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マスター:新瀬 影治
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/10/02


みんなの思い出



オープニング


 ――やってしまった。なぜ私は、感情的になってしまったのだろう。
 沿岸地域、市街地。その沿岸にある道路を歩きながら、感傷に浸る。
 馬鹿馬鹿しくも私は、封じるべき『兄の姿』を自らの上司の姿と重ね、そして感情的に、一方的に詰め寄るなどという行為へと至った。
 これは大天使に仕える一天使として、あってはならない事。それは最初から分かっていた筈だった。
 ……でも、我慢出来なかった。満足な説明も無しに、それこそ一方的に『求道者』としての姿を押し通そうとする彼の姿に、私は強い憤りを覚えてしまった。
 その姿を良しとするにしても、この現実を良しとするにしても。全てに於いて、それらを納得する為の理由は必要な物だ。私にとっては尚更、それらの理由は必要不可欠な物だった。
 しかし。その事を誰よりも理解している筈の彼が、実の兄が、この場所に来てからかなりの時間が経った今になっても、それらの理由を隠し続ける理由は何なのか。
 ――それほどまでに私は、天使として信用ならない存在なのか。

 様々な感情が絡み合い、膨張して、最終的に怒りへと変化する。その結果として弾き出されたのが、感情的になるという選択肢だった。
 無論。そんな選択肢を弾き出した自分は、そしてそれを行動に起こしてしまった私は、大馬鹿者だ。
 でも、たった一つ釈明の言葉を述べるとするのなら。
「……少しぐらい、信用してくれても良いじゃない」
 兄妹なのだから、それぐらいの事はするべきなんだ。
 非力な妹である私をここまで育て上げてくれたのだから、それぐらいの事はしても良い筈なんだ。
 少なくとも私は、そう思う。そうでなければ、彼が私を育て上げた理由に説明がつかない。
「何が?」
「ッ!?」
 不意に背後から聞こえてきた声に驚き、身体が反射的に跳ね上がる。

 咄嗟に振り向くと、そこに立っていたのは、見覚えのある小さな姿。
「カイ君……? 何で此処に?」
「お姉ちゃんこそ、何で此処に居るの?」
 ……いやいや。本当に何で、私は彼とこうも鉢合わせてしまうのだろう。
 彼がこの辺りに住んでいる事は前、此処に来た時に聞いていたものの、それでもここまで会うものだろうか?
「私は……そう、また戦いに来たのよ」
 一瞬だけ答えに迷ったが、敢えて率直に伝える事で、彼の理解を得ようとした。
「ああ、やっぱりそうだったんだ。でもお姉ちゃん、今日は鎧を着てないんだね?」
 平然と答える彼の姿に、やはり調子を崩されながらも、黙って頷く。
 今回は出来る限り静かに、目立たないように行動したい気分だった。
 だから鎧を着ないままに街中を歩き、殆ど人の居ないこの場所で、感傷に浸っていたのだ。

「でもお姉ちゃん、何でそんな顔してるの? 誰かと喧嘩でもしたの?」
「えっと、それは……」
 さり気なく答えを含んでいるその一言が、胸に刺さる。
「……じゃなくて。カイ君こそ、なぜ此処に居るの? お母さんは?」
「お母さんに、一人で遊んで来いって言われたんだよ。だから一人で歩いてたら、お姉ちゃんが居たんだ」
 母に一人で遊んで来いと言われた……? 仮にも天使である私が何度か目撃されている中で、そんな事を言う親が居るものだろうか?
 それこそ、そんな事を考えている私もどうかとは思うが、しかし人という生き物は、それほどまでに自分の子供に無頓着だっただろうか?
「あ……うん、お姉ちゃんも変に思うよね。普通はお母さんとかと一緒に居ると思うよね」
「……包み隠さずに言うと、ね。どうかしたの?」
 そもそも『子供』としては立派過ぎる彼の反応を受け、自分の身体を屈め、彼と目線を合わせながら問いかける。

「実は僕、お父さんが居ないんだ。それだからお母さんも色々大変みたいで、僕の事は手に負えないって言ってて」
「…………」
 そんな言葉が小さな男の子から返ってくるとは、思ってもいなかった。
 返す言葉が浮かばず、いたたまれない気持ちになる。それこそ息が詰まるような、複雑な気分。
「だからさ、僕はこうやって一人で遊んでる事が殆どなんだ。やっぱり迷惑だったよね、こうやって見かける度に話しかけてちゃ」
 彼と比べて、私はどうだろう? 私はこれほどまでに、浮かばれない生活を送っていただろうか?
 そんな事は無い。彼と比べると、何倍も良い生活を送ってきた筈だ。
「でも嬉しかったんだ、お姉ちゃんがまた会いに来るって言ってくれて。それが楽しみで、ずっと待ってたんだ」
 ……だから彼は、今日もこうして私の事を『見つけた』のか。その純真な気持ちで、私を『待っていた』のか。
「ううん、全然迷惑じゃない。大丈夫。ありがとう、私の事を待っていてくれて」
 そう考えた途端、自然と彼に微笑みかけている自分がそこに居て。
 それと同時に、一つの『答え』を見出したかのような、そんな晴れやかな気持ちになった。

 ――私は彼よりもずっと、恵まれた生活を送ってきた。
 今の私が此処に立っているのは、家族や仲間という存在があっての事。しかし、私の目の前に立っている彼には『それ』が無い。
 小さい頃の私は、周りと比べるとかなり非力で、それこそ目も当てられない程だった。
 それでも私が、一人前の天使として任務を遂行出来るにまで至ったのは、実の兄と、彼の弟子を名乗る女性が居たからだ。
 ……カストルとポルックス、二人には色々と可愛がってもらったものだ。
 しかし。今、私の目の前に立っている彼はどうだろう? 恵まれた過去を持つ私と比べて、彼はどのような生活を送っているだろうか?
「……ごめんね、一人は寂しかったでしょう?」
「そんな事無いよ、お姉ちゃんなら来てくれると思ってたからさ。それに、戦うんだったら僕は居ない方が良いでしょ?」
 健気に、明るく振る舞っている彼だけども。それでも彼は、文字通り『孤独』の中に居るんだ。
 それはある意味で、今の私と同じ場所に立っているという事。彼が私を真っ直ぐ見つめ、私が彼を受け入れようとしている背景には、そんな『共通点』が存在していたんだ。
 私はずっと、無意識に『孤独』を感じていたのだろう。私という存在を真っ直ぐ見つめてくれる、孤独ではないと信じさせてくれる存在を、心の何処かでずっと欲していたのだろう。
 今まで信じ続けてきた兄と、そしてその弟子という女性が『遠い場所』へ行ってしまい、唐突な変化に戸惑った私は、本心に気付かないままに泥沼の中へと沈んでいっていたのだ。

 でも。私が今までその事に気付いていなかっただけで、そんな存在は確かに、私の目の前に立っていたんだ。
 幼い子供。天使ではない、普通の人間。
 それらを理由に自分が現実を拒んでいただけで、その事を気付かせてくれる存在は、確かにそこに居た。
「邪魔とは言わないけど、でも、危ないのは事実。だからカイ君、貴方は今はこの場所を離れなさい。今度はきっと、私から貴方のところへ行くから」
「本当!?」
「ええ。大丈夫、貴方を一人にはさせないから」
 その小さな背中を押し、彼がこの場所から離れて行くのを見届けてから、私は剣を抜き、戦へと視線を向ける事にした。


「でもやっぱり、あの人……お姉ちゃんと似てるよなぁ」
 そう呟くカイの声を聞く者は、誰も居ない。
「幻影の見る、真実と信じ続けてきた物は、ただの幻影に過ぎない……。その事に気付いた頃には、全てが終わっているものだよ」
 ただ一人、白髪の男を除いては。


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リプレイ本文


 再びの戦場となる沿岸地域、市街地。その外れ。
「またテメェか……!?」
 獅堂 武(jb0906)がその姿を認識するのと同時、シエルが彼等の方へ振り向く。
 彼女の手中には、大剣。相も変わらずの輝きを放つその刃だが、しかし、シエル本人の纏う空気は、若干違う。
「……決めに来ました。それだけ言っておきます」
 冷ややかに言い放った彼女は、早々に翼を展開、空へと舞い上がる。
「いつもと、様子が違う……。どこか、焦ってるような……」
 そんなシエルの異変に真っ先に気付いたのは、Spica=Virgia=Azlight(ja8786)。
 だが異変を悟られないようにする為か、シエルはただ冷ややかに、空虚な笑みを浮かべて。
「貴女とて、私との再戦を選んだ理由があるのでしょう? 何が為に戦うのか、命を懸けられる程の譲れない物があるのか……それらを私に示しなさい」
 そして、両手で大剣を構えた。

「……解らない問いですね。譲れないから、戦っているのでしょう?」
 マキナ・ベルヴェルク(ja0067)が答えるも、シエルは動じず。
 さながら彼女は、言葉だけではなく力を示せ、と言っているかのようで。
「獅堂。自分を犠牲にして……などとは考えるなよ?」
 その気配を感じ取ったフローライト・アルハザード(jc1519)は、武に釘を刺すように言った後、翼を広げて。
「――そういう事は、私の仕事だ」
 彼の耳には届かぬ言葉を残し、飛び立った。
「…………」
 エルネスタ・ミルドレッド(jb6035)もまた、フローライトと同じように翼を顕現させ、彼女の後を追う。
 その胸に秘めたる想いを口にせぬままに。口にせずとも、戦の中で示しに行くように。
 ――すると、シエルは何故か二人に背中を向け、言葉を口にせぬままに、逃げるような素振りを見せる。
 ある程度の距離を飛び終えた後で、静止。再び二人の方へ振り向き、エルネスタの姿が消えていない事に差異を見出したのか、彼女の大剣を握る手に力が込められる。

「以前、この世に平穏は無いと言ったな。それ故に世界は動き続けると」
 先行、突出しての攻撃を狙うフローライトが言葉を投げかけようとも、彼女は一寸の揺らぎも見せない。
 その視線、判断力。それらは今までよりも段違いに鋭く、より冷たい。強いて言うなれば、その空気は彼女の『周りに居た者達』と等しい。
「どうやら、貴様の目には映らないようだな。人の紡ぐ穏やかな時が」
「……いえ。知っています、ただ私はそれらに触れようとは思わないだけです」
 フローライトの目にも留まらぬ一撃を、シエルは的確に防御。
 そこから反撃に転じるかと思われたが、彼女は何かを警戒しているのか、ただその場で大剣を構え直して。
「次は、逃がさない……」
 Spicaが援護射撃の為に引き金を引いたその瞬間、狙っていたと言わんばかりに素早くそれを回避、大剣を握る手に力を込めた。

「……戦う理由は変わらない。贖罪の為、贖う為よ」
「攻撃は繋げてくる、隙を曝せば狙われる。読みは当たっていましたか」
 エルネスタが味方の連続攻撃に捻じ込むように、蠍の腕状のアウルを形成。それによる一撃を狙うと、シエルはそれが本命と言わんばかりに、命中寸前で見切った。
 そして彼女は、加速してエルネスタの懐に飛び込み、大剣を振り抜く。エルネスタはその反撃を回避するも、それによって何かを察したように、シエルは息を吐いた。
「誰かの為、何かの為と言った所で、その総ては己に帰結するのです。ならばそんな物は只の言い訳、転嫁に過ぎない」
「結局は自己満足の為、と。行動の是非を決めるのは自分なのですから、そういう事ですね」
「……己が信念、己が意志。己が心に譲れない物があるから、戦うのでしょう」
 そうしてマキナが投擲した苦無を、攻撃後を狙われると読んでいたかのように、シエルは的確に回避する。
「生憎、崇高な理念も気高い誇りもないのでね。その手は無縁、だな」
 だが、そもそもそこまでは『当たらないもの』とした上で、アスハ・A・R(ja8432)が何者かの腕を呼び、彼女を拘束する。
「ここまでの全てが布石……馬鹿な」
 さすがに意表を突かれたのか、冷静を装っていたシエルの顔にも焦りが浮かぶ。

「そう、結局は自分の為だな。泣いてる誰かを放っておくのは寝付きが悪りいんよ」
 更に武が、アスハの攻撃後の隙を埋めにいく形で、雷帝霊符を用いた一手を投じる。
 シエルはそれを防御、自身へのダメージはほぼ皆無に留めるも、地上に居る二人が彼女の視線を引いている隙に、エルネスタが蜃気楼に消える。
「ここは落とせない、絶対に……」
 彼女の焦りの理由を知る者はこの場所には居ないが、しかし、彼女は相当な『何か』を抱いているのだろう。
 シエルは自身を掴む無数の腕を振りほどき、フローライトの方へと視線を戻す。それと同時にエルネスタが視界から消えている事を把握、警戒を強めた。
「許されたいとも、救われたいとも思わない。ただ自身を許せないが故の事」
 そして、エルネスタがシエルの側面を取っての一手。
 エルネスタにとって、譲れないものがあるとするのなら。
 それは自身にではなく、ただ一人、自身が歪めてしまった妹の幸せのみ。
「……物理的に姿を隠そうとも、貴女の姿、私には見えています」
 エルネスタは確かに姿を隠しているものの、シエルはその気配を完璧に掌握していたのか、見切って回避する。

 そこからシエルは反撃に転じようとしたのか、大剣を振り抜かんと彼女の方へ視線を向けるも、槍を用いている彼女に反撃は届かずして。
「慣れさせない、見極めさせない、予測させない……」
 エルネスタのその言葉に偽りは無く、シエルは反撃を断念。大剣を下げるような形で構え直す。
「幸い、今回は私と同じ場所で戦える者は二人……持っていく」
 そう呟いた彼女は、大剣に光を集中させながら、フローライトの元へ正面から突っ込んでいく。
 フローライトは身構え、受けの姿勢を見せるも、それを見逃さないSpicaは即座に援護射撃、攻撃の阻害を狙う。
「貴女とて、この一撃を受けてただで済む筈は無い……」
 だが。シエルはフローライトの頭上を通過、宙返りをするように弾丸を回避した。
「戦う理由は前回話した通り、唯一人の盟友との約束の為。譲れぬ物もまた、その一つのみ」
「ならば耐え、そして私に一太刀でも浴びせてみなさい。護る力を持っていようとも、攻める事が出来なければ意味を成さない」
 言葉を交わしながらもシエルは、フローライトの背後に回り込んだ段階で身体を捻る。
「角度、射程……良し。ただ狙うだけでは無意味と言うのなら、薙ぎ払え……!」
 そして彼女は、大剣を振り抜いた。フローライトだけでなく、その先に居るエルネスタまでもを見据えながら。
 光を纏った大剣は、振り抜かれるその直前に更なる光を纏い、その光を強力な波動として放つ。
 放たれた波動は一瞬にしてフローライトを貫通、その先に居るエルネスタまでもを貫いた。
 防御すら物ともしない一撃を受けながら、フローライトはどうにか持ち堪えるも、エルネスタは完全に意識を持っていかれ、地上へと落下する。

「――貴女は如何なのです。それとも惰性ですか? 単に命令だからと、それに何かを思う事もせず」
「ッ……!」
 その技、ブレードラインを使用した硬直により、回避は不可能と踏んだのだろう。
 マキナの投擲した苦無をシエルは大剣で受け止めようとするが、尋常ならざるその威力によって弾かれ、のけ反る。
「……だとするなら、何と都合の良い歯車だ」
「これは、来る……!」
 マキナの言葉に反論する暇も無く、シエルは次の一手を予測していたのだろう。
「今こうして君と対峙しているこの一瞬、この時、この熱だけは、誰にも譲れんが、ね」
 だが、予測を的中させたところで、今の彼女は回避に転ずる事は出来ない。
 アスハは再び何者かの腕を呼び出し、それによって彼女を拘束。追撃、並びに立て直しに利用出来るだけの時間を作り出す。
「……揺らがず、そして折れず。迷いも無ければ、曇りも無い。それらは自身にとって、不変の物だ」
 その時間を利用してフローライトは自己の肉体を活性化、傷を癒していく。
 武は間を埋める為にも、氷晶霊符を利用しての攻撃。シエルはそれを大剣で受け止め、地上へと視線を向けた。

「もはや失った過去は取り戻せずとも、手を伸ばせば届くと信じて……必死に足掻いて、色々な事を考えて、その果てに私は此処へ来た」
 シエルが呟くのと同時、両手で構えられた大剣に、再び光が集中し始める。
「都合の良い歯車、確かにあの人から見た私はそう。でも私は……私が本当にしたい事は、そうじゃない……!」
 シエルは無数の腕を振り切って急上昇、マキナの頭上へ到達した時点で身体を捻り、大剣を構える。
「……違うと言うなら、示せと言っているのですよ」
「ええ、私は終わらせる。そして、再びこの場所へ戻ってくる……私はあの子と、約束をしたから」
 マキナの言葉に応えるように息を吐いたシエルは、大剣に更なる光を纏わせて。
「貴女にも、譲れない物があると言うのなら……!」
「絶対に掴み取る、二度と失わない為にッ!」
 そして彼女は急降下、マキナの元へ一瞬で到達し、光刃で彼女を刺し貫く。
 マキナを中心として、地面までもが一瞬にして大きく崩壊。その威力の甚大さを物語っていたが、マキナは刹那に於ける死の超越を駆使、それを耐えきった。

「何で倒れないの、なぜっ……!?」
 その一撃には絶対的な自信を持っていたのだろう。それを耐えられた事により、シエルの焦りが露見する。
 マキナはその隙に、自身の纏う、黄金色に変化した黒焔に魂の吸収の性質を付与。それによってシエルを喰らう。
 至近距離であるが故に、回避は不可能であると判断。防御に転じるシエルだったが、彼女は黒焔に包まれ、マキナの傷が癒された。
「他者に、問うなら……自分から、答えるべきだと思う……。もっと、教えて欲しい……」
 そこへすかさずSpicaが射撃を行い、シエルは引き続き防御を行うも、高威力の攻撃を連続で受けた事により、体勢が崩れる。
「シエルはどうだ? 大事なのはその剣閃か、戦乙女としての在り方か……どうにも、まだ半端に見えるが」
 体勢が崩れた彼女へ追撃をするべく、アスハが魔具を構えたと思われた、が。
「味方ごと……!?」
 彼は魔具による攻撃ではなく、アウルで生成した無数の蒼い槍を降らせたのだ。
 近くにマキナが居た事から、そのような一手は無いと踏んでいたのだろう。だが容赦無しに、シエルを中心とした一定範囲に蒼い槍が降り注ぐ。
 その瞬間にマキナは離脱し、範囲内に残されたシエルは大剣を用いて防御。自身へのダメージを最小限に抑えるも、重圧が彼女を襲う。

「剣閃、在り方……。在り方なんてもうどうでも良い。ただ私は、あの子の為に剣を振るう!」
 カバーリングとして接近、目にも留まらぬ一撃を繰り出したフローライトだったが、シエルは重圧に屈さず、それを叩き落とす。
「私は気付いた、自分が今まで何処に居たのかを。自分が何を求めていたのかを。故に示せと言うのなら、私は迷い無き一閃でそれに応える!」
 それが彼女の『本性』だろうか。
 今まで彼女の見せていた『焦り』は『熱』へと変わり、その熱は彼女の一閃に更なる力を与える。
 シエルはそのままフローライトに反撃、重圧に負けぬ素早い斬撃を見せるも、彼女はそれを防御、持ち堪えた。
「アルねぇ、大丈夫か!」
 遅れながらも、そのタイミングで武が追いつき、治癒膏によってフローライトの傷を癒していく。
「あの一撃を受けて倒れないという事は撃破は不可能、しかし一撃で持っていける可能性のある彼女は遠すぎる……狙うべきは、誰か」
 恐らく彼女にとって、マキナとSpicaは優先的に処理すべき相手として捉えられていたのだろう。
 しかし、位置取りや実際に攻撃を加えた感触から、撃破出来ない物と判断。シエルは次なる標的を割り出そうと思考を巡らせていく。

「容赦の無さ、そして高い判断力……持っていかなくては」
 そして彼女が最終的に狙いを定めたのは、アスハ。
 彼女は十分に素早いと言える速度で位置取りを行い、アスハを落とす為に攻撃体勢を取る。
 Spicaはその合間にシエルを狙撃。回避を試みる彼女だったが、重圧により身体が動かなかったのか、被弾する。
「一発の被弾で止まっていては、掴み取る事なんて……出来ない!」
 彼女は表情を歪めるも、大剣に光を集約。その上に更なる光を纏わせ、アスハの元へ正面から突っ込む。
 アスハは雪村を緊急活性化、更に武が乾坤網を展開。
 二重の防御を以て、シエルの渾身の一撃を受けようとするが、勢いを殺そうにもその刃は止まらない。
 結果、防御は正面から打ち砕かれ、光を纏った大剣がアスハの肉体を刺し貫いた。

「二人目……!」
 シエルはアスハの意識を奪い去った事を確認、宙返りをするように着地。
 現時点でのシエルは回避には頼れないと見て、マキナが彼女へ幕引きの一撃を放つ。
「――っ!」
 マキナの目論見通り、大剣での防御に出たシエルだったが、彼女の渇望である『終焉』を内包する一撃を受け止める事は敵わず。
 衝撃は大剣を貫通、シエルの肉体までもを射抜き、吹っ飛ばしていく。
「一手、及ばなかった……。ごめんなさい、私……約束、守れないかもしれない」
 渾身の一撃を耐え、そして幕引きの一撃を返したマキナの信念と意志が勝ったのだろう。
 シエルはこれ以上の戦闘は危険と判断したのか、誰とも分からない『誰か』への謝罪の言葉を残し、この場を去っていく。
 それと同時にマキナは、渾身の一撃を受ける為に諸刃の剣を行使した反動を受け、意識を失ったものの。
 最終的に三人の負傷者が出る事となったこの戦闘だが、結果、撃退士側の勝利として幕引きとなったのだった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 撃退士・マキナ・ベルヴェルク(ja0067)
 蒼を継ぐ魔術師・アスハ・A・R(ja8432)
重体: −
面白かった!:2人

撃退士・
マキナ・ベルヴェルク(ja0067)

卒業 女 阿修羅
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
さよなら、またいつか・
Spica=Virgia=Azlight(ja8786)

大学部3年5組 女 阿修羅
桜花絢爛・
獅堂 武(jb0906)

大学部2年159組 男 陰陽師
燐光の紅・
エルネスタ・ミルドレッド(jb6035)

大学部5年235組 女 アカシックレコーダー:タイプB
守穏の衛士・
フローライト・アルハザード(jc1519)

大学部5年60組 女 ディバインナイト