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マスター:小鳥遊美空
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
サポート:0
報酬:通常
リプレイ完成日時:2011/12/27


オープニング

●豆腐の角にぶつけて死ぬ
 しんしんと、ただひたすらに静謐で、時が止まってしまったかのような錯覚すら覚える晩秋の夜。
 纏う空気の澄みきった冷たさもあってか、漆黒の空には満天に輝く星月夜が見渡す事ができた。
 手を伸ばせば幾つかの星をつかみ取れそうですらある黒のキャンバスには、もう冬の星座がその姿を現している。
 そんな、寒ささえ気にしなければ充分にロマンチックと言えるだろうシチュエーションの中、一組の男女が愛を語らっていた。
 燦然と輝く星々を見上げながら、甘い睦言を交わす恋人達は、寒ささえも楽しむかのように、互いの身体を寄せ合い、暖を取る。
 誰もが一目見て、馬に蹴られて死んでしまう前に引き返すであろう激甘空間に、二人組の奇妙な格好をした不審者達が近づいていった。
 野球部のユニフォームのような出で立ちで、胸には『ボッチーズ』、背中には『リア充爆発しろ』と奇妙な文字が躍る。
 そしてそれぞれの手には、グローブがはめられ、何故か木綿豆腐が握られていた。
 月明かりに照らされ、徐々に露わになるその異形に、カップル達は息を飲む。
 獣面……、そういっても過言ではないほどに、分厚い体毛に覆われ、大きく突き出した犬歯は禍々しく、風に乗って届く体臭は獣染みていた。
 明らかに人の其れとはかけ離れた姿を視認し、先ほどまで愛を囁いていた男はゆっくりと立ち上がる。
「てめぇらが、犯人だな? 最近、この辺でカップルを襲ってるって奴らは。まさか、本当にディアボロの仕業だったとはな」
 黄金色の焔が吹き上がり、無尽の光をその身に纏う。
 そう、彼らは撃退士――、人に害為す天魔を討ちたる平和の守護者なのだ。
 しかし、臨戦態勢に入った撃退士を前に、ディアボロ達は不敵な笑みさえ見せ、一体が投球姿勢に入った。
 おもむろに、鷲掴みされた木綿豆腐がディアボロの手によって射出される。
 その球種、まさにストレートの直球勝負。
 だが、狙いはストライクではなく、頭頂部まっしぐらのデッドボールコース。
「なっ、まさか秒速340mで打ち出された豆腐は人を殺傷するに充分たる威力を発揮すると言うが、その速度を保っていると言うのか!? だが、そうだとしてその負荷に豆腐は耐えられないはずだ!」
 豆腐は届く前に自壊する、と踏んだ撃退士は次の瞬間には驚愕することとなる。
「崩壊しないだと!? これがこのディアボロの能力か! だが、俺とて久遠ヶ原蹴球界のヘディングの貴公子と呼ばれたような呼ばれてないような男だ! 一般人と頭の出来が違うんだよっ!」
 この台詞を言い切るまでに僅か一秒、まさに解説お疲れ様である。
 覚悟を決めた撃退士の男は、武器で撃ち落とすでも、身体を反らして避けるでもなく、堂々と自らの頭でもって迎撃することを選んだ。
 瞬間、夜の帳を引き裂いて、衝撃が走った。
 粉々に砕け散乱した豆腐、その中心には僅かにふらつきながらも勝ち誇る撃退士の姿。
 豆腐の直撃に耐えた撃退士を恨めしげに睨みながら、ストレートを投げたディアボロが下がり、次のディアボロがマウンドに立った。
「何度やったって無駄だ。豆腐なんかじゃ俺の石頭は砕けねぇ!」
 再び繰り出される死の豆腐。
 撃退士は頭を前に突き出すと、足に力を集中させた。
 豆腐を頭で打ち砕き、直後、一気に間合いを詰め、敵を討つ。
 脳内でシュミレートし、男は自身の勝利を確信した。
 だが、現実は過酷だ。
「なっ、この軌道……、まさかのフォークだとぉ!?」
 頭頂部と接触する直前、豆腐は剃刀で抉るような角度で急降下した。
 行き着く先は絶望、男の急所とも言える大事な部分目がけて突き進む。
「ゴォォォォォォルッ!?」
 撃退士の悲痛な叫びが闇夜に木霊する。
 無様に股間を押さえ、お尻を突き出す形で倒れ伏す彼に、更なる悲劇が襲う。
 螺旋を描きながら、豪速のストレー豆腐がお尻へと突き刺さる。
「アッー!!」
 砕けた豆腐の白さと、飛び散った血の赤がまるで祝賀の紅白のよう。
 ひくひくと痙攣し、完全に沈黙した男を尻目に、ディアボロ達は残された女へとすり寄る。
「い、いやっ……、お願い、こないで……、い、いやぁあああああっ!」
 願いは聞き届けられる事無く、ディアボロ達の欲望を満たす為の道具となるのだった。

●リア充爆破を阻止せよ
「と、言う事件があったのじゃ。男は幸い命に別状はなかったようじゃが、男として大事なモノを失い、また、一生物の痔を得たようじゃ」
 感慨深げに頷きながら、エレオノーレ(ja0046)は資料を配る。
 どうやら最近、とある夜の公園で、カップルが襲撃される事件が増えているようだ。
 幸い、今のところ死者は出ていない。
 出ていないのだが……。
「女の方は、胸を軽くタッチされ、スカートめくりされたようじゃ。それ以上は何もせず、一目散に逃げていったようじゃな。まぁ、シャイなのじゃなぁ……」
 だとしても、このまま行けばゆくゆくは死者が出ないとも限らない。
 ましてや相手はディアボロだ。
 行動がエスカレートしない保証はないし、見過ごす訳にもいかない。
「そういう訳でじゃな、ちょっとこいつらを仕留めてきて欲しいのじゃよ。なぁに、カップルに恨みがあるようじゃし、それらしくしてれば引っかかるじゃろうて」
 早々に話を切り上げたエレオノーレは、撃退士を追い立てるように急きたてるのだった。
「それにしても、そんなに胸が良いものじゃろうか?」
 一人、部屋に残ったエレオノーレは、自分の胸を揉みながら、ディアボロ達の奇行に頭を悩ませるのだった。


解説

・作戦開始時刻は20:00をまわってから。
・ディアボロは単独カップルを狙います。人数が多い場合、出てきません。
・尚、カップルらしく見れるのであれば、男性の女装、女性の男装でも構わないようです。
・今回の任務はこのディアボロ二体の討伐です。一体でも討ち漏らしたり、万が一にも撃退士が全滅した場合は失敗となります。
・夜の公園にあるものは、ベンチ、池、噴水、ブランコなどのささやかな遊具類です。
 オフィス街の近くにある為、自然が多めに造られています。
・敵情報まとめ。
 ストレートのみの威力主体のディアボロAと、カーブ、スライダー、フォークなどの変化球主体のディアボロBがいます。
 ストレートは変化球に比べ威力が高く、変化球は威力が落ちるものの、稀に複数を攻撃することがあります。
・投擲用豆腐の数は無制限です。

●マスターより

 皆様の冒険をサポートさせて頂きます、暗黒のオーラに目覚めた裏・小鳥遊美空(たかなしみく)です。
 今回の依頼は、まさしくリア充が爆破されるシナリオとなります。
 ただ、心の赴くままにどうぞ。
 それでは、より良い結末を目指して頑張ってくださいませ。
 尚、今回使われましたお豆腐は、事後、スタッフが美味しく頂きました。


現在の参加キャラクター


プレイング

撃退士・鷺谷 明(ja0776)
鬼道忍軍
作戦名「平和的手段によるリア充爆破計画ついでに害獣駆除」

第一目標
平和的手段によるリア充爆破
第二目標
害獣の駆除

行動指針

・作戦開始前
火薬、爆竹、癇癪玉をありったけ、及び細工に必要な工具の購入
公園の地図を入手し、メンバーに配布
昼の間に公園を歩き回ってリア充爆破のための罠の構想を練る。ついでに抜け道などを把握
罠の設置中邪魔が入らないように行政機関に協力を要請、夜の間人払いをさせる

・作戦中
作戦中は黒サンタ+ガスマスクの格好で行動する。もちろん意味は無い

初めに作戦の邪魔となるリア獣を駆除する
樹上に潜み囮役の合図と共に攻撃を開始
逃げられないよう敵の脚部を狙い、体勢を崩す
万が一にも男性陣が急所に豆腐をぶつけられそうな時はフォローする

害獣駆除が終わったら本来の目標を達するべく行動を開始
ベンチに爆竹を仕掛けたり噴水の水が指向性をもってリア充(男)を撃ち抜くように改造したりする
リア充(男のみ)を散々な目にあわせる。これが罠の主目的ではあるが後遺症は残さない、女は傷付けないなどの原則は絶対に守る

・作戦終了後
仕掛けておいた監視カメラでゆっくりまったり平和的に公園(にきたリア充)を見守る

撃退士・七種 戒(ja1267)
インフィルトレイター
・心情と目的
世間様に迷惑をかけるリア獣はふるぼっこだな。
や、アレだ、けして憂さ晴らしとかではないことを主張。

・準備
持ち込めるだけの爆破物
照明が壊れた際のペンライト
爆破物に点火するためのオイルライター

・行動
昼間のうちに行政機関に行き、周囲一帯の一般人の立ち入り禁止を要請
その後作戦場所の下見にいき、下見をしつつ作戦開始まで、ぶらっと散歩
誰かがいたら構ってほしいと考えている模様
作戦開始前に、他の遠距離組と等間隔に包囲網を敷ける様に隠れて待機
近接組が射線に入らないよう注意する
カップル役の合図(爆発しろ)に合わせてリア獣(わかるなら変化球型優先)を奇襲
近接組が避けれなそうな豆腐の撃墜等、援護を優先しつつ、余裕があれば死角を狙い攻撃
敵が倒れたどさくさに紛れて心の赴くままに爆破開始

・戦闘班
カップル役:みさお(男装)、二階堂氏(女装)
近接組:風巳氏、秋崎氏、鷺谷氏(遊軍兼)
遠距離組:珠真氏、風龍桜氏、七種

撃退士・珠真 緑(ja2428)
ダアト
事前準備
行政から一般に避難勧告を出してもらう
照明は念の為ペンライトを持っていく
爆竹を大量に持っていこう

戦闘
近距離・遠距離を交互に円状に包囲網を敷く
カップル側の合図「爆発しろ」を皮切りに遠距離組が奇襲
ディアボロの背後に陣していた場合は「Faccio io」(任せろ)
背後から攻撃を仕掛ける。
スクロールを媒介とした魔法攻撃
なるべく最初の奇襲で変化球を投げる方を潰しておきたいところ
奇襲後は豆腐を撃ち落としたり、近距離組のフォローにまわる
「爆ぜろ」
逃走される場合、敵は背中を向けるわけだし、それこそ死亡フラグだって教えてあげなきゃねぇ?
逃走する敵に向けてバーン。
弱まったらとどめで爆竹を投げつける。

全部が終わったら打ち上げ花火でもしたいかな

撃退士・兜みさお(ja2835)
ルインズブレイド
【目的】
仲間や一般人の生命に配慮しつつディアボロを奇襲しやすい所まで誘導し倒す

【作戦】
カップル役がディアボロを引きつける
陰に隠れていたメンバーが奇襲し、撃退する

【配置】
なるべく照明がある広場、奇襲メンバーに囲われるような位置

【準備】
ペンライト(公園に灯が無い時に味方に敵の位置を教えたり、目潰しに使う)
爆竹(5箱)
オイルライター(着火用)
公園に入る頃には携帯電話を多人数通話状態にしておく
厚着と大きめのマフラーと手袋でばれ易い顎喉肩手をごまかす。出来るだけ低音かつ小声で話す

【行動】
カップル役(男装)。ディアボロを引き付ける
ディアボロの誘導に成功したら、携帯電話で合言葉「爆発しろ」という
戦闘が開始したらディアボロ達の逃走を防ぐように立ち回る
ディアボロBを優先し倒す
変装がばれた時や回復スクロール使用時等、二階堂が攻撃の的になりやすい時は庇う
それ以外は豆腐を避けたり、迎撃しつつ、攻撃のチャンスを掴む

撃退士・二階堂 光(ja3257)
アストラルヴァンガード
目的
ディアボロ二体の撃退。
「彼女が欲しいんだったら合コンやら何やら行けばいいのにさー。迷惑な話だよね〜」

役割
囮カップルの女性役に変装しばれないように演じる。

事前準備
照明のある公園の選定、下見。
行政に公園一時封鎖の連絡。
携帯用ライト購入、所持。

行動
作戦開始時刻前に変装完了。
「見て見てー!可愛いでしょー?」
開始時刻の少し前から、包囲網の中心にて行動も会話もカップルらしく手を繋いだり額をくっ付けたり抱き締めたりと積極的にカップルを演じる。
「兜くん大好きー。兜くんは私の事好き?」
この際、スマホで多人数通話状態に。
ディアボロが近付いて来たら「爆発しろ」と呟いて合図をし、遠距離組が背後から奇襲。戦闘開始。

戦闘
盾役としてディアボロの注意を引き付けながら逃走防止を図る。
投げてくる豆腐を上手く躱しながら隙を見て物理攻撃。避け切れない豆腐は優先的に切り刻む。
「豆腐屋さんに謝れー!」
生命力が半分を切った味方(自分含)に対し速やかに回復スクロール使用。
回復スクロール使用時は兜みさおの背後へ回り、安全を確保してから。
味方が爆竹使用時は楽しそうに眺めながら見守る。
「おー皆激しいね〜」

撃退士・凰龍桜(ja3612)
ダアト
〇心情
「気持ちは分かるけど攻撃しちゃあかんやろ…」

〇目的
とりあえず敵の撃退です。リア充への恨みをここではらします…。

〇戦闘
複数人と通話状態で、「爆発しろ」の合図で攻撃を開始です。
私が敵の後方にいた場合は、合図で背後からの奇襲をかけます。
その後は囮役のお二人が避けきれない豆腐を撃墜しながら敵を攻撃します。
最後に締めで爆竹をプレゼント、です。
(役でいちゃこらするのを見て)「お二人が正直羨ましいです…。」(爆竹を投げ)「爆発してしまえ!!」

撃退士・風巳 将吾(ja4041)
阿修羅
「一応確認するけど爆発させるのはリア充じゃなくてリア獣の方だからな?」

作戦前準備
・照明のある公園を探し広場で作戦開始
・一般人が入りこまないように作戦開始時刻までに公園を封鎖してもらうよう行政に依頼する
・爆竹所持
・ペンライト所持(戦闘時に照明があるようなら使わない)
・爆竹着火用のオイルライター所持
・支給品のスマホ所持(多人数通話状態にしておく)

行動
・自分は近距離班(他メンバー:七種 戒、秋崎 暁)
・カップル役から合図があるまでは隠れられる場所で待機(カップル役が視認できる距離)
・現場に一般人が紛れ込んでしまっていてかつそれが自分に近い位置にいるなら出口まで誘導する
・「爆発しろ」の合図で遠距離班が奇襲。それを確認したら自身も接敵
・ディアブロを逃がさないように包囲網を形成する

戦闘
・遠距離攻撃組が奇襲をしたら待機状態を解除し速やかに接敵
・所有スキル「隠密」「ランニング」を生かし奇襲の後は出来るだけ素早く接敵する
・戦闘では二刀流を使い攻撃する
・判別がつきかつまだ相手が健在なら変化球主体のBを最初に狙う
・豆腐は可能な限り回避、または武器による切り払いを試みる
・仲間がピンチになりそうなら攻撃から庇う(大事な部分を守るため受ける時は背中で)
・逃走されそうになったら全力で追撃
・全力でフルボッコ
・戦闘終了後「リア獣爆発しろ!」と叫びながら爆竹をディアブロに投げる(戦闘不能状態なら除く)

撃退士・秋崎 暁(ja4201)
阿修羅
依頼目的>ディアボロ2頭の討伐

作戦内容>囮役二名が夜の広場にて目的のディアボロ2体を引きつける、
      十分引きつけたたところで作戦開始の合図とともに
      接近班と遠距離班による奇襲を行い、討伐。

事前準備>夜で暗闇なためペンライト、連絡や作戦開始の合図用につかう携帯電話(スマホ含む)
      とどめで使うであろう爆竹、この三点を用意しておく。

心境>うまくやれるか心配だが、周りを信じて、成功させたいと思う!



リプレイ本文

●良い子は真似しちゃ駄目だぞ♪
「というわけで一般人の立ち入り禁止を要請します。決してデート場所一個減らしてやろうとかそーゆーせせこましい理由ではありません、念の為」
 七種 戒(ja1267)のどことなく胡散臭い要請を、解せない表情をしながらも、まぁ、撃退士だから大丈夫か、等という適当な感覚で処理していく所轄署の職員。
 誰だってそう思うだろう。
 何故か人気の無い夜の公園でいちゃこらと熱く燃え上がるカップルを、豆腐などという意味不明な物を凶器として用いて襲撃し、あまつさえ女性にセクハラかまして逃げていく。
 そんな不可解な事件の犯人が、人間ではなく、ディアボロだったという事態に。
 いや、人間だったとしても激しく謎なのには違いないが。
 職員の了承を得た戒は、その足で件の公園へと下見に向かった。
 手続きで思いのほか時間を食い夕方へと差し掛かった公園は、弱々しい斜陽も相まって、どことなく哀愁が漂う。
 それでも、ジョギングに勤しむ者や、ペットの散歩を行う者、家族にリストラされたと打ち明けられずにエア出社で時間を潰してる風な中年など、ありきたりな情景がそこにはあった。
 それら公園の日常風景を横目で流し見ながら、誰かいないかなぁ、構って欲しいなぁ、などと出逢いへの淡い期待を抱きつつ歩く。
 クリスマスが目前に迫っている所為もあるのだろうか、ちらほらと仕事帰りらしいカップルも目につく。
「ちくしょー、ぴんくいなー、いいなぁ……」
 漏れるため息を隠そうともせず、とぼとぼ歩く戒の視界に、ベンチの影に隠れてこそこそと蠢く怪しげな黒い影が映った。
 まさかの不審者遭遇に、若干緊張の面持ちで近づく。
 もしディアボロであるならば、自分一人ででも止めなければ。
 しかし残念、それは黒いサンタ服に身を包み、何故かガスマスクを装備した上月 明(ja0776)、その人であった。
「なんだ、貴様か。見ての通り、私は作戦の準備で忙しい。邪魔だけはしないでもらいたいものだな」
 専門的な工具類を傍らに、ベンチにせっせと爆発物を取り付けている明。
 その動作だけで意図をなんとなく察した戒は、明の肩にぽむっ、と手を置き良い笑顔で答える。
「私も手伝うんだぜ!」
 負のベクトルを突き進む手を組んではイケナイ二人が出逢った瞬間であった。

「見て見てー! 可愛いでしょー?」
 そう言ってはしゃぐ二階堂 光(ja3257)の女装姿は、誰もが納得のいく仕上がりだった。
 地毛と同色のロングのフルウィッグをかぶり、全体的に上品な雰囲気漂う落ち着いた洋装でコーディネート。
 元の素材を活かしたナチュラルメイクではあるものの、一目で男と見破るのは難しく、薄く桃色に色づいた唇をぷっくりと彩るリップグロスはまさに妖艶。
 ばれやすいのど元はマフラーで、手の血管は手袋で。
 本人が剃る事を断固拒否した足のムダ毛は、万が一スカートがめくれてしまった時の為に、デニールの厚いストッキングを重ね履きした上にニーソックスという完全防護。
 徹頭徹尾、細部まで拘り抜いたその姿で微笑まれた男性は、正体を知らなければ道を踏み外してしまいそうだ。
 光のノリノリな態度と溢れ出る自信も相まって、最早冗談ではないレベルに。
 対して男装してきた兜みさお(ja2835)はというと、サラシときつめのベストで押さえてきたであろうその胸は、それでも尚それとなくわかるボリュームを秘めていた。
 厚着と防寒具で体線を誤魔化し、長い黒髪も纏めて服の中に隠してはいるものの、みさお自身のぎこちない仕草もあって、かなり危うい。
 光と並んで歩くと性別的には正しいのだが、背後に百合の花が咲き乱れてしまいそうな雰囲気すらある。
「わ、私、頑張りますっ! そ、そのっ! たとえ死ぬ程、破廉恥事になったとしてもッ! 覚悟、決めましたから!」
 赤面しながらも、一生懸命抱負を語るみさおは愛らしいながらもやはりぎこちない。
 そんな男役をリードするように、光が慣れた様子で腕に抱きつく。
「じゃ、行きましょうか、兜くん」
 雰囲気は既に恋人ムードだ。
「お二人が正直羨ましいです……」
 早速いちゃコラし始める二人を前に、凰龍桜(ja3612)ははき出すように呟いた。
 他の撃退士にしても、何人かは非常に羨望の眼差しを送っている。
「一応確認するけど爆発させるのはリア充じゃなくてリア獣の方だからな?」
 何か危険な空気を感じた風巳 将吾(ja4041)が慌て気味に念押しした。
 どことなく変な雰囲気を孕みながらも、撃退士達はそれぞれの持ち場へと散っていく。
 作戦開始時刻は間近に迫っていた。
 
●夜は長いぞ爆破だリア充
 夜空に六角の冬のダイヤモンドが映える。
 冷たく澄んだ大気がより一層、星々の輝きを引き立たせていた。
 恋人達が愛を語り合うには絶好のロケーションと言えよう。
 だが、互いに身体を寄せ合い、暖を取り合う恋人達はいいにしても、相手すらいない者にとってはこの寒さは少しばかり辛い。
 ましてや、集団通話状態の携帯から漏れ聞こえる台詞集は、ある種の者にとっては拷問に等しき破壊力をもっていた。
 兜くん大好きー。兜くんは私の事、好き? だの、キミの瞳に乾杯、だの、歯が浮き、背中がむず痒くなるような文言の数々。
 遠く現場に目をやれば、抱きついたり、オデコをつついたり、頭を撫でたりと、絶賛いちゃコラ中だ。
 そんな睦言を軽く受け流しながら、珠真 緑(ja2428)は余裕の表情で傍観者を気取っている。
 携帯音楽プレイヤーから流れる音楽を聞きながら、秋崎 暁(ja4201)も動じずマイペース。
 将吾にしても、一部の仲間の暴走を警戒しつつも、いつでも飛び出していけるよう入念に準備したり、と平静だ。
 そう、撃退士として彼らの平常心は非常に正しい、のかもしれない。
 だが、待って欲しい。
 其れは果たして人としてどうなのだろうか、と。
 人、即ちそれは愛を求めて彷徨う旅人ではなかろうか、と。
 そういった意味では、他の撃退士達の行動も、人としては非常に正しい、のかもしれない。
「気持ちは分かるけど攻撃しちゃあかんやろ……」
 激甘コントをたらふく味わいながら、桜がぽろりと本音を呟く。
 超絶桃色空間に当てられたのだろうか、戒は異様にテンションが上がっていた。
「今ならあいきゃんふらいっ!」
 とりあえず、いえす、うぃーきゃんふらいっ! である。
 明はひたすら黒い微笑みを絶やさず、微動だにしない。
 何を考えているか解らない故の不気味さと、黒サンタ服にガスマスクという服装のシュールさもあって、カオスである。
 それら悲喜交々な面々が、囮恋人役と言う名の生贄を中心に、点々と茂みに隠れて配置しているのであるから、怪しげな召喚儀式に見えなくもない。
 まぁ、実際、リア獣なディアボロを誘い出そうとしている点に置いては、其れは正しい評し方と言えるのだろうが。
「と、緑先輩の方向から怪しい二人組が囮に近づいてますよ」
 いつの間にか音楽プレイヤーを切って警戒していた暁が、撃退士達へと注意を促す。
 言われた方向に目を凝らせば、確かに怪しげな影が二つ、とぼとぼと囮へ向かっていた。
 全員に緊張が走る。
 通話から状況を察したみさお達も件の方向へと向き直る。
 蒼ざめた月光の下、うっすらとユニフォームのような姿の二人組が視認できた。
 漂う獣臭、荒く聞こえる息、間違いなく例のディアボロであろう。
 みさおと光が頷き、声を揃えて合言葉を紡ぐ。
「爆発しろ!」

●湯豆腐の如く熱く燃え滾る魂の叫び
 ボッチーズは激しく困惑した。
 遠目から見てリア充カップルと思われた其れは、どうみても女性同士のいちゃコラだったのだ。
 これが噂の百合というものなのだろうか?
 二体は顔を見合わせ、首をひねる。
 しかし、ここまで来た以上、やる事やらねばボッチーズの名折れである。
 そう判断すると、某世界的怪盗よろしくなダイブを慣行。
 月をバッグに高々と跳躍すると、それぞれの狙った獲物へと襲いかかった。
 光の胸を男の其れとは知らず、服の上からパッドごとふにふにとタッチする。
 もう片方も、みさおのきつく巻かれても尚、圧倒的存在感を示す胸に、顔から突っ込み堪能する。
 そう、おっぱいには夢と希望が詰まっているのだ!
 故に、彼らは惹かれ、大いなる探究の道へと旅立つ。
 だが、彼らは知らない。
 自分達が罠に嵌められた事に。
 汚いな、さすが撃退士きたない!
「やっと私の出番ね? Faccio io(任せろ)」
 ちょうどボッチーズの背後に控えていた緑が飛び出し、無防備なその背に光弾を解き放つ。
「気持ちはイタイほどわかるっ!!」
 涙目になりながらも、やる事はえぐい!
 同情を見せつつ、戒は容赦なく銃弾を撃ち込む。
「逃がしはせんさ」
「このっ! このっ!」
 鬼畜に嘲笑しながら、黒サンタな明がロッドで殴りかかり、それに習って桜も杖で殴打する。
「風巳君、任せる!」
 暁がディアボロを投げ飛ばせば、
「任せろ! 墜ちろ、リア獣ッ!」
 タイミングを合わせた将吾が、手にした小太刀の二刀を円舞のような流麗な動きで振るいながら切り裂く。
 光も無言の笑顔でサバイバルナイフの刺突を繰り出すと、引き抜き様に蹴り転がす。
「破廉恥獣死ねっ! 死んじゃえっ!」
 そこへ顔を真っ赤に染めたみさおが、トドメとばかりに巨大なツーハンドソードを構えると、全体重を掛けて振り下ろした。
 変化球主体のディアボロから始末する、そういう約束だったが、投げない内からではわからない。
 故に手当たり次第のフルボッコ。
 8対2の袋叩きである。
 彼らはいつだってそうだ。
 リア充という光があるが故に、その影に出来た淀み。
 蔑まされ、貶められ、何も得る事のできない永久の闇。
 リア充の対比として存在し、何もかもを諦める事を約束させられてしまった悲しく呪われた運命。
 想い届かず、言葉通じず、蹂躙され、ただ朽ちていく。
 今夜もこのまま終わってしまっていいのだろうか?
 否、良い訳がないっ!
 彼らは――、全ての報われなかった者達の代弁者!
 その本懐を遂げるまで、むざむざやられる訳にはいかないのだ!
 月下に獣の咆哮が響いた。

●爆竹のご利用は計画的に
 ぼろぼろになってしまったユニフォームが見るも無惨なボッチーズ。
 地面に転がったまま、ぴくりとも動かなくなり、死んだか? と思われたその時、彼らは動いた。
 不用意に近づいてきた緑のスカートを、起き上がり様に下手で掬い上げる。
 その動きはどこまでもシャープで、エレガント。
 言うなればスタイリッシュスカート捲り!
 ふわりと舞ったスカートの中身をじっくり視認し、やる気を充填。
 捲り上げた腕を一回転させ、いつの間にか握っていた豆腐を、アンダースローで打ち出した。
 大地を抉り、空を裂き、狙い定めた獲物――、暁を目指して飛来する。
 あくまでも男性にしか物理的打撃を与えない、どんな苦境に立とうとも紳士中の紳士、それがボッチーズの誇りである。
「危ない!」
 一瞬の出来事に、いち早く反応した将吾が駆ける。
 このまま行けば暁の大事な部分を直撃しかねない、そう判断した将吾はくるりと背を向けると、自分の急所を護りつつ暁を助ける為、そのままの体勢で腕を広げた。
 だが甘い。
 描く軌道が一直線などと、安直に決めてしまっては戦場で生き残る事はできない。
 ホップした豆腐が、空中で分裂する。
 空気の刃でストン、と切り分けられたかの如く、綺麗に半丁づつ。
 そしてそれらが描く軌道は袈裟に切り下ろすような剃刀刃のカーブ。
 二枚刃の片方が急降下し、将吾のお尻を強襲する!
「待てっ! そんなの聞いてないぞ!?」
 ズドンッ!
 鈍い音が響いた。
 はらり、と薔薇の花弁が散った。
 少年はこうして大人の階段を登っていくのだろう。
 いつの時代も新世界の到来は唐突なのである。
 そしてもう片方が、暁を襲う。
 分裂した事により、軌道が逸れた豆腐が顔面に向かって一直線。
 ゴシュッ!
 衝撃音と共に、暁が普段かけている眼鏡が明後日の方向へと吹っ飛ぶ。
 寒さで凍えた顔面に、冷えた豆腐が高速でぶち当たる。
 想像を絶する痛みに顔を押さえ、その場に蹲ってしまうのも仕方の無いことだろう。
 眼鏡プリンスのファンには到底見せられない姿だ。
 執念を見せたディアボロBに続けと言わんばかりにディアボロAも立ち上がる。
 無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きで桜のスカートを蹴り上げ、秘匿された聖域にある宝物を網膜に焼き付ける。
 そしてそのままの体勢から、燃え滾る想いを込めたストレー豆腐を擲った。
 豪速の豆腐が、夜の黒を切り裂き飛翔する。
 その先にいるのは黒きサンタ服を身に纏った男、明。
 明は静かにロッドを構える。
 妄執、怨嗟、羨望、様々な想い、魂の叫びが込められた豆腐は、しかし其れをも上回る絶対の意志によって打ち砕かれるのだ。
 コースを狙い定めた明がフルスイングする。
 ロッドと豆腐が瞬間、火花を散らし、やがてパワー負けした豆腐が遙か彼方の茂みへと飛んでいった。
 勝ち誇る明の表情に浮かぶのは、リア充へ対する強固な爆破への決意。
 全てを悟ったディアボロAが敗北を悟り、その場へと頽れた。
 彼らを支えていた魂の柱がポキリと折れた瞬間であった。
 哀れなボッチーズを、セクハラかまされて怒りに震える女性陣が取り囲む。
 審判の時が来たようだ。
 
「オデモ リア充ニ ナリタカッタ ガクッ」
 現実に言葉には発しなかったが、その意思は撃退士達に確かに伝わった。
 だが、それでも同情なんてものは抱かれない。
 常に孤独、それがボッチーズなのだ。
「さて、爆破するか」
「リア獣爆発しろ!」
「爆発してしまえ!!」
「破廉恥リア獣爆発しろ! です」
 撃退士達は口々に叫ぶと、もってきていた爆竹、火薬、花火など、ありったけの爆発物に火をつけ、放り投げた。
 ボッチーズの遺骸を背に、ポーズを取る。
 その背後で戦隊モノよろしく、盛大に花火が爆ぜた。
 あまりにも無惨である。
「おー皆激しいね〜」
 季節外れの花火を見物しながら、光が率直な感想を述べた。
「い、いや、両手が勝手にな。私わるくない。うむ」
 それを咎められていると勘違いした戒が、あたふたとばつが悪そうに言い訳をする。
 どちらにしても、これで公園と恋人達の平和は護られたのだ。
 撃退士達はそれぞれの健闘を称え合いながら、学園へと戻っていった。

 その夜、不可解な出来事が起こった。
 撃退士達によってリア獣は掃討されたはずであった。
 だが、被害は収まる所か、増えたのだ。
 ベンチに座ったカップルの、男性だけが爆竹で襲撃される。
 噴水近くを歩いていたカップルの、男性だけが放水で攻撃される。
 まるで、リア獣の遺志を継いだ誰かがいるかのように。
 新たな公園に潜む魔王の伝説がはじまろうとしてるようなしてないような、そんな状況であった。
 だけどそれは、また別の物語である。
 良い子の皆は真似しちゃ駄目だぞ♪
 撃退士とのお約束だ!


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作戦会議板
兜みさお(ja2835)|中等部1年9組|女|ルイ
最終発言日時:2011年12月10日 13:33
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宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2011年12月05日 19:24








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