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マスター:新瀬 影治
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/02/23


みんなの思い出



オープニング


 某日、とある高速道路。
 ノヴァに連れられて此処に来た私は、ムラマサとノヴァが二人で別行動を開始した後、そこで『懐かしい後ろ姿』を見つける。
「正宗……」
 私が声をかけると、正宗は私の方へと振り向き、此方へ真っ直ぐ視線を向けてきた。
 ――撃退士との戦闘で痛手を負ったとは聞いていたものの、無事だったんだ。彼は、生きていたんだ。
 最後に彼と会話をしてから、一体どれだけの時間が流れたのかは分からない。
 しかしそれでも、正宗の無事を確認した私は、何とも言えぬ安心感から、胸を撫で下ろす。

「……随分と成長したようだな、零。今の君の瞳には、しっかりと歩むべき道が映っているように思える」
「ええ、私も……あれから色々とあったから。貴方と別れて以来、ずっと撃退士達と戦ってた」
 そんな正宗の言葉を聞いた私は、彼と視線を真っ直ぐ合わせ、そう答える。
 ……でも、何故だろう。今、私の前に立っている正宗は、私の知っている正宗ではないような気がして。
 昔の彼は、名誉と言う物の事だけを考え、私の事を気遣ったような、こんな言葉はかけてくれない人だったから。
「正宗、その眼……何があったの? 私の知らないところで、一体何が?」
 私はそう考えながらも、彼が左眼を斬られている事に気付き、その事について問いかける。
「何、私も撃退士と戦い続けていてな。その中で斬られただけに過ぎない、剣士として戦った勲章のような物だ」
 剣士としての勲章。
 正宗は確かにそう言ったものの、昔のように『それ』に固執しているような様子は無く、彼は何処か晴れ晴れとした表情をしていた。

「でも正宗も、本当に昔とは変わったわね。私が知っている貴方は、もっと誇りという物に執着していたように思えたから」
「それは間違ってはいない。だが戦いを通じて、それが過ちであると気付いたのだ。零が何かを手に入れた事と、同じように」
 さすがに正宗は、私が撃退士達と戦う中で『自分』を手に入れた事を見抜いていたらしく、そう言葉を返してきた。
 ……ただ一つ予想外だったのは、彼もまた私と同じように、戦いを通じて変わっていたのだという事。
 しかしそれは決して悪い変化ではなく、少なくとも今の私にとっては、良い変化と言えるのかもしれない。
 そう考えると、私が彼の為とやってきた事は何だったのかと、今までの自分の行動が、馬鹿馬鹿しく思えてくる。
 私と戦っていた撃退士達の言っている通りだった。
 しかしそれと同時に、私はそれらをしてきたからこそ、此処まで辿り着けたのかもしれない。
 一人でそんな事を考えていると、私は無意識の内に、笑みを浮かべていた。

「やっと私、何をすべきなのかを見つけられたの。それはきっと、貴方が望む物とは違う……むしろ、貴方に刃を向ける事になるかもしれない内容だけれど」
「それで良いのではないか? 私はあくまでも、剣士としての技を教える師という存在であり、その生き方までもを左右する者ではない」
 彼ならば、そう言ってくれると思っていた。
 私の師であり、私が唯一心を許した彼ならば、きっとそう言って私の背を押してくれるだろうと、心の何処かで信じていた。
 でも背中を押されたと言う事は、私はいよいよ、彼等に刃を向けなければいけないという事。
「私は貴方が居なければ、人として生きる道を見つける事は出来なかったと思う。きっと道具として戦う中で、誰にも知られないまま死んで行っていたのかも」
 そう言った私は正宗に背を向け、澄み切った青空を見上げる。
 私はもう道具ではない、正宗と同じ剣士なんだ。
 だからこそ、これから先の道は、私自身が切り開く。
 誰かに使われるだけの、誰かを恨み続けるだけの人生は、もう終わりにしよう。

「正宗、貴方はこれからどうするの?」
「私は主に仕える剣士として、この身が果てるまで戦い続けようと思う。名誉に固執する事は無くなったが、その生き方を変える事は無い」
 ……やっぱり、正宗は正宗なりの生き方を持っている。
 私と同じ道を歩んでくれるのではないか、と少しだけ期待した事もあったけれど、それはやはり、私の勝手な思い込みに過ぎなくて。
 でも、それで良い。それだからこそ、私はようやく『自分の人生』を歩み始められる。
 ただ今回だけは、今この時だけは、私を此処まで育て上げてくれた師に対しての、恩返しをしよう。
 そう考えた私は、正宗の方を振り向かないまま、刀を抜いて。
「今回は貴方の生き方を支える為だけに、私も剣を振るう。でも本来であれば、これは私の決めた道に背く事。だから本当に、今回だけよ」
 私の決めた道。それは、主であるノヴァに背く道。
 私が戦うべきは撃退士達ではなく、今までの私と同じような『空っぽの傀儡』を作り出そうとしている、ノヴァ達なのだ。

「……ああ、感謝している」
 そう言った正宗は、私がしようとしている事を察してくれたのだろう。
 ……しかし、私一人でノヴァに背く事は、まず不可能。
 だからと言って、私と何度も戦ってきたあの撃退士達が、ノヴァへの反逆の為に力を貸してくれるという訳でもない。
 故に今は、正宗に恩を返す為に、あの撃退士達と再び刃を交える事にする。
 その戦いの中で、彼等が私を受け入れてくれたのなら、私は私の為の戦いを始めるつもりだ。
「行け、止まらずに進み続けろ。一人の剣士として、己の力で道を切り開け……!」
 ――しかし私が一人でそんな事を考えていると、正宗は私が歩もうとしている道を肯定するように、声をかけてきた。

「ありがとう、正宗。私が本当の自分、本当の自由を手に入れても、貴方の事は絶対に忘れないから」
 彼の事は絶対に忘れない。私が此処まで来れたのは、他の誰でもない、正宗のお陰なのだから。
 もし仮に私がノヴァに敗れようとも、もし仮に私が撃退士達と戦う中で命を落とそうとも、その『師』の姿だけは、しっかりと覚え続けよう。
「正宗、こんな時にこういう事を言うのもどうかと思うけれど――」
 刀を構え、腰を落とした私は、正宗に向けての『最後の言葉』をかける。
「――愛してる、さようなら」
 愛してる、という言葉が正しいのかは分からない。
 それでも私は、私が此処に辿り着く切っ掛けを作ってくれた彼に対し、この言葉を捧げようと思った。
 たった一度の、二度と口にしないであろうこの言葉を、最後の言葉として。

 ――もう、振り向かない。
 正宗に背中を押してもらったのだから、私は師である彼にただ背中を向けて、走り去るまでだ。
 撃退士達が私を受け入れてくれたのなら、私はそのままノヴァとの決闘に挑む。
 しかし撃退士達が私を倒す道を選んだのなら、私はそのまま彼等と戦い、正宗と同じこの戦場で果てようと思う。
 そのどちらの結末を歩もうとも、後悔はしない。
 だってそれこそが、私自身の選んだ道なのだから。


●解説
 高速道路に出現した使徒の零を、ターンが『二巡』するまでに行動不能へ追い込み、実験の立て直しを阻止してください。
 今回は二面作戦として、此方のシナリオ、或いは風神シナリオのどちらかが突破に成功すれば、物語が進行する物とします。
 また、OP文章は正宗視点と零視点で描かれています。

前回のシナリオを見る


リプレイ本文


 澄み渡った冬空の下、再び対峙する事となった一人の使徒と六人の撃退士達。
「――さて。良い加減、そろそろ自分の考えが纏まったか?」
「ええ、当然よ」
 久井忠志(ja9301)の問いにそう答えたのは、零。
 師に背を押され、ただ他人に利用されるだけだった過去と決別するべく、彼女は己の意思で此処へ来たのだ。
 使徒として撃退士達と戦い、過去との決別を果たす事で、今度こそ己の道を歩む為に。
「が、答えを聞く前に先ずは、お互いの力をぶつけ合おうか。その方が俺達らしい、そうだろう?」
「貴方と戦うのも、もう何度目なのかしらね。答えは戦いの中で問う、そういう事にしましょう」
 忠志の言葉に従うように零はその刀を構え、迷いの無い視線を、他の五人の方へと向ける。
「……さて、やっと目の前に敵が現れたような気がするね」
「貴方の目には、今までの私は敵として映っていなかったのかしら? でも確かに、それも仕方の無い事なのかもしれないわね」
 ベルメイル(jb2483)はそんな零の返答を聞き、少し間を空けた後、銃を構えて。

「結局、君がそこに至るまでにどういうプロセスを経たのかは良く分からなかったが……まあ、残念な事にフラグを逃す事は日常茶飯事だしね」
「そのフラグと言う物がどのような物なのかは分からないけれど、少なからず、今の私は答えを持っている。例外無く貴方にも、それを示すつもりよ」
 しかし、こうしてベルメイルと言葉を交わしている零とて、自分達に残されている時間はごく僅かなのだという事を理解しているのだろう。
 彼女の目的は師の為に戦い、過去との決別を果たす事。決して、主であるノヴァ達の為に戦う事ではない。
「どうやら、ずっと探してた答えは見つかったみたいだね。前とは全然、纏ってる空気が違う」
「……貴方とて、纏っている空気が普段とは随分違うわ。それだけ私達は、この戦いに意味を持っているという事よ」
 神谷春樹(jb7335)がそうであるように、零もまた、相手の本気さに気付いているのだろう。
 だが二人はあくまでも『本気』をぶつけ合う為に、それ以上の言葉は交わさない。
「時間はあまり残されていない筈よ。貴方達も、そして私にとっても。だから始めましょう、私達の戦いに決着をつける為に」
 この一戦は、撃退士達と零にとっての『決戦』となる。
 実験の阻止、過去との決別。理由は異なっていようとも、それでも彼等の戦いはようやく一つの『結論』を弾き出そうとしているのだ。

「あら……良い顔するようになったじゃなぁい? 早急に片付けさせてもらうわねぇ、今回はお遊びは無しよぉ♪」
「……私の全てを以て、必ず止めてみせます」
 そんな零の言葉を聞き、彼女を打ち破らんとするのは、Erie Schwagerin(ja9642)と水無瀬 雫(jb9544)。
「全力で行くぞ、レイ……キミの全ても見せてみろ。言葉で、刃で、な」
「問う、答える、そして斬る。この答えを手に入れられたのは貴方達のお陰よ、アスハ。だから、貴方がそれを望むのであれば……私は全力で、貴方を斬るわ」
 アスハ・A・R(ja8432)の言葉を聞くや否や、零の髪色は白へ、そして瞳は澄んだ青色へと変色していく。
 それと同時にアスハの周囲に発生する、今はまだ微弱な冷気。どうやら彼女の『氷神の魂』は、彼に狙いを定めたようだ。
「来なさい。使徒の零として、私は貴方達を迎え撃つわ」
 零の言葉を皮切りとして行動を開始する、六人の撃退士達。
 彼等は零を左右から挟み込み、集中砲火を浴びせる事で、即座に彼女を落とそうとしている。

「……そう、分かれるのね」
 だが零は敢えて撃退士達の展開を待ち、彼女から向かって右側にアスハ、雫、ベルメイルが迫っている事を確認して。
「私が斬るべきは貴方ではなく、ノヴァ……。でも今の私は使徒、貴方達の敵。ならば全力で、敵を排除するまで」
 いつになく冷たく、鋭い視線をアスハの方へ向けた零は、解放した冷気の中へ突っ込み、一瞬で彼の正面へ迫る。
「――持って行くわ、一撃で」
 その青い眼光はアスハの姿を捉え、彼が防御を行う為に魔法陣を展開する動作すらも、彼女は全て見切っていた。
 再錬成された槍状のアウルを用いて、普段とは違い、零の攻撃を受け流そうとするアスハ。
 だが零はその誤差すらも見切ったように、的確な補正を施して、彼の胴体を深く斬りつけようとする。
「狙いを定めるのは結構だが、そう簡単にやらせはしないよ」
 しかしその時、ベルメイルが咄嗟に回避射撃を行う事で、若干ながら零の刀の軌道を逸らした。
「っ、持って行けない……!」
 刃はアスハの胴体を深い部分まで斬り裂き、尋常ではない威力を発揮したが、それでもベルメイルの援護が功を成し、アスハは何とかその一撃を持ち堪える。

「受け止めてやる……と、言った筈だ」
 氷刃一閃を耐えられ、アスハにその姿を捉えられた零は、即座にその場から後退しようとする。
「貴方がこの程度で倒れる筈が無い、それは分かっていた事……。でもその目、何をするつもり?」
 ――そう零がアスハに問いかけた瞬間だった。
「これが……僕が継いだ『蒼』、だ」
 アスハがそう答えるのと同時に零の頭上に展開される、複数の巨大な魔法陣。
 それに気付いた零は、そのまま後退する事で何とか射程外へ逃れようとする、が。
「今度は、レイ……キミが、受け止めてみろ」
 アスハが手をかざすのと同時に降り注ぐ、蒼い輝きを持つ微細な魔法弾。
 それは『雨』を連想させる、彼が継いだ『蒼』の形。
「逃げ切れないのなら……私も貴方と同じように、それを受け止めるわ」
 光雨から逃げ切る事は出来ないと判断した零は、後退の途中で足を止め、降り注ぐ雨を受け止めようとする。
 だがその雨は零を容赦無く襲い、彼女の細い身体に大きなダメージをもたらした。

「……本当に、全力みたいだね。なら僕も、持てる力全てをぶつけるよ」
 アスハの光雨を受けた事でふらついている零を見た春樹は、後方から三連続で銃撃を行い、その隙を突こうとする。
「それを乗り越えてこそ、ようやく価値が生まれる物よ……? 侮らないでもらいたいわね」
 しかし、三連続で放たれた弾丸はしっかりと狙いが定められておらず、弾丸の接近に気付いた零はそれらを全て避け、全身に力を込め直した。
「では、これならどうでしょうか?」
 春樹の三連射撃を回避し、彼の方へと視線を向けている零の足を狙い、雫が狙撃を試みる。
「今度は、前……!」
 一切気を抜かず、銃口を向けられている事に気付いた零は回避を試みるが、奇襲するような形で放たれた弾丸はその脚を掠め、彼女は若干表情を歪める。
 弾丸が掠めた場所からは血が流れ出し、零は先程光雨を受けた事もあってか、体勢が崩れかけていて。
「それだけじゃないわよぉ、お遊びは無しって言ったわよねぇ?」
 そんな零に畳みかけるように、Erieは強烈な風の渦を発生させ、彼女をその中へ呑み込ませた。
 零は風に身体を切り刻まれ、何とか地面に足をついたものの、意識がはっきりとしない。
「押し切られる、意識が……っ」
 Erieのマジックスクリューを受けた事で、零の髪と瞳の色は普段通りの色へと戻っていき、アスハの周囲に発生していた冷気もまた、消え去っていく。

「さて、痛い痛い冥の力だ――頼んだよ、マリア」
 そんな零に追撃を仕掛けようとしているのは、ベルメイル。
 マリアが力を貸してくれる――という妄想の下で放たれたダークショットは、真っ直ぐ零の元へと飛んで行って。
 零はベルメイルの方へ視線を向け、その弾丸を避けようとするが、朦朧とした意識の中では身体も言う事を聞かず、弾丸は彼女の肩に命中した。
「……随分と、追い詰められたわね。今までと比べると、かなり耐えているつもりなのだけれども」
 ――今この時だけは、限界を迎え、気を失うまで全力で撃退士達と向き合い続ける。
 これだけ負傷しても尚、零を動かし続けているのはそんな彼女なりの『覚悟』であり、これは答えを導き出す為に様々な言葉を与えてくれた撃退士達への『示し』でもある。
「前回あんたに貰った一撃は、迷いの無い良い攻撃だった。だが今回は、俺から行かせてもらうぞ」
「もう、逃げるつもりは無いの。私自身から、そして貴方達から……!」
 迫りくる忠志を前に、攻撃を受けて意識を取り戻した零は、刀を構え直して。
 忠志はそのまま目にも留まらぬ速さで大鎌を振るうが、零は刀でそれを受け流し、忠志を押し返す。

「連射がダメなら、この技でどうだ!」
「何度でも撃ってきなさい。貴方が全力である限り、私はそれを全力で受け止めてあげる」
 三連射撃を避けられ、先程は追撃に失敗した春樹ではあるが、そう言って面と向かってくる零に対し、極めて貫通力の高い弾丸を放つ。
「より厚く、より硬く。向き合う為に、それを受け止める為に」
 零はそう呟きながら刀に冷気を集中、それを振り抜き、普段の二倍の厚さを持つ氷壁を形成する。
 春樹の放った弾丸は氷壁と衝突し、それを打ち砕くが、氷壁・二層を貫通する事は出来ず、零を撃ち抜く事は出来ない。
「神谷春樹、貴方は良い仲間を持っているわ。団結の力、それは個である私の本気を凌ぐ。でもこれが貴方への示しになると信じて、挑ませてもらうわね」
 弾丸を放った事で隙が出来ている春樹に狙いを定めた零は、冷気を解放し、二体の分身と共に彼の元へ迫る。
 だが片方の分身をアスハが、更にもう片方の分身をベルメイルが銃撃によって砕き、春樹の元へ迫るのは、零本人だけ。
「残念だが、受け止めるのは俺だ」
「……分かっていた事よ、こうして団結している貴方達には敵わない。この刃は、貴方には届かない」
 しかし零の斬撃を受け止めたのは、庇護の翼を使用した忠志。
 零は春樹達との間に距離を取り、その現実を受け入れるかのように、溜め息を吐く。

「私は、貴方達と共に歩む道を選びたい……私のような、空っぽな人間を増やさない為に。だからどうか、使徒としての私を打ち破って……貴方達なら、それが出来るから」
「――それが望みなら、叶えてやる、か」
 後退し、溜め息を吐いている零を待ち受けていたのは、自身の前方に魔法陣を展開しているアスハで。
 それを見た零はあくまでも使徒として、敵の一撃を受け止める為に、氷壁・二層を展開する。
 だがそのまま、紅き大蛇をアスハが解き放つと、大蛇は氷壁を打ち破り、零の身体に巻き付いた。
「……私の負け、ね。ごめんなさい、正宗」
 悔しさと悲しさだけでなく、若干の喜びすらも混じった表情をしながらそう呟く、零。
 彼女は大蛇に締め付けられた事で意識を失い、何処か安心したような表情をしながら、仰向けに地面に倒れ込むのだった。


 零が気絶した事を受け、彼女が意識を取り戻す前に、高速道路の中心部へと進んでいく六人。
 するとそこには、零の主であるノヴァだけでなく、零の師――正宗の主であるムラマサの姿もあった。
「――時に、彼女に何か仕込んでいたみたいだね。氷神、と言ったか」
「それがどうかしたのかい? アレはアタシの駒だ、アンタに指図をされる謂れは無いよ」
 二人がこの場で戦う意思が無い事を察し、ベルメイルが声をかけると、ノヴァは彼の方へ視線を向けながら、そう答えた。
「別に君の企みはどうでも良いが、かつてそちらに居たよしみで一つ言っておこう」
「何だい? 一応、聞かせてもらおうか」
 ノヴァは零が六人に負けた事を理解している為か、何も行動を起こさないまま、ベルメイルの言葉に耳を傾ける。
「成り損ないでしかない俺ら天使が、神を謳う何かを作ろうとしても、大抵ろくな事にはならないものだよ」
「……アタシはアレと同じように、師匠に従ってるだけさ。それで、言いたい事はそれだけかい?」
 ノヴァの返答を聞いたベルメイルはそれ以上何も言わず、今度はそんな彼と入れ替わるように、アスハが歩み出て。
「レイは貰っていくぞ……ノヴァ」
「フッ、ようやく面白くなってきたね……アタシがアレを作った甲斐もあったってもんさ」
 そんなアスハの『宣戦布告』とも取れる言葉を聞いたノヴァ達は、それぞれの技を使い、この場所から姿を消した。

 そのタイミングで姿を現す、逆方面で戦闘を行っていた撃退士達。
 それはつまり、彼等の敵として幾度も立ち塞がった二人の使徒が、両方撃破されたのだという事を表していて。
 もはやこの場に『敵』はおらず、今この場所に残されているのは、そんな決戦を勝ち抜いた撃退士達と、彼等と共に歩む事を望んでいる零だけだった。

 それから暫くして六人が零の元へ戻ると、今まで気を失っていた彼女は、徐に瞼を開けて。
「……終わったのね、やっと。貴方達の顔を見れば、何となく分かるわ」
 負傷している為か、零は地面に横たわったまま彼等の顔を見回す。
「私が望んでいるのは、貴方達と共に戦う道。でも私を受け入れるか否かは、貴方達次第」
「手を組みたいですってぇ? 面白い事を言うわねぇ……」
 零の言葉を聞いたErieがそう言うと、アスハは零の元へ歩み寄り、彼女に銃口を突きつける。
「そりゃあ、寝首を掻くような子じゃないでしょうけどぉ……」
「……そうね、これが当然よね。予想はしていた事よ……そう」
 アスハとErieの反応を見た零は、残念そうにそう呟いた、が。
「なんてね、冗談よぉ♪ 退屈させないでくれるなら、好きにしてちょうだい」
「え……?」
「全く……我儘の一つぐらい、言っても良いと思うんだが?」
 Erieが笑みを見せるのと同時に、アスハは笑って銃をしまい、それを見た零は安心したように頬を緩めた。

「自分が決めた道だ、後悔はしても決して立ち止まるなよ」
 忠志の声を聞き、身体を起こそうとする零だったが、痛みから表情を歪めて。
 だがそれを見た春樹は彼女の元へ歩み寄り、応急手当による治療を行う。
「仲間が傷ついてるのをそのままにするのは、良い気分じゃないですからね」
 春樹に手当てをされた零は、彼に向けてふっと微笑んだ後、その場で立ち上がる。
「私は雫、水無瀬雫です。もう一度、貴女の名前を聞かせてもらえますか? 出来る事なら、その本当の名を」
 立ち上がった零に雫が問いかけると、零はその『過去』を思い出し、若干戸惑ったような反応を見せた。
「私は……私は、折谷美月。よろしくね、水無瀬さん」
 だが、零は意を決したように自分の名前を答え、六人の顔を再び見回した後、前を向く。
「此方へ来い。女一人支えられん程、弱くはないつもり、だぞ?」
「ええ。これからは頼らせてもらう事にするわ、アスハ」
 差し伸べられたアスハの手を取り、微笑む零の姿。
 それは今までの彼女では想像もつかなかったような姿で、この『戦い』が弾き出した一つの『結論』でもある。
 過去との決別、そして『仲間』と歩む新たな道。
 こうして一つの物語が幕を閉じるのと同時に、新たな物語が幕を開けるのだった――。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 災禍祓う紅蓮の魔女・Erie Schwagerin(ja9642)
 フラグの立たない天使・ベルメイル(jb2483)
重体: −
面白かった!:5人

蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
永来の守護者・
久井忠志(ja9301)

大学部7年7組 男 ディバインナイト
災禍祓う紅蓮の魔女・
Erie Schwagerin(ja9642)

大学部2年1組 女 ダアト
フラグの立たない天使・
ベルメイル(jb2483)

大学部8年227組 男 インフィルトレイター
揺れぬ覚悟・
神谷春樹(jb7335)

大学部3年1組 男 インフィルトレイター
天と繋いだ信の証・
水無瀬 雫(jb9544)

卒業 女 ディバインナイト