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マスター:あきのそら
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2016/01/05


みんなの思い出



オープニング

●市立藍ヶ浜高校 職員室
「おや、タケウチ先生。面談ですか?」
 面談室のカギを手に取ったところで、教頭先生に声を掛けられた。
 新人の、クラスも持っていないいち数学教師が面談室に用事だなんて怪しまれたんだろうか。
「えぇ、1−Aの……アダチさんと」
「あぁ、あのバドミントン部の」
 僕の言いにくそうな態度を察してくれたようで、教頭先生は数回頷くと優しい笑顔でいってらっしゃいと言ってくれた。
 会釈して、足早に職員室を出ると大きなキャリーバッグを背負った女子生徒たちが駆け下りていくところにかち合ってしまった。
「あーっ、タケちゃんセンセばいばーい!」
「こら、階段だからって走らないように」
「はーいっ」
 僕の注意なんて気に留めず生徒たちは走り去っていく。その後ろ、走り去った生徒たちと同じような大きさの赤いキャリーバッグを抱えたアダチさんが軽い足取りで降りてくる。
「あ、タケちゃんセンセ」
「こんにちは。機嫌良さそうだね」
「まあ、選手に選ばれましたからねっ」
「へぇ、すごいじゃないか。ってことは今度の大会に出るの?」
「うんっ。ま、どうせ負けちゃうだろうけど」
 アダチさんはここ最近にしてはかなり珍しく明るい調子で、朝いちばんに顧問の先生から団体戦の控え入りしたことを話してくれた。
 話しながら面談室へと向かい、席に着いたところで本題を切り出した。
「ダブルスで控え入りってことは、ホンマさんとのペアってことなのかな」
「……うん、そだよ」
 ホンマさん。アダチさんと同じ1−Aの生徒で、バドミントン部の子で、大変大人しく、赤の似合うアダチさんとは対照的に青の似合う子で……イジメられている。
 それに気づいたのもごく最近のことで、クラス担任でもない僕は事情を知らないのだった。
「最近、連絡は取っているの?」
「ううん、全然」
「そう……休み時間とか、部活でも?」
「うん。話しかけてもずっと上の空っていうか、考え事してるみたいな感じで。おとといくらいから部活も来てないし」
「そっか」
「今日家に行ってみようと思ってるんだ。部活やってからだけど」
 ホンマさんと対象的に明るい性格のアダチさんがここ最近どうしてよいか悩んでいる様子だったのもあり、詳しい事情やホンマさんの近況を聞きたくて面談を持ち掛けてみたのだが。
 結局、アダチさん自身もあまり詳しく知っているわけではなさそうだったのですぐに面談はお開きとなった。
 ホンマさんが調子を取り戻した時のために練習するんだというアダチさんを見送り、一人になると自分の無力さを痛感した。
「……新人が出しゃばれるのはこれくらいなのかな」
 そう呟いてみても、虚しさが増すだけだった。
 
●市立藍ヶ浜高校 廊下
 アダチさんとの面談から三日後の放課後。
 あれから連絡は取れただろうかと考え事をしながら歩いていたら生徒とぶつかってしまった。
「おっと、ごめんよ……って、アダチさん?」
「……あ」
「ど、どこかぶつけた?大丈夫?」
「……ううん、ううん」
 どこか遠くを見るような視線で頭を抑えたまま、アダチさんは歩いていってしまった。
「どうしたんだろう……?」
 若干、ふらつくような足取りで教室に入っていくアダチさんの後姿を見つめていると入れ替わるようにヒソヒソと話す二人組が出てきた。
「――やっぱりそうだって、絶対――」
「ねー。やっぱり二人そろってくもがみ様に――」
 足早に去っていく二人組の言葉が耳にこびりついたみたいに繰り返し頭の中で響くのを感じながら職員室へ戻ると、なんだかざわついた空気が漂っていた。
「あの、どうかしたんですか」
 近くに居た教頭先生に声をかけてみると、困ったような声が返ってくる。
「あぁ、タケウチ先生。ホンマさんのおうちに連絡が取れないみたいで……」
「連絡が取れない?でも確か、今朝には欠席の連絡は来たって」
「なんでもついさっきもホンマさんの家から電話がかかってきたそうなんですよ。なのにうんともすんとも言わないもので、おかしく思っていたら、何かが弾けたような……受話器を何かに叩きつけたみたいな音がして切れてしまったそうで。何かあったんじゃないかと」
 事情を聞く僕の方を見る先生方の顔は暗い。
 心配している、というより不気味で怖がっているといったほうが良さそうなくらいに暗い顔だ。
 僕自身、きっと同じ顔をしているに違いない。
 さっきすれ違った二人組のひそひそ話がどうしても頭から離れず、遠くを見つめるアダチさんの表情も相まって嫌な予感が止まらなかった。
「……一応、警察に連絡しておきませんか」
「警察ですか?いやぁ、しかし……」
「念のため、念のためです」
 渋る教頭先生を引き連れ、他の先生たちから距離を取ってできるだけ小さい声で続けた。
「ホンマさんは、その……イジメを受けているかもしれないんです。けれどお友達のアダチさんは詳しい事情を知らなかった。もし学校のお友達も知らないような、それこそ家庭の事情で心が弱っていて、結果としてそういうことの標的にされたんだとしたら……最悪な事態になる前に出来ることをしておくべきです、彼女のためにも」
「……わかりました。となれば校長先生にも相談しなければなりません、あとは私たちに任せてください」
「ありがとうございます」
「えー、みなさん。念のため警察に相談しますので、あとはお任せください」
 教頭先生の一声に安堵する先生や怪訝な顔をする先生も居たが、結局その日は何事もなく帰宅することとなった。

●市立藍ヶ浜高校 職員室
 翌日の朝。出勤すると校門が閉まっていた。
「ん……?」
 7時27分。いつもなら開いている時間だ。
 車から降りてみると、ふと廊下を歩く女子生徒の後姿が校舎の窓越しに見えた。
「赤いキャリーバッグ……アダチさん?」
 どうしてアダチさんが校舎内に居るのに校門が閉まっているんだ、と疑問が浮かんだ瞬間にアダチさんらしい女子生徒がバタリと倒れこむように窓から見えなくなってしまった。
「アダチさんっ!」
 咄嗟に校門を乗り越えてアダチさんの見えた一階廊下へと走る。
 廊下の真ん中でうつ伏せに倒れこんだ見覚えのある背格好の女子生徒は、やはりアダチさんのようだ。
「アダチさん、大丈夫ですか!?」
 肩を掴み、起こしたところで全身の肌が粟立ったのは目の前の光景を理解するよりも早かった。
 抱え起こしたアダチさんらしい女子生徒の顔はヒトのそれではなかった。
 真っ赤な色をした蜂のような目、トンボのような口、真っ白い肌。
「う、うわああ!」
 僕の悲鳴と、目の前のそいつの腰の辺りからカマキリような形の鎌が二本飛び出してきたのは同時だった。
 背負っていたキャリーバッグを突き破るように蜘蛛のような足が六本と蜘蛛のような胴体が飛び出してくる。よく見れば、靴を履いている二本も蜘蛛のそれにそっくりだった。
 袖に隠されていた真っ白いカマキリのような鎌が振り下ろされる。
「うあ、あぁ!」
 へたりこみながら間一髪のところで避け、後ずさりした先は1−Aの教室だった。
 そこには張り巡らされた蜘蛛の巣と、それに捕らわれ宙づりにされた何人もの生徒たちの姿が並ぶ光景が広がっていて。
 今まさにひとりの生徒を糸で絡めとらんとしている”青い目をしたもう一体の化け物”の存在に気付いた頃には、ねばついた糸に視界を奪われ、気を失っていた。


リプレイ本文

●市立藍ヶ浜高校 昇降口前
 校庭側玄関で待つ撃退士たちの元へ、偵察を終えたVice=Ruiner(jb8212)のヒリュウが帰ってきた。
 SPのような黒服に身を包んだViceが、深いため息と共に呟く。
「あいつら、一階を糸まみれにするまで他のとこへ動く気がないみたいだ……二階は職員室以外ほとんど糸が見当たらないからな」
 Viceの呟きに雪室 チルル(ja0220)が頬をこれでもかと膨らませながら不満を顕にした。
「卑怯なやつね!隠れてないで出てこーい!」
 元気いっぱいなチルルに続いて、怪訝な表情のエカテリーナ・コドロワ(jc0366)がアサルトライフルのグリップを確かめながら校舎を眺める。
「本当にただ卑怯な虫けらなら、何も言うことは無いんだがな」
 その後ろで窓から僅かに見える尋常ではない蜘蛛の巣が張り巡らされた教室の一部を見ながらうげーと舌を覗かせるのは加賀崎 アンジュ(jc1276)。
「私、蜘蛛ってそんな好きじゃないのよねー……」
 芳しくない状況に暗い雰囲気が漂う中、一人凛と研ぎ澄まされた様子で佇む長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)はバンテージのように布状の武器を纏いながら一同へと振り返った。
「十分な警戒が必要なようですわね。さあ、急ぎましょう!Viceさん、誘導をお願いいたしますわ!」
 Rehni Nam(ja5283)へ無線機を使って校舎内の状況を報告し終えたViceが頷き、先頭を歩く。
 そうして、一同は校舎内へと踏み込んだ。
 昇降口はそれなりの広さがあるにも関わらずほとんど視界が通らないほどに蜘蛛の巣で溢れている。
 しかし、天井付近や隅に人ひとりがかがみながらであれば通れそうなほどの空間があり、それが廊下や各教室にまで繋がっていることはViceの偵察で承知済みだった。
 視界を確保しながら天魔を誘い出すため、Viceのヒリュウがその隙間を縫うように進む。
「やれ、ルード!」
 Viceの掛け声によりヒリュウから放たれた波動が昇降口内の蜘蛛の巣を蹴散らし、引きちぎるように一掃する。
 確保された視界の端、糸の隙間に覗いた昆虫の足を見逃さなかったエカテリーナが叫ぶ。
「そいつをこっちに下げるんだ、来るぞ!」
 Viceがルードを呼び戻すのと、巣の隙間から器用に身体を直線に伸ばした赤目の天魔が襲いかかってくるのは同時だった。
 間一髪のところで赤目の鎌をかわしたルードの横をすり抜けるように、Viceのスナイパーライフルから赤目の脳天目掛けて弾丸が放たれる。
 だが、赤目の天魔は巣目掛けて糸を飛ばし、その体躯を巣へと引き戻すと銃弾をかわしながらエカテリーナへと向きを変えた。
「エカテリーナさん!危ないですわ!」
「私のことよりお前はお前の心配をするんだな」
 赤目の出てきた方向とは反対、みずほの背後から糸が迫っていた。
 ツヴァイハンダーを構えたチルルがみずほの背後へと走り込み、縦に切り裂く。
「不意打ちするなんてホント卑怯なやつね!まったく!」
「校庭へ引きましょう!狭い場所では巣が無くとも不利ですわ!」
 青目に狙われていると察したみずほとチルルは校庭へと走り出す。
 赤目に応戦するViceとエカテリーナの後ろでアンジュが申し訳程度に護符を構える。
「エカチェ〜、どうにかしてよねー」
 みずほへと放たれた糸の出処目掛けて火球が放たれ、巣へと着火する。
「良い度胸だ、あとで覚えておくんだなッ!」
 赤目の斬撃をかわすエカテリーナの銃撃が炎上する蜘蛛の巣を円形に切り取り、その後ろに潜んでいた青目の天魔の姿を顕にした。
 潜みきれないことを察した青目の天魔が、赤目の天魔を手助けするようにエカテリーナ目掛けて襲いかかってくる。
「お前はこっちだ」
 Viceの銃撃によってターゲットを変えた青目が糸を放つ。それを打ち消すようにルードのブレスが放たれる。
 青目が撃ち合いながらも間合いを詰めてくることを確認したViceはみずほたちへ続くように後退しつつ、無線機を取り出す。
「Nam、二体の天魔を校庭に誘導した。突入してくれ」

●市立藍ヶ浜高校 校門前
「了解です」
 連絡を受けたNamは、廊下の窓へと近づいていきながら青白い靄のような光を纏う。
 光は徐々に赤くなっていき、バチバチと音をたてる雷光を伴った火球へと変化していく。
 そして、Namが窓へ飛び込むと同時に火球が炸裂し、窓と教室のドア、それらの周囲を覆っていた巣をまとめて吹き飛ばした。
 窓は一階部分の三分の一は跡形もなく消し飛び、校舎の壁も一部は真っ黒い消し炭のようになって剥がれ落ちている。
 巣に足を取られることなく教室内へと入ったNamは要救助者を発見する。
「……今しばらく、耐えてください」
 宙に手をかざし、2m四方の平板を作り出す。
 宙づりにされた人たちの足場になるよう平板を配置すると、教室内の巣にも引火した火球の炎は巣のみを焼き尽くし、教室内の蜘蛛の巣を全焼させた。
 巣から解放された人々は気を失っており、自力で動けそうにない。
 挟撃に向かおうと校庭側の窓を振り向くと、青目の天魔が猛スピードでこちらに突進してきていた。
「!」
 咄嗟に五芒星型の盾を構え、衝撃に備える。
 が、チルルの矢が青目の前足を捉え、体勢を崩した青目は校舎の壁に激突し窓の破片が教室内へ飛び散るにとどまった。
 更に背中からアウルの爆風を迸らせたみずほのアッパーカットが青目の下半身を跳ね上げる。
「あなたのリングは、こちらですわよ!」
 180度反転し、打ち上げられた青目のみぞおちを黄金色の一撃が捉える。
 爆撃と見紛うほどの一撃は青目の天魔を凄まじい勢いで吹き飛ばし、校庭へと引き戻した。
「救助は……上手くいったみたいですわね」
「一階は、ここだけのようです。他の教室に居た人たちも、ここに集められたみたいですね。まとめる性質があるのか、或いは何かするつもりだったのか……どちらにしても、このまま校庭で仕留めましょう」

●校庭
 チルルたちが青目に対処している一方、赤目に対峙するViceたちは苦戦していた。
 距離を取り銃撃戦を挑むものの地面の至るところに糸を噴射され、行動範囲を制限される。
 冷静な射撃を行えるチャンスを奪われながら、徐々に徐々に校舎側へと追い詰められていた。
「虫けら風情が……!」
 エカテリーナの悪鬼険乱によって強化された弾丸が大砲のような轟音と共に赤目へと襲い掛かる。
 しかし、射撃姿勢を見た赤目の反応は素早く、六本の足で高く飛び上がり弾丸をかわしてみせる。
「迂闊だな、虫けら」
 宙へ飛び出したところをViceのスナイパーライフルの銃口が捉える。
 一発、二発と撃ちこむが赤目は地面へ向けて糸を噴射し、宙に居ながらにして機敏に弾丸をかわす。
「すごーい。もう笑えてきちゃうわよね。虫けらだけに。ケラケラってな具合にね」
「今度その口を開いてみろ、虫けらより先に穴だらけにしてやるからな……!」
 二対一組の黒銃に持ち替えながら悪態をつくViceとアンジュのマシンピストルから放たれる銃弾の嵐が、着地した赤目に襲い掛かる。
 幾つかの弾丸は赤目を捉えるが、交差させた四つの鎌によって白い肉体へのダメージは僅かに抑えられたようだった。
「……なるほどな」
「あら、エカチェったら何かわかったの?」
「私の銃撃は避け、お前らの拳銃は受け止めた……悪知恵が働くというのは正しいようだ、どれだけの威力ならダメージになるか理解しているらしい。だが、所詮虫けらは虫けらということだな。わざわざ守ったということは、その上半身には銃撃が通るということだ。そうだろう?なぁ、虫けら」
 猛獣のような眼光に赤目が一瞬動きを止める。
 直後、今度はこちらの番と言わんばかりに糸を乱射してきた。
「ルードッ!」
 ブレスによって三人の身体がからめとられることは免れたが、マシンガンのような糸の乱射で赤目の姿は見えない。
 が、その状況でエカテリーナは笑っていた。
「ハハ、ハハハッ!どう足掻こうと貴様らは所詮虫けら。我々人間に逆らえば抗う間もなく無惨に蹂躙され、駆逐される宿命なのだッ!」
 襲い来る糸の嵐の中、エカテリーナは腰に差した銀色の曲刀を後方の上空……校舎の二階窓目がけて振りぬく。
 抜刀により放たれたアウルの刃は糸の嵐に僅かな切れ間を作り出し、今にも校舎へ入り込まんとしていた赤目の姿を露わにした。
「浅知恵が過ぎるぞ、虫けらァ!」
 屋内へ逃げ込もうとする赤目の背目がけて悪鬼険乱によって強化された弾丸が襲い掛かる。
 ――キャアアア!
 甲高い苦痛の鳴き声を上げながら、赤目が落下する。
 その下にはViceのワイヤーが展開され、自らの重みによって赤目の足が引き裂かれ、白い皮膚を突き破りながら肉体を絡めとる。
「視界を塞げばやり過ごせると思ったのだろう?自らを捉えられない奴等の銃弾など届かないと、自らの巣へ逃げ込めると思ったのだろう?」
 曲刀を仕舞いこみ、アサルトライフルを構えながらエカテリーナが近づく。
「あれだけの跳躍を見せておきながら、これだけわかりやすく追い込んでおきながら、その程度の考えが読まれないとでも思ったのか?思ったのだろうな、虫けら」
 青白く光る眼光が、動きを封じられた赤目に迫る。
 エカテリーナの背後に浮かぶ吹雪のような光の渦がアサルトライフルへと集まり、コッキングレバーが引かれることでアウルの弾丸が薬室に送り込まれる。
「だが、貴様の負けだ」
 頭部へと撃ちこまれたアウルの弾丸が強烈な閃光と共に炸裂し、赤目の天魔は爆散した。

●校庭
 ――キャァァアア!
「な、なんですの?」
 突然咆哮を上げる青目に、間近で戦闘していたみずほがバックステップで距離を取る。
「あちらの討伐が完了したみたいです。……分かってしまうんですね、きっと。一人になってしまったということが」
 咆哮を上げながらめちゃくちゃに鎌を振り回してくる青目の斬撃を盾で防ぎながらNamが悲しげな表情を見せる。
「もー!うるさーい!」
 背後からツヴァイハンダーで勢いよく切りかかるチルル。
 しかし、狙いもなく吐き出された糸によって剣先が絡めとられてしまう。
「うわー!」
「チルルさんっ!このっ……!」
 Namと入れ替わるように前へ飛び出したみずほの左腕が十字を切るように素早く青目の頭部を捉える。
 顎を捉えたアッパーカットにより一瞬、青目の鎌が止まる。
 その瞬間を見逃さず、黄金色の右を叩きこむ。
 再びみぞおちに撃ちこまれた鋭い一撃によって吹き飛ばされた青目は勢いに振り回されるようにゴロゴロと地面を転がった。
 チルルの矢によって封じられた一部の足は動かず、二度叩き込まれたみずほの一撃によって青目の体力はほぼ残っていないことが見て取れた。
 しかし、それ以上に戦意の喪失が著しいようだった。
 みずほたちには目もくれず、言うことの聞かない四肢を引きずるように校舎へと歩き始めたのだ。
「こらー!逃げるな卑怯者ー!」
 糸から脱出したチルルがツヴァイハンダーを構えながら挑発するが、青目は足を止めようとしない。
「わたくしたちを無視している……?」
「また学校を蜘蛛の巣だらけにする気ね!そうはさせないんだから!」
「待ってください」
 切りかかろうとするチルルをNamが静止し、青目へと歩み寄る。
 間近にNamが近づいても、青目は足を止めようとせず、変わらず足を引きずりながら校舎へと歩く。
「……二人でないと、いけないんですよね」
 Namの言葉に、青目が動きを止める。
 そして、数秒ののち。
 ――ギャアアアア!
 四つの鎌を振りかぶり、Namへと襲い掛かった。
「Namさんっ!」
 しかし、Namの盾とチルルツヴァイハンダーによって鎌は防がれた。
「ぜったいやると思った!ぜったい不意打ちすると思った!」
「ありがとうございます、チルルさん」
 礼を言いながら、Namは雷光を纏った火球を作り出す。
「せめて、この手で弔いを」
 静かに火球が青目の肉体へと触れると、全身が瞬く間に燃え上がる。
 火球を避けようとしなかった青目の天魔は、悲鳴も上げず、ただ静かに燃え尽きていった。
 僅かに空へ舞い上がるアウルの火の粉が、戦いの終わりを告げた。


 戦いは終わり、学校は解放された。
 捕らわれていた人々はみずほたちの救助により、負傷者は一人も出すことなく救出された。
 蜘蛛の巣に覆われていた校舎内もViceたちによって綺麗に片づけられ、天魔の痕跡は残らなかった。
 一部損傷した校舎を修復するため、また事件による精神的な傷を癒す時間を確保するため、学校は一週間の休校となった。
 そして、休校が終わり、学校が再開された日。
 新人の数学教師は、一階の壁に残されたヒビを見ながらぼんやりと思う。
 いずれこのヒビも工事によって消え、事件の記憶も人々の思い出から消えていくのだろう。
 自分の中からも同様に。
 胸が痛むほどの無力に、わずかに唇を噛みしめる。
 そして、名簿と教科書を持つ手をぎゅっと握り締めた。
 壁のヒビに背を向けて、教室の扉を開ける。
「おはよう!さぁ、今日の単元は――」
 人一倍大きな声を出す。
 増していく虚しさに押しつぶされないように。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 伝説の撃退士・雪室 チルル(ja0220)
 龍の眼に死角無く・Vice=Ruiner(jb8212)
重体: −
面白かった!:3人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
勇気を示す背中・
長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)

大学部4年7組 女 阿修羅
龍の眼に死角無く・
Vice=Ruiner(jb8212)

大学部5年123組 男 バハムートテイマー
負けた方が、害虫だ・
エカテリーナ・コドロワ(jc0366)

大学部6年7組 女 インフィルトレイター
ドS巫女・
加賀崎 アンジュ(jc1276)

大学部2年4組 女 陰陽師