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マスター:なみ(代筆:望月誠司)
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
サポート:0
報酬:通常
リプレイ完成日時:2011/12/27


オープニング

「下水ワニって知ってる?」
 返事はどちらでもよかったのだろうか、返事を待たずに依頼人であるところの女性は続けた。
「都市伝説の一種でね。金持ちがペットにワニを飼うんだけど、育てきれなくなって下水に捨てちゃうんだよ。それが日に当たらないから白くなるとか繁殖して子供が白いだとか。その辺は話によって色々さ」
 知っていた者も知らなかった者も続きを待つ。
「今回の依頼はそれの退治だよ」
「えっ、ワニを?」
「うん、ワニを」
 暫し時が止まり沈黙が場を支配する。それに耐え切れなかった……というわけでも無さそうな様子で言葉を追加。
「まあ正確には白いワニ型サーバントだね。ついでに下水に出るんで下水ワニと紹介したんだけど」
 ははは、と笑ってから依頼人は急に表情を引き締めた。
「場所が場所だけにすぐさま人的被害は出ないだろうね。でもだからと言って放ってはおけない、退治して来て頂戴な。注意点は大きく分けて二つ。一つは場所に関する注意、下水だから暗いので明かりの確保とか足を滑らさないように気をつけるとかね。それと規則正しく碁盤目状になってるから咄嗟のときに方向感覚が狂う可能性がある。しっかり見れば曲がり角にナンバーが振ってあるから完全に迷うことはないと思うけどさ」
 ふっと一息入れ、指で2を示しつつ続ける。
「二つ目は討伐対象に関する注意、相手はワニ型ではあるけどワニの形をしてるだけでサーバントだ。ワニの常識……っていうのも妙な言葉だけど、それに当てはめて考えても役に立たないかもしれない。通用する可能性もないわけじゃないけどね、あてにしすぎないようにすること」
 そこまで言うと彼女はポンと手を打ち合わせ、にっと笑って撃退士たちを送り出した。


解説

今回は下水にダンジョンアタック!して頂きます。
と言っても迷宮化してるわけでも罠があるわけでもありませんが。
主な注意点は本文中で語られている通りになります。

以下は敵や地下空間についての補足です。
敵のワニ型サーバントは一体で陸上戦と水中戦双方行え、水中戦を得意としています。
全長は3m程度の大きなサイズ。
水中に潜んでいると中々視認は難しいですが、白い体色は光を反射しやすいでしょう。
不利は覚悟で水中戦を挑むか、陸上に上げる作戦を立てるかは皆さん次第です。
また地下空間は敵のサイズからもわかるかと思いますが結構な広さとなっています。
ただし、通路はそんなに広くはなく横幅は並んで歩くだけなら3人、
戦闘をすることを考えると2人程度が妥当な広さです。
討伐に向かう時点の水路部分の水深は120cm程度、横幅は3〜4人並んで戦闘が行えるくらいはあります。

●マスターより

水中に潜む巨大生物には浪漫があると思っています、なみです。
白い動物は神聖なものと扱われることが多いので天使の配下にピッタリですね。
……いるのは下水ですが。
サーバントの説明のところに
『また、天使によってはあまり管理に熱心でない場合も多く、
 半ば放置され、放し飼いにされている場合も多いようです。』
という文章があり、捨てられるペットとイメージが被りますね。
ペットもサーバントも責任を持って面倒をみたいものです。


現在の参加キャラクター

撃退士
明海 絡(ja0139)

ルインズブレイド
撃退士
海本 衣馬(ja0433)

ルインズブレイド
撃退士
七尾 みつね(ja0616)

鬼道忍軍
撃退士
相麻 了(ja1283)

ルインズブレイド
撃退士
穢(ja2372)

鬼道忍軍
撃退士
燎原 灰葉(ja3044)

鬼道忍軍
撃退士
テイ(ja3138)

インフィルトレイター
撃退士
橘椎名(ja4148)

ルインズブレイド


プレイング

撃退士・明海 絡(ja0139)
ルインズブレイド
■目的
他者と連携してどれだけ力を発揮できるのか太刀打ちできるのかの確認と
強くなるには敵を知る、の精神からサーバントの調査を可能な限り行う

■行動
俺、情報纏めたり整理したりするの好きだからな。地図と現場を照らし合わせて皆の進行のサポートをしたいな
事前相談で決まっているのは、敵に遭遇したらその場所の番号を言って他班へ伝えるってことと
はぐれたら、同じく場所の番号を叫ぶってこと
地下だから声は響いて場所割り出しにくいし、サーバントに数字から場所を割り出す能力まではないだろ?
場所が割れても、聞こえたトコに俺たちも向かうから大丈夫って予想
これを活用したら挟撃もできるんじゃないのかな

右手にペンライトを持って囮役とその周囲を照らすようにしながら歩く
予備のライトは左腕の袖の中に点けたまま潜ませておく
戦闘中に手元を照らす目的と、右手のライトが壊れたりした場合の対処
あとは、最悪右手のライト囮に投げてしまってもいいしな

戦闘は複数人いるから数の利を生かす
前後方へは動きが早いだろうけど、側面へ体を向けるのは苦手と予想して
側面から敵の気を引くように他の奴が別方向から攻撃仕掛けやすいように動く
敵の体が浮いたらひっくり返す

サーバント、ここでどうやって生活してたのかな
一匹?
何か食べたりするのか?
普通の鰐とどんな風に違ったかとか分かるだけ調べてみたい。

終わったら皆風呂行くらしいし
ついていく
風呂で泳いだら怒られるかなぁ

撃退士・海本 衣馬(ja0433)
ルインズブレイド
白班囮役
作戦
・二班に分かれ並行して探索、交差路でお互いを随時確認する(※この一連中に相手側が遅れる等、何か異常を感じれば合流する)
・遭遇時は大声を出して知らせる
・遭遇班の囮はワニを下水から通路の方へ誘き出す
・合流班は遭遇班とワニを挟撃する形で合流する

交友
七尾 みつね(ja0616)は友達
名前で呼ぶ

作戦通り俺が囮役となって下水側を先行する。
ペンライトで照らしながら僅かな水面の揺らめきも見逃さず、奇襲に注意して進む。
それにしてもすごい臭いだ。
早く終えて風呂にでも行きたいものだよ。

ワニと遭遇したら積極的に前に出て戦闘態勢を取る。
「いたぞ、ワニだ!」
確かに白い動物ってのは神秘的なものを感じる。
ここが下水で、相手がサーヴァントじゃなければね。
片班へ伝えたら注意を引くようにゆっくりと近づき離れるを繰り返す。
反撃は最小の動きで回避、もしくは衝撃を受け流すようにガード。
尻尾にも注意する。
神経を集中させ、相手の行動を先読みする。
上手く下水から誘き出せればそれで良し。
ダメでもやるしかない。
ワニ一匹に泣き言を言ってるようじゃ、ご先祖様に申し訳が立たないんでね。

片班が合流したら本格的に攻めに転じる。
その時も基本前に出て、仲間と連携し「倒す」気で行く。

終了後は皆で銭湯へ行く。
着替えも持ってきておく。

撃退士・七尾 みつね(ja0616)
鬼道忍軍
「やだ、怖いね…だけどね。私も戦う覚悟を決めて学園に来たんだから!」
初戦闘・初依頼でもおっとりマイペース。恐怖心に負けないように、初志を刻み、ここで戦っていく一歩を

■目的
碁盤目状の下水道を迷わず、ワニを探し、見つけて討伐。その後、連絡。皆で銭湯へ

■準備
ヘッドセットの購入。ホームセンターでお値段2500くらいで手軽に入手。無理な場合ペンライト。

目的地の下水から出て近い銭湯の物件を見つけておく。
交番や案内所、近所の人達に聞き込みしたり携帯から地図で検索。
下水の汚れを落とせるよう交渉と嘆願。裏手でお湯を頂き落としてから湯に入らせて貰う。

下水に入る前に魔装に着替え、銭湯の後で普段着に。

■下水道へ
・探索
前衛二人後衛二人の4人一組。
○白班
前衛:海本(囮役)、相麻
後衛:七尾、燎原

2班に分かれて、碁盤目状の通路を一つ横に別れ平行して進み、交差路毎に互いライトで合図。確認後次のブロックへ同時に進む。
敵遭遇で声を。声や合図が遅いなど異変に気付いたら合流し討伐。

後衛水路側を歩き、後方と水路からの奇襲に水面を警戒

・下水道での注意
足場に滑らないよう長靴の足裏を踏みしめて歩く
水路に落ちないよう通路の足場と味方の位置。敵の位置・動きを冷静に

・討伐
ワニを2班で挟撃
合流班敵後へ

突進・噛み付き・尻尾に注意
距離を取り3人を援護


撃退士・相麻 了(ja1283)
ルインズブレイド
【心情】
「ここでいっちょ名を挙げて、俺もモテキ突入やあ!」
裏表無い性格なので不純な動機は一切隠さない。

【目的】
依頼解決で一花咲かせ、女子にもてたい一心で参加。

【準備】
基本的に合意内容に準拠。
後方の敵よりも正面の警戒を優先。

【行動】
戦闘では前衛を担当。
自分よりも仲間の被害に気を配りつつ、スキルなどを駆使して徹底的に戦う。

「なあなあ、俺って結構イケてたやろ?」
戦闘終了後には、緊張感なくナンパに勤しむ…

撃退士・穢(ja2372)
鬼道忍軍
サーバントってどんなのなのかな

【準備】
下水からサーバントを地上におびき出す経路を依頼人に確認
設計図があればなくても自作で用意
ヘッドセットライトを頭に装着(又は懐中電灯を携帯)
登山用ナイロンザイル(又は荒縄)を予め数本 苦無に結び付けておく
雪道用靴を装着
ペンと夜光シール携帯

【警戒点】
ワニ型サーバントの非物理攻撃を心理的に警戒し何時でも対応できるようにする
特に大きく口を開けた時何か発射されないか警戒する

足元すべりや水中からの急な敵の出現を警戒

迷子警戒
曲がり角のNO.と地図を照らし合わせ地図に書き込むと共に
角には夜光シールを張って印とする

【作戦】
4人一組の2班で捜索
サーバントを発見したら
仲間が囮になり サーバントを下水から誘き出す

【行動】
●黒班(橘 明海 テイ)に後衛として参加
誘き出されたサーバントが姿を現したら
苦無を投擲し援護攻撃
テイさんの射撃のタイミングと呼応して攻撃の間を調整する
敵の気が逸れている時に ザイル付苦無を数個射ち込み
ザイルを皆で引っ張り 通路に引きあげ総攻撃する

撃退士・燎原 灰葉(ja3044)
鬼道忍軍
●心情
「やれると思うことを、全部やるだけだっ」
今まで鍛錬はしてきてる。それを全部ぶつける。

●準備
動きやすい服装、滑りにくい運動靴を着用。着替えも用意。
ヘッドライトを購入して用意。万が一購入できない場合は手持ちの懐中電灯で。

●全体作戦
※この項目の行動は全員でやる。
「囮役」は、ブロック肉を体に括りつけ、移動時は下水側を歩く。
ワニに遭遇したら、下水から通路へ誘導。

また、移動時、各々の班は曲がり角に差し掛かる度、
予め用意しておいた「鈴を括りつけたブロック肉」を床に置いておく。
ワニが食べたら、鈴の音で位置が分かるように。
鈴付き肉は各員で分散して、行動の邪魔にならない程度の量を所有。
使うとき以外はジッパーの袋にいれて持ち歩く。

●個人行動
陣形は「○白班後衛」。
いつワニが出現してもいいよう、周囲に注意しながら進む。

●戦闘
基本、ワニとは距離を取り、スクロールによる遠距離攻撃を主体。
前衛の攻撃をうまく支援できるよう、タイミングを見計らって攻撃するよう心がける。

自分が負傷しておらず、前衛が深く負傷していると判断した場合は、声かけをし、
自分が代わりに前に出る。その場合、武器は鉤爪に変更。

●銭湯
のんびりする。

撃退士・テイ(ja3138)
インフィルトレイター
【心情】
  (鬼道忍軍の人がいっぱいだなぁ・・・戦闘の邪魔にならないようにしないと。)

【目的】
  今回はサーバントの撃破を目的として参加しています。
  僕は、仲間の援護と仲間との交流を目的に参加しますよー。
 

【準備】
  <ライト>を準備しておきます。
  左手にライト。右手にリボルバーです。
  

【行動】
  ・隊列は四人行動を。
●黒班 前衛:橘(囮役)、明海 後衛:穢、テイ

僕は黒班の 穢(ja2372)さんと連携して後衛で仲間の援護したいな。
  ・武器はリボルバーを使用します。
  ・味方が苦戦している場合には、助けに入ります。
  ・サーバント(ワニ)を狙えるようなら直接攻撃をリボルバーで行いたいですねー。


  【会話など】
  「援護しますよ!注意してね!」
  「ワニが近づいてきませんように…!」

  戦闘終了後には仲間と銭湯に向かう。 
「温まる…生きて帰ってこれてかった…」

撃退士・橘椎名(ja4148)
ルインズブレイド
心情
「…絶対に倒す…」

目的
サーヴァントを倒す

作戦
・二班に分かれ並行して探索、交差路でお互いを随時確認する(※この一連中に相手側が遅れる等、何か異常を感じれば合流する)
・遭遇時は大声を出して知らせる。
・遭遇班の囮はワニを下水から通路の方へ誘き出す。
・合流班は遭遇班とワニを挟撃する形で合流する。
・ライトは班のうち誰かが持つ

隊列・班分け
●黒班
前衛:橘(囮役)、明海
後衛:穢、テイ

○白班
前衛:海本(囮役)、相麻
後衛:七尾、燎原

戦闘
肉を持った囮役が通路側にサーヴァントをおびき寄せる
おびき寄せたあとは後衛の人と喰われないように注意しながら連携攻撃をする

銭湯
仲間と一緒に銭湯に行きさっぱりする
着替えも持ってくる



リプレイ本文

 寒風が吹きすさぶ冬の某日、八人の撃退士達がサーバント退治の依頼受け、件の街の下水入口前に集まっていた。
(鬼道忍軍の人がいっぱいだなぁ……戦闘の邪魔にならないようにしないと)
 胸中でそう呟いているのはテイ(ja3138)だ。今回の目的はサーバントの撃破。撃退士としての目標は「とりあえず、みんなの命を助ける」ことであるらしい。
「……絶対に倒す……」
 橘椎名(ja4148)がぽつりと呟いた。幼少の頃、天使と悪魔の戦争で村を滅ぼされたのだという。橘はその村の唯一生き残りだった。
「サーバントってどんなのなのかな」
 穢(ja2372)がだるそうにしながらそんな事を言っている。サーバントは透過能力を持つ、今回は依頼側が阻霊術を地上で展開してくれるらしいので、固体をすり抜ける事はないが、下水には水が流れているから、それを掻きわけ水中に潜伏する事はあるだろう。ワニであるし。不意打ちには注意したいところだ。
(どこまでやれるかな)
 明海 絡(ja0139)は他者と連携してどれだけ力を発揮できるのか太刀打ちできるのかの確認と「強くなるには敵を知る」の精神からサーバントの調査を可能な限り行おうと考えていた。非常に熱しやすい性格をしているが、その裏で冷静に物事を見る少女だ。知っている者は強い、その事を明海は知っているのかもしれない。
「やだ、怖いね……」
 七尾 みつね(ja0616)は開かれたマンホールを覗き込み小さな身を震わせた。広がる闇とその見えない奥に恐怖を覚える。しかし、気合いを入れ直して言った。
「だけどね。私も戦う覚悟を決めて学園に来たんだから!」
 恐怖心に負けないように、初志を刻み、ここで戦っていく一歩を、覚悟を固める。
「やれると思うことを、全部やるだけだっ」
 燎原 灰葉(ja3044)が言った。物心ついた時から、育ての親である祖父に様々な体術・武術の基礎を叩き込まれて育ったのだという。
 少年は思った。今まで鍛錬はしてきてる。それを全部ぶつける、と。
 他方、
「ここでいっちょ名を挙げて、俺もモテキ突入やあ!」
 裏表無い性格なので不純な動機は一切隠さないという相麻 了(ja1283)中等部二年生十四歳が威勢の良い声をあげていた。いっそ清々しい。青春である。
「行くか」
 海本 衣馬(ja0433)がペンライトを点灯させて言った。今回は彼が白班の囮を務める。
 一同は頷くとそれぞれの思いを胸に光纏すると、用意した各種ライトを点灯し地下へと降りて行くのだった。


 地底の闇をライトの光で切り裂いて一行は探索を開始する。
 八人の撃退士達は、白ワニのサーバントを探索し仕留める為に二つの班に分かれていた。
 すなわち、白班と黒班であり、その内訳は白班が海本衣馬、相麻了、七尾みつね、燎原灰葉の四名、黒班が橘椎名、明海絡、穢、テイの四名だ。半数ずつに分かれた。
 碁盤目状の通路を一つ横に別れ平行して進み、交差路毎に互いライトで合図。確認後次のブロックへ同時に進む。敵遭遇で声を、また声や合図が遅いなど異変に気付いたら合流し討伐、そういう手筈だ。
 黒班の橘と白班の海本は囮を務め肉を持って通路の下水側を歩いた。白班後衛の七尾も水路側だ。滑らないよう長靴の足裏を踏みしめて歩き、他のメンバーの位置もよく確認している。黒班の明海はペンライトを持って囮役の橘とその周囲を照らすようにしながら歩いた。予備のライトは左腕の袖の中に点けたまま潜ませておく。他方、滑らないように運動靴を佩いた白班燎原はジッパー袋から「鈴を括りつけたブロック肉」を取り出し曲がり角に差し掛かる度に置いていっていった。黒班でも同様の作業が行われている。黒班、穢は角には夜光シールを張って印とした。解りやすい。曲がり角のNO.と地図を照らし合わせ地図に書き込んでいる。
 明海曰く事前相談で決まったのは、
「敵に遭遇したらその場所の番号を言って他班へ伝えるってことと、はぐれたら、同じく場所の番号を叫ぶってこと、地下だから声は響いて場所割り出しにくいし、サーバントに数字から場所を割り出す能力まではないだろ? 場所が割れても、聞こえたトコに俺たちも向かうから大丈夫って予想。これを活用したら挟撃もできるんじゃないのかな」
 との事で、なるほど、番号を使うというのは上手い手である。敵には解らないし、自分達はどちらに逃げて敵を誘導するか、どちらに動いて追い回り込むか、やりやすい。
 明海は地図と現場の地形を照らし合わせつつ実際にサーバントが出現したらどう動くかを皆に伝えてゆく。
「それにしてもすごい臭いだ。早く終えて風呂にでも行きたいものだよ」
 白班、海本がそんな事を言った。ペンライトで照らしながら僅かな水面の揺らめきも見逃さず奇襲に注意して進む。同班の相麻は正面を特に警戒していた。
 黒班、橘は下水の匂いに対しても無感情的な無表情のままで進んでいる。何を考えているのかは、余人には計り知れない。本人はサーヴァントに向かって肉を高く投げたら跳び上がって喰いつかないかな、と考えていた。このワニ型サーバントが肉に反応するかは、どうなのだろう、神のみぞ――否、ワニサーバントを創った天使のみぞ知るといった所か。同班テイは右手に抜き放ったリボルバーの銃口を上に向け、左手に構えたライトで照らしながら進んでいる。
 探索を開始してから小一時間ほど経った頃だろうか、白班の海本はライトの光に照らされる水面に、その下方から盛り上がって来るような、僅かな揺らぎを見てとった。揺らぎが大きくなって盛り上があり。水が爆ぜる。白く巨大な生物が顎を開いて飛び出して来た。人を丸のみできそうな程に上下に大きく広げられた口、並ぶ鋭く凶悪な牙、ワニだ。海本目がけて水面から奇襲する。
 しかし海本は仲間達へ注意の声をあげつつ既にその場から飛び退いている。ワニの顎が猛然と閉じたが、ガチンと空を噛んだだけだった。
「いたぞ、ワニだ!」
 海本が叫んだ。ライトに照らされ鈍く輝くその白い体躯と赤い色の瞳が輝いている。男は思う。なるほど、確かに白い動物ってのは神秘的なものを感じそうな気がした。ただし、ここが下水で、相手がサーヴァントじゃなければだ。踵を返す。
 白班の面々は黒班へと連絡の声を発しつつ、碁盤の目の通路を南へと後退する。鰐サーバントがそれを追い、白班の西側の位置に居た黒班が東へと進む。
 ワニが猛然と迫る。流石に魔獣、かなり速い。追いつかれるか。白班の面子はその前に足を止めて北へと向き直った。
 迎え撃つ。
 戦闘開始。
「いくぜっ!」
 燎原は叫んでスクロールをかざして光輝く球体を出現させ、シャーっと奇声をあげ身をうねらせ迫る大鰐に対して撃ち放った。七尾もまた手に苦無を出現させて腕を一閃させる。高速で飛んだ光弾が大鰐の体躯に激突してその強固な皮膚を爆ぜさせ、苦無がワニの前足に突き刺さる。が、鰐はダメージなどまるで受けてはいないかのような勢いで突っ込んで来る。魔獣だ。
 前衛の海本、両拳を固めて構え、大鰐の進路に立ち塞がる。神経を集中させ、相手の行動を先読みせんとする。攻撃には初動、という奴がある。その理を掴めば予測できるが、相手は人ではなくワニだ。読めるか? ワニとの格闘経験が多い高校生というのはあんまり聞いた事がない。が、四肢を持つ生物である事には変わりはない。想像力と判断力と反応速度の勝負。
 巨大鰐が口を上下に開いて飛びかかって来る。青年は咄嗟に半歩下がって間合いを外す、最小限の動き。かわした。が、大鰐は身を捻っている。突進の勢いを利用した連続攻撃、牙と尻尾の二段撃だ。
 しかし海本、尻尾にも良く注意を払っている。敵の動き、読んでる。唸りをあげて迫る尻尾を今度は大きく後ろにステップして間一髪でかわす。
「やったらぁッ!」
 その隙に相麻が担ぐように大太刀を振りかぶって跳躍し全体重をかけ、渾身の力で振り下ろした。痛烈な一撃。強烈な破壊が鰐の首裏に炸裂し固い皮が割れ、肉が斬れ、血飛沫が飛ぶ。鰐が叫び、海本が詰めてナックルを打ち込んだ。
 しかし簡単にはくたばらないのが、魔獣が魔獣たる由縁。顎を開いて威嚇し、身を捻って尻尾を振りまわし前足を振るって周囲を薙ぎ払う。尾が相麻の身に直撃して少年の身が吹き飛び、さらに海本に直撃、するかに見えたがよく見ている。後退してかわした。相麻は宙で身を捌いて足から着地すると、石の通路を蹴って太刀を振り上げ再び突っ込み、七尾、合間を縫って苦無に魔力を込めて投擲する。「大丈夫か?」と相麻に声をかけながら燎原が光球を飛ばした。
 大鰐は巨体に見合わぬ俊敏さで横にスライドして苦無と光球をかわし、拳を打ち込みに来た海本へと尻尾を合わせて振るい、海本は腕で受け流しながら拳を打ち込む。その間に相麻は「まだいける!」と燎原に答えつつ猛然と太刀を振り降ろして鰐の背中に刃を直撃させた。その時だ、
「お待たせしました! 援護しますよ!」
 テイの声が響いた。北側から黒班が到着。挟撃だ。少年はリボルバーを構え、挟撃で飛び道具は、外すと向こうの味方がヤバイ、だが角度的にはいけるか?
「注意してね!」
 声を発しつつ拳銃を連射。弾丸が飛び、それにタイミングを合わせて穢もザイル付きの苦無を投擲する。弾丸と苦無の後を追うように打刀を抜き放って橘が、拳を固めて明海が突っ込んでゆく。
 後背からの銃弾と苦無が大ワニを直撃し、間髪入れずに踏み込んだ橘の太刀が叩きつけられ、明海が側面に回って低い態勢から掬いあげるように拳を振り上げた。背から血飛沫が飛び、横腹が強打されて大鰐の身体が僅かに浮く。
 後方からの襲撃に鰐は叫び声をあげて猛然と首を巡らせて振り向き、穢がザイルを引っ張る。絡まる。引きあう力がぶつかりあい、ザイルが伸びてクナイが引き抜かれる。すかさず相麻と海本が仕掛けた。大太刀が炸裂し、腹に拳が叩き込まれる。袋叩きの態勢。
「いけるぞ皆!」
 燎原が一同を鼓舞するように声をあげた。鰐は無我夢中の体で尻尾を振り回し腕を振るうが、さすがに中るものではない。ぱっと前衛組みが飛び退いた所へ、後方の射撃組からの一斉射撃が襲いかかってゆく。
 光球と弾丸が硬皮を爆ぜさせ苦無が背に、足に刺さってゆく。
 弱り動きが鈍った大鰐は、横から拳の猛打を喰らって浮いた所をひっくり返され、その腹に剣士達の太刀が突き立てられ、ついに討ち取られた。
 橘は「よくやった」という声を倒した後に聞いたような気がした。仲間の誰かが言ったのかもしれないし、幻聴だったのかもしれない。だが、
「……サヨナラ……」
 ぽつりと少女は呟き刀を鞘に納めたのだった。


 その後。
「サーバントって、ここでどうやって生活してたのかな? 一匹だったみたいだけど」
 明海はそんな事をいって死亡した大鰐の口を開いて調べたりしていた。その際に胃袋の中から人間っぽいものの欠片が出てきたので冥福を祈っておく。海本は救急箱を使って自身を含め怪我人へと応急処置をしておいた。
 かくて無事に大鰐サーバントの退治を完了した一行は、七尾が手配しておいた銭湯へと向かった。出発前に七尾が下水の汚れを落とせるよう交渉と嘆願を行っていたのである。了解が貰えた店の裏手でお湯を貰って汚れを落としてから一同は湯に入った。
「温まる……生きて帰ってこれてかった……」
 湯船に浸かっている最中、テイはそんな事を呟いてほっと一息ついていた。燎原ものんびりと浸かっていた。女湯では明海がこっそり泳ぎ始めて七尾が慌て橘が無表情だがちょっと楽しそうにそれを眺めていた。
「未だ……におう?」
 汚れはすごく気になる性質らしくせっせと身体をあらっていた穢はくんくんと自分の匂いを嗅いでいた。すっかり石鹸の良い匂いです。大丈夫。
 風呂上がり、着替え持ちの者達はそれに着替えて一同は飲み物を片手にロビーに集まった。
「なあなあ、俺って結構イケてたやろ?」
「……あんまり見てなかった」
「えっ!」
「……冗句」
 相麻が橘や七尾、明海等女子陣相手にナンパに勤しんでいたが、そちらも今回の依頼のように大成功といったのかどうかは、本人達が知る所である。


 了


依頼相談掲示板

話し合い用スレッド
穢(ja2372)|高等部2年23組|男|鬼道
最終発言日時:2011年12月10日 15:44
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2011年12月06日 07:06








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