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マスター:天原とき
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/08/31


みんなの思い出



オープニング

●通りすがりのヒーロー
「――うわああああぁぁぁっ!?」
「きゃああああぁぁっ!?」
 絶叫と悲鳴が上がる。
 ある晴れた昼下がり。
 賑やかだった街中の一角は、その声と共に騒乱の場と化した。
「おぉー…… 小さいのがいっぱい」
「クイモノ、クイモノ!」
「げへへ、ハラへった…… じゅる」
 原因は、ニタついた笑みを浮かべて人々を見下ろす、肥満体の巨人。それが三体。
 身長は優に四メートルほど。丸太のような手足に、ぶくぶくと肥った身体。
 醜い顔には凶暴な牙と、一本の短い角。
 片手には二メートルほどの大きさの、荒削りと分かる巨大な棍棒を持ち、いかにもという雰囲気を漂わせている。
「て、天魔だ、天魔が出たぞ!」
「逃げろっ!」
 突如としてそこに地面から湧き出すように現れた巨人達に、人々は一目散に逃げ出す。
 詳細は不明だが、このような存在は天魔に他ならない。
 それはすなわち、一般人に抵抗を許さず、自分の命を容易に刈り取るものだということ。
「うへへ、ニげんなー」
 巨人達はその足りなさそうな頭から湧き出ているのだろう欲求に従って、人々を捕まえに走る。
 動きはお世辞にも良いとは言えない。
 だが、四メートルの巨人だ。それが動きの鈍さを補って、とうとう一人のOL風の女性がその巨大な手に掴まれる。
「つーかまーえたーぁ」
「っ、あぎっ、痛いッ……!」
 力加減を知らないのだろう。
 背中から胴を掴まれた女性は、苦しげにのたうち、顔を青くする。
「おお、よくやった、よくやった」
「げへへー」
「ミッツ、ミッツ!」
「おお、じゃあ、みっつに分けて――」
 野太く緩い声で交わされる、残酷な相談。
 それを目撃した誰もが、次に起こる凄惨な事態を想像し、瞼をぎりと閉じると共に、願う。
 今ここに、撃退士が来てくれれば、と。

 ――その思いが通じたのか。
「やめ、やめてッ……!?」
「げへ、じゃあ、ここから千切って――」
 不躾に女性の足を摘んだその無骨な指に、光の刃が迸った。


リプレイ本文

●願いに応えて
 ――それは、刹那の奇跡だったと言っても過言ではないかもしれない。
 少なくとも、その場にいた無辜の人々にとってはそうだったろう。
「お、おおおっ!? おで、おでの指がっ!?」
 奔った一閃に、今まさに女性の足を引き千切ろうとした巨人の指が断ち切られて跳ねた。
 閃く刃の正体は、肉眼では捉えることも困難な細い鋼の糸。
「ゴミ、が――」
 そして、いつの間にか立っている。光纏と思しき波動に包まれた、人類の英雄――撃退士が。
 そのひとり、皇 夜空(ja7624)は、振るった鋼糸を引き戻し、続けざまに振るう。
「塵にしか過ぎないゴミは、塵に帰れ――!」
「こっ、なんがっ……!」
 奇襲にも近い攻撃を受けた巨人は、立て続けに襲い来る糸に一歩を引き、慌ててその手の邪魔なもの――女性を投げ捨てた。
「っ、きゃ、あっ!?」
 人外の力で投げられ、宙を舞う女性。
 それを目に捉えた誰もが、再び息を呑んだかもしれない。
 しかし、その身体があわやアスファルトに打ち付けられる寸前、その身体をしっかりと受け止める影までもがあった。
「――よっと。大丈夫かい、お姉さん」
 それは雨宮 歩(ja3810)。
 撃退士特有の、見た目に似合わない身体能力で危なげなく女性を受け止めた歩は、だんっと大きく一歩を下がって、物陰に女性を下ろす。
「片付けてくるから、飛び出さないようにね」
 すぐさま前へ。
「あっ、あの、気を付けて――!」
 女性の声に、歩は振り返らずに手だけで応えた。
 路上では、巨人の三体を前に夜空が対峙している。
「シネ!」
 見るからに脳の足りない巨人達には、奇襲などもそれほど効果はない。
 指を飛ばされて怒り狂った一体が、すぐさまその手に握った棍棒を夜空に向けて打ち付ける。
 轟! と豪腕から繰り出される一撃は風圧を纏いながら。
「くっ!」
 夜空はその一撃に肩を掠められながら、返しに糸を張る。
 その腕を絡め取って、ぎちぃ、と縛り上げる。
 僅かに止まる動き。しかしすぐさま力任せに巨人がそれを振り払い、外された反動でバランスを崩したところに、もう一体が来る。
「お、ぉ――! ぐっ!?」
 空気を蹴散らしながら放たれた二発目の棍棒。
 しかしそれは、突如として現れた黒焔の鎖に絡め取られ、夜空より遥かに遠い位置で止められた。
「――何、してるの?」
 放たれた声は、巨人に向けて。その声色は、疑問と侮蔑。
 神喰 朔桜(ja2099)は黄金の焔を纏って、今まさにその街角から現れたという風情で巨人を見る。
「お、ご……!?」
 巨人を絡め取った鎖が、ぎちぎちと締まる。
 そうしながら、朔桜は視線を一巡。
「――なるほど。キミ達は良いね、判り易い莫迦で」
 嗤って言った朔桜に、もう一体がすぐさま。
「げは、バガに、ずんなっ……!」
 三度目の強烈な一撃。
 しかしそれは、やはり、当然とでも言うかのように、縫い止められる。
「不愉快なんだよねぇ、ああいう事をされると、さ」
 巨人の影にアウルの刃を突き立て、戻った歩が気怠げながらも不快を露にした声。
「あら、ありがとう」
 くすりと笑って朔桜。それに歩は軽く応じながら、す、と夜空の側面へ。
「どーいたしまして。 ――ま、だから斬って終わらせる。お前らの全てを」
 巨人の半身にも満たない、三人の青年達が、それを囲む。
 外面だけ見れば、あまりにも無謀な光景。
 だが、先程まで周囲に満ち満ちていた絶望と悲鳴は、跡形もなくなっていた。

●人類の剣
「――があああっ!」
 巨人が吠える。
 最初に引き千切られたのは、歩の影縛り。
 それと共に怒りの任せた一撃が、アスファルトを容易く砕く。
「おっと――そんなんじゃあ、ボクには掠りもしないよ」
 歩がステップをひとつ。
 巨人の攻撃は図体に見合わず、それほど大雑把というわけではない。
 だが、それよりも遥かに早い歩は、女性を助けた時と同じ敏捷さで一撃を交わし、返しで跳び込む。
 すれ違いざまに一撃。そうして加えたダメージは、全て足に蓄積させていく。
「うがあっ!」
「はは。こっちだよ、こっち」
 巨人の頭では、歩の狙いには気付かない。
 一点に打撃を集中させていること。そして、歩がのらりくらりと相手をしていることに。

 夜空も善戦している。
「っ、は――ぬんっ!」
 一挙動ごとに舞う鋼糸が巨人の腕にカウンターで傷を与えていく。
 惜しむらくは、巨人はそれに怯むことなく、馬鹿正直に突っ込んでくるということだろうか。
「シネ! シネ、シネっ!」
「ぐっ!」
 鋼糸が軋み、傷を与えながらも拘束が外される。
 同時に襲い来る一撃を回避しきれず、防御でそれを受ける。
 アスファルトを容易く粉砕する強烈な棍棒の一撃を受けて大きく吹き飛ばされ、しかし見事に受け身を取って体勢を立て直せるのは、流石に撃退士と言うべきだろう。
 だが、そこに立て続けに追撃が迫る。
「くっ――」
 再び避け切れない一撃。
 小さくはない危機に、逃げずに見守っていた人々から悲鳴が上がる。
 しかし――そうはさせじと、青の弾丸がより疾く棍棒に突き刺さり、その軌道を強制的に歪ませた。
「――ヒーロー参上! 私が来たからもう大丈夫、なのだよっ!」
 溌剌とした声は新たに路上から。
 青空・アルベール(ja0732)は今しがた弾丸を放った銃を携え、笑顔で悠々と参戦する。
「ぐ、ニンゲンが――」
「私の射程内で、誰も彼も殺らせはしねーのだ!」
 巨人の怒りに応じるように、青空も声を返す。
 同時に放たれる弾丸は、青い軌跡を描きながら正確に突き刺さっていく。

 一方で、朔桜は残酷だ。
「っ、ぐ――こ、んの」
 ばきり、と金属と硝子の中間のような音を立て、右腕を掴んでいた縛鎖が破られる。
 だが、その身が自由になったのは一瞬。
「ご苦労様」
「っ!?」
 瞬間、今度は左腕を鎖に掴まれ、巨人は再び行動不能に陥る。
 そして立て続けに打ち込まれる、黒焔を伴う五つの黒い雷槍。
「お、ごっ――!?」
 巨人が呻く。
「あはっ」
 朔桜が嗤う。
 反撃を許さない、一方的な攻撃。
 あるいは、容赦がない、という意味では慈悲深いのだろうか。
「ふざけっ――らあっ!」
 勿論、ただ嬲られるままではいまいと、巨人はその右手の棍棒を投擲に掛かる。
 だが、それは当然のように、新たな闖入者の鋼鉄の巨体が突っ込んできた衝撃で、軌道を逸らされた。
「ぬがっ!?」
「――騒がしいと思ったら。俺の帰り道で面倒なこと起こしてんじゃねえよ」
 不機嫌な声は、その巨体――バイクの上から。
 由野宮 雅(ja4909)は巨人の怒りの視線に眼鏡の向こうから負けぬ睨みを返し――次の瞬間には、その腕に化現させた弓の一撃を無造作に叩き込んだ。
「があっ!?」
 至近距離から胴へ一発。
 強烈な衝撃と共に打ち込まれたそれをまともに受け、たたらを踏む巨人。
 それで終わりではない。新たな黒雷槍が更にその背に突き刺さる。
「ぐうっ!?」
「余所見するなんて、まだまだ余裕があるんだね」
 追撃は朔桜の笑みと共に。
 巨人を挟んで二人は笑みを交わすように、それぞれ追い打ちに入る。
 そう、慈悲深い笑みを。

●ヒーローの証明
 戦闘の開始から数十秒。
 三人の巨人達は、傷だらけになりながらもまだ立っていた。
 よく耐えていると言うべきだろう。
 貧弱な下級天魔では、ある程度熟練した撃退士の攻撃に三発も四発も耐えることは難しい。
 脳は足りないが、力と体力だけは有り余るほど。それがこの『オーガ』ディアボロの特徴だ。
「ふううっ! があっ! おおおおっ!」
 上げる怒声にもはや意味のある言葉はない。
 傷を受けるごとにその凶暴性を露にしているように、とにかく棍棒を振り回してくる。
 撃退士達の方も、特に最初からいる夜空、歩、朔桜の三人は流石に息が荒い。
 だが、これだけの大騒ぎの結果だろう。
 彼らをカバーするように、次々と撃退士がやってくる。
「こっちですよ、来なさい。下品で鈍重な大男」
 挑発の声を上げるのはイアン・J・アルビス(ja0084)。
 すっと参戦しては、歩に直撃しようとした一撃との間に割って入り、それを盾で難なく受け止める。
「シネシネ! シネッ!」
「――その程度では僕は殺せませんよ。もう少し頑張ってはどうですか?」
「がああああっ!」
 強打に次ぐ強打。
「っ――」
 実際は、この巨人から繰り出される攻撃を受け止めることは、至難の業だ。
 巨体と怪力ゆえの、単純な一撃。
 だがそれは、一口に単純とは言い切れないだけの威力と速度を持っている。
 ――だが。
 その衝撃に身体を揺さぶられつつも、イアンの盾は決して揺るがない。怯まない。
「――や、あっ!」
 その背後から容赦なく刃を撃ち込みに掛かるのは佐藤 七佳(ja0030)。
 翼のような光纏が示すように、俊敏な動きでもって一体を着実に追い、傷を与えていく。
 時折、流れ弾のように襲ってくる棍棒に当たらないように。
「っ! 交渉できないのなら、せめて――」
 ぎゅん、と加速。
 絶えず背後を取りながら、その腕の大型パイルバンカーから刃を放ち、続けざまに切り裂く。
「こ、んの――!」
「おっと――こっちだと言っているでしょう」
 七佳の攻撃に巨人の気が逸れそうになると、すぐさまイアンが盾で打ち付け、更に剣で一撃。
 怒りに顔を歪ませた巨人が対応してくると、それでいいとイアンは盾を構える。
 七佳や歩。そして向こうで戦っている青空。もっと言うならばこの場にいる全員。
 彼らがいる限り、イアンの盾は揺らがないし、怯んではいけないのだ。
 そして最初に崩れたのも、その一体。
「……!」
 建物の影に潜んだ黒椿 楓(ja8601)が、狙い澄ました一撃を静かに放つ。
 放たれたアウルの矢は、強烈な輝きを伴って飛翔し――
「がっ、ぐっ!?」
 ずばんっ! と歩がダメージを与え続けていたその巨人の片足を吹き飛ばした。
 擱坐するように膝を付き、その動きが止まる。
 勿論、それを見逃す撃退士達ではない。
「その命――貰いますっ!」
 七佳が翔ぶ。
 轟! と噴き出すアウルは加速器のように。
 アウルを激しく燃焼しながら、その姿を白の鳥のように。
 頭上からの一撃で、巨人の命を確実に絶命させる。
「おおおおおぉぉおぉぉぉおぉおおおっ!」
「これで――終わりです!」
 大きな断末魔が上がり、そして途切れる。
 ずぅんっ! と倒れ伏した巨人に、息が漏れた。
 そんな中でも、歩は余裕を持ってあざ笑う。
「雑念を捨て、視野を広く。集中し、状況を分析し、勝利の為に思考を巡らせる。これが理性を持つ人間の戦い方だ……なんてねぇ。もう、聞こえてないか」

 次に下された巨人は、朔桜と雅が相手にしていた一体。
「全く――」
「ニンゲンがっ! ニンゲンがっ!」
「どうしようもないね、これは」
 黒焔の鎖の拘束の元、二人はお互いに巨人を惹き付け合いながら、一撃ずつ。
 突き刺さるアウルの矢と黒雷槍に翻弄されながら、巨人はその豊富な生命を削られていく。
「こっちは店の仕込みもあるんだ。だから――」
 一発。
「それは、運が悪かったね」
 一発。
「ああ。だから、さっさと死んでくれ」
 一発。
「そうだね――死こそ救いなり、かな」
 一発――
「がああああああああああぁああああぁっ!」
 嬲り殺しのような攻撃に、巨人が吠える。
 鎖が軋む。だが、その禍々しい黒の鎖は、それそのものが巨人の命を欲するかのように、絡んで離さない。
 そして二人は手を緩めない。
「命乞い――とかいう感じじゃないね。死になさい」
 それが最後。
 言葉と共に放たれた雷槍が、巨人の頭を射抜いた。

 ほぼ同時に、最後の一体も。
「があっ!?」
 再び影からの楓の痛烈な狙撃が巨人の身体を貫く。
「ぐ、が、おぉっ!」
「――届きませんよ、そんなものでは」
 たたらを踏みながらも振り回した一撃は、割って入ったイアンが受け止め。
 その隙に青空がその身に刻印を浮かべ、更に青い弾丸をを叩き込んで、その巨体を仰け反らせる。
「的にするにはイージーすぎる大きさだな」
「全くだ。図体だけ大きいゴミが――散れ」
 夜空がひとつ息を吐きながら、鋼の糸を再び。
 閃いた一糸が、最初に女性を助けた時と同じように、その首を刎ね飛ばした。

 決着に、一瞬の静寂。
 その結末として撃退士達が勝利したことが知れると、その静寂は一気に歓声に変わった。
「ふう。 ――怪我をしている人はいないかい? 足を挫いたとかでも遠慮なく言うといいのだ!」
 隠すように安堵の息を漏らしつつ、歓声に負けじと青空は声を返す。
「あぁ――かったりぃ」
 雅も一息をつくように煙草を咥えながら、急ぐ素振りを見せつつも、青空と並んで遠慮がちに申し出た一般人に応急処置を行なっていく。
「……大丈夫?」
「む――助かる」
「ありがとうございます」
 楓も、今まさに到着したかのように装いつつも、静かな微笑みと共に夜空やイアンに応急処置を施す。
「それと――先程の狙撃は見事だった」
「…うちの仕事だから。気にしないで」
 言う表情は、変わらず微笑み。 ――気が付いた時には、その姿を消していた。
「あ、あの――本当に、ありがとうございました」
 そう女性に頭を何度も下げられるのは歩。
 よろしければお名前を、と助けた彼女に言われるも、それを遮って告げる。
「ただの通りすがりの探偵さ。それ以上でも、それ以下でもない」
 歓声に対して笑顔を向けつつも、なんともくすぐったそうなのは朔桜。
「こういう柄じゃないのになぁ」
 言いつつも、ありがとう、と言う彼らに手を振る。
 己の出自故に、朔桜には分からないのかもしれない。
 やり口は無慈悲であっただろうが、この今の世界には、それでも救いだということを。
 朔桜がその力を無差別に振るうようなことがない限り、人類にとって撃退士は英雄なのだ。
 七佳もひとつ息を吐き、警察がやってきたのを見届けてから帰路へと就く。
 迷いはあれど、今日もまた人を護れたこと。それを胸にして。

 撃退士はこうして、人々の願いに応え、ヒーローとしてその名を馳せる。
 いつか天魔がこの地上から払われる、その日まで。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

Defender of the Society・
佐藤 七佳(ja0030)

大学部3年61組 女 ディバインナイト
守護司る魂の解放者・
イアン・J・アルビス(ja0084)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
dear HERO・
青空・アルベール(ja0732)

大学部4年3組 男 インフィルトレイター
愛すべからざる光・
神喰 朔桜(ja2099)

卒業 女 ダアト
撃退士・
雨宮 歩(ja3810)

卒業 男 鬼道忍軍
撃退士・
由野宮 雅(ja4909)

大学部4年2組 男 インフィルトレイター
神との対話者・
皇 夜空(ja7624)

大学部9年5組 男 ルインズブレイド
日出国の巫女・
黒椿 楓(ja8601)

大学部6年113組 女 インフィルトレイター