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マスター:新瀬 影治
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2015/01/22


みんなの思い出



オープニング


 某日、廃墟地帯にあるムラマサの隠れ家。
「まさか、死風が表に出る事になろうとはね……僕も驚いた。彼等があそこまでの力を持っているとは、思ってもいなかったからさ」
「敗北した私が言うのも何だが、彼等の力を侮ってはいけない。戦う度に的確な対処を下し、私の刃を退けるその力……主とて、分かっているだろう?」
 ムラマサに治療を受け、再び戦うだけの体力を取り戻した正宗ではあったが、前回の戦闘で喫した『完敗』を悔やむようなその口振り。
 正宗の言葉を聞いたムラマサは、黙って頷いた後、険しい表情をしながら額に手を当てる。
「……弱ったな。正宗には言ってなかった事なんだけど、本来であれば正宗が戦っている内に、僕は実験体となる数人の撃退士を確保する予定だったんだ」
「と言う事は、つまり……?」
「ご明察だ。僕は正宗を救出する為に、それを断念したんだ。その影響で、実験に大きな遅延が生じている……これは中々にマズい状況だね」
 ムラマサが実験を進める為に単独行動を開始したその頃、サービスエリアにて撃退士との戦闘を行っていた正宗は、予想以上のダメージを受けて瀕死に追い込まれていて。
 風の報せというものか、それを察したムラマサは即座に誘拐行動を断念、正宗の救出に向かったのだという。
 その結果、ムラマサは本来の目的を達成する事が出来ず、洗脳実験の進行を一時停止せざるを得なくなってしまった。

「かと言ってあの場で正宗を失えば、これから先の実験を全て中止にせざるを得なかった、というのが現実で。しかし何にしても、僕達は追い込まれているね」
「……私の刃が通らなかったばかりに。不覚だ」
「正宗が気を落とす事は無いよ、これは撃退士達の力を侮った僕の失敗でもあるんだ。だから僕達は、此処から立て直しを図らないといけない」
 撃退士達が予想以上の力を発揮した事により、ムラマサの実験はかなりの打撃を受けている。
 故に彼等は、今この時点で立て直しを図らなければ、それこそ本当の『敗北』を喫する事となる。
「数日も経たない内に、撃退士達はこの隠れ家を奇襲しに来る事だろう。だから正宗、君はあの撃退士達の迎撃に当たってくれ」
「御意」
「それと……死風の解放を許可するよ。アレだけの力を発揮する奴等なんだ、此方も全力を出さなければ持っていかれる」
 ――撃退士達は、前回の戦闘で黒瀬信志の奪還に成功した事を受け、この隠れ家の場所を把握している。
 そう考えたムラマサは、正宗に文字通り『全力』で撃退士達を迎撃するよう、命令を下した。

 ――死風。それは死期を悟った剣士が纏う、覚悟のような物。
 命尽きるまで戦場で剣を振るわんとする、正宗の信念の証。
「正宗の役割も、終わりが近づいてきている。だから一つだけ、僕は主として君に命令を下したいと思う」
「何だ、主よ?」
 撃退士との戦闘、そして正宗と共に歩む日々も、終わりが近い。
 ムラマサだけでなく、正宗本人もそれを知っている為か、二人は敢えて視線を合わせる事もしないまま。
「己の生き方を、撃退士達に示すんだ。正宗は剣士として歩む事を選んだ、だからそれを貫き通してくれ」
「……言われるまでも無いさ。この刃が折れるその時まで、私は彼等と戦い続ける」
「それなら僕も安心だよ。きっと、正宗の弟子……零も喜んでいるだろうね」
 主と使徒。その関係性は、本来であればもっと淡々としている物なのだろう。
 目的を達成する為に使徒を操る主と、主からの命令を受け、それをただ遂行するだけの使徒。
 本来であればそのような関係性であるべき筈の二人は、撃退士との戦闘を経て、様々な変化を起こした。

「彼女に贈ったあの刀は、本来であれば私が使う筈の刀だったのだがな。彼女とて、立派な剣士に成長している事だろう」
「ハハハッ、あっちの二人も随分と苦戦しているようだからね。僕とノヴァだけじゃなく、正宗と零も、やっぱり師弟なんだと思ったよ」
 二人が思い浮かべるのは、それぞれの弟子の姿。
 この時この場所に於いては、ただ対等に、ただ彼女達の師として、自分達の弟子の無事を祈っていた。
「主よ」
「何だい?」
「感謝している。苦戦続きの私ではあるが、最期を迎えるその日まで、この剣を捧げよう」
 弟子――零の無事を祈り終えた正宗は、ムラマサに使役される使徒として、そんな言葉を口にした。

「敗北続きではあるけども、正宗と撃退士の戦闘は、興味深いデータがたくさん取れるからね。これからも期待しているよ、正宗」
「……彼等と刃を交わせるのも、後数回。この迎撃戦も、私は私なりに全力で応じようと思う」
 前回の戦闘の最後、ムラマサに救出された際に受け取った、新たな刀。
 正宗はそれを鞘から振り抜き、緋色の風を纏いながら、迎撃の準備を開始した。
 徐々に迫ってきている、終わりの時。
 それが訪れるまで、剣士として剣を振るい続ける為に。


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リプレイ本文


 廃墟地帯、ムラマサの隠れ家とされている建物内部。
 空気は埃っぽく、薄暗い室内ではあるが、隠れ家を破壊するべく赴いてきた六人の撃退士を待ち構えていたかのように、そこには正宗の姿があった。
「幾度の敗北を喫し、まさかこの場所にまで攻め込まれるとはな。実に見事だ、若き撃退士達よ」
「……あなたと戦うのは、もう四度目だったでしょうか。自分の生き方を語る必要は、もう無いですね?」
 正宗の言葉に対し、十三月 風架(jb4108)がそう答えると、正宗は何も言わぬまま刀を抜いた。
「これまでの戦闘で、私は君達の生き方という物を問うてきた。そしてその度に、敗北を喫した。しかし、だからこそ私は、正面から君達と刀を交えてみたいという考えを抱くようになってな」
「相手が真っ向勝負をお望みなら、受けるしかないわね!」
 真っ向勝負を望む正宗の言葉を受けるように、雪室 チルル(ja0220)もまた、その武器を構えて。
 今までの戦闘で交えた言葉、そして交えた刃によって、正宗の考えは少しずつ変化してきている。
 その証拠に今の正宗は、剣士の誇り等という物を捨て、ただ自分が剣士として戦い続ける事だけを望むようになったのだから。

「俺も負けるつもりは無いし全力で戦うが、あんたの勝利も願ってる。お互い譲れないもんがあるんだ、勝っても負けても恨みっこ無しでやろうぜ」
「そのような言葉を返してくれる好敵手と巡り合えた事を、私は幸福に思うぞ。故にこの時もまた、全力で応じる所存だ」
 向坂 玲治(ja6214)が言ったように、撃退士側にも正宗側にも『譲れない物』があるのだ。
 だからこそ両者は、幾度も刀を交える。そしてその度に、言葉を交わす。
「人は人を殺す、人は人を虐げる。人は人を弑逆する、人は人を……上げていけばきりがねー。だから俺は平和だの正義だの道徳だのと言った、おためごかしは言わねーよ」
「それが現実なのだから、敢えて何も言うまい。それが私の生き方と言う物に抵触する内容であろうと」
「だが綺麗ごとは言わせてもらうよ、そうでないと生きていけねーからな。そこは置いておいて、俺はてめーら天魔の心が折れる音を聞きテーんだ」
 そんなラファル A ユーティライネン(jb4620)の言葉を聞いた正宗は、実に『それらしい』言い分であると考え、ニヤリと笑う。

「しかし、それが事実であるからと言って、誰もがそのような考えを抱いている訳でもあるまい。何も読めない癒し手が居るように、な」
「流れに流されるも逆らうも、全ては僕の意思で。言ったでしょ、僕は縛られず自由なんだって」
「見ていれば分かるさ、既に何度も戦っている相手だ。だがそれだからこそ、君という人物は成り立っている」
 砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)の言葉には、様々な意味が込められているように聞こえる為か、正宗は自ら彼の方へと視線を向け、そしてその生き方を認める。
「業に囚われて生きられる程、強くないものでね。僕が弱いのは分かるでしょ?」
「さて。腕っぷしが弱いからと言って、その人物が弱いと言う物でも無いと思うのだがな。現にその生き方には筋が通っている、私は少なくとも弱いとは感じない。何分、自由に生きる方が難しいと思うのでな」
「自由押し通す方がパワー要るだろとか、聞こえないなー?」
 雑談を行うように、これから殺し合いを行う相手とは思えないような雰囲気で、言葉を交わす正宗と竜胆。
 だがこれ以上、言葉を交わす事に時間を割いていられないと考えたのか、正宗が両手で刀を構えるのと同時に、撃退士達もまた、それぞれの武器を構えた。

「……今日こそ、決着をつけさせてもらいますの」
「生憎、此処で倒れるつもりは無い。しかし私の使命が終わりに向かっている事も事実だ、君の刃を後何度受けられるのやら」
 正宗の使っていた刀を砕いた事もある、橋場・R・アトリアーナ(ja1403)。
 しかし正宗とてそれは理解しており、だからと言って怯む様子も無いようだ。
「……行きますの、正宗」
「来い、正面から迎え撃ってくれる!」
 正宗が『死風』を解放、緋色の風を纏うのと同時に、撃退士達は己の力を解放しながら、散開して正宗に迫り始める。
「へっ……せいぜい良い声で哭いてくれよなー」
 既に偽装解除を済ませていたラファルは、正宗の動きをしっかりと観察しつつ、光学迷彩によって背後への回り込みを狙う。
「槍を向ける……威圧のつもりなのだろうが、狙うべきはそちらでは無いだろう」
 正宗の方へ正面から接近している玲治は、槍の切っ先を正宗の目線に合わせて威圧を図るが、正宗がそれに惑わされる事も無く。
「散開しているのなら、これは好機……! 一度は折られようとも、何度でも挑んでくれる!」
 そう言った正宗は刀を構え、散開しているこの状況を逆手に取るように、アトリアーナの元へ急接近する。

 そして敢えて正面から接近してきた正宗を前に、アトリアーナは攻撃の回避を試みるが、至近距離で放たれた緋色の風によって、彼女は宙に打ち上げられた。
「私とて剣士だ、負けたままで居るつもりは無い!」
 打ち上げられたアトリアーナの元へ跳び上がった正宗は、そのまま刀身に緋色の風を纏わせ、正面からの三連撃を繰り出す。
 アトリアーナは三連撃の初段をバンカーで受け、二段目を弾こうとする、が。
「押し切る、此処は譲れぬのだ!」
「この気迫っ……今までとは、違う……?」
 攻撃を弾こうとしたアトリアーナのバンカーを押し切り、正宗はそのまま彼女を二度斬りつけた後、地面に叩き落とした。
 アトリアーナがそうであるように、正宗も負けられないという意志がある。
 この三連撃には死風と共に、そんな正宗の『信念』が乗せられていたのだろう。

「待っていたぜ、この時をなー!」
 だがその瞬間、光学迷彩を使って上手く正宗の背後に回り込んでいたラファルが、正宗に奇襲を仕掛ける。
「奇襲だとッ……!?」
 反応が間に合わず、ラファルの『死閃』は正宗の背中に直撃し、彼は地面を転がった。
「あんたがそうだからって、あたいは負けないわよ! そもそも、あたいが負ける筈が無いんだから!」
「伊達に最強を目指していない、という事だな……!」
 正宗が吹っ飛んだ先で待ち構えていたのは、チルル。
 彼女は敢えて少し狙いをずらしつつ、正面から氷砲を放ち、正宗が右方向に回避するように誘導する。
「あなたには死神の技も、神殺の力も破られた……なら、聖獣の風はどうですか?」
 正宗が回避行動を取った直後、風架はチルルの誘導を利用し、風を脚部に集中させる事で、素早く正宗の背後を取った。
「ッ、速い――!」
 背後に回り込んだ風架が繰り出すのは、虚実の連撃。
 正宗はそれに対応が間に合わず、風架の刃は彼の腹部を斬った。

「風神の剣士の血、いただきましたよ」
 返り血を浴びた風架がそう言った直後、風架と入れ替わるようにして、アトリアーナが正宗の側面に迫る。
「……食いちぎるのです、死牙」
 アトリアーナがバンカーを地面に突き立てたその瞬間、呼び出された巨大な異獣の頭部が、正宗に喰らい付こうとする。
「受け切れぬと分かっていようとも、正面から迎え撃つ。君がそうしたように、私とて!」
 それを前にした正宗は、死風を纏った刃を異獣の牙と衝突させるが、その衝撃は尋常ではない。
 衝撃によって正宗の身体は切り裂かれ、その牙が吸収した生命力は、アトリアーナの傷を若干ではあるが癒した。
「ここまで来たら出し惜しみは無しだ、休んでる暇は無いぜ」
「打ち込んで来い、何度でも受け止めてくれる!」
 そしてアトリアーナと入れ替わるように、玲治が正宗に正面から全力の一撃を仕掛ける。
 大きく振りかぶり、全体重を乗せて繰り出されたその一撃だが、正宗もまた、一回転してからの薙ぎ払いで受け止めようとする。

「さすがにこの威力では、衝撃を抑えられぬか……!」
「少しは変わった事もしたいんだけどねぇ、毎度お馴染みにはなっちゃうけど」
 刃と刃が衝突し、衝撃によって正宗が打撃を受けたそのタイミングで、正宗の側面を取る竜胆。
「風を封じるつもりか、しかしそれを受けるつもりは無い」
 だがそれを見た正宗は、刀を引いて即座に至近距離に竜巻を放ち、強引ながら一気に離脱する。
 竜胆は技封じを断念、咄嗟に盾を構える事で、その竜巻を正面から受け止めた。
「……やはり、私の力では勝利を得る事は難しいのか。だがそれならば、此方も此方でやり様はある」
 撃退士達と距離を取った正宗は行動を起こそうともせず、刀を構えたまま、全体を見渡していて。
 そんな正宗の裏を取るべく、ラファルは引き続き光学迷彩によって姿を隠し、気付かれないように移動を開始した。
「難しい事は分からないけど、あたいは生きる為に戦うわ! だから、死ぬ気で戦ってるあんたには、負ける気がしないのよね!」
「成る程。死を以て敵を打ち破らんとする相手に、生きる為に戦おうとする者は打ち破れない、という訳か……皮肉のように聞こえる話だな」
 最強になる事に於いて重要なのは、生き残る事。
 生き残り、経験を積み重ねる事で、最強へと着実に近づいていくという事なのだろう。

 そんなチルルの言葉を聞いた正宗は、彼女が放とうとしている氷砲を回避しようとしながらも、何かを狙おうとしている。
「だから負ける筈が無いわ、負けられないとも言うけどね!」
 そして彼女が大剣を突き出すのと同時に、吹雪を連想させる程に白く、輝いているエネルギーが放たれた。
「もし叶うのならば、自分が生きる為に戦いたいと思った事もある。だが私は、主に仕える剣士」
 チルルの氷砲を横に回避した正宗は、即座に体勢を立て直し、疾風の如き速さで彼女の元へ接近する。
 その姿は、風刃・真で突撃する時の構えと全く同じ。
 それを確認した風架、アトリアーナは立ち位置に注意しながら正宗の後を追い、玲治も未知の技の使用を懸念して、正宗の後を追う。

「この風は死期を悟った私の覚悟であり、この技は死して道を切り開かんとする、私の信念の刃」
 ――そして正宗がチルルの正面にまで接近し、風架を始めとする三人が、正宗から少し離れた位置に陣取った瞬間だった。
「我が信念は此処に在り、死するその時まで刀を振るい続ける――!」
 正宗が死風を纏った刀を振り抜くと、風刃・真の三倍はある旋風が巻き起こり、チルル以外の三人すらも、裏を突かれるような形で打ち上がる。
 玲治は敢えて技に当たりに行く事で威力を弱めようとしたが、その努力も未知の技の前では、無駄に終わってしまって。
「極の型、その身に切り刻め!」
 そして四人を追うように跳び上がった正宗は、刀を振るう事で旋風を操り、四人の身体を緋色の風で切り刻んでいくではないか。
 全方向から吹き寄せる風は実体を持たず、防御する事も回避する事も出来ない。
 それを敢えて受ける事でカウンターを狙うチルルだが、アトリアーナは風に斬られた事で、力無く地面に落下した。

「……ほう、まだ立ち上がるか。あれだけの斬撃を受けようとも」
 しかし、アトリアーナは不屈の精神で持ちこたえ、かなりのダメージを受けていようとも、その場に立ち上がった。
「風で斬られても、どうって事ないのよね!」
「やはり、この程度では落ちぬという事なのだな……!」
 アトリアーナの姿に驚いたような反応を見せる正宗ではあったが、チルルがカウンターを仕掛けようとしたその瞬間、即座にその刃を刃で受け止める。
「油断はしない、だがしかし……やはり驚かされてばかりだな」
「待ってた甲斐があったぜ、やっぱり隙があるんだよなー」
 だが正宗がチルルとの間に距離を取ろうとすると、背後から二度目の奇襲を仕掛けようとするラファル。
「だからと言って二度も同じ手は食わぬ、隙を見せようとも反応が間に合わない訳ではない!」
 正宗はラファルの闇討ちに即座に反応、それを刀で迎え撃つが、かなりの衝撃が正宗の身体に少なくないダメージをもたらして。

「技の阻止には至りませんでしたが、これならどうです!」
「く、その機動力もまた健在かッ……!」
 そしてラファルと入れ替わるように接近した風架は、流れ出した血によって両腕に手甲を形成、それを正宗に叩きつけようとする。
 その『血拳』を正面から受け止めようとした正宗ではあるが、その威力は留まる事を知らず、正宗を遠くへ吹っ飛ばした。
「……奥義には、こちらも切り札で返しますの!」
 不屈の精神で立ち上がったアトリアーナは、吹っ飛んでいく正宗を追い、白刃による一撃を狙う。
「ならば応じよう、この身が果てるまで――!」
 体勢を立て直した正宗は、そんなアトリアーナを前にして、死風を纏った刀を一閃させる。
 白い炎を纏った刃と、死風を纏った刃。
 その二つが正面から、目にも留まらぬ速さで衝突したその時、今まで目にした事も無かったような衝撃が巻き起こって。

「……この戦も後数回で終わりとなると、本当に惜しいものだな」
 この衝撃によってかなりのダメージを受けた正宗は、その場に膝を着き、そう呟く。
「これで満足したか?」
「ああ……実に、面白い戦いだった」
 玲治の問いかけに正宗がそう答えると、玲治はそのまま全力の一撃を叩き込み、竜胆が月虹による追撃を仕掛ける。
 すると、その威力によって正宗は吹っ飛ばされ、彼は何処か満足そうな表情をしながら、地面に倒れ込んだのだった。


 果てるとまでは行かずとも、正面からの全力のぶつかり合いでかなりのダメージを受けた正宗。
「正宗……こちら側へ、学園に来る気はありませんか?」
 そんな中、地面に倒れ込んでいる正宗の元へ歩み寄り、そう問いかける風架。
「……私は天使に仕える使徒、もう後戻りは出来ないのだよ」
 使徒となった者はもはや『人間』ではなく、それを理解している正宗は、ただ淡々とそう答えた。
「あなたの忠誠心を汚す考えはありません。ですが、自分はただあなたと敵として刃を交えるのではなく、一人の仲間として、刃と風を重ねてみたい」
「ありがたい話だが……しかし私は、好敵手としての君を気に入っているのでな」
 風架の誘いを断った正宗は、その場で立ち上がった後、六人の顔を一つずつ確認して。
 最強を目指す者、不屈の精神で挑み続ける者、そしてもはや正宗を『越えるべき目標』として見つめる者。
 此処に彼等が集まったのは、あくまでも正宗が『敵』であったからで。

 ――その時、部屋の奥から姿を現したのは、正宗の主であるムラマサ。
 だがムラマサは何も言わず、ニヤリと笑った後、正宗と共に、風に乗って何処かへと消え去って行く。
 正宗達の後を追う事も出来ず、撃退士達が部屋の奥へ進むと、そこはもぬけの殻になっていて。
 残されていた実験装置等を全て破壊した撃退士達は、残党等に襲撃される前に、速やかに撤退するのだった。


依頼結果