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【風神】弟子の背を押す者　（新瀬 影治）


マスター：新瀬 影治
シナリオ形態：シリーズ
難易度：難しい
形態：
参加人数：6人
サポート：1人
リプレイ完成日時：2015/02/23

みんなの思い出

オープニング

●
　防壁型サーバントを設置、陽動作戦を決行したこの場所で、ふと昔の事を思い出す。
　彼女と初めて出会ったのは、何時だっただろうか。
　今となってはもはやそれを思い出す事が出来ない程に、時が流れてしまったのだろう。
　彼女に剣士としての戦い方を教え、自分を探せと背を押したあの日から、かなりの時が経って。
「正宗……」
　懐かしい声を聞き、振り向いた私の前に立っているのは、確かに『彼女』だった。
　焦っていたかのような、青ざめた表情をしながら私の元へ駆け寄ってきた彼女は、私の姿を見て、安心したように息を吐く。

「……随分と成長したようだな、零。今の君の瞳には、しっかりと歩むべき道が映っているように思える」
「ええ、私も……あれから色々とあったから。貴方と別れて以来、ずっと撃退士達と戦ってた」
　私の言葉を聞き、真っ直ぐ此方を向いた零は、もはや私の知っている『彼女』ではなくなっていて。
　私が知っている彼女は、瞳に何も映っていない、ただ全てを憎みながら剣を振るい続けるだけの、機械のような存在だったのだから。
「正宗、その眼……何があったの？　私の知らないところで、一体何が？」
「何、私も撃退士と戦い続けていてな。その中で斬られただけに過ぎない、剣士として戦った勲章のような物だ」
　――まさか、私の事を気遣うような子になっていようとはな。
　情は剣を鈍らせる、余計な感情を持てば敵に斬られてしまう。
　私の脳裏に過ったのは、そんな剣士として当然の考え。
　……だが今の零を見ている限りでは、この考えも古いのかもしれない。
　彼女は撃退士との戦いを通じ、それらを手に入れられたからこそ、成長したように思える。

「でも正宗も、本当に昔とは変わったわね。私が知っている貴方は、もっと誇りという物に執着していたように思えたから」
「それは間違ってはいない。だが戦いを通じて、それが過ちであると気付いたのだ。零が何かを手に入れた事と、同じように」
　私がそんな言葉を返すと、やはり師である私には全てが見抜かれていると察したのか、彼女はふっと笑みを見せた。
「やっと私、何をすべきなのかを見つけられたの。それはきっと、貴方が望む物とは違う……むしろ、貴方に刃を向ける事になるかもしれない内容だけれど」
「それで良いのではないか？　私はあくまでも、剣士としての技を教える師という存在であり、その生き方までもを左右する者ではない」
　私の言葉を聞いた彼女は、やっぱり、と言わんばかりに安心したような表情を見せて。
「私は貴方が居なければ、人として生きる道を見つける事は出来なかったと思う。きっと道具として戦う中で、誰にも知られないまま死んで行っていたのかも」
　そして零は私に背を向けながら、澄み渡った冬空を見上げた。
　――今の彼女が何を思っているのか、今の彼女が何を目指しているのかは、私には分からない。
　だがそれらは全て、一人の剣士となった彼女が決める事だ。
　もはや道具ではない、しっかりと己を持った彼女自身が。

「正宗、貴方はこれからどうするの？」
「私は主に仕える剣士として、この身が果てるまで戦い続けようと思う。名誉に固執する事は無くなったが、その生き方を変える事は無い」
　己の進むべき道を口にしようとも、今の彼女が師である私の方へ振り返る事は無く、彼女はただ黙って刀を抜いて。
「今回は貴方の生き方を支える為だけに、私も剣を振るう。でも本来であれば、これは私の決めた道に背く事。だから本当に、今回だけよ」
「……ああ、感謝している」
　やはり彼女は、自分という存在を確かな物にする為に、ノヴァに背く道を選んだのだな。
　昔の私であれば、主に背く事は許されるざる悪徳であると説くのだろうが、ただ今この時に限っては、一人の師として彼女の背を押そうと思う。
「行け、止まらずに進み続けろ。一人の剣士として、己の力で道を切り開け……！」
「ありがとう、正宗。私が本当の自分、本当の自由を手に入れても、貴方の事は絶対に忘れないから」
　弟子の背を押し、自身はこの場に残るというのも、気分としては悪くないものだ。

　――私には主が居て、そして今この時に於いても、実験の立て直しを図るべく、最後の賭けに出ようとしている。
　撃退士達は私達を止めるべく、再びこの場所へと進撃してくるのだろうが、私は使徒の剣士として、彼等を迎え撃つという道を歩もう。
「正宗、こんな時にこういう事を言うのもどうかと思うけれど――」
　刀を構え、腰を落としている零は、最後に此方へ視線を向けて。
「――愛してる、さようなら」
　そう言って、私の為に撃退士を迎撃しに行ってしまった。
「愛している、か……本当に、彼女も変わったものだな」
　私は一人、この場所でそんな事を呟きながら、空を見上げる。
　私と零が再び顔を合わせる事は、絶対に無い。
　だがそれでも、何処かで同じ空を見上げているであろう彼女の事を、私はいつまでも師として見守っていようと思う。
「……さて。決戦だな、死する覚悟も出来ている」
　弟子の旅立ちを見送った私は、彼女の無事を祈りながらも、主の命に従って、撃退士達を迎え撃ちに行くのだった。

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リプレイ本文

●
　澄み渡った冬空の下に集う、撃退士達と一人の剣士。
「――此処を通ると言うのなら、先ずは私を打ち破れ。私は主に仕える剣士として、敵である君達を阻む」
　撃退士達の行く先を阻むように立ち塞がるのは、使徒の一正宗。
「……正宗、今日こそ撃ち抜きますの」
　迷いを一切持たぬ正宗に対し、橋場・R・アトリアーナ(ja1403)は、それを撃ち抜いてでも前に進む姿勢を見せる。
「この命、そしてこの務めもまた、終わりが近い。ならば私は、全力で迎え撃とう」
「もう因縁も何も関係ないな。俺らは進む、そっちは防ぐ……それだけのシンプルな理由だ。このまま押し通らせてもらうぜ」
「問うまでもない事だ。私は使徒、君達は撃退士。むしろこれが、当たり前の姿なのだろう」
　向坂　玲治(ja6214)の言葉を聞いた正宗は、自分達が戦う宿命の下にあるという事を察し、刀を構える。

「しかし、見慣れぬ者も居るようだな。名を何と言う？」
「初めまして？　剣の人形、矢野胡桃。全力で……貴方を薙ぐ、わ」
　矢野　胡桃(ja2617)が名乗ると、正宗は刃を交える前にも関わらず、彼女が尋常ではない力を持った撃退士である事を察して。
「さて、我々に残された時間は僅かだ。押し通ろうとする者、そして此処を守る者。これ以上語る必要もあるまい、始めよう」
「さてと……あんまり時間もないみたいですし、目ぇ覚ましていきますよ。そろそろ……終わらせるべきでしょうから」
　十三月　風架(jb4108)が言っている通りで、今この時行われる一戦は、決戦とも言い換えられる一戦と成り得る。
　命を懸けてでも此処を守り抜かんとする剣士と、それを打ち破ってでも此処を通らなければならない撃退士達の一戦。
「それだけ相手も必至って事よね、何としても突破するわ！　覚悟は出来ているのよね？」
「……それもまた、言うまでも無い事だ」
　正宗は雪室　チルル(ja0220)の問いに対し、刀を構える事で覚悟を示す。

「剣士の生き方は僕には分からないし、使徒の生き方なんて尚更分かんない。でもそれが一ちゃんの選んだ生き方なんだろうし……まぁ、最期まで付き合おうかな」
　砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)は、相変わらず正宗の考えを見透かしたように、そう言って。
「これが最期であると悟っているからこそ、私はこの道を選ぶ。一人の剣士として、そして一人の師として」
「……最後じゃなくて、最期。そっちが一ちゃんの望みでしょ？　僕達との戦いに、命懸けで来るんだろうしさ」
　――もはやその生涯に、悔いは無い。
　正宗が意を決し、走り出すのと同時に、胡桃を除く五人の撃退士達もまた、彼を迎え撃つように走り出した。
「ごめんなさい、ね？　短い時間で私と戦舞、舞ってもらう、わ」
　向かって正面、可能な限り正宗との間に距離を取っている胡桃は、銃を構え、素早く三発の銃弾を放つ。
「どんな相手も、まずは機動力……でしょう？」
「狙撃手か……成る程、厄介な相手だ」
　両足、そして右腕を狙って放たれた三発の弾丸を前に、正宗は即座に足を止め、素早く刀を三度振るう。
　此処まで正確な三連射撃というのも、滅多に目にかかれないと思ったのだろう。
　正宗は的確に三発全ての銃弾を弾き、軌道を逸らそうとしたが、弾丸は彼の両足、そして右腕を掠めた。

「相手が長距離射撃に長けているのなら、押し通らねばなるまい……！」
　胡桃の元へ辿り着き、彼女の銃撃を止める為には、先ずは目の前に居る玲治達を突破しなければならない。
　そう考えた正宗は、玲治達の元へ正面から突撃、自身を中心とした竜巻を巻き起こす事で、玲治、風架、チルルを打ち上げた。
「落とす、この三連撃で――！」
　風刃から続き、玲治の元へ跳び上がった正宗は、風神の力を宿した三連撃を繰り出さんとする。
「この鐘の音は……全てを、落とす」
　しかし胡桃は『鳴り響く鐘の音』の如き支援射撃で、初段から成る二連撃の軌道を逸らし、それを受けた玲治は上手く刃を防ぐ。
「尋常ではない、正確な射撃……ならば、力で叩き落とす！」
　それに続く最後の一段に対し、胡桃は引き続き避弾による援護を試みるが、正宗は力でそれを押し切り、玲治を地面に叩き落とした。
「……悪いが、この程度じゃ倒れてやれねぇな」
　叩き落とされた玲治ではあるが、彼は不敵な笑みを浮かべながら、即座に体勢を立て直す。
「――油断はしない事です。貴方がそうであるように、自分もまた、貴方の風を見切っている」
　だがそんな玲治に続き、正宗が着地すると、そこで彼を待ち構えていたのは、風架。

「成長しているのは私だけではない、という事か」
「これを完全に見切ったとして……思うように避ける程の余裕はありますか？」
　風架は足元に血を零し、それによって形成された『血針』で正宗を貫かんとする。
　正宗はそれを見切り、回避を試みるが、三連撃後の若干の反動から、思ったような行動が取れない。
「これが、君の成長と言うものか……ッ」
　その隙を突くように、血針は正宗の身体を貫き、身体の自由を奪い去ったではないか。
「上等ね！　あたいの一撃、受けてみろ！」
　風架に続き、身体の自由が奪われている正宗の元に迫る、チルル。
　確実に攻撃が命中する事を悟った彼女は、正面から吹雪の如き氷砲を解き放ち、それを直撃させた。
「重い、しかし輝きを兼ね備えた一撃……見事だ、実に」
　しかし正宗は、まだまだ余裕があるかのような反応を見せている。
「ならば、黄昏……この一突きを止められると思わない事ですの！」
　風架、チルルに続いて一気に距離を詰めてきたアトリアーナは、そのままバンカーを構え、動けない正宗の胸を貫く。
　容赦の無いその一撃は、正宗に途轍もない痛みを与えるのと同時に、彼の事を吹っ飛ばした。
「そうだな……普段ならば、この一撃で持っていかれる程だ。だが今この時に限っては、この程度では落ちぬ……！」
　大きな傷が作り出されるのと同時に流れ出る、大量の血液。
　だが正宗は、それでも屈しようとはせず、身体が自由を取り戻すその瞬間を待ち続けているようだった。
　――普段は接近しての攻撃を行ってくる竜胆が、今回は後方に陣取っている。ただその違和感だけは、警戒をしつつ。

「はい、僕の本来の間合いはこっちね。この前、読めないってお褒めの言葉もらったからさ。攻撃の手も読めなくしちゃおうかなって」
「やはり、そういう事か……」
　竜胆は相変わらずの表情で、舞い上がる砂塵を発生させ、正宗に追撃を仕掛けた。
　正宗はそれを避ける事も受ける事も出来ず、そのまま砂塵に肉体を切り刻まれる。
「どう、油断した？」
「……普段とは違う場所に居るのだから、警戒もする。油断をしたと言えば嘘になるが、何分、見ての通りでな」
　にっこりと笑う竜胆を前に、切り刻まれるだけの現状を皮肉ったような言葉を返す正宗。
「それでも、此処で止まる訳にはいかねぇんだ。押し通らせてもらうぜ」
　何としてでもこの場を押し通ろうとする玲治は、敢えて真正面から正宗に挑みゆく、が。
「――しかし、これだけ痛みを受ければ、身体の感覚も戻ってくるという物でな」
　鋼の様に堅固な力が乗せられた玲治の一撃を、正宗は刀を構え、正面から受ける。
　さすがに的確な防御は行えず、そのまま玲治に吹っ飛ばされる正宗ではあるが、それによって彼は完全に身体の自由を取り戻し、その身に緋色の風を纏った。
「理由は違えども、負ける事の出来ぬ者達が集まっているのだ。死して尚、剣士としての生き方を貫こうとするのなら、その姿を彼等に示すまで――！」
　それと同時に前に踏み出す、死風を纏った正宗。
　視線の先に立っているのは、チルルを始めとした四人の撃退士。

「その身に刻め、剣士としての我が生き様を！」
　疾風の如き速さで突撃した正宗は、その先で緋色の旋風を巻き起こし、チルル、玲治、風架、アトリアーナを宙に打ち上げる。
　そして流れるように跳び上がった正宗は、宙で刀を振り抜き、四人の身体を緋色の風で切り刻んだ。
　切り刻まれた四人は地面に落ち、風架はそのまま意識を失いそうになってしまうが、強靭な意思で何とか持ちこたえて。
「それなら、あんたの奥義とあたいの奥義、どっちが強いか勝負だ！」
　正宗の奥義を受けても尚、即座に立ち上がったチルルは、氷嵐の支配者の名を冠した氷の突剣を生み出す。
「来い、その力を私に示してみろ！」
　これで最後になるであろう、チルルとの真っ向勝負。
　全力に応え、全力を発揮している彼女を前に、正宗はその場で刀を構えた。
「あんたに言われなくても示してやるわ、お望み通りの全力をね！」
「全力を迎え撃つのは全力でなければあるまい、行くぞ！」
　刀に死風を纏わせ、チルルが氷の突剣を振るうのと同時に、正宗はそれを受けるような形で刀を振り抜いた。
　刃と刃が接触するのと同時に走る、強い衝撃。
　そしてその衝撃によって、正宗の刀の全体にヒビが入る。

「最強を目指すに相応しい、良い一撃……！」
　チルルが生み出した氷の突剣は消え去ってしまったが、それでも刀だけでなく、正宗自身にも大きなダメージが及ぶ。
　本来であれば既に限界であろう、その肉体。それでも彼がこの場に立ち続けているのは、剣士の意地という物か。
「剣を振るえなくなった剣士、というのも……気になる、わね？」
「剣を振るえなくなるその時は、剣士としての死を意味している。故に私は、この身が果てるまでこの場に立ち続ける……！」
「そう……なら、遠慮無く撃たせてもらうわ」
　奥義と奥義が衝突した反動で、胡桃への対応が行えない正宗。
　胡桃はそんな彼の左腕に向けて発砲、そこを撃ち抜くが、正宗は不敵な笑みを浮かべながら、一切の揺らぎを見せない。
「まだ動く、後何度受けられるのか……」
「それは良いんだけど、攻めも一応行けるの。だから、これでどうなるかな？」
　竜胆の声を聞いた正宗はチルルを押し返し、彼の方へ視線を向けるが、その時には既に、アウルで形成された無数の彗星が放たれていた。
　正宗はそれを避ける事が出来ないと判断、死風を使ってそれを受け止めようとするが、死風を打ち破って命中した彗星は、彼に重圧感を与えていく。

「……これが潮時、という事か」
「ああ。そろそろケリを付けようぜ、俺らが進む為にもな」
　竜胆に続き、正宗に接近した玲治は、再び正面から渾身の一撃を叩き込もうとする。
　だが正宗は敢えて刀を使わず、最後の一撃まで全て受け切る為に、傷だらけの左腕でその一撃を受けた。
「ぐ……！」
　全力が込められたその一撃は、正宗の左腕にめり込んでいき、それを完全に『破壊』する。
「眠れ、誇り高き風神の剣士よ……！」
　そしてこの戦を終わらせるべく、玲治に続いて接近する風架。
　かなりの打撃を受けていた筈の彼ではあるが、負けられない一心から、その『血拳』によって正宗を宙に打ち上げた。
「……その生き様、正面から貫いてみせますの！」
　それを確認したアトリアーナは、宙に打ち上げられた正宗の元へ迫り、全力が込められた連撃を繰り出さんとする。
　――そう。これは打ち上げから成る、上空での連続攻撃。
　味方同士であったのなら、もっと語り合う事も出来たかもしれない。
　そんなアトリアーナや風架の想いが込められた、彼等の『三連撃』。

「終止符が打たれるその時は、私が剣士としての死を迎える時。我が刃が折れ、その刃を受け止める事が出来なくなる時――！」
　打ち上げられた正宗は、彼等の三連撃を『風神三連撃』によって受け止めようとする。
「行きますの――！」
　刀を振り上げている正宗に向け、アトリアーナは下からバンカーで突き上げるような形で、その一撃目を繰り出す。
　正宗はそのタイミングで刀を振り下ろし、バンカーと刃を衝突させるが、その一撃で刃は粉々に砕け散った。
「フッ……私も此処まで、か」
　アトリアーナはそのまま正宗の胴体に二連撃目を直撃させた後、三連撃目で正宗を地面に叩き落とす。
　叩き落とされ、仰向けの状態になった正宗は、それ以上動く事も無く、澄み渡った冬の空をただ見つめていて。
「……私の務めは此処までのようだ。主よ、すまない」
　敗北を悟り、主に勝利をもたらす事に失敗した正宗は、刀の柄から手を離すのだった。

●
「――何か、最後に言っておきたいことは有るか？」
　もはや死を待つのみとなった正宗に対し、玲治はそんな問いをかける。
「……感謝している。これで私は一人の師として、そして一人の剣士として戦場で散る事が出来るのだから、これ以上の事は無い」
　弟子の背を押した師匠として、そして己の生き方を貫かんとした一人の剣士として、正宗は『戦場』で散る事が出来るという事に、満足感を抱いているようで。
「さて、今回の僕は読めたかい？　これが最期になるけど、さ」
「差異に気付く事はあったが、まさか此処までとはな。君のその生き方は、どうかこれからも貫いて欲しいものだ」
　差異に気付けども、その『真意』に辿り着く事は出来ない。
　そんな読めない、竜胆自身の生き方を、正宗はこれからも貫き通して欲しいと願っている。
　上辺では笑っていても、その裏では何処か別の場所を見つめている。そんな生き方は、彼自身にしか貫き通せない物なのだから。
「……しかし、こうして話していられる時間も無い筈だ。先を急げ、この私を打ち破ったのだからな」
　それは剣士としての性という物なのだろう。
　正宗はそう言って、勝利を手にした撃退士達の背を押し、自分はあくまでも敗者として、ただ死を待つ覚悟を決めていた。

　――だが、正宗を撃破した六人が高速道路の奥に進むと、そこには既にムラマサ達の姿は無く、代わりに逆方面の作戦にあたっていた撃退士の姿があって。
　もはや『敵』となる存在が居なくなったこの場所は、撃退士達がこの戦いを生き抜き、そして勝利を手にする事に成功したのだという事を物語っていた。

　それから暫くして、もう時間の無い正宗の元に再び姿を現した六人。
「零は、ノヴァを倒す事に決めたそうですの」
「そうか……それなら私も、ようやく安心して逝く事が出来る」
　アトリアーナから零の顛末を聞き、彼女がようやく自分自身の道を歩み始めた事を知った正宗は、満足気な笑みを浮かべた。
　こうして人はまた一つ成長していくのだと、あくまでも彼は師として、これから死にゆく者として、事実を受け止める。
「生きろ、私の分まで……。私は先に逝っているぞ、零……」
「これで最期だからね。最初に行った通り、見届けるよ」
　竜胆の言葉を聞いた正宗は、自分自身がそれ以上言うべき事は無いと理解し、そっと瞼を閉じる。
　剣士としての誇りから始まり、己の生き方を見出した一正宗という男の物語は、こうして幕を下ろす。
　好敵手でありながら、己の生き方を貫いた撃退士達に見届けられる形で、彼はそっと息を引き取るのだった――。

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