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某市街地、道路上。
シエル・アークライトの救援要請を受け、そこに集まった六人の撃退士たちは、前方より迫ってくるサーバント七体の姿を捕捉する。
「分隊……。場所が場所だし、やりづらい……」
この道路の両サイドには住宅地が広がっており、被害は最小限に留めなければならない都合上、Spica=Virgia=Azlight(
ja8786)が呟く。
だが場所が場所である為か、サーバントたちも隊列を組んで進行しており、動きにくいという状況に於いては、双方共に同様であるようだ。
「一人頑張ってるレイの為にも、さっさと片づける、か」
しかし、アスハ・A・R(
ja8432)は警戒に出ている使徒の零の事を考え、一歩前に出る。
サーバントは先頭の一体に続く形で、三体一本の縦列が二つ並んでいる。
「そうね。そういう事だから、先に行くわよ」
早期殲滅を狙い、エルネスタ・ミルドレッド(
jb6035)は蜃気楼にて姿を隠し、分隊の裏を取る為に先行する。
「殲滅ってのもそうだけど、此処を通すと色々ヤバそうだからな。止める意味でも、何とかしねえと」
「……ああ。それ以上の意味は無いが、な」
エルネスタの行動開始に合わせ、獅堂 武(
jb0906)とフローライト・アルハザード(
jc1519)もまた前に出ると、隊列先頭のサーバントが彼等に気付き、武器を構える。
「援護や特定タイミングでの攻撃は、事前の相談通りにこなします。ですが、やはり皆さんのお力があってこその事ですので、今回も……よろしくお願い致します」
先頭サーバントが武器を構えるのに合わせ、続く六体も戦闘態勢に移行していく中、シエルは大剣を顕現させつつ、自らの信頼を言葉として述べる。
「ええ。ですが、もはやそのような言葉も必要ありません。そうする事こそが、今成すべき事ですから」
そんなマキナ・ベルヴェルク(
ja0067)の言葉に、シエルはそっと微笑んで。
「行きましょう。ここを超えれば、何かを掴める筈……!」
更なる一歩を掴み取るべく、サーバントの迎撃に出た。
「では文字通り、突入と行こう、か」
その一手目。アスハは突撃してくるサーバントの隊列を前に、エルネスタがその後ろを取る頃合いに、自らもまた瞬時に隊列の後ろへと駆け抜ける。
それは文字通り瞬時の事であり、サーバントたちはもはやその動きに反応出来ず、対応が間に合わない。
「まず前提として、反応したところで反撃が出来るとは思わない事ね」
そして二手目。列の最後尾二体が振り向こうとしたタイミングを見計らい、その片方に向け、エルネスタが蠍の腕を伸ばす。
蜃気楼によって姿を隠している彼女の攻撃は、まさしく異次元からの攻撃の如く、サーバントの肉体を捕らえ、挟み込む。
だがサーバントは即座にそれを振りほどき、エルネスタがそこに居る事を認識。ダメージを負いながらも、もう片方のサーバントと共に、二人の方へ向き直った。
一方、最後尾二体がアスハとエルネスタの対応に出ている間、残る五体は突破を試みる為か、剣と盾を構えて突撃を開始する。
「……正面からの突破を狙うか。浅はかな事だな」
それを真っ先に迎え撃つのは、フローライト。
彼女は隊列先頭のサーバントが隣接するのと同時、光の波を放出し、それを押し返す。
しかし正面からの迎撃であったが故に、サーバントは押し返されながらも盾で攻撃を受けており、ダメージは軽微。分隊を率いて、再びの突撃へ出る。
「レイのようにはいかんが、それなりには出来るつもりで、な」
その間、隊列後方では、アスハが自身をマークしているサーバント一体に対し、氷の一閃を放つ。
それはエルネスタが攻撃を行った方とは別の、未だダメージを受けていない個体だったが、氷上を滑るように繰り出される高速の斬撃は、盾をも穿ち。
盾を失い、刃をその身に受けたサーバントは、胴体を斬られ、凍結するように動きを封じ込められる。
「……僕ごとやれ、シエル!」
そしてアスハは、それを好機と見て、前方に居るシエルへの呼びかけを行い。
「好機……。逃す訳にはいきませんね」
呼びかけを受けた彼女は大剣に光の力を宿し、一閃。自らの敵を貫く、光の剣波を放つ。
隊列先頭のサーバントはそれを回避するが、剣波は右列を最後尾まで貫通。
アスハの前で剣波は消え去り、凍結していたサーバントを砕いた上、防御されながらも二体のサーバントに中程度の傷を負わせた。
「ならばその好機、更に繋げるとしましょうか」
その好機を更に繋げんとするのは、マキナ。
彼女は、シエルの剣波を回避した事で体勢の安定していないサーバントの元に詰め寄り、終焉を内包せし一撃を放つ。
その一撃、やはりサーバント程度では受け切れる筈も無く。咄嗟の防御すらも無意味とするその一撃によって、今まで先頭に立っていたサーバントは打ち砕かれた。
現時点に於いて、残るサーバントは五体。内三体がある程度のダメージを受けており、守りに転じてしまえばただ砕かれるのみといった状況。
故に、もはや前進する他に選択肢は無いと踏んでいるのだろう。残るサーバント五体は再び隊列として集結し、ただ一点、正面を突破する事だけを目指して突撃する。
そして先頭のサーバント二体がマキナに斬りかかろうとするが、片方の斬撃をフローライトが肩代わりし、マキナが防御するのはただ一体の斬撃のみ。
結果、それらの攻撃は彼女たちにとっては戯れの一撃程度にしかならず、両者共に掠り傷を負った程度で、殆どダメージを受けていないに等しいこの状況。
それは即ち、反撃に出るという意味では絶好のタイミングであった。
「無視、させない……」
Spicaは突撃してくるサーバントに突っ込む形で、自ら前進し、その周囲を凍り付かせる。
突撃に合わせる形での一手に対応する事が出来なかった前列二体のサーバントは、その場で即座に行動不能となり、もはや再起不能レベルの傷を負う。
続く三体には命中こそしなかったものの、足が止まった為、状況は一気に有利になったと言えるだろう。
「随分と強気みてえだけど、それが仇になったな……!」
ここで畳みかけるべく、武は行動不能になっているサーバントよりも更に奥へ飛び込み、刀印を切って自身の周囲に呪縛陣を展開する。
その結界は身体の自由を奪い去る程に強力なものだが、未だ動く事の出来るサーバント三体は散開し、それを回避した。
だがそれでも、武の呪縛陣は既に行動不能となっていたサーバント二体にトドメを刺し、残るサーバントを散開させた事で、もはや前進は不可能な状態へと追い込んでいく。
「……都合よく散開してくれた事だし、片付けていきましょうか」
そんな状況の中、エルネスタは孤立した一体のサーバントに狙いを定め、蠍の針として形成したアウルを用いての一手を見舞う。
サーバントは被弾寸前に防御に転じるも、針が盾を貫通し、行動の自由を奪い取られる。
「ならばこの一手、畳みかける為に……!」
エルネスタの一手を確認し、残る二体もまた迅速に処理する事が可能であると判断したシエルは、大剣を両手で構え。
「我が理想、決して叶わぬが故の光となれ。儚き刃として具現せよ、そして撃ち貫け……!」
その言葉を呟くと同時に、それは振り抜かれた。
放たれた無色透明の衝撃波は、虚空を穿ち、サーバント三体を撃ち貫く。
ガラスが砕けるように、歪曲していく空間に呑まれたサーバントたちは、その肉体をより脆い物へと組み替えられ。
「もはや崩れ落ちるだけのその肉体、早急に砕かせてもらおうか……」
既に麻痺によって動きを封じられていた個体を、フローライトが黒鎖で打ち砕く。
「……此方とて、前進するつもりですので、ね」
そこに繋げる形で、再びマキナが終焉の一手により二体目のサーバントを葬り去り。
「という事だ。此処を突破したかったみたいだが、逆に通してもらうぜ……!」
武が最後のサーバントの盾を鉄数珠で弾き飛ばした後、二刀で瞬く間に本体を両断する。
かくして、サーバント七体の殲滅を確認した七人だったが、サーバントの分隊が辿ってきた道の先に物々しい気配を感じ、誘われるように前進するのだった。
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サーバントの分隊を退け、その先へと進行する七人。
「……来たか。随分と早かったな」
そこで待ち構えていたのは、大勢のサーバントと、全ての元凶――カストル・アークライトだった。
そこには行動不能――恐らくは昏睡状態に陥っている大勢の人間の姿があり、この状況から察するなれば、サーバントたちはこの人間を何処かへと『輸送』しようとしていたのだろう。
――そう。彼等にとって人間とは『物資』であり、数日前にカストルとの交戦が発生した市街地から人の姿が消えた原因は、人間が物資として収集されていた為だったのだ。
「初めまして、だ。一度、礼をと思っていた。そちらのおかげで、こちらは良い出会いが出来た、とね」
何故か、カストルと向き合う形で立っていた零の隣に歩み出て、アスハはカストルに言う。
「貴方が私に話した事が本物の真意であるのなら、今此処で、彼等にも同じ事を話すべきなのではないかしら?」
しかし、そんなアスハの言葉に繋げる形で、零は内容の見えない言葉を述べる。
「そのつもりは無い、私はそう言った筈だ。私の真意は、零。お前だけに知る権利があるのだと」
この会話の裏側は。ここに至るまでに積み重ねられてきた『意味』や『理由』は、今ここで語られるべきではないのだと。
現時点に於いてその裏側を垣間見る権利を持っているのは、数々の『最期』を見届けてきた零だけなのだと、彼は言った。
「それはつまり、どういう事だ? まだ何かをしでかそうってのか?」
「この話はそういう話ではないよ。ただ私の、勝手なエゴの話さ」
武の問いに、カストルは即答する。
「零……彼女は、物事の終わりを見届ける者としてそこに在る。故に彼女は何も答えない、何も答える事が出来ない。それは善悪の話ではなく、人としての在り方の話なのだから」
そう言って彼は静かに、八人に背を向けた。
「……それは勝手な話だが、ただで済むとは思うな。貴様の思惑も思想も興味は無い、だが誅は必ず下す」
人間を物資とし、それを運ぼうとしていた事を理解したフローライト。
彼女の内心では怒りの感情が燃え盛り、今にも飛び出しそうではあったが、ただひたすらにそれを押し込めながら、その一言を告げる。
「ならばそれを成してみろ。私は逃げない、それは彼女が一番理解している」
そんなフローライトに答えるように、カストルはシエルの方へと視線を遣った。
「……絶対、止めるから。答えを聞き出してみせるから。この手で、例え貴方を殺してでも」
シエルは裏切りの過去を思い返し、されども今この瞬間、その言葉にも意味がある事を理解しているが故に、その答えを返した。
実の兄であれど、それこそが双方共に追い求めている『終着点』であるのだと、理解していたから。
「そう。貴女は大丈夫だと思うけれど、家族を斬るのは……堪えるわよ」
事の裏側を察したエルネスタがシエルに対し、今一度の確認をする。
「最後の確認よ。貴女はそれでも、兄と戦う事を選ぶの?」
だがシエルは、一瞬たりとも迷いを見せなかった。
「フッ……。仲間の影響だろうが、随分と良い目をするようになったものだな」
するとカストルは、何処か満足気に微笑した後、翼を顕現させて。
「決して迷うな、自らの信ずる道を往け。私の言葉の意味を理解しているのなら、な」
そして彼は、サーバントと共にこの場を撤退していった。
「これが、シエルの……」
この男こそが過去にシエルを壊した張本人であるのだと、Spicaは改めて理解する。
「しかしそれが敵であるのなら、実の兄妹であれど、するべき事は決まっています。そうですよね?」
マキナの確認に、シエルはより一層の決意を固めて。
「でも、息抜き……大事。シエル、これから買い物とか……どう?」
――と。そんな真剣な場面であれど、根を詰めてはいけないという事で、Spicaがシエルに息抜きの誘いをかける。
「あ、え、えっと……? 今から……?」
最初こそそれに困惑したシエルではあったが、良い仲間を持ったという事で、自然に彼女は笑顔になっていく。
この先に待ち受けているであろう、決戦の時を思い浮かべながら――。