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マスター:樹シロカ
シナリオ形態:ショート
難易度:やや難
形態:
サポート:0
報酬:通常
リプレイ完成日時:2011/12/27


オープニング

 数々の依頼内容が張り出された中で、その依頼は人目を引いた。「助援乞う」の赤い極太の油性マジックによる手書き文字が、妙な迫力で訴えてくる。その周りには赤で縁取りまで施されている。多少なりとも技量に覚えのある者、もしくはある程度経済的に困窮している者ならば、多少の期待を込めて話ぐらいは聞いてみようと思う依頼票だ。
 依頼受付担当に声をかける。
「ああ、これね。それなりに報酬は出るんだけど、ちょっと面倒でなかなか引き合いがなくて。大丈夫かしら」
 そう言いながら、手慣れた様子で依頼内容を説明していく。

 依頼主は、久遠ヶ原の大学院で天魔に関する研究をしている。
 元々は一般企業の研究所に勤務していたが、そこから少し離れた山中に冥界のゲートが出現したという情報が舞い込んだ。そこで全員がとるものもとりあえず、緊急避難を余儀なくされたという。
 その後支配していたデビルはほぼ半径1qの無人の廃墟を残し他へと移動し、現在ではゲートそのものは休止状態となっている。

 依頼主の元々の研究テーマは農作物を荒らす鳥獣の被害を防ぐことで、野生生物の観察用に無人カメラや集音マイクを付近の山や森に設置していたという。そして研究室に置き去りにしてきた自分のパソコンには、それらのデータが自動的に蓄積されるようになっていた。運良くディアボロ達の物が記録されていれば、行動パターンを解析する手掛かりになるかもしれないというのだ。
 依頼主は自分で回収することも考え、かなり離れた場所にではあるが一台の集音マイクを研究所の音がかろうじて拾えるように設置した。無人となったはずの研究所には、野鳥やネズミなどが発する音とは明らかに違う、複数の存在が確認できたという。

 そこまで確認できたものの、残念ながら彼の戦闘能力はお世辞にも秀でているとは言い難いらしい。どうしてもパソコンを取り戻したいので、ここはすぐれた撃退士に依頼するしかないと考えた訳である。

「まあ、データが実際に残ってるかどうかは怪しいんだけどね」
 担当者は少し肩をすくめてみせた。
「少なくともディアボロが本当にいるのなら、掃討の必要はあるわね。もしそこから出てくるようなことになったら厄介だし。その点では大事な依頼なんだけど」
 こちらの顔を覗き込むように見上げる。
「戦闘して、パソコン壊さずに持って帰って来る自信はある?」


解説

・廃墟となっている研究所から、データ収集用のデスクトップ型パソコン1台を持ち帰ることが主な依頼内容です。
・持ち帰るのは本体だけで結構です。本体は約10s、小さめのキャスターバッグ程の大きさです。研究所に行けば目的のパソコンはすぐに判ります。但しデータ量が膨大で予備電源も切れているため、記憶媒体に移すことはできません。
・研究所は地方の学術研究都市にあり、ディメンションサークルによる移動地点に多少の誤差はあっても、付近に大きな建物はありません。
・研究所は南北20m東西50m程の3階建てで、目指す研究室は3階真ん中辺りです。撃退士なら、邪魔さえ入らなければ研究所入口から数分でたどり着けるでしょう。依頼主から付近の地図や建物内部の略図はもらっています。
・建物東寄りに屋内階段、西側に非常用の外部階段があります。東側の階段は幅4m近い広い階段ですが、今は建物に電気は来ていませんのでかなり暗いでしょう。西側の外部階段は幅2mほどの鉄製で、現在どうなっているかは不明です。
・建物の各部屋や階段室の鍵は脱出時に開けられたままです。
・ディアボロは目視された訳ではありませんが、音声データから動きの鈍い二足歩行形態をとっていること、鳥獣類の襲われたらしき音声の頻度や方角から数体が研究所に存在すると推測されます。
・ディアボロを発見した場合は、極力殲滅をお願いします。危険を感じた場合は、帰還を優先して目的物を持ち帰り状況を報告してください。

●マスターより

 樹シロカと申します、どうぞ宜しくお願いします。初の戦闘物で、私の方がドキドキしております。

 休止状態のゲートですので作ったデビルはもういないようですが、ディアボロとの遭遇は避けられそうもありません。見通しの悪い建物内部での探索任務である上に、精密機器の運び出しというハンデ付きです。効率よく目的を達成してください。ディアボロの特性と持ち物点検もお忘れなく!


現在の参加キャラクター


プレイング

撃退士・イアン・J・アルビス(ja0084)
ディバインナイト
※アドリブ歓迎
※称号希望
前衛

●陣形は前衛<後衛>前衛 進行方向→
・前衛
  丁花
  敬
  イアン
  蘇芳

・後衛
  仁
  ジェイニー(運搬役)
  唯仁
  琉禾

[心情]
「PCの中身、無事だといいですけどね」
長年放置されたPCが無事だとちょっと信じられないが、可能性にかけましょうか
また、今回怪我人は出さないつもりです。
自分の身を呈してでも守って見せますよ。

【行動】
最初の周辺探索時は感知できるよう最大の注意を払う
できる限り数、様子は見る
「ここからみえますかね?」
分かったことは報告

隊列の最後尾を歩き、追いかけてくる敵に対応できるようにする
基本戦闘スタイルは受けを中心とした防御型
受けてからのカウンター多用
一人で囲まれないように注意
飛び道具の可能性のため常に後方警戒

敵が予想以上に強く厳しい場合は、運搬役と数名を先に行かせ、敵を引きつける
「盾がない間は、僕自身が盾ですからね。先に行っててください」
共に残った者と連携して戦闘
限界ギリギリまで引きつけ、先にいった班が大丈夫そうなら
退路を作り後を追う

もし敵が遠距離攻撃可なら壁やら柱やらを弾除けに利用
「飛び道具は正直痛いですね」
隠れつつ近寄り、遠距離が武器でならそれを狙う。
そうでないなら本体に攻撃

無事PCを運び出せて全員に余裕があるなら、敵殲滅に行きましょう。
体力等少なければやめとく
余裕があって殲滅に行くような場合も無理はしない。
常に撤退を頭に入れておく

撃退士・蘇芳 和馬(ja0168)
ルインズブレイド
◆心情・目的
・・やっと出番か。
些か簡単な依頼だが、これが初めての実戦だ。
「滾らせて貰えれば良いんだが、な。」(ぼそっ)

◆全体指針
私は前衛として斥候役を受け持とう。
積極的に前を歩き、周りと協力して行動にあたる。

◆序盤指針
まずは周囲確認だ。
外部階段を確認しつつ、建物周辺を確認して回ろう。
何事も備えあれば憂い無しだ。
「・・やはり、屋内に『居る』か」

◆中盤指針
ペンライトで屋内を照らしつつ、東階段から目的地を目指す。
敵がどのような習性を持っているか未知数だ。
気をつけて進もう。
「・・随分と荒れ果ててるな」

◆終盤指針
余裕があれば、帰りは掃討戦か。
ジェイニーがPC回収を始めたら部屋の中央で軽く目を閉じ、
自分の気配を殺し、周辺の気配を探る。
敵の気配を察知すれば周囲へ報告しよう。
「・・どうやら来たようだ」(刀を取り出し、抜刀)

◆戦闘指針
一気に懐へ飛び込み、手数で相手を抑えるつもりだ。
その後は居合いで決める。
「後ろへは行かせん!」
「これで終わりだ」

撃退士・函南 唯仁(ja0629)
ダアト
◆目的
大胆に敵を駆逐し、繊細にPCの搬出

◆行動

潜入の際、物陰がある場合は身を隠しつつ、無い場合は敵からの視認に留意する
屋上や窓、西側外階段の様子にも気を配っておく

侵入ルートは東階段を使用する室内ルート
物質透過、破壊等による不意打ちも考え360度、円ではなく球を意識した警戒を行う

ライトを使用する際は最小限に。
照らすのは足元付近だけにし、先を照らして敵に位置を知らせないようにする

電源が入っていないことを確認してから回収


◆戦闘
後衛PC付近にて戦闘
遅めに行動し、状況に応じて攻撃、防御、逃走を促す等PC優先の行動を
足止めとして自身が残る事も厭わず
ダアトなので不用意に近づかない&単独行動厳禁
近づかれた場合は間合い取り優先
翼をもつ敵は翼、二足歩行の敵は足を狙い、遠距離攻撃の斜線を意識し動く
何もない時は通常攻撃で押し、
倒せそうな敵を仲間の為に削る、抜けてきた敵の対処等、他者への援護攻撃を優先する。

齟齬部分は他者と調整

撃退士・聖礼院 琉禾(ja0766)
ダアト
■心情
電気の通ってない廃墟なんて、お化け屋敷みたい…
「こ、怖くなんかないんだから…っ」
小声で呟きながら自分を鼓舞

■行動
照明道具を用意して暗闇に備える
前に出て戦うタイプじゃないから、ルカは後衛ね
陣形は前衛に前後挟まれた状態で、パソコンを探しに行くわ
建物に入る前にまずは西階段を含め、建物周囲をチェックね
避難経路になるかどうか、色んなとこを調べておかないと
建物へは東階段を使用
感知を使い周囲の音や気配、敵の透過能力に注意しなきゃね

■戦闘
ヒヒイロカネからスクロールを召還し光纏
基本的にサポートがメインで遠距離からの魔法攻撃
依頼目的がデータの回収なので、運搬役のジェイニーさんを守りながら戦う
敵に向かって
「ルカに触らないでよ、穢らわしい!」
「さっさとやられちゃいなさいよ!」
怪我をした人がいたら、応急手当で出来る処置をする
「だ、誰1人欠ける事なく、帰るの。いいわね!」

撃退士・寺生 丁花(ja0974)
ルインズブレイド
●作戦
大胆かつ繊細に。言い得て妙である。
今回の任務は回収目標の死守が必要であるが、
その反面で時間制限も無い。

つまり、繊細な準備の元、大胆な突入が可能となるのだ!

段取りとしては、
1.周辺状況の大まかな偵察
2.回収目標の捜索
3.敵性体を殲滅しつつ撤収
と、こんな流れを考えている。

●行動
私は前衛として、仲間の前に立ち盾となろう。
まずは周辺状況の偵察だが、これは敵に気付かれない事が最優先となる。
その上で、敵の姿形や攻撃手段を見極めるのだ。
仲間の推測では、遠距離攻撃手段を持つ物であろうと言う事だが、私も同感である。
出来れば奴らが鳥獣を仕留める所を見てみたい物だが…

その後、屋内の東階段より侵入し目標物を回収する。
建物内では常に運搬役を中心に護衛し、
上下左右の警戒を怠らない様にしておこう。
逆に背後は気にしない。仲間が居るからな。集中して自分の持ち場を警戒できる!

●戦闘
奴らは知能が低いと聞く。
であれば、私が大きな音を立てて気を引く事も可能だろう。
極力後衛に攻撃が行かない様に、積極的に攻撃を仕掛けて行くぞ。

目標、確認! 戦斗機動、展開!

二足歩行ならば、脚(?)が狙い目だな。

撃退士・ジェイニー・サックストン(ja3784)
インフィルトレイター

準備として、事前にリュックを申請。他に可能なら小さめのクッションや座布団のようなものも。

「相手が天使でないのが残念ではありますが」

相手が天使でないことに若干苛立ちながらも、これも経験と敵の情報を得るためと、自分を納得させる。

PCのある場所までのルートは屋内ルート。視界は味方のライトと、自分のペンライトで確保。敵の透過能力による上からの奇襲に、特に注意。PC確保前の戦闘では積極的に攻撃に参加。ペンライトで相手の目を狙って照らして攪乱。効果がなければ止める。

PC発見後は申請したリュックに入れる。また、リュックとPCの間にクッションを入れて保護する。そして攻撃を受けた際直ぐに庇えるように、左肩に掛けるように持つ。

PC確保の後の戦闘は基本後方に下がって、積極的には戦わない。味方を楯にするように立ち回る。必要なら味方を引っ張って楯にする。

「危ねーのでうまく受け止めてください」

そのまま楯にした味方の肩越しに攻撃。どうしようもなくなれば自分のリュックを抱え込んで守る。

「確保対象を守る為です。文句は言いっこなしですよ」

味方に文句言われても悪びれず。あくまで仕事として必要だったと主張。

「さて、これで今後仕事がやりやすくなればいいんですが」

依頼完了後、もしデータがあったら、コピーをもらえないか交渉する。

「現場で働くこちらだからこそ情報が欲しいのです。まあ、解析後のデータなら楽ができていいのですが」

撃退士・烏田仁(ja4104)
インフィルトレイター
今回が初任務だが…ったくここは俺たちの世界だ。
昔はどうだが知らないが今の時代には俺たち撃退士がいる!
天魔なんかに負けられるか、この時代は護り切る!

台詞などのアドリブ大歓迎

念のためLEDライトを申請

基本方針は全体に従う
「さて、どうする?」
その場の状況に従って行動していく
戦闘時は後衛にて援護
「じゃ、行くぞ、舞台は俺が整えてやる!」 
味方との連携を重視、なるべく敵の足もしくは手を狙って機動力などを奪いつつ転倒を狙う。
「喰らっとけ!」「援護っ!」 
敵転倒時は急所に連射
「…止めだ」
近距離に入られたら銃やナイフでけん制しつつ即座に後ろに下がる。
「チッ…」
運搬者が狙われたら即座に割り入ってナイフや射撃で気を引く
「…お前の相手は俺だ!」

依頼達成時
「依頼達成、だな。」<パイポを一服>

撃退士・月影 敬(ja4419)
ルインズブレイド
【心情】
初めての依頼ですし、しっかりこなして帰ってきたいですね。

【目的】
最優先目標は研究所に残されたPCを無事に回収。
そしてできる限りそこにいるディアボロの殲滅。

【準備】
研究所の中は電気が通ってなく暗いのでペンライトなど明かりになるものを準備。
研究所内の略図から危険な場所、有利な場所などを事前に確認しておく。

【行動】
研究所を移動するときには前衛<後衛>前衛→進行方向を前衛で後衛を囲むように移動。
自分は前衛を担当します。
まずは外を回って建物の様子や、外部階段の状態をチェック。
何かが襲われた後があるなら注意します。
使えそうなら、もしもの時のルートのひとつに考えておく。
研究室へは内部階段を使って移動。
ディアボロがどうやって獲物を襲っていたかわからないので、
研究所の部屋の入り口や窓、通路の角や階段を上るときの上の様子など、
見えないところには十分に警戒して、相手の音などを聞き漏らさないようにする。

戦闘では敵の遠距離での攻撃も考慮しつつ切り込んでいき後衛に攻撃が行かないようにする。
見通しが悪い状態での戦闘なので、突出するのは避ける。
数体いるので戦闘中も周囲の状況には気をつける。



リプレイ本文

●調査は繊細に
 初のディメンションサークルにいくらかの緊張と高揚を共に到着した場所は、広い敷地に低い建物が点在するだけの学術研究都市である。視界を遮るものはほとんどなかった。
 白昼の太陽の元、低い塀や灌木の陰を縫うようにして目的の研究所に近づき、玄関付近の植込みの陰に身を潜める。
 ジェイニー・サックストン(ja3784)はリュックを軽くゆすりあげた。天使が絡む事件に出動したかったのが本心だが、これも経験のうち。そう決めたからにはベストを尽くすのみだ。
 月影 敬(ja4419)が、一同の前に地図を広げる。
「その玄関からすぐ屋内階段です。侵入前に自分は西側の外部階段を中心に、建物の周囲を調査したいですね」
 初の依頼をきっちり成功させたい。その為には準備も重要だ。
「自分も月影先輩と同行を希望するものでありますっ」
 寺生 丁花(ja0974)が続いた。鈍重らしき敵が何故野生の鳥獣を捕えうるのか…その現場を確認できれば対策も練りやすい。
 イアン・J・アルビス(ja0084)が提案する。
「では東西二手に別れて周囲を調査しましょう」
 近距離遠距離、どちらにも対応できる烏田仁(ja4104)が即応する。
「了解、調査は任せた。俺はジェイニーと残って遊撃班ってことで」
 メンバー中一番の年長にあたる函南 唯仁(ja0629)は調査班を希望した。
「僕も外部から判る情報はなるべく集めておきたいと思いますので」
「…では私も同行しよう」
 感情の表れない静かな佇まいで蘇芳 和馬(ja0168)が続けた。
「じゃあ、ルカもここでお待ちしてますわ」
 聖礼院 琉禾(ja0766)には荒れ果てて人気のない建物が気味悪かった。待機組になったことにほんの少し安心してしまう。
(こ、怖くなんかないんだから…っ)
 自分に言い聞かせる。その内心を知ってか知らずか、唯仁がにこりと琉禾に笑いかけた。
「初めての戦闘ですが、負ける気がしません。これ、勝算です」

 ほどなく調査班が戻ってきた。
 西側外部階段に目立つ損傷はなかった。だが階段の北端と登り口の南端付近、そして玄関付近の地面に、多くの骨や小動物の死骸が散らばっていた。どちらの階段にも敵はいるだろうが、幅が狭い西側階段は避けるべきという意見で一致する。
 打ち合わせ通り、最前列が近距離戦担当の丁花と敬、続いて仁、運搬役のジェイニー、遠隔攻撃できる唯仁と琉禾、最後尾に後背を警戒して防御に優れるイアンと近距離戦に向く和馬が続く。
 姿勢を低くして建物に近づく。仁が顔をしかめて呟いた。
「なんかすげー臭い…」
 琉禾が思わず足元の残骸から目を逸らした。唯仁が小声で呼びかける。
「ライトで敵の目を引いてはいけません。極力足元だけ照らしましょう」
「…上方からの攻撃も否定できない。耳を澄ませて静かに行動しよう」
 和馬がつけ足した。

 開けっ放しの玄関から建物に入る。玄関ホールはさほど広くなく、すぐ正面に階段が見えた。ホールの東端にはエレベーター、西側はオフィスである。二・三階は廊下が階段北側から東西に延び、高い位置に細い排気窓が並ぶ。そういう構造の為、東側の階段は余り光が射さず薄暗かった。足元を照らすLEDの小さな光では詳細は判らなかったが、積もった埃が所々乱れているようだ。聴覚を研ぎ澄まし、慎重に階段を上って行く。
「・・やはり、屋内に『居る』か」
 和馬がささやく。それが何かは判らないが、気配ははっきり伝わってくる。

●闘いは大胆に
 階段を3階まで登りきる。3つ目の部屋に目的物があるはずだ。細い窓から差し込む日の光が廊下を明るく照らした。
 そして、廊下の果てにまるで白昼夢のように現れたモノ…二本の脚と二本の腕を持ち、一番上に丸い頭部がある、人型らしき化け物も。
 その全身は鱗状の物に覆われ、頭部には暗い穴が五つ。一番大きな穴から不揃いな白い牙が見える。
 本物のディアボロだ。
 そいつがのろのろとこちらに向かって歩きながら、3本の爪がついた腕を持ちあげた。

 遭遇戦になったが、丁花と敬の動きは早かった。
「目標、確認!ここは自分たちがッ!」
 丁花が目標を引きつけるために大声で叫びながら前へ出る。
「丁花さん、余り離れないように!」
 敬が鋭い眼で敵を睨みつけながら、廊下を塞ぐように並ぶ。他のメンバーには指一本触れさせはしない。
 ジェイニーが手にしたペンライトの光を、敵の目に向かって真っすぐ当てた。だが、化け物が動じる様子はない。
「…目は見えてねーってことですかね」
「とにかく目的物の回収を急ごうぜ」
 仁が促し、丁花と敬を残し一同は室内へと飛び込んだ。

 室内の壁は本棚で埋め尽くされていた。並んだデスクの上には様々なパソコンや周辺機器類が、埃まみれのまま佇んでいる。
 最初に踏み込んだ仁が呟いた。
「えーっと、ホルスタイン柄?どんなPCだよ…」
 唯仁が辺りを見渡しつつ答える。
「昔、そういうデザインの人気PCがあったそうですよ。僕も実際に見たことはないですけど」
 雑談のようではあるが、焦りを抑えるため敢えて軽い調子を作った言葉だ。一刻も早く目的物を見つけなければならない。
 イアンと和馬は、少し離れて目と耳を研ぎ澄ませる。

「ありましたわ!これですわね」
 デスクの下を、余りの乱雑さにやや引き気味に覗き込んでいた琉禾が声をあげた。触れるにはちょっと躊躇するらしい。
 ジェイニーが駆け寄り、接続されたコード類を手早く引っこ抜く。取り出したクッションでパソコンをくるむとコードで器用に縛り、リュックに押し込んだ。
「回収完了です。予備電源っぽいのに繋がってたんで、暫くはデータ取ってたんじゃないっすかね」
「そうですか、それなら来た甲斐があるというものですね」
 イアンがジェイニーを見ずに、だが近づきながら言った。どうもこの部屋に入ってから落ち着かないのだ。外の二人が心配なだけではない。どこからこの違和感が来るのか…。

 そのとき眉一筋動かさず、和馬がすらりと刀を抜いた。刀がアウルを帯びる。
「…どうやら来たようだ」
 見つめているのは、窓でもドアでもない棚が並んだ東側の壁。
 思わず一同は息を飲む。まるで、実存する壁や棚の方が幻かのように、一体のディアボロが現れたのだ。
 
 その頃、廊下では敬と丁花がディアボロと向き合っている。
「さて、と。最低でも動きは止めなくては」
 敬が背後に警戒しつつ呟いたが、今のところは他の気配は感じられない。手にした刀がアウルを纏う。
「ここは、脚を狙い動きを止めるが得策かと思うであります!」
「同感ですね…敵がどんな攻撃で来るかわかりませんし」
 互いに得物は刀。瞬時の目配せの後、まず裂帛の気合と共に丁花が踏み込み、敵の脚に一太刀浴びせ、間合いを取る。どす黒い液体が廊下を濡らした。直後に敬がもう片方の脚めがけて切り込む。敵の姿勢が不自然に歪み、支えきれなくなった身体がどう、と前のめりに倒れた。
 敬がふと違和感を感じた。その違和感を丁花が言葉にする。
「全く避ける気がない…?」
 その直後。相手がゆっくり立ち上がったのだ。
「な…!」
 どうやら傷を修復する能力を持つらしい。一瞬の隙ができてしまった。ディアボロが牙の隙間から唸り声を絞り出し、敬に向かって腕を振るう。なんとか前に構えた刀で攻撃をやり過ごしたが、敵の腕力は強く、逸れた爪が左肩を掠める。
「月影先輩ッ!」
「大丈夫です!それよりもこいつを中に入れてはいけない!」
 再生能力を持つディアボロ…学園で教わってはいたが、実際に目の当たりにして脅威を感じないと言えば嘘になる。だが対処法はある。後は毒爪でないことを祈るしかない。

「再生能力を上回る攻撃か、急所を狙うか、でありますね」
 言うが早いか、丁花が斬り付ける。だが今度は、思わぬ素早さでディアボロはその切っ先を避けた。敬が続いたが、これも際どく回避される。だがこちらも敵の動きのパターンが読めてきた。やはり余り知能は高くないらしい。どちらかがわざと大きな動作で斬り付ければそちらに反応するので、隙ができるのだ。
 やがてコンビネーション攻撃により再生能力の限界が来たのか、四肢の傷をそのままに倒れたディアボロは、動きを止めた。
 肩で息をしながら丁花が敬を気遣う。
「月影先輩、肩のお怪我は如何でありますか?」
 敬は精いっぱい(といっても彼なりに、ではあるが)の笑顔を作りながらそれにこたえた。
「自分はこれで結構丈夫なんで、平気ですよ」
 廊下には他に気配はない。二人は警戒しながら回収班の後を追った。

 敬と丁花が飛び込んできたのは、室内のディアボロが床に倒れた直後であった。
「パソコンは…うわっ!これ、どこから来たんですか?」
 緊張の糸が切れ床にへたりこんでいた琉禾が、ふと顔をあげ敬の肩に滲む血に気づいた。
「ありがとう、大したことはないですよ」
「でも、ルカ、応急手当します。皆で無事に帰るんですから!」
 その間にお互いの得た敵の情報を報告しあう。
「出会い頭には全く防御する気配がなかった。何故だ」
 丁花が腕組みしながら呟く。
「おそらく、ですが。動くものは全部餌という認識では…」
 唯仁がモノクルを拭きながら言った。
「なる。壁の向こうの餌を察知して、壁を透過して近づき捕まえると。餌は反撃しないものな」
 仁が玄関前に落ちていた残骸を思い出しながら肩をすくめる。
「でもこれで終わりとは限りません。脱出を急ぎましょう」
 イアンが促した。
 再び廊下に出て最初の隊列を組み、周囲を警戒しつつ素早く階段に向かう。これで終わりではない。何かがそう告げていた。

●そして外へ
 再び暗い階段を降り一階にたどり着く。外の光がまぶしい。
 わずかに息をついたのもつかの間。今降りてきた階段の奥で、どさり、と何か大きな物が投げ出されるような音がした。
 
「ジェイニーさんたちは外に出て!僕らが食いとめます!」
 最後尾のイアンが振り向きざま叫んだ。和馬もその時には既に抜き身の刀を握り、向き直っている。 
 玄関からの光を受けて立ちあがったのは、ディアボロ。これまでの二体よりひとまわり大きい。階段を透過して真下に落ちてきたらしい。
「これがボスって感じ?」
 銃を構えた仁が冗談めかす。背後で金属音が短く聞こえた。
 リュックを斜めがけに下げたまま、慣れた動作で渋い拳銃を構えたジェイニーが
「危ねーのでうまく避けてください」
 と言うが早いが一発放った。距離は足りなかったが、ディアボロの前進が止まる。これまでの二体より多少知能があるのかもしれない。
「…貴公は味方を殺す気か」
 弾道が間近を通過したというのに、他人事のように和馬が呟く。非難ではなく寧ろ興味深いような口調だ。
「確保対象を守る為です。文句は言いっこなしですよ」
「ジェイニーはお任せを!無事をお約束するであります!」
「安全な場所を確保したら応援に戻りますから、気をつけて!」
「あの、絶対に無理しないでくださいね!」
 身を翻したジェイニーと共に、丁花、敬、琉禾が駆けだす。
 これが最後の敵かは判らない。可能な限り建物から離れたところで待機し回収物の安全を確保しなければならないのだ。

 それを見届けて、和馬と共に最前列となったイアンが声をかけた。
「皆さん大丈夫ですか?厳しいなら無理せず離脱しましょう」
「私は問題ない。これが追ってきたら面倒だ、殲滅しよう」
 和馬が間合いを詰める。
「終わったら、何か旨いもん食べたいな。駅近くの店、チェック済だぜ」
 仁が油断なく銃を構えながら言った。
「後ろは僕に任せてください。新たな敵が来ないとも限りませんしね」
 柔らかい口調を崩さず、唯仁が輝くスクロールを手にする。
「わかりました。では、こいつはここで極力食い止めましょう」
 イアンがファルシオンを握り直した。

 三体目のディアボロは、大きさだけでなく知能、体力とも、前の二体を凌駕した。
 とにかくタフで、唯仁の魔法攻撃が幾度も敵を打つのだが、ある程度は修復してしまう。仁は銃を収め、サバイバルナイフを握る。至近距離で急所を狙うつもりだ。対象を絞って攻撃して来るので、最前列の和馬に幾度か爪が掠る。
「和馬さん、一度下がってください、出血が!」
 イアンが叫んだ。正直な所そろそろ引き時ではないかと思っていた。
「…大丈夫だ、相手の動きも鈍くなってきた」
 和馬の目は逆に輝きを増しているようだ。無論当人を含め、この場で気づいた者はいなかったが。
「じゃあそれぞれ最後の一撃としましょう。これで倒せなければ離脱ですよ」
 唯仁もかなり疲労を感じていたが、渾身の魔法弾を足元に放った。ディアボロが僅かによろめき、軸足に和馬が一閃を見舞う。支えきれず倒れ込んだ敵の眉間にイアンのファルシオンが打ち込まれ、仁のサバイバルナイフが人間の急所に当たる後ろ首筋に深々と刺さった。
 それでもディアボロはしばらく床を掻き毟るように蠢いていたが、ついに動きを止めた。

「お帰りなさい、大成功ね」
 戻った一同を依頼受付所の職員が迎えた。
「依頼人は大喜びよ。データを解析すれば重要な資料になるでしょうね。他の撃退士には戦闘の記録も大いに参考になるわ。そして何より」
 優しい笑みだ。
「みんな無事で本当によかった。暫くはゆっくり休んでね。次の任務があなたたちを待っているわ」

 そう、まだ自分たちは撃退士としては駆け出しにすぎない。各々の目的にたどり着くまで、これから幾度も仲間たちと共に闘っていかねばならないのだ。
 だがひとまずはゆっくり休もう。良くある言い回しだが、ときには休むことも仕事なのだから。

<了>


依頼相談掲示板

相談卓
蘇芳 和馬(ja0168)|中等部3年1組|男|ルイ
最終発言日時:2011年12月10日 15:11
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2011年12月05日 20:21








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