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マスター:由貴 珪花
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:9名
サポート:0
報酬:通常
リプレイ完成日時:2011/12/6


オープニング


 その日ぼくは、お母さんと一緒に買い物にでかけたんだ。
 春になったら小学生になるから、いまからいろいろ準備しなくちゃいけないんだって。
 いろんなお店に行って、いっぱい歩いたから、とってもつかれたよ。
 それに、お外ではうるさくしたらだめよ、っていつも言われてたから、いい子にしなくちゃいけなかった。
 でも、お母さんと一緒だったから、がんばれたよ。
 お家に帰ったら、きっとほめてくれるよね。

 だいすきなおかあさん。
 どうして、うごかないの?


「悲劇ね‥‥」
 依頼説明を担当する女子学生は一言呟いて、手元のノートパソコンを操作した。

 久遠ヶ原学園。
 端的に言えば、ここは『悲劇』の駆け込み寺――というと聞こえは悪いが、事実、日本中の『悲劇』の報せは大方ここに舞い込むのである。
 現在も人間による犯罪ももちろん変わらず横行している。
 が、それが瑣末と言えてしまうほど、より大きな『悲劇』と隣り合わせなのだ。

 話はそれたが、今度の事件もそんな悲劇のひとつ――。

 黒板に掛けられたスクリーンに、防犯カメラなどの映像が映し出されると彼女は説明を始めた。
「事件が起こったのは昨日の午前。ビル街の中心部にある、南北に伸びる大きな公園通りの上空に蜘蛛の巣が出来たの」
 ただの蜘蛛の巣ならば、どれだけよかったか。
 学園に依頼が入るということは、つまり、そういうことである。

 事件が起きたのは日曜日。
 残暑も落ち着き過ごしやすいこの季節は絶好の外出日和で。
 その日ももちろん、楽しそうに友達とはしゃぐ学生達や、父母に連れられた幼い子供が街を行き交っていた。

「‥‥午前10時ごろ、敵サーバントが捕獲を開始」
 と、彼女は映像をスロー再生に切り替える。
 それは、一瞬。
 上空から縄のような何かが、子供達を縛り、吊り上げたのだ。
 そして、子供と一緒に吊り上げられた大人――恐らく親であろう――は、十数秒後に切り刻まれた姿で地上に落下した。
「敵は子供を選んで吊り上げ、上空にある巣に磔にしたの。けれど、すぐには殺さず――自分好みの『餌』になるのを待っているようね」
 天魔の一部には、特定の嗜好を持つものが確認されている。
 腐った血肉を好むものや、骨だけを食すもの。生かしたまま体が衰弱させ、心が恐怖で満たされるのを待つもの‥‥。
 そういった連中は自分好みに仕上がるよう、自分で仕立て上げるのだ。
「見ての通り、大人は捕食対象にはならないみたい。子供を取り返そうとした大人は即座に攻撃されているわ」
 恐怖に自我が崩壊した子供だけを貪る、グルメで偏食家な化け物――想像した彼女は、眉間に皺を寄せた。悪趣味にもほどがある。
 集まった撃退士達も同じ想像をしたのか、一様に顔色が芳しくない。

 女生徒は映像を切り替え、ビルの屋上から撮影された敵の姿を表示する。
 人間の気も知らずに日陰で昼寝をする風体は、イラつき3割増しだ。
「普通の蜘蛛と同じなら、昼は伏して待ち、夜こそが本領というものかもしれないわね。
 正直――貴方達には荷が重い敵だと思うわ。けど、時間がない。貴方達に任せるしかないの。‥‥さぁ、行ってらっしゃい」

 涙も枯れ果てた目で、叫び続けてしゃがれた喉で、繰り返される『たすけて』。
 映し出された子供達の姿を見て、貴方達は出発を決意した。


現在の参加キャラクター


解説

<現地の報告書>
『昨日未明に市街地の20m上空に現れた巨大な蜘蛛は、XX日午前10時に活動を開始。5歳から14歳の子供5名を上空で拘束、大人3名を殺傷。
 大人3名のうち男女2名が死亡、女性1名は意識不明の重体で機動隊により保護。全員拘束された子供の親と見られる。
 現地市民の通報により、機動隊は直ちに現地へ急行。現場から1km以内に居た市民は、午後1時に避難を完了。
 現在も半径1km程度を封鎖中。機動隊は目標から500m後方にて対象を監視開始。以下にその報告を記載する。

 ・敵は蜘蛛型、体長およそ250cm。全身が真っ赤な甲殻に覆われている。巣は直径20m程度で、子供が磔となっている。
 ・昼間は巣の範囲内の日影になる位置に、夕方は巣の中央に鎮座する。夜間は巣を離れるが行き先は不明。
  日出前には巣に戻ったが、体に何らかの液体が付着していた。
 ・化け物が不在の間、子供達の様子を調査。泣き叫んだり自失状態の子も見受けられたが、声を掛けたところ、
  精神的に多少落ち着いた様子が見られ、隊員に笑顔を向ける子供もいた。
 ・ナイフ等で巣の破壊を試みるが破損なし。衝撃に反応して子供を覆う糸が増加したため、急遽攻撃を中止。
 ・子供達に負傷等は殆ど見られないが、拘束している糸が淡く発光しており、精神に何らかの影響があるとみられる。
 ・収容した女性は手当ては済んだものの、酷く顔色が悪く、高熱が続いており、非常に危険な状態である。
  現在は機動隊で身柄を保護しているが、監視と平行した作業のため人員が不足し、治療は難しい。

 以上のことから、目標を撃退し子供らの救助を行うためにはアウルの力が必要と判断。
 本日早朝、久遠ヶ原学園に至急応援を要請するものである』


<敵使用スキル>
 ★粘糸:対象1人を3ターン拘束し身動きを取れなくします。柔らかいが粘着質で纏わりつく。可燃性。
 ★毒刺:対象1人を5ターン毒化する。dmgはMHPの3%/1ターン。

<支給物資>
 ◆解毒薬1個:天魔の毒を消す事の出来る薬です。

<その他>
・子供たちは蜘蛛の糸により精神を蝕まれ、放置状態では拘束開始から45時間ほどで自我が崩壊します。
・現地到着は午後6時。現場より少し離れた地点から行動開始。日没は午後7時、日出は午前5時半です。
・巣の近辺の半径1km以内の都市部、または5km先に広がる草原のどちらかを戦場に使用できます。
・現地機動隊は要請があれば協力に応じます。ただし、直接戦闘への参加や、機動隊員のみで敵に遭遇する状況は避けてください。
 機動隊の人数はおよそ40名程度です。
・ちなみに、蜘蛛を倒したら巣が消えて子供が落ちる・・・なんて事はありませんのでご安心ください。

・リプレイは、夕方・夜間・朝・昼といった感じで描写しますので、似た形式のプレイングだと、より忠実になるかも。

●マスターより

ロリショタ趣味の蜘蛛とか未来に生きてんな!!――こんにちわ、由貴です。
これが最初の挨拶なあたり自分もどうかと思いますが!

今回は敵の退治と、リミット付の人命救助が目的ですね。
いきなりハードな内容かもしれませんが、よく相談してめば大丈夫なはず。
説明嬢が言う通り、初心者撃退士が真っ向勝負挑むには分の悪い相手ですが、腕の頼りなさは頭でカバーですぞ。

上空で昼寝する暢気な蜘蛛と、絶望の中で助けを求める子供。
けれどピンチの子供は、いつだってヒーローの力強く優しい言葉で奮い立つものです。
貴方は子供達のヒーローになれるでしょうか。

それでは、ヒーロー志望の方も、美少女戦士☆志望の方も、ご一緒にお楽しみいただければ幸いです。


プレイング

撃退士・高宮 和人(ja0020)
阿修羅
基本方針は全体に従う
事前行動では現場確認へ
その場の状況に従って行動していく
救助が必要な場合は慎重に行動しつつ迅速に行う
戦闘時は前衛にて接近戦
なるべく蜘蛛の側面もしくは後方を付き攻撃を行う
毒液や糸が飛んできそうになったら素早く退避し素早く次の行動へ

セリフ
「さてと、じゃあ頑張りましょうかー」
「あらあら。コレはまた大変なことになってますね」
「さて、どうします?」
「了解しました。じゃあそうしましょうか」
「じゃ、ぶん殴りに行くか!」
「せいやぁ!」
「回避!からのー反撃ぃ!」
「任務完了。やったね!」

称号希望

撃退士・博士・美月(ja0044)
ダアト
▼目的
対象の追跡による生態情報入手及び殲滅

▼現場行動(夕〜夜)
【追跡】 対象を追跡し生態調査
【現場確認】 状況確認と子供達への配慮

自身は【追跡】。
重要なのは「どこで」「何を」しているか。

「どこで」は現場確認。
「何を」は携帯のズームを使い最大限に確認。
それらを記載し画像を添付して【現場確認】へメール連絡。


▼戦闘(夜〜)
【現場確認】班の合流後に戦闘準備。
個々の射程・移動距離のギリギリで包囲。
前衛の方と私とは対象を挟んで対角に。

対象が一息付いた所を私が魔法攻撃で牽制。
注意を引いた所をすかさず前衛で総掛り。
後衛は以下で分担サポート。


○弾幕 撃ちまくって対象の気を散らす
○要所狙い 機を見定め的確なダメージを


自身は要所狙い。
他者の攻撃がクリーンヒットした際に追撃のヘッドショットを狙う。
背後を取れた際は脚部への集中砲火を。

仲間が糸を受けた際は状況判断でライターでの救出を試行。
余裕が無ければ攻撃を優先。

撃退士・相楽 空斗(ja0104)
インフィルトレイター
★道具
・ライター

★事前行動
【現場確認班】として行動
子供達の心のケアを最優先する

同時進行で巣の処理を
・糸の可燃性(ライターで点火、機動隊に消火の手配)
・アウルの力による物理・魔術両属性での切断の試行
連絡到着前に救出可能そうならば蜘蛛討伐前に救出を試みる、
連絡到着時燃焼可ならば機動隊に任せる
共に不可或いは糸の増量が見られる場合は討伐後に再試行

追跡班より召集の連絡が届き次第合流

★戦闘準備
包囲の陣を立てる
液体・「何か」がこちらに不利ならば迅速に奇襲を開始
以外ならば「何か」を終えた時に奇襲を開始
奇襲は博士君による射撃攻撃から、追って反対方向の前衛の波状攻撃
俺はその中間位置に陣取る

★戦術
後衛、【弾幕班】として行動
蜘蛛の敵対心を煽るために激しく動きながら物理射撃攻撃
余裕があれば弱点と思しき頭等を狙撃する

体力の余裕がない場合は距離を広く取る

★戦闘後
急いで帰還、機動隊に連絡を取りつつ子供・女性の容体を確認

撃退士・仙道・龍馬(ja0153)
ルインズブレイド
薬については女性にこれを使ったかどうかを確認して、使っていなければ女性に提供を要請。
使っている、或いはこれがなくても助かると確定している場合のみ預かっていく。
自分が預かるなら、戦闘で毒をうけた女性に使用。

まずは事前行動として偵察だな。
とりあえず仲間を確認っと、硬くなってる奴はいねえかな?
(いたら)
「抜き足、差し足…ってこれじゃ偵察になんねえYO!」
現場に出たら慎重に状況を見る。
蜘蛛がいても様子を伺い、うかつには仕掛けずに慎重に。

戦闘場所は草原を選択。

「よっしゃいくぜえ!るああああああ!」
声をあげて大剣を振り回し、遠心力で勢いをつけるように攻撃。
仲間に当たらないように間合いと距離には気をつける。

自分に糸が巻き付いたら、「ぬおおお!」と奇声を上げて転がって仲間の邪魔をしないように退避。
オイルライターで火傷覚悟で糸を燃やし、草に紛れて背後をとり機を見て突撃。

子供には「助ける、負けんな」と声をかけ

撃退士・谷屋 逸治(ja0330)
インフィルトレイター
初任務、か…失敗がないように気合を入れなければな。

心情
親を殺し、精神を蝕み尽くしてから、命を奪う天魔か…
ここで負ければ、子供たちが犠牲になる。それだけは避けなくてはな…

目的
天魔討伐と子供たちの救出

行動
事前行動
【追跡班】参加 心情 夜中にやっている行動、気になるな…
追跡班の仲間達と共に、天魔を追跡し、何処で何をしているかを確認する
追跡時は天魔に悟られないように、細心の注意を払って行動する

戦闘時
【後衛】【弾幕】として行動する
戦闘中は仲間に注意しながら、支援射撃を行う。

射撃時
相手との間合いを保ちながら攻撃する。
この時ただ闇雲に乱射するのではなく、2〜3発撃つごとに、狙いを修正しながら撃つ。

相手が大きな隙を見せるようなら、頭部や装甲の隙間などを狙っていく。
「その隙…貰った。」

戦闘時の注意
攻撃時は一箇所にとどまるのではなく、前衛の仲間達が射線上に来ないように気をつけながら、絶えず移動する。

撃退士・郷田 英雄(ja0378)
阿修羅
右腰の白鞘を逆手に抜きながら
「さて、十万億土を踏んでもらうかね」
掌で半回転させ、順手にする

-行動
現地調査組
・戦闘中
左側に回られたり、月明かりが無くなり暗闇になった場合左目を使用
「甘ェ、見えてるんだよ!」
・戦闘後
残っていれば学園から支給された解毒剤を女性に使用
「何だ、よかったら使ってくれ」

煙草吹かしながら
「まァ、ひとまずは一件落着、と言ったところかね」
だが、天魔と撃退士の戦いは始まったばかりだがね。と紫煙を吹きながら双方の行方を思案する

-戦闘
・基本
側面に回り込み足の関節部等の脆い所を攻撃。機動力を削ぐ
粘糸はライターで対処
・白鞘
大振りに使い威力の増加を狙う
視界を永続的に防ぐ為
→マントを敵の目に投げ被せ視界を防ぎ、白鞘を釘で刺す様に突き刺し顔に繋ぎ留める
「お前ら、どけッ! 眼を封じる!」

・ナイフ
口に銜えすぐ使える様に
やる事は一緒

-その他
称号希望
アドリブ/台詞作成歓迎
矛盾点他プレ優先
経歴は自己紹介参照

撃退士・
佐倉 哲平(ja0650)

ルインズブレイド
●事前準備
都市と草原を含めた地図を用意。
複数あればモアベター。

●夕方
一同に同行しつつ、地図から戦闘に適した場所を確認。
敵の機動力を重視、開けた場所を中心に選択。
複数の地図で共有出来るようナンバリング。
地図は追跡班と現場確認班で分けて持つ。

●夜間
追跡班。
移動中でピックアップした戦闘想定地点の付近を通る事があれば、実際の状況を見ておく。
また、蜘蛛の移動ルートや移動速度から、戻りの時間を逆算して予測してみる。

スマホで現場確認班と連絡。音を立てられない場合はメール機能併用。
定期的に状況を知らせ合い、お互いの進捗を確認。


●草原戦
一同合流後。
戻りの草原で包囲攻撃に参加。
前衛として戦闘するが、有利な場所で戦えない場合は応戦しつつ誘導も行う。
毒は致命的なものではないと見てギリギリまで無視。
敵の後背を突けた場合は腹部を狙う。
腹部にある、糸を出す器官を潰して封じる目的。

他参加者とプレに齟齬がある場合他者優先。

撃退士・猫矢 御井子(ja2522)
インフィルトレイター
現場確認
女性の容態を聞く。蜘蛛の毒に侵されているか確認。
すぐに解毒薬が必要なら使用する。
偵察班から1時間に1回連絡を受け取る。
5人分の酸素ボンベ。はしご車。消火器。エアークッションを機動隊に準備してもらう。
巣の真下にクッションを敷いて、はしご車に乗って近づき子供に酸素ボンベを取り付け酸素が通るようにしてアウルの力で糸を攻撃。
アウルの力でも無理なら、ライターで糸を焼く。慎重に且つ、消火器を使い安全に進める。
要所狙い
液体の正体が毒などの場合、粉が詰まった袋を2〜3個を機動隊に準備してもらう。
粉なら何でも。量は飛び散ったときメンバーを邪魔しない程度。
粉袋を投げ、銃で撃ち蜘蛛を粉まみれにして液体を無効化。
動き回りつつ足を狙い撃つ。
糸に絡まれた場合、ライターで助けるように動く。
蜘蛛が移動できなくなるほど足を負傷したなら、離れるよう促し粉袋とライターを使って粉塵爆発を起こし焼死を狙う。

撃退士・御手洗 紘人(ja2549)
ダアト
●心情
「子供たちを助ける。この依頼は絶対成功させる」

●目的
子供たちを助ける事、そのためには一緒に行く仲間たちと協力して依頼を成功に近づける
また、蜘蛛の撃退にも全面的に協力する。

●準備
粘糸に備えてオイルライターを所持。仲間が粘糸で動けなくなった場合、オイルライターで糸を焼いて助ける
作戦があれば事前に打ち合わせ、それに協力する

●行動
到着時〜夜
・現場確認班として事件現場を確認しにいく
・現場にて、蜘蛛の状況等を詳しく確認する。
・重体の女性が天魔による毒であるとわかった場合、追跡班にも連絡
・子供の救出がアウルを使う、若しくは火を使うことによって容易であれば子供の救出を行う
・機動隊に、はしご車を用意してもらい子供の近くに行き、救出作業を行う。この時子供に安心するように声をかける
・追跡班からの定期連絡が無い場合は追跡班に危険が迫ってると判断し、救援に向かう。



リプレイ本文

●夕刻
 桔梗色の空に薄い雲がゆるゆると流れる。
 ぐるりを囲んだ商業ビル、そして通りに沿って建設された公園。
 月曜の夕暮れ時――。
 普段は定時帰りの会社員と遊び盛りの若者で賑わう街は、人だけが掻き消えた様に静まり返っていた。


「遠路ようこそ、撃退士殿」
 到着した一行は手分けして情報収集‥‥と、明確に決めていた訳ではないが、自然と各々が各所へと足を向けた。
 機動隊の現場司令室に訪れたのは猫矢 御井子(ja2522)。

 隊長の話も上の空に、御井子は室内に設置されたモニターに映る子供達の様子を見ていた。
 子供達は既に泣き叫ぶ体力もないのか、或いは叫んでも無駄と知ったのか。一様に無表情で俯いている。
 絶対に、助ける――。
 モニターから視線を離し、隊長の言葉を遮って話を切り出した。
「準備して欲しい物がいっぱいあるにゃ!」


 一方、現場に程近い機動隊の監視拠点。
 蜘蛛サーバントの生態に興味津々の博士・美月(ja0044)は熱心にモニターを覗き込んでいる。
「うーん‥‥やはり一般的な造網性の蜘蛛の巣となんら変わらないですね――規格外なサイズ以外」
 一般的な蜘蛛の生態は知っているが、サーバントとなれば話は別。
 人知を超えた生物に、人知はどこまで通用するのか?
 非常識な敵に渡り合う為には、きっと知識が武器になる。
 だからもっと、知識を。
「――もっと鮮明な映像が欲しいですね。‥‥もう、寝てないで腹部の器官とか見せなさいよね」
 撃退士として。科学者の卵として。


 佐倉 哲平(ja0650)は、地図を片手に街を歩き回っていた。
 戦場の選択は戦略上無視できない重要な項目であり、戦場そのものが勝因になる事も少なくない。
「蜘蛛の機動力は無視できん‥。‥なるべく敵の有利を潰して戦いたい」
 とすると――やはり、こっちか。
 地図につけた赤い円に視線を落とし、一つ頷くと哲平は再び歩き出した。




●夜半
 陽が落ちる。夜が満ちる。どろりと濃い夜の気配が辺り取り巻き、金糸雀の月は高く掲げられた。
 ――午後11時。


 隅々まで見回る様に、確認する様に。
 市街を大きく蛇行して走り回る蜘蛛を追って、走る事凡そ1時間。
 蜘蛛の足取りは軽く、速い。都市部を抜ける頃には流石の撃退士も息が上がっていた。

「‥はっ、‥‥はぁ、やっと、止まった、な‥‥! 予想以上、に、速かったぜ」
 仙道・龍馬(ja0153)は息を切らして、正面遠方に佇む蜘蛛を睨む。
 広く拓いた草原で足を止めた異形の赤い甲殻は、月の光を受けて寛ぐ様に大きく身を伸ばしている。
 暢気なものだ。
「まるで月光浴、ですね」
 そう呟きながら美月は消音細工を施した携帯を取り出し、蜘蛛を撮影し始めた。
 かなり距離があるが、最大ズームにすれば挙動は観察できるだろう。
 可能な限り鮮明に写真を取り、メールに添えた。これで別行動班にも情報が共有できる。

 哲平は月明かりを頼りに、現在地の把握に努めていた。
「随分振り回されたな‥‥くそ、よく見えない」
 晩秋の立待月に一面のススキ野。
 それなりに明るいが、地図は月光を白く照り返し、また影を作ると何も見えず。
 下見のお陰で大体の見当はつくものの、それがなければと思うと恐ろしい。
 谷屋 逸治(ja0330)も、目を顰める哲平の様子に内心苦虫を噛み潰した。
 夜間行動で灯りを忘れるなど、なんと迂闊だったか。
「大体だが‥博士、位置の報告も頼む‥」


「皆、心配するな。今助けるぞ!」
『プリティ・チェリーが助けに来たよー☆ もうちょっとだけ頑張ってねー!』
 深夜のビル街に木霊した、相楽 空斗(ja0104)と御手洗紘人(ja2549)の声。
 空斗と紘人は同じ梯子車に乗り、一人ずつ順番に子供達の頭を撫で――微笑む。
「おにいちゃん、たち、だれ‥? ぼくたち、たす、かるの?」
 掠れて弱々しい声で、十分に開かない目で、それでも懸命に助けを願う少年達。
 少年達にとって、最後の頼みの綱は紛れもなく自分達。
「任せろ、俺は英雄ACT――君達の様な子供を護るのが、俺の使命だ!」
『悪ーい怪物もチェリー達がぱっぱーっとやっつけちゃうんだから☆』
 助けるんだ、自分達で。

 一方、巣の破壊を担当する梯子車は難航していた。
 御井子の提案通り、アウルとライターで試行するが――。
(糸が、再生しやがる)
 郷田 英雄(ja0378)の心の中に、じわりと不安が広がる。
 切れない訳じゃない。焼けない訳でもない。しかし、即座に再生してはキリがない。

「‥さて、どうします?」
 温和な声で、高宮 和人(ja0020)が呟いた。
「まァ、どうもこうもねェっつうか‥」
「皆を助けるには、蜘蛛を倒さないとダメみたいにゃ。‥‥ごめんなのにゃ、もう少しだけ、頑張って欲しいのにゃ」
 無茶をすれば、子供達が更に糸に飲み込まれる。それでは何の意味もない。
 逸る気持ちをぐっと飲み込んで、御井子は優しく子供達の頭を撫でた。


●未明
 都市部に響く、何度目かの着信音。
 和人は手早く携帯を取り出し、報告メールに目を滑らせた。
「――敵が動いたよ」

 走る緊張感。
『‥‥チェリー達の出番って事だね☆』
 先程までの笑顔が。
「‥‥悪い怪物、やっつけにいくの? ――ダメだよ、お兄ちゃん達、死んじゃうよ」
 凛々しく、真剣な顔になっていく。
「心配なんていらねェさ。俺達ァその為に来たんだからよ」
 そうだ、自分達は無敵のヒーローなのだから。
「ああ。案ずるな、俺達は決して負けたりしない。君達と俺の間に繋いだ勇気の絆、それが俺の最強の武器になる!」

 子供達の瞳に――小さな光が灯った。


●暁闇
 月は姿は彼方地平に、陽の気配は此方地平に。
 薄ぼんやりと白んだススキ野に包まれ、何かが吼える。

「何ですか、あれ――」
 紘人は、信じ難い光景に息を呑んだ。
 異形同士の戦い。理由は不明。けれど禍々しく凄惨なそれを見れば誰もが判る、殺しあっているのだと。
「わからん。だが、あれが謎の液体の正体なら‥」
「あァ、毒か血のどっちかだ。――面白ェ、乗るか反るかの大博打だ」
 哲平の言葉に、英雄が続いた。
 これ以上は確認しようがない。それに、毒だろうが血だろうが、全力を以って屠る他ないのだ。
 戦いは拮抗している。であれば、決着がつく頃には消耗してるに違いない。
 食い入るように様子を伺っていた美月は、大きく息を吐く。
「では、あの戦いの後、仕掛けます――皆さん、準備を」


 凡そ10分後。
 ずるりと片方が崩れ落ち、対峙した2つの異形の塊は互いに動きを止めた。
 様子を見ながら動き出した蜘蛛は、脚を高く持ち上げ、異形の塊に振り下ろした。

 静寂。
 ややあって、風が吹いた。ざあ、と薙いだススキに全ての音が飲み込まれた。
 背後をとった――今だ!
 ヒヒイロカネが呼応する。歯車状の淡い光が美月を取り巻き、スクロールに光が流れた。
 傍らに待機していた空斗が、美月に半歩遅れて走り出す。
 初陣が、始まる。


 ピストルの轟音と魔法の爆裂音を合図に、全員が動き出した。
「せいやぁ!」
 気合一閃。和人はナックルダスターを叩き込み、逸治は援護する様にリボルバーを打ち鳴らす。
 動揺した蜘蛛は、乱暴に脚を振り薙いだが、美月は寸での所で後方へ転がり避けた。
「‥っの、お返しよ!」
 起き上がる勢いをそのままに蜘蛛の頭に魔法を叩きつけ、それに紘人が異形の屍の影から合わせる。
「まさか遮蔽物を作ってくれるなんてね」
 咆哮。死角から放たれた魔法は甲殻に微かなヒビを作り、蜘蛛は再び手脚を大きく振り回す。
 その暴れ回る脚に阻まれ、空斗と御井子の銃弾は空へ掻き消えた。
 次いで哲平が、龍馬が、和人が。次々と波状攻撃を仕掛けるが。
「硬ってぇ! 洒落んなんねーぜ!」
 痺れた手を振り、龍馬はツーハンデッドソードを握り直した。
 刃が通らない。否、甲殻の硬さだけじゃなく暴れる脚が刃の勢いを殺いでしまう。ならば。
「お前ら、どけッ! 眼を封じる!」
 振り回すだけの脚でも、目が見えなければ少しは木偶になるのでは。
 自身の左半身を隠すマントを掴み、剥ぎ取った。こいつを蜘蛛の頭へ被せる――。
「―がッ‥は‥‥」
 しかし、一手早く伸びた脚にマントごと振り払われ、大きく後方に弾き飛ばされた。
 ブラインドの為のマントで、自分が逆に斬られるとは不覚―。
「大丈夫か! 無理せず体勢を立て直すんだ!」
 吹き飛んだ英雄と入れ替わり、空斗が銃弾を放つ。如何に硬い甲殻だろうと、一度砕けた一点は脆い。
 背中のヒビ割れた甲殻を目掛けて2発。振り下ろされた脚をかわし、更に1発。
「続くぞ‥‥」
 心を鎮めて。流動的な戦いの渦中で、神経を研ぎ澄ませ。
 逸治が連射で気を引き隙を作れば、御井子が背中に狙いを定めて火花を散らす。
 再び咆哮、もがき、猛る。蜘蛛の八つ眼がぎらりと紅く光り、反撃とばかりに御井子に飛び掛った。
「なっ、跳ね――!?」
 哲平は咄嗟に走りだす。間に合え、間に合え、間に合え。
「にゃあああっ!!」
 だが巨体は予想以上の速さで御井子の目前へ降り立ち、小さな体は宙を舞った。
 着地した蜘蛛が体躯を反転させようと左へ振り向いた先には、和人の拳――。
「こっの、――ぶん殴る!」
 既に眼前数十cmと迫った拳に防御の余地はない。重い衝突音と共に、蜘蛛がゆらりと揺れた。
 今が好機と、美月と英雄が矢継ぎ早に攻め立てる。爆発、そして斬撃。
 威嚇射撃の中に急所狙撃を織り交ぜ、逸治が更に蜘蛛を追い詰める。
「その隙‥‥貰った」
 押し切れる――。全員がそう思った、矢先。

『グゥオァアァァアアッッ!!』


●昇日
 陽が昇る――。
 今迄の悲鳴の様な鳴き声とは違う、腹の底から響く様な号哭。
 全身が総毛立つ。
 何かのタガが外れた様な、何か恐ろしい物を引きずり出した様な。

 武器を握り直し、一つきをする間の刹那。純白の帯が御井子に絡みつき、体を包む。
「わ、わわ、動けない‥‥にゃッ!」
 粘糸――!
 オイルライターを手に、美月が逸早く駆け出した。
 そして紘人と空斗が弾幕を展開して蜘蛛の意識を逸らし、和人は再び拳を背中に叩きつける。‥‥が。
「糸が傷口を補強してます!」
「あァ、脚の関節だ! そこなら脆い!」
 英雄が正に斬りかからんとする蜘蛛の脚は、粘糸の処理を始めた美月に向けて鎌首を擡げた。
 自分が逃げれば御井子が危ない。そもそも立ち上がって逃げる猶予もない。
「い、やあああっ!!」
 フラッシュバック。長い、髪。白い。赤い。紅い。赫い。ワンピース。
「ぐ、ァ‥‥!」
「郷田、さん‥!?」
 気づけば攻撃も忘れ、美月と御井子を庇っていた。
 背中に血が伝う感触がする。心臓の音がやけにうるさい。
 あぁ。ったく、柄でもねェ。
「ば‥‥気ィ、つけ、ろ‥‥次は、知らねェ、からな――」
 ぐらり、崩れる体。英雄の背には、右肩から肩甲骨に掛けて大きな裂傷が刻まれていた。
 戦いは、英雄の戦線離脱で大きく揺るぎ始める。

「いい加減っ! 沈んで下さいっ!」
 紘人が側面に3つ、4つと魔法弾を連射し動きを牽制をすると、それに応える哲平の大剣。
「始めから敵は格上‥だが、無理を通して道理を押しのけ、俺達が勝つ‥!」
 遠心力を乗せたツーハンデッドソードは蜘蛛の横腹にめり込み、逆側面からは空斗が零距離射撃で畳み掛ける。
「子供達の未来は、俺が守り抜く!」
 ゴーグルの奥の瞳に決意を燃やし、和人の殴打に合わせて脚の関節を狙い撃つ。アウトレンジから逸治が続く。
 猛烈な連鎖に、がくんと蜘蛛が体勢を崩したが、すぐさま立て直して空斗を振り払った。鬱陶しい、と言う様に。
「どーやら、関節は効くようだぜぇ?」
 漸く見えた弱点に、龍馬は口角を吊り上げ意気揚々と駆け出す。ススキ野を掻き分け、荒々しく。
 粘糸から開放された御井子も、眼鏡をかけ直し素早くピストルを構え照準を定めた。
「博士さんありがとにゃ。御井子達も加勢するにゃ!」
 低く構えた剣を背後を通して振り上げ、力の限り振り下ろす――!
「るあぁぁあ!」
 完全に、食い込んだ。

 耳を劈く悲鳴。暴れまわる脚。八つの眼から毒々しさが消えていく。
『ギッ‥‥ギギギ‥ィィ――ガァァッ!』
 途端、蜘蛛が全力で走り出した。包囲網の中で唯一、英雄が抜けて欠けた一点を抜けて。
 包囲とは諸刃――破けた袋に水は詰められない。
「あ、っちょ、逃げるんじゃない!」
 美月と御井子が背後から狙撃するが、蜘蛛の動きは止まらない。
 赤い巨体を追いかけ空斗が脚を狙うが、生い茂るススキに阻まれ狙いが定まらなかった。
 全員が走り出そうとしたその時。
「待て。――瀕死の仲間を置いていく訳にもいかんだろう」
 逸治が英雄を見やる。
 放置する事も連れて行く事もできない。まして、人手を分けて追跡したとして倒せる相手とは思えない。
「‥そうだな。まぁ、昼は睡眠時間のようだし‥一先ず手当てを先にするか‥」
「それよりも、かなり時間が経ってしまいました。子供達が心配です――」

 気づけば太陽は地を離れ、ススキ野を暖かく照らしていた。

●白昼
 再び、都市部。
「今度は全然再生しないにゃ!」
「ふむ‥再生力は蜘蛛本体とリンクしてるのかしら」
 切り裂かれた糸を美月は興味深そうに眺めた。既に精神への影響もないようだ。
 2日ぶりに開放された子供達は瞳は輝かせ、各々喜びに浸っている。
「よく頑張ったな。‥強かったぞ」
「うん‥助けてくれるって信じてたから!」
 満面の笑みに、空斗の目に熱い物が込み上げる。
 ああ、自分達はこの子のヒーローたり得たのだ――。


●後日
 結局、その後蜘蛛が現れる事はなく、学園の指示で帰投した。
 事件は、有耶無耶ながらに『解決』とされたのだ。

 高等部校舎。
「推測だけど、蜘蛛は恐らく縄張り争いをしてたと思われる、だそうよ」
 美月は学園側に説明を求めた。説明を聞いても、すっきりはしなかったのだけど。
「‥つまり、どういう事だ‥?」
 哲平は首を傾げる。
「私達との戦いで『この縄張りは危険だ』と思って、近寄らなくなったんじゃないか、って事ね」
 少し間をおいて、空斗が続く。
「あの女性はどうなったんだい?」
「――まだ意識が戻らないみたい。命は助かったけど、回復に向かう体力がないって‥‥」
 遅かったのか――。生きているとはいえ、余りにも残酷な結末。

 紘人と御井子、そして逸治は鎮痛な面持ちで空を仰いだ。
 思い知る。自分たちは未熟なヒーローなのだと。
「もっと。もっと強くならないといけないにゃ‥」
 短い沈黙。
「でも、誰一人亡くならなかった」
「‥ああ」
 そうやって、納得していくしかないのだ。

「さて、あたしは他の校舎にも行ってきますね。それじゃ、また――」
 苦味の残る初陣といえど、それも一つの経験。
 自分達に後悔する暇などないのだ。
 今日も誰かが助けを求める依頼は溢れているのだから。


依頼相談掲示板

作戦会議板
高宮 和人(ja0020)|中等部2年1組|男|阿修
最終発言日時:2011年11月24日 19:19
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2011年11月18日 00:17








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