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マスター:相沢
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/03/27


みんなの思い出



オープニング

●復活/覚醒
 かつて、アウル覚醒者からなる『恒久の聖女』という結社があった。
 アウル覚醒者は優等種で、非覚醒者は劣等種であるという過激な思想を掲げる彼等は【双蝕】と呼ばれる様々な事件を起こしたが、久遠ヶ原学園がこれを摘発し、事態は沈静化する。

 けれど、摘み取ったそれから零れた、種一つ。
 それはいつしか根を張り葉を広げ。
「我等の意思を摘み取られる事だけは避けなければならぬと聖女様は仰った。ならば、我等は“種”となり御崇高なる魂を引き継ぐのみ」
 ――今、開花の時を迎えていた。

 ざざ、ざざざ。

 ある日の出来事であった。
 茶の間で。街角で。テレビ画面にノイズが走る。
 巻き起こる砂嵐はやがて一人の少女を映し出した。彼女――京臣ゐのり、かつて『恒久の聖女』幹部であったその人物は、まるで夜影の様な笑みを浮かべると。

「我々は『恒久の聖女』。聖女ツェツィーリア様の御遺志を継ぎ、楽園へと導く者。全てのアウル覚醒者に告ぐ。我々は選ばれた存在であり、この世界の正当なる統治者である。自然淘汰の原則に基づき我々は今、解放されるのだ。力持たぬ者への服従の時代は終わりを告げた。劣等種は我等に何をした? 心の中では異形と罵り、化物と厭いながらも、利用する為に擦り寄って来る。従わなければ、思い通りにならなければそのマジョリティで魔女狩りを行うのが劣等種ではないか。目を醒ませ、我々は劣等種の道具ではない。我等の力は我等の為にこそあり、この事こそ人という種を守ることが出来る唯一無二の術なのだ。全てのアウル覚醒者よ、我等優等種の未来の為、世界の為、『恒久の聖女』と共に歩もう。全てのアウル覚醒者に告ぐ――」

 それはかつての『恒久の聖女』と同じ思想の、プロパガンダであった。

●斡旋所にて
「最悪の事態が発生したよ。かなりヤバい」
 斡旋所に駆け込んだキョウコ(jz0239)は焦りを滲ませる声で言った。
「『恒久の聖女』。この名前、覚えてる? 前に、過激思想――”アウル覚醒者こそ選ばれし存在で、非覚醒者は劣等種”なんてのを掲げながら、一般人の弾圧や排斥を行っていた組織。それ自体は久遠ヶ原学園の摘発によって解体された、んだけど……」
 その組織が、再び現れた。再結成されたと言って良いだろう。
 ――それも、かつて幹部であった少女、京臣ゐのりをリーダーとして。
 各地のテレビ局をその『恒久の聖女』を名乗る集団がディアボロと共に占拠し、ゐのりの『声』を放送している。
 不審なのはそこだ。
「変なんだよ、放送されるゐのりの『声』。どう変だとかっていうのは言えない、でも、変なんだ。……現状だけで行える調査によると、どうやらアウル覚醒者にだけ作用する洗脳や催眠みたいな効果があるみたいだね」
 自然と彼女の言葉に同意してしまう、不思議な力。その源ははっきりとは判らないが、報告書によれば大悪魔サマエルが絡んでいる可能性が高いという。何故ならサマエルと外奪――ゐのりに力を与えた悪魔は繋がっているのだから。
 しかし幸いにも、ゐのりの『声』は久遠ヶ原学園の撃退士には効果が薄いらしい。一度戦った経歴。そして、効果の無い天魔・ハーフ天魔や、効果の薄いハーフ悪魔・天使が周囲にいることが関係しているのだろう。
「それで、今回の依頼は、京臣ゐのり率いる一派の撃退。組織は各地で『声』を放送してるけど、その中で張本人、ゐのりの居場所を突き止めることが出来たってわけ」
 放送越しのものではなく、直接かけられる『声』には特別注意すべきだとキョウコは言う。効果が薄いと言えど、ゼロではないのだ。
 敵はディアボロのみではない。京臣ゐのりと、彼女に従うアウル覚醒者。厄介で、遣り辛い。こちら側と対等な知能があり、いざという時に何を仕出かすか予測もつかない危険が伴う。
「屋内のそこかしこで暴れてるディアボロや、『声』を放送する彼女たちを止めること。あくまで依頼は『敵勢力の撃退』、深追いしようとか、打ち倒そうだとかは軽々しく考えない方がいい。京臣ゐのりは悪魔から力を得ている――つまり、相当に強いんだよ。
 それに相手の多くは人間、つまり相応の知能があって、きっと撃退士がテレビ局に来ることだって判ってる筈。地の利が相手にあるなら、罠を仕掛けられる可能性もある。油断せず、それから焦らないで、無茶もしないで。
 ……余り考えたくはないけどさ。閉ざされた屋内だからこそ、逃げ道はきちんと確保しておくべきだと思う、かな」
 真剣な眼差しで告げるキョウコは、詰めた息を吐いて額を押さえた。

●曖昧嘘事あたしは私
 テレビは好き? だあいきらい。
 テレビは好き? きらいきらいだあいきらい。

 狭いハコの中に映し出される画面越しの世界はまるで偽物。ハコの中に手を差し伸べてみようか。偽物だって、嘘事だって、確かめてみようか。現実は本当はもっと綺麗で、荘厳で、嫋やかで、目映くて、目には見えないものなんだって教えてあげようか。画面上で躍る愚かしい者たちに、天の裁きを。鉄槌を。世界に知らしめるのは、この世の真実。聖女ツェツィーリア様の許に下れば全てが赦されるんだって、教えてあげようか。ツェツィーリア様以外の助けは無意味で、ツェツィーリア様以外の言葉なんて無価値。当たり前のことを、教えてあげようか。

 ――――この指止まれ、あたしの指に。

 局内は凄惨な有様だった。死体の山。チェーンソーで抉られた壁や机。他にも大小様々な傷痕がある、それは全て『彼女たち』が行ったことだ。
 ありていに言えば一般人は皆殺しにされた。その中で、元撃退士だということだけで気まぐれに生かされ、身を拘束されたアナウンサーの男が地べたに這い蹲っている。血と臓物塗れの床の所為で、スーツは滅茶苦茶。生きている心地がしないだろう彼に、一人の少女がにんまりと笑ってみせる。
「私達の放送、すてきでしょう。あなたもしてみる? 『聖女ツェツィーリア様万歳』、あなたプロだから上手に出来るよねえ」
 唇を戦慄かせた男は小さく呻いて、否定も肯定もしない。下手に動けば殺される、それは肌で感じていた。丸腰、一人きりで太刀打ち出来る相手ではない。
 ぱっと見ではただの女学生のような恰好をした少女は面白そうに目を細め、伸びた爪を噛む。――と言っても、ホール内にいるアウル覚醒者の少女たちは、皆揃って同じような恰好をしていた。年の頃もほぼ同じ。
 ひとりだけ姿の異なる、ゴシック調のドレスに袖を通した少女――京臣 ゐのりは壁に凭れ、黙したまま局内に流れる『声』に耳を傾けていた。手には小柄な少女には不釣り合いなチェーンソー、その刃は血と肉片に塗れている。
「そろそろ撃退士が来るかもね。実況中継でもしたらいいかも。高視聴率間違いなしじゃない」
 さも良いことを思い付いたと言わんばかりにアナウンサーを煽る少女は笑って、近くを彷徨っていた獣の頭を撫でた。

『選ばれし存在、アウル覚醒者が非選民者の為に戦うなど無意味。そして、久遠ヶ原学園は我々を妨害する組織、即ち害悪。けれど彼らもまた非覚醒者に操られた憐れな下僕であり、彼らには”現実”を、彼らには”楽園”を、それぞれ知らしめなければならない――』

 スピーカーから響く少女の『声』は、絡みし蛇の毒のいろ。
 ああ、哂う冥魔が潜んで躍る。


リプレイ本文

 少女たちの笑い声が響く。秘め事、ささやき、部屋中に映る画面を指差してはあれやこれやと笑い合う。そんな中、ひとり黙り込んだまま宙の一点を見詰め続ける少女――京臣ゐのり。
 彼女の欲しいものはこの場には無い。彼女の欲しいものはこの場にはいない。この世界には存在しない。あちら側に往ってしまった、少女にとっては数少ない、かけがえのない存在だったもの。だから、彼女は黙って、ただ自身の意志を、自身が継いだ意志を全うする。

 ――それだけの為に、少女は生きる。



 テレビ、ラジオから響き続ける京臣ゐのりの『声』。
 それを先立って止められれば――そう考え手を打った撃退士たちだったが、その作戦は失敗に終わる。
 国の上層への依頼。だが、撃退士の権限が超法規的とは言え最終決定は官僚によるもの。そうなれば、報告を迅速に受けたとしても審議に入らなければならない。手続きは煩雑で、直ぐに動くことは難しい。撃退庁からの直接の依頼であれば多少の融通が利くやも知れなかったが――それもまた失敗。何故ならば、判断を下すべき撃退庁の職員の内数名が、既にゐのりの『声』に掛かってしまっていたのだ。そうなれば内部の状況は混乱を極め、二進も三進もいかない状態が続いてしまう。
「選民思想で居場所を与えるカルトか……悪魔らしいやり口だ」
 重い嘆息、ファーフナー(jb7826)は眉間に皺を濃く刻みつつ、占拠されたテレビ局に味方と共に突入する。
 ――ここで第一の失策。撃退士らが、監視カメラへの対処を軽視していたということ。テレビ局に存在するのは放送機器のみではない。そも、ある程度の企業であれば、正面玄関に監視カメラが存在しているのは必然。その中で正面突入するということは、敵に態々『来訪』を知らせるということになる。
 敵に知られた状態で、どう動くか。現状先を読むことの出来ない撃退士たちは、罠への警戒を行いながら慎重に進軍する。
 玄関ホール。だが、各通路にはシャッターが張り巡らされており、ぱっと見では一方向へしか進めないようになっている。
「シャッター、か。ま、判り易く罠だろうな」
 阻霊符を発動させると同時、目についた監視カメラらしきものを速攻で破壊した小田切ルビィ(ja0841)は眉を顰める。
 カメラを破壊したということは、それを察知される可能性も出てくるということ。行動の機微こそ悟られないが、撃退士らの存在は敵に察知されたということで間違いないだろう。
 撃退士を唆すという『声』を防ぐ為につけたヘッドセット。それを通して会話をしつつ、辺りには細心の注意を払う。
 そうして一般人に魔具を携えている姿を見られては、敵と誤認され兼ねない。招く惨事を忌避するべく、それぞれ魔具を仕舞い光纏のアウルも消す。
 サーチトラップを用い罠の有無を探った神谷春樹(jb7335)は、シャッターの一つを指差しながら渋い顔で呟く。
「あのシャッターの向こうに何かが潜んでいます、恐らく罠でしょう。それから、あの一本道の先には何もいませんし、何も窺えません。敵に遭遇する可能性は低いかと」
 余りにあからさまな罠だが、即席だったのやも知れない。ゐのりたち覚醒者が居るのは最上階ということであるから、恐らく潜んでいるのはディアボロだ。出来るだけ速く最上階へ向かい敵を撃退するには、余りディアボロと交戦している時間も余裕もない。
 そう判断した八人はシャッターを突破することを避け、一本道――長く続く廊下を駆ける。
 敵はいない。生存者の姿も見えない。それでも声掛けを忘れないように、と務めたのはユーノ(jb3004)と春樹だ。
「久遠ヶ原学園ですの、生存者の方はそのまま動かず待機を」
「僕らはあなた方を助けに来ました。襲撃犯を撃退するまでもう少しだけ我慢して下さい」
 行動ひとつひとつを学園のネガティヴアピールに使われては堪ったものではない。あくまで生存者への配慮も怠っていない、そうして生存者の位置を悟らせないようにと考えての言葉だ。
 ――そうして。
 ぐるぐる、ぐるぐる。真っ直ぐの一本道を過ぎると曲がりくねり始めたその通路は、シャッターで隔てられている為か、方向感覚が麻痺してくるようにも感じる。
「変、ね。……まるで迷路を巡っているみたい」
 メル=ティーナ・ウィルナ(jc0787)の言葉は尤もだった。
 シャッターを避けて奔れば、確かに敵に遭遇することはない。だが、諮られたのだろう。上層へ向かうことの出来る階段にも、中々辿り着くことが出来ないでいた。
 再度、手近なシャッターの付近でサーチトラップ。
 改めて考えれば、それはどちらも罠だった。敵が居る方向へ進むことで撃退士らの体力は削られ、摩耗する。だが、迷路のように巡るシャッターのない方向へ進めば進む程『声』の拡散は続けられてしまう。
 どちらを取るか、一長一短。
 幸いにもルビィが手にしていた見取り図の通りに行けば、最も階段に近いシャッターの位置は直ぐそこだった。
 近くにはディアボロの気配もするが、それはこの際厭わない。多少の戦闘も行わなければ、数少ない生存者を生かすことなど出来やしないだろう。
「今度は煮え湯を飲まされるわけにはまいりませんの。――推してまいりましょう」
 ユーノの双槍の一撃で、シャッターは崩れ、罅割れる。その向こう――階段を背に佇んでいるのは、二頭の銀の狼。サイズは大型犬程度、撃退士たちを見るなり威嚇し毛を逆立てるさまは獣そのもの。
 即座に臨戦態勢を取る撃退士と、それに向かって駆けてくる二頭のディアボロ。
 ――戦闘、開始。
 味方の援護を行うべくやや後方に下がり銃を構える咲村 氷雅(jb0731)と、逆に前衛として前に身を滑らせトンファーを携える森田直也(jb0002)。
 それぞれが位置を変え場所を取り、アウルの焔を灯すと同時、狼が咆えた。



 撃退士らはディアボロや罠を然したる脅威として見ておらず、一階及び二階を唯の通過地点だと甘く見ている節が、多少なりともあった。
 それが、第二の失策。



 素早い動きで銀狼が廊下を駆け抜け迸る雷を撃退士に向かって撒き散らし、威嚇の一手を決める。
 白銀の『玄武牙』――盾による防御態勢を取り前線で一度雷撃を喰らった若杉 英斗(ja4230)に対し、更に追撃で雷を吐き付ける銀狼。避けようにもその動きに翻弄されてしまい、大きなレート差による一撃は重くなくとも軽くはない。
 眼にも留まらぬ素早さは伊達ではないらしい。撃退士らが動くより先に、もう一頭の狼は前方で警戒に徹していたルビィに対し跳びかかる。それを何とか大剣でいなしつつ、ルビィは二頭を分断するべく陽動に動く。
 中衛位置、メル。全頭を射程に入れられる範囲をキープしつつ、初手で風の刻印を纏い能力の上昇を図る。ルビィが陽動に動くのであれば、英斗が抱えた個体を狙うのが筋。
「躾のなってない駄犬ね。いいわ。そういうのを調教するのも、楽しいわよね?」
 滲み出る嗜虐性は御愛嬌。魔法書を片手に、放つは血色の槍。真っ直ぐ銀狼へ向かって伸びた攻撃は容易く回避される、が、焦らない。
「回避に自信でもある? ――いいわよ? それじゃ、勝負しましょう」
 当てることが容易で無いのなら、他者の攻撃に合わせて重ねてぶつければ良いだけの話。こちらは人間、知能の低いディアボロとは違う。
「時間を掛けている暇はない。こちらとて背負っているものが在るんでな」
 氷雅が銀狼の脚を狙い穿った弾は、外れ。素早さが存外に厄介か、メルに目配せをすると同時攻撃を試みるよう促す。
 ――学園から背負った依頼、ただそれだけではない。館内に未だ生存者がいるのであれば、出来るだけ早急な対処が必要だ。人々がディアボロに食い殺される前に、速く、速く。
 射程の届くギリギリ、遠方から双槍を顕現させ銀狼へ狙いを定めるのは、ユーノ。一度似た敵に辛酸を嘗めさせられた屈辱が彼女を警戒させるのは当然、そうしてその過剰過ぎるようにも見える警戒は正解と言えた。
 アウルの燐光、舞い散る羽根のような小さな光の刃が対象のディアボロを取り囲むように展開し、迅雷の如く堕ち切り刻む。――雷羽≪プルマ・サンクトゥス≫。
 さしもの素早さに自信のある銀狼も遠方からの攻撃には怯んだか、一頭に直撃しその動きを鈍らせる。無論、それで牙が折れる狼ではない。
 鈍った銀狼に対し春樹は距離を詰め、斬り付けると同時に反撃を受ける前に退き難を逃れる。本来であれば数度と斬りたかった所だが、銀狼の開いた口からちりちりと灼ける雷が見えれば話は別、逃れなければ身が危ない。
 吐き出される雷を寸での所で躱しつつ、ファーフナーは斧槍を振り被りディアボロの頭と体躯を両断する。味方と敵の攻撃を良く見極めたカウンター及び波状攻撃、先ずは仕留めた一頭。
 そこで、撃退士達は気付く。背後から”何か”が迫って来ていることに。
 ――ディアボロだ。一対の銀狼。
 何故? それは少し考えれば直ぐに判った。一番初めに銀狼が咆えたあの声こそが、他のディアボロを呼び出すサインだったのだ。
 しかし挟撃とはいえ、既に一頭を屠った後だ。回避と命中の高さこそ厄介だが、数の多さでは撃退士側が上回っている。そう考えれば、時間こそ多少喰えど手こずる程ではない。
 ルビィは変わらず一頭を切り離し連携と範囲攻撃を阻止することに徹しながら銀狼をいなし、直也はその補佐として薙ぎ払いで足止めすると同時に銀狼を地に屠る。
「燃えろ、俺のアウル!!」
 黒血を散らせながらがむしゃらに牙を剥く銀狼に跳びかかられ腕を負傷した氷雅を庇うよう前に出た英斗は槍盾を振り被り、極限まで高めたアウルを魔具に孕ませ白銀の一撃を銀狼にぶち当てる。
 完全なるカウンター。攻撃とほぼ同時に返された一撃に反撃することも出来ずによろめいたディアボロに対し、メルの書による一撃とファーフナーのアイビーウィップによる束縛が決まる。
 身動きの取れなくなった銀狼を春樹が太刀で斬り伏せ、そうして残るは一頭。
 反撃を喰らいこそすれ、撃ち潰すには十分過ぎる火力で撃退士は現れたディアボロ四頭全てを撃破することに成功した。



 一階から二階へ、二階から三階へ。
 ルビィの用意した見取り図を元に、的確に、そして道を切り開くようシャッターをぶち破る撃退士たちの進軍は幾分か速くなった。
 恐らく周りにいるだろう一般人への声掛けも忘れずに行いつつ、八人は三階への階段を上る。一階、そして二階で立て続けに交戦したディアボロによる負傷は春樹の応急手当や直也のライトヒールでは癒し切れなかった。そんな状態のまま、シャッターの一切閉ざされていない、ありのままのフロアへと辿り着く。
 軽い索敵を行ったが、ディアボロや人の姿は無かった。その代わりに、これ見よがしに一つだけ閉ざされたスタジオが在った。
 ――その扉の前。中には人の気配が多くする、つまりはここにゐのり一派はいるのだろう。それに気付いた八人はそれぞれ手負いの身体を以て尚、交戦の道を選ぶ。それが彼らにとっての使命なのだ。
 当初は破壊も考えていた配電盤は見付けた。見付けたが――。
 如何せん詳しい知識を得ていたわけではない為、『全館の電源を落としてしまう』危険性を察知したファーフナーが止めた。結果的に、その判断は正しかったことになる。全館の電源が落ちれば一般人はパニックに陥り逃げ惑い、生き残った銀狼たちはその悲鳴を聴き付け喰らい尽くしに向かうだろう。その為、道中のディアボロを葬ったことも相俟って最悪の事態だけは一先ず免れたと言える。
 開錠をせずとも引けば開く扉。罠を警戒しつつ足を踏み入れんと進み――咄嗟にファーフナーが、前を歩んでいた直也の腕を引き、位置をずらした。
 ――たあん。
 一直線に扉の向こうから直也が居た場所へと突き抜けたアウルの弾丸は、床に着弾すると同時に掻き消える。
 警戒していなければ直撃していた。元より撃退士がこの場まで訪れると判っていたことなのだから、敵が待ち構えているのは当然だろう。
 銀狼一対。それから似たような恰好をした四人の少女と、ゴシック調のドレスを身に纏い、舞い散る黒い翼を背に生やした陰鬱そうな少女――京臣ゐのり。直也を撃たんとした銃の持ち手の姿は見えないが、恐らくスタジオのどこかに身を潜めているのだろう。
 そこに。
「おっと、久遠ヶ原の生徒が訪れました! 開幕宣言です、ここに、『恒久の聖女』VS『久遠ヶ原学生』の戦い、スタート!」
 響くのは、場違いな程活発な声。血塗れのスーツを纏った男で、一般人なのか、ゐのりらの味方なのか、判断はつかない。だが、テレビでどこか見覚えのある顔ではあった。
「……撃退士として活動中のアナウンサー、かしらね」
 メルの呟きに、一同は納得した。歪んだ選民思想、覚醒者以外を皆殺しにしていくゐのり一派であるならやりそうなことだ。覚醒者を生き残らせ、人質として扱う。その上、どうやら彼はカメラを手にし、流れる『声』をBGMに実況中継を行っているらしい。完全にゐのりの術に操られているということは、目に見えて明らかだった。
 当身を行い気絶させようにも、アナウンサーは覚醒者の少女たちのより後方。実況を止めさせるには、先ず少女たちを下すしか手段が無さそうだった。魔装をつけているかも判らない彼に下手に遠距離攻撃を仕掛けては、殺してしまいかねない。
「厄介だな。流石は人間、こっちが一番何が困るかってのを理解してるってか」
 ルビィの皮肉にも表情を微動だにせず、前衛位置から唯静かな殺意を向けて来るのは――京臣ゐのり。腕に刻み付いた自傷の痕は相変わらず、大振りなチェーンソーを構えて入口、撃退士らが入って来た正面へと向かって突撃してくる。
「全く、同族に唆されているとはいえ、いつまでも……。――来ます!」
 突入直前に鳳凰を召喚しステータスの底上げを行っていたユーノは、飛び込んで来るゐのりに警戒を払い、叫ぶ。
 恒久の聖女に属する覚醒者たちの強さを、彼女は痛い程知っている。
 その首謀者たるゐのりであれば尚更だろう。危険視しつつ、槍から持ち替えた符を手に身構える。
 ゐのりの素早さには及ばなかったが、氷雅も動いた。
 彼女を撒き込むような位置に向かって闇夜の魔剣を召喚し、スタジオの半分程を呑み込む”闇”を作り出す。
 以前の大規模作戦で、相手の思考を読むゐのりに対し有効とされた技。
 だが。
 暗視スコープをつけている撃退士らにもはっきりと判った。
 彼女らも――ゐのりら恒久の聖女たちもまた、暗視スコープを着用していた。
「おっとここでスタジオ内に蟠る闇! だがしかし! 恒久の聖女には通用ッ! しないッ!」
 声を荒げて実況に専念するアナウンサーを直也が横目で睨み付けるも、半狂乱めいた男にその目線は届かない。
 闇による攪乱が通用しないのも当然。彼女たちは人間だ、思考し、思案し、模索する。幾ら聖女溺愛から思考停止の京臣ゐのりとは言え、戦闘のこととなれば話は別である。
 ――二度も同じ手を喰らうまい。
 それは、撃退士も、覚醒者も同じ考え。
「やるね、君。そんな思考があるのに、どうして君は未だに外奪なんかと手を組むの? ツェツィーリアさんの仇だろうに」
 春樹は射程をある程度取りつつ、ゐのりに対し問い掛ける。
 それは時間稼ぎであり、本心でもある。ゐのりも聖徒も出来れば死なせたくない、それが春樹の本音。
 闇の中でチェーンソーを構えたまま駆けて来るゐのり。
 彼女の愛する者――聖女ツェツィーリアの死は、悪魔外奪の能力の副作用が死因である。それを知っている学園生だからこそ、春樹はゐのりに訴えかける。
 だが。
「ツェツィーリア様が信じなさいと仰った。だからあたしは外奪を信じる」
 心を読めるゐのりも覘けない深淵、それが”能力を授けた”側である外奪の心。
 勿論、そこまでゐのりは告げる必要もないと考えている為、言わない、口にしない。そうして春樹の攻撃と口撃を躱しチェーンソーを振るい、回避の暇も与えず斬り付ける。横薙ぎの一閃、命中率は一対一であれば底なしだ。
 それを庇うのは、直ぐさま駆けつけた英斗。庇護の翼で春樹が受ける筈だったその一撃を肩代わりし、真っ向からゐのりを見据える。
 一撃は血を吐く程重いが、その痛みはどこか懐かしい。
 過去に経験のあるそれは、チェーンソー使いとの交戦経験からか。
(もうアウル覚醒者が道を踏み外していくのをみたくない。――止めて、みせる)
 過去に交戦したチェーンソー使いもまた、アウル覚醒者。彼のように足を踏み外し、戻れなくなる姿はもう御免だ。そう思案した英斗は、吼える。
「――折角可愛いのに!」
 思考を読むその能力を警戒しての雑念。いや、本心やも知れないが。
 けれどゐのりは眉ひとつ動かさず、後方からやって来た第二の前衛――阿修羅が前に躍り出る。
「敵さんこちらぁ。新たな聖女様のギシキの邪魔するのはだぁれ?」
「ハッ、正に狂信者だな。……悪魔に魂売ってる事にも気付いちゃいねえ」
 壁兼前衛、阿修羅の少女と同じく前方に身を滑らせたルビィは皮肉を交え構えた大剣で振り払う。鉄線を手にステップを踏む阿修羅は然して気にした様子も無く数歩と下がり攻撃を避け、逆に続けて踏み込むと鉄線を引きその糸で悪意を以て斬り付ける。
 鉄糸とツヴァイハンダーがぶつかり合い、火花が飛び散る。命中率の底上げでもしているのか、避けることは容易ではないようだ。予測通り、以前撃退士と交戦履歴のある阿修羅の少女と、特徴は酷似している。
 そうであるならば安易な飛翔は禁物か。以前インフィルトレイターの少女に撃ち落とされた者がいた、それならば、とルビィは思案し真紅が生む風の翼は回避に留めるのみにする。
 未だ放送を続ける機器を破壊せんと状況を見計らう直也だったが、彼の元にそれを察知したのか、それともただ前に出ている人間を狙いたかったのか、涼やかな顔立ちをした忍軍の少女が壁を奔って近付いて来る。
 彼としては防御の厚いディバインナイトを相手取りたかったところだったが、如何せん少女たちは皆見た目がほぼほぼ同じだ。一度交戦しているならともかく、武器やスキルでしか判断がつかない現状では敵を見定め戦うことは難しい。
 壁走り、からの踏み込みの一閃。不意打ちとも呼べるそれは避けることが出来ない、であれば魔具で受ける。びりびりと痺れる腕と、放たれた闘気でぶつりと裂けた肌から血の玉が浮く。
「そういう求愛はちょっと遠慮したいんだが、趣味じゃないし」
「そうは言わずに。一緒に躍りましょう」
 槍盾を所持したディバインナイトと思しき少女は予測通り阿修羅と伴い連れ添っている。恐らく狙いはこちらと同じ、戦闘要員を護ることが目的なのだろう。直也はしくじった、と思った。
 後方にはアストラルヴァンガードと思しき少女、そうしてその周りには銀狼。狙いを付けるのは難しそうだ。
 何より、中衛か後衛、そこに位置すると見ていたゐのりが前線で掻き乱してくるという読み違い、それが第三の失策。
 以前『双蝕』と名付けられた事件における大規模作戦の際、ディアボロと聖徒に紛れたった一人で何人もの学園生を薙ぎ払った矛。それが、京臣ゐのり。――ボタンの掛け違い、認識違いは大きな過ちを引き起こす。
「直に援軍が来る。お前たちの命運もそこまでだ」
「へえ。それは怖いな、いたいけな少女を踏み荒す久遠ヶ原――ああ怖い怖い」
 ファーフナーが放ったブラフに、ディバインナイトは笑って返す。実況中継に届くよう、大きく張った声で言えばアナウンサーは躍起になって状況解説を始める。
 彼を黙らせられるなら楽だが、そうはさせてくれないのが敵陣だ。
 勿論あんな狂気めいた実況解説を聴いてもまともな一般人は敵側がおかしいと気付く筈だが、覚醒者は違う。バックで流されるゐのりの『声』に乱され、侵され、染まっていく。
 手早く仕留めなければ、拙い。全員がそう感じる中、ファーフナーは持ち替えた銃器でアナウンサーが抱えるカメラの破壊を狙う――が、それは叶わない。アナウンサーは身を挺してカメラを護り、血反吐を吐きながら実況を続けるのだ。
「痛ッ……た、只今ッ、久遠ヶ原撃退士の手により狙撃され……ましたッ! 彼らは人質の命も省みず――」
「――違いますの! 貴方方を救う為、他の覚醒者の方を救う為、手を尽くしている最中。貴方は敵に洗脳されてしまっているだけですの!」
 生存者無視と取られてしまっては拙い。そうなれば、一般人にまで悪影響を来す可能性がある、最悪の状況に陥ってしまう。ユーノは声を張り上げアナウンサーに『声』を掛けるも、元より長くゐのりの『声』を聴き過ぎた彼には届かない。
 逆に言えば撃退士達とて、ヘッドホンや互いの意識が無ければああなってしまっていた可能性もあるということ。
「今助けます、辛抱を!」
 アナウンサーは傷を負ってはいるが、致命傷では無いだろう。そう読んで、ユーノは声を掛け続けながら前に踏み出し、魔力を伴う電界を、アウルの力で練り上げる。
 範囲に居るのは――阿修羅の少女。
 僅かに迸る雷光をその身で受けつつ――けれど少女は平気な顔で笑った。幻惑の効果が無いのではない。恐らく、事前に何らかの耐性強化の術を仲間から受けているのだろう。
「また逢ったねぇ、可愛子ちゃん♪」
 楽しげな調子でほほ笑む阿修羅に、ユーノは内心臍を噛む。
 以前煮え湯を呑まされた張本人。顔を覚えてはいなくとも、その態度、やり口には覚えがあった。
 メルの狙いははなから銀狼。だが、銀狼はアスヴァンの傍らから動く気配がない。ギリギリ射程が届くか否か。
 逆に、次なる狙い――ゐのりに対しては斜線が真っ直ぐ届く。春樹と英斗、二人に囲まれたゐのり。彼女に対してならば邪魔は無く、一本の線が通っている。で、あれば。
「ご自慢の『声』。まずは……物理的に声帯を潰したら、どうなるかしらね?」
 メルが言いながら狙うはゐのりの喉。魔法書から放たれた血色の槍は真っ直ぐ向かい――そうして、容易く避けられた。英斗、春樹、そうしてメル、三人の思考を読んだわけではない。彼女の場数が、無意識的にそうさせた動き。
 ちらとゐのりはメルを見て、然して興味も無さそうに守り手――英斗へと向き直る。そうして示す指鉄砲、『High And Low』。過去の依頼や大規模にて把握された、彼女の特殊能力。ゐのりが指し示した英斗の額に大きな紫色の十字架が浮かび、そうして彼女は薄気味悪く笑った。
「……懺悔なさい、愚かなる者よ」
「弱点を狙って来るならかえって防ぎ易い。……どこからでも来い、全て受け切ってやる!」
 啖呵を切った英斗を見限ったかのように数歩と下がったゐのりを、春樹のリボルバーが放つ銃弾が追う。身動きを止めんと、腿を狙った一撃はしかし避けられた。心を読む相手を前に部位狙いは矢張り無謀か。
「上だ!」
 ルビィの叫び。そこで――銃弾が空を切った。味方のものではない。残る聖徒のひとり、立ち並ぶ画面の上部に潜みしインフィルトレイターのものだ。弾速は目を瞠る程で、筋は真っ直ぐ、英斗の額、マーキングされた箇所を狙ったもの。
 先程庇われた恩もある。何より味方だ、守らねば――そう急いた春樹が回避射撃でそのアウルの銃弾を狙い穿つが、今一歩届かない。
「がッ、!」
 盾を以て咄嗟に額を護る英斗だったが、狙撃手の一撃はその隙を貫通した。
 以前の戦闘でも判っていたことだが、相当に少女らの練度は高い。
 確かに撃退士らも注意はした、警戒は払った、だが、足りなかった。
 練度の問題ではない。ただ、慢心。
 狙えばその通りにゆく、それは有り得ない。ディアボロ相手でもそうだが、人間相手であれば尚更だ。こちら側が様々な策を講じるのと同じで、相手も同様、はたまたそれ以上の手段を取ってくるものだと考えるのが道理だろう。
 ――そも、この場所は敵地。真正面から飛び込むこと自体が自殺行為だったのだ。
 着弾、英斗の額に紅い華が咲く。かち割れた額、飛び散る血は噴水のよう。英斗が倒れ込むと同時にむせ返る血のにおいが一気にスタジオ内に広がり、味方の脱落を知ると、撃退士側に動揺が走る。
「若杉君!」
「味方の心配とは立派だ。だが、戦地では更なる被害を招きかねん」
 春樹の声に、呼応するように動いたのはそれまで黙して阿修羅のカバーに徹していたディバインナイトだ。敢えて動かずいつでも攻撃態勢を取れるようにする――人間が考えるに相応しい行動。
「……ッ!」
 回避射撃が、辛うじて通った。堅固な力を篭めて叩き付ける槍盾での一撃、フルメタルインパクト。その軌道を逸らし、回避すると同時に春樹は崩れ落ちた英斗を担いで距離を取る。
 忍軍の少女と切り結ぶ直也も、限界が近かった。
 攻撃力こそ人並みであれど、回避力が一際高い彼女を相手どるには分が悪過ぎた。一対一の勝負でも、少女に一撃を与えることすら叶わないでいた。
「お前らにはロマンが感じられねえんだよ、ロマンが……!」
 直也は無闇に敵にぶつかる程愚かではない。けれど、味方の窮地とあっては話は別、声を張り上げ怒声を上げ、敵の意識を自身に集中させる。――使うは、死活。直也は痛覚をシャットアウトし、全てを護る為の鬼神となる。
 氷雅が紅色の刃を召喚しゐのりを撒き込むよう桜吹雪の幻影を生み出すと同時、メルは雷の刃でゐのりを斬る――が、どちらも届かない。弛まぬ連携や、波状攻撃。それらが必須と言えるだろう相手に対し、たった二人では手が及ばなさ過ぎた。
「自らの正義を信じて疑わねえ連中ほど残酷なモンは無い。――弔い合戦のつもりか……?」
 ルビィの自嘲めいたそれに、阿修羅は笑った。正義は我ら、我らが正義、――と。
 ゐのり対応班の窮地を前に急くルビィだが、阿修羅はそうはさせまいと往く手を阻んで来る。
 鍔迫り合い、力と命中は相手が上、防御と回避はこちらが上。
 時間さえ掛ければ恐らく打ち勝つことが出来ただろう。しかし、それは出来ない。
 先ず、インフィルトレイターの重い銃弾がファーフナーを撃ち抜いた。彼は察知し氷の夜想曲でせめてもとディバインナイトと阿修羅の少女を巻き込んだが、多少の傷を負わせた、それだけで終い。スキルによる特殊抵抗の底上げがそれより先を叶えない。
 常に後方で待機し、いつでも支援を掛け直せるよう待つアスヴァン、それを護る銀狼の存在が大きかった。
 そも、いつでもどこでも、決め打った敵を狙える――そう考えていた撃退士が逆手を取られ乱された、それも痛打だった。
 ヘッドホンにより響き続ける『声』の影響が無かったことと、ゐのりが直接『声』で唆すことをしなかったことだけが、不幸中の幸い。
 次に、氷雅が狙われた。脆そうな者から確実に、それもまた、人間の考え易いこと。近場にいたゐのりのチェーンソーが横薙ぎに氷雅の体躯を斬り棄て、その倒れた肢体を踏み付けた少女は軽やかにヒット・アンド・アウェイ。
 ――正に、窮地。
 状況を察知したアスヴァンの指示か否か、銀狼の一体は死活で堪えて敵を集める直也の元へと向かう。
 余りにも危うい状況だった。このままではジリ貧、全員が倒れてしまう危険がある。
 ユーノは彼女にとっての雪辱、――六人重傷、あの時の戦いを思い出し、声を張った。
「……一度、退きましょう!」
 英断。一度踏んだ轍だからこそ出来ること。ユーノは再度煮え湯を呑まされた心地だったが、仕方あるまい。春樹は英斗を庇うことで手一杯で、メルは氷雅とファーフナーを、そしてルビィと直也は敵複数の抑えで必死になっている。この状況で、ほぼ無傷の六人及び二頭を倒すことなど出来るわけもない。
「もう帰っちゃうの? もっと遊んでよぉ!」
「そりゃ出来ない相談だ。機会が在れば、――なッ」
 殿を務めるよう大剣を構え味方の撤退をカバーしつつニヒルに笑うルビィに、阿修羅は容赦無く鉄糸を振るう。
 直也に向かう忍軍も同じだ。満身創痍になりながらも死活のアウルで耐え続ける彼に、少女と狼は牙を剥く。
「行きましょう!」
「追わせはしません、の」
 春樹が負傷者を背負い、それを手伝うユーノが作り上げた電界・壊雷で足止めし、そうして。

 ――彼らは撤退した。

 アナウンサーが声を張り上げ何かしらの罵声めいた歓声を上げる中、戦地に背を向け、命からがら逃げだした。それは英断であり、決して悪手では無い。
 その中で絶対的優位に立っていた少女たちが彼らをみすみす逃した理由は、目的――『声』を広め、覚醒者の仲間を増やし、組織を拡大してゆくこと。

 その後。

 結果的に呼び込んだのは、一般人からの悪評。逃げ出した撃退士、残された生存者は皆死んだ。それ故、起こった噂話。人の噂は毒より苦く蜜より甘い、いつかの再来。
 そうして、止めることの叶わなかった『声』の拡散により、『恒久の聖女』に与する者たちを新たに多く増やすこととなった。それは、彼らが悪いのではない。少女らの背後に潜む闇、蛇、少女に叡智を授けた者と、それに従う下賤な悪魔。





 ――彼らと第二の『聖女』との戦いの幕は、こうして切って落とされた。





『了』


依頼結果

依頼成功度:大失敗
MVP: 戦場ジャーナリスト・小田切ルビィ(ja0841)
 ブレイブハート・若杉 英斗(ja4230)
 されど、朝は来る・ファーフナー(jb7826)
重体: ブレイブハート・若杉 英斗(ja4230)
   <恒久の聖女の猛攻を受けた>という理由により『重体』となる
 命の掬い手・森田直也(jb0002)
   <死活の反動>という理由により『重体』となる
 新たなるエリュシオンへ・咲村 氷雅(jb0731)
   <恒久の聖女の猛攻を受けた>という理由により『重体』となる
 されど、朝は来る・ファーフナー(jb7826)
   <恒久の聖女の猛攻を受けた>という理由により『重体』となる
面白かった!:6人

戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
命の掬い手・
森田直也(jb0002)

大学部8年1組 男 阿修羅
新たなるエリュシオンへ・
咲村 氷雅(jb0731)

卒業 男 ナイトウォーカー
幻翅の銀雷・
ユーノ(jb3004)

大学部2年163組 女 陰陽師
揺れぬ覚悟・
神谷春樹(jb7335)

大学部3年1組 男 インフィルトレイター
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
214号室の龍天使・
草薙(jc0787)

大学部4年154組 女 アカシックレコーダー:タイプA