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マスター:新瀬 影治
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2015/06/22


みんなの思い出



オープニング


 ――文化会館のロビーに立ち、辺りをぐるりと見回す。
 前回の撃退士との戦闘は、中々に興が乗る内容のものだった。面子、内容、そして観察結果……どれをとっても『楽しさ』というものを感じられる。
 それを受け、二度目の戦いに相応しい舞台を用意してやろうと思ったのだが、それでもまだ二戦目なのだ。
 この『舞台』の内部を使うには、まだ早い。あそこに立つ時は、そう……私が奴等を『全力』で叩き潰したいと思った時にしたいものだ。
 楽しめる時間もまた、こうして引き延ばしていかなければ、すぐに幕を閉じてしまいかねない。
 ――私が彼と共に過ごしていた頃と、同じように。
「……ったく、何考えてんだアタシは」
 自分の馬鹿さ加減にうんざりして、頭を横に数回振る。
 余計な考えを頭の外に追い出し、奴等とあの馬鹿女をおびき出す準備をしようとしたものの、集中出来ない。

「はぁ……」
 溜め息を吐き、諦めて文化会館の外に出る。
 私が過去、唯一『楽しい』と思う事の出来た時間と言えば、師匠に見合うだけの弟子になる為に、必死に足掻いていた頃だろうか。
 あの頃のムラマサは冷徹非情な大天使の一人で、私はそんな師匠に追いつく為に、考えられるだけの努力を積み重ねていた。
 必要とあらば幾らでも敵を斬り、必要とあらば幾らでも試行錯誤を繰り返す。
 それらを積み重ねていくに連れ、私は彼に近い場所にまで上り詰め、そしてようやく彼を自分の方へ振り向かせる事に成功した。
 自分の方へ振り向かせると言っても、必要最低限の会話しか交わしてくれなかった彼が、ようやくまともに口を利いてくれるようになった、という程度だが。
 何と言うかあの頃は、本当に私も『女』をしていたような気がする。だがそれ故に、あの頃の記憶は苦手だった。
 ――あの頃の自分は、どう見てもあの馬鹿女の姿と重なっているからだ。

 師の役に立つ為に足掻き、失敗を積み重ね、ようやくその近くに上り詰めたかと思えば、既に変わってしまった現実と直面する。
 そうだ。あの女が正義を追い求め、自分なりの道を見つけ出した頃には、その師匠である正宗を失っていた事と同じだ。
 私はムラマサに追いつく為だけに足掻き、足掻いて、足掻き続けて、それに見合うだけの力を手に入れたと思った頃には、変わり果てた彼と向き合う事となった。
 冷徹非情で、私が憧れていた彼はもう居ない。
 だがあの女が正宗の死を良しとしたように、私もそんな現実を良しとしている。
 ……重なっていた、何もかもが。憎たらしい『自分』の姿と。
「受け入れろって言われた結果がこれさ、ハハッ……」
 私があの女に「零」という名をつけた理由。私があの女を選び、何だかんだ言いながらも今も観察を続けている理由。
 それは彼女を私の『分身』にする為で、それと向き合う事で自分の全てを受け入れる為だ。

 かつての私も道具と呼べる生き方をしていた。道具という立場では満足がいかず、必死に足掻く事で自分という存在を確立させた。
 師の為だと、恋愛感情にも似た複雑な感情に突き動かされるがままに、力を振るい続けた。その結果に生み出されたのが、この現状だ。
 後悔はしていない。満足していない訳でもない。だがそれでも、求めていた物と違う。
 過去の自分の立場に立って現状を見つめてみたその時、私は後悔にも似た感情を抱いた。私は本当にこのような結末に辿り着きたかったのか、と。
 師の為に戦い続けたその果てに生み出されたのは、疑問。
 それで良いのか? 何かが違っているのに何故それを良しとする? 何故私は犬のように今も戦い続けている?
 それらの疑問を突き詰めていくに連れて、私は最終的に、新たな疑問を抱く事となった。
 ――私の在り方は、本当にこんなもので良かったのか? と。

 結局はどこかで妥協を許さなければいけない訳で、自分自身が辿ってきた過去を覆したいという願望は無いが、しかし『答え』を得る為には、自分の在り方を見つめ直す必要性があると判断した。
 その『自分を見つめ直す為の道具』として作り上げたのが、使徒の零だ。
 自分の力、氷刀の名前を「ゼロ」ではなく「レイ」に変えて、あくまでも自分の分身として彼女に名を与え、力を与えた。
 師に追いつく為、と戦い続けてきたその果てに得た力でさえも、その名を変えて、彼女の力の一つとしてその身に埋め込んだ。
 Absolute Zero。
 絶対零度。
 あの技を、正宗を通して彼女に埋め込んだ理由は、言うまでもなく、零を可能な限り自分の姿に近付ける為。

 ……と、そこまでしてきたにも関わらず、結局今になっても私は、自分の在り方というものを受け入れられていない。
 楽しいと思える事を探し、変わってしまったムラマサと同じ物を見る為に戦い続けている今、もう一つ足りない事と言えば、零を通じて自分を見つめ直す事。
 ムラマサと同じ場所に辿り着き、自分の在り方を良しとしたその時、私はようやく自分が望んだ『結末』に辿り着けると信じている。
 その結末というものが自分の死なのか、それとも撃退士と共に零を斬り伏せる事なのかは、私にも分からない。
 だがそれでも私は、この戦いの結末を良しとする為だけに、今もこうして戦い続けているのだろう。
 ムラマサは変わってしまった。だが変わってしまった彼に対しても、私は憧れに似た感情を抱いている。
 現実を受け入れ、全てを楽しめる存在になったのなら、生きる事がどれだけ楽しくなる事だろうか。

 私はそんな彼と同じ境地に立つ為だけに、今日もこうして歩を進めている。
 ……まぁ、良く考えれば今も昔も変わっていないという事に関して言えば、やはり私と零は『同じ』なのだという事になるが。
 結局は私も零も、最後の最後まで『弟子』として生きようとするのだろう。
 そう考えてみれば、あの女の生き方も悪くない気がしてきたのは、もはや言うまでもなかった。
 ――ではこの気分が変わらぬ内に、奴等ともう一度、手合わせをするとしよう。
 今回の舞台は、ようやくこの戦いが『本題』へ向けて動き出したという意味を込めて、ロビーにする事にする。
 奴等の動き、そして彼女の動き。それら全てをこの目に焼き付けて、結末に向けての歩みを進めて行こうと思う。


前回のシナリオを見る


リプレイ本文


 ――前回の戦場となっていた文化会館前には、今回はノヴァの姿は見当たらず、零と合流した六名の撃退士はノヴァとの戦闘に備え、それぞれの準備を始めていた。
「また、この武器を使う事になるとは、な……。後ろを頼む、ぞ。レイ」
「出来る限りの事はするわ、任せて」
 アスハ・A・R(ja8432)は髪を纏め、零に背中を預ける事にしたようだが、それでもノヴァは、零を凌駕する程の機動力を持っている。
 それを知っている零は、自分の出来る事は全て的確に成し遂げんとする姿勢を見せているが、それでも彼女が自身の主たるノヴァを凌駕する事は無い。
「……それと、何があっても奥義は使うな」
 アスハは過去のノヴァの発言が引っかかっているらしく、それを踏まえ、零はどのような状況であっても奥義を使わない事を約束した。

「あの人もさ、零さんみたいに分かり合える気がするんだ。だから、その為にも一緒に頑張ってくれるかな?」
「ええ。これは私が始めた戦いでもあるのだから、それを頼むのは私の方よ」
 ノヴァの説得を視野に入れる神谷春樹(jb7335)の言葉を聞き、零は肩を竦め、ふっと微笑む。
「でも、ノヴァを説得する事はそう簡単な事じゃない……むしろ不可能と言っても良い。それだけは頭に入れておいて」
 零はノヴァの背後に居る人物の姿を思い浮かべ、春樹に言葉を返す。
 理想を抱く事はあれど、それを現実に変える事は容易くない――そんな雰囲気を纏う零だったが、六名の準備が完了したと判断し、文化会館内部へ突入していく。

 ――零を含め七人が文化会館のロビーに入ると、それを待ち侘びていたと言わんばかりに彼等の姿を捉えるノヴァ。
「前もこの文化会館でしたが……何かあるんです? 此処に」
「アタシにとって、アンタたちとの戦闘に於いて、此処は良い舞台になるというだけの話さ」
 十三月 風架(jb4108)がノヴァと視線を合わせながら問うと、彼女は隠す事も無く答え、ニヤリと笑う。
「……さぁ、もう少し力を入れていこうじゃないか!」
 その瞬間にノヴァは右手を振り上げて冷気を解放、Erie Schwagerin(ja9642)、アスハ、風架の三名に狙いを定めた。
「中途半端、不完全燃焼、消化不良……どれをとっても生ぬるいわぁ。満たされない、渇いてる」
 そして三名の付近に幻影が出現した瞬間、零が先読みの一閃によってErieを守り、Erieを除く五名が即座に行動を開始する。

「その攻撃、俺が全身全霊を持って受け止めよう!」
 久井忠志(ja9301)は比護の翼によって風架を護衛、自らがダメージを負う事で彼の行動をサポートする。
 それによって残る幻影は一体となったが、それに狙われているアスハは、幻影を臆さずノヴァへの攻撃を狙う。
「へぇ、今回はスピード勝負で来ないのかい……?」
 幻影はアスハに斬撃を命中させ、彼は少なくないダメージを負う事となったが、それでも彼は、ノヴァから目を離さない。
 そんなアスハの動きを見たノヴァは、彼がそのまま攻撃を仕掛けてくる事を予測、氷刀を生成して迎撃の構えを取る。
「舐めるな……この程度、撃ち抜き慣れている」
「……何?」
 被弾しても尚、正面から挑み来るアスハに若干の油断を抱いていたのだろう。
 彼の右腕に集中したアウルと魔力によって生成されたバンカーは、杭状に凝縮されたアウルを射出、氷刀もろともノヴァを撃ち抜いたのだ。

「――この風、避け切れますか?」
「そうさな……アタシも少し、油断していたみたいだね」
 アスハの攻撃タイミングに合わせて接近してくる風架を捉え、ノヴァはフッと笑う。
 即座に生成された氷刀を構え、風の虚像を利用した風架の連撃を凌ごうとするノヴァだったが、彼の刃は氷刀と接触、それを打ち砕いた。
 しかし氷刀との接触によって攻撃の軌道が逸れ、斬撃はノヴァの頬を掠めるに留まった。
「前回のアレじゃあ、満足なんか出来ないのはお互い様なのよぉ。後ろでちまちまヤるのがどれだけ苦痛か……貴女なら分かるでしょぉ?」
「勿論分かるさ、当然だろう?」
 Erieを挑発するかのようなノヴァの物言いだが、彼女はErieの行動を予測、その姿を視界の中心に捉える。
「だから、ね? 今回は縛り無しよぉ〜、思う存分遊んじゃうからぁ♪」
「やってみると良いさ。アタシの機動力、そしてこの眼を超えられるかい?」
 Erieは『死の車輪』を展開、閃電を纏うそれがノヴァを轢殺せんと放たれるが、彼女はその瞬間に姿を消し、何処からか氷刀三本が飛来する。
 一本はErieから少し離れた場所に、また別の一本は天井に、最後の一本はErieと零が居る場所の正反対側に突き刺さった。

 春樹は今までのノヴァの行動から彼女の行動を予測、撃退士から最も離れた場所に刺さっている氷刀に目星をつけ、足音も立てずにその後ろへ回り込む。
 すると、どうだろう。春樹が目星をつけた氷刀の上に、ノヴァが現れたではないか。
「卑怯でゴメン。でも、貴女には手段を選んで追いすがれるとは思わないから。この暗殺者みたいな戦い方が、僕の全力だ」
 幾らノヴァの機動力、眼が優れていても、それらの裏を取る手が無い訳ではない。
 春樹はノヴァの元へ急接近、至近距離から三連続の銃撃を見舞う。
「行動予測、回り込み……卑怯とは思わない、立派な戦術の一つだ」
 初弾がノヴァの肩を掠めると同時、彼女は春樹の姿を捉え、氷刀を蹴って宙を舞う。
 残る二発の弾丸は命中せず、宙を舞ったノヴァは、天井に刺さっている氷刀に足をつき。
「しかし、そういう暗殺者は正面からの攻撃には弱いもんだろう? だからこそ裏を取るんだからね!」
 ノヴァは再び氷刀を蹴り、瞬時に春樹の元へ接近、手中に呼び戻した氷刀で春樹の腹部を貫いた。
 腹部を貫かれた春樹は何とか意識を保つも、もはや体力的には限界。
 その隙に零は氷剣を放ち、天井に刺さっている氷刀を破壊。ノヴァは春樹を蹴り飛ばし、側面を取った忠志の方へ振り向く。

「あんたは前に、楽しむ為に戦うと言ったな。それ以外に楽しむ事を見つけられないのか? だとしたら、哀れだな」
 ノヴァは忠志の攻撃を氷刀で受け止め、彼と睨み合う。
「哀れ、ねぇ……随分と言ってくれるじゃないか?」
「あんたは零を嫌っているみたいだが、心の奥底ではどうだろうな。以前、あんたは彼女を助けた事があるが、それは何故だ?」
 忠志が挑発するようにそう言うと、今まではニヤニヤと笑い続けていたノヴァの口元が引き締められた。
「そろそろ、アンタたちも気付いてるんじゃないのかい?」
 ノヴァは氷刀を握る手に力を込め、忠志を押し返さんと一歩、足を引く。
「――前回は消極的過ぎました、今回は全力で攻めに行かせてもらいます」
 そこで接近、冷気を纏っての一閃を叩き込まんとするのは、水無瀬 雫(jb9544)。
 彼女に気付いたノヴァは氷刀を一閃させて忠志を押し返し、雫の一閃を回避、冷気で形成された刃による二閃目までもを易々と避け切る。
 だが、この時点でノヴァはErieと春樹を除く四名に包囲されており、彼女は一本の氷刀を両手で構え、様子見に徹しているようだった。

「アタシも結構な数の戦いを潜り抜けてきているもんでね……こういう状況には慣れてるんだよ」
 一切の揺らぎを見せないノヴァを警戒しつつ、零は残る一本の氷刀を破壊するが、Erieが魔術の展開を開始したその時、ノヴァの目が動く。
「戦いを楽しみたいって言ってたでしょ? 言ったわよねぇ? 嘘じゃないなら楽しみなさい、楽しくしてあげるからぁ♪」
「言ったさ。言ったからこそ、ここまで楽しんでるんだ。一瞬でも気を抜けば何かしらの一撃が飛んでくるこの感覚、文句無しだね……!」
 零がErieの傍に戻り、それを受けてErieが『正義の柱』を展開、無数のギロチンを形成すると、ノヴァが一歩前に踏み込んで。
「――でもね、それは自分が貫かれる覚悟を決めている者がするからこそ意味があるんだよ!」
 分かっていても避けられる訳が無いだろう? と言わんばかりの踏み込み。
 氷影による背後への瞬間移動、そして氷刀を用いての攻撃。
 氷刀はErieの腹部を貫き、もはや零の護衛でさえも、この攻撃に対しては無意味となっていた。
「壁がこっちに来ていたとは言え、さすがに甘いか……。威力より確実性を求めたんだ、仕方のない事だね」
 ノヴァが氷刀を引き抜くと、Erieは地面に倒れ込んだが、彼女の意識を奪い去るには至らなかったようで。

「正宗の極みの三連撃に比べれば、全てどうとでもなる!」
 脚に集中させた風を利用、爆発的な機動力でノヴァの元へ急接近した風架が、Erieへの追撃を防ぐ為にも、再び風の虚像を利用した連撃を仕掛ける。
「ちっ、面倒な事をしてくれる……!」
 隠そうともせずに毒づいたノヴァだが、風架の連撃は氷刀を打ち砕き、離脱を試みる彼女の腕に刃先が掠める。
 そこで更に春樹が、黒い霧を纏った弾丸を発砲。追撃を試みるも、ノヴァは氷刀でそれを防御、Erieや風架の元から離脱した。
 だが彼女が離脱した先、彼女が目指す進路上に立っているのは、忠志、アスハ、雫。
 忠志はノヴァが近くに来たタイミングで目にも留まらぬ一撃を放ち、彼女の足止めを狙う。
「どれだけアタシを狙おうが、アンタにアタシを撃ち貫く事は出来やしない。それでも尚、アタシに直接当てに来ようとするのは……何故だい?」
 ノヴァは敢えて立ち止まり、忠志の攻撃を受け止める。まるで彼の『意思の重み』を確かめるように。
「確かに速く、鋭い。だが、軽い……貴様の刃には、レイのような重さがない」
 そこへアスハが『光槍』、槍状に収束させたアウルを撃ち放つと、不意打ちのような一撃に若干ながらノヴァの反応が遅れ、それが彼女に命中する。

「重み、な……その重みとやらが何を意味しているのか、それが分かる自分が憎いもんだね」
 光槍はノヴァの力を鈍らせ、複数回攻撃を受けた事で余裕が無くなってきているのか、彼女の顔からは不気味な笑みが消えていた。
 だが雫がノヴァに接近、冷気を用いた二閃を仕掛けようとすると、彼女はニヤリと笑い、雫の横を駆け抜けるようにそれを回避する。
 そしてノヴァは七人の方へ向き直り、一度攻撃の手を止めるように言うと、息を吐いた。
「随分と面白い事をさせてもらったからね、話そうじゃないか。でも話し終わったら、そこから先は本気の殺し合いだ……アタシも、いや私も本気を出そう」
 ノヴァは被っていた物を捨てるように、その一人称を訂正し、今までとは違う、真剣な眼差しで七人を見回す。
「彼女は私の分身だ、過去の私を模した影。それ故に見ていて不快だった、何故そのような物を見つめなければならないのかと憤りを覚える程に」
「確かに似ているのかもしれません。ですが、貴女と零は違います」
「違う、確かに違うと言えば違う。だが異なる様々な部分を含めても、それと私が歩んできた道は重なっているんだ」
 雫に指摘されるも、ノヴァが言葉を止める事は無く。
「だからこそ私は零を助けた、かつての私と重なっていたから。私の影となる前に潰れてしまえば、そもそもの話として意味が無くなってしまうからね」
「つまりは同族嫌悪で、見過ごせなかった訳、か……存外優しいな」
 アスハの言葉を聞き、そんな事を言われたところでな、と肩を竦めるノヴァ。

 彼女――ノヴァと零は、こうして『結末』に至った後の姿は違えど、今までに歩んできた道に限っては、全てが完全に重なっていたのだ。
 最初はどちらも道具のような存在だったが、自らが欲した物を手に入れる為だけに幾多の苦しみを乗り越え、最終的に『望んだ物と違う結末』に辿り着く。
 師の為に戦い続けた果てにノヴァの中に芽生えたのは、疑問。
 師の為に戦い続けた果てに零の中に芽生えたのは、正義。
 その違いが唯一にして最大の差、しかしそれ以外はことごとく重なっている。だから彼女は、彼女たちは、氷と影なのだ。
 ノヴァを氷とするのなら、零は影。零を氷とするのなら、ノヴァは影。
 主と使徒、そんな事は関係無い。彼女たちが今まで歩んできた道に限って言えば、全てが完全に重なっている。
 それ故に彼女たちは、どちらにでも成り得る。影である筈の者が氷となり、氷である筈の者が影として消え去る事もまた、可能性の一つとして存在していた。

「――そういう事さ。零は私が自分を見つめ直す為の影であり、それだから私は彼女を嫌っていた」
「足掻いた後にあったのは、変わった師の飼い犬になっている自分か、師の代わりに仲間を手に入れた分身か。要するに、嫉妬ですか」
 ノヴァがそこまで話し終え、それを聞いた風架がそう返すと、彼女はどうだろうな、と鼻で笑う。
「私には、貴女が停滞しているように見えます。諦め、妥協し、今の環境に甘えているだけのように」
「……何?」
 だが、風架に続いた雫の言葉を聞いて、ノヴァの表情が険しくなった。
「零は師が死んだと知って尚、己が信じた道――正義を歩んでいます。少しでも状況を変えるために戦い続けている。そんな彼女と貴女は、やはり違うと私は思います」
 雫の言っている事は、事実。ノヴァはそれを認めている為か、彼女の方を真っ直ぐ向きながら、氷刀を構える。
「肯定も否定も、後は言葉ではなく刃に乗せてください。水無瀬の名に懸けてその想い、人々の安寧の為、打ち砕かせてもらいます」
「水無瀬……分かった、それならこの一撃をくれてやろうじゃないか」
 ――その瞬間。一瞬だけだが、ノヴァの髪色が白く染まり、その瞳もまた、透き通った水色へと色を変えた。

「本気で殺りにきな、正面から行くよ!」
 髪と瞳の色が元に戻るのと同時、ノヴァは雫の正面に瞬間移動、五本の氷刀で彼女を貫かんとする。
 そこへErieが閃雷を纏った車輪を放ち、一本の氷刀を破壊。しかし春樹の回避射撃は意味を成さず、アスハ、風架の支援は間に合っていなかった。
 だが雫は霧状のアウルを身に纏い、臆さずに前進、神速の斬撃を繰り出す。
 それと同時に氷刀四本が雫の身体を貫き、彼女を一撃で行動不能に追い込んだが、彼女の一撃もまた、ノヴァに命中していて。
「成る程……これは本物だね、重みがある」
 遅れて飛来したアスハの光槍を即座に回避するノヴァだが、雫の反撃を受けた事でそれ以上の行動がままならず、そんな彼女の隙を風架が捉える。
 血液で形成された手甲を用いての一撃により、風架がノヴァを氷刀ごと吹っ飛ばすと、着地した彼女は地面に膝をつき、満足したような笑みを浮かべた。
「……仕切り直しといこうじゃないか、舞台に見合うだけの役者は揃ったみたいだからね。もはや、この力を使っても問題無いだろうさ」
 今回は七人の勝ちだと言わんばかりにそう呟いたノヴァは、七人を残してこの場から撤退。
 ノヴァが消え去ったロビー内には、より一層冷たい冷気が漂っていたのだった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 黒き風の剣士・十三月 風架(jb4108)
 天と繋いだ信の証・水無瀬 雫(jb9544)
重体: 天と繋いだ信の証・水無瀬 雫(jb9544)
   <反撃成功の代償に剣舞・氷華を受ける>という理由により『重体』となる
面白かった!:4人

蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
永来の守護者・
久井忠志(ja9301)

大学部7年7組 男 ディバインナイト
災禍祓う紅蓮の魔女・
Erie Schwagerin(ja9642)

大学部2年1組 女 ダアト
黒き風の剣士・
十三月 風架(jb4108)

大学部4年41組 男 阿修羅
揺れぬ覚悟・
神谷春樹(jb7335)

大学部3年1組 男 インフィルトレイター
天と繋いだ信の証・
水無瀬 雫(jb9544)

卒業 女 ディバインナイト