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マスター:新瀬 影治
シナリオ形態:シリーズ
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/12/02


みんなの思い出



オープニング


 主へ。
 彼等――撃退士との交戦の中で私は、見失いかけていた『末路』を再び見据える事が出来た。
 故に、我々の仮説は実証されたものとして、その有用性を説くものとする。
 端的に述べるならば。
 人間の持つ『感情』とは、我々天使の抱く感情と全く同じ物であり、その性質から、我々に仇なす堕天使をコントロールする事も可能であると考えられる。
 過去、幾度と繰り返されてきた精神操作の実験。
 それらの多くは人間に対する洗脳であり、そしてそれらの洗脳は確かな効果を示してきた。
 即ち。
 過去に繰り返されてきた『失敗』は決して無意味なものではなく、仮説が実証された現時点に於いては、むしろある種の成果とも呼べるようになった。

 外部からの物理的干渉による洗脳状態の解除。
 外部からの精神的干渉による自我の覚醒、並びに同現象から成る洗脳に対する抵抗。
 過去の失敗はもはや失敗ではなく、言い換えれば欠点の検証とも呼べるようになった現状。
 これ以上の検証はもはや不必要であると判断し、以降、撃退士と使徒の観察を終了するものとする。
 並びに。
 本作戦の実行を意見具申、観察者として前線へ赴いていた私の任を解き、自己判断での行動の許可を求めたく。
 また、管理権限を任されていた事柄について。
 使徒である零のその後に関しては、当人に一任するものとして、処分は見送るものとする。

 仮に撃退士との戦闘に於いて、主である私が死亡した場合。
 その使徒である彼女は一定時間の後に死滅する事となるが、それまでの『猶予』を以て、完全に彼女を解放するものとする。
 これは、もはや彼女は私の『影』ではなく、一つの個体として確立したものと判断した為であり、彼女にはその自我を以て、自らの行く末を選択させたいとの考えである。
 故に本件に関しての干渉は最小限、或いは皆無とし、その行く末は『彼女自身の物』として扱って戴きたく。
 ――以上を最終報告書とし、最終判断を願う。
 これは追記となるが、本件には一定の形で「シエル」の干渉があった事を報告する。
 願わくば、彼女の行く末に関する情報も求めたい。


 最終報告書を送ってから、随分と長い時が過ぎた。
 今、私の手元にあるのは、カストルからの最終報告書に対する返答だった。
「…………」
 返ってきた最終判断に目を通し、思わず顔をしかめる。
 何故なら、彼からの返答は全てに『是』と記されており、零に関する私の異例な判断だけでなく、私の観察者としての任を解く事に関しても問題無しとされていた為だ。
 そして、シエルの行く末に関しても、しっかりと追記されていた。
 彼女はカストルという唯一無二の存在から受けた裏切りにより、一時は自我を喪失していたものの、撃退士たちの行動により、自らの成すべき事をしっかり見つめ直したとの事だった。
 ……それはつまり、言うなればシエルが堕天して私達の敵になったという事なのだが、幸か不幸か、私はその『末路』が自然であるように思えた。

 ――あれは信頼ではなく依存である。依存とは判断力を鈍らせ、自我を腐らせかねない状況なのだ。
 カストルはシエルに関して、いつもそう言っていたものだから、彼が彼女の末路をそう捉えているという事は、事態としては良い方向へ進んで行っているのだろう。
 いや。これはゆゆしき事態なのか。
 しかし、私達にとっては間違いなく喜ばしい結果だ。
 実際、シエルの堕天を許容しようと考えている時点で私達の立場も危ういのだが、彼に限って言うなれば、その『研究成果』を以て再び大天使としての戦いを始められるのだろう。
 彼はあくまでも、失敗を犯し過ぎた彼女に制裁を下し、その中で成果を挙げたのであって、その後シエルに起きた変化に関しては、何ら無関係なのだから。
 ……であるのなら、事態は確実に良い方向へと向かっている。
 実の兄妹が敵同士となる事に関しては複雑な心境だが、兄と私に依存しかけていた彼女が自らの目的を手にしたというのなら、それは喜ぶべき事だ。
 天使としてではなく、あくまでも『関係者』として、だが。

 ――状況は一転、私達の戦いは本当の意味で幕を開けようとしている。
 撃退士の妨害により、初期の構想とは遠くかけ離れたとは言え、カストルは洗脳術を完成させ、それを実戦運用する段階へと入っている。
 並びにシエルはカストルに仇なす敵、即ち我々の敵である堕天使として、自らの成すべき事を成すべく、新しい形で歩を進めている。
 これからの彼等は決して私情を表に出す事の無い、本当の意味での戦いを始めようとしているのだが、それは彼等が自分たちの意思で動かしていく事なのだ。
 もはや任を解かれ、誰の関係者でも無くなった私が首を突っ込むべき事ではない。
 では。私としても大きな『変化』を起こすとしようじゃないか。

 私は、私の為の戦いを。
 そして、彼女が彼女の為に始めた戦いを終わらせにいかなければならない。
 戦って、終わらせなければならない。
 撃退士、私達に多くの変化をもたらした彼等との因縁に決着をつけ。
 零、使徒である彼女との関係にも決着をつけなければ。
 そしてその先に待ち受ける、私でさえ予測する事の出来ない末路こそが。
 私の望む、本当の意味での『終焉』なのだろう。



●解説
 文化会館内部へ突入、大ホールに出現した天使・ノヴァと交戦。彼女を撃破せよ。
 部隊が全滅する、若しくは一定のターンが経過するまでにノヴァが撃破されなかった場合、一時撤退(失敗)となり、再戦が生じる。

●重要
・本作戦より、ノヴァの完全な撃破が可能となります。撃破に成功した場合、正義から成る本シナリオは終了です。

・ノヴァは原則として停戦の意図は無く、どちらかが死に絶えるまで戦闘を継続します。

・特殊行動として、ノヴァへの交渉も可能ですが、変化が生じなければ本ルートはTrue endへと収束します。

●戦闘地点情報
・戦闘の舞台は文化会館・大ホール。高さも含め、かなりの広さを誇ります。
 ノヴァのスタート地点は舞台前方、座席に近い位置。そして撃退士側のスタート地点は座席側の中頃となります(こちらは変更可)。

・舞台の広さは奥行き10×幅23sqとなっており、舞台手前の座席・通路は奥行き15sq(全体は広過ぎる為、範囲が全座席の内の前方に限定されています)。
 また、舞台から離れるに連れて扇状に幅が広がります。二階席もありますが、舞台との距離が離れ過ぎている為、戦闘エリア外です。

・座席・通路側は若干の傾斜がある事に加え、座席による隠密行動などが可能になります。舞台に近付くに連れて地位は低くなります。


前回のシナリオを見る


リプレイ本文


 文化会館大ホール、その舞台にて、彼女は彼等を待ち受けていた。
「この戦、果たして……終焉に至る事が出来るのか否か」
 彼女――ノヴァは、その使徒である零と撃退士の姿を視認するや否や、氷刀三本を展開。それを座席側に飛ばし、自身は様子見に徹している。
「決着をつけましょう、ノヴァ。水神の巫女として、氷神の天使……貴女を此処で倒します」
 水無瀬 雫(jb9544)を始めとする三名が前進すると、ノヴァは氷刀を天井の暗がりに飛ばし、視認を困難にさせる。
「あらぁ、本気な感じ? それなら、挨拶も派手にやらせてもらうわねぇ♪」
 三名の前進を支援するのは、Erie Schwagerin(ja9642)。
 舞台上に居るノヴァを中心として、破滅の空間を展開。挨拶代わりの一撃を狙う。
「冷徹に、されども熱は宿したままに。この戦い方も久しいな、手は抜かない」
 するとノヴァは、一度は踏み込もうとするも、舞台上での回避に転じ、瞬間移動にて破滅の空間から脱出する。
 その硬直を狙い、零が氷剣を投ずるも、ノヴァは虚空より引き抜いた氷刀を以て、それを斬り落とす。

「――ノヴァ、それが貴女という存在ですか」
 だが、それは零に注意が向くという意味では機能しており、十三月 風架(jb4108)が死角からの一手を狙う。
「私は私だ、それ以外の何物でもない」
 ノヴァは気配より風架の一手に反応、被弾寸前でそれを受け流し、氷刀を平らに構える。
「ならばノヴァ、その覚悟とやらを聞かせて欲しい。その覚悟の先に、どのような終焉を思い描いているのかを」
 風架に代わって刃を受け止めたのは、久井忠志(ja9301)。
 庇護の翼による防御は的確に仲間を守り、その離脱をアシストする。
「……純然たる終わりさ。命を賭して戦い、悔い無き最期を迎える。故にこの場に於いて私は、殺される事も厭わない」
 ノヴァの返答を聞くのと同時、忠志は繋げる形で正面から斬り込みにいく。
 忠志の刃が標的を捕らえる事は無く、彼女は易々とそれを受け流した後、忠志の懐に踏み込んで。
「問い返そう。貴様はどのような覚悟を決めてこの場所に来たのか、と」
 振り抜かれた氷刀は、絶の印を宿したままに、忠志の肉体を切り裂いた。

 忠志を押し返したノヴァは、暗がりに飛ばした氷刀を呼び戻し、次の標的へと視線を移す。
「……お互い出し切ろうか、ノヴァ」
 傾斜、座席を利用して身を隠していたアスハ・A・R(ja8432)だったが、氷刀の破壊は不可能と判断、ノヴァへの追撃に転じる。
 魔銃より放たれた弾丸は的確にノヴァを捉え、氷刀を貫通、彼女の肌に傷をつけていく。
「言われなくても応えるさ。安心してくれ」
 ノヴァの表情には僅かながらも笑みが浮かび、更なる追撃を狙う雫を前に、彼女は深く息を吐いた。
「私は必ず貴女を倒します……人々の為ではなく、今は自分の為に」
 雫の決心を目の当たりにしたノヴァは、魔水の宿る一撃を受け流し、忠志とは正反対の方向へと彼女を突き飛ばす。
 そしてノヴァは雫の元へ、呼び寄せた三本の氷刀を投じた。
「あまり甘く見てもらっては困る、な。敵は一人ではない、ぞ?」
 それに反応したアスハは、銃撃にて一本の氷刀を破壊。
 雫もそれに続き、自らの幻影を生み出しての攻撃を加え、残る氷刀を弾き返した。

「そんな事は分かっているさ。それを踏まえた上で、受け切れるか否かを問わせてもらう」
 しかしノヴァは、僅かな隙に紛れて彼女の懐へと飛び込み、即時生成された氷刀にて一閃。
 雫は防御が間に合わず、直に刃を受ける事となった。
「――いつかの貴女の手も取りたいという気持ちは、今も変わりません」
 雫に一閃を叩き込み、跳ね返るように離脱を図るノヴァの姿を捉えたのは、神谷春樹(jb7335)。
「だからこそ、全力で倒します」
 着地を狙っての狙撃は、的確に彼女の脚を捉えていた筈だった。
「……ああ。そうでなければ、な」
 だが、ノヴァは顕現させた実刀を以て、春樹の放った弾丸を弾き落とす。
 彼女はそのまま座席側を警戒しながらも、標的を風架に切り換え、素早く彼の元へと詰め寄る。
「己が生き方を貫け、己が信じた終わりへと辿り着け。これが誰の言葉かはわかりますね?」
 瞬く間に懐へ潜り込み、冷気を解き放たんとするノヴァを前に、風架は自らの血で手甲を形成しつつ。
「愚問だな」
 ノヴァの返答を得るのと同時、それを彼女に叩きつけた。
 しかしその刹那、ノヴァは自らを中心として氷の衝撃波を展開。風架を凍結させる。

「零ちゃんにも、ノヴァちゃんにも言えるんだけどぉ……何か、見えるものはあったかしらぁ?」
 風架の反撃を受け、吹っ飛んでいくノヴァだったが、彼女の着地に合わせ、Erieが攻撃支援を行う。
 ノヴァは回避、防御が間に合わず被弾。ただErieの言葉に応えるように、すぐさま受け身を取って。
「……覚悟は決めたか?」
 次にノヴァが捉えたのは、忠志。
「あんたが命を賭して戦うなら、俺もそれに答えるまでだ。この命、此処で捨てる覚悟を決めた!」
 忠志は問いに答えるのと同時、その一撃を受け止めると言わんばかりに身構える。
 さながら決闘を挑み、挑まれるように、ただ真っ直ぐ視線を合わせる二人。
 ノヴァは右手に実刀を構えた後、虚空より氷刀を引き抜いて。
「ならばせめてもの手向けだ、一瞬で沈めてやる……!」
 忠志が展開した銀の盾すら、無意味とする程の斬撃を繰り出した。
 彼女は踏み込むのと同時に姿を消し、瞬く余裕すらも与えぬ速度で二閃。絶の印を以て、銀の盾ごと忠志を両断した。
 氷刀は一刀の後に砕け散り、それと同時に忠志も舞台上に倒れ行く。

「いつか雫さんに言いましたね。何かをさせたいなら、力でねじ伏せろって」
 斬撃後の隙を狙い、春樹がノヴァの脚部を狙撃する。
「なら、その言葉通り貴女をねじ伏せたら、零さんの決断に従って下さい」
 斬撃後の隙を突いた狙撃は命中、ノヴァの脚部を確実に捉えていたが、有効打には成り得なかったのか、ノヴァは平然と座席側に視線を向ける。
「助力を請われて今があるので、ね……別にノヴァ自身をどうこうする気は、僕には無い」
 春樹に続き、アスハが銃を向けると、ノヴァは一瞬にして彼の居場所を掌握。
 彼女はアスハが引き金を引いた瞬間に姿を消し、彼の目の前に瞬間移動する。
「互いに出し切るという事なら、多少なりとも応えさせてもらおうか!」
 ノヴァは自身を中心とする氷の衝撃波を展開。アスハは咄嗟に防御するも、それを受け止める事は容易ではない。
 衝撃波に呑まれ、負傷するアスハだったが、幸いにも凍結だけは回避。彼はノヴァの目を欺く為、その場で動きを止めた。
「さて、踏み込まれる事は最初から分かっていた筈だが?」
 するとノヴァは、咄嗟に銃口を向けてきた春樹に対し、刀を向けながら問う。

「いつかの、暗殺者は正面攻撃に弱いって言葉が悔しくてね。そう思われたまま終わるのは癪だからさ……!」
 だが春樹は一切の揺らぎを見せず、引き金を引き、ノヴァへの追撃に出た。
 しかし春樹の弾丸がノヴァに命中する事は無く、彼女は被弾寸前で再び姿を消し、舞台上の元居た場所へと戻っていく。
「追いかけるだけの自分で居るつもりはありません。今はただ、その隣に並ぶ為に……!」
 舞台上へ戻ったノヴァを待ち構えていたのは、雫。
 蛇の姿を持つ魔水を纏いし一撃は、ただ真っ直ぐにノヴァの元へと振り抜かれる。
「成長か、或いはただの願望か。戦え、叫べ、そして打ち砕け!」
 ノヴァはその一撃に対し、刀を用いての一閃で迎撃。二人の攻撃が衝突するのと同時に衝撃が走り、双方の肌が切れる。
「その程度で終わりか、笑わせるなッ!」
 ノヴァは雫の懐に潜り込み、氷の衝撃波を展開。
 雫は氷の障壁でそれを受けるも、ただ一方的に押し返された。

「此方の手は切り札を除いて出し切った。人の本気はそんなものなのか?」
 挑発。それは即ち、ノヴァへの示しが足りていないという事の表れ。
 腹を括り、命を擲つ覚悟を決め、その上で臨んだ一瞬の衝突に於いて、結局は押し切られるという結末に至った事への未練。
 ただ一人、舞台上に伏し、このまま戦いが終わるのを待ち続ける事しか出来ないのか。
 ――このまま終わって、覚悟を決めたと言い切れるのか。
「……ッ」
 斬撃によって一度は倒れた忠志の中で、不屈の意志が燃え盛り、少しずつ彼の身体が再生していく。
 そんな中、凍結を打ち破った風架がノヴァの死角を取り、力の込められた一撃を浴びせにいった。
 ノヴァは風架の気配を察知、刀でそれを的確に受け止め、睨み合う。
「ムラマサは……カストルは貴女をずっと見ていたと、そう言ってました。最後にこれだけは伝えておきます」
 風架の言葉を聞き、ふっと笑うノヴァの姿。
 そんな彼女の元へ放たれるのは、零の生成した氷剣。
 彼女は風架を押し返した後、氷剣を空中で斬り落とし、更なる追撃を予測する。
「正面戦闘が苦手な事は誰よりも自分が分かってる。だからこそ、常に的確な一手を狙う!」
 だが、ノヴァの予測すらも打ち砕くように、春樹の放った弾丸がノヴァの元へ着弾する。

 彼女は被弾しようとも動じないが、その一手は『示し』となり。
「最後の一手、出すに値するな」
 もはや狙われないと判断したアスハの銃撃が続くも、ノヴァはそれを回避し、迫りくる雫の姿を見据える。
「お前の敵は誰だ、お前が成すべき事は何だ! それがただの願望でないと言うのなら、お前は私に何を示す!?」
「私は貴女を、氷神という壁を越えて先へ進みます!」
 黒蛇と称された雫の一撃を受け止めたノヴァは、その返答に何らかの感情を抱きながらも、彼女を弾き返す。
「大技注意かしらぁ? それなら尚更、この隙は無駄には出来ないわねぇ」
 雫たちがノヴァと渡り合っている隙に、Erieは忠志を射程圏内に捉え、治療を施す。
 するとどうだろう。彼の肉体が再生を始めていた事もあってか、彼は決死の覚悟の下、再び立ち上がった。
「氷神の名に於いて、絶対零度……その本質を呼び覚まさん!」
 だがその瞬間、ノヴァは刀を掲げ、一瞬にして天井を埋め尽くす程の氷刀を顕現させた。
 絶対零度の本質とも呼べる、優に千を超す刃は、全て撃退士の方へ向けられている。
「最後の一手よ、備えて!」
 零の呼びかけを皮切りに、Erieと忠志を除く四名は集結。迎撃体勢を取る。

「死する覚悟の下、それでもと敵に挑み続けるその勇気。私はそれに魅せられ、そしてその本質へと辿り着いた」
 解を得て、終焉へと至る事を望んだノヴァは、掲げられた刀を両手で構え、そして。
「……祈る余裕は与えん!」
 その身に宿る全ての力を、雨の如く、彼等に向けて降り注がせた。
「傘の役割ぐらいは出来そう? 後は任せるわぁ♪」
 Erieは翼を顕現させ、鮮血の如き花びらを散らしながら、四人の頭上へと飛翔する。
 そして彼女が現界させる、破滅の空間。それは氷刀の雨を呑み、幾らか威力を削いだものの、それら全てを破滅させるには至らず。
 彼女はその身に氷刀の雨を受け、幾本の氷刀に身体を貫かれた後、ゆらりと座席の上へ落ちた。
「伊達に雨の名を冠してないぞ、この技は」
 しかし、それに続くようにアスハが手をかざすと、蒼い輝きを宿す魔法弾が雨のように降り注ぎ、更に氷刀の数を減らしていく。
 全てを呑み込む、光の雨の如き一手。それに続くは、暴風の如き猛射撃。
「一発限りだけど、中々でしょう?」
 それを放った春樹を見て、ノヴァは何処か満足気に笑うが、氷刀の雨の相殺に至った訳ではなく。
 最後に一段、清浄なるアウルが宿された武器を雫が振り抜くと、蛇の姿をした水の如きアウルが放たれ、氷刀の多くを喰らい尽くしていった。
 残る氷刀は四人の元へ降り注ぐも、威力を発揮せず、地面に突き刺さった後に冷たい輝きを放つだけ。

「雨を避けられようとも二段目、これはどうだろうな……!」
 多くの氷刀が地面に突き刺さった事を受け、ノヴァが手をかざした、その瞬間だった。
「うおおおおお――ッ!」
 深い傷を受けたままの状態で立ち上がった忠志が、彼女の元へと突っ込んでいったのだ。
「何だと、貴様……!?」
 ノヴァは手を振り抜くのと同時、氷刀に宿る冷気全てを衝撃波として解き放ったが、忠志の姿に驚きを禁じ得ず。
「意識がある限り、俺は命を燃やす……!」
 忠志が突っ込んでいく間にも、解き放たれた衝撃波が撃退士四名を呑み込まんとしていたが、春樹と雫はそれぞれの手段を以て跳躍、それを回避する。
「ノヴァ、あんたと同じように……最後まで!」
「そうか、お前は……。そういう事なら、正面から受けて立つ!」
 突っ込んでくる忠志を前に、ノヴァは刀を構え、自ら刺しに行く形で彼の腹部を貫いた。
 刀は彼の腹部を貫通し、その刃は血に濡れていたが、忠志は一寸の揺らぎも見せぬままに、刀を自身の身体にめり込ませていく。

「…………」
 誰にも気付かれず、そんな忠志の姿を遠くから見つめる者が、一人。
 衝撃波に呑まれ行く座席の中、アスハが受けの構えを取っていると、彼の元へ風架が駆け寄って。
「終わらせてきてください」
 アスハを血拳で斜め上方に吹っ飛ばし、彼をノヴァの元へ送っていく。
「正宗の最期の言葉、最期を迎えるまで忘れないでくださいね」
「……ええ。大丈夫!」
 風架に後押しを受け、零が跳ぶと、彼は衝撃波に呑み込まれた。
「レイ。氷は溶けたら水になるだけ、だ。今のレイのように形は変われど、無くなるわけじゃない」
 アスハと零が向かう先では、忠志がノヴァの刀を受けたままに、一歩たりとも動かずにいる。
「ぐ……ッ」
 忠志は自身の肉体を貫いている刀を掴み、冷気を以て出血を和らげる事で、無理やりにでも意識を繋ぐ。

「支える、といった以上、勝手に消えられても困るし、な」
 その刹那、アスハがノヴァの元へ到着し、二つの『蒼月』を以て彼女を切り刻み。
「零、俺はキミがどんな結果を望もうとも構わん……!」
 紡がれた想いを、忠志が最後の一手へと繋いでいく。
「ただ、後悔する選択だけは絶対に選ぶな――!」
 命を擲ってでも戦い抜く覚悟を決めた彼の言葉に、零はただ真っ直ぐ、ノヴァの姿を見据えて。
「逝きなさい」
 零の言葉を聞いたノヴァは、ただ静かに微笑む。
「……良い仲間を持ったな。死ぬんじゃないぞ、美月」
 そして。
 彼女がその言葉を発した後に、零はその肉体を全力の一手で両断した。
 その『幕引き』の先に待つ未来が、自らの思い描いた『正義』にそぐわぬ、正しき物である事を願いながら。


 ノヴァが倒れるのと同時、忠志もまた静かに倒れ、零は唯一無二の仲間が居たお陰で『終焉』へと辿り着いた事を実感する。
「…………」
 長く息を吐いて、上を見上げて。
「これで本当に終わり、ね」
 これは事実、最後の戦いであった。
 正義を求め、そして『自分』を求め、幾度となく撃退士と渡り合った日々。
 いつしか敵であった筈の撃退士は味方となり、彼等の力を借りながら、真の敵であるノヴァを撃破するに至った事。
「……さて。これからどうするつもり、だ?」
 アスハに問われ、血だまりの中に倒れている忠志の姿を眺めながら、零は刀をそっと鞘に納める。
 死をも恐れぬ彼の行動があり、彼に続く仲間の行動があり。
 紡ぎ、繋ぎて、そしてその果てにこの『終焉』があるという事。

 座席側には春樹と雫の姿が見え、その合間には、倒れているErieと風架の姿も見える。
「私は自分も生きる事の出来る道を探す。時間は無いけれど、きっと」
 自らが背負った恩を忘れず、そして彼等が繋いでくれた未来を絶やさぬ為に。
「……だから貴方たちも生きて。いつかきっと、また会えるように」
 自身が消え行く未来ではなく、自らも彼等と共に生きる未来を思い描きながら、彼女はその場を去っていく。
「――人の未来はそう簡単には終わらない。貴女の分まで、私が彼女と紡いでみせる」
 それから程なくして。
 その幕引きに立ち会ったある者は、白く長い髪を靡かせながら、舞台に背を向けた。
 誰かの手によって描かれたシナリオではなく、これからは自分たちのシナリオを描いていく為に――。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 永来の守護者・久井忠志(ja9301)
 災禍祓う紅蓮の魔女・Erie Schwagerin(ja9642)
重体: 永来の守護者・久井忠志(ja9301)
   <その身を擲ち、未来を築いた>という理由により『重体』となる
 災禍祓う紅蓮の魔女・Erie Schwagerin(ja9642)
   <氷刀の雨から味方を守った>という理由により『重体』となる
 黒き風の剣士・十三月 風架(jb4108)
   <勝利への起点を担った>という理由により『重体』となる
面白かった!:6人

蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
永来の守護者・
久井忠志(ja9301)

大学部7年7組 男 ディバインナイト
災禍祓う紅蓮の魔女・
Erie Schwagerin(ja9642)

大学部2年1組 女 ダアト
黒き風の剣士・
十三月 風架(jb4108)

大学部4年41組 男 阿修羅
揺れぬ覚悟・
神谷春樹(jb7335)

大学部3年1組 男 インフィルトレイター
天と繋いだ信の証・
水無瀬 雫(jb9544)

卒業 女 ディバインナイト