明日が今日と全て同じである保証など
どこにもなく、誰にもできない。
●進級試験お疲れ様でした
文化祭に沸く学園内を、その目標(ターゲット)はぶらぶらと歩いていた。足取りは一見軽やかそうでもあったが、立ち止まることを拒否しているようにも見て取れる。情報のとおりだ。小等部の男子生徒は襟を正して背筋を伸ばして密かに近づいた。
「元気ありませんね」
周囲には人通りが多く、名前を添えなかったにも関わらず、目標は振り向いた。
「やあ、こんにちはっ。ここは――って、あはは、ごめん。昔のクセが抜けなくってっ」
「いえいえ、気になさらないでください」
「ありがとっ。キミは?」
「あなたにいい話を持ってきました。絶好の相手がいるんですよ」
「……どういうこと?」
「ふふふ、ただの親切心ですよ」
元気になってほしくて、と添える。
首を傾げる目標。うつろに見開かれていたその双眸は、次の、男子生徒が放ったとどめのような一言で一気に光を取り戻した。
「それに――この上なく、いい『訓練』になると思いますよ」
「訓練っ!?」
すかさず駆け込み、5W1Hを根掘り葉掘り聞いてくる目標。
双肩を掴まれ前後にがっくんがっくん揺らされながら、それでも男子生徒は仄暗い笑みを浮かべていた。
「はい、訓練です。それも、あなたがとびきり本気になれる訓練です」
●2分後
すっかり指定席となったその位置で、彼は、組んだあぐらを野良猫のベッドに見立て、得物の手入れをしていた。風は少し冷たかったが日差しは春宛らの陽気を含んでいる。
ひとつ大きなあくびをついたとき、遠くに誰かの姿が見えた。お、と口の中で呟き、背筋を伸ばして備える。
「よぉ、お疲れさん。ここは部室(クラブ)だ」
何百回と繰り返した挨拶は喉を昇らない。
彼の臀部が感じる、微かな、しかし確かに、次第に大きくなってくる地響きに引きとめられてしまっていた。
何事だ、と目を見張る。
こちらに駆けてくる集団、その先頭を走っていた翠髪の女生徒が加速した。
「ちょ――ッ!?」
野良猫を逃がして立ち上がる。背後でにゃあ、と鳴かれるのと、女生徒が踏み切るのは同時だった。
掲げられた鈍色に秋の遠い日差しが反射する。
振り降ろされた斧槍の先端は、一瞬前まで彼が腰を降ろしていた芝生に突き刺さった。
防衛本能から遮二無二射撃を行う。喉元を狙って放たれたそれは、しかしハルバードにホームランされてしまう。
「何なんだよ……!」
当然口を突いて出た猫目夏久(jz0004)の疑問に、
「 こ こ は 部 室 ( ク ラ ブ ) だ よ っ ! ! ! 」
大山恵(jz0002)は何百万回と繰り返した挨拶を叫んだ。
「知ってるっつの!」
「ここは部室(クラブ)だよっ!!」
「だから何なんだよ!」
「ここは部室(クラブ)だよっ!!」
「だからそれは俺も言っただろ!?」
「部室(クラブ)なんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
突然鳴り渡った戦闘音と怒号の応酬に、なんだなんだと部室棟の窓が次々開いていく。
その殆どに『?』が浮かんだ瞬間を見計らい、小等部の男子生徒は極めて安全な位置で拡声器のスイッチを握った。
「えーそれでは只今より、
久遠ヶ原学園文化祭2014裏プログラム、
『 部 室 前 案 内 役 争 奪 戦 』
を行いまーす」
「 は あ ! ? 」
「安心してください。職員の方から許可は取っています。存分にやってくださいー」
「全然俺の疑問が伝わってないッ!! っつか、そんなこと突然言われても――!!」
「その点もご安心ください、条件は大山さんも同じです」
「とてもそうは見えないけどな!?」
「ふふふ、確かに」
もう始まっていますからね。
男子生徒が指し示した先、恵はがっつり光纏を顕現させ、重量感のある得物をぶんぶんとぶん回している。
「ッ……冗談じゃねえっての……!!」
脚をもつれさせながら部室棟に駆け込んだ夏久を生徒らが取り囲み、奥へ誘っていく。
恵は両手で握ったハルバードを頭上に持ち上げると、
「こおおおこおおおはあああ……――部室(クラブ)だよおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
と、もう一度叫んでから、彼女に倣い、勝鬨を上げた生徒らと共に侵攻を開始した。
●
明日が今日と全て同じである保証など
どこにもなく、誰にもできない。
しかし、抗うことはできる。
時は晩秋の候。なれど今、この場は灼熱。
決して学園の歴史に残る事のない、未曾有の大乱闘の火蓋が切って落とされた。
●解説
とある部室棟を舞台に行われる(オブ)訓練(ラート)に参加して(≒巻き込まれて)いただきます。
●状況
天候は晴れ、時間帯は昼過ぎ、絶賛文化祭中とします。
全てのアイテム、スキルの使用を許可します。
●班分け
訓練に積極的に参加する場合は、猫目夏久(jz0004)属する猫目軍(タグ:【猫】)、
或いは大山恵(jz0002)属する大山軍(タグ:【恵】)に分かれてください。
どちらの軍も、明確に所属を判別できる腕章を装着しているものとします。
もちろん無所属のプレイングも歓迎します。
●場所
プレイングには必ずいずれかを明記してください。
【ロビー】
憩いの場として使われている、入口からすぐの位置に存在するロビーです。
大小さまざまな机と椅子が配置されている他、飲料や軽食を扱う自販機が設置されています。
【中庭】
中央に巨大な噴水を湛える広大な中庭です。地面には一面芝生が生え揃っています。
日当たりと風通しが良く、休憩や昼寝などに適しています。
【屋上】
中庭を囲むように続いている屋上は常に出入り自由となっています。
障害物らしきものもなく、縁沿いに設置されているフェンスも目の粗い、1メートル程度のものです。
【通路】
片側に部室が、もう片側に中庭が臨める窓が並ぶ通路です。横幅4sq程度。
窓ガラスくらいまでであれば破壊してもドンマイで済ませます。
床、壁、天井は破壊不可とします。
猫目と大山は全ての場所を訪れます。順番は不明とし、静止と常時同行は不可とします。
●判定
戦闘に突入した場合は非常に大きなプレイング補正を掛けて判定を行います。
作戦、編成、行動内容を重視します。また、重体以上の判定は行われません。
必ず戦闘に特化した内容である必要はありませんし、歓迎します。
●ようするに
文化祭と訓練で賑わう部室棟を舞台としたフリースタイルのシナリオです。
皆様ののびのびとしたプレイングをお待ちしております。
●マスターより
お世話になっております。十三番です。
さ あ 踊 ろ う か !
ご検討のほどよろしくお願いいたします。