●日常への帰還 「やぁ、月摘君。奇遇だね」 「これは学園長どの。喫煙所にいらっしゃるとは珍しい」 ようやくセミの鳴き声も落ち着き、肌を刺すような日差しも雲間に隠れ始めたそんな時節、教師・月摘 紫蝶(jz0043)はばったりと学園長と顔を合わせていた。 「私も校則を守らねばならないからね」 と宝井正博(jz0036)は笑いながら葉巻に火をつける。 遠くからは新入生を迎えてにわかに活気付いた生徒たちの声が聞こえてきている。 初秋。 例年であれば、部活勧誘と称した恒例行事で新入生をひと通りもみくちゃにしつつ、在校生らは迫る進級試験という言葉に戦々恐々としたり問題用紙を失敬すべく血の同盟を組んだり、ヒリュウの視界共有でカンニングするためスキル強化に励んだり、いっそ学園を焦土と化し問題用紙を闇に葬ろうと妄想したり――おっと、私見が過ぎたようだ。 ともあれ、多分一年で一番学生らしい時間が流れている季節だ、と、紫蝶は思っている。今はそんな時節な筈なのだ。 「大きな戦いだったね」 学園長はじんわりと燻るその薫りを吸い込み、たっぷり時間をかけて吐き出すと、おもむろに呟いた。 余計な事は言わずとも、その言葉が指すものはただひとつだった。 三峯ゲート破壊作戦――。 突発的に起こった不可解な事象。 何らかの思惑を感じさせるものの、その殆ど全てが未だ謎に包まれたままの、それ。 「私は戦えない人間だから、戦場へ向かう生徒達を見送る事しか出来ないのが歯がゆくてね」 「‥‥それは、しかし。学園長どのには学園長どのの役割が」 「そう、そこなのだよ。私の役割はなんだろうか、と改めて考えてみたのだが」 にんまりと口の端をあげ、一枚のチラシを取り出してみせる学園長。 その顔は、心底楽しそうであった。 ●Orz ←抱腹絶倒している図 ――新生・沖縄リゾートゾーンのご案内。 宝井学園長から紫蝶へと手渡された一枚のチラシの情報。 それは、まるで高度情報化社会の現代を象徴するかのような超高速で拡散されていった。 旅費、学園長持ち。 園内でのお小遣い、学園長持ち。 参加すれば久遠はプラマイプラスだろう。 さすが僕らの学園長、太っ腹! ‥‥その真偽の程は定かではないが、こうも広まってしまっては出さずにはおられまい。 おそらくそれは正月のお年玉に匹敵する程度にはポケットマネーへの大打撃であろうが。 「――なるほど沖縄」 「というと、トンデモレースバトル?」 「あるいはゾンビ、海賊船」 「否、怪獣ハントでは」 過去、彼の地に足を運んだもの達は口々に思い出を語る。 その一方で。 「しかしエリアが拡大されているようだ」 「新たなアトラクションも生まれていると聞いたぞ‥‥」 「やっぱり今回も黒子撃退クエあるじゃないか(歓喜)」 「これもうわかんねぇな」 笑い、友情、ラブ、ラッキー。 天使、悪魔、人間、名状しがたき何者か。あとゾンビ。 そう。この世(エリュシオン)の全てが其処にある――。 訪れる者を常に新たな喜びと笑いで満たす地。 それがOkinawa resort zoneである。 この地で何が起ころうとも、撃退士の目指す先は変わらない。 ただ、立ち向かわねばならない非情な現実に、抗うための糧を得るべく。 ●そして伝説(笑)は再び―― 沖縄県は平和の島である。 美しい海の上をきらきら乱反射する太陽。 豊かな自然に囲まれた、オーシャンビューのコテージやホテル。 それだけでも十二分に魅力的だが――沖縄が屈指の観光地となる最大の理由は、別の所にあった。理由はわからないが、日本で唯一、天魔が進出していないのだ。 どこで襲われるか分からない日本で、手放しで遊べる貴重な地域。 それが、沖縄である。 さて。リゾート施設がひしめき合う沖縄で、2年半ほど前にオープンしたテーマパークがあった。 『沖縄リゾートゾーン』通称Orz。 ‥‥決してふざけている訳ではない。(※2年ぶり2回目) 当初は施設の頭文字から渾名された『Orz』だったが、次第にそれは別の意味合いを持つようになった。 あるものは疲労し、あるものは挫折し、あるものは負け、あるものは脱力し――理由はともあれ、『Orz』←この様になる客が非常に多い、それは過激な、あるいは至難のアトラクションが立ち並ぶのだとか。 『Orz』という略称と、遊園地のとあるお偉いさんを模したという、遊園地的にはぶっちゃけ地味さ溢れる『黒子』をメインマスコットとして擁する異色の遊園地、『沖縄リゾートゾーン』。 あの曰くつきの遊園地に、撃退士達は今ふたたび降り立った――。 (執筆:由貴 珪花、クロカミマヤ)