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 ぷつん、と何かが途切れるような痛みが胸を刺した。

「‥‥ナターシャ、そうか‥‥」

 大きなうねりに飲み込まれ、それでも気丈に身命を天に捧げた娘。
 生まれが違ったとしても、例え恩義や契約に依るものだったとしても。彼女の真摯な生き方は尊敬に値するものだった。

 それは憐憫だったか。贖罪だったか。それとも使命から解放された彼女への祝福だったか。
 横浜ゲートの最奥、コアの前でひとり佇む男がひとつ涙をこぼした。


「アクラシエル様」

 アクラシエルの背後に音もなく現れ、そして跪いたギジー・シーイール(jz0353)は、上司の名前こそ呼んだものの顔をあげなかった。
 顔をあげては頬に伝うものが、もしくは拭う姿が見えてしまうだろう。
 そして――我が主は決してそうはおっしゃらないだろうが――この醜い顔を無用に晒すこともない。
 黒いテンガロンをより目深にし、ギジーは低い声で言葉を続けた。
「表はアナエル様達が固めております。万が一に備え、ゲート内には私が」
 ちゃり、と腰に挿した刀が誇らかに鳴る。
 しかしその言葉を聞いたアクラシエルは弾かれるように振り返った。
「ギジー! 君はもう戦える体じゃないと言われたはずだ、無理はするな!」
「見くびってくださいますな。これしきの傷で太刀筋が鈍ることなど微塵もございません」
 そのように語るギジーの声は澱みなく流れており、発言を裏付けるようでもある。
「だが‥‥」
「ましてこの戦いは我らが『ネメシス』の、ひいては天界の行く末を左右するものと心得ております。私も天使として、我が主とともにどこまでも戦い抜く所存です」
 異形を蔑視する天界において、唯一自分を天使として、仲間として迎えてくれたアクラシエルとネメシスのために。何より、天使としての誇りのために。
 深く呼吸を一つ。どくどくと脈打つ心音は紛うことなき天使のそれ。
「ですから、どうか我が主はこちらでコアの守りを」
「ギジー、‥‥‥っ‥、‥‥‥」
 アクラシエルは何かを言おうとしたが、それらは言葉になることなく掻き消えていった。
 もとよりネメシスは少数の組織。残る仲間は多くない。
 そして今の戦況――ギジーを説得できるような材料もなく、アクラシエルは一言「わかった、頼む」と声を絞り出した。

 一礼してアクラシエルに背をむけるギジー。
 その後姿を見送ると、アクラシエルは再びコアを眺め、指先で触れた。

 強い吸収ではないとはいえ、コアには相当量のエネルギーがあるだろう。
 これは、自分たちが生きるために必要な糧だ。だから、守らねばならない。
 ‥‥しかし命の糧を守るため、ギジーが、そしてゲート外で撃退士を迎え撃つアナエル達の命を喪うかもしれないというパラドクス。
 多を生かすため、少が犠牲となる。それは一つの正解ではある、が。

 ――覚えておいてくれ。多くの血と悲しみを経て生まれた、協定の、その意味を。

「我々は、狩猟で命をつなぐ時代から何一つ前に進んでいないのでしょうか、メタトロン様‥‥」
 人間を信じた親友の言葉を噛み締め、アクラシエルは瞳を閉じた。




「は? 撃退士がこの船を‥‥?」
「そーーーなのよ、ベリアルねーさま! 遥か遠き世界線ほどに尊い存在であるベリアルねーさまの、崇高なる船を、害虫家畜の分際で、地泥で穢すに飽き足らず、更に簒奪しようだなんて、愚かにもほどがあるわ! 万死に値するわよ!!」

 地上に引き下ろされた空挺・エンハンブレ内部、管制室。
 その外の廊下にもはっきり聞こえるほどに、ジュエルの滑舌の良い大声が響き渡った。
 聖獄の鎖によってエンハンブレが――口が憚られるほど悔しいことに、地に引き下ろしされたあと、撃退士の一人がつぶやいていたのだ。
 『船は手中に収めたも同然』だと。
「なるほど、それで直接ぶっ壊しにくるんじゃなくてわざわざ無傷で下ろしたってことかい。‥‥ふぅん」
 怒ったりオロオロしたり、ころころと表情をかえるジェルトリュードの頭を一撫で。
 蜂蜜色の豊かな髪がするりと指を通り、名残惜しげに滑り落ちていった。
「サンキュ、ジュエル。ちょっとうちの『外部顧問』に相談してみるよ」

「‥‥がいぶこもん? うちにそんなもの存在(あった)かしら? 何だか解せないわ‥‥」
 でもアルファールには今のこと自慢できるわよね、と撫でられた自慢の髪を嬉しそうに触りながら、ジュエルは管制室から去りゆくベリアルの後ろ姿を眺めていた。

 ◇

『――と、してみりゃれ』
「マジか‥‥それ、ダーリンも知ってるのかい?」
 管制室から所かわって船長室。
 映し鏡には、いつもどおりに妖艶な笑みをうかべた『外部顧問』のメフィストの姿があった。
 現在の状況、敵の戦力、狙い、それらを伝えた上で妙案はないか、と問うたのだが――そのメフィストを見やるベリアルには、驚きの色が見えていた。
 大将位冥魔として、色んな戦況を見、決断をしてきた。しかし。
『‥‥そうじゃ。宰相どのが想定した策のうちのひとつよ。妾のメイドらの調査の結果を考慮しても、悪しようにはならぬはずじゃ』
「わかった。頭には入れておく――が、判断は戦ってからだ」
『それで構わぬ。じゃが、魔界大公爵たるメフィスト・フェレスが戒飭しよう。軍の頭領として‥‥そして宰相殿の妻として、未来の益となる働きを忘れぬようにの』
 ふつりと虚像が掻き消える。
 ベリアルはベッドの端に腰掛けると、大きく息を吐いた。

 ――未来の益となる働きを忘れぬように。

 これは昔から‥‥まだベリアルも、そしてルシフェルも低い地位にあった頃から、メフィストに繰り返し言われている言葉だ。
 そしてこの言葉を聞くときは、ベリアルが必ず難しい選択を迫られる時でもあった。
「もう、こんな時にいなくなるなんてダーリンのばかっ!」
 ぼすっと音を立ててクッションに拳がのめり込む。
 ルシフェルは、魔界からの緊急招集令で先月のうちにこの船を離れている。
 決断は、自らしなければならない。
「信じていいよね。ダーリン‥‥」
 ベリアルは紫眼を揺らめかせたのち、窓の向こうで傾く昼の月を睥睨した。




「どちらもいよいよ選択の時、か」
 紫蝶は独り、煙草に火をつけながら呟いた。

 ――2つの地域は、それぞれに問題をもつ。

 つくばの大将はベリアル。
 ‥‥ルシフェルの妻であると同時に魔界でも指折りの力をもつと、あの太珀が語るに顔を強張らせたほどの将だ。
 真っ当に戦闘しては、恐らく損害が出るばかり。
 それどころか、本気にさせたら街が一つ消し飛んでも不思議ではない。
 なるべくコアだけを落とし、そのうえで本気で戦わせず、なんとか場を収めなければならない。
(空挺は確かに学園にとって魅力だ。電力に左右されない空挺は支配領域内の空輸手段となる。しかし‥‥)
 被害が広がってからでは全てが遅い。
 最悪、コアの破壊のみを行った上で即離脱――空挺を諦める必要もあるだろう。

 一方、横浜の大将はアクラシエル。
 ここの問題は、戦闘そのものというより‥‥コアを破壊するか否か、という問題。
 学園としても天使、とりわけメタトロン旗下の天使の困窮は、ミカエルを通じて聞き及んでいる。
 勿論、人間の立場では支配領域を放置するわけにはいかない。
(だが、本当にそれは正義なのか? 道は一つなんだろうか‥‥?)
 作戦決行前、横浜ゲートを撤去すれば攻撃しないとミカエルを通じて打診を持ちかけた。しかし、答えはNOだ。
 メタトロンは人間の手を取る気がないのか、それとも、取りたくとも取れない状況なのか。
 剣で解決する問題ならいい。しかし、彼我の間にあるものが互いの正義であった場合どうするべきなのか‥‥。

 ろくに吸ってもいない煙草がフィルターの手前まで燃え、ふっとその赤を失った。
 指先に感じていた熱がなくなり、紫蝶はハッと我を取り戻す。
(指揮官が悩んでどうする。考えても栓がないなら、私がすべきことは――人間の正義のもとにコア破壊を指示すること。そうだろう)
 遠く西の空、九州で撃退士の戦線を指揮する友人の顔を思い出し、紫蝶は顔を上げた。
 光信機を手にとると、全撃退士へのメッセージを吹き込む。
 私の願いはここにおいていこう。そう心で呟いて。

「久遠ヶ原作戦指揮官の月摘紫蝶より、関東地区天魔ゲート破壊作戦に参加する全撃退士に告げる。
 ここからが本番だ。つくば、横浜のどちらも難しい戦いになるだろう。
 しかしいま、天魔に蹂躙される時代は終わろうとしている。人間と天魔の関係は変わろうとしている。
 どうか、各々が未来に悔いのない行動をしてほしい。‥‥以上だ」

 雲はいつの間にか流れ、澄んだ茜の中、月は西の空へと落ちようとしている。
 紫蝶は細く頼りない下弦の三日月を眺めながら、ぎゅっと奥歯を噛み締めた。

 選択の時は、近い。



                                                              (執筆:由貴 珪花)



  (※タイトルをクリックすると表示/非表示が変更できます)



【AT】連動ハント詳細

イベント概要

 横浜/つくばのゲート支配下に取り残された人々を、仲間と協力して救おう!
 6/3 16:00以降リリース分より、【AT】連動ハントにおける出現イベントが追加されました!
 救出を進行しながら、今後の展開上重要な「中継点」を設置していこう!

 期間中、教室にハント「【AT/横浜】 Stick with it.」および
 「【AT/つくば】 It's up to you. 」がランダムで登場中!
 皆様には2つのゲートに赴いていただき、周辺に残された人々を随時救出していただきます。

 連動ハントからは、「救助活動記録(横浜)」「救助活動記録(つくば)
 「中継点設置記録(横浜)」「中継点設置記録(つくば)」の4種のアイテムが排出されます。

「救助活動記録(横浜)」「救助活動記録(つくば)」
 → アイテム1つにつき勢力図の人口100人を救出!
   多く集めるほど、各ゲート勢力の弱体化を目論むことができる。
「中継点設置記録(横浜)」「中継点設置記録(つくば)」  → 「中継基地設置」イベントを踏んだ回数分設置される。
   集めると今後有利に! 6/3(金)以降登場確率が上昇中!?


 これらのアイテムは、皆様が一般人の救出活動に尽力した証明となり、
 多数集めることで、今後の【AT】における勢力図地図に大きな影響を与えることになります
 また、それぞれの記録は購買で買い取りを行っているので、撃退士の皆さんの活動の足しにしてください。

 具体的な状況の変化は、5月20日以降、毎週金曜日に更新中!
 ぜひ皆様の手で、関東の天魔勢力図に影響を与えていきましょう!
 ……もちろん、今後のエリュシオン全体の勢力図にも……?

 ※各連動アイテムのカウントは、期間中の排出量にて計算予定です。
  期間中に売却を行った際も、カウントに含みますのでご安心ください。
 ※今回のハントではエネミーからはイベントアイテムまたはハント情報メモをドロップします。



連動アイテムの入手方法

エネミー討伐やイベントマスから「救助活動記録」や「中継点設置記録」を取得可能!
(各ハントシステムのタイトルに沿ったアイテム(横浜・つくば)が出現します)

また、6/3(金)〜新たなイベントマスが追加登場!
横浜つくばのご当地アイテム(?)等も入手できるかも……
ぜひご参加ください!

ハントシステムに参加してみる!


限定ハントリリース期間

  2016年5月13日(金)18:00 〜 6月13日(月)10:00 リリースは終了しました



◆連動ハント最終結果発表◆

 


【AT】以前の状況について





推奨環境:Internet Explorer7, FireFox3.6以上のブラウザ