サリエル | 大天使級 | リカ | 使徒級(下位〜中位) | |
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富士山火口にゲートを構える大天使。神意の執行者、死天使、神の威光を守る者。ゲート近隣地域では主に殺戮の赤い大天使の名で知られる。 人間の捕縛も行うが、殺戮と破壊により恐怖を撒き散らし天軍の強大さを示す事を優先させる傾向がある。けたたましい笑い声と共に大鎌を振るい、長距離衝撃波、稲妻、魔眼等を操り多彩な攻撃を仕掛けてくる。周囲に三つの光球を展開し遠距離攻撃を迎撃・歪曲させる能力を持つ為、撃ち合いに非常に強い。 イラスト:Kidu |
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死天使サリエルの使徒、本名葉斯波理花(ハシバリカ)。 水兵服に身を包み薙刀を旋風のように振るう。何処から調達したのか2012年からは狙撃銃を駆使しての長距離攻撃も行うようになった。撤退時は煙幕によって視界を遮断しワイヤーガンを用いて立体的に機動する為、追撃が非常に困難である。基礎スペックは使徒級としては平均的でさほど凶悪ではない。何か強力な武装を持ち出して来た等異例の事態がなければ、歴戦の撃退士ならば十分対応可能だろう。 イラスト:miru |
イスカリオテ・ヨッド | 天使級? | ガブリエル・ヘルヴォル | 大天使級 | |
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元は将来有望な権天使だったが、ハーフの力が発現した事により平の天使へと降格された経歴を持つ壮年の男。無気力と成り果てているが権天使級の実力は健在であり、さらに天冥の双方の力を操りカオスレートを自在に操作する為、その戦闘能力は高い。黒外套に身を包み、紫焔の翼を広げて飛び、十字ヒルトの双剣を操る。サリエル指揮下で静岡県富士市にゲートを開かんと画策する。無気力故にか人に対する驕りも死に対する畏れも無く至極冷静である。
イラスト:虎井シグマ |
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伊豆の国市の浅間山を中心にゲートを構える大天使。柔和な表情が特徴的な美女だが、放つ言葉と行動は高飛車。 煌びやかな装身具を身につけ、意匠が洗練されたサーバント軍団を率いて戦場を蹂躪する「美しく滅ぼす」が信条。瞬間的に超加速する能力を持ち、機動力と回避能力が非常に高い。その速度を利用した突撃からの一閃は企業撃退士を一撃で真っ二つに両断したという。近距離戦に突出した能力を誇る反面、飛び道具の使用記録は一切無い。 イラスト:Msuke |
ゲート | コア | |||
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人間界を支配するためのに天魔がつくりあげた『移動要塞』にして『収穫装置』それがゲートです。 存在するだけで周囲の人間を閉じ込め、感情や魂を引き抜いていくその装置は、天魔にとってはわかりやすい領地の拡大につながり、逆に人間にとっては『失地』となります。 巨大なゲートの出現は、それだけで人間世界にとって天魔の侵略を許してしまうことになるのです。 イラスト:たかつき沙保 | ![]() |
ゲートの内部に在するゲート及び結界の維持装置、それがコアです。 ゲートおよび創出した天使の強靭さと比べると、ゲート作成時のデリケートさそのままに脆く、撃退士であれば駆け出しであっても数撃のもとに破壊することが可能です。 ただし、コアはゲートの内部にあるため、破壊するためにはゲートの内部に入る必要があります。 イラスト:たにし |
結界 | ||
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ゲートができた時に創出される天魔にとって逃走防止用の壁、それが結界である。 結界内部にいる限り、感情や魂を吸い取られ続け、やがて中の生物は死に至る。 結界の壁は一般人には破壊不可能であるが、V兵器であれば攻撃をあてた場所を数時間にわたって無効化させることができます。 結界が通すもの、通さないものは天魔の任意によります。 結界もコアの破壊によって消失します。 イラスト:草薙蝶炎 |
――静岡県富士市、企業連合撃退組織DOGの本部。
磨かれた床、隅に鮮やかな装飾が刻まれた硝子の机、黒いソファーに腰を降ろして、二人の男と一人の女が向き合っていた。
「我々は富士市の防衛に成功しました。敵は攻撃に失敗し、大いに弱体化しています。そして明日には久遠ヶ原から大軍が到着し、こちらは戦力を増します。ならば、この好機を逃さず、反攻にでましょう」
久遠ヶ原の書記長、大塔寺源九郎は企業連合撃退組織の長、山県明彦へとそう提案した。
「反攻?」
「静岡には巨大な天界ゲートが二つもある。これが連携して動かれた時の厄介さは今回の如しです。ですから、相手が弱っている今こそ、巨大ゲートへと攻め上がり、これを破壊するのです」
「ゲートを破壊!」
山県は目を剥いた。二大軍団の攻勢から今日まで良く守ってきた静岡の企業撃退士達であったが、その強大な天使達に対するには市街を利用した防衛が主であって、攻め寄せて来る敵を迎撃する事であって、まさかこちら側から相手の本拠地まで攻めにいくなんて発想はなかった。いや、初期の頃には当然あったが、敵の強大さを思い知らされる度に、そんな構想はすっかり消え失せていたのだ。
だがしかし、事ここに至って、時節到来である。
「北と東にある巨大ゲートがどちらか一つになるだけでも今後が随分と楽になる。違いますか?」
「違わない。なるほど、なら、随分とくたびれちゃいるが、ここからが本番だな」
山県は瞳に力を取り戻して言う。
「しかし、流石に二箇所を同時に攻めるってぇのは無謀だろうよ。攻めるならどちらか一方だが……サリエルとガブリエル、どっちを攻める? 俺達としちゃあ死天使のサリエルを潰しにいきたい」
奴には随分と殺されてるからな、と低い声で撃退長は述べた。
源九郎は頷く。
「山県さんのおっしゃられる事は解ります。ええ、良くね。流された血の清算は行われるべきだ。しかし……一つ問題があります。サリエルを攻めるという事は、天下の険、富士山を攻め登るという事です」
富士山、言わずと知れた日本一の高山だ。霊山としても名高い。地脈の流れが集まる所。
周囲を深い山林に囲まれ、その標高は3776メートル、天然の要害だ。道は存在しているが、当然ルートは限られる。敵にとっては迎撃が容易い。
「ゲートの入り口は富士の山頂、その火口にあると報告されています。当然、敵は樹林や山岳の斜面を利用して迎撃してくるでしょうから、かなりの被害を覚悟しなければなりません。これを攻めるのは……」
「些かならずともきつい、ってか」
書記長の言葉に企業撃退士の長は顔を顰めた。
「なるほどな……何故、富士山の火口なんて周辺に人の少ない土地を拠点に選んだかと思ったら、いざという時の防御を考えていたのか、忌々しい」
これは容易く攻められない、と山県は舌打ちする。
「真に死天使が何を考えていたのかまでは解りませんが――竜脈がどうとか、我々には思いもつかない理由があるのかもしれません。ただ、目の前にある事実はそのようになっています。とにかく、攻めにくい。富士山を攻略するのは困難を極めます。あるいはゲート内部での異空間での戦いよりもきついかもしれない。それほどにあの山は攻めづらい。歴史書を紐解いても、過去に数千人の規模で富士山を攻めた軍が存在しますか? 僕は知らない。前人未到の事になります」
「良く解った」
山県明彦は無念そうに唸った。
「下手打って再逆転される訳にもいかんしな……」
攻め難い箇所と攻め易い箇所の二箇所があり、どちらかを選択できるなら、基本的には攻め易い方を攻めて、さらに弱体化させてから防御の硬い箇所を攻める、それが定石だ。
また、サリエルゲートの支配領域内には、既に人間の生者は一人も残っていない、という事実もあった。
既に富士山の周囲は、死の領域だ。
これを取り戻しても、メリットが少ない。
富士山は日本の象徴であるし、奪われたままというのは山県としてはしゃくだったし、散々富士市民や仲間達を殺してきたサリエルも討伐したい、しかし、それよりは、支配領域内で苦しんでいる人々の救助・解放を優先させたい所でもあった。
ガブリエルの支配領域の大収容所には、未だ数万の人々が囚われ、日々精神を吸い取られている。
可能であるなら、その苦しみから解き放ってやりたい。
「――なら、ここはガブリエルか?」
ガブリエル・ヘルヴォルのゲートは静岡県伊豆の国市の浅間山にある。日本国に浅間山という名の山は幾つかあるが、伊豆の国市のそれは標高144メートル、富士山とどちらが攻めやすいかといえば、間違いなく後者だった。
「ええ、ひとまずは、そちらをメインとして攻めるのが良いのではないかと」
源九郎は頷く。
「ふむ。ひとまず、ってのはどういう意味だい?」
「過去の報告から推して測るに、サリエルはなかなか仲間思いな性格のようですね。ならば、そこを突く。サリエルとガブリエルは先に連合して戦い、失敗しました、その失敗の結果、ガブリエルが敵の大軍に攻められたら――サリエルは、それを黙って見ているでしょうか? 恐らく、富士山から出てくる、そこを討つ」
「なるほど、こちらから攻め難い富士山を攻めなくても、ガブリエルを攻めるそぶりを見せれば、奴さんの方から山を降りて来てくれるって寸法か」
「そうです、敵にとって攻められては困る箇所を突けば、自然と敵はそこを守る為に出撃せざるをえません」
大塔寺源九郎が良く採る戦略である。基本、彼は敵を振り回して右往左往させようと測る。
「ガブリエルが不利としてゲートへと篭城する構えなら、とにかく実力は問いませんから人数だけを集めて一定の距離を保って張りつけておき、こちらが有利でありガブリエル達は不利であると思わせておきます。その間に、我々は主力を結集させて、サリエル軍を待ち構え、三方から半包囲して殲滅する。サリエル軍団を壊滅させて、あとはガブリエル軍団単独となったら、じっくり料理してかかれば、負ける事はないでしょう」
「なるほど、良い手だ、よし、それでいこう――と言いたい所だが、もしもガブリエルがびびって篭城なんて選ばず、死なばもろともで打って出てきて迎撃してきたらどうする?」
「一敗地に塗れてますから、打って出てくる可能性は低い、と考えたいですね。篭城が有利と思ってくれれば良いんですが……玉砕覚悟で出て来た場合は、少し面倒ですね」
「転ばぬ先の杖という。大体現実って奴は面倒な方へと転がってゆくものでな。明日は大抵、昨日よりも、厳しい」
経歴だけなら百戦錬磨の企業撃退士はそう言って肩を竦めてみせた。イマイチ軽い男ではあるが、DOGの総大将を務め上げて来た男でもある。
「まぁそういうもんでしょうな、希望的観測はすべきではない、と……その場合はこちらも隊を分けて、対サリエル、対ガブリエル、と二正面を張る形になりますね」
「奇策は?」
「打って出てくるなら、全軍を投入してくるでしょうから、精鋭の一部隊を密かに迂回させてガブリエルのゲートへと投入する、という手は考えられます。それが上手くいけば、もし万一野戦で敗れる事になっても、ゲート破壊という目的だけは果たせます。ですが、正直、あんまり採りたくない手ですな」
側頭部を指先で掻きつつ源九郎は言った。
「全軍から一部隊を抽出すれば、それだけ主戦場が不利になる。わざわざそんな危険を冒さずとも、野戦で勝てれば自ずとゲートは破壊できるでしょう」
「なるほど、その場合は真っ向勝負か」
源九郎は頷くと言った。
「ええ、最後の最後に正面から実力で勝負、という形になりますね」
●
既に年は明けていた。
富士の山頂から眺める朝日は、皓く燃え、高山の頂を吹く風は相変わらず強い。
髪が暴れて、頬にかかり、リカはそれをゆっくりと手で後ろへと流した。
「――撃退士達が動いたぞ」
紫焔の翼を背に広げ、下方より舞い上がって来た男が告げた。大動員令が発動されたらしく、元々静岡にいた撃退士達と併せてその数は二千を優に超えているとの事だった。
「進路は東だ。ガブリエル殿のゲートを狙っているようだな」
イスカリオテの言葉に、南を向いて立っていたリカの主は、振り向かずに答えた。
「解った。出るよ」
声には力がある。先日まで随分落ち込んでいたが、またいつもの調子に戻っていた。
長い銀髪を風に流し、新調された白ドレスに身を包んだサリエルの背中は何らかの覚悟めいたものが立ち上っているようにリカには見えた――嫌な予感というのは、するものである。
「策は?」
イスカリオテはやはりこの期に及んでも冷静な声音でリカの主へと問いかけた。
「無い」
死天使はきっぱりと即答した。
「敗北主義とは格好が良いね、きゃは! だったか?」
壮年の男は真面目腐った表情で、いつだったかサリエルから言われた台詞をそのまま返した。リカもサリエルも笑わなかった。
「悪いね。でも、放ってはおけないよ」
「これだからな、俺は御免だ」
イスカリオテは面倒くさそうに肩を竦めた。
「そう……まぁ、仕方ないね」
サリエルは俯くと言った。
「今まで、有難う」
「お前はそういう奴だったな」
イスカリオテは氷のような声音で告げた。黒外套の男は柳眉を顰めて言う。
「実の所、俺は苛ついているのだ。そんな感性は既に磨耗しきったと思っていたが、やはり好きか嫌いかで言えば、好きではない。無駄な言葉ばかり調子良く喋る癖に、やるべき事はやりきらない。だからお前は小娘なのだ。どこぞの使徒の爪の垢でも飲ませてやりたいくらいだ。面白味はあるが、やはり不愉快だな。ガブリエル殿の事はもうどうでも良いのか?」
「――そんな事はない! だから、これから出撃するって言ってるんじゃないか……! あんた、何が言いたいんだっ?」
サリエルはイスカリオテへと振り向くと蒼瞳を鋭く細めて睨みつけた。
「ふむ、まだ気概は残っているようだな、結構。だったら行動で示せ。俺の首根っこを掴んででも戦えと命令しろ、勝てと言え、お前は俺の大将なんだぞ」
「……負け戦に付き合えって命令しろって? 戦って死ねって?」
「俺は勝つ気だ。だから、死ぬのは人間どもだ。1%でも勝率を上げる努力をしろと言っている。人事を尽くさん奴に天命はくだらん」
天命、左遷されまくって平まで落ちぶれた元エリートが言っても説得力がないのではなかろうか、と言う言葉がふとリカの脳裏をよぎったが、リカの主は真面目に聞いているようだった。基本、素直である。
黒外套の男は言った。
「大体、一戦敗れただけでなんだというのだ。この程度の劣勢、劣勢のうちにも入らん」
逆境には慣れているだろうから、こちらの台詞には説得力がある、とリカは思った。きっともっと無理難題もなんとかしてきたに違いない。
「努力たって……」
サリエルはふと気付いたように男を見上げた。
「あんた、何か考えがあるの?」
「聞くのが遅い――おい、さっきからなんで隠れているんだ」
イスカリオテは不満そうに言ったあと、後方を振り返って声を投げた。
「長くなりそうな気配だったからな。もう良いのか?」
視線の先、岩の陰より身を起こし、のっそりと現れたのは、厳しい顔立ちの大男だった。
「貴方は……」
思わず、リカは目を見開いた(彼女の基準で)。いつの間に富士に来ていたのだろう。サリエルもまた驚愕したように叫んだ。
「――ウル様!」
「よぉ、久しぶりだな。随分と追い込まれているようだが、なぁに、俺様が来たからには心配はいらねぇよ」
そう言って大男は声をあげて大きく肩を揺らした。多分、笑っているのだろう。
サリエルが顔を向けると額を抑えていたイスカリオテは答えて言う。
「こいつはいつも一人で気侭に動いているからな。他と違ってそれなりに自由が効く」
「まさか、ウル様に来ていただけるなんて……」
「ほらみろ、こうだよ、こう。権天使様を顎で使おうとするんじゃねぇよ平天使。昔の誼で手伝ってやるが、貸し一つだからな」
権天使(プリンシパリティ)ウルに対して、かつては同様に権天使であったハーフブラッドは言った。
「規律違反をやったところで、これ以上降格なんぞしようがないからな、天界の階級制度なんぞ知った事か。まぁ借りはしっかり返す主義、という訳でもないが、返せと言われれば返す努力はしよう。永遠と催促され続けるのも面倒だ」
「これだからな。で、手筈は?」
「――上司殿」
イスカリオテはそのやる気がなさそうな黒瞳に、しかし今は僅かに鈍い光を灯らせて、サリエルの蒼瞳を見据えて言う。
「数は少なくて良い、一つ自由に動ける別働隊をくれ」
「良いケド……どうするの?」
「富士市を攻める」
「……はっ?!」
「定石だろう、陽動だ。奴等撃退士達は、人間にとって正義の味方である、というのが武器であり弱点だ。市民はまず99%の確率で見捨てる事ができない。奴等の泣き所だ。それで何割かは防衛の為に戻る。安全策を採るだろうから、それなりに多めだろう。小勢で陽動をかけて敵の主力をまず分裂させておいて、こちらは大勢で編成した主力で数の減った敵の主力を撃破する。ガブリエル殿にも報せを飛ばせ、伊豆半島の付け根に敵を誘い込んだ所で、呼応して挟撃しろとな」
「え、えぇっ? ゲートに籠もらせないの? 異空間内はガブリエル達の方が有利なのに?」
「有利? 兵力の質を考えろ。ガブリエル軍でもっとも威力が高いのはドラゴン達だ。飛行戦力をゲート内部の狭い洞穴で飛行能力を縛るよりは、野戦で空からブレスを吐かせた方が良い。ナパームブレスは対策が知られてるから序盤はファイアブレスで押せと伝えておけ、射撃兵を掃討してから爆撃だ。大体、単に篭城しているだけでは、まずこちらを集中して片付けられてから、それから後でゆっくりガブリエル殿が片付けられるだけの話だ。各個撃破される。大きな戦では主導権は敵に絶対に渡すな」
「おい、やるからには勝つつもりなんだろ、元エリート」
「元は余計だが、そうだ」
「ならイスカリオテ、お前はこのお嬢ちゃんについてろ。富士市は俺が行く。俺が一緒の部隊にいちゃ階級的にもやりづらいだろうしな、それに何より俺が細かい事を命令されるのは性に合わん」
「――と、いう事らしいが、構わんか?」
サリエルは一つ息を吐くと、半眼で笑った。
「……解ったよ。その方が良さそうだネ」
姿勢と表情を正して大男を見て言う。
「ウル様、どうかよろしくお願いします」
ウルは幼天使へと鷹揚に頷いてみせた。
「あんたは良い上司だ」
イスカリオテはそんな事を言ってから作戦の細部を決めてゆく。
「……赤い天使さま」
イスカリオテとウルが地面に図を描いて話し込み、それを眺めているサリエルへとリカはそっと話しかけた。
「ん、なぁに?」
「この剣は、やっぱり、天使様が使って……」
水兵服の使徒は言って大剣を出現させると、主へと差し出した。
「私は、大丈夫だから……」
本当は大丈夫ではないかもしれない、だから守りとして、サリエルはこの剣をリカへと渡したのだろうから。しかし、今は興亡の時だ、サリエルが使った方がきっと良い。そもそも、戦神とてそのつもりだったのだから。
「リカ……」
サリエルは何かを言いかけたが、表情を歪めると、一つ首を振ってから、リカの手からその強大な力を秘めた大剣を受け取った。
「わかった。撃退士達はこの剣で皆殺しにする。絶対にリカには近づけさせない」
「無理は、しないで……私も、無理はしないから、心配はいらない」
嘘をつくのは苦手だけれども、主は割りと素直な所があるから、きっと信じてくれるだろう。
「足手まといには、ならない」
かくて、サリエル軍団の大軍は二手に分かれて富士山より出撃した。撃退士達を打ち破る為に。
●
「大体、何時だって状況は最悪だ」
狙撃銃を担いだ山県明彦がそう言った。
富士市が権天使ウルからの襲撃を受けたとの報告を受け、撃退士達の一部は富士市へと向かった。
現在、本隊は伊豆半島の付け根へと差し掛かったところで、北からサリエル軍、南からガブリエル軍が出撃し迫ってきていた。さらにガブリエル軍は南よりの主軍の他に、海空を使って一部隊を西へと回し、撃退士を三方から攻めあげる態勢を整えている。
「敵もどうやら勝負に来るようだぞ、久遠ヶ原の」
山県が苦々しげに言った。来るとは踏んでいたが、予想よりも斜め上だ。
「どうして、こう、僕等が戦う相手は、最後まで諦めが悪い連中が多いのかね。自棄にでもなれば良いものを」
眼鏡をかけた青年はふんと鼻を鳴らして呟いた。
「こちらに守るものがあるように、相手にも守るものがあるのでしょうね」
白いカチューシャを頭部に嵌めた黒髪の娘が、柔らかく目を細め今にも消えそうに儚く微笑を浮かべて言った。生徒会長の神楽坂茜だ。
女は鞘走りの音を立てて白刃を抜き放つ。
「相手の弱気に期待すると破滅しますよ」
「解っている。足掻くというなら叩き潰すまでだ。第一を北に、第二と第三を南へ、会長、号令を」
「ええ」
かくて無線より指示が飛び、各部隊はそれぞれ敵の迎撃に向かうのだった。
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