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マスター:神子月弓
シナリオ形態:ショート
難易度:やや難
形態:
サポート:0
報酬:通常
リプレイ完成日時:2011/12/27


オープニング

●男一人、ただひたすらに風呂を磨く
ここは久遠ヶ原学園の東端、外れも外れの里山奥である。
来るものと言えば、猿か鳥か、小動物程度のものである。
そんな、誰にも知られていない秘境だが、一人の男が住みついていた。
男は久遠ヶ原学園用務員のひとり。
この秘境に隠された、秘湯中の秘湯、天然温泉「翡翠の湯」を清掃し、管理するためだけに日々を費やしている。
ゴシゴシとモップをかけ、湯かきをし、簡素な更衣室をぴかぴかに磨き上げる。
「翡翠の湯」からの眺めは絶景で、島の東端とオーシャンブルーの海が眼下に見渡せる。
湯質もよく、美肌効果もあり、傷を癒す効果もあり、と、文句のつけようもない。
ただ。

客が来ない。

知られざる名湯ゆえに、猿しか客が来ない。

「俺は‥‥猿のために、毎日毎日、風呂を磨いているのか」
男は天を仰いだ。虚しさが涙となってついと頬を流れ落ちた。

●宣伝しよう!
男が涙した日から3日ほど経ったある日。
当然ながら、用務員から秘湯「翡翠の湯」の知名度をあげるべく、宣伝活動をして欲しいという依頼が、久遠が原学園のとある依頼斡旋所に舞い込んできた。
まず、なにが必要か。
依頼の概要の書かれたメモを見て集まった学生たちは、知恵を出し合った。

うむ、猿はいかん。
ここは、女子学生に湯に入ってもらうべきであろう。

「幾ら依頼のためとはいえ、ハダカになるのはいやぁ〜! 写真にとるんでしょ?!」
当然女子学生からは、反発が起きた。
しかし、客を釣るのが本来の目的である。
「一見着ていないように見えるビキニで、肩だけ出すとか、何とかならないかな」
「初等部の生徒にスク水を着てもらうのは、寧ろ客引きにならないか?」
様々な案が出る。
「それも問題だが、水蒸気の中で、綺麗な写真が撮れるかも問題だな」
確かに、撮影技術も問われそうだ。
「ロケーションの確認も必要だな。用務員のおっさんの話では、里山から見下ろすように撮ると、温泉も、島の東端も、海も一望できるという話なんだが」
「その前に、湯から猿を追い出すのは誰がやるんだ?」
「うーむ」
 難題噴出である。謳い文句を考える役割の生徒が、ホワイトボードに整理する。

1.猿を追い出す係
2.湯につかるモデル女子学生数名
3.撮影担当数名
4.謳い文句を考える担当
5.レイアウトしてチラシにして配布(全員でやればOK?)

「とにかく、温泉としては文句なしなんだから、有名にしてあげましょうよ!」
「まあ、異論はないね」
皆、頷いた。


解説

・秘湯中の秘湯「翡翠の湯」を有名にするのが、このシナリオの目的です。
・要するに、客を釣りましょう。
・なお、男湯と女湯はわかれています。双方とも露天風呂です。
・基本的にはコメディタッチのシナリオと考えています。但し、えっちな描写は致しませんので、ご了承くださいませ。物足りない方は脳内補完なさってください。
・モデル学生は女子を想定していますが、我こそはと名乗り出る漢がいらっしゃいましたら、そのようにいたします。

●マスターより

お世話になります。どうぞよろしくお願いいたします。
コミカルに、そして楽しく、秘湯の布教活動を進めて参りましょう。
皆様のご参加をお待ちしております。


現在の参加キャラクター


プレイング

撃退士・黒百合(ja0422)
鬼道忍軍
アドリブ可

※心情

いい温泉なんだけどぉ…まぁ、どんな良い場所でも、作品でも知名度が無ければ大した価値なんて生まれないものなのよねぇ…

※目的

交渉役として行動ですね。学園側や温泉側は幸月ちゃんや、フレデリカちゃんが担当したみたいだから私は温泉周辺の近隣施設を中心に交渉しましょうか

※行動・台詞

交渉相手とするのは近隣の飲食店、土産屋、農家などを中心ね。環境的に人の流れが多いとは思えないので、今回の依頼の温泉が有名になれば地域の活性化に繋がる事を話の主軸に置いて話しましょうか。まずは実績0の現状だから、商品や生産品の一部を置いて欲しい、流して欲しい…程度の簡単なお願いからでしょうね。無理に交渉しても相手の印象が悪くなるだけだから、現時点で好意的に解釈してくれる人からの協力を優先だわ

後、学園に戻ったら公共の場(部活等)や旅行代理店で「あの温泉はよかったわねぇ…」といった感じに話しておきましょう。些細な流言でも場合(人や職業)によっては十分に興味を引き付ける内容でしょうからね

「あらぁ?貴方も専門の業者さんでしょ…?あんな素敵な温泉を知らないなんて少し努力不足じゃないのぉ…?」(業者相手の流言

撃退士・猪狩 みなと(ja0595)
阿修羅
■目的:秘湯温泉のPR
秘湯温泉の良さをみんなに知って貰うにはまず私達が身をもって温泉を体験してみないとね。
『うぃー…極楽極楽…っ』(だるーん)

■広報素材の作成
作るの2種、配布用のチラシと掲示用のポスター。
実作業はPC上の画像ソフトで写真を並べて文字入れ、装飾。
雛形のデザインは私がやって、細かい調整はみんなの意見をききながら。

・ポスター
モデル役の嵐ちゃんが温泉に浸かっている写真をポスターサイズに出力して使用。
『ひそやかに、穏やかに』みたいな雰囲気重視のキャッチコピー。
下隅あたりに簡略な地図と住所、問い合わせ先、利用料などのインフォ。

・チラシ
表:ポスターのインフォ抜きのもの
裏:上段半分を使って温泉の向うに海の入った全景写真。
見出しとしては『絶景秘境温泉』『知る人ぞ知る久遠が原の隠れ湯』等
下段は上半分に小さめの写真を並べ、セールスポイント。
源泉やお湯の出口の写真を用いて泉質の紹介。それにあった内容で『源泉かけ流し』『戦士の傷と疲れを癒します』『もちぷりの瑞々しいお肌に』とかなんとか。
入浴する猿の写真には『野生の猿が出没することがあります。注意事項を熟読のうえご利用ください』
下部には可能なら割引券と、ポスター同様のインフォ。

■写真撮影
ポスターのデザイン案を念頭に写真撮影。
相方の鈴音ちゃんと相談しながらシチュエーションやカット、アングルなどを決め撮影。
予定してない写真も撮れるだけとっておいて

撃退士・関 アズサ(ja1550)
阿修羅
【動機】
活用されない施設は勿体無い。
加えて管理人が気の毒だ。猿達の今後も含め。
共存が好ましいが、面子の方針に従おう。

【行動】
◆柵・看板作り
日曜大工のスキルを使用し、廃材や倒木等を使って柵や看板を作る。
道具の貸与に関しては自身も頼みに行く。
猿に関する警告文を記した看板の作成(飲食禁止・装飾品禁止を明文)。
猿の通り道を塞ぎ、または誘導する為の柵作り。
温泉を区画分けする為の柵作り。

◆設置
重い物も登攀スキルで運び易いだろうか。
出来た物から順に、柵や看板の設置を行う。

◆猿温泉
有毒植物が恒久的な猿害防止策になるか否かの懸念がある為、または猿がいなくなる迄の間の為の、猿と人間が浸かる温泉を区画分けする。
現状より離れた場所に猿用の溜め池を作りたいが、適わぬ場合は人間が入る場所から離れた所に柵で猿用の区画を設ける。
湯には大きめの石等を沈め、猿が浸かり易い様にする。
猿の区画には柵等で誘導する様にする。

◆写真撮影
雑用係。猿の闖入を防ぐ為の見張り。
撮影前(早朝、或いは深夜)に猿の通り道に木の実等を点々と捲き、施設から離れた場所へ行く様に誘導する様にする。
その際、猿達に餌をくれる人間だと勘違いされぬ様、猿には見られない様に配慮する。

◆交渉
ゴミの扱いや餌付けの禁止等の猿達への配慮、有毒植物の誤食への注意等を管理人に注意しておく。
猿が居なくなれば上々、だが人間の配慮次第で共存も可能だ、とも。

撃退士・羽鳴 鈴音(ja1950)
ダアト
  「猿のいる温泉はここですかぁ。やること多いけどがんばろぉ」

目的
温泉の集客用ポスター作成の為の写真撮影他

準備
カメラ(編集を考えデジカメ希望。一眼レフ?)を借りてから温泉施設へ 

同行者
猪狩みなとさんと行動 

行動
施設の外観を見学、写真に撮っても大丈夫かを確認しよう
いたんだり壊れた場所が無いか、写真映りの良さそうな場所を探す

次に脱衣所を調査。こちらの方が外観より厳しくチェック
酷いようなら頑張って修繕しないといけませんよぉ

写真撮影
・モデルは冬夜さん
・ポスター用の撮影は昼間と夕方に皆で協力して撮影
・邪魔な湯気は団扇などで扇いだり、温泉の温度を水を入れて下げたり
・モデル、温泉、風景が一緒に取れるように意識しつつ無理な構図にならないように注意
・その他撮影箇所は、施設の外観、内装、男湯
・疲れを癒しに入浴している人がいたら素早く写真へ撮ってしまおう
「いい表情が撮れそうですよぉ」

猿に機材や持ち物を荒されたり盗まれないように注意!
猿がしつこく狙ってくるようなら、施設に影響が出ない程度に威嚇
攻撃も辞さないつもりで…。攻撃しないで済む事をせつに願うですよぉ

帰校後ポスター、チラシの作成
ここでの写真の選択肢を増やす為、写真は大量に撮っておこう

ポスター、チラシに使わないデーターはカメラ借用の代価に(ぇ

撃退士・フレデリカ・エーベルヴァイン(ja2356)
ダアト
効能は文句の付け所がないくらいなんですけど立地が悪すぎですね。
まあ…だから秘湯って言うんでしょうけど…

猿が入る温泉って珍しくないですか?
せっかくだから集客に利用できないでしょうか…

・行動
私は主に学校内のアプローチを担当します。
広告の見本ができるまで聞き込みや情報検索を駆使して温泉の主客層になりそうなところをまとめてリストの作成。
そのリストを中心に、リスト外にも交渉します。
特に学生が集まりやすく人目に付きやすい商店街や各学生寮が狙い目でしょうか。
参考資料で秘湯をアピールして公告を置かせてもらいましょう。
交渉して許可をもらえた分は印刷物の増加を伝えますね。

温泉が有名になればいいわけですから、企業の商業利用もオッケーです。
その場合は、報酬もちゃんと落として貰えるよう交渉を。

「ふぅ…これなら少しは有名にはなるでしょうね」

温泉では全体を見て手の足りないところの手伝いを。

撃退士・幸月 ひかる(ja3492)
インフィルトレイター
◆目的



◆準備
携帯電話、軍手を申請
学園へPC使用と印刷の許可を貰う
鋸や釘等が依頼で必要な為、学園・用務員から適切な物を必要分借り仲間と配分


◆行動
用務員へ以下の事を伝え協力を願う
依頼中、関係者の温泉無料使用
第三者の商業利用の可能性がある
猿用の温泉をつくり人と猿で区分、猿誘導用に柵を設置、毒のあるユリ等を植える
猿の興味を惹く物や餌がない様、ごみ箱の屋内配置、客の廃棄物処理対応、光モノの不所持を呼掛け
増客で猿が自発的に居なくなる事を目的にし、猿が減らない場合は観光要素とする事を提案
更衣室や女湯等の防犯対策を徹底
看板設置、駐車場の拡大
現入浴料を倍に、割引券配布、券割引率は50%併用不可
券回収はせず次回も利用して貰う、更に配布して増客を狙う
増客後、別報酬で手伝い可


温泉
駐車場、猿の温泉、猿の誘導柵設置に適切な場所を把握し仲間へ伝え作業を手伝う
疲労時は温泉で休息


学園、町
チラシや周辺の写真等を使い
会社・部活(運動・撃退系、温泉・旅行、報道関係)、料亭・甘味処、教室で
温泉を紹介・宣伝、公告類設置の許可を貰う
追加分の印刷と設置場所を仲間へ伝え、ポスターとチラシを設置

温泉に興味のある相手には追加行動で話を持ちかける
旅行・温泉関係:温泉ツアー企画
飲食店:品出や出店
成功時は紹介料要求


交渉で代価必要時
用務員:増客のためと説得
他:(依頼中関係者として)無料での温泉入浴、増客手段と相手側の利益
交渉難航時のみ成功報酬から支払い

撃退士・登呂めいあ(ja4165)
インフィルトレイター
まず自分が翡翠の湯を好きになり
翡翠の湯が好きな人を増やせるよう頑張る
「わぁ、本当に素敵な所ですね」

温泉に向かう前に行うこと
・ポスター、チラシ制作用のPCと作業部屋を数日分借りる
・ポスター掲示用に画鋲、紐等を購入
・ドアプレートのような物を複数購入し、矢印と翡翠の湯、と雨等で落ちない道具で書いておく
・行き道に【地形把握】を活用し、道中の事を把握する

温泉にて
学園、温泉間で、必要かつ丁度よさそうな位置に、ドアプレートを下げていき道案内を作る
関さんの作業等、仲間のサポートにあたる

学園に戻った後は、予め借りていた部屋でチラシ、ポスターを作成
地形把握で把握した道のりから、精度の高い地図、簡略化した地図を作成、猪狩さんへ渡す

それぞれ数部刷れた段階で、それを持ち、生徒会室や職員室に
学園の目立つ掲示板や壁、教室等への、掲示、学園内での配布の許可をとる
「むぅ…やはり緊張します」

必要数を仲間に伝え、刷り上がったら、それを持ち目立つ掲示板や壁
職員室、生徒会室、食堂、購買部など、共有施設、教室へ貼ってまわる
チラシも袋に入れて紐で吊り下げたりして設置

可能な限り、チラシを配布して回る
似たような行動をとる仲間が居たら、行動を共にする

交渉はとにかく誠心誠意お願いする
代価必要時は成功報酬から過不足なく支払う


撃退士・冬夜嵐(ja4340)
ディバインナイト
 



リプレイ本文

●まずは行ってみよう!
 秘湯『翡翠の湯』は、島の東端にある里山を越えたところにある。依頼を受けたメンバー、黒百合(ja0422)、猪狩 みなと(ja0595)、関 アズサ(ja1550)、羽鳴 鈴音(ja1950)、フレデリカ・エーベルヴァイン(ja2356)、幸月 ひかる(ja3492)、登呂めいあ(ja4165)、冬夜嵐(ja4340)の8名は、里山の近くまでバスで移動し、あとは徒歩で秘湯を目指すことにした。
 冬の里山は葉がすっかり落ちて、ごつい木々の幹だけが並んでいる。足元が落ち葉でふかふかしていて、見上げると空が寒々しい。一応ここも人の手が入っているようで、何処かのハイキングコースのように、踏み分け道が続いていた。遠くから鳥の声が聞こえる。
「東へ向かえばいいのですから、道はこちらですね」
 めいあが周りの風景や地図などから正しい道を見つけだし、ペンキで『この先、翡翠の湯』と書かれた木製プレートを、距離をあけながら、木々に取り付けていく。背の高いアズサが日曜大工の要領で、ひかるの用意した道具を借り受け、プレートが落ちないようにしっかりと固定していく。
 里山は急にひらけ、やや急な勾配を滑るように降りていくと、翡翠の湯が見えた。正確には、脱衣所を隠す衝立状の壁が見えてきた。温泉の煙がふわあっと流れてくる。硫黄泉のような、独特の臭いはしない。
「このぉ、最後の勾配を上るのはぁ、ちょっと大変ねぇ‥‥」
 下まで何とかおりてから、黒百合が見上げた。
「手すりになる柵を作るか、足元に石や枝を埋めて階段状にすると、いいかも知れんな」
 アズサが見上げ、早速作業を開始する。
「皆、温泉のほうを見てきてくれ。ここの簡易工事が終わったら、そっちに回る」
 アズサはぶっきらぼうな口調で言い、そこに残った。

●翡翠の湯に入ってみよう!
 最初に管理人に会いに行き、依頼を受けた旨を伝える。軽く見回したところ、管理人は簡素な小屋に住んでおり、電気もガスも水道も整っていた。一応家具もそろっている。
「これでも学園の従業者だからね。必要最低限の生活はさせてもらっています」
 管理人は、タオルを首に巻き、寒さ除けの帽子をかぶり、七輪で魚を焼いていた。
「おいしそうね。いつも食べ物はどうしているのかしら? 魚ばかり?」
「んーまあ、海まで行って自分で獲ったりもしますが、学園から宅配がくるので、それも利用しています。猿が山から来ることがあるので、宅配食材を受け取る際に、空容器にごみを詰めてお返ししています。猿には、食料があることを知られたくないですからね」
 ひかるの問いに、用務員は丁寧に答えた。ひかるはふむふむ頷き、本題に入った。
「まず、翡翠の湯のPR依頼が終わるまで、関係者の温泉の利用を無料にして頂けないかしら?」
「そもそも、あそこ、無料ですよ。私は管理給料を学園からもらってますから」
 焼けた魚をはふはふしながら、用務員は答えた。
「じゃあ、第三者が商業利用する可能性があっても大丈夫ね? あと、猿用の温泉をつくり、人と猿でお風呂を区分けすることを考えているわ。猿誘導用に柵を設置するのと、毒のある植物――ユリ等を植えて牽制することもね」
 ふむふむ、と魚を頬張りながら耳を傾ける用務員。
「お客さんを呼ぶのだから、猿の興味を惹く光モノや餌になるものがない様にして、ごみ箱も屋内に配置して、あとは来客の廃棄物の処理対応を考えているわ。客が増えて猿が自発的に居なくなる事を目的にするけれど、猿が減らない場合は敢えて観光要素にするのはどうかしら」
「随分、大掛かりにやるんですねえ。そうなると、お客さんに入湯料をもらわないといけなくなっちゃうかな」
 用務員は食事を終え、真剣な表情で考え込んだ。
「はい。翡翠の湯を広めるには、大掛かりな企画が必要なのよ。そういうわけで、私たちへの報酬額アップも考えて欲しいわ」
 ひかるが悩める用務員に追い打ちをかけた。

 一方その頃。
「うぃー‥‥極楽極楽‥‥っ」
 みなとは頭に手拭いを乗せ、女湯を満喫していた。
「せっかくの温泉ですもの、みんなといっぱい楽しみたーい!」
 めいあもポニーテールで湯船に浸かっている。
「んー。効能は文句の付け所がないくらいなんですけど、立地が悪すぎですね。まあ‥‥だから秘湯って言うんでしょうけど‥‥」
 フレデリカが温泉施設を丹念にチェックする。脱衣所の床に敷かれたすのこは、恐らく潮風ですぐに傷むのだろう、こまめに取り換えられているようだ。タイルや石を敷き詰めた床と浴槽は、文句のつけようがないほどきれいで、端を見ても湯の花すら溜まっていない。用務員が毎日、ひたすら掃除をしているのが、想像に難くない。
 肝心の覗き防止対策も一応とられている。女湯の方が若干高い位置にあり、煉瓦を積み上げた壁で里山側を覆われている。男湯もそうだ。壁は本当に覗き防止のためだけにあるようで、折角のオーシャンビューを妨げるような配置ではなかった。
 鈴音が一眼レフのデジカメを持って、あちこちから温泉を観察している。
「さて、山道の整備は済んだ。温泉はどうだ?」
 アズサが戻ってくる。見知らぬ客に驚いたのか、猿は湯に入ってこない。里山の端、葉の落ちた木々の上から、何頭かがじっとこちらを見ていた。
「すっごくいいですよー! お肌つるつるになりました〜」
 めいあが手を振る。いい笑顔だったので、鈴音は数枚写真を撮った。それから、鈴音はカメラ越しに脱衣所を調査し始めた。外観より厳しくチェックする。修繕箇所は特にないようだが、脱衣所のロッカーに鍵をつけるかどうか、悩むところである。
「服とか眼鏡とか、だいじなもの、盗まれたら、困っちゃいますよねぇ」
 盗むのが、猿であれ、不届き者であれ。鈴音の言い分は正しかった。
「あいよ」
 ぶっきらぼうにアズサが応え、ちまちまと鍵製作に取り掛かった。

●秘湯が観光地に!?
 ひかるは用務員に、今後の展開の青写真を披露していた。
 まず、翡翠の湯の看板を作り、学園のあちこちに設置すること。
 マイクロバスで来られるように、出来るだけ広い来客駐車場を確保すること。
 現時点で入湯料がないなら、1回700久遠くらいのレートでお金をとり、その代わりに割引券を配布する。これは半額券で、併用不可とし、パスポートのように何度も利用できる券としてリピーターを増やす。秘湯パスポートが出来たら、更に配布して、増客を狙う。
「もしお客さんがたくさん来るようになって、手伝いが必要になったら、別報酬でお手伝いするわよ?」
 話の合間に、ちゃっかり、自分を売り込むひかるであった。
「なんだか、ものすごく大掛かりな話になっていますね。うーん、駐車場にできるところなんて、海岸しかないんじゃないかな? 一応うちの前に1台だけ停められるけれど、食料宅配に使うしなぁ‥‥」
 用務員は難しい顔をした。

「‥‥鍵つけ終了! あとは猿用に浴槽を分ける工事か‥‥」
 アズサが額を軽く拭う。
「私としては、有毒植物が恒久的な猿害防止策になるか否か、懸念がある。と、言うわけで、だ。男湯・女湯・そして猿湯と揃えれば、完璧になる!」
 画期的だ。猿湯を備えた温泉は史上初ではなかろうか。
「工事、手伝います」
 めいあが温泉を出て、持ち込んだ作業着に着替えた。秘湯の近くに交渉できるような商店などがなかったために暇を持て余していた黒百合や、今後に活動予定のフレデリカも手伝う姿勢を見せた。

●男湯・女湯・そして猿湯
 まず、猿が来やすそうな位置にため池を作り、暫定的に男湯から湯を引く。湯には大きめの石等を沈め、猿が浸かり易い様にする。更衣室のようなものは一切なく、ただため池的浴槽があるだけの、シンプルなつくりだ。
 そこへ、猿が好みそうな木の実を仕掛けておく。
 里山から誘導するように木の実を撒いてこようかと思っていたアズサではあるが、猿に「餌をくれる人間」と思われる危険も考えた結果だ。
 現状、猿が男湯・女湯に来ない保証はない。
 そこで、里山側の地面に人工芝を敷き詰め、足の裏をちくちくさせて、猿を嫌がらせ、徐々に遠のかせるというアイデアを思い付いた。
 アズサは早速、用務員に交渉しようと小屋を尋ねると、ひかるが壮大な計画について語っているところだった。
「大分汗臭いわよ? 凄い音がしていたけれど、工事は終わってしまったのかしら」
 ひかるに指摘され、アズサは「お、おう」と答え、用件だけ伝えて自身も女湯に向かった。

●撮影だ!
 ぱしゃ。鈴音のデジカメにまた、新たな画像が映し出される。工事でかいた汗を皆でわいわい流しているところだ。
「いい表情が撮れましたよぉ」
 鈴音が微笑んで、再びシャッターを切る。
「さて、本番撮影、いきましょうかぁ」
「私がモデルで構わないのか?」
 なかなかのスタイルをもつ嵐が、どういう向きでどう入ったらいいのか、湯に浸かった状態で悩んでいる。鈴音が指示をだし、皆は湯気対策に団扇を用意した。
 モデルの嵐と温泉、風景が一緒に撮れるように意識しつつ、無理な構図にならないように、注意に注意を重ねて、シャッターを切る。
 気に入らない。
 何度でも撮る。データ容量いっぱいまで撮りつくす勢いで、鈴音は撮影を続けた。
 秘湯の施設の外観、内装、男湯、猿湯も撮っておく。
 昼間に撮っておいた写真と並べるために、夕方を待つ。
 猿に大事な撮影道具一式を持って行かれないよう、手の空いている者は見張りをしていた。
「ていうかさ、湯気って、増やす分には、画像処理ソフトで何とかできるんじゃ‥‥」
 チラシ担当のみなとがぽつりと呟いた。

●あとは宣伝!
 後日。
 現地での作業がすべて終わり、学園で1週間契約で借りたPCルームにメンバーは集まり、写真の選定をしていた。フレデリカだけは、「宣伝相手をリストアップしてきます」と出ていった。
「まず、配布用のチラシと掲示用のポスターを作らなくちゃね!」
 画像ソフトで写真をより綺麗に見えるよう、加工していく。ひな形として提案したアイデアを基に、皆で意見を述べ合って、ポスターとチラシのレイアウトを決める。

 『ひそやかに、穏やかに』

 後姿のナイスバディ少女、嵐の写真をポスターサイズで印刷し、雰囲気重視のキャッチコピーをつける。
 下隅に、簡略な地図と住所、問い合わせ先、利用料などの情報を入れ込む。
 キャッチコピーにそぐう雰囲気を加えるため、湯気をこっそりと書き足してみる。
 なかなかキャッチーなポスターが仕上がった。

 続いてチラシに取り掛かる。表はポスターの画像から、案内などを抜いたもの。裏面の上段半分を使って、温泉の向うに海の入った全景写真を入れ、『絶景秘境温泉』と大きく記し、その下に『知る人ぞ知る久遠が原の隠れ湯』と書き添えた。下段の上半分には、撮りまくった写真から厳選して、小さめの写真を並べ、源泉やお湯の出口の写真を用いて泉質の紹介文を挿入した。

『源泉かけ流し』
『傷と疲れを癒します』
『もちもちぷりぷりの瑞々しいお肌に』

 今回は猿が警戒して湯に浸からなかったので、猿の入浴写真の代わりに、「猿湯」と書かれたのれん写真をチョイスした。
「お笑い要素も必要だよね!」
 その下に『野生の猿が出没することがあります。注意事項を熟読のうえご利用ください』と書き添え、更に、ひかるが取り付けた約束の「秘湯パスポート」の宣伝も挿入する。あとは、ポスター同様に地図や連絡先などの情報を入れて、完成である。
「おつー!」
「おつかれさまなのですよぉー!」
 みなとは、うーんと伸びをした。鈴音も出来栄えに満足そうだ。

 出来上がったポスターとチラシの配布・掲示許可をもらい、フレデリカが探ってきた「目のつくところ」にポスターを貼り、「興味を持ちそうな相手や団体リスト」をコピーして、皆でチラシ配布に勤しむこととなった。
「特に学生が集まりやすく人目に付きやすい商店街や各学生寮が狙い目ですよ。参考資料で秘湯をアピールして、公告を置かせてもらいましょう」
「「らじゃー!」」
 皆はリストコピーを参考に、チラシを持って散った。

 フレデリカは自らの美肌を見せつけつつ、「私も秘湯パスポートを持っているんですよねー。本当にお肌がぷるぷるになるんですよ。嘘だと思います?」とアピールを開始した。大漁旗を振りたくなるくらい、女学生が食いついてきて、奪うようにチラシを持っていく。
 リストになく、学生でもない相手をターゲットに選んだのは、黒百合だった。用務員に食材宅配をしている業者に乗り込み、チラシを見せながら、「ご存じですかぁ〜?」と微笑んでみせる。
「あらぁ? あんな素敵な温泉を知らないなんて、少し努力不足じゃないのぉ‥‥? すっごくよかったのですよぉ? 湯上りにはフルーツ牛乳とか、コーヒー牛乳とか、飲みたいと思いませんかぁ? 思いますよねぇ? 用務員さんの家まで宅配に行っているそうですけれどぉ、聞かなかったんですかぁ? すぐ近くにこぉんないい場所があるというのに、商売っ気がないですねぇ〜?‥‥」
 上目遣いの初等部女子生徒に挑発され、宅配業者は、困惑しながらチラシを見て、顔色を変えた。
「こんな場所があったのか!」
 用務員からは特に聞いていなかったらしく、業者は驚いているようだった。
 他にも、黒百合は旅行代理店や部室を回り、「あの温泉はよかったわねぇ…」とうっとり遠くを見つめながら、秘湯パスポートをチラチラみせつける作戦に出た。

●任務完了!
 『秘湯・翡翠の湯』の噂はたちまち広まった。有志の学生が里山の踏み分け道を整備してくれたので、マイクロバスから徒歩20分(撃退士ではなく、一般人の足で)と、アクセスの不便さも解消された。猿が何度か人間風呂に侵入することはあったものの、何度も猿湯に追い払われ、ここならいいのだろうと学習した模様だ。
 用務員は新たに3名ほど追加され、簡単な集合住宅が出来た。そのうち一軒には休憩所を設けて、屋内にゴミ箱を設置し、飲み物や簡単な食べ物が販売されるようになった。
 ざざ、ざざ。海の音が心地よく響いてくる。
「秘湯は秘湯のままにしておきたかった気もしますね」
「ごみのポイ捨てとか、やられてしまうとねぇ‥‥」
 フレデリカと黒百合がぼやく。メンバーは時折、里山や温泉のゴミ拾いや清掃手伝いに立ち寄っていた。入湯・飲食・休憩無料のゴールドパスをもらい、VIP待遇だ。
「いつまでも、この絶景が保たれますように‥‥」
 めいあが、広がるオーシャンブルーを遠く見つめた。


依頼相談掲示板

作戦会議用テーブル
登呂めいあ(ja4165)|高等部1年40組|女|イン
最終発言日時:2011年12月10日 13:35
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2011年12月09日 00:16








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