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マスター:黒川うみ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
サポート:0
報酬:通常
リプレイ完成日時:2011/12/27


オープニング

 いつものように依頼が貼り出されている掲示板を見に行くと、斡旋所でアルバイトをしている女学生が困ったように手に持ったカードを見つめていた。難しい依頼でも入ってきたのだろうか。好奇心で声を掛けた。
「どうかしたんですか?」
「え? ああ、何でもないのよ。依頼に見えないものが貼ってあるって言われて確認してたんだけど……」
 そう言って見せてくれたカードはパーティの紹介状のような蔦の縁取りがされており、馬鹿丁寧に「予告状」と印刷されていた。
「……下記のプールの水を盗む。怪盗……じゅうさん?」
「プールの水なんか盗んでどうするのかしら? って、思わず真剣に考えてたのよ。排水溝の栓でも抜くつもりかしら?」
 確かに訳が分からない内容だ。
「緊急を要する依頼もあるのに、こういうイタズラは困るのよね。ゴミ箱に捨てておくわ」
 肩をすくめて、彼女は窓口へと戻って行った。
 それきり、そんなカードのことなど忘れていた。
 思い出したのは、学園に数あるプールのひとつが使用禁止になったという話を聞いた時だった。
「え、なんで?」
「プールに爆弾が仕掛けられて底に大穴が空いたんだって。危ないから修理が終わるまで使用禁止らしいよ」
 その事件の日は、あの予告状の日付と一致していた。

 慌てて斡旋所に行くと、あのアルバイトの女学生が青い顔をして掲示板の前に立っていた。
「あの」
「あっ」
 彼女もあの予告状のことを思い出していたようだ。
「ねえ、これ、どうしよう!」
 声をかけると彼女は一枚のカードを手に駆け寄ってきた。
 手渡されたカードを見ると、そこにはまた「予告状」の文字があった。
「……掲示板からカードが消えていたのでてっきり私の挑戦を受けてくれる者が現れたと思ったのに拍子抜けだ。だが何しろ広い学園だからな。場所を間違えてしまったのかもしれない。私は心が広いからな。もう一度チャンスをやろう。次は間違えないでくれよ……?」
「私てっきりイタズラだと思って! どうしよう!」
 すっかり動揺しきった彼女を宥めようと思うのだが、次に盗むものについての記述が意味不明すぎて何も言えなくなってしまった。

 下記の理科室の人体模型の恋心を盗む。

 こいつは一体なにがしたいのか。
 訳が分からない。
「とりあえず、先生に報告しませんか……?」
 それしか言えなかった。


 斡旋所に偶然来ていた教師は話を聞終えた後ため息をついた。
「変な輩が出たものね」
「黙っていてすみません」
「まあ、イタズラと思っても仕方ないわね。この件は上に報告するけれど、このカードは掲示板に貼られていたんでしょう?」
「……はい」
「だったら正式に依頼として扱うわ。ただし、この自称怪盗さんを捕まえてもらう依頼よ。人体模型の恋心が何かはわからないけれど、プールに穴を空けた犯人なら捕まえる必要があるわ。弁償してもらわないとね。せっかく場所と日時まで指定してくれてるんだから。多少怪我させたって構わないわよ?」
 一理あるようなないような、そんな話だった。


解説

・日は次の満月の晩、時は深夜0時、場所は予告状に記された理科室
・守るべきものは『人体模型の恋心』
・依頼内容は怪盗13を捕まえ、プールの修理費を弁償させること
・犯人の正体は不明だが、依頼掲示板に予告状が貼られていたことから学園関係者・撃退士ではないかと思われる

●マスターより

 あんまり難しく考えない方がいい、とよく言われるので言ってみる側に回ってみました。
 こんにちは、MS黒川うみです。
 ちなみに「怪盗じゅうさん」ではなく「怪盗サーティーン」と呼んであげて下さい。
 この怪盗が何を考えているのかはよくわかりません。同時に、どんな手段を取るかもわかりません。
 まずは「人体模型の恋心」が何かを特定する必要があります。ヒントは難しく考えないこと!


現在の参加キャラクター


プレイング

撃退士・神崎・倭子(ja0063)
ディバインナイト
■目的
怪盗13の捕縛
プール代金弁償

■行動
今回は随分ロマンチックな予告だけど、前回の…プールの爆破だったかい?
あのスマートさのカケラも無い犯行は一体何なのかな?

怪盗とは常にスマートにあるべきだとボクは思うわけだ!
つまり彼のような三流怪盗には…さっさとお縄についてもらって
無粋の対価を支払って頂きたいね!

・事前準備
八神・劫真(ja2136)と行動。
懐中電灯の貸し出し、深夜の屋上使用の許可を得る。
理科室〜屋上周辺の人払いも要請。

変装対策に仲間内でメールを送りあい、本人確認時はそのメールを見せ合う。
連絡用に電話番号、メールアドレスは全員へ通知。

・基本作戦
自身は屋上待機。まず理科室組が怪盗の目的を確認。

>犯人の狙いが心臓模型の場合
囮班が怪盗を屋上へ誘導。自身はドア付近に潜み、
怪盗が到達後ドアを閉め、そこに陣取り逃げ道を塞ぐ。

>そうでない場合
理科室へ移動。相手が逃走を開始したら、電話での追跡指示を頼りに先回りを試みる。

・怪盗対峙時
一足で相手に最接近できる距離をキープ。
相手の動く素振りに合わせてその行動を潰す意図で攻撃を行なう。
攻撃は基本的に剣で受け、鍔迫り合い等の相手の動きを阻害させる状況へ持ち込む。

撃退士・ミシェル・ギルバート(ja0205)
阿修羅
▼心情
怪盗ってどんなかなぁっ(わくわく

▼準備
理科室備品整理
恋心=心臓? 模型の心臓を丸い蒟蒻にすり換え!手触りに驚かないかなっ(本物は智花へ
黒板消しに大量のチョークの粉
懐中電灯
ロープに鉤爪をつける
仲間と連絡先交換
催涙ガス対策に水泳用ゴーグル首にかけ

▼行動
事前に依頼斡旋掲示板にキスマーク付でカードを貼る
<怪盗十三へ。とれるもんならとってみろー!学園美少女刑事☆トモカ&ミシェル>

夜食には超期待!お鍋ー♪

●理科室待伏せ…3組(奏・ミシェル
電気を消し懐中電灯手に教卓裏へ潜む

・心臓狙い
電気ついたらポーズ決め
「でたな、怪盗サー…サーなんとか!美少女刑事(デカ)参上!心臓はアタシ等が持ってるしっ」
逃げる前に黒板消し投げ挑発
智花のやや後方を走り怪盗の妨害からカバーしつつ屋上へ誘導

→屋上
「袋の鼠とはこの事なのだし!…一回言って見たかったのだし!」
怪盗が地上へ降りたら鉤爪ロープを柵等に引っ掛け滑り降りる

・別目標
黒板消し投げ不意打ちで犯行妨害
窓側につき逃走防止
逃走時は連絡取り合い仲間と追い詰める

◎ガス、爆弾に注意
爆弾は可能なら屋外へ出す
ガスはハンカチ、ゴーグルで対処

●怪盗捕獲後
一連の犯行理由と恋心の意味を聞く
実は壮大な恋バナが…とか!

撃退士・月水鏡 那雨夜(ja0356)
インフィルトレイター
【心情】
「ジュウソウさんって・・・何の目的で・・・プール・・・壊したんだろう・・・」

【目的】
依頼を解決する為、怪盗十三さんを捕まえる事を目的として参加する。

晩御飯担当:白菜と豚肉のお鍋とご飯(全員分)

【準備】
照明器具を借りる。
作戦があれば事前に打ち合わせ、それに協力で一様応える。

【同行者】
楠 侑紗さん

【行動】
依頼中は犯行現場予告現場で隠れる事を重視、心臓が狙いであれば屋上に移動するまで、存在感を消し続け、屋上から逃亡する恐れがあれば、足を狙い撃つ。
「逃げてもいいけど、絶対に逃がさないから。」

狙いがそれ以外であれば、犯人が人体模型に触れたとたん銃撃を行う。
「さて、鬼ごっこでもはじめよう。」(ニコッと笑い)


「男の人・・・あうー・・・」(敵対解除後、固まって倒れる)

撃退士・八神・劫真(ja2136)
アストラルヴァンガード
「ハハハ!待たせたね諸君!私の名は八神・劫真。宜しく頼む」
依頼を受け相談している所に、最後になって無駄に偉そうに入ってきてポーズをつけて自己紹介。
その後、ダッシュして遅れた事を全力で土下座して謝罪。

【行動】
「では、私は神崎君とだね?よろしくお願いするよ」
神崎君にそう言って握手を求めよう。

ああ、那雨夜君にはピリ辛程度な麻婆豆腐を希望。
まあ違っても美味しくいただく事には間違いは無い。
出来る限り祝杯と行こうではないか。酒は無理だがね?

私も人体模型の心臓こそが怪盗の狙いではないかと考えている。

事前に理科室、理科準備室を含む隣接した部屋、理科室の窓際下の地面などを軸に怪しいものがないかを調べておく。
地面に風船を大量に準備していたり、実は部屋に徹夜で隠れている等と言う事が無い様に。

その後、作戦決行時には神崎君とペアで、屋上に詰めておこう。
屋上の高い所に登っておこう。
そして仲間が屋上に13を誘い込んでくるのを待っている。

来たら足元にバッとポーズを決め声をかける。
「私の名は八神・劫真!!」
無駄にポーズを付け名乗り、馬鹿な言動で注意を引きつつ、さりげなくポーズの間にサングラスをつけておく(不意の閃光対策)
仲間には出会ってからずっと馬鹿をしているからもう気にしなくていいものだと思って貰えている事だろう。
それこそが作戦(8割素)
捕獲時はスクロールを退路に打ち込み、仲間の行動から意識が逸れる様にサポート。

撃退士・湊 智花(ja2569)
阿修羅
【目的】
怪盗13を捕まえプール代を弁償させる

【準備】
あらかじめ人体模型の本物の心臓を偽物とすり替える。本物の心臓は私が持つ
支給品あるいは購買で買っておいたペンライトを所持
携帯電話にお互いが本物であるということを確認するメールを送信して常に取り出せるようにする
事前に依頼参加者以外は理科室及びその周りに立ち入らないよう宣伝しておく

【作戦】
理科室で隠れる組と屋上で待機する組に分かれる
私は理科室で隠れる組に参加する

犯人が現れた場合行動次第でこちらも行動を変える

【犯人が心臓を狙っていた場合】
心臓の本物を持っている人ともう一人が囮となって犯人に「自分が追いかけている」と思わせるようにして屋上に逃げる
理科室組は犯人が囮役を追いかけた後気づかれないように後を追い屋上組にメールで連絡
屋上組は連絡を受けた後犯人が屋上に来た瞬間屋上を封鎖して捕縛する

【犯人が心臓以外の物を狙っていた場合】
屋上組に連絡した後、理科室組で犯人確保に専念する
犯人が逃走した場合理科室、屋上組で常に連絡をとりながら犯人を見失わないようにする

【心情】
どうしてこんなことをするんでしょうか・・・

犯人は私が一番に捕まえてみせます!

撃退士・楠 侑紗(ja3231)
ダアト
★目的
怪盗13の捕縛

★準備
『人体模型の恋心』を心臓パーツと推測
全てのメンバーとメールアドレスを交換
光源は所持しているペンライトを使用
怪盗の変装対策として、事前に交換したメールをメンバーと見せ合います
メンバーを囮役2人、理科室組2人、屋上組4人に分けます
私は理科室組として月水鏡さんと行動を共にします

★行動
灯りを消し人体模型付近に潜伏
可能な限り、人体模型が見張れ電気が点いても見つかり辛い位置を選択
怪盗出現後、怪盗の行動から「狙いが心臓パーツか否か」を判定
狙いに応じて、事前に用意していた2つのメールの片方を屋上組のメンバーに送信
その後の作戦分岐を伝達

●怪盗の狙いが心臓パーツの場合
囮役と怪盗が理科室から姿を消した後、校舎外へ移動
怪盗がパラシュート等を用いて屋上から逃走するのを待伏せ、捕縛を目指します
必要に応じ、武器による攻撃もやむ無しです

●怪盗の狙いが心臓パーツ以外の場合
怪盗が校舎外に出ないよう武器を駆使して立ち回り、
メンバー全員と連携して捕縛を目指します

撃退士・鳳 静矢(ja3856)
ルインズブレイド
犯人の目標は『人体模型の心臓』と定め、理科室と屋上に半数ずつ分かれる。
私は皐月葵とペアを組み、神崎・八神ペアと共に屋上で犯人を待ち伏せする。

犯人の変装を防ぐ為、参加者間で携帯に確認用のメールを送信しておき、必要な際にはソレを見せ合う様にする。
加えて、犯行予告の時間には依頼参加者以外は理科室周辺に立ち入らないように宣伝してもらう。


犯人が現れた際は、以下の2パターンで行動を分岐。
【犯人の狙いが人体模型の心臓の場合】
  理科室の囮役が犯人を屋上まで誘いこむので、犯人を屋上に追い詰めた後、全員で確保。
【犯人の狙いが人体模型の心臓でなかった場合】
  皐月葵と共に屋上から理科室付近に移動。
  犯人が理科室から飛び出してきた際に確保行動を行う。

犯人逃走時の追跡の際、周辺確認等にアイテムとして所持しているペンライトを使用する。

その他の事項や細かい打ち合わせ事項に関しては、
他参加者のプレイングに記載された内容に従う。

犯人を捕まえる際は、足を重点的に狙う。
『足に武器を突き刺し動きを止める』程度の過激行動を行うが命に及ぶ攻撃は控える。

撃退士・皐月 葵(ja3865)
ダアト
■目的
怪盗13の捕縛・盗みの防止

■事前行動
光源として、懐中電灯を用意。
依頼人である先生に、理科室以外に屋上も使用する旨を説明。屋上の鍵と使用許可を頂く。
屋上にて、危険物・敵の逃走に使えそうなものがあれば排除する。

■班
屋上班。鳳殿、神崎殿、八神殿と共に、屋上にて待機。

■行動
怪盗の行動により、以下の2ルートに展開。
いずれも携帯電話にて、理科室班と密に連絡を取り、臨機応変に対処。
魔法を使う際は、敵と間合いを取り、前衛と被らぬ頃合いを見つつ。
敵を倒す事が目的ではなく、あくまで捕縛に至るための手段として使用する。

・犯人の狙い=心臓模型の場合
囮班が、理科室より怪盗を屋上へ誘導。
敵が屋上に現れたら、ドア前へ回り込み、逃走ルートを断つ。
もし飛行物(パラシュート等)で空へ逃走しようとした場合、飛行物に向けて魔法を放ち、妨害。

・狙い=心臓模型ではない場合
理科室班の連絡を受け、応援のため理科室へ移動。
間に合わぬ場合は、近場の廊下や階段にての捕縛に回る。
逃走中の怪盗と距離が開きそうな場合は、魔法で足元を狙い、足止めを。

■備考
犯人の変装対策として、携帯のメール機能を使用。



リプレイ本文

●予告当日18:03
「はーい、こちら昇降口の神崎(ja0063)でーす。最後の生徒の下校を確認したんだよー!」
「こちら楠(ja3231)、了解しました。昇降口以外の戸締まり確認は完了しましたよ。……ところで、八神(ja2136)くんはまだですか?」
「まだみたいなんだよ。ケータイも繋がらないしー。ボクどうしたらいいかな?」
「ちょっと待って下さい。……、……、神崎さん。ひとまず鍵を閉めて理科室に来て下さい。とりあえず七人で最終確認をしましょうとのことです」
「りょうかーい」

●20:41
「ハハハ! 待たせたね諸君! 私の名は八神・劫真。宜しく頼む!」
 自信満々に宣言した青年はポーズをつけた後、つるーんと床に滑るようにして土下座した。
「遅くなって申し訳ありませんでしたあ!」
 十四の目で生ぬるーく見つめられて青年は全身に冷や汗を掻いていたが、時間が圧している。理科室傍の教室で八人は各々持ち寄った道具を確認した。
 中でも形容しがたいピンク色の模型をお手玉のようにもてあそぶミシェル・ギルバート(ja0205)は未だに納得いかないというように首を傾げていた。
「予告の『人体模型の恋心』は心臓の模型ってことで意見は一致してるんだよねえ」
「他に思い当たるものがないからな」
 鳳 静矢(ja3856)はしみじみと頷き、その横で皐月 葵(ja3865)が看板で同意を示している。楠 侑紗は話をまとめるように淡々と語った。
「湊(ja2569)さんとミシェルさんは囮として相手を屋上に誘導し、その後を気付かれないように月水鏡(ja0356)さんと私が追いかけます。ただし、奴の目的が心臓の模型でない場合は屋上組にメールを送ります。屋上組の神崎さん、八神さん、鳳さん、皐月さんは打ち合わせ通りお願いします」
「了解なんだよ! 怪盗13? とかいうの、さくっと捕まえちゃおう! 全力投球ー! えいえいおー!」
「おー!」
「……おー」

●23:55
 教卓に隠れた湊とミシェルは緊張の面持ちで教室の時計の針が進む音を聴いていた。囮役で援護要員もいるとはいえ、やはり正体不明の相手がやってくるとなると心臓がばくばくと激しく存在を主張する。
 そういえば、と湊 智花は小声でミシェルに話しかけた。激しい人見知りを持っているのだが暗闇なので比較的落ち着いて喋れるようだ。
「そういえば掲示板に貼らせてもらった怪盗ジュウソウに向けたメッセージなんですけど」
「ああ、あれ。見てくれたかなー」
 その挑戦受けて立つ、という意味も込めた相手を挑発するカードなのだが、
「今日来る時には、なくなって、ました」
「え?」
 どういう意味かを聴く時間は残されていなかった。

●予告時刻00:00
 三本の針が重なった瞬間、コーンと甲高い音が深夜の理科室に響いた。隠れた4人は身を固くしたが、ガシャーンと窓ガラスの割れる音に各々覚悟を決めた。
 窓を割って侵入してきた人物は一気に理科室の中央まで転がって、すくっと立ち上がった。
「スリー、ツー、ワン……」
 きっかり三秒数えた後、その人物は入口付近に向かって何かを投げた。パッと教室が明るくなったことで蛍光灯のスイッチに当たったことがわかる。
 変わった格好をした人物は確信を持って高らかに宣言した。
「いるのはわかっている。姿を現わしたまえ、学園美少女刑事!」
 かくっと力の抜けかけた一同であった。
 ミシェルはフフフと笑いながら立ち上がると、負けじと声を張り上げて侵入者を指さした。
「出たな、怪盗サー……なんとか! 美少女刑事ミシェル参上! 心臓はアタシ等が持ってるしっ」
「キミキミ、私のことはサーティーンと呼びたまえ、サーティーンと」
「あなたが、怪盗?」
「いかにも。キミが美少女刑事トモカくんだね」
 煌々と輝く蛍光灯の下、腰に手を当てて堂々と立っているのは男性だ。声からして男性だ。だが、その衣装は奇抜のひと言に尽きる。何しろ顔に付けている仮面からブーツ、マントにいたるまでシルバー一色で統一され、ピカピカと光を反射して眩しいことこの上ない。なるほど、自称怪盗などと言い出すだけの変態ではある。
「可愛らしいメッセージをありがとう。……ところで今とてもいいことを聞いたな。『人体模型の恋心』の謎を解き明かしただけではなく、キミたちが持っていることを知ってしまった。聞き流すべきか悩むところだが、ここはあえて有り難く助言を受け取ることにしよう」
「し、しまったのだし! 智花! 逃げるのだし!」
「は、はい!」
 二人は理科室を飛び出して予定通り屋上への最短ルートを駆け抜ける。
「ははは! 追いかけっこか? よかろう!」
 二人の後を追いかけて怪盗13も走り出した。
 勢い良く三人が去った後、身を潜めていた楠と月水鏡は隠密状態のまま彼女らを追いかけ始めた。その際月水鏡は用意しておいたメールを一斉送信した。屋上組へこれから怪盗を追い込む旨を記したものだ。
 本番はここからである。
 屋上で『これから向かう』とのメールを受け取った四人は開いた扉の裏に隠れて一同がやってくるのを息をひそめて待った。撃退士の本気の走りである。階段を駆け上がるとしてもさして時間はかからない。
 最初に飛び出してきたのは湊だった。次いでミシェル、怪盗13と続き、楠と月水鏡が屋上の扉を抜けた瞬間扉は固く閉ざされた。同時に屋上への階段がある一段高くなったところからダン、ダンと照明が一同を照らし出す。
 照明のスイッチを入れた青年は、
「私の名は八神・劫真!」
 すちゃっとサングラスを掛けながら屋上に飛び降りてポーズを取った。だが逃げ道を塞ぐ神崎にその頭をぱしんとはたかれた。
「それはもういいんだよ」
「く、世間は世知辛い……」
 漫才のようなやりとりをしているが、これで八対一。数においては圧倒しているが、怪盗13は楽しげに余裕の笑みを浮かべた。
「ほおう、八人か。では改めて名乗ろう。私は怪盗サーティーン! じきにこの久遠が原学園に名を轟かせるであろう怪盗だ!」
 今はまだ知られていないことを正直に言ってしまうあたり相当の間抜けだが、その奇抜な格好に屋上で待機していた四人も面食らった様子だった。
「銀……一色とか……」
「目がチカチカするが、油断はするな」
 剣を構えつつ鳳は味方に声を掛けるが、
「ふむ……これは力ずくで私を捕まえる方向かな?」
「大人しく捕まって、プールの修理費を弁償してくれてもいい……」
 皐月が淡々と諭すが、怪盗が頷かないだろうことはその場の誰もが理解していた。
「では、私は力ずくで『人体模型の恋心』を奪うまでだ! かかってくるがいい!」
「大人しく忠告に従わないと痛い目を見るぞ」
「さて、それはどうかな?」
 怪盗13が取り出したのは一丁の銃だった。それをくるりと回して握りしめると、標的を定めて一発放った。その先にいたのは――湊 智花だった。
「智花!」
 慌てて庇うようにミシェルが駆け寄るが、湊は毅然と怪盗13を睨み付けていた。すんでのところで避けたらしい。怪盗13は尊大に笑った。
「同じ言葉を返させてもらおう。私を侮ると痛い目に合うぞ。先程の逃げ方、そしてこの配置とその表情、彼女が持っているのは間違いなさそうだな。……気になってカマをかけてみただけなんだが、大当たりのようだ」
 思わず顔色を変えたのはミシェルだけではない。全員が唐突な怪盗の行動に表情を強張らせてしまったのだ。
「どうやら、ただのバカじゃないようですね」
「全力で湊さんを守りましょう!」
 そして戦いの火ぶたは切って落とされた。
 ショートソードを構えた神崎と鳳が前衛に回り、手裏剣を持ったミシェルは怪盗13の斜め横に立つ。その後ろに飛び道具を持つ月水鏡、楠、皐月が立って、人体模型の心臓を持つ湊が一番後ろで貯水タンクを背に防御の構えを取った。
 一番手、と飛び出したのは神崎・倭子だ。
「でぇやあい!」
「フッ」
 くるりと身を翻して避けたところに鳳 静矢が剣をなぎ払う形で逃げ場を奪う。しかし怪盗13は軽やかにバク転して後退し躱した。
「大人しく捕まるのだし!」
 足下を狙って投げられた手裏剣も舞踏の足さばきとでもいうかのように銀色の男は余裕で回避する。それどころか、
「中々のコンビネーションだ。今宵は存分に楽しもう!」
 テンションを上げてしまう始末だ。
 それにしても怪盗13の身体能力は撃退士にしても高い方だと思われる。当然の疑問として神崎は言葉を投げかけた。
「今回は随分ロマンチックな予告だけど、前回の…プールの爆破だったかい? あのスマートさのカケラも無い犯行は一体何なのかな? これだけの力があるならばあんな無粋な真似はせずともいいと思うのだけれどね!」
「確かにアレは無粋極まりない不幸な事故だった。だがこうしてキミたちに出逢えたことを思えば運命だったのかもしれないな」
 キザなことを言いつつ、どこからともなく取り出されたのは『これでもか!』というほど爆弾の形をした球体だった。
「ば、爆弾!?」
 驚きの声を無視して怪盗13はその球体を宙に投げた。
「避けろ!」
 湊を庇うように飛び出した八神・劫真の頭上に降り注いだのは爆破の衝撃ではなく――花吹雪だった。薄い紙を花びら型に切ったものがひらひらと風に乗って散っていく。それは季節外れだが満月によく合っていて、幻想的な光景を作り出していた。
「な、なんじゃこりゃあ!?」
「うむ。やはり満月には花だな! 急いで作った割には良い出来だ!」
 皐月 葵は呟く代わりに、
『意味不明』
 という看板を手に困惑した表情を浮かべている。確かに意味不明の上、攻撃力ゼロの行動である。
 花びらが舞っている中、銃声が鳴り響く。冷静さを失わなかった月水鏡 那雨夜による攻撃だが、それさえも怪盗13は避けたようだ。
「これならどうです?」
 楠 侑紗はロッドを高く掲げて振り下ろす。光球が放たれ怪盗13めがけて飛んでいく。
「ム!」
 さすがに避けられなかったのか声が上がるが、花びらが落ちきった後マントで全身を覆うようにして跪いていた怪盗13に一同は期待の眼差しを向けるが、彼はばっとマントを広げて余裕の笑みを浮かべてみせた。
「上出来だ。だがまだまだ甘いな!」
 そう叫んだ怪盗13の手には再び爆弾状の球体があった。
「また紙吹雪?」
「今度はひと味違う夢をお届けしよう!」
「怪盗ジュウソウのくせに強い……!」
「誰がジュウソウか!」
 月水鏡の呟きにツッコミを入れるように球体が投げられる。当然狙いは月水鏡だ。今度こそボンッという爆破音がしたが、火薬は少量だったようだ。代わりに球体に詰まっていたのは……。
「こ、この臭いは……胡椒!?」
 思わず後ろに退いた湊だが、
「くしゅん! はっくしゅん! くしゅん!」
 直撃した上に爆破で思い切り吸い込んでしまったらしい月水鏡はくしゃみと涙で散々な有様だった。
「那雨夜!」
「え、えげつな!」
「女の子にこれは酷すぎる……」
「やはり三流怪盗だったか」
『最低』
 非難囂々の一同に、なぜか本気で狼狽え始めた怪盗13だった。
「ち、違う! これは私が作ったものでは……! くそうあいつめ! また私のロシアンボムを勝手に入れ替えたな!? だ、大丈夫かいキミ!」
「くしゅん! くしゅん! げほげほ、けほっ」
 心配はすれどもまともな返事ができるわけがない。
「と、とりあえず顔を洗ってきた方がいい。いいな? 怪盗じゅうぞう」
「い、致し方あるまい。って、誰がじゅうぞうだ!」
 涙が止まらず視界が怪しいのか、ふらふらと月水鏡は屋上の出口に向かって歩いていく。その後ろ姿をなんとも言えない気まずい表情で一同は見送ったのだった。
 ごほん、とわざとらしい咳払いをして怪盗13は残った七人に向き直った。
「では、続きと行こうか!」
「誤魔化してる誤魔化してる」
 若干親近感が沸いたが、油断するわけにはいかない。様子見を終えて白熱しはじめた戦闘だったが、やはり怪盗13の回避率は桁外れで七人はじりじりと圧され始めていた。爆弾系は封印したらしいが銃に投げナイフにカードにと種類に富んだ攻撃が少しずつ確実に体力を削っていく。
 疲れに気が緩んだ一瞬だった。
 湊の後ろに怪盗13が立ち、その手には彼女が持っていた人体模型の心臓が握られていた。
「しまった!」
 だが既に勝負は決していた。
「中々に楽しい一夜だった。私はこれにて失礼しよう!」
 止める暇もなく怪盗13は屋上のフェンスをひょいと苦もなく乗り越えて、地上へと身を投げた。
「待て!」
 慌ててフェンスにしがみついた神崎と鳳、ミシェルは目を疑った。そこには嫌と言うほど目に焼き付いてしまった銀色の姿はなかった。
「しまった、そういうことか! あの衣装はあえて目立つようにしていたのか!」
「え? あ! あの衣装脱いで逃げたのだし!?」
「そ、そういえば顔の輪郭とか体格とか覚えてないよ!? 重要な手がかりになるのに!」
 追跡したい気持ちは山々だったが、満身創痍の一同にそれだけの気力は残されていなかった。
 そこにひらひらと札のような紙が一枚振ってきた。
 拾い上げて神崎が書かれた文字を読み上げる。
「なになに? ……今宵の健闘を讃え、これを贈る。プールの修理費の足しにでもしてくれたまえ?」
「あ、これ小切手なのだし! 13万久遠って書いてあるのだし!」
 完全にしてやられたとため息をつく鳳の横で、学園美少女刑事ミシェルは綺麗な満月をキッと睨み付けた。
「怪盗サーティーン……いずれボクが絶対に捕まえてみせるんだよ!」
「悔しいんだしー! 首を洗って待っているんだしー!」
 こうして満月の長い夜は終わりを告げたのだった。

 依頼失敗という重い言葉を背負って現れた八人を受付のアルバイトと教師は今か今かと待っていた。
「すみません……怪盗を捕まえることは、できませんでした……」
 経緯を聞いた教師は13万久遠の小切手を受取ると、口中でぶつぶつと何かを呟き始めた。それは被害損額の計算だったのだが、まるで呪文のようだった。
「気を落とさないで。当座の修理費にはなりそうよ。残念な結果だったけれど、貴方たちが頑張ったおかげよ。修理費を請求するという依頼は成功として扱うわ。この経験をバネに一層精進してちょうだい」
「はい、それはもう! 二度とこんな失態がないようにします!」
「いい返事ね。それじゃあ、私は経理にこの小切手を届けにいくわ」
 朗らかに笑って教師は去っていった。肩の荷が下りた様子だった。
「……13万久遠って、結構な大金だよね……?」
「我々が支払うことにならないでよかったと見るべきか……」
 微妙な表情を浮かべる一同の中で、皐月 葵はしみじみと呟いたのだった。
「結局……どうして13なのかは分からなかったな……13歳ではなさそうだったが……」
 うーんと首を傾げて考えるが、それに答える者は誰一人としてなかった。


依頼相談掲示板

作戦会議テーブル
楠 侑紗(ja3231)|中等部3年11組|女|ダア
最終発言日時:2011年12月10日 15:56
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2011年12月08日 08:30








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