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ベリアルさんとお話させていただきました。出来る限りの希望を汲み、出来る限りの不安を取り除く為に。
それでも、やはりすべての方にご納得いただくことはできないかもしれません。
――けれど私は、それでも、一人でも多くの方に――


大規模連動ピンナップ公開!(11月30日)


クリエイター名:姫柴有佑



イメージノベル

11月17日更新分(章題部分をクリックすると、より具体的な「意見」と「回答」が確認できます)



 ぱらり、ぱらり、紙をめくる心地よい音が室内の空気をふるわせる。
 円状の会議机に向かうものは一様に口を閉ざし、一言一句を噛みしめるように分厚い資料に目を向けた。

 公称8万人。その実態は既に公称値をはるかに超えると言われる久遠ヶ原。
 その全員に――任意投票ではあるが、こうした意見表明の場を儲けたのは初めてのことだ。

 いくつもの選択があった。
 いくつもの決断があった。
 しかし、それらは会議室の中で行われるのが常で。
 何故と問われれば、決断速度による戦局の有利を取るためだったり、不要な分裂を避けるためと答えるだろう。
 間違いではない。
 でも。
「言い出しっぺのあたしが言うんはアレやけど‥‥予想以上、やなぁ」
「ええ。私達が考え及ばなかった所まで考慮されている方もいますね」
 そう言って、神楽坂茜と大鳥南は、ほうと息を吐いた。
 生徒を軽んじていたわけではない。物言わぬ駒のように思っていたわけでは決してない。
 しかし、こんなにも力強い意志を、深い慧知を、澄んだ慈愛を、秘めた怨嗟を――そして情だけに拠らず、冷静に利益を考える事のできる生徒達を。今まで私達はふいにしてしまっていたのではないだろうかと、考えずにはいられなかった。


生徒会への意見に対するメンバー及び太珀・レミエル・紫蝶の見解



「――以上で内容間違いないね?」
 書記である大塔寺源九郎が議事録を読み上げ、周囲を見回す。
 茜と南、レミエルは大きく頷き、太珀と紫蝶は沈黙を肯定とした。
 源九郎は一息つくと
「では、これで決定とするよ」
 と言い、分厚い議事録帳をばふんと閉じた。




 11月中旬、霞ヶ浦総合公園。
 美しいイルミネーションに彩られた風車の前に、神楽坂茜は佇んでいた。
 雪の便りにはほど早いというのに、きんと冷えた夜空が否応無しに茜の頬からぬくもりを奪っていく。
 唇から伝い漏れる白い吐息は解けるように広がり、やがて夜闇に溶けて消えた。

 コツコツと革靴がアスファルトを叩く音が不意に耳に入る。
「こんばんは。久遠ヶ原学園の生徒会長、神楽坂茜と申します。本日はお誘いに応じて頂き、ありがとうございます」
「‥‥驚いた。ほんとに1人で来るとはねぇ」
 足音は遠巻きで一度止まり、数瞬を置いてから再びコツコツと音が近づく。
「ケッツァー頭領、ベリアル・エル・ヴォスターニャだ。‥‥ところで"せいとかいちょー"ってのは?」
「生徒‥‥久遠ヶ原学園にいる撃退士の総代といったところでしょうか。全撃退士の代表ではありませんが、久遠ヶ原学園という撃退士軍の、形式上の代表と思って頂ければ」
「オーケー。あたしも冥魔代表じゃぁないし、似たようなポジションってことだね。よろしく」
 警戒なく差し出される右手。
 それに少し驚きながら、茜もまたわずかの逡巡の後、ゆっくりと右手を差し出した。

 ◇

「結論から申し上げますと、今回の協力関係については歓迎したいものの、いくつか条件‥‥聞きたいことがあります。
 大きくは、まず3点。質問に対して「言えない」「言わない」は事情次第では仕方ないとして、嘘はつかないでいただきたいのですが――まず、先だってあなたが濁した『こっちの事情』について開示をお願いします」
「ぶっ。っはっはっは! おいおい、今しがた「言えない」「言わない」は仕方ないって言ったじゃないか」
 ベリアルは大声で笑い、近くのベンチに勢い良く腰を掛けた。
 そして不意の大声で目を白黒させている茜に、「ん」と一言。ベンチの空いた席をぺしぺしと叩いた。
 軽々に誘いに乗るのは迷ったが、取引というこの場面で立ったまま見下ろすのは憚られ、茜はそっとベリアルの隣に腰を降ろした。
 話すべきか、少し迷ったように首を傾げるベリアル。
「未来の益となる働き――か」
 呟いたあと、ふぅっと大きく白い息を吐く。

「あたしも全部知ってるわけじゃぁない。特に最新の情勢は一切知らないってのはまず承知しといとくれ。

 魔界は今、天使の侵略を受けているのさ。‥‥察してるかもしれないが、天界の王ベリンガムだ。
 天使と悪魔っつーのはウン千年だかウン万年だか戦争してるらしいけど、いわゆる本土に攻め込まれたのは初めてらしくてね。
 9月末にダーリンが呼び戻された時は、既に相当状況は悪いって聞いた。
 だから正直、ダーリンが緊急招集されたタイミングであんたたちが攻めて来たときは焦ったし、グルかと疑ったけどね。
 メフィに相談したら、あんたたちも京都とかでベリンガムたちと戦ったっつーし。
 そんなら今は共同戦線張ったほうが『益』になりそうだから、取引をもちかけたってわけさ。

 ‥‥あたしはダーリンやメフィみたいに頭が回るわけじゃあないからね。単純な理屈さ。
 敵の敵は味方になり得る。それだけだ。
 話す気になったのは。少なくともあんたたちがこの話に前向きなのがわかったからだね」

 そう言って、ニッと白い歯をみせる。
「そう、ですか」
 嘘は言っていない、と茜は感じていた。
 日本各地で続いた、王権派によるゲート襲撃事件が夏を過ぎてぱたりと止んだ事とも一致する。
 仮にこれが偽情報だったとしても、撃退士は魔界に行ける術がない以上、誘い込んで討ち取られるということもない。
 敢えてこの話から撃退士の益を見出すのならば、王権派が魔界にかかりきりなら遺構を調査する時間が長く取れる、というところか。
「船をしばらく使ってもいい、というお話の『しばらく』は、魔界の状況が落ち着くまでということでしょうか?」
「へ? そんな短くていいの?」
「え」
「いや、こう、2〜3年くらいは付き合ってもいいと思って――‥‥はっ、人間的には2年って"しばらく"って言うには長すぎるのかい!?」
 寿命の差による尺度の違い。
 ――そういえば、オグンの時にもこんなことがあった。
 もう僅かしか生きられないから、と命を捨てようとした彼は、あれから2年近く経つ今も平穏に生きている。
「そう……そうでしたね。数百年生きる天魔の皆さんからすると、2年くらいはごく僅かな時間でもおかしくはありません」
「す、すまないね混乱させちまって。悪気はなかったんだ」

「では、3点目。
 何らかの理由で協力関係が解消され、解消後、私達撃退士と敵対関係になる場合こちらにご通告いただけますか?
 宣言なしで不意打ちのような真似はしない、ということですね」
「オーケー。それは例えダーリンに呼び戻されたとしても守ろう」




「では、その他細々とした質問ですが――」


ベリアル/ケッツァーへの意見、質問、条件など(抜粋)





 茜がベリアルとの会見に臨んでいる同時刻、久遠ヶ原学園・第7湾岸訓練施設。
 凍えると表現しても差し障りのない風が、夜の海から容赦なく吹付け訪れた者の体温を奪っていく。

 当然、それは大鳥南にも等しく襲いかかっていた。
「めっっっっさ寒い!」
 悴む手をこすり、息を吹きかけるが、こわばった指先が解ける程の暖かさは得られない。
「だから無理に立ち会わずに休んでいても構わないといったんだよ」
「それはまぁ、そうなんやけどな」
「フン、さっさと終わらせるぞ。どうやら設備的には問題無さそうだな、多少古く傷んでる箇所もあるようだが」
 レミエルと太珀が『準備』を進めるのを眺めながら、冷え切ったスマホを取り出し状況報告用のメール作成画面を起動した。
 しかし文章を打ち込もうとした指先が器用さを失って、誤字を3度繰り返したところで南は作成を断念する。
「はぁ‥‥これ、夜にやる必要あるん?」
「夜間じゃないと、リンカー達の時間を作りにくいからね。とはいえ、残業扱いで待機して貰ってる以上早くこちらの準備を終わらせようか」

 ベリアルら一派との交渉が成立した場合、こちらからまず指定するべきものがある。
 それは彼女から指定する権利を予め提示されていたもの。
 エンハンブレの居留地――即ち、彼女達を何処に留め置くか、である。
 


居留地をどこにするかの意見





「よし、出来たぞ」
 レミエルの声で、南は思考の海から抜け出した。
 ‥‥思考というより、寒さで気が遠くなっていたのかもしれないが。

「あとは必要に応じて、六分儀を持って、いつも通りリンカーに道を開いてもらえばここに転移用の門が出来るようになる」
 レミエルが設置した鉱石は、転移装置で見るものと良く似た淡い光を放っている。
 その上にちょこんと六分儀を載せ、太珀はまだ何もない沖合を睨みつつ頷いた。
「とはいっても、数キロに満たない距離だ。飛行スキルで直接飛ぶことも出来るだろうがな。
 ただ、この場所なら。飛んでいくにしろ、門を使うにしろ、船との接触するものを監視出来るだろう」

 船の居留地は『学園の外であり、かつ学園から近い位置』がすべての意見の落とし所にふさわしいだろうとして、最終的に、学園から数キロの沖にベリアル達を迎えるという決断となった。
 問題となったのは、『船へのアクセス方法』である。

 船から来る場合は勿論のこと、船へ行くものについても気をつけるべきだという意見は少なくなかった。
 そこで出された案は、エンハンブレ居留地点からも近い、学園沿岸にある訓練施設の一つを専用施設として仕立てる案だ。
 飛行や遠泳での侵入についても、船と往来を随時確認する。訓練を見守る為に作られた訓練施設ゆえ、お誂え向きの櫓があるのだ。
「交流エリアを作るんなら、やっぱこの辺にまとめた方えぇやろしね」
「訓練施設だからな、多少の無茶もしやすいだろう」
 なにより、居住区が付近にないのも大きい。
 キャンプ演習なども出来るような場所だ。何か交流企画を考えて行うのにも不便はないだろう。

「うん、ひと通り設備確認完了や。警備雇用やらなんやらは、茜ちゃんの交渉が終わったらやな」
 警備依頼には報酬が支払われる。
 彼らの依頼主は生徒会となる。つまり、会計である南が実質手配しているのだ。準備と下見に立ち会っている理由の一つがそれだ。
 実際に働いてもらう現地の状況を知ってこそ、適切な報酬を叩き出せる。
 だが、理由は他にも在る。

「心配かい?」
「‥‥ううん。天魔との共存への夢の大きな一歩や、なーんも心配しとらんよ」
 その声音は嘘偽り無いものであった。
 今回、南は茜の思いに全面賛同はしなかった。
 それでも、折り合いのつけられる場所から、応援はしたいと思うのだ。親友として全力で。

 寒空の下、一人、ベリアルとの交渉に臨んでいる親友がいる。
 それが、同じ空の下で手を悴ませるもう一つの理由。


 南のポケットで茜からの報告を告げる着信音が流れたのは、それから数分後のことであった。


                                                              (執筆:由貴 珪花、コトノハ凛)


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方針
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この主張だけは絶対に譲れない。何がなんでも他者を説得する 11.5%
どれかといえばこれだが、そこまで強いこだわりは無い 27.0%

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堕天使追討組織『ネメシス』とは


【AT】の関連人物

天魔についての実力は学園に在する天使や交戦した撃退士からの聞き取りによって得た情報が中心であり
必ずしも実際の実力とは合致しない。

天界側

アクラシエル 主天使級 アナエル 能天使級
 ネメシスの実務上の指揮官で聖裁官次長。
 非常に真面目な性格で、天界至上主義者。規律により調和した社会と勤勉な天使達の在り方こそ、理想の生き方であると考えている。

 女悪魔ベリアルとは、浅からぬ因縁がある模様。
イラスト:山神さやか
 ネメシス所属の聖裁官。アクラシエルの補佐として、10年前から鎌倉にゲートを構える。
 地球文化に興味をもち、定期的に『模様替え』として口調やゲートの内装などをがらりと変える、変わり者の女天使。

 現在は京ことばにハマっている。
イラスト:弌花瞠

冥魔側

ベリアル 大将級冥魔
 ベリアル・エル・ヴォスターニャ。
 私兵団・冥魔空挺軍『ケッツァー』の頭で、ルシフェルの妻。 『魔器』である『空挺・エンハンブレ』を所有している。
 気性は豪放で陽気で好戦的、加えて酒豪。
 ルシフェルを前にすると別人のようにメロキュンするが、ケッツァー内ではすでに日常茶飯事。 影に日向に戦場に、ルシフェルの頼みなら何処へなりとも空挺を駆って出撃する。

イラスト:山神さやか

ガジェット

鎌倉ゲート 三峯の気脈
アナエルが設置した、半径2km程度の中規模ゲート。
聖裁官の活動拠点・転移を目的として設置されたため、その吸収は穏やか。
展開当時こそ混乱はあったものの、現在はある程度落ち着いた市民生活が営まれており、撃退庁の対応優先度としても低くなっている。

イラスト:たかつき沙保
三峯神社に存在する気脈。
【AT序章】ではこれを巡って三つ巴(正確には四つ巴)の戦いとなった。
1000年に1度その密度が高まるとされ、これを利用してゲートを展開する超規模ゲートを生み出す事ができるという。
撃退士が「介霊符」を用いて、気脈エネルギーの過消費を行ったため現在三峯の気脈は落ち着いた状態となっている。
イラスト:-


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