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マスター:新瀬 影治
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/09/29


みんなの思い出



オープニング


 ――前回の戦闘に於いて、僕は結果としては完全な敗北を喫する事となった。
 この計画に於いては、この失敗こそが成功と言える事は確かだが、しかし一人の『剣士』としてこの事実を見つめ直した場合、そうは言っていられない。
 シエルが『二の刃』を解放し、その全力を以てして、敵六名を長時間抑えていた事は既に把握している。
 その『勝利』を『失敗』に変える為の一手が、僕自身が生み出したこの結末という訳だが――計画が順調に進行していく裏で、若干の歯痒さがある事は否めない。
「――はい。私が敵数名を引きつけていたところで、此方側の仕掛けである防壁型サーバントが破壊されてしまったのでは、結果として全体の失敗を意味するという事は理解しています」
「そういう事だ、新たな一手を考える必要性が出てきてしまった。これは大幅なロスに違いない」
「申し訳ありません。全ての責任は、別働隊の動きに気付く事が出来なかった私にあります」
 ……彼女の持つ責任感は、やはり高く評価するに相応しい物のようだ。
 彼女は駒として、一人の天使として完成し過ぎたあまり、もはや全体的な動きが機械的になっていると言っても過言ではない。
 しかしその機械的な動きこそが、僕や他の天使たち――純粋な戦力を求めている者達にとって、純戦力としての理想形と言える。

「ですが、どうかもう一度だけ、私にチャンスを与えて戴きたいのです。必ずやこの手で、剣聖の刃で敵を下し、改めて占領を行う為の手筈を整えて参ります」
「……そうか。その勝利は約束されている、と言っても良いんだね?」
 問い返すと、彼女は至って真剣な表情で頷いた。
 しかし、そうか……剣聖の刃、か。彼女も随分と『それ』に慣れてきたのだろう。
 彼女の剣技に関して言えば、到底『剣聖』と呼べるような物ではないという事ぐらい、僕もとうの昔に理解している。
 だが彼女は、与えられたその名にそぐわぬように、剣聖という存在を彼女なりに演じているのだろう。
 本来、彼女自身に与えられた名は『戦乙女』であり、剣聖という名は彼女を指す二つ名ではない。
 しかしそれでも、今の彼女は戦乙女としての使命を全うするのと同時に、剣聖までも演じ切ろうとしている。

 その健気さ、その責任感、駒としても天使としても優秀過ぎる彼女という存在。純戦力としての理想形。
 そんな彼女が演じようとしている剣聖とは、元々誰を指していた二つ名だったのか。
 ――それは言うまでもなく、過去の僕自身を指していた二つ名だった。
 いや。正確には、僕であって僕ではない存在、と言うべきだろうか。
 今の僕は僕であり、僕ではない。今の僕は村正、正宗と対になる『己という存在を追う刃』であり、剣聖と呼べるような存在ではないのだ。
「なら僕も僕で、改めてあの場所を占領する為の準備を進める事にしよう」
 とは言ったが、その身一つで彼等を確実に倒すと豪語する彼女では、彼等を下す事はほぼ不可能。
 彼女は彼等の力を侮り過ぎなのだ。剣聖という名に執心し過ぎて、それを演じる事に必死になり過ぎて、もはや自分という存在の価値や強さを見失っている。
「……だが、シエル。君がもし彼等に敗北したのなら、もう次は無い。それは分かっているんだね?」
「分かっています、それを理解した上での一戦です。もし私が彼等に屈したのなら、その時は……」
 自らの手で自らの命を絶つ、とでも言いたげな顔をしている彼女だったが、それ以上は何も言わないまま、拳を握り締めた。

「いや、いい。もし君が僕の信頼を裏切ったのなら、それはそれで此方側が君を好き勝手に使うだけだ。今までとは違い、君の意思を一切尊重しない形で、ね」
「ですが、それでは……」
「優秀な部下を自ら切り捨てる程、僕は落ちぶれてはいないよ。君を此処まで育て上げた彼の苦労、忘れられる筈も無いからね」
 僕の言葉を聞いたシエルは、解せないといったような様子で此方を見つめ、再び口を開いた。
「……兄は、何故二つ名だけでなく、その名までもを捨てたのですか? 剣聖と称される程の剣技を持ち、仲間からの信頼も得ていた筈なのに……何故?」
 彼女の瞳は、確実に『兄』を見つめていた。
 一切の理由を告げず、全てを捨て去って、また別の存在としての道を歩み始めた兄の生き方を、彼女はずっと疑っていたのだろう。
 元々、彼女は物事に理由を求めたがる妙な性格をしていたが、彼女は兄という存在を『封じられた』事で、理由を追い求める事に更なる執着心を燃やすようになった。
「それはきっと、自らに与えられた使命の中で、自らが追い求めた物を掴み取る為だ。使命を果たすだけでは自分の望む物は得られない、それ故に彼は道を自ら外れたんだろう」
 だが、彼女はそれを知らない。その生き方を知らない。
「……なら、その望む物って言うのは何?」
 ――ぽつり、と呟かれた彼女の声には、様々な感情が込められているようで。

「貴方が追い求めてるのは何!? 私にも説明してよ、何でいつまで経っても教えてくれないの!? 全部捨てて、自分という存在を偽って、そこまでして掴み取りたい物って言うのは、何!?」
 唐突に、抑え込んでいた物をぶちまけるように感情を露わにした彼女は、怒鳴るように問い詰めてくる。
「あんなに弱かった私をここまで育て上げてくれたのは、戦乙女って呼ばれるようになった私を今でも部下として信頼してくれてるのは、全部全部貴方じゃない!! 貴方は貴方であって、村正でも何でもないの! それは偽物の名前で本当の名前は別にある、分かるでしょう!? なんで名前を捨ててまで、翼を捨ててまで人と同じ生き方をしようとするの!?」
 彼女の瞳は潤み、声までもが震えている。
 彼女の言っている事は全て真実だ、そこには何一つとして嘘は含まれていない。
 ――そう。彼女が認識し、言葉として発している事に限っては。
「貴方はカストル、カストル・アークライト! 良い加減に変な遊びは止めて、昔みたいに戦ってよ! そうすれば全部すぐに終わるじゃない、何でこんな事をする必要性があるの!?」
 ああ。確かにそうだ、僕が――いや、私が本気を出せば、全てはすぐに収束へ向かい始めるだろう。

「答えてよ……答えてよ、兄さん!!」
 ――だが。私はもう、懲り懲りなのだ。ポルックスの使徒、零がそうであったように、私は私として生きる為にあの道から外れた。
 剣聖、そう呼ばれれば響きは良いかもしれない。だが目的を達成する為に淡々と戦い続ける生き方というものは、とても窮屈で、何よりも無価値なのだと、私は気付いてしまったのだ。
 己という存在を問い、己の生き方を探る。私が名を与え、力を与えた正宗が示した『生き方』は、間違いなく私の理想とする『それ』だった。
 だから。私は少なくとも、己が何たるかという『答え』を得るまでは、彼女の兄――カストルとして生きる事を否定し続ける。
 そして私が彼女の兄として、カストルとして、再び彼女の目の前に姿を現す時は――。
「シエル、君は一度頭を冷やしてきた方が良い。僕はムラマサだ、君の兄でも何でも無い、ただの上司だ」
「……っ」
「さぁ、行くんだ。この戦いの果てに全ての真実を知る事が出来ると信じて、戦い続けなさい」
 ――その時には、全てが崩壊しているだろう。私に与えられた使命を果たし得る力と引き換えに。


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リプレイ本文


 沿岸地域、市街地。道路上。
「――待ち侘びたぞ、撃退士」
 そこに堂々と姿を曝していたのは、ムラマサ。だが彼の纏う雰囲気は、今までとは何処か違う。
 さながら、研ぎ澄まされた刃のような。その鋭い視線は撃退士たちの姿を捉え、一寸のブレも見せない。
「んー、今までとちょっと雰囲気違うかな。小馬鹿にした感が消えてるじゃない、心境の変化でもあった?」
 微笑し、小馬鹿にしたような雰囲気を醸し出しつつも、今までとの差異を感じ取る砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)。
「その力を見くびっていた事に気付き、一度ばかりは真剣に手合わせをすべきかと思ってな。君の言う事は間違ってはいない」
 一変したその口調、眼差し。これが彼の持つ、本来の物である事は間違いない。
 だがそれらは、既にこの世には居ない『ある人物』と重なっている。
「何時か戦った剣士と、何処か似ている気が……」
 一正宗。はっきりとは言わずとも、ぼんやりと雫(ja1894)の脳裏に浮かび上がった剣士の物と重なっているのだ。
 しかし、雫がその事に確証を得る事は無い。何故なら彼女の前に立っているのは、また別の人物であるからだ。

「……この戦い、私も様々な技を以て応じるつもりだ。それに応える事が敵ったのなら、その力を認め、私が持ち得る手を曝そう」
 ムラマサの言葉に込められた意味は、重みは、彼という人物にしか作り出せぬ物。
 故にどれだけ近かろうと、どれだけ重なっているように感じようと。決してそれらが重なる事は無い。
「うんうん、やる気になっている様で何よりだよ!」
「ああ、せいぜい期待を裏切ってくれるなよ。撃退士」
 余裕の笑みを称えたままに言葉を返した神喰 朔桜(ja2099)に応えるように、ムラマサは刀を構える。
「……では、問わせてもらおうか。己に与えられし使命を果たす為なら、対価を払う事も惜しまぬのか否かを」
 構えられた刃が平らになるのと同時、邪神の如き力を身に宿した雫が先行、大剣を振り下ろす。
「その対価が私自身であるならば、支払うでしょうね。けど、対価が他人であるのなら、絶対に支払いはしない」
 ムラマサはその刃を一瞬だけ刀で受け、滑らせるように受け流したが、雫の大剣が接触した箇所の風が剥がれ、刀身が剥き出しになっていた。

 雫の言葉を聞き、その刃の重みを感じる事で、彼は彼女の力の強さを悟ったのだろう。
 ムラマサはそこから流れるように腰を落とし、再び風を纏った刀を突き出した。
「己が身は守らずとも、他人だけは守り通す……そう言いたいのか」
 雫は突き出された刀を受け止めた――のだが、その瞬間に刀が纏っていた風が解き放たれ、彼女の肉体を切り刻んでいく。
 そこから更にもう一段、ムラマサは刀を振り抜くも、雫はそれを的確に受け止め、動じない。
「確か、正宗との戦い以来ですかね……使うのは」
 そこへ白炎、黒風を纏った十三月 風架(jb4108)がワイヤーを放ち、雫の離脱に合わせる形で攻撃を狙う。
「彼は恐らく、君がここまで来る事を見通していたのだろうな。その力、決して偽物ではあるまい」
 ムラマサは刀で一閃、ワイヤーを弾き返すが、やはり刃を包む風が剥がれ、その狙いの正確さを窺わせる。

「…………」
 するとムラマサは、再び風に包まれていく刀に視線を向けながら、思案顔で足を止める。
 これらの力を前に、未だ全力とは言えぬこの力で応じ続けるべきか。或いは、己の持つ本来の力で応じるべきか。
 それらの思案を巡らせた後、彼の出した答えは。
「――代償を恐れたりしない、その使命を心から信じているなら」
「……見慣れぬ顔も幾つかある、まだ早い」
 遠石 一千風(jb3845)が力を乗せての一撃を叩き込もうとしたその時、ムラマサは刀を勢いよく突き出し、暴風を解き放った。
 一千風は咄嗟に防御を図るも吹き飛ばされ、風にその肉体を切り刻まれるも、上手く体勢を立て直す。
「だからさー、僕の目の前じゃ倒れさせないってば」
 竜胆が一千風にアウルの光を送り込み、その傷を完全に消し去ると、ムラマサは足を止めたままに撃退士六人の姿を見回す。

「まぁ、それが自分の望みと適ってるなら是非もないんじゃないかな?」
 だが彼の視線が朔桜の元へ辿り着く直前に、彼女の展開した黒の雷槍が五本、彼の元へと射出された。
「使命って、責任をもって果たさなければならない務めって事でだよね?」
 しかしムラマサは一歩も動じずにそれらを受け止め、平然と頷く。
「それは誰から与えられた物? それとも自分で見出した物? 他人に与えられた使命って言うなら、そんな物は捨てたらって思うけどね」
「……もっともらしい考え方だな」
 ムラマサは今までの彼女の言動を踏まえた上で、彼女らしい考え方であると踏んだのだろう。
 それを一つの考え方として肯定した上で、目前に迫るまた別の敵へと視線を移した。

「君はどうなんだ?」
「やるべき事があって、それが俺にしか出ないのであれば、俺が負担を負うのも是非も無い。コストとリターンさえつり合えばの話だがな」
 向坂 玲治(ja6214)の真正面からの攻撃に対し、ムラマサはそれを迎え撃つで、正面から刀を突き出す。
 玲治の一撃とムラマサの風突が衝突、周囲に衝撃が巻き起こるが、僅かながら玲治が押していて。
「言われている通り、誰に与えられたかによっても変わってきますけどね。自分が自身に与えたのなら支払うと思いますが、運命やら神様なんかに与えられたのなら、対価なんて踏み倒して、言い放ちますよ」
 そのまま彼を押し切るべく、雫が側面から強烈な一撃を狙う。
「あくまでも己が道を往く、と。そういう事か」
 雫がその後に繋げるであろう言葉を、ムラマサが見透かしたように続ける。
 そして彼は素早く玲治を押し返し、形勢を立て直すべく、刀を突き出さんとする。
 玲治はそれに即時反応、盾による殴りつけでムラマサの行動を食い止めようとするが、その寸前で風が解き放たれる。
 雫は解き放たれた風に吹っ飛ばされ、玲治もまた風に切り刻まれるも、彼はアウルの力を下半身に集約、踏み止まった。

「……ならばその意志、この私に示してみろ!」
 玲治が踏み止まった事を逆に好機と見たのか、ムラマサは吹っ飛んでいく雫の元へ一瞬で詰め寄り、高速の斬撃を見舞う。
 雫は大剣で刀を受け止め、自身へのダメージを最小限に抑えるも、その斬撃の勢いを抑え込むには至らず。
 打ち上げられた雫の元へムラマサが瞬間的に詰め寄り、淡い青色の風を纏う刃を振り抜いた。
 その一閃を雫は受け流そうとするが、威力を増した斬撃をいなす事は容易ではなく、刃が彼女の肉体を容赦無く襲う。
「――そう、私は自分で考えて歩んで行く。横から使命なんて荷物を背負わせるな、と」
 だが彼女は受けの体勢から一転、蒼く冷たい、月の如き輝きを宿す大剣を構えた。
 この状況、彼女はむしろ機会であると捉えたのだろう。
 空中で二人、相対するその状況。相手は刀を振り抜いた後、次の斬撃を繰り出さんとしている段階。
 それは言い換えれば、敵前で足を止めた上で、隙を曝け出しているに等しい状態なのだ。
「散り逝きなさい!」
 雫は刀を打ち砕かん、と斬撃に斬撃を叩きつける形で剣を振り、ムラマサを地上に叩き落とす。

「……これ程までの力を持っているとは。全く、私の目も衰えたものだな」
 叩き落とされたかと思われたムラマサは、既に体勢を立て直していたものの、刀全体にはヒビが入り、それを覆う風もまた消滅していた。
「ムラマサ、自分からも問わせてください」
 体勢を立て直したとは言え、衝撃から動きが止まっているムラマサの元へ、風架が迫る。
「――ポルックスは貴方の何なのですか?」
 その名を聞き、ムラマサはあからさまに硬直した。
 だが何も答えぬ彼を前に、風架は血液で手甲を生成、死神の風を纏うそれでムラマサを突き飛ばす。
「……捉えたなら、全力を叩きつける」
 そこへ更に繋げにいく形で、一千風が闘争心を乗せ、目にも留まらぬ一閃を叩き込む。
 しかし、直撃した筈のその一撃は有効打にはなっておらず、むしろ力を込め直すように着地するムラマサ。

「私が黙っていては、何も始まらない……か」
 彼は顔を伏せたままに呟き、息を吐く。
「……答えが出ると良いな」
 迷いのような物を感じ取ったのか、一千風が言葉を続けると、ムラマサは顔を上げて。
「答えなら既に出ている。彼女が、彼女たちがそれらを見出した事と同じように」
 そして、ヒビの入った刀を構え直した。
「再三言われてるけど、自分がやらなきゃいけないと思う事は、与えられるんじゃなく自分で決めるものだと思うしね。自分で決めた事なら、どんな対価も支払うよ」
 引き続き言葉を交えながらも、竜胆が雫の傷を癒し、戦う姿勢を崩さないムラマサへ対抗の意を示す。
「僕の命だって、他者の犠牲だって厭わない。それだけの価値があるから決めるんだしね」
 柔らかい物言いをしながらも、しかし、断固たる考えを持っている竜胆の言葉。
「……頃合いか」
 それを皮切りとするように、ムラマサが刀を平らに構えた。

「私って結構自由だし、己の心が命ずる儘に……ってのが、一番性に合ってる。他人に与えられた使命なんて、関係無いよ」
 だがそれを気にもかけず、余裕の表情で雷槍を展開した朔桜は、言葉と共に、それらをムラマサに投ずる。
 彼女の使命と言うなれば、もはや『それ』以外には有り得ないのだ。
 彼女が総てを愛するが故に。全てを己が愛、即ち焔で包みたいと望むが故に。
「私はその使命を、自分が成すべき物であると自らの考えで認めた。例え最初は他の者から下された物であれど、今この時に於いては、自らが望んだ使命と差異は無い」
 ムラマサは刀で雷槍を切り払い、それら全てを消滅させて。
「なら良いんじゃねえか? それで自分が良いって言うならな」
「……ああ」
 雷槍の射出に合わせて突撃してきた玲治の攻撃を刀で受け、その威力を利用する形で後退した。

「我らが根本は破壊であり、破壊は万物を無へ還す。光天の名の下に降臨するは、破壊を司る一の刃」
 ムラマサが詠唱を始めるや否や、刀は風となって消えて行き、彼の手中に薄らと『大剣』の影が浮かび上がる。
「覚醒せよ。万物を断ち、神速を宿す風の刃を以て、この者たちに裁きを与えん――!」
 そして顕現したのは、純白で美麗、見る者全ての視線を釘付けにする程の輝きを宿す剣身。
 されどその刃は輝きを放たず、見る者全てに、全てを呑み込むような錯覚を与える。言うなればそれは、虚無の刃。
「ポルックスは私の弟子だったが、今はそうではない。彼女はもはや私のような存在には縛られない、自分という存在を確立させた」
 ムラマサはその大剣を片手で構えながら、風架へ答えを返す。
「彼女は私という存在から、過去から解放されたのだ。今の私に彼女をどうと言う権利は無い、彼女がそれを望まない限りはな」
 今の彼は並々ならぬ気迫を放っているが、しかし、撃退士たちは一切動じず。

「嫌な予感がします……此方も奥の手を切って、相手の情報を引き出します」
 雫はムラマサの本当の力を確かめに行くように、過量のアウルを利用して痛覚をシャットアウト、接近しての連続攻撃を仕掛ける。
 身体のリミットを外しての連撃、その内の初段から続く二発をムラマサは大剣で受け止めるが、尋常ならざるその威力により、衝撃が彼の肉体に直接的なダメージを叩き込む。
「此方とて、もはや手を惜しむつもりは無い……!」
 だが連撃の三発目、最後の一発をムラマサは受け流し、反動で動けなくなってしまった雫に向け、反撃を直撃させる。
 しかし反撃の威力は弱く、まともな一手には成り得ないと思われた――が、ムラマサが狙っていたのは『その次の一手』だった。
 反撃が命中したと思われたその次の瞬間には、既に次の一閃を命中させていたのだ。
 直撃した神速の一手は雫を吹っ飛ばすも、彼女は倒れず、ムラマサはそのまま雫の懐へ踏み込む。
「望みの一手だ、見逃すな」
 雫の懐に踏み込んだ彼は、やはり尋常ではない速度で大剣を振り抜く。
 そしてその斬撃と同時に放たれたのは、風の刃。斬撃と風の刃は、交差するような形で雫の肉体を切り裂かんとする。

「残念だが、そう何度も繋げさせるつもりはねえぞ」
 その瞬間に庇護の翼を展開、雫を守ったのは玲治。
「この刃すら通さぬ守りの硬さ……か」
 これはムラマサとしても、力を乗せた一撃だったのだろう。
 それを平然と受け止めた玲治を警戒してか、彼は足を止め、迎撃の姿勢を見せる。
「ですがムラマサ、貴方にも言いたい事はあるのではないですか?」
「己が生き方を貫け、己が信じた終わりへと辿り着け。私はずっと彼女を見ていた。言う事があるとすれば、それぐらいなものだ」
「聞き届けました、では――!」
 ムラマサから確かな言葉を得た風架は、血液と神殺の力を以て生成した『偽りの神器』を全力で振り下ろす。
 だがムラマサはそれを的確に受け止め、即座に反撃。風架はそれを回避する事は不可能と見て、受け止める。
 しかし反撃から繋げられた神速の一閃は、彼の防御を打ち砕き、吹っ飛ばした。

「……だが、本来の力を以てもこの程度とは」
 押される事は無くとも、押し切る事も出来ない。そんな状況を前に、ムラマサは思案顔になる。
 今なら攻撃が確実に命中すると踏み、一千風は警戒を緩めぬままに、力を込めての薙ぎ払いを狙う。
「少なくとも五人、確実に捉える……!」
 だがムラマサが呟くのと同時、広範囲に強い旋風が解き放たれ、朔桜を除く五人がその餌食となる。
 玲治は庇護の翼によって風架をカバー、その場に踏み止まるが、彼等を除く三人は旋風に切り刻まれ、吹っ飛ばされた。
「屈しませんよ、一太刀浴びせるまでは!」
 玲治に守られた事で再接近に成功した風架は、再び偽りの神器を以てムラマサに斬りかかる。
 しかしムラマサはそれを受け止め、反動によって行動不能となった風架に反撃。彼を弾き飛ばした。

「随分とぐいぐい来るね、ムラマサちゃん。でも女の子にしつこ過ぎると、嫌われるよー?」
「まだこれでも本調子ではないのだが、な」
 体勢を立て直し、雫の傷を癒している竜胆を見たムラマサは、息を吐く。
「……この一時を以て、その力を認めるものとしよう。私の真名はカストル・アークライト。覚えておけ」
 このまま押し切る事は敵わないと判断したのだろう。
 本当の名を告げた彼は、撃退士たちに背を向ける。
「いずれまた相見える事となろう。戦場で……な」
 そして彼は意味有り気な言葉を残したままに、この場から撤退していくのだった。
 竜胆はそのまま雫に回復を重ね、死活による彼女への負担を和らげた後、改めて戦闘の終了を実感するのだった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 歴戦の戦姫・不破 雫(ja1894)
 崩れずの光翼・向坂 玲治(ja6214)
重体: −
面白かった!:5人

歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
愛すべからざる光・
神喰 朔桜(ja2099)

卒業 女 ダアト
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
絶望を踏み越えしもの・
遠石 一千風(jb3845)

大学部2年2組 女 阿修羅
黒き風の剣士・
十三月 風架(jb4108)

大学部4年41組 男 阿修羅
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード