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マスター:新瀬 影治
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/05/23


みんなの思い出



オープニング


 ――師である正宗の死。そして、自身の主であるノヴァへの反逆を企ててから、早くも二ヶ月以上が経つ。
 あれからと言うものの、単独でノヴァの動向を追い続け、来る戦いに備えていた訳だ、が。
「…………」
 自分の手のひらを見つめ、息を吐く。
 そう。ノヴァへの反逆を企ててから二ヶ月以上経っているにも関わらず、私の力は衰えていないのだ。
 通常であれば『主』は、使徒が反逆を企てたと知ったその時点で、使徒へのエネルギー供給を断つものだ。
 普通であれば。特別な理由が無いのなら。
 しかし、こうしてノヴァが私を『敢えて生かしている』ところを見るに、彼女は私にまだ何かしらの『価値』を持っていると見て間違い無いだろう。

 ……では、その価値とは何だろう?
 撃退士への洗脳実験は既に失敗に追い込まれた筈、それにも関わらずまだ私を『観察』し続ける意味があるのだろうか?
 これに関しては、ノヴァ個人の判断で動いているようには思えない。ノヴァがこのような行動を起こすとすれば、思い浮かぶ原因はただ一つ。
 私の師である正宗の主、そしてノヴァ自身の師匠――ムラマサが背後で何かしらの行動を起こしている可能性が高い。
 私はある種の『実験体』としてノヴァの使徒となり、その観察対象となっていた。
 即ち、観察対象である私が今も生かされているという事は、まだ観察を行う事に意味があるという事になる。
 なら、彼女たちは一体『何』をしようとしている? 私の観察を通して、失敗した筈の実験を再開しようとしているのだろうか?

 ――だとすれば。ノヴァを倒し、何としてでもそれを防がなければ。
 今の私には、強力な仲間が居る。かつて殺し合いを行っていた筈の敵は、今や頼もしい味方になっているのだ。
 臆する必要は無い。彼等なら、彼女たちなら、きっとこの『企み』も無事に打ち砕いてくれる。
 そうした先でノヴァを倒し、全てに終止符を打ったのなら――その時は私も、氷のように消えていく事が出来るのだろうか。
 私が犯した過ちは、言葉や行動で購えるようなものではない。
 故にそれを清算するのであれば、死を選ぶか、或いは生きて罪を背負い続けるかの二択になる。

 道具としての人生、その果てにようやく見出す事の出来た自分の正義。
 それに準じて行動するのなら、私はどのような『結末』に辿り着くのが良いのか。
 だが、少なくとも今はまだ、私に『終わり』を選ぶような余裕は無い。
 そもそもの話として、主であるノヴァを倒すという事は、自らの生命線を断つに等しい行為なのだから、そこから先の事は『見えない』と言った方が正しいのだろう。
 ――だから。今はまだ、ノヴァを倒すまでは、先の事は考えないでおこう。
 良くも悪くも、その先の事は現時点では考えられないのだから、目の前の戦いに専念した方が、よほど賢明だ。
 私の主は、倒すべき相手であるノヴァは、この近くに居る。
 どうやら私達は、まだこの『舞台』から下りる訳にはいかないらしい。


 氷刀・零。この私が操る氷神の技にして、使徒――観察対象となった、あの馬鹿女につけた名前。
「全く、あの師匠は何考えてんだろうね……」
 ぼやくように、この『舞台』を歩きながら一人で呟く。
 自分の師匠であるにも関わらず考えている事が分からないのは、もはや今に始まった事ではないが、それでも今回に限っては尚更、意味不明だった。
 何故なら師匠は――ムラマサは、私が戦う為の『舞台』を用意していたのだから。
「ノヴァ。君は敢えて零を生かし続け、その動向を観察してくれ。撃退士と組んだ使徒、類を見ない程に興味深い観察対象だ……それをみすみす逃す訳にはいかないよ」
 ムラマサはそう言って、私に零へのエネルギー供給を続けるように命令してきたのだ。
 それを呑んだ私自身も正直どうかと思っているが、しかし……まぁ、自分の師匠の言う事なのだから、それに従うのも悪くないだろう、と思っている自分も居る。
 そう考えてみると私は、あの馬鹿女と同じように、師匠を溺愛している事になるのかもしれない。

 この実験はもはや趣味の域だ、この実験の果てに君は死ぬ事になるかもしれない。
 ――それでもノヴァ、君は師である僕に付いて来てくれるか? と問われて、私はすんなり首を縦に振ってしまった。
「アタシは犬か、本当に……」
 今更ながら、自分の馬鹿さ加減に呆れて、額に手を当てる。
 ……しかし、この『実験』と呼ばれる行動を開始してからというものの、ムラマサは本当に変わった。
 私が本当の意味で、彼の弟子として修行に励んでいた時は、彼はもっと冷たく、そして残酷な内面をしていたから。
 私はそんな冷たい彼に憧れて弟子入りをした訳なのだが、もはや今となっては、彼は『面白い事』を追い求める子供のような存在に成り果てている。
 いや、子供と呼ぶには頭が良すぎるか。しかしその行動原理に関しては、子供のそれと似通っている。
 では、私が今の彼に対して不満を抱いているのかと問われれば、それもまた違うのだが。
 何が言いたいのかと言うと。私は何故このような事をしているのか、今更ながら訳が分からなくなっているのだ。
 だが訳が分からないながらも、私は撃退士、そして自身の使徒と戦う事に大きな意味を見出している。

 今の彼が口癖のように言っている、楽しむという言葉。私はこの戦いに、その『楽しみ』という戦う理由を見出していた。
 戦い続けたその果てに、例え死が待っているのだとしても、そうする事で彼の役に立てるのなら、彼が感じているものと同じ楽しさを感じる事が出来るのなら、それで良いと思っている。
 用意された舞台、この文化会館。私以外には誰一人として人影が見当たらない、広い空間。
 今はまだ、この場所を血で汚すのは勿体無い。この大ホールを戦いの舞台として使うその時は、最高の局面を迎えている時でなければ。
 あの馬鹿女も、この私も、そして撃退士も。この『舞台』に立ち、彼の『シナリオ』に沿って踊っているだけの私達は、ただの『役者』に過ぎないのかもしれない。
 だがそれならそれで、最高の舞台に仕上げてやろうじゃないか。この私が、自らの手を以てして、面白みに満ちた戦いを用意してみせる。
 氷で形作られた、透き通っている刀を手の中に生み出して、それを前に向ける。
 今回の戦舞台は、外……前哨戦といこう。あの女との、撃退士たちとの再開を祝して、私が自ら手を下してやろうと思う。


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リプレイ本文


 某日、文化会館付近。作戦開始直前、そこには零と六名の撃退士の姿が。
「零が味方と思うと、何だか妙な気分になるな。ともかく、今回からよろしく頼む」
「ええ、此方こそ」
 久井忠志(ja9301)が零に向けて軽く挨拶をすると、彼女はそれに答え、仲間として共に戦う意思を見せた。
 またそれと同時に彼女は、自分の力はノヴァには通用しないという事や、彼等にはまだ見せていない『零閃』に関する情報を共有する。
「力が及ばない事は理解しました。ですがそれを踏まえて、一つお伝えしておきたい事があります」
 話を聞き終えた十三月 風架(jb4108)が改めて切り出すと、零は軽く首を傾げる。
「ようやく安心して逝く事が出来る。生きろ、私の分まで。私は先に逝っているぞ」
 風架の言葉を聞いた途端、彼女の動きがピタリと止まった。

「貴女に向けて、一正宗が最期に残した言葉です。どう受け取るかは、貴女にお任せします」
「……そう。ありがとう、わざわざ伝えてくれて」
 ようやく零に伝わる事となった、彼女の師の言葉。それを彼女に伝えたのは、かつて正宗と戦っていた『敵』だという事実。
「なら尚更、戦わないといけないわね。自分の信じた道の為に」
 正宗の最期の言葉を聞いた零は、口元を緩め、優しい視線を風架の方へ向けた。
「零さん、頼りにしていますよ」
 そんな神谷春樹(jb7335)の言葉を受け、零が真剣な表情を見せたところで、七人はノヴァの居る文化会館前へと歩を進める。

 そして文化会館前に進むと、そこでは、待ちくたびれたと言わんばかりに氷刀を握っているノヴァが立っていた。
「初めに名乗っておこう、俺は久井忠志。俺は正々堂々、正面から勝負をしよう」
「……へぇ、随分肝が据わってるじゃないか。アンタみたいなヤツは、嫌いじゃないよ」
 忠志が名乗ると、ノヴァは今まで手に持っていた氷刀を宙に浮かせ、それを消滅させた。
「さぁてと……情報収集するなら、あんまり暴れても仕方ないしぃ、ちまちまやりますか」
 Erie Schwagerin(ja9642)はそう言って後列に下がり、零に護衛されるような形で、戦う姿勢を見せる。
「すっかり寝返っちまって、馬鹿馬鹿しい事この上ないよ……まぁその女の事だ、こうなる事は最初から分かり切っていた事だけどね」
 零を愚弄するようにニヤリと笑ったノヴァだが、まぁそれも一つの判断だ、と続ける。
「貴女の目的は何ですか? この一戦じゃなく、これから始まる戦いでの目的が知りたい。例えば、零さんが正義を求めていたみたいに」
「んなもん簡単な事さ、楽しむ為だよ。馬鹿みたいに正義だの何だのと自分を肯定する為の言い訳を探してきた女とは、一緒にしないでもらえるかい?」
 春樹の問いに、ノヴァは即答する。

 しかし、そう言って撃退士の元へ歩み寄ろうとする彼女の姿は、かつての零の姿と重なっているようにも見える。
 一本に結び上げられた紫色の髪、凛とした立ち姿。髪色、顔、異なっている点は数あれど、その冷たさなども含めて、零とノヴァの姿は酷似していた。
「アタシは命令を受けているとは言え、常に自分の考えの下で動いてる。道具みたいな生き方をしてきたこの女とは、根っこの部分から違っているんだよ」
「では、風刃の主と氷刃の主……どっちの方が強いんですかね」
「さて、ね。それは実際に戦って確かめてみれば良いんじゃないかい? どうせ今回は、偵察戦なんだろう?」
 風架が風を脚部に集中させ、ノヴァに挑まんとすると、ノヴァもまた氷刀を生み出し、立ち止まってヘラヘラと笑う。
「なるほど……これがあの天使の言う『彼女』、か」
「おや、これは驚いた……あの戦乙女に会ってるって事だね?」
 ノヴァは若干考え込むような素振りを見せたが、アスハ・A・R(ja8432)が氷刀を見ているところから、ある天使の姿を思い浮かべたらしい。

「良いねぇ、面白い面子じゃないか……こりゃ久々に面白い戦いが出来そうだ」
「レイ、いや、ミヅキ、で良いの、かな……? 背中は預けるぞ」
「了解、任せて。ただ、出来る事なら本名は止して欲しいわね」
 ノヴァは笑いながらも冷たい視線をアスハに向けるが、彼の呼びかけを受けた零とて、負けるつもりは無いらしい。
「何故、計画が失敗したにも関わらずまだ戦うのですか?」
「戦いたいから戦う、試したいから試す。それ以上の事は無いよ、先手はそっちに譲ろう」
 水無瀬 雫(jb9544)が問おうとも、ノヴァはそれ以上の事を答えない。
「……今後の為に、少しでも多くの情報を手に入れないと。行きましょう」
 春樹がノヴァの裏を取る為に行動を開始するのと同時に、Erieと零を除く四名がノヴァとの距離を詰め始める。

「ノヴァの動きは私よりも更に速いわ、それこそ先読みが重要になる程に。だから、絶対に気を抜かないで」
 零の言葉を受けて警戒を強める六人だったが、四人が迫ろうとも、ノヴァは棒立ちのまま動きを見せない。
 そのまま春樹がノヴァの背後へ回り込み、マーキングの為に特殊な弾丸を放つと、それはノヴァの背中に命中する。
「小細工をされようがどうとも無いって事を、見せつけてやろうじゃないか」
 どうやらノヴァは敢えて春樹の弾丸を受けたらしく、風架に側面を取られてから、ようやく動きを見せた。
 風架は自らの血液を足元に零し、それを針のような形へと変化させ、ノヴァを貫かんとする。
「……!」
 見慣れない技である事に加え、狙いが的確であった為に、ノヴァの目の色が一瞬変わったが、彼女はそれを命中寸前で回避した。
「ったく……ムラマサはともかく、完全に初見でこうも避けられると、さすがにへこみますね」
 血針を避けられた風架は、そのままワイヤーを使って行動の妨害を試みるも、それすらも氷刀で弾き返されてしまった。
「アンタがアタシの師匠とどういう関係かは知らないけど、それなら見せてやろうじゃないか!」
 そのままノヴァは二本目の氷刀を生成、左手でそれを構え、風架に反撃を仕掛けようとする。

「あんまり攻撃手段は見せたくないのよねぇ……。でもぉ、この状況なら仕方ないわねぇ」
 Erieは風架の援護をするべく、即座に後方から攻撃を行い、ノヴァを風架から引き剥がそうとする。
 彼女の攻撃に気付いたノヴァは、氷刀二本を瞬時に消滅させた後、風架を壁のように使って跳び返っていった。
「どうだ。この戦い、楽しいか? ノヴァ」
 忠志はノヴァの動きに反応、その着地地点へ向かっていき、輝きを宿した武器で真っ向から彼女に斬りかかる。
「戦う前から面白そうな気がしてただけあって、中々さ。それでも、まだ全然足りないけどね!」
 だが、ノヴァはそれをいとも簡単に回避し、忠志に続いて正面に姿を現したアスハの方へ視線を向けた。
 アスハは忠志よりも少し離れた場所から、蒼き焔を宿した拳を突き出す。
 その焔は焔としての性質を持たないまでも、ノヴァはそれを警戒したのか、それを流れるように回避して、氷刀を右手で構える。

「行かせてもらうよ、今度こそ!」
 そのまま彼女は尋常ではない速度でアスハの側面へ駆け寄り、氷刀を振り抜いた。
 アスハはそれに咄嗟に反応、バンカーを盾にするように構え、Erieが更にアウルで作られた鎧を彼に纏わせる。
 だがそれにも関わらず、ノヴァの一撃はアスハにある程度のダメージを負わせた。
「出来る事なら、剣を収めて戴けませんか? 私は――」
「無駄だよ、アタシはアンタたちと戦う為に此処に居るんだ。その意味、理由を捨てる訳にはいかない」
 雫は呼びかけを続けるも、ノヴァは一切譲ろうとはせず、それを受けた彼女は氷刀を打ち砕こうと、刀への直接攻撃を仕掛ける。
「どうしてもアタシに何かをして欲しいって言うんなら、その力でねじ伏せてみせな! 言うだけじゃ何も変わらないよ!」
 しかし、ノヴァはそう言うのと同時、その場から姿を消した。
 そして数秒も経たぬ間に、接近戦を持ちかけてきた四人の中心へ姿を現し、その氷刀を地面に突き刺す。
 すると、波が広がるかの如き勢いで、突き刺された氷刀を中心とした一定範囲の地面が凍り付いた。
 忠志は即座にそれに反応、庇護の翼によって風架を守るが、アスハ、雫はそれぞれの技で防御を試みる。

「っ……!」
 それを見た零は反射的に飛び出そうとするも、その感情を抑え、Erieの傍を離れようとはしない。
 だが結果として、風架を庇った忠志、防御を図った雫は、氷波の威力に敵わず、その場で凍り付いてしまった。
「含みがあるように思えましたが、本当に目的はそれだけなんですか?」
 ノヴァへ呼びかけるのと同時に、その背後から春樹が黒い霧を纏った弾丸を放つ。
 それに気付いたノヴァは氷刀を消滅させ、咄嗟の回避を試みるも、弾丸は彼女の肩を掠めた。
「――見せてください。貴女とムラマサ、どちらが強いのか!」
 その隙を突くように、再び風架がノヴァの側面を取り、血針で彼女の身体を貫かんとする。
「ちっ、本当に厄介なヤツだよ!」
 風架の狙いの的確さが彼女にとっては厄介に思えているのか、ノヴァは宙に生成した氷刀を射出、血針を相殺した。
 ノヴァの視線が風架に向いている隙を利用し、Erieはアウルの光をアスハに送り込み、その傷をほぼ完璧に治療する。

「……もし一片でも楽しさを感じたのならば、この俺に大技を披露してもらいたい!」
「もう立ち直りやがったのか、本当にタフなヤツだね……肝が据わってるだけある!」
 凍結を打ち破った忠志が再びノヴァに正面から挑むが、ノヴァは新たに生成した氷刀を右手で振るい、その攻撃を受け流す。
「そのぐらいのサービスはしても良いだろう? もし来るのなら、俺も全力で受け止めよう!」
「気に入った、やってやろうじゃないか! アンタの度胸、アンタたちの度胸、試させてもらうよ!」
 忠志に勝負を挑まれたノヴァは、それに乗ると言わんばかりに、両手で氷刀を構え直した。
「オリジナルとデッドコピー…どこまで通じるか、試してみる、か?」
 アスハはその動きを見逃さず、氷上を滑るかのような勢いでノヴァの元へ接近、アウルで作り出した氷の太刀を振りかざす。
「面白い、やってみな!」
 ニヤリと笑ったノヴァは、振り向き様に両手で氷刀を振り抜き、アスハの放つ高速の斬撃とそれを衝突させる。
 すると、アスハの氷の太刀が氷刀を粉砕したが、ノヴァは再びその場から姿を消していた。

「良い斬撃だったよ、それは認める。でもあの技はアタシをオリジナルとするのなら、コピーにすらなっていない。だから、この技をその眼に焼き付けていきな!」
 恐らくノヴァは、アスハの放った一撃が零の持つ技の一種と似通っている事に気付いているのだろう。
 だがそれでも、それ故に、己の使徒の持つ不完全な技の『完成形』があると示す為に、この一撃を仕掛けようとしているのかもしれない。
「アイツが庇うか、アンタが受けるか! でもこの技を使うからには、絶対にどちらかはもらっていくッ!」
 ノヴァが何も無い空間から氷刀を『引き抜いた』途端、アスハの周囲に四本の氷刀が突如出現、彼の事を貫かんとしていた。
 そして次の瞬間、ノヴァが抵抗をも許さぬ速度で彼の身体に氷刀を突き刺すと、他の四本の氷刀もまた、彼の身体を同時に貫いた。
「……蛮勇だね、自分が倒れる事も臆さないとは」
 その攻撃を受けたのは、忠志。比護の翼によってアスハの代わりに全ての氷刀を受けるも、その威力の絶大さに、力尽きてしまった。

「無駄だと分かり切っての事ですが、此方側へ来る気も無いのですね?」
「無い、最初から言ってるじゃないか――ッ!」
 最後の確認と言わんばかりの雫の問いに、ノヴァが即答すると、雫は彼女の足に攻撃を仕掛け、それを命中させる。
 氷華の使用直後という事もあり、完全な不意打ちだったのだろう。雫の攻撃を受けたノヴァは、若干ながらふらついている。
 その変化を見逃さなかった春樹は、咄嗟に銃を持ち替え、物理と魔法、どちらが効果的に打撃を与えられるのかを確認しようとする。
 しかしノヴァは、春樹の放った光の弾丸を氷刀で叩き落とし、二本目の氷刀を左手の中に生み出した。
「見逃しませんよ、絶対に!」
 すると、風架は自らが纏っている風の色を緋色に変化させ、それを拡散させた。
 拡散した風は刃となり、刃となった無数の風が、ノヴァの元へ降り注ぐ。

「……死風に似てるな、正宗とやり合ってる気分になる」
 ノヴァは両手に構えた氷刀で、その風を全て弾き落とそうとするが、緋色の風刃は二本の氷刀を砕き、ノヴァに反撃の隙を与えない。
「こうして見ていると、本当に凄いわね……」
 ノヴァと六人の戦いを見ていた零が、そんな言葉を漏らす。
 だが、それでも彼女は決して表情を変えず、六人の事を信じ切ったように前を向き続けている。
「零ちゃん、誰かに似てると思ったら……。機動力特化の戦闘スタイルも、クールな澄ました顔も、自分の後の事なんて知ったこっちゃないってところも全部、ホントそっくり」
 そんな零の横顔を見ていたErieは、どうやらその姿と自身の姉の姿が重なったらしく。
「放っておいたら、自分で勝手に擦り切れて消えてしまいそうで……そんな姿見せられたら、手伝ってあげたくなっちゃうじゃなぁい♪」
「……ありがとう。でも、気を抜けないのは事実よ」
 Erieの言葉を聞いて、零が視線を向けた先では、今も『仲間』が戦い続けているのだ。故に、気は抜けないのだと。
 それを受け、Erieは雫の傷を治療、形勢の立て直しを図る。

「……そろそろ、偵察戦とやらも終わりにしようじゃないか」
 そう言ったノヴァは、素早くErieや風架、雫たちの布陣の中央に立ち、手を掲げた。
「目で三人の姿を捉えて……!? 来るわよ、構えて!」
 それと同時に吹き抜けるのは、冷気。それに気付いた零は、呼びかけるのと同時にErieの元から離れ、自らの力で発生させた冷気の中へ突っ込んでいく。
「アタシはただ、同じものを見たいだけさ。それ以上の事は、望まない」
 そしてノヴァが何かを切り裂くように手を振り下ろすと、三体の幻影がErie、風架、雫の元に出現、氷刀を振り抜かんとしていた。
 零は先を読んで行動していた事もあり、Erieの元に現れた幻影を破壊するが、幻影に狙いを定めた春樹や、零の型による移動でノヴァの側面を取ったアスハの援護は間に合わない。
 それどころかあまりにも発動が素早い、初めて見る技への対抗が間に合わず、雫、風架はそのまま幻影に身体を斬られた。
 アスハはそのままノヴァに攻撃を仕掛けるも、彼女は瞬時に冷気となって姿を消し、布陣の外へと離脱していた。
「次はもっと攻めにきな、中途半端な攻撃じゃアタシを殺す事は絶対に不可能だ。その分、ぶつかり合うに相応しい舞台を用意しておくよ」
 殆ど傷を受けていないノヴァは平然とした様子でそう言い残し、七人をこの場に残して去っていくのだった。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: 永来の守護者・久井忠志(ja9301)
 災禍祓う紅蓮の魔女・Erie Schwagerin(ja9642)
重体: 永来の守護者・久井忠志(ja9301)
   <味方を庇い、剣舞・氷華に押し切られる>という理由により『重体』となる
面白かった!:10人

蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
永来の守護者・
久井忠志(ja9301)

大学部7年7組 男 ディバインナイト
災禍祓う紅蓮の魔女・
Erie Schwagerin(ja9642)

大学部2年1組 女 ダアト
黒き風の剣士・
十三月 風架(jb4108)

大学部4年41組 男 阿修羅
揺れぬ覚悟・
神谷春樹(jb7335)

大学部3年1組 男 インフィルトレイター
天と繋いだ信の証・
水無瀬 雫(jb9544)

卒業 女 ディバインナイト