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マスター:漆原カイナ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
サポート:0
報酬:通常
リプレイ完成日時:2011/12/27


オープニング

●危険な好奇心! インビジブルストーカー!
「どうして……!? 誰もいなかった筈なのに……」
 久遠ヶ原学園に建つ寮の一室。自分の他には誰もいない部屋の中で一人の女子生徒は戦慄しながら呟いた。
 夏も本番に入ろうとする暑い季節、開けた窓から吹きこむ夜風が丁度良い涼しさを運んでくるが、今の彼女はまるで真冬の部屋にいるような寒気を感じていた。
 驚愕と恐怖のせいで、携帯電話を持つ手は小刻みに震え、ディスプレイに表示された文字列を追う目線も定まらない。
 ディスプレイに表示されていたのは、自分の一日の生活パターンとその要所要所を撮影した画像。まるで観察日記のように、一定時間ごとに撮影された写真がアップロードされ、それに詳細な――その場を見ていたとしか思えないコメントが書かれている。
 彼女はちょっとした人気者だった。所謂、容姿や声が可愛い女子生徒として噂になり、他のクラスから彼女を見に来る男子生徒がいたする程度のレベルだ。とはいえ、彼女にしてみれば、少しは誇らしい気持ちもあった――だが、それも一瞬で吹き飛んだ。
 朝起きてから、出席の時、昼食中、そして放課後――ありとあらゆるシーンが盗み見られるくらいなら、変に男子生徒人気など集めない方がいい。彼女にはそうとすら思えてくる。
 きっかけは親友からの一言だった。盗み撮りされた自分の写真がアップロードされているというアングラサイトがある――そんな噂が流れていると教えてくれたのだ。
 最初は誰かの冗談かデマかと思い、半信半疑のまま軽い気持ちで検索をかけた彼女は、その噂が事実だと言うことを知って戦慄し、恐怖の底に叩き落とされた。
 彼女は震える手で携帯電話を折りたたもうとした時、新たな書き込みが一件増えていることに気付く。恐怖に震える指で恐る恐るその書き込みをクリックすると、そこには携帯電話を手に恐怖で引きつった顔をしている自分の姿があった。

 ――現在、男子生徒の間で人気沸騰中の彼女、自分の特集記事を見つけてビックリ!
 
 おどけたような調子で書かれた書き込みの表題とコメントの横には、たった今自分がこのサイトを見ていた時の姿を盗み撮りした画像が添付されていたのだ。
「い、いやあああぁぁっ!」
 ――誰かに見られている。それを紛れもない事実として確信した彼女は、半狂乱になって携帯電話を放り投げると、窓へと駆け寄りしっかりと窓と鍵を閉める。そして、引きちぎらんばかりの勢いでカーテンを引いた。
「嫌……もう……嫌……」 
 遂には涙を流しながら、彼女はベッドにもぐりこむと、まるで自分の姿を覆い隠そうとするように布団を頭からかぶった。
 
●姿なき能力者! インビジブルストーカーを見つけ出せ!
「――ということなの、協力してくれないかしら?」
 休み時間の教室。教室で休んでいた撃退士達へと一人の女子生徒が話しかけていた。
 聞けば、最近、学校の裏で話題になっているという、美人女子生徒を追跡してコメントや画像を掲載するアングラサイト――『インビジブルストーカー・レポート』。親友がその被害者になってしまったというのだ。
 必死の表情と声で訴える女子生徒の話に、撃退士達は聞き入っていた。
「あくまで噂ってだけだけど……今の所わかってるのは――犯人はどこかに潜んだりする能力とか、情報を集めたりする能力に特化した能力者なんじゃないか……ってこと、そしてもう一つは――」
 そこで彼女は一度言葉を切ってから、気持ちを落ち着かせるように深呼吸した後に、二の句を継ぐ。
「――犯人は、同じような能力者が何人か集まったグループなんじゃないか……ってことなの。確かに、一人じゃ追い切れないシーンまで盗み撮りされてるのを考えると、犯人が沢山いるっていうのも間違いじゃないかな、なんて思えるわ」
 撃退士達が事情を理解し終えたのを見て取った彼女は、沈痛な面持ちで語り出した。
「あたしの親友は、もう何日もベッドで布団をかぶったまま外に出られないの。今も誰かに見られてるんじゃないかって思ってて、あたしが差し入れを持って行った時も、少しドアを開けただけで泣き出したのよ……」
 悲痛な声で語り終えると、彼女は深々と頭を下げた。
「お願い。あたしの大切な親友なの。だから、あの子を助けてあげて」


解説

・能力を悪用する盗撮犯――インビジブルストーカーを退治するシナリオです。
・犯人は意識のある状態で捕縛しても、殺さない程度に叩きのめしても構いません。
・被害者の親友も言っていたように、隠密能力や情報収集能力に優れた能力者による複数犯のようです。
 ただし、戦闘能力が全く無いというわけではなく、連携を活かした攻撃をしてくるかもしれません。
・今の所、犯人が標的にしているのは女子生徒のみのようです。

●マスターより

 こんにちは。お初にお目にかかります。
『エリュシオン』よりWTRPGにてマスター活動をさせていただくことになりました、漆原カイナ(うるしばら かいな)です。
 皆様に楽しんで頂けるよう全力を尽くしますので、どうぞよろしくお願い致します。

 最初の学園モノのシナリオということで目的の解り易いシナリオを用意してみました。
 能力を悪用する能力者との勝負を楽しんで頂けましたら嬉しいです。
 それでは、無事インビジブルストーカーを退治して、件の悪質なサイトを叩き潰してください。

 シナリオクリアの為のアイディアがあればどんどん出してください。
 シナリオはマスターとプレイヤーの皆様が一体となって面白くしていくものだと思っております。
 ですので、良いアイディアはどんどん採用していきます。奮ってお出しください。

 最後までお読み頂きありがとうございました。それでは、プレイングでお会いしましょう。
 漆原カイナでした。


現在の参加キャラクター

撃退士
与那覇 アリサ(ja0057)

阿修羅
撃退士
黒霧 風斗(ja0159)

ルインズブレイド
撃退士
鳳月 威織(ja0339)

ルインズブレイド
撃退士
サフィラ・E=シュヴァイツァ(ja0547)

ディバインナイト
撃退士
四方月氷雨(ja0551)

ルインズブレイド
撃退士
斐川幽夜(ja1965)

インフィルトレイター
撃退士
立里 伊吹(ja3039)

ルインズブレイド
撃退士
吉良貞治(ja3489)

ディバインナイト


プレイング

撃退士・与那覇 アリサ(ja0057)
阿修羅
《行動》
足で情報稼ぎしないとだなー。ま、どうしても相手の尻尾が掴めなさそうならおれへ警戒させるような調査して動物たちに見張ってもらうさー
それと依頼で動いてる事は人には伏せて動くさ。誰がどう繋がってるかわからないしなー
嫌がらせしてる奴に個人的に我慢できなくなって探してるって感じで動いてみるさ
それとおれは相手の主犯格は女性だと思ってるから…男女問わず警戒さー
携帯はマナーモードで情報がわりと集まったら報告だなー

最初に被害者の子の住んでる場所の周辺に居る動物たちから話を聞いたり何かあれば報告してもらうように話すんだぞー
動物たちとも連携で追い詰めていきたいな
あと得られた情報を元に犯人追わないとさ

犯人の1人とほぼ確信したら捕まえて話すまで締める!その間も警戒はするけどな?
あとは相手が複数人だったりしたら応援を気がつかれないように要請だな。その間もちゃんと警戒しながらさー

※行動は使い切らないように戦う

撃退士・黒霧 風斗(ja0159)
ルインズブレイド
メンバーは顔見知りなので呼ぶ時はアンタが基本だが他に分かりやすくする。

基本的に個人の足で行動を取るが召集がかかった時は中止し合流を図る、情報については事前に聞いている。
また取得した有益な情報は仲間側に連絡を入れる。

行動を取る際にこちらも気配を消し、音を立てず、気づかれない位置取りで行動を起こす。
また退路は複数用意しておきまける様にする、尚気づかれた際には仲間に連絡を入れ報告をする。

敵が1の場合も状況判断を優先、無謀な行動は取らないようにする。

仲間が敵を追い詰め敵と接触した場合は敵の退路を塞ぐ行動を優先。
また退路を塞ぐ行動を防がれた場合は状況が悪い場合は一時撤退、仲間が敵複数と接触しておりこちらが1だった場合のみに連絡を簡単にいれ戦闘を行う。

戦闘時常に敵の間合い、動き、隙を探り、致命的打撃を与える、また敵がわざと隙を作る行動にはこちらからは乗らない、乗る場合はそれを利用する。
戦闘に勝利した場合敵を拘束。

撃退士・鳳月 威織(ja0339)
ルインズブレイド
未知の能力相手に戦うのはとても楽しそうですが、
何より彼女に平穏な学園生活を取り戻してあげられるよう頑張ります。
「嫌がる女の子を追い回す奴は極刑じゃ」とうちの祖父も言っていましたし、ね

…それにしても、僕はもう少し通信機器の使い方を勉強した方が良いですかね
メールと通話は出来ますが、それ以外はからきしです

●行動
追跡班として行動。
仲間の調査から得られた情報から、怪しいと思われる人物の後を追跡します

連絡用の携帯は鳴ると大変なのでマナーモードに。
お互いの連絡は密に取り合っておきます
…普段は通話よりメールの方が安全でしょうか。
アドレス教えて貰っておきましょう

尾行は怪しまれないよう慎重に、なるべく自然に見えるように。
また目の前の相手だけでなく周囲にも気を配っておきます
潜むのが得意なようなので、一人見たら他にも居るという認識です。

「…台所の黒い虫を思い出しますね」

得意という程でもなく素人同然の追跡ですが、ならばとその限界に挑戦するつもりで頑張ります。


誤認を防ぐ為、証拠を固めた上で現行犯逮捕。
犯人を特定後、一度仲間に連絡して追跡、捕縛が可能なチャンスが訪れたら確保に移ります

捕縛は全員か、時間的余裕が無ければ数名揃った時点で。
アイコンタクトなどでタイミングを合わせておきます。
取り逃がす危険を考えると出来る限り確実に行きたいので
一人で捕まえようとする事は絶対にしません。
抵抗が激しい場合は応援を要請します。

撃退士・サフィラ・E=シュヴァイツァ(ja0547)
ディバインナイト
基本行動

学内で調査・与那覇とペアを組む
捕縛の際には複数で対応・現行犯で捕縛
連絡は密に、仲間が得た情報から犯人を推測

主に生徒からサイトの噂を聞きこむ
依頼の事は伏せ「友人が被害に遭った」等の個人的理由で動いていると装う

調査方法
『サイトに関する噂・関連する事』を聞き込み
手掛かりになりそうな情報を取捨選択

定期的にスマートフォンからサイトに初心者の愛好家を装い書き込み情報を得る
相手を褒めて上げた所で「君が盗撮するところを見てみたい」と誘う
→釣りだしに成功したら仲間に連絡する

グループの実態が謎なので
互いの素性を知らないただの愛好家の集まりという点も考慮し
最大は盗撮犯全員、最低でもサイトの管理人の捕縛を目指す

捕縛の際は堂々と名を名乗ってこちらに目を向かせ
その間に仲間が捕縛できるように時間を稼ぐ

「わたくしは久遠我原学園風紀委員長のサフィラ・エルヴァニウス=シュヴァイツァです!正義の名の下にあなたをジャッジメント致しますわ!」

撃退士・四方月氷雨(ja0551)
ルインズブレイド
・意気込み
「…よく分からないですが。ストーカーって悪い人ですよね…?」

・目的
主犯格の捕縛、できるなら仲間内も確保

・準備
仲間との連絡用に携帯電話を用意する。追跡時に音が出て気づかれないよう、マナーモードにしておく
事前の打ち合わせ等をしっかり聞き、現地調査する人となるべく一緒に行動する

・行動
聞き込み中は依頼で調査している事がばれないよう注意し、一緒に組んでいる人が聞き込みしてる間は何があっても良いように、周囲の警戒をする
「…まだ。気づかれてないですよね…。」

こちらで現行犯を特定・発見した場合は一度連絡をとってチャンスを伺い、そのまま捕縛に移る。抵抗しそうなら味方と連携して応戦する
その際、必要に応じて応援要請を依頼する
「…ようはお前倒せば全部終わんだろ?」

捕獲後は犯人から情報を聞き出し、他に仲間がいる場合は可能な限り捕縛する

依頼終了後はできそうならば今後こんな事をしないよう普段の口調に戻って優しく説得を試みる

撃退士・斐川幽夜(ja1965)
インフィルトレイター
「知能の高い相手は難しいですね……」
「慎重にやりましょう。手は緩めずに」

敵に悟られぬよう留意。無理な戦闘は仕掛けない。孤立は極力回避。常に退路確認。手堅い服装。
有用な情報は味方に通知。味方の作戦や調査も分析及び連携。

盗撮画像から撮影位置等の分析と埋込情報等の確認。
サイト監視と調査分析は常に継続。


「敵が学内ネットワークを一切使っていなければ無駄な努力になりますが……」
「でも、やって損は無い、かな」

学内ネットワークの管理権限を持つ信頼出来る人物に交渉。伝手が無ければ生徒会や当局に交渉要請。
どのアドレスの端末がどの辺りの設置か、の情報を可能な限り得る。
学内ネットワークと問題サイト間の通信傍受を目指す。学内から問題サイトへのアクセス横取りの仕掛け設置を交渉。画像送信元端末のアドレスと(先に得た情報と付き合わせた)設置場所を即時通知する仕組みも準備。

傍受成功時、サイトの管理パス含む全情報を確保し分析。
被疑端末の位置を味方に通知し、周辺状況を追跡調査。


「人を撃つのには慣れました、文化祭で。主に自分の頭ですけれど」

戦闘時は協調して援護。敵の加勢と応援要請と罠を特に警戒。

撃退士・立里 伊吹(ja3039)
ルインズブレイド
■班分け
○現地調査班
・黒霧
・与那覇
・サフィラ
・四方月
・立里

〇サイトから調査
・斐川

〇追跡班
・吉良
・鳳月

■予定
1.調査
学園各所で極秘調査と件のサイト:インビジブルストーカーレポート(以下、ISR)の調査で、
情報収集を行う。
逆に襲撃を受ける可能性を考えて各自の携帯・スマホで提示連絡・報告を行い、
現在地と調査等の進み具合を把握しあう。

2.追跡
収集された情報から出された容疑者候補たち(または容疑者集団・クラブ)を追跡調査し、確定を図る。
(盗撮を実行している証拠写真など)

3.捕縛
ISRのリーダーやアジトが判明した場合は全員で強襲、捕縛を試みる。
調査や追跡中にISR側から襲撃を受けた際は、各自の携帯やスマホで救援・応援要請をワン・アクションで発信できるようにしておく。
要請を受信次第、全速力で現場に向かう。

4.その後
ISR一派の捕縛に成功したら、学園当局に証拠品と共に学園当局へ引き渡し、しかるべき対応を依頼する。

撃退士・吉良貞治(ja3489)
ディバインナイト
【心情】
  「ストーカー・・・いったい何の目的があるのかわからぬが、撃退士同士の戦いになるかもしれぬ。手は抜けんな」

【目的】
  依頼を解決する為、<ストーカーの撃破>を目的として参加する。
  PC自身は<主犯格以外の隠匿した敵の撃破>を目的に参加している。

【準備】
  <敵のネットワーク>に備えて、<少し離れた場所で全体が見えるよう>準備しておく。
  原則主犯を追い詰める役目はほかのメンバーに任せる

【行動】
  依頼中は<速効性>を重視し、刀で切りかかる
  敵が増えた場合は大声で仲間を呼んで対処
  個人戦の場合は基本的に独自でなんとかする。



リプレイ本文

●12月17日 11:00 久遠ヶ原学園 屋外
 
「という噂なのですけれど、ご存じないかしら?」
 学園内の一角でサフィラ・E=シュヴァイツァ(ja0547)は歩いていた女子生徒に問いかけていた。
「どんなことでもいいから教えてほしいさー」
 サフィラに続いて与那覇 アリサ(ja0057)も女子生徒に問いかける。サフィラとアリサは二人組で聞き込みにあたっていた。姿なき敵を相手に単独行動は危険だからだ。
「いえ……そんな噂は初耳……です。ごめんなさい」
 二人からの問いかけに女子生徒は申し訳なさそうに答えた。二房の三つ編みにした薄紫色の髪とメガネが特徴の大人しそうな少女であるその生徒が申し訳なさそうにしていると、傍目にはサフィラとアリサが詰問しているようにも見える。
 それを察したサフィラとアリサは努めて柔らかい表情を作ると、その生徒に手を振ってその場を後にした。
「なかなか有力情報はないものですわね」
 校舎と校舎の合間を歩きながら、溜息とともにサフィラは呟く。
「ま、久遠ヶ原学園には山ほど生徒がいるんだから、地道に聞き込みしていけば、なんくるないさー」
 サフィラを励ますように、アリサが相棒の虎猫と一緒に微笑みながら語りかけていると、サフィラは何かに気付いて表情を厳しくした。
「いつのまにか囲まれましたわね」
 自分の背筋を冷や汗が伝うのを感じながら、サフィラは武器を構えた。その直後、校舎の影から次々と高等部くらいの男子生徒が姿を現す。その数は七人。多勢に無勢は明らかだ。
 男子生徒たちは皆一様にミラーシェードとマフラーで顔を隠しており、ズボンのヒップポケットからクナイを取り出す。さしずめ、現代の忍者といったところだろうか。彼等全員が例外なくサフィラたちに殺気を向けていた。
「何なのですか、貴方た――」
 毅然とした態度でサフィラが詰問し終えるより早く、忍者の一人が素早い足捌きで一瞬のうちに距離を詰めると、サフィラへとクナイで斬りかかる。
 しかし、クナイがサフィラを切り裂く寸前、咄嗟に彼女と敵の間に割り込んだアリサが脚甲でクナイを受け止めた。
「サフィラはみんなに連絡さー!」
 ちらりと振り返って言ったアリサの言葉に頷き、サフィラは携帯電話を取り出して連絡をはじめる。その間、アリサは七人の敵を一手に引き受けていた。
 鍛えられた武術でサフィラを守りながら戦うも、やはり多勢に無勢。じょじょに押されていったアリサは、ついに投じられたクナイの一つを防ぎきれずにもらしてしまう。
 投擲されたクナイがサフィラへと迫り、アリサが声を上げようとした瞬間、風を切る音と共に一閃された刃がそのクナイを叩き落とした。
「なんとか間に合いましたね」
 クナイを叩き落とした打刀を構えなおしながら鳳月 威織(ja0339)が二人のもとへと駆けてくる。どうやら連絡は間に合ったらしい。
「……よく分からないですが。ストーカーって悪い人ですよね……?」
  続いて四方月氷雨(ja0551)も駆けつける。威織に続いて刀を抜くと、突如雰囲気が変わったように氷雨は犯人たちに告げた。
「……ようはお前倒せば全部終わんだろ?」
  更に立里 伊吹(ja3039)と吉良貞治(ja3489)も駆けつけると、武器を犯人へと突きつける。
「遂に突きとめたぞ、インビジブルストーカー。これで終わりだ」
「ストーカー……いったい何の目的があるのかわからぬが、到底捨て置けぬ――覚悟」
 そして、駆けつけた彼等とは反対側から、敵の退路を塞ぐように黒霧 風斗(ja0159)も姿を現す。
「残念だが退路は塞がせてもらった、逃げ切りたいならば俺達を倒してからにすることだ」
 その言葉を合図に、今度は風斗たちが敵を追い詰めるように動き出はじめる。各々が手近にいる忍者に狙いを定めると、武器を手に敵へと攻撃をしかけるべく準備動作に入る。しかし、異変は彼等が攻撃をしかけるまさにその瞬間に起こった。
「消えた……だと、面妖な!」
 最初に驚きの声をあげたのは貞治だった。手にした大太刀の切っ先がかすかに震えるのを押さえながら、平常心をなんとか保つ。
 貞治が驚くのも無理はない。なにせ、突然忍者たちの姿が消えたのだから。
「うっ……!」
 次の瞬間、サフィラが二の腕を押さえて呻き声を上げる。見れば、彼女の二の腕が切り裂かれていた。光纏状態になっていたおかげでかろうじて軽傷に留まっているが、もしそうでなかったら大変なことになっていた。
「嘘……足音さえもしませんわ!」
 サフィラは驚愕の声をあげた。彼女の言う通り、敵は姿だけでなく足音すらも消えている。
「視覚と聴覚に対するステルス能力か――だが、サフィラを斬ったことが命取りとなったようだな」
 この事態にもクールな様子を崩さず、風斗は剣を構えると、瞳を閉じて何かを探り始めた。そして、何もない空間を狙って剣を振りかざす。
 すると何かを斬った手応えとともに男の呻き声が響く。どうやら、風斗は何らかの方法により忍者の位置を察知し、斬ったようだ。「サフィラの腕を斬ったせいで、アンタから血の匂いがする」
 剣についた血糊を払いながら、風斗は再び瞳を閉じて敵についた血の匂いを探り始めた。しかし、今度は風斗の胴体に裂傷が刻まれる番だった。
「消えた……? 匂いまでも……」
信じられないといった表情で風斗が踏みとどまる横で、今度はアリサが声をあげた。
「いくらなんでもおかしいさー! 気配すらも消えてるぞ!」
 アリサの言う通り、今度は敵の気配が消える。遂に五感だけではなく、第六感ですらも察知できなくなったようだ。その事実にアリサたちの心を恐怖と焦りが埋め尽くしていく。そして、彼女たちがもしもの時を覚悟した瞬間だった――。
 なんと、唐突に忍者たちの姿が現れたのだ。忍者たち本人にも予想外の事態なのか、あからさまに焦った様子で互いに目配せすると、敵たちはその場から全速力で離脱していく。
「助かった……のでしょうか?」
 まだ油断なく武器を構えながら、威織は呟いた。
 
●12月17日 11:00 久遠ヶ原学園 幽夜自室
 
「知能の高い相手は難しいですね……慎重にやりましょう。手は緩めずに」
 アリサたちが聞き込みをしていた頃、斐川幽夜(ja1965)は寮の自室でPCに向かっていた。既に学内ネットワークの管理者に話は通してあり、その結果協力を得られたこともあって、幽夜は問題のサイトをある程度ネットワーク面から探れる算段を取りつけていた
 コンピュータに関する知識や技術を有する彼女は仲間たちとは別行動で、電脳面からの後方支援だ。先程からの調査で、遂に幽夜は問題のサイトへの侵入経路を発見することに成功し、今からサイトへと侵入して犯人の端末を特定する作業をはじめようとしていたのだった。
 予め用意しておいたプログラムを起動し、まずは偽造IDとパスワード解析機能を利用して、問題のサイトに管理者としてアクセスを試みる。
 ログイン情報の入力バーが表示されると同時に、用意しておいたプログラムが動作を開始すると、ものの数秒で進行状況を示すバーグラフが埋まっていく。
「アングラサイトがまさかこの程度の防壁とは思えませんが――」
 しかし、完全に埋まる直前で突如としてバーグラフが停止したかと思うと、画面に警告メッセージが次々と表示される。
「察知されましたかっ!」
 焦りの声をあげながら幽夜は凄まじい速度でキーボードを叩いた。もし、こちらの位置を逆探知されるようなことがあれば、敵は実動部隊を送り込んでくるだろう。それに、せっかく見つけた侵入経路を塞がれる前に何としても手を打たなければならなかった。
 だが、相手も相当のノウハウを持っているのか、幽夜の打つ手を次々と封じてくる。互いの端末をハッキングし合っての凄まじい応酬。今まさに電脳空間での凄まじいバトルが繰り広げられていた。
「もしかしたらこの相手……私以上に――」
 顔の見えない相手の技量に焦りながらも幽夜は必死に食い下がる。しかし、後一歩の所で通信をシャットアウトされてしまった。幽夜が敗戦直後の疲労感を感じていると、携帯電話が鳴った。
「はい。斐川です――はい、はい、それで?」
 姿を完全に消した敵。そして、唐突に解除された能力――たった今、敵を撤退させた仲間からの報告を聞き、幽夜は口を開いた
「解せないことが二つあります。一つはその能力があまりにも強力すぎることです――視覚だけならともかく、五感すべては勿論、第六感までも欺瞞するようなステルス能力。そんなものが可能な能力者は何人もいるものではないでしょう。なのに、同一の異能を有する能力者が八人もいるなど、何か変です」
 自分の中で考えを整理しながら、幽夜は続ける。
「次にそんなものを発動したまま戦えるとは到底思えません。光纏状態の皆さんの身体を傷つけてきたということは、敵もアウルを使用した攻撃を繰り出してきているということです。ですが、普通に考えればあんな強力な異能は発動するだけで手一杯のはず」
 そこまで話して、幽夜の脳裏に何かが閃く。
「そういえば、敵の能力が解除されたのは何分前か覚えてますか?」
 数秒の後、返ってきた答えを聞いた幽夜は、PCモニター右下に表示された時刻を見て確信した
「敵の異能、立ち向かう方法がわかりました」

●12月17日 12:00 久遠ヶ原学園 屋外 

「幽夜さんの予想通り、もう一度攻めてきましたね」
 勘を頼りにがむしゃらな動きで攻撃を避けながら、威織は呟いた。威織たちが幽夜と電話で話した直後、再び能力を発動させた敵が襲いかかってきたのだ。
 ――威織たちが姿なき敵からの攻撃に耐え、とにかく時間をかせいる間に、自分が敵の異能を解除する。それが幽夜の立てた作戦だった。しかし、その為には命懸けの時間稼ぎが必要となる、危険な作戦だ。
「無茶な作戦ですわね」
「でも、おれは幽夜を信じてるさー。サフィラはどうなんだー?」
 攻撃を必死に避けながらアリサはサフィラに問いかける。すると、サフィラは笑みを浮かべ、快活に答えた。
「当然ですわっ! 仲間ですものっ!」
 
●12月17日 12:10 久遠ヶ原学園 幽夜自室

「これで終わりです!」
 凄まじい速度でキーを叩き終え、幽夜は最後の仕上げにリターンキーを押す。すると全ての防壁が解除され、幽夜の欲しかった情報が次々と表示されていく。
 その全てに目を通した幽夜は、卓上に置いてあったリボルバーを手に取ると、残弾を確認して懐へとしまい、部屋の外へと飛び出した。そのまま全速力で幽夜は学園の敷地内を駆け抜ける。目指す場所はたった一つ。とある寮のとある部屋だ。
 
●12月17日 12:20 久遠ヶ原学園 某寮 某室
「マジックの種は割れました。これで終わりです。人を撃つのには慣れました、文化祭で。主に自分の頭ですけれど」
 とある一人部屋の扉を蹴破り、内部をへと侵入した幽夜はPCの前に座っていた少女の後頭部へと銃を突きつけた。
「高等部二年、平野知さん――自分の姿を消すという強力な能力を有し、期待を寄せられるも、とある任務の際にその能力を用いて独断で奇襲を敢行。ですが失敗に終わり、そのせいで同行した同級生や教師が重傷を負い、それ以降、一度も任務には出ていない」
 まるで罪状を読み上げる判事のような口調で平野知――二房に三つ編みした薄紫色の髪の毛が特徴的なメガネの少女に言い放ち、幽夜は更に続ける。
「平野さんの端末を調べるついでに学園のデータベースも閲覧してきましたが、登録されていた能力はあくまで視覚の欺瞞。それが、今では五感に加えて第六感まで欺瞞できるなんて……いったいどれだけの研鑽を積んだというのか想像もつきません。貴方がステルス能力の行使と制御に集中することで、仲間は戦闘に専念できる。ただし、電脳面でのサポートも貴方が担うゆえに、不測の事態――ハッキングに対応する際は能力を停止してそちらに専念せねばならない、だから私からのアクセスに対抗した時は能力が切れた……そうですね?」
 すると知が振り返る。
「大方、あの忍者たちは弱みを握るか甘言で仲間にしたのでしょう? どうしてこれだけの能力を持ちながら、ストーカーなど?」
 知は口元を歪めて言った。
「全部ご名答。ストーカーなんて単なる手段。すべては私を未熟扱いした連中に、私の優秀さを教えてやる為の手段に過ぎないわ。そうすべては――」
 しかし、知が全てを言い終わることはなかった。それよりも先に、幽夜が撃った銃弾が知の手足を撃ち抜いたのだ。
「殺しはしません。ですが、死なない程度の痛みは受けてもらいます。なぜなら、貴方はただの犯罪者ですから」
 硝煙たなびく銃口を向けながら、幽夜は冷徹に言い放った。
 
●12月17日 12:30 久遠ヶ原学園 屋外
「幽夜がやってくれたさー! さぁ、そろそろいくぞー!』
 敵のステルス能力が解除された瞬間、アリサは忍者の一人をアイアンクローで締めつけた上で地面に叩きつけ、間をおかずドロップキックを放って更にもう一人を倒す。その横でサフィラは忍者たちへと指をつきつけると、声高に宣言した。
「わたくしは久遠我原学園風紀委員長のサフィラ・エルヴァニウス=シュヴァイツァです! 正義の名の下にあなたたちをジャッジメント致しますわ!」
 ステルス能力が解除されたことにたじろぎながらも、敵はクナイを構えてサフィラへと飛びかかる。しかし、横合いから斬りつけてきた風斗によって、彼女に近づくこともできずに、まず一人が倒される。
「ステルス能力に頼っていた分、小細工なしの勝負ではからっきしか」
 余裕の表情で風斗が剣の血糊を払う横で、威織と氷雨も互いの背中を守りながら打刀を振るい、それぞれ一人ずつを斬り倒していく。
「峰打ち――にはしませんよ、せいぜい自分たちのしたことを悔いてください」
「お前らを斬れば終わるんだろ? なら斬るだけだ」
 伊吹と貞治も負けてはいない。伊吹は懐へと飛び込んできた忍者を居合の一撃で倒し、貞治は大上段に大太刀を振り下ろし、それを防御した敵のクナイごと相手を断ち切る。
「小細工に頼ってばかりだからこうなるんだ」
「左様。手妻も基礎となる技があって初めて映えるものでござる」
 瞬く間に倒された七人の忍者を見ながらアリサは言う。
「死なない程度にこらしめたし、これで大丈夫さー」
 そして、それに応えたのはサフィラだ。
「ええ。これで事件解決ですわ」


依頼相談掲示板

ストーキング対策テーブル
立里 伊吹(ja3039)|高等部2年29組|男|ルイ
最終発言日時:2011年12月10日 15:51
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2011年12月06日 21:14








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