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マスター:Yeti
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
サポート:0
報酬:通常
リプレイ完成日時:2011/12/27


オープニング

●久遠ヶ原学園、とある空き教室
 ―――放課後。カーテンの閉め切られた室内では、異様な光景が繰り広げられていた。教室の中央を向く形で、円環状に並べられた椅子が15ほど。その椅子のひとつひとつに、学部も年齢も様々な女子生徒たちが座っている。まるで、女子生徒だけでフルーツバスケットでもやっているかのような光景だが、彼女たちの視線の先―――教室の中央では、男子生徒二人が床に敷かれたブルーシートの上で半泣きになりながら、恥ずかしい格好で恥ずかしいポーズを取っていた。
「ハァ…いいわ…いいわよ……」
 何やら目を爛々と光らせ、譫言のような呟きを洩らしながら、一心不乱に鉛筆を持った手を動かす女子生徒たち。そう…彼女たちは今まさに、生け贄に舌なめずりする猛獣と化しているのだ。

「―――動くなッ!!」

 鋭い恫喝が飛ぶ。猫耳付きのヘアバンドを装着した男子生徒二人はびくーんと背筋を強張らせ、言い付けられたポーズを保とうと死に物狂いで努力した。この際もう、ポーズがまるでギャルゲーのヒロインキャラみたいな萌えポーズだとかそんなのは瑣末なことだ。というか、拒否でもしたらこれ以上どんな目に遭わされるか解ったものではない。
「ふふ…ふふふ……うふふふふ………」
 不気味な笑い声がそこここから上がり、室内をたゆたう。興に乗っているのか、鉛筆がスケッチブックの上を滑る音が益々激しく大きくなってゆく。そんな中、10分を告げるタイマーの音が鳴り響き―――一人の女生徒が椅子からゆらりと立ち上がった。タイマーを止め、ニタリ、と笑う。

「…うふふふ…さあ、今度はどんなポーズを取ってもらおうかしら…? ああ、そうね…上着を脱いで抱き合ってもらおうかしら…?」

 男子生徒二人の絶叫が、良識ある誰かの耳に届くことはなかった。

●久遠ヶ原学園、とある教室
 高等部の教室に、女子生徒が5人ほど集まっている。彼女らは全員風紀委員会のメンバーで、委員の中でも特に潔癖な部類に入る面々である。彼女らは自らの職務に忠実であることを生き甲斐として、委員会活動の中で自主的に取り締まりを行うチームを作り、毎週定例会を開いていた。今日こうして教室に集まったのも、その定例会を開催するためであった。

「裏・美術愛好会?」
 怪訝そうな面持ちで、チームの一人が問いかける。資料を配った委員は、頷いて説明を始めた。
「そうです。無認可の同好会組織ですが、調査によると会員数は相当な人数に登り、9割以上が女子ということです。通称『裏美』、週に一回校内の空き教室で活動しているようです。主な活動内容は、鉛筆や木炭を使った人物の素描」
「…無認可とはいえ、そこまで問題があるような組織には思えませんが…『ここ』で取り上げているということは、つまり…?」
 含みのある視線を受けて、進行役の委員は表情を険しくした。
「…ええ、表向きの活動内容には問題はないのですが、その活動が実はいかがわ―――コホン、不適切なものなのではないか、との情報があります。…密かに男子生徒のポーズモデルを複数名雇い入れ、そのモデルを素描しているらしいのですが…ぬ、ヌードモデルと称して、上半身裸の男子生徒同士を……ああっ、わ、私の口からはこれ以上はとても言えません!!!」
 俄に取り乱した委員は顔を真っ赤にして叫び、手にしていた資料をばさばさと取り落とした。ぜえはあ、と暫く肩で息を吐いた後我に返ると、咳払いをして話を続ける。
「…失礼しました。とにかく、そんな不埒なことを行っているらしいのです。周辺関係者の口がとにかく堅いのですが、それも納得な話です……先日、モデルをやったことがあるという男子生徒との接触に成功したのですが、不適切な活動内容の裏を取ろうとしても頑として認めませんでした。ただのポーズモデルだ、の一点張りで…」
「…まあ、気持ちは解らなくもないわね。でもそれじゃ、モデルをした男子から証言を引き出すのは難しいでしょうね」
 進行役の委員は相手の言葉に頷き、続けた。
「ええ。それに、会員たちの警戒心は並みではありません。活動を行う際、使う空き教室を毎回変え、窓のカーテンは閉め切り、廊下に見張りを置いている徹底ぶりだそうです。これだけの情報を集めるのにも、それなりに苦労しました。どうやら向こうは、全風紀委員の顔や名前を把握しているようです。私たちが調査のために派手に動けば更に警戒を強めてしまい、証拠を掴もうにも活動自体を暫く取りやめにするかも知れません」
 冷静な意見に、チームの面々は考え込んだ。風紀委員は動けない、となると―――風紀委員以外の人間に動いてもらうしかないわけで。導き出された結論は、誰しもが予想し得た必然であった。
「…協力者を募るしか、ないようですね」
「そうですわね。調査計画が洩れると困りますから、信頼の置ける人物に紹介を頼むことにしましょう」

●久遠ヶ原学園、とある廊下
「折り入って頼みたいことって、何だよ?」
 放課後。西日の差す廊下の片隅に、男子生徒が二人。一人は、腕に依頼斡旋所の腕章を着けている。
「お前を男と見込んで、やって欲しい依頼がある―――報酬は弾む」
 両肩を掴まれた男子生徒は、いつになく真剣な面持ちで迫る相手の顔を見返して、己も表情を引き締めた。相手の男―――斡旋所の職員の男には、中等部の頃から何かと世話になっているのだ。ここで無下に扱ってしまっては、男が廃る。
「やって欲しい依頼って、何だよ? どういう内容だ?」
 既に引き受けるつもりで、依頼の詳細を問う。斡旋所の男はその顔に沈鬱な影を落として、告げた。

「頼む――――生け贄になってくれ」


解説

・謎の組織『裏・美術愛好会』の活動内容を調査することが目的です。
・調査方法はどんなやり方でも構いませんが、風紀委員たちは確実性を重視します。『どんな活動が行われていたか解る証拠』を提出出来れば、報酬額は上乗せされるでしょう。

●マスターより

初めまして、このたび無料シナリオのうちの1本を担当させていただくことになりました、Yetiと申します。
…アレですね。そう、アレです。アレが好きな人たちです。
色々な調査方法があると思います。でも、リスクが高ければ高いほど、得るものが大きいっていうのが世の常ですよね。


現在の参加キャラクター


プレイング

撃退士・緋伝 璃狗(ja0014)
鬼道忍軍
■心情
衆道自体は古くからある日本文化、という認識なので特に嫌悪感はない。
しかし「そっちの趣向でない男子を騙す形で巻き込んでいる」のと
「学園でやるには少々如何わし過ぎる」点は宜しくないと考えている。

■行動
月島と男子A班で行動。生贄としての潜入を希望。

・準備
風紀委員が接触したという男子生徒を教えて欲しい。
人員募集が貼られている掲示板があれば、そこも一応確認。
募集があればそちらで、なければバイトの話を聞いたと男子生徒に接触し紹介して貰う。
「少々金が入用なのだが、この通り愛想が無いもので接客系のバイトには中々受からなくてな」
紹介して貰った場合は、礼に握手をしてその時に
(全て知っている、気にするな)というメモをこっそり渡す。
生贄を送り込んだという罪悪感を抱いて欲しくないから。

・潜入
上記の理由込みで裏美会の人間にバイト希望を伝える。
相手の趣向を考えて月島とたまに目を合わせたり、必要以上に近くにいてみたり。
接触した人間の特徴や会話内容は覚えておく。

・調査
携帯音楽プレーヤーの録音機能を入れたままでズボンのポケットに入れ、モデルに挑む。
最低でも挨拶で声は出す筈だし、名前を名乗る可能性もある。
また、ポーズを指定する声も十分証拠になる筈だ。
尚、モデル中も基本無表情。指示されれば善処はするが…

不採用な場合は、事前に空き教室のカーテンを開けての絞込みや、
接触した人間の交友関係を調べてみる。

※弄りや絡み歓迎

撃退士・シルバー・ジョーンスタイン(ja0102)
ダアト
潜入の為にアレ系の事に興味あり気に男子組の周りをうろついてみたり、
風紀委員で部員と思しき人物がリストアップされていればそちらにもこそこそっと接触してみる。
また、接触できるモデル被害者の学生がOPの人物以外にも居て他の女子組と被らないのであれば、そちらから入部出来ないかも探る。

入部後、活動に参加した際には、部員が思わず目を向けて、
その間に他の潜入メンバーが証拠を集められるような見事な一枚を描くと全力を出す。
「ふはははは!見たまえこの私の力作を!」
「え?キリンに見える?……何を言うのかね、どう見ても人ではないか」
わざとではなく全力。

証拠集めでは携帯のボイスレコーダー機能を使って活動中の部の音声を録音する。
終了後に部員にメールアドレスの交換を求めて携帯を操作しつつ、こっそり録音を保存。
アドレス交換で部員の名前と連絡先も確保しておく。その際に「今日来ているので全員なのかね」と聞いたりも。
普通のボイスレコーダーも用意出来るならば、こっそり鞄の底に仕込んでおく。

撃退士・雪室 チルル(ja0220)
ルインズブレイド
目的:
証拠をしっかりと集め、またどのようなことをやっていたのかを理解する

準備:
事前にモデルをした男性と会話し、
伝手でバイトとして男性班を紹介してもらえないかを相談する。
その際個人情報の保護は必ず約束する。
また、同行者全員の連絡先を共有しておく。

同行者:
以下の編成で行動。
女子
A班:雪室、シルバー
B班:茜、司
男子
A班:緋伝、月島
B班:喜屋武、御門

行動:
・潜入まで
男子班をわざとらしくじーっと覗いて、
あたかも興味があるような雰囲気を出す。
その際同類と思って誘ってくれた場合はその誘いに乗り、
部活動への潜入を試みる。
潜入できなかった場合は潜入出来た班から連絡を貰い、
活動拠点となる教室を特定。

・潜入後
部活動中は目立たないように普通に活動。
ある程度周囲の状況がつかめたところで
何をやっているのか、またどうしてやっているのか等質問をして周りの注意を引き、
証拠を集める時間を稼ぐ。
頃合いを見て怪しまれる前に退出する。

撃退士・月島 祐希(ja0829)
ダアト
【心情】
くそっ、何で俺がこんな事しなくちゃいけないんだ!?
そういう趣味を否定するつもりは無いが、自分がターゲットにされるのかと思うとな……
……さっさと終わらせて帰りたい。

【潜入】
まずは緋伝とペアで、モデルやってた奴に接触してバイト紹介してもらう。
自分からこんなバイトを希望する奴なんてそう居ないだろうから、部員に対してはあくまでただのモデルと思ってる設定で。
緋伝以外の依頼参加者とは初対面のフリで、偶然集ったモデルと新入部員を演出する。

採用されたら準備時間辺りに、部員に記念としてデッサンを1枚貰えないか頼んでみるか。
警戒心の高い奴に聞かれたら断られそうだから、大人しそうな子を狙って耳打ちで……
貰えたら良い証拠になりそうだ。
記念に絵を貰いたがるぐらいだから、モデルに対してはノリ気なフリしといた方が良いか。

【モデル中】
こ、これは……想像以上に、恥ずかしいっ……!
脱がされるとしても、ペンダント(自由設定参照)だけは死守したいな。
こんな事でうっかり失くしたりしたら、母さんに顔向け出来ねぇ…

【終了後】
散々な目に遭ったけど……まあ、自由な校風の学園なんだし、こういう部活があっても良いんじゃねえの。
……人に迷惑を掛けない活動内容ならな。

撃退士・喜屋武 響(ja1076)
ルインズブレイド
「俺は喜屋武響っていいますさっ、ゆたしくっ♪」

まずは前回の裏美の活動でポーズモデルをしていた生徒たちに接触して、その男子生徒達経由で、そのバイトを紹介してもらうっさ。
あくまでただのモデルのバイトだと思っている風に振舞うさー。
そろそろクリスマスが近くて、お金がちょっと入り用なんだって説明するさ。

うまく潜入できたら、大人しくデッサンされとくっさ。
こちとら男七人兄弟の末っ子、男同士で絡み合うくらい屁とも思わんさ!
もしかしたら結構楽しんじゃうかも知れんさねっ

「んー、こう……っさ?」(ポーズをとりながら)
「どーせだし、楽しまなきゃ損さよ!」

で、部活動が終わったら、部員の一人に接触して、
「おお、上手く書けてるっさねー……それ、良かったら貰っちゃ駄目っさ?」
って感じで、褒めつつ証拠物品を手に入れたいさー。断られたら素直に引き下がるっさ……。

絡みや弄りは大歓迎。腐的な意味でも大歓迎さっ!

撃退士・御門・士咬(ja2801)
阿修羅
「(なんか投げやりな様子で)御門・士咬。よろしく頼む」
春もまだ遠いってのに変な部活が多いもんだな…
めんどくせえけど、ほっとくと被害者?が続出しそうだ。
あーあ、知らなきゃよかったぜ←

【行動】
喜屋武(ja1076)とペアで行動。
「ん。よろしくな」
アルバイトだなんだと適当な理由をつけて、潜入をする事にするぜ。

因みに女子9割と言うが、じゃあ残り1割はどんな奴らなんだろう?
聞いてみて調べてみよう。
明らかなイレギュラーってのはなんかしら鍵になる事もあるしな。
余りおおっぴらに聞き込みはしないが、微にいりとまではせず不自然で無いようにしつつ、自分一人が警戒されるなら他は手薄になるしいいかなって感じで調査。
喜屋武以外の仲間とは携帯で連絡をとりあい、直接の接触は避ける。
喜屋武にいい考えがあるならそれに乗る。

ダメなら成功した連中の跡を密かにつけていこう。
頃合いを見計らってケンカをしてる様に芝居を打ち窓ガラスを叩いて見たり。

撃退士・茜 夜美(ja4167)
ルインズブレイド
司華蛍と一緒に行動します。

ストレートに入部をして潜入をします。
入部のとっかかりは過去にモデルを経験した人間から関係者の情報を聞き出して、ルートを確保。
尋問の際は朗らかにトラウマを抉って無理やり聞き出します。
「ふふふ・・・私たちは『入部希望』なのですよ? ・・・あら偶然、あんなところに空き教室がありますわ」

関係者が聞き出せれば、その人物を通じて入部希望を出します。

潜入(入部)後は、部員にさりげなく話しかけて名前や学年を聞き出しておきます。
話しかける際は同好の者には気を許すだろうことを狙ってアレな話を全開で(←半ば以上は素)


イベント(依頼)終了後>
「ふぅ・・・生の三次元も悪くはないですが、やはりこういうものは二次元の方がイイものですわね」

撃退士・司 華蛍(ja4368)
ダアト
【心情】
「・・・世の中には、色んな嗜好があるのね。」
・世の中は広いなあ、などとどこかずれた感心をしている

【準備】
・茜さんと共に入部志望者を装って部活に潜入する
  潜入方法は、OPの男子学生経由で部員に入部希望を持ちかける
・他チームとの連携・証拠写真の収集のため携帯電話を所持する

【行動】
潜入成功の場合>
・潜入失敗したグループへ、部活が行われる教室についてメールで連絡をする
・大人しくスケッチに参加しながら、証拠を集められそうな隙を伺う
・寮に帰ってもスケッチの練習をしたいからという理由で写真を撮ろうと試みる
・写真が許可されない場合、外に居るチームが騒ぎを起こした間に、証拠集めを行う
・外にチームが居ない場合、自分で注意をひきつけて、他メンバーに行動してもらう
・スケッチが上手な人を一人見つけ、お手本にしたいからと一枚もらえないか交渉する

潜入失敗の場合>
・潜入したチームからの連絡を待ち、見張りに見つからないように該当教室の近辺に潜伏する
・頃合を見計らって、大きな物音を起こすなどして、中の人間の注意をひき、その間に潜入チームに証拠集めをしてもらう



リプレイ本文

「手っ取り早く金が稼げるって聞いたんだけど。ホントか?」
 御門・士咬(ja2801)が面倒くさそうな仕種で髪を掻き上げながら問うも、彼の目の前の女子生徒は沈黙したままだ。口を半開きにし、御門と彼の隣に立つ喜屋武 響(ja1076)を、ひたすら交互に眺めている。
「も、もうすぐクリスマスだし、俺達金が要るんさ!」
 何だか妙な空気の流れている場を取り繕おうと、喜屋武も声をあげる。しかし、女子生徒は一向に答えない。御門、喜屋武、御門、喜屋武、と視線を彷徨わせるばかりだ。どうしよう――二人が顔を見合わせた瞬間、

「――ィヨッシャアァァァ!!」

 女子生徒が両の拳を握ってあげた雄叫びに、二人はビックゥゥゥゥと背筋を強張らせた。え、一体何が?と思う間もなく、爛々と目を光らせた相手がずずいと詰め寄ってくる。
「いいわよいいわよ、貴方達久々のヒットだわっ!! ここのところ、あたし好みのう――」
 言いかけて、女子ははっと我に返り両手で己の口を塞いだ。数秒の間。危なかった――という感じの表情が一瞬浮かんだが、すぐに笑顔で取り繕い一歩後ろに退がる。
「…っと、今のは気にしないでね! ええ、お金を稼げて、貴方たちにぴったりのアルバイトがあるわよ!」

「うむうむ、それは重畳――我々が紹介した甲斐があるというものだよ、なあ、ちるるん?」

 自身の存在を主張するように、シルバー・ジョーンスタイン(ja0102)が男子二人の陰から進み出る。会話を振られた雪室 チルル(ja0220)も、頷きながら前に出た。
「そうね、この二人は――あたい達の目から見ても、興味深いというか何というか…」
 依頼仲間の男子二人に、ちらっちらっと意味ありげな視線を投げるシルバーと雪室。微妙にぎこちない感じがするのは、二人に腐属性がないせいだ。
 風紀委員が接触した男子生徒とは別口で、モデル経験のある男子生徒を探し出し接触。会員の情報を入手し、アルバイト希望を装う男子B班(御門・喜屋武)と共に会員を訪ね、そこで腐の演技をしてあわよくば入部を――というのが、シルバーと雪室の考えた作戦だった。
「仲良きことは美しき哉。彼らを眺めていると、私の心臓は動悸息切れ心不全で困ったものだよ」
「…あら。貴方達、もしかして…」
 会員が、二人の演技を見て目を瞠った。雪室は、本当にこんなことで釣れるのか――と実践するまでは半信半疑だったが、相手の反応を見てここぞとばかりに畳みかける。理由はよく解らないが、食い付いたことだけは確かだからだ。
「そう、そうなの! あたい達…」
「ああ、いいのよそれ以上は言わなくて。解ったわ、貴方達二人は入会希望ってことで、会長に話を通しておくから。……フレッシュな生け贄を手土産にするなんて、なかなか気が利いてるじゃない…」
 生け贄二人に聞こえぬよう最後の部分だけぼそりと雪室に耳打ちすると、会員の女子生徒はにこやかに携帯電話を取り出した。
「後で活動日と場所を連絡するから、番号とアドレスの交換をしましょ。あ、勿論モデルの二人もね」

 無事にアドレス交換を終え、会員の女子が立ち去ってから暫くした後。遠い目をした御門が呟いた。
「…潜入出来そうなのはいいけどよ……想像以上に、凄そうだよな…」
「そうっさねー、でも、何事も経験っさよ! どーせだし、楽しまなきゃ損さよ!」
 御門とは対照的に、喜屋武はあっけらかんと笑った。



 一方、男子A班こと緋伝 璃狗(ja0014)と月島 祐希(ja0829)も、過去にモデルをしたことのある男子生徒との接触に成功していた。依頼主である風紀委員達から、彼女達が接触したという人物を紹介してもらったのだ。相手を怯えさせないように、なるべく穏やかに接するようにという助言付きで。

「いいバイトの話があると聞いたんだが。良かったら、俺達に教えてもらえないか? 少々金が入用なのだが、この通り愛想が無いもので接客系のバイトには中々受からなくてな」
「頼む。絵のモデルとか、一度やってみたかったんだ」
 緋伝と月島が普段よりも柔らかい語調で言うと、男子生徒はとても複雑そうな色を面に滲ませた。二人が何も知らぬ風を装っているため、あんな仕事を紹介しては可哀想だ、と思ったらしい。だが、断るならばモデルの実情を話さないわけにはいかなくなるし、そうしたら自分がどんな目に遭ったのかも知られてしまう――何も言わずモデルのバイトを紹介すべきか、それとも真実を打ち明けるべきか――男子生徒は葛藤した。

「こんにちは。ちょっと宜しいかしら?」
「私達、その方に大事なお話があるの」

 そこに現れたのは、女子B班こと茜 夜美(ja4167)と司 華蛍(ja4368)だ。彼女たちも、女子A班のシルバー・雪室組と同様、入部希望者として被害に遭った男子と接触する手筈になっていた。会話に割り込む形になったのは、緋伝達とは既に知人であるという事実を隠蔽するためだ。女子A班のように別の被害者を見付けられれば良かったのだが、手がかりすら入手出来なかった末の苦肉の策だった。
「…俺達の方が、先に話してたんだけど?」
 少々不機嫌そうに緋伝が眉を寄せるが、演技であることは当然女子二人にも織り込み済みだ。茜は軽やかに笑い声をあげ、
「あら、それは御免遊ばせ。でも、わたくしたちを優先した方が宜しくてよ――ねえ、鈴木一とやら?」
 ほんの一瞬、猛禽のごとき鋭い一瞥で、被害男子の双眸を射た。名前を呼ばれた男子生徒は、茜のただならぬ雰囲気に気圧されたか、冷や汗を垂らして首を縦に振った。男子二人に断りを入れ、茜と司の方へおどおどと歩み寄る。

「わ、解りました…君達、ちょっとごめん。あの…だ、大事な用って何でしょうか…?」
「…あなたがアルバイトの依頼を受けたっていう、裏・美術愛好会の会員の連絡先を知りたいの」
 司が小声で告げると、男子生徒は可哀想なほどの動揺を見せた。さっと青褪め、えっ、あの、えっ、などと意味を成さない言葉を発して狼狽える。そんな彼に聖母のごとき笑顔を向け、茜は耳元で囁いた。

「ふふふ…私たちは『入部希望』なのですよ? …あら偶然、あんなところに空き教室がありますわ」

 男子生徒のトラウマを散々抉った茜と司は、会員の連絡先を手に入れて悠々と去っていった。残された緋伝と月島は、体育座りで鬱ぎ込む男子生徒に激しく同情し、胸を痛めていた。だが、それもこれも新たな犠牲者を出さぬため――放っておいてあげたい気持ちをぐっと堪え、声をかける。
「…何があったのか知らないが、あまりヘコむなよ。それで、俺達のバイトの話なんだが…」
 打ちのめされた男子生徒からは、真実を告げる気力など吹っ飛んでしまったらしい。緋伝に問われると、膝に顔を埋めたまま鼻声でぼそぼそと返した。
「…高等部二年の、榊美加。彼女にアルバイトしたいって言えば、させてくれると思うよ…」
「…ありがとう。これで、クリスマスを乗り切れる」
 緋伝は心からの礼を述べて膝を折ると、男子生徒の手を取って握手した。その際、小さく折り畳んだメモ用紙を手の内に隠し、相手の手のひらへ握らせる。紙の感触に気付いて男子生徒が顔を上げたが、緋伝は何も言わず頷いてみせた。

 二人が立ち去った後、男子生徒は受け取ったメモを開いた。そこには――。

『全て知っている、気にするな』

 女子二人に脅される前、真実を告げるべきか否か葛藤していた彼の心情を、見越したような言葉。
 緋伝の優しさに、鈴木一は再び泣いた。



 三日後。携帯電話のメールで連絡された場所に、8人はいた。広い空き教室はすっかりカーテンで締め切られ、何となく息苦しい。モデルである男子組は、まだ準備が終わっていないということで教室の隅で待機中だ。会員たちの中に紛れた女子組は、先輩会員の指示で椅子を並べたりブルーシートを床に敷いたりしながら会員達の様子を窺っていた。
「…席って、最初から決まっているの? それとも、好きなところに座っていいのかしら?」
 椅子を並べる作業をしながら、司は近くにいた女子会員に声をかけた。出来れば証拠写真を撮りたく思っている彼女は、モデルと一緒に会長の姿もファインダーに収まるような席がベストだと考えていたのだ。席は特に決まっていないが、会長だけは教壇の上の特別席だと教えてもらった司は、教壇と反対側の椅子に自分の席を見繕った。
「…さて、準備が出来たようね。早速開始するわよ!」
 会長の号令で、腐ったデッサン大会が始まった。

「もっと! もっと近く! ぴったりくっついてッッ!! そのままの姿勢を維持して!!」

 会長の指示が飛ぶ。トップバッターとなった緋伝と月島は、胸元を開いたしどけない格好で絡み合っていた。正面からぴったりと抱き合い、吐息が触れ合いそうな近距離で見つめ合う。調査のためとはいえ気まずいことこの上ないが、月島は証拠集めのために乗り気を装うと決めていた。文句も言わず、素直に指示に従う。緋伝も同じ気持ちなのか、大人しくポーズを決めている。
 ――それでも。恥ずかしいことは恥ずかしいわけで。

(こ、これはヤバい……想像以上に、恥ずかしいっ……!)

 月島は、我知らず赤面した。相手である緋伝が無表情なことも相俟って、何だか自分だけが動揺しているような気分になるのだ。心なしか、微妙に目許も潤んできたような――。
「…おい。大丈夫か…?」
 月島の様子がおかしいことに気付いた緋伝が、相手にだけ聞こえるぐらいの小声で問う。浅黒い肌に涼やかな眼差しの整った容貌から目を逸らせず、月島はパニックに陥りかけた。
(だ…駄目だ…母さん、俺に力を…!!)
 肌身離さず身に着けている形見のペンダントに祈りを捧げ、平静を装う。
「ち、ちょっと恥ずかしいだけだ! そんなことより…そ、そうだ、録音は大丈夫なのか?」
「ああ、ちゃんとポケットに入れてある」
 緋伝は証拠集めのため、密かに録音機能を入れっぱなしにしたフラッシュメモリタイプの携帯音楽プレーヤーを持ち込んでいた。
「そ、そうか…、俺の方は、スケッチを1枚もらえないか誰かに頼んでみるつもりだ」

 会話で気を紛らわせているうちに、スケッチ1回目は終了した。緋伝と月島は休憩、次は御門と喜屋武の番だ。

「ふはははは! 見たまえこの私の力作を!」
「…あたいには、キリンにしか見えないんだけど…」
「え? キリンに見える? ……何を言うのかね、どう見ても人ではないか」

 モデル達が入れ替わる間に、シルバーと雪室は素で漫才を繰り広げていた。腐った集団の中で微妙に浮いてしまっていたが、二人に気付く様子はない。茜は腐的雑談という名の情報収集に徹し、司は司で証拠集めのために隣の席の会員に話しかけていた。
「あの、ちょっと聞いてもいいかしら。家でも練習したいので、モデルさん達の写真を撮らせてもらいたいのだけど…」
「あー、写真はモデルが泣いて嫌がることが多いからねぇ…今日のモデルは大人しいから大丈夫そうな気もするけど、会長が前に駄目って言ってたしなぁ」
 うーん、と首を捻る相手の姿に、司は深追いをやめた。
「じゃあ、写真の代わりにあなたの描いたスケッチを1枚もらえないかしら? お手本にしたいの」
「あらー、熱心ね〜。もしかして、薄い本を作る予定でもあるの〜? いいわよ、あげるわ。その代わり、本が出来たら1冊ちょうだいね!」
 傍目にはとても腐っているようには見えない茶髪のギャル系女子は、鼻歌を歌いつつスケッチブックから1枚自分の絵を破いて司に差し出した。薄い本って何のことかしら…などと思いつつ、司は丁重にそれを受け取り自分のスケッチブックに挟み込んだ。



「そう! そのまま馬乗りにっ!!」
「了解っさー! あ、どうせなら前もはだけた方がいいっさね?」
「ナイスよ! ばりっといっちゃって! あ、御門くんの服もね!!」
 スケッチ2回目。喜屋武は、『楽しまなきゃ損』という言葉通り本心からモデルを楽しんでいた。指示に従うばかりでなく、自分から積極的に意見を出して会員達を喜ばせている。相手役の御門はといえば――既に半狂乱だった。
「やめろぉぉぉぉぉ!!! っていうか何で俺が下!!? おかしいだろぉぉぉぉ!!!」
「しょうがないっさよ、そういう指示っさ。潔く諦めた方が、男前っさよー?」
 にこにこと無邪気な笑顔で、喜屋武が御門のシャツをばりっと開ける。引き締まった胸板が露わになると、黄色い歓声が会員達から上がった。シルバーと雪室は異様な光景にどん引きしながらも、周囲に合わせて声を出す。
「きゃー、いやーん」
「な…何と言うべきかこれは…神秘だね! そう、神秘だよふはははは!!」
 …若干自棄気味だったり、棒読みなのはご愛敬ということで。
「喜屋武くん、御門くんの胸の上に手を置いて、悪そうな顔で笑ってちょうだい!! 御門くんは、恥じらうように目を伏せて!!」
 会長の指示には容赦がない。魂の限りに、御門は叫ぶ。

「出来るかァァァァァーーーー!!!」
「往生際が悪いっさよ? ……悪い子には、お仕置きっさ……?」

 ニヤリ、と口角を歪め喜屋武が悪辣に嗤う。迫真の演技に、教室内は拍手喝采。やんややんや。会員達は皆我を忘れ、興奮していた。普段は冷静な会長までもが、鼻息荒くモデルの二人に見入っている。
「喜屋武、そのまま押し倒しなさい!!!」
 熱狂する会員達に混じり茜が拳を突き出すと、その声に全会員が唱和した。押し倒せ!! 押し倒せ!! 押し倒せ!!

「…ひ、や、やめ…………アッーーーー!!!!」

 …その日の愛好会の活動は、下校時刻になるまでねっとりこってりと続けられた。



 後日。依頼主に証拠の音声の記録されたディスクとスケッチを手渡して、彼らの依頼は無事終了した。風紀委員たちは証拠写真が一番欲しかったようだが、音声データとスケッチのみでもかなり喜んでくれた。
「…世の中には、色んな嗜好があるのね」
「ふぅ…生の三次元も悪くはないですが、やはりこういうものは二次元の方がイイものですわね」
 司と茜がしみじみ言う。シルバーと雪室は、二人して遠い目だ。
「…あたいには、よく解らない世界だったわ…」
「ひどい罰ゲームだった…というか単純に気持ち悪かった……」
 緋伝と月島の感想も、雪室達と大差ない。
「…何ていうか、カオスだったな…」
「…ああ…カオスだった…」

「……俺…もうお婿に行けねぇ……」
 今回一番の犠牲者である御門は、再起不能な感じで鬱っている。そんな御門の肩に手を置き、喜屋武は真面目な顔で曰った。
「大丈夫っさよ、ちょっと裸の胸を撫でられただけじゃないっさ? 犬に噛まれたとでも思っておけばいいっさ」
 にっこり、イイ笑顔でサムズアップ。

「……お前が言うなァァァァーーーー!!!」

 御門の悲しい絶叫が、久遠ヶ原に谺した。


依頼相談掲示板

相談卓
雪室 チルル(ja0220)|中等部1年1組|女|ルイ
最終発言日時:2011年12月10日 14:19
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2011年12月08日 08:19








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