プロローグ ―焼滅― 
●
そして――真紅の天使は動き出す。
ドレスの上に甲冑を纏った姿は麗しく、鮮やかな灼眼には鮮烈な朝焼けのような強き意志。
彼女は闇を斬り拓く美しき暁の剣姫。冥魔の存在を許さず、戦場を赤く染める武闘派の気鋭。
名をウリエル。『ツインバベル』のもう一人の長。
今まで沈黙を貫いていた彼女が、動き出そうとしていた。
「高松のゲートでは後手を踏んだ、か。だが、それだけで揺らぐ四国ではない」
誰のせいとは言わない。彼女には信念と慕情の二つがある。
派手に動いてはならないと、人の営みを守ろうとした兄のミカエルは失脚した。故に、これからはウリエルを止めるものはいない。
だが、同時にこれは誰かの責ではない。これから、それらを全て覆せば良いのだ。
しばらくは失敗したと沈黙を守って貰おう。その間にウリエルがこの地を盤石とする。
結果を出せば、兄とて古き考えを捨てる筈だ。
「さあ、ツインバベルの天使よ、任を果たせ」
このツインバベルに属する天使、そしてそれらから成る騎士よ。
「私達がこの地で鍛え上げ、磨き上げた剣を執れ」
戦いの為に。その準備として。
二降りの剣を抜き放つウリエル。
鞘走りと同じく、清冽なる声が鋭く響き渡る。
「悪魔共に、人に、我ら天使の誇りを突き付けろ」
決してウリエルは激情家ではない。
誇りを名に。けれど、何処までも冷静。それこそ閃刃の如く。
「さあ、その責務を果たせ。忠誠を見せよ、我が同胞達よ」
ウリエルのその声に、天使達が沸き立つ。
武闘派を止めていた穏健派は、高松ゲートが出来てしまった事で失脚し、力を失っている。
最早止めるものはいない。撃退士と繋がりを新たに穏健派が持とうとするのも困難。
そんな今だからこそ、武闘派はその剣を抜き放つ。
●
馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な。
何が、起こったというのか。儂の体に纏わりつくこの焔はなんだ。
誰か居らんのか、皆焼けてしまったというのか。
あってはならない。まだ、儂は斃れるわけにはいかんのだ!
四国を、取り戻すまで、は―――。
ああ、ああ、焔が踊る。
夜の闇をも押しのけて、天を焦がし、地を染めて。
紅く灼ける視界。体を覆う無尽光すらも貫いて焔に蝕まれた老獪の体は、ぐらりと地に臥した。
轟々、轟々と。焔が踊る。
2013年8月某日、未明。
愛媛県のとある街が一夜にして焼け陥ちた。
それは同時に、街に駐留していた撃退庁下の組織『天魔対策司令室』四国本部が焼滅したことを意味する。
街を飲み込んだ焔は暴れ、盛り、全てを灰へ誘った。
天と地、そして人。それぞれが錯綜する新たな戦乱の焔を、告げるかのように……。
●
夜空が赤く染まる。
闇を払い、立ち上る戦火の色に世界は染まった。
紅の光が踊る。焔として舞う。街は炎に飲み込まれ、既に壊滅していた。
この一夜の事を人は未だ理解出来ないだろう。
炎が焼き払っていった速度、範囲、共に常識の範疇から逸脱している。近隣に救援を求める時間さえなかった。
そしてそれを、赤き空から二人の天使――真紅の刃を持ったアルリエルと、レギュリアが見下ろしていた。
第1フェイズ ―灰の街― 
2013年8月某日、愛媛県某所、一夜にして焔に消えた街があった。
前日までごく平穏に暮らしていた人々に成り代わる様に、焔と灰が降り注ぐ街はサーバントに溢れかえった――。
突如降りかかった災禍に対し、現地に駐留する【天魔対策司令室】四国支部から久遠ヶ原に託された依頼は3つ。
大型の火竜サーバントを討伐すること。
その補助として、周辺サーバントを陽動し排除すること。
そして、この事件を調査するため派遣される、【研究院《祓》】の職員を護衛すること。
今なお灰が降り注ぐ、かつて街だった場所。
その凄惨さに煮える想いを抱えながら、撃退士達はその地へ降り立った。
だが、その意気に反しいずれの班も度重なる戦闘による負傷者が多く、万全の状態での活動とはいかなかった。
勿論、その状況で各々が最善とする策に従って戦地へと赴いたが、
結果として火竜の討伐は成功するも、目的半ばで撤退を余儀なくされた陽動班の皺寄せが火竜討伐班へと及び
火竜討伐班も、多大な被害のもと戦地を脱出することとなった。
一方、研究院《祓》の護衛を行った班を襲撃したのはサーバントだけではなかった。
コー・ミーシュラ。先の動乱にも現れた悪魔である。
彼の目的は人間が調査した内容の劫掠――であったが、撃退士の抵抗により被った手勢の損壊を顧み、撤退。
だが被害を受けたのは撃退士も同様。これ以上の護衛は不可能と判断。撤退を決断する。
完全な調査とはいかなかったが、現在は得た情報を元に事件の分析を進めている。
再び動き出した四国の情勢。
久遠ヶ原学園内の『四国冥魔関連作戦部』は『四国天魔関連作戦部』と名を変え、
この天勅の劫火が巻き起こすであろう事件を、【四国劫天】と名付けたのであった。
―――――――――――――――
【四国】灰の街/残り火 (燕乃MS)
【四国】灰の街/火炎渦 (燕乃MS)
【四国】灰の街/研究員護衛任務 (ユウガタノクマMS)
―――――――――――――――
Episode.1 ―椿の決意、太珀の鬼胎― 
●
突然の雷雨に見舞われたその日。九州のある司令室に、撃退庁から指令が届いた。
その指令書には、『天魔対策司令室・四国支部』の長官の任命を通達する旨と、同時に正式な前・四国支部司令長官の殉職報告書が書かれていた。
九州は良くも悪くも、膠着状態だ。逆にここで四国が天魔に飲まれるのなら、九州を攻略するのは恐らく不可能だろう。
だからこそ、天魔対策司令室・九州指令長官 鷲ヶ城 椿が必要になったのだ。
「……おやっさん、アンタのやり残した仕事。確かに引き受けたよ」
椿にとって前長官は、15年来の恩人だった。ただの悪ガキだった自分を拾ってくれた恩師だ。
過ぎた思い出を、僅かな時に胸の奥に仕舞いこむ。感傷は、自分だけではなく部下を危険にさらす。
だから熾火の様に、消えない炎となるように仕舞いこむのだ。
「島田、アンタに暫くここを任せる。アタシの代わりだ、情けない真似はするんじゃないよ」
「了解」
「篠山、河内、青海はアタシと四国遠征だよ。四国本部が大した抵抗も無しに一晩で落とされた相手だ。まずは事態の解明を優先、先だって《祓》に調査要請は出したんだが……どうもきな臭い」
部下の名前と、それに伴う戦力の変化や現場の影響を考えながら、四国へ連れて行く部下を選ぶ。
大勢は連れていけない。九州の戦力を落とせないのはもとより、戦力があるからどうにかなると言う訳ではないのは、四国本部の事が明らかにしている。
とはいえ、数人でどうにかなるような話でもない。
「久遠ヶ原と連携しますか?」
「しなきゃどーにもなんないだろ。アタシらは、自衛隊と現地のバックアップだよ」
●
「ふん。そっちから連絡をしてくるとは、少しは成長したようだな」
試験が終わり、解放の喧騒を遠くに聞きながら、はぐれ悪魔の教師である太珀は職員室で電話をしていた。
時折、電話の相手が大きな声を出すのか受話器を離す仕草をしている。
「なるほど、それで《祓》か。確かにあそこの天使ゲートは、実験施設という話だったか」
今年に入ってから眺める事が多くなった四国の地図。それを指で叩きながら通話相手の話を頭に入れて行く。
10分程で通話は終わり、再び遠くの喧騒だけが、部屋に響く。
「大ごとにならなければいいが…」
気にかかるのは、高松ゲートの一件の頃。四国の他の天使は、概ね此方への干渉を控えていた。それは、愛媛ゲート《ツインバベル》の主の一人、ミカエルの思惑があったのは間違いない。
そんな中、アルリエルと名乗る天使だけは最後まで強硬な行動を取っているように見え、現在に至るも同様だ。
愚直なまでの、あの行動は――何かを変えてしまうのでは?
「……四国での失踪事件の依頼が来ていたな、些細な事も気を付けるように連絡するか」
太珀はそう呟くと、依頼仲介所の事務室へと向かうのだった。
第2フェイズ ―神隠し― 
四国で街が焼失した衝撃から冷めやらぬ中、四国中央市では『神隠し』という奇妙な事件が起きていた。
発見された犠牲者の死因から天使の所業である事は推定できたものの、酷く消極的で不可解な点も多かったが
恐らくはゲートを展開する力も、使徒を作る力も残されていない衰弱した状態と思われた。
事件当初こそ愛媛県警と撃退署が対応に当たっていたが、ある日を境に被害は拡大。
一気に片をつけるべく、久遠ヶ原に人員を要請して四国中央市一帯の一斉捜査を行う事となる。
また、それに並行し飛び込む2つの事件。
突如高速道路に現れたサーバントの群れを掃討する依頼。そして、失踪した中学生の少女『高知くじら』の捜索依頼。
同時期、同地域で起きたそれぞれの事件は、まるで縺れた糸の様に歪に結ばれているかのようだった。
神隠し事件に関し、当局が絞り込んだ調査地域は4つ。
人の行き交う公園に隣接した、コテージを含む雑木林。
放棄され陰鬱な廃墟と化した焼却施設。
活気に溢れ、また子供の秘密基地ともなる中学校。
死者が出ても疑われにくい、市内随一の総合病院。
結果として――
病院では天使を発見出来なかったものの、拠点の1つとなっていた事を突き止め
その天使は中学校の一室で無事取り押さえる事に成功した。
焼却施設とコテージからは行方不明の市民10名が救出され、その証言から誘拐犯が『少女』であることが判明し
その『少女』こそが、捜索願の出ていた『高知くじら』であった事が、本人の証言から確認できた。
徐々に解けゆく糸。
だが、しかし。その天使は何故そこまでして生にしがみつくのか。サーバントは何故放たれたのか。
そしてあの『灰の街』との見えない糸は何処にあるのか。
四国のあちこちに飛び火する火種の意図が見えぬまま、捕えた天使イールと向き合う事となった――。
―――――――――――――――
【四国】神隠し/籠目の唄 (小田由章MS)
【四国】神隠し/寂しがりの少女 (ユウガタノクマMS)
【四国】神隠し/鳥籠の猫 (燕乃MS)
【四国】神隠し/紅梅色の悪夢 (由貴 珪花MS)
【四国】神隠し/悪夢を誘う檻 (コトノハ凛MS)
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イーヴァルティ《小さな剛力者》、イール。
コンチネンタルの元で入手した『撃退士と悪魔が繋がっている』という情報を手に命からがら脱走し、
その重大な情報を持ち帰るという使命のため、神隠しをしてまで命をつないだ天使――。
だがイールはあろうことか人間に拘束され、尋問の憂き目に遭っているのであった。
頑なに口を閉ざす彼女に、人は問う。
悪魔に囚われ、そこから逃げ出したのはまだいい。
人間すらも感知するほどに派手な神隠し騒動が起きてなお、追手がないのは何故か、と。
冥魔に囚われた恥辱を忍んででも天界へと持ち帰ろうとした『情報』は、真実のものなのか‥‥。
天使は、想う。親愛なる主・アルリエルを。
情報が真であれ偽であれ、いつまでも人界に留まっては居られない。我が戦場は、主と共にあるのだから。
そうして――彼女は、呟いた。
『焔宿・レーヴァティン』
その天剣の名を。
そして、『焔劫の騎士団』という騎士達の名を――。
―――――――――――――――
【四国】神隠し/天使への尋問 (ユウガタノクマMS)
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Episode.2 ―繋がる点と点― 
●
「焔劫の騎士団…ねぇ」
四国愛媛県にある、天魔対策司令室の四国支部―その仮拠点となっている一室。
その最高司令である鷲ヶ城 椿は、報告書を机に放りだすと、その代わりに煙草を手に取り火を付けた。
「司令、ここは禁煙です」
「堅い事言うんじゃないよ、ここン所働きづめで吸わなきゃやってらんないんだからさ」
渋い顔をする部下を一蹴して、紫煙で肺を満たす。
そういえば、かつての四国司令に同じ事で怒られた覚えがある。懐かしい話だ。
「漸く、話が見えてきたみたいだね。四国支部の壊滅と頻発していた不可解な神隠し――それに、雨の結界。
全部繋がって、全ては愛媛の天使サマの騎士団の仕業だとはね」
「えぇ、もとよりこの地で起きている以上、ツインバベルのどちらかが関わっているだろう事は推測出来ていましたが……」
久遠ヶ原の生徒の協力で、神隠しの犯人であった天使イールは漸くその口を開いた。
天の焔を操る剣、焔宿・レーヴァティン。
神器ではないが、それに並ぶ武器を作れないかと開発が進められている武器だと言う。
進めているのはウリエル率いる武闘派と呼ばれる天界における主流勢力。
高松での冥魔との争いにおいて停戦協定を結んだというミカエルと対を成す、もう1人の支配者ウリエル。
焔劫の騎士団とは、彼女の親衛隊の名だ。
かつて愛媛・石槌山が陥落した時に残された僅かな記録によれば、騎士団長はオグンと呼ばれる老年の大男。
殆ど彼らが前線に出てくる事は無かったが、よく連携のとれた一団だったという。
「あの天使…イールは駆け引きをするには若すぎたのでしょうね」
「こっちとしては助かったけどねぇ」
既に彼女は居ない。
情報提供の見返りは正しく履行され、既に天使の勢力圏に辿り着いたことだろう。
もし潔く死ぬ事を選ぶ天使であったなら、老成していたなら、未だ情報を得られていなかった事だろう。
そして、彼女をただ糾弾するような交渉をすれば追い詰め、やはり情報を得られなかったに違いない。
そうならなかったのは、学生達の成果だ。
「全てを話した訳じゃないだろうが、実態が見えたのは成果だね」
短くなった煙草をじゃり、と灰皿に押し付けて消す。
「レーヴァティンがウリエル陣営のものであるなら、彼女の親衛隊の天使が無関係な筈がありません」
部下の言葉に、椿もうなづく。
両者は同じ目的と意図で動いていると考えるべきだ。
「つまり、あの不可解な雨の結界は、焔剣の為のものと言う事だね。素直に考えると炎と水で相反するような気もするけど」
灰塵と帰した街の調査をした《祓》の中間報告では、恐らく使用者も制御出来ていないだろうとのことだった。
尋問で、生徒が実験と推察した事の裏が取れたと言える。
制御出来ていない武器の開発。ならば、次に向かうのはその制御の手段か。
「天使の動きを警戒しないといけないね」
「えぇ、学園の方にもそのようにお願いしておきます」
幕間 ―参謀の憂鬱― 
劫天の騎士団参謀、《百計千詐》エクセリオは一人、考えに耽っていた。
ウリエルより騎士団に下された『雫』の充填任務に於いて、多くの騎士団員が敗退し、それを奪われたという事実――。
――打開する手を、考えねばならぬか。
現状に嘆くだけでは参謀は務まらぬ。
本来戦いとは一度限りのもの。『次こそは』などとぬるい話だが、失敗したならば、次の作戦に繋がる何かをせめて得るべきだ。
‥‥『敵を知れば百戦危うからず』とは人間の諺であっただろうか。
故に、エクセリオはサーバントで騒動を起こして撃退士を誘い出し捕縛、それを研究する事を計画するのだった。
戦果は、赤髪の撃退士と、戦地で拾った小さな装飾具。
赤髪の女は迂闊な事は喋らぬ聡い人間だったが、別の撃退士から得た装飾具は分析次第では大きな収穫になる。
エクセリオは、入手したヒヒイロカネのアクセサリーを指でつまむと、窓から差し込む月光に翳して微かに微笑った。
―――――――――――――――
【四国】Information Warfare (剣崎宗二MS)
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『撃退士を捕縛した』
エクセリオのその言葉を聞いた瞬間、天使イールの脳裏に浮かんだのは、暗く汚い冥魔の檻だった。
そして狭い質素な取り調べ室。くじらの顔。まっすぐに見据える撃退士達の目。
確かに。確かに、敵同士だ。
だけど、受けた恩義は忘れるべきではない。
約束を違える事なく自分を開放した撃退士を、今度は私が助ける。
恩には恩を。そして貸し借りをなくした上で――いずれ、決着をつける。
決意を胸に、イールは牢の鍵を開けた。
騎士団長オグンに許可を得た上で、エクセリオの元から捕虜の少女を逃がすイール。
だが、オグンが許可したのはあくまで『開放』のみ。開放した後にもう一度捕らえるのは、また別の話だ。
エクセリオの差し向けた使徒・サーバントらは容赦なく救助隊と少女に襲いかかるが
その刃をかいくぐり、我が身を盾にし、満身創痍ながら撃退士達は仲間を救出した。
天界に囚われた仲間の奪還に成功したという朗報で久遠ヶ原は沸き立ったが
一方で、エクセリオは捕虜を失った事にそう動じる事はなかった。
捕虜は失ったものの、データを得る機会と思えば惜しくはない。
それにどうやら、先の戦いで得たもう一つの戦果が、より大きな成果をもたらしてくれそうだ。
「解析を急がせろ」
口端に浮かんだ不遜な笑みは、やがて来る騒乱を予見するかのようだった。
―――――――――――――――
【四国】死地に生有り (剣崎宗二MS)
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Episode.3 ―雫の行方― 
●
「あぁ、嫌んなっちゃう。こーんな原始的手段で探しものなんて研究者の名折れよねぇ」
四国南西部、上空。
風が遊ぶままに長い髪が絡んでも気にする素振りもなく、億劫そうに女は言った。
薄汚れてよれた白衣にのポケットに無造作に入れている宝石を指先で弄ぶ。
この面倒な任務の原因になった、憎き宝石。
だが彼女達ツインバベル開発局ウリエル組フロスヒルデ実用化推進部――通称ヒルデ班には一縷の望みでもあった。
話は少し遡る。
ウリエルの勅命により焔劫の騎士団に委ねられた宝石、『ヒュアデスの雫』。
エネルギー蓄積装置であるそれを充填するため、騎士団員は四国各地に赴いた。
選り抜きの親衛隊である騎士団であれば確実と思われた任務だったが、尽く敗退。雫は、人類の手に落ちた。
1つの霊石から切り出さねばならない上に、長い時間を掛けての加工が必要な雫を再び用意するのは至難。
落胆する研究者達だったが、主任研究者である男は、笑っていた。
「1個あるンだから、コイツに探させばいいんだよォ」
曰く――。
姉妹石である『ヒュアデスの雫』は、同じ姉妹石が近くにあれば呼応反応を示す。
それを頼りに探せということだ。
「雫は1つ‥‥雑種どもの領地は広い。如何に我らが飛行移動出来るとて、1人では簡単には見つからぬぞ」
「ヒヒッ。か〜〜んけいないよォ? 何日かかっても探せばいいんだからサ。それとも――」
渋い顔をする部下研究者を一瞥し、ニッと嗤う。
「また100年かけて石削りしたいかい?」
斯くして、下っ端研究員である彼女に白羽の矢が立ってしまったわけで――。
「クオンガハラとかいう島から始めて、イワテにニーガタ、トーキョー、アイチでしょぉ。それからイシカワ、ヒョーゴ、トットリ‥‥で、ヤマグチっと。よし、大きな冥魔ゲート以外は大体カバーしたわよね!」
11月の頭に開発局を放り出されて実に1ヶ月半、延々と飛び続けた記録だった。
地図の上で飛行路通りに滑らせた指は、現在地の愛媛西端まで来てぴたりと止まる。本拠地が目と鼻の先じゃないか。
「オーイタに行く前に休憩したって怒られないわよね。こんな毎日飛んでちゃその内おっぱい垂れちゃう」
髪も服も気にならないが、おっぱいは気になるらしい。
つい、と東の空を目指したその時だった。
りん。りん。りん。
――え。
本拠地が目と鼻の先の、その地域で。ポケットに入れた宝石が小さく、鳴いた。
●
『というわけで、もうまもなく見つかると思います』
鳥型サーバントがツインバベルへと届けた手紙を、くしゃりと握りつぶす主任研究者。
「ヒヒ♪ キヒ♪ や〜〜っと尻尾、捕まえたァ♪」
陰湿な男の部屋に、やけに明るく奇怪な声が響いた。
第3フェイズ ―天襲 I― 
某日。
研究院《祓》の拠点の一つである研究所が天界軍に包囲された――。
先日エクセリオが得たそれは、頓挫していた焔宿レーヴァティンの開発に一筋の光明を齎していた。
ウリエル旗下の天使が各地でヒヒイロカネの獲得に乗り出すが撃退士の抵抗も激しく、遅々として集まらない。
また一方で、奪われたヒュアデスの雫の行方も掴めず、ウリエルの頭痛の種となっていた。
だが、エクセリオの騒動から約半月のある日、停滞していた状況が一気に動き出す。
先んじて伝えられたのは、雫の行方。
これの奪還に、恥を雪いでみよとウリエルは焔劫の騎士団に命を下した。
残るはヒヒイロカネの獲得。これを、ヒヒイロカネの保管場所に心当たりがあるという謹慎中の妹分アルリエルへと命ずる。
斯くして、V兵器の開発などを行っていた《祓》の研究施設に、天が来襲したのだった。
ディメンジョンサークルの出口がある中央研究棟を拠点に、南の前田走矢、北のメリーゼル、
そして各方面に現れたサーバントに対し籠城戦を展開した撃退士軍。
北は敵将を退ける代償として北門付近のイニシアチブを奪われ、南は前田の猛攻に撤退を余儀なくされるなど、戦況は苛烈なものだった。
南北以外の戦場で優勢を取る事で何とか均衡を保っているが、このまま南を軸に総攻撃が続けば、遠からぬ先大きく切り崩されるだろう。
だが。前田走矢は、赤く濡れた刃を収めた。
「いいだろう――精々夜の間に、俺を討つという貴様達の信と誓いを研ぎ澄ませてこい、撃退士。」
暁と共に前田を貫く。そう告げた撃退士の言を飲む形で、各方面全域の侵攻はほぼ停止したのだった。
消耗の大きい撃退士軍は打って出る事はなく、一時の休息として救護や人員手配などに追われていたが、
研究所内は未だ張り詰めた緊張感に覆われている。
―――――――――――――――
【四国】天襲/紅之刀 (燕乃MS)
【四国】天襲/緋色の弓 (ちまだりMS)
【四国】天襲/緋色の魔法陣 (小田由章MS)
【四国】天襲/火焔の翼 (蒼月柚葉MS)
【四国】天襲/濡羽色のライノ (さとう綾子MS)
―――――――――――――――
Episode.4-1 ―燐光の宵― 
●
「南以外は押し返したとはいえ、酷い有様、だね‥‥」
ディメンジョンゲートをくぐり、中央研究棟の屋上に降り立った紫蝶は、ぐるりを見渡し一言つぶやいた。
宙空には偵察と思われる紅い炎の蝶が高く低く舞い、まるで鬼火の様にぼんやりと夜を照らしている。
夜になり、天使達が『一時休戦』として進軍を止めたとはいえ、研究所一帯に充満するその匂いは生々しく戦禍の様を伝えるかのよう。
「そう言ってくれるな、アンタんとこの生徒達が踏ん張った証拠さ」
「椿」
階下から現れたのは対天魔対策司令室四国司令・鷲ヶ城椿。
紫蝶の、かつての戦友であった。
「司令どの直々のお出迎えとは痛み入るよ」
「ここは意外と広いからねぇ、昔みたいに迷子になって泣くかと思ってサ。『しーちゃん』?」
「――っ!? まて椿、捏造するなっ! そんな昔は断じてないぞ!?」
ぎゃあぎゃあ。知古の無遠慮さもあってか、緊張感もなく騒ぐ三十代二人。
周りの撃退士達があっけをとられる中、紫蝶の持つノートパソコンから不機嫌MAXの太珀の声が響いた。
『おい、遊ぶのは大概にしろ紫蝶。さっさと仕事の話しに入らないと今の話を全校生徒に流s』
「勘弁しろください」
ノートパソコンに向かって土下座する紫蝶を見て、椿はダメかもしんないと思ったとか。
●
「さて、太珀どのに直接情報を伝える為に来た訳だが、詳しい戦況を聞かせてほしい」
言って、紫蝶は煙草の煙を窓の外に吐き出した。
寒空の屋上から研究棟内に場所を移したとはいえ、冷え込んだ部屋は煙草が無くとも息が白む。
「南北の門以外は一先ず優勢と言っていい。敵も哨戒のサーバントが出没する程度で、本腰を入れた襲撃は夕方以降報告されていないな。
ただ、東門の外は本拠の中央研究棟から遠く、十分な偵察を行う前に会敵するために戦況の把握に遅れが出ている」
忌々しいったらありゃしねぇ、と舌打ちを一つ。
「それから南北‥‥この二箇所は完全に敷地に入り込まれちまってる。特に南は門が破られて人質を取られた上、侵入したサーバントが南東方面に展開し始めた」
『騎士団を名乗る女天使と、使徒の前田走矢か――』
インターネット通話を介して、太珀が相槌を打った。
天使や使徒が来襲した南北はかなりの劣勢を強いられているが、他が優勢なのは不幸中の幸いと言えるだろう。
これならば南北の天使に戦力を配しながらでも問題点を潰せる。
『よし、現在挙がっている問題点を書き出しておけ。人員の手配はこっちでやる』
「了解だ。あと太珀どの、ミルザムは結局動けるのかい?」
「ミルザム? 誰だそれは」
突如話題に挙がったその名前に、椿は首をかしげた。
「学園にいる研究者の堕天使さ。詳しくは端折るが負傷の治療中でね、彼女ならあの『雫』の解析ができるかもしれない」
『明日には現地に着くはずだ。徹底抗戦の真っ只中かもしれんがな』
「つーことは、そのオヒメサマを迎えにもいかなけりゃならないってことかい。やれやれ、体がいくつあっても足りないね」
肩をすくめる椿。だが、堕天使にでも縋らねば、切り開けない未来もあるだろう。
『では、問題点と必要な人員は”めーる”で送っておけ。見るだけならできる。お前達も出来るだけ、生徒や兵士達の士気高揚に努めておけよ』
通話を終えた太珀の胸の内には、拭えない不安があった。
ツインバベルから出撃したのち、高松の方向へと飛び去った騎士団員ゴライアス。
もし、波状作戦であるなら――第一波で壊し、第二波で弱体させ、第三派で詰み、という可能性すらあるのだ。
杞憂であればいい。
太珀はそう思うと共に、それが恐らく叶わぬ儚い願いであろう事も、感じていた。
第3フェイズ ―天襲 II― 
血潮、鉄、咆哮、涙。
意地、誇り、力、絶望。
入り交じる、様々な色。
感情を餌とする天使ならば、その味はどのような風味を宿しただろうか。
錯綜し、ぶつかり合う想い。渦巻く色は、研究所の内外、至る場所に戦火を誘った――。
南方。アルリエルと合流した前田は暁光と共に正門から真っ向斬り進み、幾重にも青凛の嵐を、紅刃の閃を繰る。
だが撃退士が一切の怯れを乗り越え、切り結んで得た『時間』こそが、剣姫らへの最大の武器。
捕虜の確保完了と共に一斉に降り注いだ牽制射撃に、アルリエルは場の不利を悟り、青凛の刃を収めた。
繰り広げられる激戦の最中、南東に満ちた静謐の血陣を破壊し
天使が血眼に探している《ヒュアデスの雫》を無事第二霊査室へと送り届けた撃退士軍。
また、本陣で雫の研究を続ける研究者やその家族を励まし、少しずつ緊張がほぐれゆく中、
北東部の所員宿舎から無事保護された父子が本陣避難所へと戻り、ひとまずの安堵が広がった。
そこに、転送を経て無事護送された天使ミルザムが合流し、雫の解析は一気に前進していく。
その頃。研究所から遠く、冬枯れの高い樹木が犇めく山林地帯の空を、砲撃の閃光が貫く。
主戦場である研究所への合流を阻む撃退士達を、天使レギュリアと三匹の巨竜が灼き払い、振り払い。
だが血と硝煙にまみれながらも、撃退士は立ち上がる。立ち上がり、刃を振るう事を諦めない。
そして。黒竜の首級と共に零れ落ちた、蒼き輝きを放つ盾。
地上に、撃退士の手に、《氷宿・フロスヒルデ》が齎された瞬間であった。
北方――じりじりと空を震わせ、青雷と共に降り立つバルシークを、撃退士達の刃が迎え撃った。
しかし勝機を賭けた乾坤一擲の挟撃作戦で、まさかの悪夢が訪れる。
意思疎通の不足が招いたのは、挟撃班を貫く雷砲。瓦礫となった霊査室と、その床に広がる血溜り――。
己への憤怒と共に立ち上がる撃退士達を一瞥しながら、バルシークは安置された雫を手に蒼穹へと消えて行った。
その宝石が、護送班が残した偽物だとは気付かないままに‥‥。
暖かな歌があった。優しく触れる手があった。
血を拭い、怯れを払い、励まし合いながら、立ち上がる心を与える力があった。
本陣は決して崩れてはならぬ砦。その内に抱く士気がある限り、決して負けるはずはない。
――だが、フロスヒルデが人間に奪われた、という報せは天界軍を駆け抜けていく。
鍵と扉。ふたつが、人間の元で揃ってしまった。
その事実が天使達の眼の色を変え――新たな戦場の、扉が開く。
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【四国】天襲/青凛ノ剣 (燕乃MS)
【四国】天襲/蒼の剣閃 (久生夕貴MS)
【四国】天襲/黒の潜刀 (久生夕貴MS)
【四国】天襲/紺青の救出行 (monelMS)
【四国】天襲/雫色のエスコート (さとう綾子MS)
【四国】天襲/雫は紅涙の中に… (小田由章MS)
【四国】天襲/蒼龍救援隊 (秋空稔MS)
【四国】天襲/無色の知欲 (扇風気 周MS)
【四国】天襲/蒼き雫の還る場所 (九三壱八MS)
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Episode.4-2 ―水謐の楯― 
「アルリエル、撤退していきました!」
「これで、南は一区切りついたかい…急いで負傷者回収、戦線を立て直しな」
四国、研究院《祓》における天使軍との攻防戦の開始から一日が過ぎ、再び傾き始めた冬の日差しには事態を暗示するかのように、雲が影を落としていた。
●
天魔対策司令室の九州・四国兼任司令 鷲ヶ城 椿は本陣として構えた研究院中央棟2階の講堂で、今後の動きを決めるべく部下から報告を受けていた。
「雫は無事、第二霊査室に届けられたそうです」
「ああ。オヒメサマの方も、今さっき第二霊査に入ったと連絡があった。……主任の最期の仕事は無駄にしないさ」
事は、敵に位置が気取られた雫を移動するという作戦の最中に起こった。
北から襲来した強敵バルシークが迫る中、主任研究員が数人の護衛と共に第一霊査室に残っていた。
――彼こそが霊査室の崩壊の中、犠牲となった研究員だ。
連戦という過酷な状況の中、死地へ向かう若者達を見た彼は、自分も命をかけて研究者としての戦いをしなければならないと言ったそうだ。
命をかけて、守って貰っているのだから、と。
「愛媛のゲート方面の監視部隊と学園の両方と情報連結は密に。今、気を緩めるなよ」
「了解」
部下へ指示を出した椿は、研究院周域図に視線を落とし内心でひとりごちる。
最悪の場合、この施設は投棄しなければならない。
学園からの援軍を呼べるだけ呼んで、一般人を抱き込んだまま――敵陣を突っ切る。
(あんまりやりたか無いねぇ)
ふと、紫煙の薫りを感じて顔を上げれば、どこか困ったような旧友の顔がある。
「…紫蝶、盾はまだ届かないかい?」
「先ほど討伐した部隊から連絡があったぞ。あと40分もあれば付近に辿り着くとは言っていた」
「大天使が去ってくれたお陰で、北西の方がやや手薄な筈だよ。通用口の方に回り込むよう伝えとくれ。コチラからも迎えを送る」
了解だと応え、紫蝶は手早く通信機を手に連絡を始める。
その様子を眺めながら、椿は盾の事を思った。
敵が後生大事に運んでいたモノ。
まるでロールプレイングゲームの伝説の盾のような話だが、竜が守っていた盾には雫型のくぼみがあったという。
捨て台詞で天使レギュリアは、学園に持っていくなと脅しの言葉を残した。
つまり。
「盾と雫、そしてレーヴァティン。何らかの関係で繋がっているって言ってるようなもんじゃないか」
「遅かれ早かれ判る事と判断したのかもしれんな。あの天使は冷静な判断の出来るタイプだそうだからな」
なるほどと、紫蝶の言葉に椿は再び思考を巡らせる。
大事なモノだとわざわざ知らせる。
冷静な判断の出来る天使があえて言った理由はなんだ?
「……時間稼ぎかねぇ」
何を待っているにしても、それを待つ義理はないと言える。
「やっぱり、此処を放棄するしかないか、ねぇ」
控える部下に、緊張が走る。
椿の発する気配の質が変わったのだ。
「《盾》を回収後、西棟を放棄。本隊を東棟に移す。勿論一般人もだ。いいかい、お前たち、間違っても天使どもに気取られるようなヘマはするんじゃないよ!」
「「了解!」」
待ち構えているであろう軍勢との戦闘を思い、視線を転じた窓の外は、降り始めた冬の雨に濡れ始めていた。
●
『その判断は少し待って貰えないか?』
本隊を東棟に移し、その後一般人を護衛しながら施設を放棄する。 その旨を、件の雫の解析を行っている霊査室へ伝えた所返って来た返事がこれだ。
『もう少しだけ待って貰えないか?』
研究員を押しのけ、天使ミルザムが通信機の向こうで繰り返す。
眉が跳ね上がるのを椿は感じた。
「もう少し待ったら、何か良いことがあるんだろうね?」
正直な所、状況はあまり良くはない。周囲を包囲している天使に動きがあったという連絡があった。
恐らくはそう遅くないタイミングで、攻めてくるだろう。
先手を取られては、脱出も困難になる。
『そう焦るな。いや、状況は理解しているつもりだ』
やや平坦な声色は通信機越しの音で、余計に感情を推し量りにくく聞こえてくる。
『再び、大きな戦闘になるのだろう? ならば、コレが役に立つだろう』
コレとは……
「っ! 解析が終わったのか?」
『今、調整をしている。天使軍を追い返すにしても此処を投棄して敗走するにしても、力となるはずだ』
ミルザムの通知から凡そ3時間後。
研究院《祓》中央棟で待機していた撃退士達は、盾の完成の報告と敵軍の進軍の知らせを同時に受けることとなるのだった。
そして、天に因る強襲は最終局面を迎えようとしていた。
降り始めた冷たい冬の雨は、まだ止まない――。
運命の岐路 ―抗天― 
希望の扉。一滴の光。
夜の闇にあってなお、僅かな月の光できらきらと輝きを放つ、清冽な水の様な。
――研究院『祓』、四国研究所はまさに暗澹の中で一筋の光を求める、そんな状況であった。
戦闘序盤、小雨降りしきる四方のどの空にも戦の狼煙があがる前に、南戦場では大きな動きがあった。
敵将との交渉による非戦闘員の避難。
この戦闘の最大の勝利条件とも言える人類の撤退を、刃を用いる前に成した事は、
南だけではなく他方の戦場においても、開戦の士気を高めるものであった。
されど、戦は避けられない。
南正門からの避難が進む中、西研究棟ではレギュリアと撃退士による砲煙弾雨が南西の空を焦がしたと思えば、
同時刻、正反対に位置する北東には焔の鳥が断末の声がこだました。
あちこちで血が、剣が、光が、意地が、交錯し、ぶつかり合って、戦場はなおも熱を帯びゆく。
そしてレギュリアが爆風に紛れて撤退し、小雨が霙へと移ろう冬空へとハントレイが翔び立ったその時。
透き通る白い神光が空を貫き、中央研究棟を中心に澄んだ水の膜が戦場を包み込んだ。
その光はフロスヒルデの場所を知らせるも同然だったが、バルシークとゴライアスが動じる事はなかった。
今騎士団に課せられた命は、時を待つ事。つまりは焔の剣が援軍で齎されるまでの時間を稼ぐ事に他ならない。
剣を重ねる毎に鋭さを増す人間の戦士達。
良き戦に巡り会えた幸運と、騎士としての誇りと、それから、まだ見ぬ未来を感じながら。
遂に満身創痍まで追い込まれた玄人騎士達は、北の空を仰いだ。
時は、来たれり。
鍵と扉を合わせ開いた、新たな戦場に打ち込まれるは焔の楔。
熱にゆらめく閼伽の刃と、風にたゆたう紫紺の外套と。
どしりと重い威圧を纏う白銀の老将軍。
――焔劫の騎士団団長、《閼伽の刃》 オグン。
フロスヒルデから開放された水精がレーヴァティンの焔を相殺していく様を見ながら、将は告げた。
貴公らは我らと肩を並べたと認めよう、と。
そして、再び剣を交える時を楽しみにしている、と‥‥。
こうして、人は天に抗した。
多くの人間を護り、そして同時に、焔の災禍を打ち消す事ができる水の加護を、人類の手に齎したのだ。
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グランドシナリオ 【四国】天襲/天に抗する輝き オープニング/リプレイ
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Episode.4-3 ―冷厳の雨を超えて― 
●
薄青い空に、細く煙が解けて消えてゆく。
未だ戦闘の爪痕が深く残る研究棟の屋上に、鷲ヶ城 椿は居た。
(騎士団が退却して、もう三ヶ月……いや、退却してもらって、か)
未だ口に残る苦味は、吸い終わった煙草のものだけではない事は自覚せざるをえない。
フロスヒルデと呼ばれる、天使の盾は遂に学園の施設に移送された。
騎士団を消耗させなければ追撃の手が厳しかったかも知れないが、研究所周辺に斥候すら来ない所を見る限り移送を防ぐ事は難しいと判断したのかもしれない。
(私達だけなら、きっと問題なかったんだろうけどねぇ)
ここは四国だ。
冥魔との支配域を食い合う、土地だ。
(コレ以上弱れば、冥魔にとっての好機になるのは確実だからね。何と言っても、愛媛を睨んでいるのはメフィストだ)
広島の因島に君臨する大悪魔は、長い間たった一人で天使の本丸に対する最前線の砦を維持する大物だ。
高松のゲートも、彼女の部下であり手駒。
レーヴァティンが使えない状態で、コレ以上冥魔の前で消耗するのはリスクが高過ぎると判断したのだろう。
戦術的撤退。
(気付かずに冥魔に襲われてくれりゃ、両方消耗した所を叩かせてもらうのにねぇ)
ミルザムの見解によれば、レーヴァティンが再び使えるようになるのは早くても春か、それ以降だろうという話だ。
レーヴァティンは完成していない。
天使達の証言が正しければ、完成させるまでは再び人類を犠牲にするのだろう。
そしてレーヴァティンの完成までに、騎士団も今回の消耗から立て直しを図るはずだ。
今回ほどの戦力投入はなくとも小競り合いへの警戒が続くと思うと、気が休まる事は決してなかった。
「けど、私等だってもう黙って犠牲にされる訳じゃぁないさ」
天使にしろ、冥魔にしろ、人間を無視して事を運ぶ事は難しいと知り始めている。
京都、長野、東北、群馬、静岡、そしてここ四国。
大きな戦闘で学園の撃退士の出来る事が、防戦から抗戦、抗戦から攻戦に転じてきている。
それはそのまま、人類の力が増してきていると言えるのだ。
(私等の時代とは、違う。漸くここまで来たってことだね。紫蝶)
本作戦司令官として、この研究所に来るのは今日で最後になるだろう。
天と冥。この天秤を上手く傾ける事が、この四国の地を制する条件なのかもしれない。
それはきっと簡単な事ではない。
それでも、
その時ひときわ強い風が吹き、木霊が響き渡る。
その中、空をひらめくものを認めて、椿は僅かに口角をあげた。
空の煙草箱くしゃりと潰し、階下への階段へと踵を返す。
「しまった。さっきので最後の一本か。もう1ダースしーちゃんにねだっとくんだったよ」
冷たい雨は止み、ぬるんだ風が軽やかに運んだのは白い花弁。
漸く暖かな季節が訪れようとしていた。一つの節目を迎えたこの地に。
幕間2 ―『妹』の叛逆― 
人が天に抗い、焔と水が決別した後、四国には穏やかな日々が訪れていた。
否。厳密に言えば、香川には未だ巨大冥魔ゲートがあるし、徳島の山岳地帯では大天使との戦いがあったと聞く。
それでも、かの騎士団達の動きが報告されることは、殆どと言っていいほどになかったのだ。
「人間は蓬来山や富士山の騒乱で手が塞がっているだろう、今のうちに万事整えておけ。
無闇に突くな。雪辱に焦るな。人間は我らが考える以上に毅く、聡い。
貴公ら騎士達も酷く消耗し、我らの下に焔の護りはない。‥‥それを悟らせる事だけは避けねばならん」
――そして、万事が成ったその時は。
再び、我が意の体現者として戦場を駆けてくれるな? 我が妹、アルリエルよ――
しかし、ウリエルの想いを裏切る形で、アルリエルは誇りを貫く事を選ぶ。
まだうだる暑さの残る晩夏、彼女の使徒・前田走矢が戰場に果てた。
『天刃』と綽名して、強い信頼を、誇りを、意思を、自らの半身であるが如くに分かち合い、共に歩んだ使徒だった。
静かに目を開いたアルリエルは、内に逆巻く激情の手をとる。
「兵を集めよ。天に殉じた者を、ただの死と看做すな。我が使徒が斬り拓いた道を進め!」
恐らくは――。
敬慕する姉に異を唱えるつもりはなく、むしろ、姉から学んだ『誇り』を尊ぶ心に忠実だっただけなのだろう。
叛逆などという気はない。そもそもにして天に仇なすつもりなど微塵たりともない。
それでも。今、剣を取らずに居られようか。
干戈の音が暴風雨の様に降りしきる。
血と鉄の匂いが天地を満たす。
誇りと魂と、何人たりとも侵せ得ぬ矜持を胸に、彼女は青燐の光が照らす道へと飛び立っていく。
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【四国/戦弔】血の代償、青の瞳 (燕乃MS)
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第4フェイズ―劫天― 
●
「あのお坊ちゃん《トビト》は、漸く仕事を果たしたのだな」
親友が膝を折って恭しく差し出した艷やかな紅劔を見、目を細めるウリエル。
焔宿・レーヴァティン。その美しき輝きを見送ったのは、もう随分前のような気がした。
「そのようだわ。まぁ、東北は長く劣勢だったようだから‥‥『質』がいいかは保証できなさそうだけどね」
ウリエルに促され立ち上がると同時、天使レギュリアは傲然とため息をつく。
「はは、辛辣な事だ。相変わらずのようで何よりだよ」
「嫌味かしら」
「階級に関わらず言うべき事は言う――君のそういう忠直な所は何より信をおいているつもりだが」
「‥‥言う相手は選ぶけどね」
肩をすくめてみせた友を見て、ウリエルは満足気に笑みを深める。
『 お帰り 』
その言葉の代わりだと、物語るように。
1年前の、丁度年が明ける頃だったか。
研究所の争乱でエネルギーを使いきり、焔剣はその紅き光を失った。
ゲートの蓄えを用いても回復は容易ではなく、春をすぎる頃には『最低でも数年』という噂までが流れ始めた。
そんな折。
‥‥手を差し伸べたのが『神樹』の管理者たるトビトだ。
神樹とは、特殊な種で以って大地に大樹を芽吹かせて要塞とし、外界の干渉が届かない閉じた世界の中で限界までエネルギーの搾取を行って実を結ぶ――いわばエネルギー供給専門のゲート術。
――当然知ってるよね、新人の力天使さん?
『鳥海山にある神樹の実なら、きっと半年もかからないと思うな。ねぇメタトロン様、この僕にお任せ下さいませんか?』
幼子の口角が、あどけなく弧を描く。
その瞳の奥に飽くなき乾きをちらつかせながら。
●
漸くだ。
地球に居を構えるより遥か前、百年以上の月日を費やして開発し、エクセリオがヒヒイロカネの情報を得、アルリエルがそれを奪取し、神樹の力を借りて‥‥そうして、ようやく成った。
紅き劔は僅かに熱を帯び、刀身を震わせる。
その力をふるう時を待ちわびるように、焔の精気をうずかせる。
愛媛ゲート『ツインバベル《双剣の天女》』――その片割れ、陽輪城。
蒼天へと伸びゆく城の、その一番高い所でウリエルは静かに空を見上げた。
フロスヒルデの加護があったとはいえ、天眷の騎士団が人間と痛み分けという結果を残した戦から10の月が過ぎた。
水盾は勿論、その動力となる雫すらも依然取り返せぬまま。
そして『妹』として可愛がっていたアルリエルが、『姉』であるウリエルの軛を断って、背を向けた。
(‥‥無様だな。これでは兄上になんと言われることか)
もう、退く事は許されない。
事実上の敗北と、愛妹の叛逆。
2つの痛みを噛み締めながら、烈火の姫騎士は剣を南東――青白い光柱が貫く高知の空へと掲げた。
「さぁ、征くがいい焔を戴く騎士達よ!! 人間の抗いなど、尽く劫天の焔で飲み込んでやるのだ!」
凛と澄んだ高い空は戦音の記憶を呼び覚ます。
作戦名、《劫天》――。
四国の地に、雪が舞う季節が再び訪れようとしていた。
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●北部戦線(ゴライアスゲートエリア) 登場NPC/ゴライアス・ソール
【四国】 雷師の贄 皓珠の楔 (九三壱八MS)
●北東部戦線(エクセリオゲートエリア) 登場NPC/エクセリオ
【四国】運命交差点 (剣崎宗二MS)
●南東部戦線(バルシークゲートエリア) 登場NPC/バルシーク・リネリア・ロベル・シス
【四国】ロベルのくせに生意気だ (扇風気 周MS)
【四国】瑠璃の天 玻璃の門・前 / 後
【四国】瑠璃の天 黒曜の楔(久生夕貴MS)
【四国】瑠璃の天 紫風の壁(蒼月柚葉MS)
●南部戦線(リュクスゲートエリア) 登場NPC/リュクス・エル
【四国】戦火の海、霧中の契 / 【四国】凩の果て、六花の散る辺(水綺ゆらMS)
【四国】 戦場の理 勇翼の華 (九三壱八MS)
●南西部戦線(クランゲートエリア) 登場NPC/クラン・ハントレイ
【四国】薄暗闇の門番/怯懦・前 / 後(ユウガタノクマMS)
【四国】薄暗闇の門番/渇望:前 / 後(螺子巻ゼンマイMS)
●北西部戦線(アセナスゲートエリア) 登場NPC/アセナス・キアーラ
【四国】ルビーレッドの救出劇 / 【四国】プラチナホワイトの扉(さとう綾子MS)
【四国】石段の鉄鎧 / 【四国】鉄鎧は遅れてやってくる(monelMS)
●遊撃部隊
アルリエル
【四国/戦弔】血の代償、青の瞳 / 【四国/燐烈】天揺の秤 (燕乃MS)
アブサール
【四国】陽炎燈明 / 【四国】霊場戦線侵攻す
【四国】ジャミング・ブレイカー / 【四国】霊場戦線ヴァニッシュon(小田由章MS)
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Episode.4-4 ―新たな光― 
●
高知市北部、山中。
ゴライアスゲートが消失したことで撃退士の巡回がなくなり、ひっそり静かな本来の空気を取り戻しつつあるその地を仄朱い蝶がひらりと先導する。
「まだ、先なのか――」
従士ソールは軽やかに闇を泳ぐ蝶を見ながら毒づき、次いで、自分を支えに歩を進める騎士団長オグンの姿を見た。
豊かな白髭は血でしとどに濡れ、ごわごわと固まってしまった。
歴戦をくぐり抜けてなお矍鑠な身を彩るボルドーの外套も、まるで襤褸のよう。
――悔しかった。
それはオグンを援護しきれなかった未熟さへか、敵に心魂を折られてしまった不甲斐なさへか、分からないけれど。
唇を噛み締め前をむくと、
「オグン様、ソール様! お迎えに参りました」
「なかなか来ねぇから手伝いに来てやったぜ‥‥です」
丁度リュクスとロベルが姿を見せる。ソールは一瞬安堵に顔を綻ばせたが、すぐに顔を横に背けた。
まともに顔をあわせる事など、できなかった。
その夜。
「ウリエル様。少々よろしいですかな」
臨時兵站地――と表するのも憚られる山小屋の中、クランとキアーラによる治癒を受けながら、老将は口を開く。
その目には未だ絶えぬ、未だ揺れぬ、意思に満ち満ちたものだった。
●
「団長の任を返上する――、だと?」
「いかにも」
小屋の周囲を巡回していた最中、漏れ聞いた言葉。
周囲を慎重に伺ってから、アセナスはにわかに信じがたいその会話に耳をそばだてた。
「連結陣を用いてまで展開したゲートを陥とされたのですからな。責任は――」
「オグン‥‥いや、『爺』。貴方はそんな殊勝な性格ではないだろう。本心を話せ。でなければ私は承諾しない」
数百年は耳にしていなかった呼び名に、オグンは苦く笑った。
我が王は、よくわかっておいでだ、と。
「では久々に軍事学の勉強と参りましょうか、『お嬢様』。ウリエル様は、此度の作戦をどうお考えですかな」
「‥‥一言で言うならば、『無謀』だ。撃退士なる人間は片手間で潰せるほど小さな脅威ではない」
「そうです。しかし、机上で戦を語る『上』の方々は、いまだ一方的に搾取できる弱い存在だと考えている。だからこそ、こんな無茶な作戦が下されるわけです。さて、認識を改めさせるためにはどうすればよいか」
逡巡の後、つと、ウリエルが眉根を寄せる。
もし自分が声を大に訴えたらと考えたが、大凡の反応が浮かんだからだ。
『箱入り育ちの小娘風情が、原住民に恐れをなした』――と。
「結果で認めさせるしかないだろう。が、何かを失うまで真実を受け入れる事は到底ないだろうな‥‥」
「いかにも。そして損失が大きいほど、己の過ちと事の重大性に気付くでしょう」
一呼吸。
そして深い赤の瞳が、ウリエルの双眸を捉える。
「私が、天界の未来のため『損失』になりましょう」
「‥‥っ、確かに爺が斃されたとなれば上も穏やかにはいられまい。しかし――!」
「リネリアが、泣いておったのですよ」
突然切りだされた話題にウリエルが面を喰らうと、視線を外しオグンは悲しげに笑う。
「あれの状態は悲惨なものです。恋人を失い、兄をも失った。憎しみに駆り立てられるのが道理でしょう。‥‥しかし、あれを苦しめているのは、大切な者を奪った者らへの憎しみと、その者達への少なからぬ情の板挟みだ」
秋桜のように愛らしくこぼれる笑顔は、もうどれくらい見ていないか。
「撃退士は、刃を収め言葉で――話し合いで戦うべき、と言っておりました。それが憎しみの循環を断つ方法だと。至極もっともであるのに、我らはその勇気ある提案に応じる手段さえない」
「個人の天使レベルならいざしらず、軍の作戦として出兵しているからな。上が動かない限り、我らに選択肢はない」
「上の目が覚めぬ限り、リネリアのような苦悩はこれから先も続くでしょう。儂は、その未来を変えたいのです」
だから。
未来の、次の世代のために。僕達のために。
(団長が、死ぬ――だって‥‥?)
会話を聞いたアセナスは、衝動に任せるがまま、草木の葉ずれを抑える事もなく駆け出した。
「‥‥アセナスか。聞かれておったことに気づかんとは、儂も耄碌したもんですな」
「よく言う。そう言って本当に衰えた老獪を見たことがない」
呵呵と笑うと、オグンは鎧の胸元に誂えられた徽章を外し、「これを」とウリエルへと差し出した。
「騎士団とウリエル様へご迷惑はお掛けしませぬ」
「馬鹿を言うな‥‥貴方を失う以上の迷惑があるものか」
その顔がひどく穏やかだったから。
それ以上何も言わず、ウリエルは銀色のバングルを渡し、受け取った徽章を握りしめた。
「では――我らの未来をしかと頼みましたぞ、ウリエル様」
●
「団長が‥‥? それは本当なのか、アセナス!」
話を聞き、一も二もなく飛び出そうとするハントレイを、アセナスは手で制した。
「‥‥ッ! 何故止める! 死地とわかっていて、むざむざ行かせるのか!」
「ハントレイ落ち着け、お前らしくもない。俺だって団長をただ行かせるつもりなんてない!」
叫ぶ声が夜の山林に溶けていく。
冬の木枯らしが足元の枯れ葉をさらい、がさがさとノイズをたてた。
「俺たちがただ追いかけても、恐らくどうにもならない。‥‥撃退士の強さは俺達が一番身にしみてるだろ?」
ひくりとハントレイの目頭が細まる。
【封水】で、【天襲】で、そして【劫天】枝門戦で。
2人は幾度も撃退士と刃を交え、そして辛酸を舐めさせられた。
「俺はこれから団長を追いかけるけど、一人で戦うつもりはないよ。ハントレイは――リネリアに、事態を伝えて欲しい」
「‥‥いいのか」
言わんとする事を理解し、アセナスは頷く。
「後から知ったほうが、辛いと思うから」
「リネリアが行くとなれば、ロベルとリュクスはついていくだろうな」
「俺も、キアーラに付き合ってもらうつもりだ」
「‥‥クランはどうするかな」
「恐らくウリエル様は撤退命令を出すだろうから、俺達全員規律違反だな」
「たまにはいいだろう」
「はは、珍しいな。真面目なお前がそんなこと言うなんて」
ひりついた空気が解け、ハントレイの口元にも薄く笑みが浮かぶ。
大丈夫だ。いつもの冷静で誰より信頼のおける彼に戻ってる。
「じゃあ、俺はキアーラを連れて先にいくよ」
「ああ」
●
「団長、どちらへ?」
「ぬ」
山を降りたオグンの背後から、ふいに投げかけられた女の声。
それは民家の屋根に座り、夜風にたゆたう赤火の髪をかきあげた。
「おお、アブサールか。よくぞわかったな」
「工作兵を侮らないで下さいね。狭い範囲の人の出入りを察知するくらい――団長?」
オグンの鎧を飾っていた徽章がなくなっている事に気づくと、アブサールは屋根からオグンの傍らへと降り立った。
「儂はもう騎士団長ではない。さらばだアブサール、お前はウリエル様と共に生きろ」
端的な挨拶。
何故そうなったのか、何故そうするのか、何一つ理由はわからない。
しかし――。
「ならば、私も騎士を棄てます」
「アブサール」
「私は‥‥オグン様の信念に義を感じるからこそオグン様に忠誠を誓い、オグン様の手足となるべく騎士団に入った。貴方をおいて他、優先するものなど何もありません」
どんなにこの身を削ろうとも、信ずる者のためならば。
語らずとも、信ずる者の決断ならば。
そう言外に訴える瞳は、オグンのそれと同じく決して揺れる事はなかった。
「そうか」
「はい」
更に言葉を重ねようとした時、何かに気付きオグンは己の来た方角を振り返る。
アセナスが追いついて来たのだろう。
「時間が惜しい。未来への路を作りに往く」
戦場を駆け、他の命を代償に生きてきた。
なればこそこの命も、他の為に捧げよう。
――劫の天威に楔を穿ち、新たな光を次代に示さん
(執筆 : 由貴 珪花、コトノハ凛)
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