「奴ら」がこの地球に出現し、既に30年近い歳月が過ぎた。
その間にどれほどの人間が犠牲になったか?
正確な数は分からない。数えることさえ虚しくなってくるほどだ。
「奴ら」が果たして何者なのか、自ら名乗っているように我々が知る天使や悪魔と関係があるのか、そんなことは最早どうでも良い。
はっきりしているのは「奴ら」――天魔がこの地球に死と災厄をもたらす侵略者であり、我々人類とは共存不可能な「敵」であるという事実。
最初のうちはただ狩られるだけだった人類も、天魔の暴虐と蹂躙に耐える一方で徐々に力を蓄えてきた。
アウル行使者――撃退士の出現。V兵器の開発。
京都では大天使による七星六門陣の開門を阻止し、さらには上位天魔をも滅ぼす力を秘めた神器、神槍アドヴェンティすらこの手に収めたのだ。
もはや人類は「餌」でも「家畜」でもない。
逆に虎狼となって奴ら天魔を食いちぎり、この惑星から1匹残らず追放する日も遠くないだろう。
だがその前に、駆除する敵がすぐ目の前に存在する。
侵略者の同類でありながら、何食わぬ顔で学園に入り込み、我々の「隣人」を装った天魔ども。
「堕天」「はぐれ悪魔」――呼び名を変えたところで、連中が天魔である事実に変わりはない。
奴らは人間の魂や感情エネルギーを摂取しないことを誓ったという。
では学園に来る以前はどうだ? 地球に来てからただ1人の人間も殺していない天魔がいるなどと無邪気に信じる愚か者がいるだろうか?
我々が天魔の技術を手に入れるため、やむを得ず連中を受け入れる必要があったことは否定しない。
だが時は過ぎ、状況は変わった。
本格的な反撃の狼煙を上げようという今、全ての偽善と建前は打破されねばならぬ。
あえてもう一度言おう。
「天魔」は我々人類にとって滅ぼすべき「敵」だ。
「敵」はすべからく排除し、駆逐し、絶滅させねばならない。
――まずはこの久遠ヶ原学園から。
●久遠ヶ原学園〜斡旋所
「‥‥何だ、こりゃ?」
斡旋所に呼び集められた撃退士たちの1人が、「参考資料」として配られた書類から顔を上げた。
「最近、学生寮やクラブ室のポストに投げ込まれてるチラシのコピーや。これ以外にも何種類かあるけど、内容はどれも同じ‥‥要するにいま学園に庇護されてる堕天やはぐれ悪魔を1人残らず追い出せっちゅうアジテーションやな」
今回の依頼を担当する生徒会ヒラ委員で斡旋所スタッフの伊勢崎那由香(jz0052)が、浮かない顔で説明した。
「冗談じゃないわよ! 彼らだって私たちと同じ学園生徒で撃退士じゃない!?」
1人の女子生徒が、憤然としてチラシを机に叩きつける。
「もちろん見つけ次第生徒会が回収して処分しとるけど‥‥学園内の色んな場所に何千枚もバラまかれて、とても全部は回収しきれんわ」
「いったい誰が配ってるんだ?」
「学園生徒‥‥たぶん高レベルの潜伏スキルを持った撃退士やな。ある寮では管理人が寝ずの番で見張っとったけど、それでもいつの間にか全室のポストに投函されてたそうやから」
「同じ学園生徒が‥‥か」
撃退士たちの反応は様々だ。
むろん大半の生徒はチラシの内容に怒りと嫌悪を露わにしている。
だが中には、複雑な表情でチラシを読み返している者も数名見かけられた。
おそらく家族や親しい人間を天魔に殺され、その復讐のため撃退士を志した者たち。
彼らとて堕天やはぐれ悪魔も同じ学園生徒であり、撃退士として共に戦う「仲間」であることは承知している――理屈では。
だが本心では元天魔である学園生徒や教師を嫌悪し、積極的な付き合いを避けている者たちがいることもまた事実。
一方、同じ依頼に参加するため同席する堕天やはぐれ悪魔の生徒たちも、一様に苦い表情でチラシを凝視していた。
「犯人は分かってるの? チラシの枚数や撒かれた範囲を考えると、とても1人や2人の仕業とは思えないけど」
「見当はついとる‥‥というか、チラシの中には堂々と組織の名を謳ってるのもあるねん」
「ネメシス」――それが組織の名。
学園からの天魔追放を叫ぶ過激派生徒により結成された秘密結社。
正確な人数は不明だが、組織の指導者は「テンペスト」を名乗る学園生徒と、彼を補佐する3人の幹部生徒。
いずれも撃退士としては生徒会親衛隊に匹敵する実力の持ち主らしい。
「チラシだけやない。このところ、堕天やはぐれ悪魔の生徒が学園内で何者かに闇討ちされる事件が相次いでて‥‥幸い大事には至っとらんけど、その度に『ネメシス』から生徒会に犯行声明が送られとる」
「何よそれ? 完全にテロリスト集団じゃない! 生徒会は何も手を打ってないの?」
「とりあえず組織の実態を探るため、うちのクラスメイトで阿修羅の綿谷つばさ(jz0022) ちゃんに潜入調査を依頼してたんやけどなぁ‥‥」
表向き生徒会とは無関係のつばさはそのフリーな立場を利用して「ネメシス」のシンパと接触、言葉巧みに親しくなり、ついに組織のメンバーとして内部に潜入することに成功した。
だが数日前から彼女からの「定時報告」がぱったり途絶えてしまったのだという。
そこまで話を聞いて、生徒たちもようやく今回の依頼目的に見当がついてきた。
「つばさちゃんからの最後の報告によれば、『ネメシス』のアジトは久遠ヶ原島内の裏路地にある廃ビルとのことや」
「裏路地か‥‥厄介な場所だな」
生徒の1人が、憮然とした面持ちで呟いた。
巨大学園都市として知られる久遠ヶ原島だが、その市街地には俗に「裏路地」と呼ばれる一角がある。
島内の人口と商業施設が急速に拡大する過程で、本土から逃げ込んだ犯罪者や違法組織が寄り集まって形成された暗黒街。
学園の生徒会、撃退庁や警察でさえおいそれとは手出しできない危険地帯だ。
逆にいえば、天魔生徒排斥を叫ぶ過激派組織が根城とするにはこれほど相応しい場所はあるまい。
「チラシ配り程度で犯罪者にはできん。学園内の暴行事件も犯行声明以外はっきりした物証はあらへん。けど、つばさちゃんの身柄が拘束、監禁されたとなれば話は別や」
綿谷つばさ救出のため、今夜「ネメシス」アジトのビルを強襲する――それが依頼の趣旨だった。
「つばさちゃんを助け出し、可能ならテンペストを含む幹部4人を拘束して欲しい。ただな、この件が大事になれば、学園内の人間と天魔の生徒の間に争いの種をまくことになりかねん。それこそ『ネメシス』の思うツボや。双方になるべく犠牲を出さずに、なおかつ依頼目的を果たす――正直難しいお願いやけど、何とかみんなで知恵を出し合って成功させてや!」
※このシナリオはエリュシオンTRPGリプレイ『恋と冒険の殺戮力学』に同梱されている
アンケート葉書をお送りになった方限定の特別シナリオです。
アンケート葉書をお送りいただければ、1キャラクター無料でシナリオに参加可能です。
シナリオ相談期間・報酬などはおって発表する特別形式のシナリオとなりますが、
WTRPGの楽しさをしっかりと味わえるシナリオを提供してまいりますので、ぜひご期待ください。
TRPGリプレイに関しては 特設サイト からご閲覧ください。
参加希望キャラクター数に応じてOP・解説は変更となる可能性があります。
該当シナリオに参加を希望される方は7月末日消印有効 にてアンケート葉書をお送りください。
最終締切である10月4日消印まで、定期的に参加できるシナリオを公開予定です。
相談及びプレイング関しては教室に公開された『ネメシスの夜』からお願いします。