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マスター:新瀬 影治
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/09/25


みんなの思い出



オープニング


 ――前に奴等と戦ったその時から、ずっと考えていた。
 私は氷であり、零は影である。だがそれと同様に、私が影となり、零が氷となる可能性も十分に存在し得る。
 故に。このままでは自分が影となり、消え失せる末路が待っているのではないだろうか――そう考え続ける中で、私は若干の危機感を覚え始めたのだ。
「――――」
 文化会館、小ホール。
 その舞台上に立ち、大きく息を吸い込む。
 ……ずっと私は、見失っていたような気がするんだ。そもそも私は「何がしたいのか」という事を。
 元はと言えば、師匠に追いつく為に始めたこの戦い。だが時が経つに連れて、戦いの意義は変わりゆく物。
 最初は私と、師匠と、そしてシエル。三人で始めた戦いだった。
 しかし戦いを続ける中で、私と師匠はシエルに背を向け、そして新たな道を歩み始めた。
 思えば、その瞬間に私の抱いていた『戦う意義』は変わるべきだったのだろう。変わらなかった結果が、今の現実という物を形作っているのだから。

「――同じような立場に立ち、そして同じような道を歩む。そうする事で僕達は彼等の存在という物を解明し、最終的に自分達の糧とするんだ」
 脳内に甦ったのは、ムラマサの言葉。
 そう、師匠ではない。ムラマサの言葉だ。
 あの瞬間から私は、天使として得た力を封じ、翼を捨て、地に立って生きるようになった。
 それはムラマサも同じであり、彼もまた今は、かつての力を封じた上で翼までもを封じている。
 ……それは何の為か? 単純な話だ。全ては己が『使命』を果たす為。
 天使としての使命を果たす為に、天使としての姿を封じ、私達は『人間』と限りなく近い立場で生きるようになった。
 そうする事で彼等の抱く感情、生き方、そしてその行く末までもを観測し、己の糧とする為に。

 ――この計画を始めてから、既に長い時間が経っている。
 成果は決して思わしくないものの、それらの『完成』は着々と近づいてきている。
 来る『決戦』に向けて、私達の積み重ねてきた『戦い』もまた、佳境へと差し掛かっている。
 だがそこまで来て、私自身が得られた物は何だ? 私自身は零という自分の影と向き合う中で、何かを変えられただろうか?
「否、変えられていない。全ては停滞している」
 声に出し、それが事実であると自分に言い聞かせる。
 戦いの中で撃退士にそう言われた時の事を思い出しながら、息をゆっくりと、少しずつ吐き出していく。
 ……そうだ。私は何一つとして変えられていない。
 零が正義という『希望』を見出した一方で、私は何一つとして『変化』を見出せぬまま、ただただ無意味な殺傷を繰り返すのみ。
 これでは私が影じゃないか。影として生み出された筈の女が氷となり、氷として歩むべき筈の私が影になっているじゃないか。
 そう。変えなければならないんだ。この停滞した現実を。
 そして私は見出さなければならないんだ。真に自分が追い求めている末路という物を。

「それは二度、繰り返す。堕ちた氷は影を成し、成された影は氷を成す」
 呟き、満たす。
 今まで封じていた『己』の力を解き放ち、小ホール内を冷気で満たす。
 私が成すべき事は何だ? 私が追い求めた物は何だったんだ?
 自問自答を繰り返し、そして、その答えを『刃』として投影する。
 ――私は変化を求めた。そして、その結果としてこの場所へやってきた。
 人間という存在を知り、人間という存在の持つ物を観測し、そしてそれらを己が糧とする為に。
 そしてその果てに、己が使命を果たす為に。
 私が果たすべき使命は、『奴等』を狩り尽くす事。一人の剣士として戦場に立ち、持ち得る力を発揮し、己が師匠の背負った使命を果たす事。
 その為に私が追い求めるべきは、他でも無い、影である筈の零が手にした『己』。何よりの強さだった。
 己を掴み、力を手にし、そして変化を引き起こす。今の私が成すべき事は、それだけの事だった。

「……もう一度、やろうじゃないか。自分が自分として戦っていた、あの頃のように」
 冷気で満たされたホール内を浮遊するのは、三本の氷刀。
 かつて私が手にした『氷神』の力の片鱗。私が私である何よりの証。
 影でもなく、そして弟子でもなく。私は私として、一人の剣士として、再び彼女たちを迎え撃ちたい。
 与えられた使命に拘らず、己が師匠という存在に縛られず。されども使命を全うする為に前を向き、自分の追い求める『末路』を掴み取る事。
 ――それがきっと、師匠としての彼が私に向けた最後の言葉だったのだろう。
 零が正宗を失い、己の信じた道を歩み始めたように、私は私としての生き方を掴み、そして今度は弟子としてではなく、対等な剣士として彼の隣に立つ。
 そんな私なりの『答え』を私自身が導き出せるように、彼は私をこの戦いへと仕向けたのだろう。
 ……なればこそ、私が歩むべき道はただ一つ。
 生きるか死ぬか、己の持ち得る本当の力を発揮して、彼等と戦う事。そしてその果てに、自分なりの『答え』を見出す事。
 師匠という存在に拘らず、己が己としてこの場所に『存在』し続ける為に、私は彼等を打ち倒す。
 そして、決着をつけようじゃないか。自分自身との戦いに。零という『影』と向き合う日々に。



●解説
 文化会館内部へ突入、小ホールにて待ち構えている天使・ノヴァと交戦、撃退せよ。
 一定以上のダメージを与える事で勝利条件は達成されるが、参加者の半数が戦闘不能状態(気絶〜)になった場合、強制的に作戦失敗となる。

●戦闘地点
・小ホールの広さは、奥行き30×幅12スクウェア。ホールの奥、7スクウェアは舞台となっており、障害物なども何も無い、整えられた足場になっています。

・その逆、舞台以外の23スクウェアは座席・通路となっており、若干の傾斜がある事に加え、座席による隠密行動などが可能になります。舞台に進むに連れて、高さは低くなります。


前回のシナリオを見る


リプレイ本文


 幾度とノヴァとの戦闘が繰り返されてきた文化会館、内部。
 そこに集うは六人の撃退士、そして一人の使徒。
「例えノヴァに刃が通らずとも、正宗に託されたこの刀で最後まで戦い抜きたい。我がままだとは分かっているけれども、ね」
「――そうですか。それならば無理にとは言いません、お任せします」
 水無瀬 雫(jb9544)の提案から、ノヴァに致命打を与える為にも、武器を変えるように勧められる零。
 しかし彼女は彼女なりの信念を持っている事から、雫の提案を断った上で、彼女たちと肩を並べて前を向く。
 そして。冷気に満ちた小ホールへと七人が足を踏み入れると、舞台上で三本の氷刀に囲まれながら座っていたノヴァが顔を上げる。
「その刃、少しは重くなった、か?」
「さて、な。まぁ、私も私で考えは改めたつもりさ」
 アスハ・A・R(ja8432)の問いに、ノヴァが答える。

 そのまま彼女は腰を上げ、舞台上に突き刺さっている氷刀の柄に手を添えた。
「そろそろ終わらせよう、解は見えた。アンタがそうであったように、な」
 ノヴァの視線の先に立っていたのは、零。
 自身の使徒でありながら影として生み出された筈の彼女に、ノヴァは何を思っているのか。
「……全く、いつになっても解せないな。聞かせてくれ、何故アンタたちはそいつを迎え入れた? 敵である筈のそいつを仲間とした上で、何故に私に刃を向ける?」
 その問いは、何故の物なのか。
「自分のような人を増やさない為に戦いたいと言って、一緒に進む道を歩きたいと手を伸ばしたから。伸ばされた手を掴んだ、それだけです」
「フッ……ただそれだけの理由で、寝首を掻くかも分からない人間を受け入れるとはね」
 神谷春樹(jb7335)の答えを聞き、それを嗤うノヴァ。
「だが。それだからこそ私達は、人間という存在に興味を惹かれたんだろう。自らが信ずる正義の為であれば、僅かな切っ掛けであろうとも掴み取る存在。面白いじゃないか」
 しかし彼女は、打って変わってそれを是とするかのように、三本の氷刀を浮き上がらせた。

「信頼する仲間が彼女を迎え入れた。だから俺も受け入れた。それに、俺の好みでもある」
 そんな彼女に応えるように、久井忠志(ja9301)は六人の前に歩み出て、堂々たる姿勢を示す。
「お前たちはそれだけの理由で、この私と命を懸けて戦う事も辞さない、と?」
「貴女たちと戦う理由は、極論を言ってしまうと、貴女が天使でこの地を脅かすから。それで説明はつくんです」
「それで死ぬ覚悟すら決められるとは、大層なもんじゃないか」
「自分は零に彼女の師の、正宗の言葉を伝えに来た。今は零がそれを聞いて、どう歩むのかを見届けるだけですよ」
 十三月 風架(jb4108)の言葉を聞いたノヴァはそうか、と頷き、右手を振り上げる。
「来な。その力とやらが本当に私を打ち破れる程の物なのか、示してみると良い」
 ――そう告げた彼女の視線は、此処からが真に生死を懸けた戦いであるのだと物語っていた。
 彼女の右腕が振り下ろされるのと同時、ノヴァの意思に従うように、三本の氷刀は座席側へ風を切るように飛んでいく。

「……行きましょう。彼女も本気みたいだから、気を付けて」
 零に注意を受けつつ、風架は忠志、そして自身の脚に風を纏わせ、一直線に、高速で舞台へと向かう。
「俺の戦い、基本的には大事な者を守る為だ。だが、ノヴァ。あんたとの戦いは楽しいからだ。この戦い、最早お互い天魔と人間という垣根を越えている」
 忠志はそのまま舞台に上り、ノヴァの正面に陣取る。
 彼がノヴァの視線を引き付けている事を確認した風架と零は、その隙にノヴァの側面へ回り込もうとする。
「例えるなら、意地と意地のぶつかり合いかな」
「意地と意地……そうだな。互いが譲れぬ物の為に、己が意地を貫き通さんとぶつかり合う。それが今の私達だ」
 ノヴァは様子見をするように、仕掛ける素振りを見せぬまま、座席側へと向かって行った三本の氷刀を呼び戻す。
「……楽しいか、その言葉がお前の口から出ようとは。なら良いさ、私もこの全力を以てして応えてやる!」
 だが次の瞬間、今までの様子とは一転。
 ノヴァは二本の氷刀を即時生成、それらを忠志に向けて投擲し、飛んでいく氷刀にも劣らぬ速度で彼の元へと接近する。

 忠志は即時に対応、弾丸の如く飛んできた二本の氷刀を武器で受け止める、が。
「この一閃、受け切れると思うな!」
 氷刀を受け切るのと同時に飛び込んできたノヴァが構えていたのは、氷刀ではなかった。
 刃がひたすらに薄く、鋭い実刀。消えかけている彫刻からは、その刀がどれだけ使い込まれてきた物なのかを彷彿とさせる。
 その刃による一閃は、肉眼では視認不可能な程の素早さで。
 忠志が実刀の存在を確認し、銀色の障壁を生成した次の瞬間には、その障壁ごと斬り抜かれていた。
「もっと意地をぶつけろ! 答えが見つかるまで、あんたの攻撃を受け続けてやる!」
 だが忠志は動じず、ノヴァの姿を捉え続ける。
「はっ、ならそう簡単に沈むなよ!」
 そんな彼の姿を受け、ノヴァは跳ね返るように後退、間合いを取った。

「……面倒臭い場所ねぇ、一先ずは近づかないとねぇ」
 忠志が先行してノヴァとの衝突を続ける一方、Erie Schwagerin(ja9642)は瞬間移動によって適当な座席の裏に移動し、攻撃のタイミングを窺う。
 そんな彼女に続くように春樹、雫もそれぞれの持ち得る手段で移動を行い、舞台への接近、並びに攻撃の準備を整えていく。
「どうも前向きに視界の狭い手合いは、放っておけないので、な……。折角の我儘だ、それを聞くのが男、だろう?」
 その中でアスハは、一瞬の加速により、瞬く間に舞台付近へ移動。手にした魔銃を構え、ノヴァの顔面付近へ発砲する。
 忠志に気を取られていたノヴァは僅かながら反応が遅れ、氷刀を盾として弾丸を受け流そうとするも、弾丸はそのまま刃を粉砕した。
 刃を貫いた弾丸はノヴァの頬を掠め、そこから微量の血液が流れ出す。
「それとも、美人だったから、とでも言えばいい、か?」
「冗談を言う余裕があるとは、ね。その様子じゃ、何か策でも講じてるのかい?」
 冗談めいた事を言うアスハを見て、ノヴァは自身の頬から流れ出た血液を拭いつつ、忠志の方へと視線を戻す。

「……だが。どれだけ策を講じたところで、私を負かす事はそう簡単じゃない」
 その視線の先、忠志の背後に集っていたのは、冷気と暗がりに紛れた三本の氷刀だった。
 忠志はノヴァの視線から状況を察知、即座に振り向き、手にした大鎌を振るう。
 振り抜かれた大鎌の刃は一本の氷刀を弾き飛ばしたが、それに続く二本の刃が次々と飛来し、忠志の肉体を貫かんとする。
 彼は咄嗟に銀色の障壁を生成、それらを受け止めようとするが、絶の防御貫通効果が今でも残っているのか、二本の刃は障壁を貫いて彼の肉体に突き刺さった。
「私のアレを受けてまだ立っているのか……。その言葉は伊達じゃない、と」
 だが、強靭な意思を以てして立ち続けている忠志とて、絶を含む複数回の攻撃を受けて限界寸前だ。
 彼の肉体に突き立っている刀は、そこから流れ出した血液は、決して偽物ではない。

「決めさせてもらうよ、私も己の言葉にそぐわないように」
 ノヴァは忠志の身体に突き立っていた二本の氷刀を呼び戻し、それを従えて彼の元へ突っ込んでいく。
「貴女は初めて戦った時、零と違って目的なんて無いと言った。だけど、零と重なってると言うのなら、貴女にだって正義のように求めた物があるのでしょう」
 ただでは終わらせまい、と狙撃銃を構えた春樹が、言葉を投げかける。
「でも、それを堂々と掲げられないなら、貴女は最初から零に負けている!」
 精神が練磨された状態で彼の放った弾丸は、的確にノヴァの位置を捉えていた。
「……言ってくれるじゃないか」
 だが、ノヴァは従えていた氷刀一本を飛ばし、それを相殺する。

「貴女が戦うのは自身の為か、ムラマサの為か……。それとも、貴女の師の為ですか?」
 その隙に側面に回り込み、緋色に染まる無数の風刃を解き放った風架が、彼女に問う。
「解は見えたと言っただろう? 今の私がすべき事、それは――」
 緋色の風刃は氷刀を打ち砕き、ノヴァまでもを切り裂かんとしていたが、その瞬間に彼女は、冷気の中へ姿を消す。
「――自分自身の為に戦う事だ」
 そして忠志の背後に姿を現すや否や、援護を許さぬ速度で彼の身体を貫いた。
 それと同時に忠志は地面に倒れ込み、ノヴァの視線は今度は風架の方へと向けられる。

「ならばその計画諸共、打ち砕かせてもらうわ」
 それを見逃さなかった零は、ノヴァをその場に留まらせる為に、側面から高速の一閃を叩き込もうとする。
 しかし当然の如く、彼女の一閃はノヴァの氷刀によって易々と受け止められ、弾き返された。
「ノヴァ……貴様は、そこまで鍛えた刃で何がしたかった?」
 だが、アスハはそれを追撃の機会と判断。零の攻撃に合わせるように、再びノヴァの顔面へ発砲する。
「鏡写しの自分を憎むほど、何を欲していた?」
 ノヴァは着弾寸前でそれを回避。バックステップ、宙返りをして舞台中頃まで後退し、着地までの僅かな時間に迎撃用の氷刀を二本、生成する。
「少し遅れたけど、私なりの挨拶よぉ。受け取りなさい」
 そこへ破滅の空間を現界させたのは、Erieだった。
 着地のタイミングで形を得て現界した破滅の空間は、ノヴァとその周囲の空間を呑み込み、その中にある物を押し潰さんとする。

「……さすがに効くな、これは」
 氷刀は一瞬にして崩壊し、ノヴァに対しても有効打となったこの一撃。
 追撃の機会に成り得ると思われたが、ノヴァが大きな動きを見せぬまま風架の方へ視線を向けると、彼の背後に氷刀が突き刺さる。
 それは忠志に弾き飛ばされた後、今までずっと舞台上で潜んでいた氷刀であり、その刃からは氷の衝撃波が放たれた。
 反応が間に合わなかった風架は氷波に呑み込まれ、身体の一部が凍結、行動の自由を奪われた。
「昔の師匠と今のムラマサ……ノヴァ、貴女の光は何ですか?」
 行動後の一瞬の隙を突くように、魔水によって生み出した水の牙を突き立てんとする雫。
「影とは光が無ければ成りません、貴女と零が見る光は違うものです。今、貴女が進む末路は、本当に貴女が望んだものですか?」
「……私はただ、認められたかっただけなのかもしれないな」
 ノヴァは雫の水牙を易々と見切り、新たに生み出した氷刀を振り抜く。
 雫はその一閃に反応、氷の障壁を生成する事で刃を受け止めるも、押し返されてしまう。

「本当にそれだけ、か? なぁ、ポルックス」
 挑発交じりのアスハの言葉を聞き流したノヴァは、氷神の力で自身の周囲に三本の氷刀を再生成、深く息を吐く。
 自身の本当の名前を聞き、ある種の覚悟を決めたのか、そう呟いた彼女の表情は清々としていた。
「零ちゃんのお手伝いは何か理由があっての事ではないの。ただ純粋に、暇だったから。面白そうだったからよ」
 その返答と共にErieが放つ、蒼褪めた死の車輪。
「ここまで来たら、アンタたちとしてはむしろそっちの方が自然、かもしれないな」
 ノヴァは手にした氷刀、そして再生成した氷刀一本を投擲、迫りくる車輪と衝突させ、威力を弱めた上でそれを回避する。
「……だが、私の過去を覗き見たからには、覚悟は出来ているんだろう?」
 今までよりも凍てついているようで、されども熱の込められている問い。

「弱められない、打ち勝てないなら、空間ごと吹き飛ばせばいい」
 その問いに対するアスハの答えは、一掃だった。
 彼が手をかざしたその瞬間、ノヴァを中心とした一定範囲に、蒼く輝く魔法弾が降り注ぐ。
「…………」
 だが、ノヴァはニヤリと笑い、その場から姿を消す。
 その場に残された氷刀は文字通り一瞬で消滅し、光雨の威力を物語っていたが、ノヴァはアスハの背後に姿を現し、彼を囲み込むように四本の氷刀を顕現させた。
 アスハはそれに反応、後退しつつ防御を試みるが、四本の氷刀は彼を逃さず、ノヴァもまた彼を逃がさない。
 精神を練磨させた春樹の射撃が直撃しようとも、ノヴァは一切の揺らぎを見せず、手にした氷刀を含む五本の氷刀でアスハの肉体を貫いた。
「これで二人目――」
「貴女は己の力でムラマサに、貴女の師に何を示すのですか?」
 アスハが倒れた事を確認し、次の狙いを定めようとしていたノヴァを撃ち抜いたのは、風架。
 アスハの救出は間に合わなかったまでも、彼の放った弾丸が肉体を貫いた事で、ノヴァにも消耗が見え始める。

「貴女の中で、少しは動きがありましたか?」
「く……」
 そこへ霧状のアウルを纏った雫が踏み込み、神速の斬撃を浴びせにいく。
 氷刀でそれを受け止めるノヴァだったが、消耗故か、雫の一撃は僅かながらも彼女を押していて。
「幾ら貴女であっても、そう簡単に彼等を倒す事は出来ない。分かっているでしょう」
「小癪なッ……!」
 雫がノヴァを押している隙に零が背後から接近、ノヴァの脚を斬り、確かなダメージを与えていく。
 ノヴァは手にした氷刀で雫を弾き飛ばし、零の離脱を確認した後、Erieの方へ視線を向け、再び三本の氷刀を呼び戻す。
 しかし度重なる被弾の影響か、動作が鈍っており、風架が緋色の風刃を解き放つ事で氷刀を一本破壊、防御すらも許さぬ一撃で彼女をよろけさせる。

「アイデンティティや目的、意志、望みや渇望、その他諸々は自分で解決するわ。思うところがあっての事じゃない」
「……踏み込む以外に手は無し、仕方ない」
 Erieがノヴァの状態を見て、再び破滅の空間を現界させようとすると、彼女はその瞬間に姿を消し、消耗しながらもErieの背後を取る。
 破滅の空間は残された氷刀を呑み込み、それらをことごとく破壊するも、Erieの周囲を四本の氷刀が取り囲んだ。
「そんな事で全てを受け入れられたのなら、もっと楽だったろうに、な」
 一瞬ながら青白い光を纏うノヴァの髪と瞳。氷神の力の完全解放は、恐らく目前。
「可能なら貴女の手も掴みたい、貴女の事も理解したい。僕は今でもそう思っています」
 それでも彼女が手を下ろす事を願うかのように、春樹が引き金を引く。

 黒い霧を纏った弾丸は、氷刀五本の展開中で無防備だったノヴァに直撃。それによって展開されていた氷刀が全て崩壊し、彼女の行動を阻止した。
 そこへ自身の分身を従えた零が突撃し、同時攻撃によって、致命打とはいかないまでも彼女の隙を引き延ばす。
「――貴女が望む末路は、本当にそれで間違いないのですか?」
 引き延ばされた隙を利用、雫が再接近して水牙を展開すると、ノヴァは満足気な笑みを浮かべ、彼女の方へ視線を向けた。
「己が存在し続ける為に戦い、己の為に決着をつける。己が己である為に。間違いは無い」
 そして彼女と水牙が接触する瞬間、ノヴァは冷気と共に姿を消したのだった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 永来の守護者・久井忠志(ja9301)
 黒き風の剣士・十三月 風架(jb4108)
重体: −
面白かった!:5人

蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
永来の守護者・
久井忠志(ja9301)

大学部7年7組 男 ディバインナイト
災禍祓う紅蓮の魔女・
Erie Schwagerin(ja9642)

大学部2年1組 女 ダアト
黒き風の剣士・
十三月 風架(jb4108)

大学部4年41組 男 阿修羅
揺れぬ覚悟・
神谷春樹(jb7335)

大学部3年1組 男 インフィルトレイター
天と繋いだ信の証・
水無瀬 雫(jb9544)

卒業 女 ディバインナイト