと思われたが、カストルは即座に位置変更を指示。
騎士型に隣接していた銃兵はすぐさま後退し、風架に狙いを定め、素早く二発の弾丸を放った。
風架は回避不可能と判断、防御に転じるも、少なくない傷を負う。
「一体ずつでは手間取るか……まとめて討ちたいところだ」
もう片方の銃兵は行動せず、様子見に徹している事を確認した静矢は、風架に狙いを定めている銃兵に向け、矢を射る。
放たれた矢は影をも留めない程の速度で飛んでいくも、騎士型サーバントが素早く射線上に割り込み、それを盾で受け止める。
一連の行動の後、様子見をしていた銃兵型サーバントは静矢に狙いを定め、攻撃直後を狙う形で二段撃ち。
静矢はそれに反応し、一発目を被弾しながらも二発目を回避。殆ど傷を負わない形に留まった。
「僕の目の前では倒させないって……まぁ、ずっと言ってるでしょ」
竜胆は攻撃の節目を上手く利用して、風架を治療。騎士型が銃兵を庇う行動に出る事も考慮しつつ、次の一手を狙う。
しかし現時点に於いて、サーバント側は前進する事が出来ておらず、言うなれば防戦一方の状況下。
片方の騎士型は風架を意識しつつも、後列との距離を取りながら、尚且つ射線を遮るように布陣している。
だがもう一方、未だ行動を起こしていない騎士型は、正面から接近してくる玲治を見据えながら、大盾を構えていた。
「珍しいね、今日は剣じゃなくて銃なんだ。如何言う心の変化かな、気になるよ」
神喰 朔桜(
ja2099)はカストルの姿を見据え、常に余裕の笑みを崩さぬまま、前方の騎士型サーバントに向けて黒き雷槍を放つ。
その一手は玲治の援護として投じられたものだったが、サーバントはそれを大盾で防御。殆ど損傷を受けずして。
「大盾ってのは案外、面倒なもんだな。んで、今日は何が聞きたいんだ? 今までもそうだったんだ、今回もあるんだろ?」
朔桜の攻撃に繋げる形で騎士型サーバントに突っ込んでいく玲治だったが、先ずはその先に居るカストルに対し、問いを投じる。
「……そうだな。敢えて問えと言うのであれば、一つ」
玲治は大盾を構えているサーバントに真正面から突っ込み、重みの乗せた突進を叩き込む。
「貴様らの思い描く未来とやらは。貴様らの望む結末とやらは、本当に正しい物と言えるのか否か。この場に於いて答えろとは言わん、時間をかけても構わない。曖昧な物ではなく、確かな答えを示せ」
玲治の突進を受けたサーバントは後退、後列の銃兵に隣接するも、すぐさま体勢を立て直し、玲治への反撃に打って出た。
その間にも玲治の問いに対する答えを述べるカストルだったが、彼の視線は、何処か遠くを見据えているようで。
反撃に出た騎士型サーバントは真正面から大剣を振り下ろすも、玲治はそれを易々と受け止め、動じなかった。
「――事の正誤なんて後世の人に任せれば良い。例え後世の歴史家に愚かだと言われても、力で押さえつける者には、同じ力を持って抗うのみ」
それと同時、凍結を打ち破った雫が再び前進し、カストルの元へ迫ろうとする。
「もはや正誤は気にせず、目の前の事だけを変えていく。そういう事か」
カストルは即刻、彼女に狙いを定め、疾風を纏いし弾丸を放つ。
雫はそれを防御する事しか出来ず、その隙にカストルは後退。立ち位置を変え、何処か遠くを見据えながら銃を構える。
「撃ち抜くべきは目前の標的だけに非ず。目前に広がる光景はその前座、真に捉えるべき物はより深くに」
構えられた銃は淡い光を纏い、三度の攻撃の後に来る強力な一手を匂わせる。
「……理想無き力は暴力、力無き理想は戯言。いえ、他者を巻き込む可能性がある以上は、たちの悪い毒でしかありません」
それでも雫は決して立ち止まらず、彼の目前にまで迫り、大剣を振り上げた。
しかし。カストルは雫ともう一名、遠く見据えていた人物の影が重なった瞬間を見計らい、引き金を引く。
銃身を包み込んでいた淡い光は弾丸に宿り、放たれた弾丸は雷となって、瞬時に雫の胴体を貫いた。
貫通した雷弾はその先に居る静矢の元へ迫るも、警戒を続けていた彼はそれに反応。被弾寸前で回避する。
「……別に天魔の一切居ない世界を思い描いている訳じゃない、多少の小競り合いはあっても良い。ただ、互いが互いの存在を認め合える単純な世界が間違っているとは思えない」
放たれた雷が消え、一瞬の静寂が訪れた頃。
雫は自らの被弾を気にせずに大剣を振り抜き、真正面からカストルを薙ぎ払う。
彼は銃身でそれを受け止めようとするが、圧倒的な威力を誇る一手に弾き飛ばされ、一時的に行動を封じられる。
一方、サーバントとの戦闘を続ける五名。
風架は騎士型サーバント一体の『警戒』を利用出来ると踏み、接近する。
「ムラマサ、貴方に誇りは……信念はありますか?」
敢えてカストルとは呼ばぬ、風架の問いかけ。
だが、現状の風架が相手をすべきは目前の敵。彼はある意図の下に正面から接近、掌に力を込め、強烈な一撃を叩き込む。
タワーシールドを構えていた騎士型はそれを防御、威力こそあまり通らなかったものの、力強い一手により後退、動きが止まる。
「盾も機動力も、十全に生かせなければ意味があるまい」
静矢がそんな風架の一手に反応、位置調整を踏まえ、手にした刀を瞬時に振り抜く。
刀が振り抜かれるのと同時に放たれる、鳥の姿を持った紫のアウル。
それは瞬く間に騎士型の大盾を穿ち、その後方に居る銃兵までもを貫通。前者の大盾を崩壊寸前にするだけに留まらず、銃兵の半身までもを吹き飛ばした。
……しかし、サーバント側としてもそう簡単には終わらない。
もう一方の銃兵型サーバントが静矢に狙いを定め、技を使用した後の隙を突く形で二段撃ちを行う。
初弾こそ回避する事が出来ず、被弾したものの、静矢は二発目の弾丸を見切ったように回避し、更なる攻撃に備える。
「……ある意味、眼前の敵よりもあの天使の方が脅威か」
静矢は半身の吹き飛んだサーバントを前に、一息。
銃兵型サーバントは半身を失いながらも、その銃口を静矢に向け、引き金を引いた。
そんな意地の反撃でさえ、静矢は易々と回避。一切の揺らぎを見せない。
「シンプルに聞くけど、ムラマサちゃん『何がしたい』の?」
竜胆は彼女に治療が施せない事を懸念しつつ、問い、そして瀕死の銃兵と騎士型サーバントの元へ、無数の彗星を降り注がせる。
騎士型サーバントはそれを防御するも、盾が崩壊。銃兵型サーバントもその身に彗星を浴び、動かぬ骸と化した。
「私は自分で選択した事には後悔しないよ、いつも行動原理は一つだしね。ここまで言えば分かるんじゃないかな」
現状を逃す手は無く、朔桜は玲治が一人で持ちこたえる事を読み、盾を失った騎士型サーバントに雷槍を放つ。
放たれし雷槍は騎士型サーバントの頭部に直撃、それを粉砕し、再起不能に追い込んだ。
「さて、こっちは二対一だ。何かしてくんのか?」
残るサーバントは騎士型が一体と銃兵型が一体。
玲治はその二体の視線を一身に受けながら、構え、敵の行動を待つ。
すると、先手を取って踏み出したのは、騎士型サーバント。サーバントは玲治に真正面から接近、大剣を振り上げるも、彼はその場から動こうとはしない。
玲治はそのまま振り下ろされた大剣を防御、至近距離での反撃へ転じ、重みを乗せた一撃でサーバントを押し返す。
サーバントは彼の攻撃を防御したものの、盾に小さなヒビが入り、もはや長くは持たない事を匂わせる。
「……私が指揮を執れぬ隙に半壊とはな。しかし己の信念、やりたい事。考えるべき事は多いらしい」
だが、そのタイミングでカストルが復帰。サーバント二体が撃破された事を把握し、目前の敵に視線を向ける。
「貫くべき行動原理を持つ事は、それもまた一つの生き方と言えるだろう。それ故に、それらしい……そんな一言で全てが片付く」
そんなカストルを前に、引き続きの行動妨害を狙うべく、様子見を行う雫。
「だが、この期に及んでも捨てる事の出来ない生き方という物もあるのだよ」
雫が様子見に転じている事を受け、カストルは即座に疾風の弾丸を発砲。雫はそれを的確に防御し、前進する。
そうした反撃による行動の阻害を狙うも、カストルは自ら雫の前に踏み出し、手中に氷の刃を顕現させた。
「自分が何をしたいのか、自分がどのような信念を抱いているのか。もはやそんな事は関係無い、それこそが私の生きる意味なのだとこの身に刻み込まれているのだから――」
顕現した氷刃を確認すると、雫は大剣に力を集中させ、月の如く、蒼い輝きを放つそれを振り抜いた。
燃焼されたアウルは粉雪の如く舞い散り、それと同様に、刃と接触した事で完全に砕け散った氷刃もまた、キラキラと輝きを放ちながらその姿を失っていく。
「私が何をしたいか、ではない。今、私がこの場所で戦っている事にこそ意味がある」
もはや彼等が目を付ける理由など無いこの地にて、何故に戦いが起こったのか。
その真意は彼だけが知る事だが、彼の言葉に限っては、嘘の混じらぬ真実なのだろう。
「……此処では答えられない、と。未だ答えは得られぬまま、ですか」
風架はカストルの返答を受け、呟きながらも、残るサーバントの裏を取り、徐々に追い込んでいく。
風架の接近を受け、銃兵型サーバントは即座に銃剣を構えた後、二連続で彼に向けて発砲する。
二発の弾丸は彼の動きを正確に捉えており、風架はそれを防御するも、少なくないダメージが生じた。
「以前戦った貴様の使徒に問われた。何の為に戦うのかと、戦う者としてどう生きるのかと」
しかし、静矢が素早くサーバントに接近。一ヶ所に追い詰めるように立ち回った後、刀を平らに構え。
「私は護りたい人々と世界の為に戦う。それが正しいかどうかなど関係無い、己がそうしたいからそうする。もし間違っていると感じた時はその時に自身を正せば良い、それだけだ」
刀が紫の輝きを放つのと同時、残るサーバント二体を一刀の下に斬り伏せる。
「正しいかどうかは重要ではない。己の生き方を信じられるかどうかが、重要なのだよ」
静矢の言葉を聞き、もはやサーバントも限界寸前になっているのを見て、カストルは深く息を吐く。
「そう、今じゃないよ。命じられてではなく、君自身がこの先何をしたいのか。何を望むのか、僕はそれが知りたいな」
サーバントを纏めて掃討すべく、様々な色を持つ炎を撒き散らし、爆発を引き起こす竜胆。
「だって聞いとけば、気が向けば付き合ってあげられるかもしれないでしょ? 男との約束は絶対ではなく、気が向けば……だけど」
それによって残るサーバントが倒れた事を確認すると、カストルは彼等に背を向け、白き翼を顕現させた。
「……自らの望んだ終わりを見届ける事。それだけだ」
彼は短くそれだけ言い残し、この場を飛び立つ。
「そろそろ、この腐れ縁にも始末をつけにゃならんな……」
玲治は溜め息を吐き、得物を担ぎ直しているが、事の真相と終焉は、目前にまで迫っているのかもしれない。