「まずは、シママートでミーティングだ」
島に上陸すると、同時に周囲の警戒を行う撃退士たち。しかし、港付近にはディアボロの姿は無いようだ。すぐに藤堂 猛流(
jb7225)の提案でシママートへ向かう。
「シママートは無事のようやな」
葛葉アキラ(
jb7705)が安心したように呟く。撃退士たちが島を離れた間に、ディアボロたちが暴れ破壊する可能性もあった。実際に、港付近には破壊された建物があった。
「食料とかも大丈夫なのね〜」
「あたいのチェックは完璧よね!」
「荒らされた……様子はない……です」
白野 小梅(
jb4012)、雪室チルル(
ja0220)と雪月深白(
jb7181)がシママートの内部の確認を終えて戻ってくる。外観は無事でも食料などが駄目になっている可能性も多少あったのだ。
「その大きな荷物は何ですか?」
「秘密ですよ」
イアン・J・アルビス(
ja0084)が聞くと水無月沙羅(
ja0670)は笑顔でそう返すのだった。そして、各々持ってきた荷物をシママートに置かせてもらう。その中でひときわ大きい荷物なのは水無月だ。どうやら、食べ物を多く持ち込んだようだ。他にも葛葉や雪月が色々と持ち込んでいる。
「港付近では、ディアボロの存在は確認出来なかったな」
「それですと、以前ベンを発見した山のベンチ付近にいるかもしれませんわね」
そして、全員が集合したのを確認し、藤堂は地図を広げ、斉凛(
ja6571)が状況を指摘する。
「よし、じゃあ山に向かいながら周囲を捜索だ」
そして地図を畳み手早く準備を整えて出発するのだった。
「あそこにディアボロの群がいますわ」
斉が指し示す方向に五体ほどの群がいた。その中心にいるディアボロだけが違う雰囲気を持っていた。
「あれがハードベアだ」
「私もそう思います」
藤堂は断言し、イアンも同意する。改めて二種類のディアボロがいると考えて監視すると、動きというか、仕草が全体的に重い雰囲気を出しているのがハードベアのようだ。
「熊さん……ぬいぐるみだと可愛い……こっちは可愛くない……」
そんな様子を見て、とても率直な感想を呟く雪月だった。
「無理はしないで下さいね」
「じゃあ行ってくるよ〜」
「お役目、果たしてみせますわ」
まずは二手に別れる。囮役の白野と斉と他の皆だ。イアンの言葉を背に、白野と斉で囮役に向かう。先に顔を出して、まずは白野が魔法書を開き、そこから風と氷の刃を放つ。
「ガガ?」
その攻撃は挑発的攻撃。大したダメージは与えられないが、それでディアボロたちは白野に気が付き追いかけ始める。
「こっちに気が付きましたわね。小梅ちゃん逃げましょう」
「クマ退治ぃ〜♪」
そしてディアボロの様子を伺いながら逃げ出す斉と鼻歌交じりに逃げ出す白野。同時にイージーベアから火炎弾が飛ぶも、離れているからか命中しない。そして誘い出されるままに奇襲班の待つ場所へ移動するディアボロ。
「いくぞ!」
藤堂のかけ声で一斉に攻撃を仕掛ける撃退士たち。かなり有利な状況で戦闘が開始された。
「行くで!」
葛葉は弓「残月」 を構えると、ディアボロたちのいる地面を狙い矢を放つ。すると、矢の刺さった地面に魔法陣が出現し、次の瞬間に魔法陣がディアボロたちを複数巻き込み大爆発を起こす。
「おや? 変やな?」
「ちょっと弱すぎでしょうか?」
その一撃だけで倒れる個体と倒れない個体がいる。葛葉と斉は少し気になるようだが、後回しにする。そのまま斉は優雅な動きでスナイパーライフルをどこからともなく取り出すと、ハードベアの眉間を狙い弾丸を撃ち込む。
「……うふふ」
眉間の射撃でよろめいたところに雪月のサンダーブレードが炸裂し、さらに藤堂のショットガンが追撃する。
「ガガアァ!」
雷撃で痺れ悲鳴を上げるハードベアにさらに白野が魔法書から風と氷の刃を放つ連続攻撃を繰り出す。
「あたいが熊鍋の材料にしてやるんだから!」
そして、雪室の振り回す大剣が白く光りを纏うと同時に振り抜くと、1体のイージーベアを巻き込み放たれる氷結の斬撃。
「ガガガ……」
これだけの連続攻撃を受けても、それでもまだ動けるようで、腕を振り上げ広範囲に火炎弾を投擲し反撃する。同時にイージーベアがハードベアを守るように、包囲を作ろうとする。
「突撃します!」
「え、ちょっと!」
そんな包囲が出来る前の小さな隙間を狙い、水無月が突撃する。それは少し無謀に見えるような突撃。
「やぁ!」
覇気と共に袈裟懸けに振り下ろされる太刀の一撃がハードベアをとらえる。
「ガガァッァ!」
その一撃にも耐えたのか、前足を振り上げ水無月を狙い振り下ろそうとする。
「危ない!」
誰かの悲鳴が響くが、その前足は振り下ろされる事はなく、停止し……そして、そのまま背後に轟音と共に倒れた。
「では逃げましょうか……おや?」
ハードベアを倒した事を確認すると同時に、イージーベアの動きを注視するイアン。状況によってはこのまま離脱する作戦なのだが……。
「様子がおかしいですね」
シールドを構え防御の姿勢のまま、様子を見るとイージーベアの様子が緩慢になっている。
「よし、このまま全滅させる!」
その様子を見て藤堂は判断を下す。
「了解しましたわ!」
「うふふ、逃がさないよ」
その判断に従いイージーベアの掃討に動く撃退士たち。元々、耐久力の低いイージーベアだから、掃討は容易だった。こうして、ハードベアを1体含む5体のディアボロを小さな被害で倒したのだった。
「お疲れさまでした」
まずは最初のハードベア一体目を倒したところで、一度休憩を取る。斉が用意していた紅茶を皆に振る舞う。
「美味しいよ〜♪」
上機嫌で紅茶を飲む白野。お返しとばかりに持ってきたドロップスを皆に配る。
「はい、あげるぅ」
「ああ、甘いものはいいね」
イアンはドロップスを口に入れて、同時に地図を出して次の作戦を検討する。
「次はここらへんかな?」
「ああ、次は港付近は避けよう」
イアンと藤堂は地図を見ながら次の作戦場所を相談する。藤堂の意見で囮に使う場所を一回毎に変える作戦だ。
「お代わりはいかがですか?」
「あ……はい、頂きます」
そんな話をする中で水無月にお代わりの紅茶を入れ、一緒に茶菓子を差し出す斉。
「大丈夫ですわよ」
そして、唐突に優しい笑みを浮かべ水無月に微笑みかける。一瞬、その意味が分からなかった水無月だが、すぐにその笑みを理解する。斉は少し気負いすぎている水無月を心配しているのだ。
「……」
少し返答に困る水無月。仲間の為なら、傷つき倒れても構わない……そんな気持ちがあったのも事実だ。だが、それはたぶん、皆同じ気持ちだろう。だからこそ、その想いが強く出ている水無月を斉は心配したのだろう。
「そうですね。大丈夫ですね」
改めて見回すと、楽しそうに話をしている白野、雪室と雪月。地図を見ながら作戦を立てている藤堂、イアンと葛葉。誰もが皆、信頼しあい協力しあっている。
「もう一個、あげるぅ」
そんな雰囲気を何となく感じたのか白野がもう一個、ドロップスを水無月に渡す。
「ありがとうございます」
そんな頼もしい仲間たちをみながら、改めて頑張りたいと想うのだった。
「あれは無理だな」
「そうですね」
そして、地図を手に島を調べて歩くが、固まって行動しているディアボロが多数だった。あまり大っぴらに行動して囲まれては危険だから、どうしても隠密行動になる。その日は、攻撃の機会には恵まれず、一旦シママートへ戻るのだった。
「腹ごしらえは必要ですよ」
シママートに戻ると、水無月は腕まくりをする。水無月は用意していた食材を使って料理を作るようだ。
「お手伝いしますよ」
「俺も手伝うぜ」
イアンは家事全般が得意なので手伝いを申し出、藤堂も基本的に手先が器用なので、料理も得意なのだ。さらに斉も手伝い調理が開始された。
「じゃあ、見張りしてくる〜 近づいたら教えるねぇ」
「あ……私も行く……」
白野と雪月は皆に声をかけ、武器を手に見張りへ行く。その際には白野はミニドーナツを手に、雪月は何かバックを持って行くのだった。
「半分あげるぅ」
「ありがとう……」
シママートの屋根に上ると、もぐもぐとドーナツを二人で分けながら食べ見張りをする。少したつと、今度は雪月がバックから何かを出す。それは、とってもふかふかで暖かそうな毛布。
「寒いと……ヤダ……だよね」
「そうだねぇ」
二人で毛布にくるまると……とっても暖かい。
「ん……暖かいと……落ち着くね……」
「うんっあったかい」
二人で毛布で暖かくしながら周囲を監視するのだった。
そんな二人が見張りをすうる中で、キッチンではとてもいい香りが漂い始めていた。
「いい香りですね」
「はい。特製の味噌ダレです」
今回は正式に使用許可が出ているから、キッチンを借りる。そこでは、水無月が持ってきた特製の味噌ダレがいい香りを漂わせていた。
「まずは、冷えた体を温める三平汁です」
水無月が鍋ごと持ってきて、お椀によそる。三平汁は、北海道の名物料理で鮭の旨みを凝縮した美味しい汁物だ。
「あたいが戻ったよ!」
「ちと寒かったな」
周囲の監視から戻った雪室と葛葉が寒そうな顔でテーブルに付く。外はもう冬が近づいている事もあり、かなり気温が下がってきている。
「お疲れさま、どうぞ」
水無月は最初に雪室と葛葉に三平汁をよそって渡す。
「いただきます」
「美味そうやな」
そして、三平汁を一口飲むと……思わず、その暖かさにため息が漏れる。
「これは上手いんやな!」
体の芯から暖まっていく感覚に笑顔になる葛葉。
「これ美味しいよね」
雪室も同じように芯から暖まっていく感覚を味わっていた。
「ああ、いい匂い〜」
「小梅ちゃんも深白ちゃんもお疲れさま」
そして、白野と雪月も香りに誘われて、屋上から降りてきた。すぐに二人に三平汁を用意する斉。ちなみに見張りはイアンが交代して担当している。そして、三平汁が行き渡ったところで、藤堂が大きな鉄板を持ってくる。。
「これも上手いぞ!」
そして、テーブルの中央に置いたカセットコンロの上に鉄板を置く。すると、味噌の香ばしい香りが部屋一面に広がる。これも北海道の名物料理のチャンチャン焼きだ。大量の野菜を身をほぐした鮭と一緒に鉄板から直接食べる料理だ。
「いただきます……美味しい」
「これもおいしい〜よ」
特製の味噌ダレとたっぷり野菜のチャンチャン焼きに皆で舌鼓を打つ。
「わぁ、あたいも食べる〜」
皆が美味しそう食べる姿に雪室も手を出す。そして、にぎやかな食事になるのだった。
「鉄板なら、これの出番やな」
そう言って葛葉が取り出したのは、焼おにぎり。それを鉄板で軽く暖めて食べる。
「米は最高だな」
「お米はやっぱり力、付くからなぁ」
並べる焼おにぎりがすごい勢いで無くなっていくのを笑顔で見つめる葛葉だった。
「こういうのは男の仕事だよな」
「そうですね」
ちなみに見張りは早めに食事を終えた藤堂がこっそりとイアンと交代したのだった。
翌日、地図で目星を付けた山のベンチ付近へ向かうと、そこには斉の予想通り、八体ほどのディアボロの群がいた。その中に一体のハードベアが含まれている事を確認すると、再度囮作戦を実行する。
「クマ退治ぃ〜の続き〜」
相変わらず歌うように囮作戦を行う白野。その歌声に反応したのか、白野に向かい走り出すイージーベア。その後をゆっくりと追いかけるハードベア。予定通り誘き出して奇襲を仕掛けるが、今回は気が付かれていたのか、イージーベアが壁を作る。
「あたいの邪魔すんな〜」
「ハードベアを守るつもりだ!」
ディアボロの意図を把握した藤堂は、ハードベアへの攻撃を諦めイージーベアを狙いショットガンを放つ。その一撃で倒れるも別のイージーベアが壁を作り反撃してくる。さらに囮役の白野と斉も多数のイージーベアの火炎弾に晒され、ダメージを負う。
「こっちを見ていただきましょうか」
二人に攻撃が集中しないように、タウントを行い攻撃目標を分散させ、被害を減らしイージーベアを倒していくが……しばらくして7体のイージーベアを倒した頃には、ハードベアの姿は無かった。
「大丈夫です、印は付けてありますわ」
斉は、囮という大変な役目をこなしながらも、マーキングを使用していた。
「でも、その分小梅ちゃんが……」
かなりのダメージを負っている小梅だったが、それは斉がマーキング出来るように動いていた結果だった。そう心配する斉だが、実は斉も白野を守ろうと奮戦したからダメージは少なくない。
「大丈夫ぅ」
強がりなのかもしれないが、元気な笑顔を見せる白野に、まずは追跡を開始するのだった。
「見つけましたわ」
そして、追跡を開始してすぐにマーキングを付けたハードベアを発見した。どうやら、近くのイージーベアを集めているようだ。すぐに攻撃を仕掛ける撃退士たち。
「あははは! 凄い凄い!! ねぇねぇ、何で倒れないの!?」
戦いになると普段とは様子が変わる雪月の風のアウルを纏った素早い攻撃を受けても、倒れない事に驚き喜ぶ雪月。さらに、葛葉が放つ強烈な風の一撃にも耐えるハードベア。そして、強烈な火炎弾を雪室に放つ。
「無駄無駄! あたいにそんな攻撃は通じない!」
強烈な一撃に耐える雪室。そのやせ我慢も強さの一つだろう。そして、大剣を構え走り込みすれ違いざまに一閃が光る。
「ガガガァァ!」
その一撃にも耐えたのか、振り向き雪室を狙おうと口を開けるハードベア。
「今日のあたいの一撃は今までとは違うんだからね!」
その一撃に耐えたかに見えたハードベアに叩きつけるように言葉を放つと……同時に一閃の傷口が凍結を開始し、同時に地面に崩れ落ちた。
同時に再度動きが緩慢になるイージーベア。すぐに討伐に移るのだった。
「これで全部だね」
そして、残りのイージーベアを倒した撃退士たち。そして、戦いながら様子を探っていたイアンと斉と葛葉。
「あの熊……三種類もおったんか。道理で」
そう、前回の調査でも分からなかった事だが、ディアボロは三種類だったのだ。イージーベアと区別が付かないが、さらに弱い個体がいたのだった。さらに、注意深く観察した結果、ハードベアは完全に区別が付くようにもなった。
「ともかく、これで任務完了だ、ちょうど迎えも来た」
無理は禁物と、帰還を決定する藤堂。ちょうど、迎えの船が来る時間だった。それも、イアンが出発前に迎えに来る時間を、この夜頃に追加を頼んでいたからだった。
そして、今回は港をディアボロが現れる事もなく、無事に船に乗り込む。そして……去る撃退士たちの背後で、たぶん最後のハードベアが残りのイージーベアと共に、港付近に現れるのが見えた。
その影で……一人の少女の姿が見える。その少女は静かに島から離れていく船を見つめるのだった。