●運動場横−1
水を満載したバケツを両手に提げた夏凪 暮(jb5297)が戻ると、五所川原合歓はまだバラバラな機材の前でへたり込んでいた。声を投げると、今にも涙を零しそうな目が見上げてくる。
「まずはひとつやってみましょうか」
言いながら暮は作業を始める。合歓もそれを真似ることでなんとか着手でき、そうしてようやくひとつのコンロに脚を付け終えた。
「――ありがと……!」
「あとの3つ、お願いします」
告げ、目星をつけていた風通しの良い場所へ進む。予め荷物を纏めておいたそこには先客がいた。
「クーラーボックス、借りてもええかな?」
「ええ、どうぞ」
「おおきにな!」
笑みを見せ、黒神 未来(jb9907)はちょこん、としゃがみ込む。
未来に背を向け、暮は木々の近くへ歩いていく。充分離れたところで、懐からハンドブックを取り出した。
題目は『はじめてのBBQ』。
開いたページには『より快適に楽しむために』。
(「BBQマスターになる、なんてな」)
火照った地面と高い太陽の間、心地よい風に幾つもの笑い声が乗っていた。
●矢田川
遊水地の自然は雄大で、そして絶景で、何より圧倒的で、天川 月華(jb5134)は思わず感嘆の息を漏らしていた。
「凄いな」
「ええ、本当に」
舵を取る礼野 智美(ja3600)に微笑んで空を見上げる。小さな桃色が忙しなく動き回っていた。
「何か見つかりましたか?」
神谷 愛莉(jb5345)は膨らませた頬を振る。
「ううー……宝物欲しいのーっ!!」
「時間はいっぱいありますから」
月華に頭を撫でられ、愛莉はようやく少し落ち着きを取り戻す。
「アシュ、何か見つかった?」
呼ばれて、対岸を眺めていた礼野 明日夢(jb5590)が顔を向ける。
「それらしいのはまだ、かな」
「ちゃんと探してね!」
「うん、わかってるよ」
言って双眼鏡をのぞき込む。注意深く観察していると、丸い世界に見慣れぬ姿が映った。野鳥だ。もう少し特徴を調べれば名前を思い出せるだろうか。そうして身を乗り出した瞬間――
ザッパーン!
と、目の前で水が飛び跳ねた。驚いて尻餅をつく明日夢を月華が慌てて抱き留め、その隣に音羽 千速(ja9066)が濡れた髪を振りながら乗り込んで来る。
「ふう、ちょっと休憩」
「ならもっとゆっくり上がってください」
「あー……はは、ごめんごめん」
朗らかなやり取りに目を細め、智美は一度大きく伸びをした。
義弟とその幼馴染を連れての遠出。派手さはないかもしれないが、こんなにも満喫している。
大きく吸い込んだ空気には芳ばしい香りが乗っていた。
目を開ける。愛莉が小さな弁当箱を突き出していた。チューリップ状に仕上げられた唐揚げ、野菜の緑黄でチーズの白を挟んだサラダ、愛らしい耳のりんごうさぎが所狭しと詰め込まれていた。
「早起きして作ったの!」
「お口に合うといいんですけれど」
「ああ、いただくよ」
頬張る。美味しさなんて、改めて言葉にするまでもなく。
●用水路
「お」
嶺 光太郎(jb8405)の呟きにつられて、ボートの上からエイルズレトラ マステリオ(ja2224)が見上げた。近くを歩いていた雪室 チルル(ja0220)も体を傾ける。2本の銀棒を片手に纏めて屈み込む。若草をかき分けた先には、土だらけになったボールがひとつ。
「宝物でしたか?」
「違うだろ」
「そうですか」
何十回と繰り返した遣り取りを交わす。
マステリオは右手で持ち込んだ菓子を絶えず口に運んでいた。
光太郎が拾ったボールをゴミ袋の中に放り込む。
チルルがなんとなく辺りを見渡す。
マステリオの命に応じて戻ってきた召喚獣が彼の腹部に鼻先を擦りつけてきた。
光太郎が反応のあった部分をまさぐり、明らかに宝ではないそれを拾う。
皆の心に芽生えつつあった思いをチルルが叫んだ。
「あ き た !」
「言っちまいやがった」
「気持ちは判ります」
苦笑いにゴーグルを掛け、マステリオは水の中に飛び込んでいく。
「だって全然見つかんないじゃん……」
「あと少しでキリがいいだろうが」
「あたいは遊ぶわ! 使えそうなの借りるわね!」
光太郎が溜息をついて袋の口を向けると、チルルはざっと調べて使えそうな物を抱え、とっとと走って行ってしまう。
ダウジングを再開する。反応はすぐにあった。探り始めると同時にマステリオが顔を出す。
「何かあったか?」
「いいえ、特には。そちらは?」
応えるまでには僅かな間が開いた。
光太郎の足元には木箱があった。今まで拾ってきたものとは一線を画しているが、同じように汚れている。
「……箱、ですか」
「ま、もういいだろ。切り上げようぜ」
言いながら木箱をゴミ袋の中に放り込んだ。
●休憩所
「狙撃の、指導?」
三ツ矢つづりが口を曲げる。彼女の右にはアイスを楽しむ大山恵、左には体を傾けた黒百合(ja0422)。
「貴女はその分野の専門家でしょォ? 機会があればでいいからさァ♪」
「あんまり自信ないけど……わかった。千陰に言ってみる」
「あ、ボクもボクも!」
恵の挙手とほぼ同時、探索を切り上げたマステリオと光太郎が戻ってきた。
「お疲れ様ー」
「どうも。お揃いですね」
「次は何処を探すのォ?」
「いえ、もう満足したのでサイクリングでもしようかと」
「面白そうっ! ボクたちも行こうよ!」
「退屈しのぎにはなるかもねェ♪」
「俺はいいや。どっかで寝る」
「じゃああたしも――」
「まァまァ、そう言わずにィ♪」
「そうですよ。軽く流すだけですから」
「ボク、2人乗り用借りてくるね!」
「……え、なんで2人乗り?」
●
「――ってゆうんをやろう思とんのやけど」
「なにそれすっごく面白そう! 絶対やるわ!」
「そう言うてくれると思ったで!」
「さっそく準備ね! 運動場にダッシュよ!!」
●山中湖:あっち
「絶好の行水日和であるう!」
「姉上は元気じゃのう」
目を細めて微笑む鍔崎 美薙(ja0028)の隣で、七種 戒(ja1267)は揚々とシャツを脱いで水着姿へ。美薙も続く。同じデザインで色違いの水着は、彼女には少しだけ窮屈で。
「変ではないか?」
「ふっ、パーフェクトだ、美薙……!」
「ふむ、姉上が言うなら、そうなのであろうな」
にこやかな美薙と鼻息を荒げた戒は、互いの手を取って準備体操を始めた。
「姉さま、楽しそうですね……」
仲睦まじい光景は湖上、ボートに浮かぶ雫(ja1894)からも見て取れた。
やがて岸辺の彼女らが気付き、手を振ってくる。
「む、そこにおるのは雫か?」
「おー! しぃー!!」
顔の横で手を振り返す。
「では手始めに、雫の許まで泳いで行ってみるとしようかの」
「うむ! じゃあしぃのとこまで泳いで――泳いで?」
この時、戒に電流走る。
(「アレ……私そういや、泳ぎ苦手じゃね……?」)
戒の動揺に美薙は気付かない。
「さぁさ、大物を狙うのじゃ姉上」
「あっ美薙さんやっぱ宝はあっちにある気が……」
「運動場にか? 水の中、とヒントがあったではないか」
「実は姉上ちょっと腹痛が痛いっていうか……」
「ほんに姉上の冗談は面白いのう」
ほれ、と引っ張られた拍子に、両足が水底から離れた。じゃぽーん! と頭まで沈んでから、必死に水面まで上がろうと、もがく。全く不得手、というわけではないのだが、心構えができていなかった。これはあかん。
「っぱ……! しぃー! しぃーー!!」
雫はくい、とあごを上げた。真っ青の中を、雄々しい鳥が両翼を広げて飛んでゆく。
(「……あの鳥、美味しいんですよね」)
じゅるり。
(「あっなんか全く全然気付いていない気がする……!」)
美薙は待っておるぞと水の中へ潜り、雫はぼんやりと空を見つめている。
このままでは危うい。研ぎ澄まされた感覚が、対岸で釣りに興じる知人の姿を捉えた。
決死の思いで手を振る。
「(わ、若様……若様ああああ!)」
●山中湖:そっち
突然手を振り出した若杉 英斗(ja4230)に、隣に掛けていた月詠 神削(ja5265)が疑問符を浮かべる。
「どうかした?」
「いや、戒に手を振られたので」
英斗の視線を追い、小日向千陰がはっはと笑う。
「いやー皆全力で楽しんでるわねー」
「ほんとにねー」
相槌を打って神喰 茜(ja0200)が背後を見上げる。
「あはァ♪」
黒百合が跨るロードレーサーがすっ飛んで行った。水面が動揺するほどの風圧が広がる。
「相変わらずぶっちぎりだな」
「丈夫なタイヤですよね」
巻き上がる土煙を切り裂いてマステリオが操るシティサイクルが駆け抜ける。シャシャシャシャというチェーンの音が運動量の凄さを物語っており、2周前に空気抵抗に負けて吹っ飛んだ籠が裏付けしていた。
「がんばってー。もう少しで抜かせるわよー」
「ってことは、そろそろかな」
エールを送る千陰の隣で茜がデジタルカメラを取り出した。
構え、覗く。遥か彼方から、恵とつづりを乗せた自転車がやってきていた。彼女らの速度も充分埒外なのだが、マステリオは大きく開けた距離を保ち続けているし、黒百合はそんな彼に周回差をつけていた。
「さーん」
声を投げる。つづりがうつろな瞳で手を振ってきた。全身汗だらけ、半分気絶のようなのに、脚だけは動き続けているのがまた面白い。
背後に回る二人乗りの自転車を映像モードで追う。仰け反るような姿勢になり、つい倒れそうになり、まあいっかと任せた先には千陰の腿があった。特別よ? わーい。
「平和だねー」ふぁ、と茜があくびをうち、
「そうだね」と神削が同意する。
そういえば、と千陰が続いた。
「とうとう突っ込むんだけど、その恰好はどうしたの?」
「はっはっは、お気になさらずにっ」
より『らしく』丸まった着ぐるみの背を英斗が優しく2度叩く。
「あれは、タイミングが悪かっただけですよ」
「……可愛いと思うのに、この恰好」
「私は好きよ」
「暑くないの?」
「上着の下でチャック開けてあるから」
「子供が見たら泣くわね……」
「もう泣かれたんですよ……」
「可愛いと思うのに……」
話は宝物へ。切り出したのは英斗。
「お宝って結局何なんですか?」
「判らないわ」
「ヒント出してたのに?」
「ヒントしか知らないのよ」
「案外、近くにあったりして」
「例えば?」
「そうだな……小日向さんの眼帯の下とか!?」
「残念。黒い棒が2本あるだけよ」
「そうなんですか!?」
「ああ、間違いないよ」
「超レア物よー? 攻撃力5万、命中・回避に補正、炎タイプに特効だからね」
「せんせー永遠に貸してー」
「ふっふっふー、司書専用装備なんだぜ」
穏やかな時間が流れてゆく。
太陽はやがて頂上に至ろうとしていた。
●運動場横―2
続々と面々が足を運んできた。
まず訪れたのは光太郎。重そうな袋をそこらに置き、とっとと寝床を確保、横になって目を閉じた。
次に現れたのは美薙、戒、雫。暴れ過ぎた戒がダウンしかけた為早めの休憩を取るのだと言う。
程なく【剣術部】一同が訪れた。落ち着けそうなところを探していたら辿り着いたのだ。
やがて茜、英斗、神削、千陰がやってきて、遅れる事十数分、サイクリング組が無事生還する。全身汗だく、息も絶え絶えなマステリオを黒百合が、似た状況のつづりをケロッとした恵が担いできた。
そして、この全員が訪れる度に、冷やしていた飲み物を暮が配って歩いた。
「お疲れ様でした、スポーツドリンクでいいですか?」
「……(ぜえ、はあ、ぜえ)」
「ああ、大丈夫ですよ。あちらへどうぞ」
暮が指し示したのはシートの屋根で作られた簡易テント。初めての試みにしてはかなり上等にできていた。風通しのよい日陰にペットボトルを握ったマステリオが倒れ込む。
「きゃはァ、お久しぶりィ♪」
声を掛けられ、千陰が振り向く。
「あ、久しぶりー。元気そうで何よりだわ」
「千陰ちゃんもねェ♪ 何やら九死に一生って感じの面倒事があったみたいだけどさァ?」
「うん、頼れる戦友のお陰でね」
言ってニコリと笑い、茜の肩と神削のしっぽにタッチする。
「ほう、バーベキューか。どれ、あたしにできることは――」
「いや! それはちょっと……!」
「それよりもお茶飲もうぜ料理のことなんか一切合財まるっと忘れてしまって!」
英斗と戒の猛攻を受けた美薙に、火の番をしていた暮が助け舟を出す。
「野菜のカットをお願いできますか?」
「ふむ。判った、任されよう」
「この中ですか?」
雫が開けたボックスの中には、しかし野菜ではなく肉が入っていた。
しかも、飛び切り上等と一目で判るものが。大きさ、厚み、パッケージ。その全てが高級感を漂わせている。
「とうとう見つかってしもうたか」
声に顔を上げる。いつの間に現れたのか、腕を組んだ二人組が立ち並んでいた。
一同の視線を受けながら、
「「それが食べたければ、あたい「うち」らと勝負よ!」や!」
チルルと未来は声を揃えて言い放った。
●
提案されたのは野球勝負。但しルールは異質だった。グラウンドに引かれたラインの中にボールを運べた分だけ進塁できる、という年始に芸能人が特番でやりそうな内容だったのだ。
面白い、と千陰が頷き、でも、と繋げる。
「炭も出来上がってるみたいだし、短期決戦にしましょう。
私たちが攻め、あなたたちが守り。1点でも得点できたら私たちの勝ち、守り切ったらあなたたちの勝ち。
あなたたちが勝ったら、うちのはらぺこ担当が作ってきたバケツプリンを全部あげるわ」
合歓が膝から崩れ落ちる。
「……わかった、いいわ!!」
「ちょうど甘いもん食べたかったとこなんよ」
一足早い夏の球宴が始まろうとしている。
●一番 七種 戒
「プレイボール」
審判、英斗の声に合わせてバッターボックスに入り、バットで遥か彼方を指し示した。
「花は桜木女は七種っとな!」
ズバーン×3
「……」
「勝負は時の運とも言いますから……」
「やさしさがいたいです」
「今年の桜は不作じゃな」
「すいませんやさしくしてくださいまじで」
●二番 礼野 智美
(「正直、野球にも肉にも思い入れは無い。が――」)
「姉さん、頑張って!」
未来が振り被る。
(「――皆が見ている」)
高めに浮いた球をコンパクトに振り抜く。ライナー性の当たりはぐんぐん伸び、『2』と書かれた枠内で止まった。
●三番 月詠 神削
「審判! 着ぐるみの腹がベースにかかっとるで!?」
「まあ、打つ方もハンデがあるので。プレイボール」
「悪く思うなよ、プリンの為だ」
「悪いと思っとんなら脱げや!?」
結果、外側に投げた白球を神削が辛うじて打ち返した。ボールは点々と転がり、『1』と描かれた白線の中で止まる。
●四番 大山恵
投じられたボールは、恵のフルスウィングを潜り抜けるようにしてチルルのミットに飛び込んだ。
対応される前に同じ球でカウントを稼ぐ。ようやくバットを短く持たれたので、ここぞとばかりに全力のストレートでアウトをもぎ取った。
「ナイピッチよ!」
「ん、おおきにな!」
悔しがりながら恵が戻っていく。その途中で千陰が呼び止め、長い事会話を交わしていた。
●五番 小日向千陰
「せんせー、頑張ってー」
「応援してるわァ♪」
「本音はー?」
「打てなかったらスーパーまでダッシュー」
「財布忘れないでねェ♪」
目元をぬぐった千陰がバッターボックスに入る。
「へぇ……」
英斗が思わず息を漏らす。『知っている』構えだ。右の神主打法。
(「ええやん。絶対打ち取ったる!」)
第1球。
唸りを上げて奔った白球がど真ん中に決まる。文句なしのストライク。
(「――あからさまに見よった」)
(「伸びるわね……」)
第2球。
白球は忙しなく回転しながら緩い弧を描く。そのまま急速に高度を落とし、バットをすり抜けてワンバウンド、チルルが身を呈してキャッチした。
「ナイピッチよ!」
戻ってきたボールを取る未来の表情は冴えない。
(「見事なカーブね。でも距離感は掴んだわよ」)
「(あたいたちったら最強ね! 最後はストレート?)」
「(あかん。待たれとる)」
「(じゃあ、もう一回カーブ?)」
「(今測られてもうた。連続はあかん)」
「(それじゃあ……)」
「(うん、アレいっとこか)」
(「首振りが2回……?」)
第3球。
投じられたそれは、極限まで回転を抑えて放られたものだった。ゆらゆらと左右に揺れながら迫ってくる。千陰はこれを前につんのめりながらなんとか打ち流した。
「ファール」
(「あっぶなあああああ!」)
(「あと少しやったのにいいい!」)
「紙回すから欲しい物書いてね」
「食べ物以外でもいいかしらァ?」
「あたし財布取ってくる」
「参(サン)は来月連休なし!」
叫び、千陰が構える。
未来も投球動作に移る。頷きは一度だった。
(「遊び球は、無いわね」)
(「真っ向勝負や!」)
こうして投じられた第4球。
剛腕から放たれた渾身のストレートをフルスウィングが迎え打つ。
キンッ!!
未来が仰ぎ見る。
小さな白いボールは、見る見る青空に吸い込まれていき、やがて見えなくなってしまった。
「ホームラ\いっただっきまーす!/
「私の分残しておいてよ!?」
「食べ始めるの早過ぎるやろ……!」
マウンドで項垂れる未来に影が落ちる。
「ナイスピッチング」
顔を上げる。バットのグリップが突き出されていた。
「見てたら投げたくなっちゃった。打てたら私の分あげるわ」
「……ええで、かっ飛ばしたるわ!」
「あたいも打ちたい!」
「ようがす、かかってきなさい!!」
●簡易テント
「お肉おいしいね!」
「良く噛んでくださいね」
「さーん、タレ取ってー」
「甘口と中辛があるけど?」
「野菜を切り終えたぞ。では下ごしらえとやらに――」
「大丈夫です、大丈夫ですから」
コンロの周りで弾む会話を、暮は一歩退いた位置で眺めていた。自身が張った屋根の下で、自身らが熾した火を囲む笑顔の人垣は、何とも言えない充実感を与えていた。
(「目標達成、かな」)
飲み物を傾けた直後、背後で大きなあくびが打たれる。
「おはようございます」
復活していたマステリオが飲み物を投げる。光太郎はいきさつを耳にしながらひと口含んだ。
「宝が見つかったわけじゃねぇのか」
「それらしいのはありましたけどね」
言いながら取り出したのは、最後に拾ったあの木箱。身を乗り出してきた愛莉が瞳を輝かせる。
「なになに? 何が入ってるの!?」
「開けてみましょうか。上蓋が開きそうです」
「どうぞ、火箸です」
「おう。んじゃ、開けるぞ」
「よっしゃあ! かっとばしたるでえ!!」
「あたいもスリーベースだったから楽勝ね!」
「ま、まだまだ! いっくわよー!!」
カッキーン!
ギィィィィ……
青の中に溶ける白と、影の中に開いた陰。
初夏の日差しの中、一同の視線は天と地に分かれ、食い入るようにそれぞれに見入った。
<
続>
【瀬】渡良瀬遊水地 担当マスター:十三番