.








マスター:ArK
シナリオ形態:ショート
難易度:やや難
形態:
参加人数:8名
サポート:0
報酬:通常
リプレイ完成日時:2011/12/27


オープニング


 都市郊外。そこに、比較的大きな工場がひとつある。
 つい1、2ヶ月前まで製造業の第一線で活躍していたのだが、今は人の気配もなく、雨風に曝され、錆付いてしまった機械や品物類が放置されている。
 何故こうなってしまったのか? その原因は――悪魔の浸透。

 現在の日本国において、天魔の侵攻等珍しい話ではないが、実際自分のライフエリアに事が及べば事態は緊迫する。
 前兆もなく発現するゲート。人々は順々にディアボロ化し、付近を徘徊するようになる。次の標的が何処になるかなど、現在の人の知では予測し得ない悪魔のみぞしる計略。
 工場の経営者はその情報を得るや、遅かれ早かれゲート沈黙まで避難になるだろうことを予測し、通常業務と並行で支店へ移管を進めていた。先を読み先に行動する、その決断も行動もとても早く、正しかった――が、残念なことに、浸透の方がより早かったのだ。
 撃退士も調査、討伐に当たってはいるが、ゲートが比較的深いものだったらしく長丁場が見込まれている。
 かくして、近隣地域には長中期に渡る避難が言い渡され、この工場も全ての必要資材を移動し終わる前に、退避することになってしまったのだ。


 今回の依頼はそんな工場の経営者から。



 夕焼け差し込む会議室。
 撃退士たちを前に、依頼斡旋人の女性が説明をしていた。
「緊急の回収依頼です、遅くても期限は明日朝。しかし早いなら早いでどれだけ早くてもいい、とかなり切羽詰っている様子でした」
 そんなに大事なものを回収し忘れるなんてダメですよね、とこっそり一言。
 なんでも、引越ししたはいいが、いざ業務となった際、あるべきデータがなかったというのだ。それに気づいた社員が慌てて経営者に泣きつき、撃退士へ回収を頼む、という運びになったとのこと。
 例え元勤務地といえ、ディアボロ遭遇の危険が伴うエリアへ一般人が踏み入って無事戻れる保証はない。そんな危険を冒す物好きはそうそういないだろう。
「あ、ゲートについては他の撃退士チームがあたっていますので今回の依頼には含まれません。でもこういった微妙に大きい企業からの依頼はまた地味に面倒ですよねー‥‥成功すればおいしいですけど、失敗すると痛いという相場」
 大企業ともなると独自に撃退士を雇っているところもあるが、生憎この工場にそんな部署はなかった。それも学園へ依頼することになった理由のひとつである。
「データは工場内の事務所にあるそうです。直近のデータを持ってきて欲しいとのこと。工場全体の、ではなく、依頼部署が独自に管理しているものが対象です。どんなものかは『見ればわかる』と依頼書にあるので――申し訳ありませんが現場で確認して下さい」
 すぐ欲しいのに曖昧な情報とかひどいものですよね、と続く言葉。依頼主が目の前にいないからいいようなものの、かなり好き勝手ものを言う斡旋人のようだ。
「回収物が敵に狙われることはないと思いますが‥‥ここで断言するのは危険かな? 解説はそんなところで――」 と、説明を終えた斡旋人が撃退士に質問を求める。
 すかさずいくつかの手が上がり、「6番さん、どうぞ」と促される。
「敵はどのくらいの規模ですか?」
「二足歩行系ディアボロ、6〜7体の目撃例がありますが、あくまでも目撃例ですので他にいないとは限りません。成人よりも大きいそうです」 と、回答が終るや否や次の手が上がる。
「2番さんどうぞ」
「周辺に民家は?」
「なし、ですかね。社員寮を民家と呼ぶならあることになりますが、人はいません。でもやっぱり断言はしちゃいけないのかなぁ――」
 どうにも歯切れが悪い回答。どうやら最近説明担当についた新人らしい。しかしそれを撃退士側が知る由もなく、やきもきしつつも他いくつかの質問が続き――
「このくらいでしょうか、それでは各員準備出来次第ディメンションサークルへお向かい下さい。御武運を!」


解説

目的:
直近データ回収。
担当社員が避難・退職済の為、正確な保管場所は不明。
しかし関連社員曰く『見ればわかる』外付けハードディスクのようなものらしい。

工場:
比較的広い駐車場と雑木林を敷地に持つ工場。
元事務所は大中小3ヶ所に分かれ、位置も離れている。
工場内に照明はなく、電気も通っていない。
昼でも薄暗いような構造で、あらゆる場所に障害物あり。

事務所:
およそ10〜20台の一般的なパソコンが避難当時のまま放置。
電気がないので立ち上げ不可。

貸与品:
工場の見取り図と鍵、懐中電灯、防塵マスク、手袋。

敵:
石ゴーレム型ディアボロ。身長2.5m程度。
7〜8体。偵察を指示されている。
人を見つけて襲う・追跡する程度の知恵レベル。
動作は愚鈍だはが破壊力、防御力共に高め。


備考:
社長的には敷地内の敵を倒して欲しいようです。
社員的には早急に最新データが欲しいようです。

●マスターより

今度の敵は冥魔勢力。ということでお世話になりますArKです。
実際、有事にはどうなるだろう、と自分の周囲を見渡して閃いた依頼。
なので会社的に、と考えてみると閃き易いかも?

ところで、どこに何があるか分からないくらいに整頓されていない机の人って‥‥必ず居ますよね?
わたしは整理整頓+捨てる人。でも、捨てた後で必要になるから困ります。


現在の参加キャラクター


プレイング

撃退士・鳴沢礼(ja0126)
ルインズブレイド
「見ればわかるってテキトーだなあ。さくっと見つかるといいんだけど」

■方針
ハードディスク捜索>敵の撃破
事務所大を全員で探した後班分けし中と小を捜索

■準備
HDを安全に持ち運ぶ為の梱包材があれば確保しときたい
お菓子の箱に入ってるプチプチが用意できれば

■捜索
前に出て主に前方警戒
施設に入る際はビビりつつも極力最初に

事務所大捜索時は入り口付近で警戒
鳴子の音はよく意識しておく

班分け後は周防さん、雪那、玖珂と一緒のB班
佐倉井さんと携帯番号を交換しておき連絡役を担う
ゴーレム遭遇時、HD発見時他、施設に入る際や状況の変化があった場合もこまめに連絡

■戦闘
「…あんなの食らったらヤバイって!」

敵遭遇時は囮役を務める
防御と回避織り交ぜダアト2名の攻撃範囲を意識して動く

複数に囲まれない様警戒はするが味方攻撃機会になると見たら一時的に集中攻撃を受けるのは厭わず
敵の油断を誘う事を考える
デスク等の位置を把握し遮蔽を意識
危険時は跳躍で上へ逃げる

撃退士・周防 螢(ja0218)
ダアト
防塵マスクだと…ちっ煙草が吸えないじゃねぇか

社長さんには悪いがわざわざ敵を探して倒す真似はしない
データ見付けて逃げるぞ
もう一つ、余裕ありや敵と遭遇した際に複数体いる場合、共闘するのか、それとも個別に動くのか
とか生態調査してみたいがね

事務所に向かいつつ、携帯通話できるかを確認しておこう
恥ずかしがり屋のお嬢さん(データ)の場所へぞろぞろ不躾な奴(敵)を連れて行く訳にもいかん
不用意に遠くを灯りで照らす、壊れた瓦礫で音を出す、なんてことが無いよう注意しながら
基本前の奴が通った所を通れば大丈夫だろう

そんなに重要ならなんで忘れるかね

データを見つけたら事務所だ何かあるだろう
梱包剤で包む、無理ならシュレッダーの紙なんかで包んで背負って行くぞ。

二手に分かれる際は

B班で鳴沢、周防、雪那、玖珂
の四人だな

人数も減ることだし更に注意して
敵の足音に注意かな

戦闘時は敵の顔面目掛けて攻撃
視界の制圧と、高所の攻撃によるバランス崩壊が狙いだな
肩程度でも十分な気がするがね

データを持っていたら逃げの一手
紳士は誘いをスマートにかわす事も必要なスキルだ
若人よ、がんばれ

撃退士・雪那(ja0291)
阿修羅
・目的
依頼人が必要とするデータの回収。

・準備
貸与品の点検。
懐中電灯、マスクと手袋は全員が自分の使う物を持つようにする。

・行動
「見つけやすい所にあるといいなぁ」
工場の建物の内、最初に仲間全員で大きい事務所の捜索。
屋内では目と耳を凝らし、景色の中に動くものや敵が潜んでいないか、仲間達以外の足音等が聞こえないかに注意しつつ、ハードディスクらしきものを探し出す。
怪しい機器を見つけた際は仲間を交えて目的の品物かどうか調べる。
大きい事務所内を調査してもデータが見つからなかった場合は、作戦通り4名ずつの班に分かれる。
自分はB班の1名として、小さい方の事務所の捜索へ向かう。

「石ころのくせに、邪魔しないでよ!」
データ回収最優先の為、敵との交戦は探索の妨げになる場合に限る。
加えて工場施設への損害を抑える為、可能な限り屋内での戦闘を避け、敵の屋外への誘き出しを行う。
戦闘時は前衛として敵に接近戦を挑む。
太刀で斬り、物理攻撃で敵に傷を与えられないならば魔法攻撃を試みる他、後衛の仲間を狙おうとする敵がいるときは優先的に攻撃対象とする。
特にデータ回収後の戦闘となった場合は回収品を所持する仲間を死守。

撃退士・佐倉井 まりあ(ja0534)
ダアト
初めてのお仕事。ちょっとドキドキするね。

雨降らないよね?
精密機械みたいだし濡れたら大変。
ちらっと空を見上げて 天候予測
雨の気配感じればビニール袋を用意してもらいもっていくよ
一つリュックを背負って行くね

◆移動
私はA班
B班との連絡は携帯つかってしっかりとだね
ハンズフリーのイヤフォン&マイクを装着して連絡係りも兼ねるよ

出来るだけ戦いたくないから、みつからないように、だね
曲がり角などでは手鏡使って様子をうかがい慎重に

◆捜索
「見れば分る、っていうけど・・・・どんなのなんだろうね?」
大事なもの・・・・やっぱり入口からは遠いところかな?

奥のほうに当たりをつけて探してみるよ
あとは、急いでたってことだから、どちらかというと散らかってる場所が怪しそう?
あれ?数って1つ??
聞いてなければ1つとは限らないのでそれっぽいのは持ち帰りたいね

余力あれば、他にも大事そうなもの、社員のひとの私物とかでも
大事そうなものを捜索中に見つけたらそれも持って帰りたいね
家族の写真とか・・・・

発見時は私がリュックに入れて持つよ

◆戦闘
出来るだけ避けたいけど
戦闘時は後衛で動くよ
敵の動き、周りの状況をよくみ、前衛の動きを支援するよう攻撃
前衛が接近しようとしたら敵の顔に向けて魔法攻撃
前衛が距離取る時は、敵の足もとへ攻撃

敵の行動パターンを観察して、一定パターンを読めたら
味方にアドヴァイス。
「攻撃来ますっ!」「いまです!一気に攻撃をっ!」

撃退士・仁良井 叶伊(ja0618)
ルインズブレイド
●ハードディスク回収

今回は…敵勢力が多く、初依頼の為に今の所は普通の人間に毛の生えた程度の力しかない我々では対処が出来ないので依頼のデータを回収する…それに専念します。

ただ、現場は視界が悪く、殆どホラーの様な状況なので、最大の敵は…恐怖でしょうね。

(班分け)
A班:私・佐倉井・黒葛・コニー

(準備)
迅速な行動の為、行動指針を一度確認して懐中電灯などの借りてきた物を確認します。

(行動)
まずは、大きな部屋に全員で移動し、私は周辺の警戒を兼ねて鳴子の敷設を手伝います。
次にA班に分かれて移動して他の部屋の探索を行い、そこでも警戒と鳴子の敷設を行います。

移動時は出来る限り障害物を利用し、影や物音にも注意を払って隠れながら移動します。
そして、定期的・ゴーレム遭遇時及びデータ発見時に携帯で連絡を取り、状況を把握に努めますが、情報の混乱を避ける為に逸れでもしない限りは他の人に任せる事にします。
なお、ゴーレムに遭遇したら障害物を利用し、かつ囲まれない様に離脱を試み、戦闘は極力回避し、万が一戦闘になったら確実に複数で一体を相手取り、隙を見て離脱する事になります。

中々…難儀な初依頼になりそうですが頑張って行こうと思います。

撃退士・コニー・アシュバートン(ja0710)
鬼道忍軍
ん、頑張ろう

・目的
最優先はデータの回収、だね
でも、まず私の力と、戦い方が、どれだけ通用するのか知りたいのも、あるかな

・準備
工場の見取り図と鍵、懐中電灯を用意
防塵マスク、手袋は着用
懐中電灯に赤いセロハンを貼る

鳴子用のセロテープや糸も準備
同じ目的で道中にごみ箱などで空き缶やパイプを拾う


・行動
最初は事務所(大)に向かって全員で移動
その間は隠密行動
道を塞ぐ敵がいたら避けて通るかタコ殴りにして破壊
大きい事務所に着いたら私は事務所内でハードディスクを探す

その後A班、B班に分かれAが事務所(中)、Bが事務所(小)に向かう
私はA班、だよ

分かれた後
私は前衛で索敵・警戒
事務所(中)へ向かいつつ邪魔するゴーレムは引き付け後衛へ攻撃させない

事務所(中)に着いた後も敵を撹乱・足止めする

・戦闘
ファイトスタイルは相手の周りを動き回り撹乱しつつ拳を打ちこむアウトボクサー
今回は鈍重な相手だし、何発か打ちこみつつ様子をみて、弱点を見極めたら、攻撃に合わせて、カウンター、だね

これは倒す場合で、戦闘は可能な限り、避けるけど
ほとんど効かないなら、倒すのは諦めて、捜索中の囮と時間稼ぎに、徹しよう
追跡して襲うくらいの、思考しかないなら、一番近い目標を、優先するはず

工場はなるべく壊さないように
回収が終わったら、後衛を護りつつ撤退、かな
未熟だし、無理は禁物、だよね


叶伊とは同じ総合格闘部の部員、だよ
良い報告、持って帰りたい、な

撃退士・黒葛 琉(ja3453)
インフィルトレイター
目的
迅速且つ確実なデータ回収

糸、テープ、見取り図全員分を用意し工場急行
入口付近から常に敵の姿や気配の有無に留意

以降全ての行動中に敵発見次第
可能な限り物陰等に隠れやり過ごす
無理と判じた時のみ奇襲狙いで此方から攻撃

先ず事務所・大へ
通路に出入口から目測4〜50mの位置で
廃材や手頃な物を括り付けた糸を壁にテープで貼り付け簡易鳴子とし設置
余裕があれば他の通路に別の物で違う音が出る鳴子設置

以後、仲間の言動以外の音に留意
事務所扉内側に立って音に集中・警戒
鳴子の音、外側からの物音、異音、異変があれば懐中電灯を点け光で皆に通知
退避可能な通路があれば其方へ
無理なら戦闘態勢

目的物発見後は即撤退
無い場合A・B班に分かれ事務所・中の鍵を持ちA班中衛で行動
A班はB班以外の面子

事務所・中での行動、鳴子設置は大の物に準拠
B班との連絡は佐倉井に一任

戦闘時
中距離に位置
手に余裕があれば懐中電灯で敵を照射
物理と魔法の射撃を試し以降有効な方を
敵の頭部を狙う銃撃で此方の存在を示唆し敵の集中攻撃阻止を心掛け
仲間が何か狙った行動中は敵の察知を防ぐため己に意識を向くよう只管撃ち続ける
敵が前衛に攻撃を定めた場合は側面に回り込み攻撃
隙があれば仲間と連携する様に畳み掛ける
己が標的時はそれを隙とさせ仲間に敵への攻撃要請をし耐える
深手を負った場合は後方へ

班分け後A班でハードディスク発見時は佐倉井の前に位置
彼女に敵や攻撃が向かえば割り入り庇う



リプレイ本文

●状況確認
 陽が落ちて夜の始まり。工場の入口近くにある大きなテントの隅に、いくつかの光点が集まっていた。
「現在地は――ここだ。で、‥‥一番でかい事務所に行くにはこのルートを通ることになりそうだな」
 複数のスポットライトを一身に集めるは地図という舞台。それを指でなぞりながら作戦内容の確認をする周防 螢(ja0218)に、玖珂 真夜(ja3466)は頷いて応じた。指し示すは順路。
「だが、問題は『障害物』‥‥か。はてさて」
 向かい合う位置で同じように地図を覗き込みながら、黒葛 琉(ja3453) は分析を口にする。管理されていないことで発生する異常も多々あるが、更に今回はディアボロまでいるというのだ。何の問題もなく辿り着ける可能性は極めて低いことは誰もが想定していた。
「それでも、目的のものがそこにあるならいかなくちゃ、ね?」
 雪那(ja0291) は少し離れた場所で周囲の音に耳を傾けていた。視界の悪い夜の闇の中で役に立つのは音である、と。今はその最中で拾った音に応じただけ。
 また彼等をはさむ対位置で、
「『テストテスト‥‥どう? 聞こえる?』」
「『感度良好、問題なし!』――っと、通信は全然大丈夫じゃん」
 鳴沢礼(ja0126) と佐倉井 まりあ(ja0534) が携帯端末の通信状態を確認していた。天魔支配エリアでは通信機器が使えないという事象が報告されているからだろう。だが幸い、この工場は境界に近いだけで影響の範囲外にあり、通信は問題なく可能だった。
「人のいなくなった工場‥‥暗闇‥‥そしてディアボロ‥‥なかなか難しくなりそうですね」
 現場と目的を交互に思案し、不安を密かに呟くのは仁良井 叶伊(ja0618)。見方によっては命がけの肝試し――だが失敗は許されない。ともすれば――
「大丈夫だよ、私も頑張るから。良い報告、持って帰ろう」
 そんな叶伊の背を叩き、コニー・アシュバートン(ja0710) は活を入れた。2人は同じ格闘部に所属する仲間なのだ。気知った友の声を受け、叶伊の緊張もややほぐれたように見える。
 そんな際に、螢の号が飛ぶ。
「用意はいいな、恥ずかしがり屋のお嬢さん――もといデータをお迎えに出発するぞ」
 と。


●大事務所
 呼吸を潜め、足音を殺し、素早く且つ慎重に工場内を一行は駆けた。真っ直ぐに目的地へ向かう。そこは工場敷地の中で最も入口に近く、最も大きいとされている事務所。彼等は貸し与えられた鍵でその封印を解くと、順に足を踏み入れた。
「見つけやすい所にあるといいけど‥‥って、これは――う〜ん‥‥」
 雪那は事務所の内部をさっと懐中電灯で照らし、検めるなり険しい唸りを漏らした。原因は入口すぐ横にそびえたっていた「それ」。幼い彼女でも眉をしかめるような状況。
「ええっと‥‥この梱包された箱もあけなきゃならない、のかな?」
 そこには――最後に引越しのトラックを待つだけ、とばかりに準備されていたのだろう――段ボール箱がいくつも積み重ねられ、置かれていたのだ。無論片付ききっていない作業途中のものも残っていたが、ほとんどが運び出しさえ済めば、と思われる片づけ状態だった。
 しかし呆けてはいられない。この中から探すべきものがある。
「仮にも精密機械だ、ぞんざいな扱いはされてなかろうよ。探すぞ」
 螢は一番上に積まれていたダンボールを担ぎ下ろすと、封印に使われていたガムテープを、大きな音を立てないよう慎重に剥がした。雪那とまりあ、真夜もそれに倣ってダンボールを開けに続く。
「これじゃ、やっぱり探すのには時間かかりそうだね。今のうちに仕掛け、作って張っとこ」
 周辺や事務所のゴミ箱から空き缶や針金を集め、幾人かに声をかけたのはコニー。
「お、それいいな! っても、どうすればいいのかわっかんねーけど俺も手伝える!?」
 事務所の窓から暗がりを窺っていた礼が威勢良く応じる。
「確かにそれがいいだろう。俺も使えそうな道具を見つけた」
 そう言いながら琉は、ハサミやテープ等事務用品が詰め込まれた箱を持って細工作りに参戦。
「そう、ですね‥‥では私はこのまま、細工が完成するまで周辺の警戒しておくことにします。全員で作業にあたる、というのも危険でしょうし」
 叶伊の言葉通り、時折だが低く重たい、まるで重機が動くような音が聞こえるようになっていた。

 敵を警戒する仕掛けを設置し、音と気配に注意を払いながらひたすらに目的の物を探し続ける。
「ハードディスク、ってどんな形してんだろう? パソコン、じゃないんだよな?」
 残された机の引き出しを開けては閉め、開けては閉め、と中身を確認しながら礼が疑問を口にした。
「見ればわかる、んだよね? もしかしたらダンボールにそう書いてあるのかと思ったけどそういうのもなかったし」
 向かい合う机の引き出しを同じように開けては閉めながらまりあが言葉を返した。梱包途中のものも含めて、一通りのダンボールを調べたがそれらしいものは見つからなかった。内容物のほとんどは書類や文房具で機械の類はゼロ。
「ここにもない‥‥か、これでこの事務所の中はほとんど見たはずだけど‥‥」
 コニーは壁沿いに並ぶ棚を検めていたー。最後に開いた戸を閉め、この事務所の中にはそれらしいものがないことを確認する。そうして全員がそろそろ他の事務所の探索へ向かおうかと視線を交わした時、それは震音を伴ってやってきた。
 はじめはカラン、という一鳴り。更にその後にカラカラカラと複数のそれが転がっていくような音だった。
「! この音、仕掛けの、だよね」
 音に敏感だったのは雪那。声を潜めて全員に注意を促す。多少の風でも音は鳴るが、散らかすような音を響かせることはまずない。おそらく繋いでいた糸が切れて仕掛けがバラけたのだろう。
「この場に目標がないというなら居残ってまで戦う理由はない。手はず通り残り2つへ別れていくぞ!」
 音が響いた方向と反対側の入口を開け放ち、仲間を誘導する琉。
「私たちは中央へ‥‥」
「俺らは最奥、だな。注意していくとしようかね」
 叶伊等は中央の中規模事務所へ、螢等は最奥にある最小事務所へ、それぞれ急ぎ駆け出していくのだった。


●分かれ道
「石ころのくせに邪魔しないでよ!」
 雪那は己の身長と同等以上の大太刀を全身で揮った。狙いはゴーレムの足。荒々しく繰り出された魔法を帯びる刃は岩肌を削り落とす。それによってわずかながらバランスを崩されたゴーレムは、その場に土煙を上げながら膝をついた。
「げげ!? あんなのの下敷きになったら絶対ヤバ‥‥いや、ぜってー無理だって!?」
 ゴーレムの注意を引くよう、眼前で立ち回っていた礼が崩れる様を見て悲鳴をあげた。ちょうど足掛けのように転がっていた鉄パイプがゴムのように簡単に捻じ曲がるのを目撃したのだ。
「おい! 足止めにゃ成功したんだ、構うな! 先を急ぐぞ!」
 顔と思われる場所へ魔法の光を放ちながら螢が叫ぶ。そう、この頃には侵入者の存在に気付いて集まってきたのか、敷地各所でゴーレムと遭遇することが多かった。時に待ち構えられ、時には追跡され。しかし彼等は足止めに成功さえすれば敵を捨て置いた。彼等が全力疾走さえすれば、愚鈍なゴーレムに追いつかれることはなかったのだ。
 そのうちに先行していた真夜が小事務所の扉を開いて3人を導き入れた。入ってみるとそこには――
「ちっ、‥‥こりゃあ‥‥」
 最初に飛び込んだ螢は、事務所内部を目にして絶句した。

 時間は少し遡って。
「ディアボロゴーレム、かなりの数が徘徊してるって。今向こうから連絡あったよ」
 まりあは携帯端末の通信状態をオフに切り替えながら仲間に報告した。事前の確認で、お互いに何かがあり次第密連絡を取ろうと約束していたのだ。まりあからは事務所への到達を、礼からは敵との遭遇がその内容だった。
「俺達も大分追いかけられたからな‥‥上手く蒔けてればいいんだが」
 報告を耳にしながらも琉は探索の手を休めない。ひたすら忙しなく動かしている。
 それもそのはず、彼等がたどり着いた中央に位置する中規模事務所は何故か全くといっていいほど片付いておらず、在りし日のそのままだったのだ。少ない座席に反比例して物量が多い。
「ここにもこんなに埃が積もって‥‥だがこれは最近積もったって感じでもない――って、危なっ」
 堆積した埃をどうにかしようとしたところ手前の書類が崩れそうになり、慌てて手を添える叶伊。
「とにかく頑張ろう、それしかないんだし」
 コニーは何を言ってもそうするしかない、と淡々と捜索を続けた。バラバラに積み上げられた書類、カバーを被せられたままの新品同様なパソコンやプリンター。今からでも社員が出勤してきて仕事を始めるのではないかと思えもする状態だった。あまりにも入口近くの片付いた事務所と対称的過ぎた。
「この事務所なんでこんなに片付いてないんだろう‥‥移転の話は会社全体だよね。ここだけ居残りとか‥‥そんなことはないっかぁ」
 慌てて撤収したという話から、片付け途中のごとく散らかっている場所にあるのではないかと睨んでいたまりあだったが、流石にこういう散らかりようは想定していなかったようだ。
 ――見ればわかる、見ればわかる――誰ともなくそんなことを口にしながら続いた手元の光頼りの捜索途中で「あっ」と声があがった。 書類の谷間、配線の絡み合う中にそれを見つけた。小さなプラスティックボディに『バックアップデータ在中、持ち出し忘れるな!』と書かれた赤いシールが張ってある物体を。
「これ‥‥だよね?」
「私もそう思えますが‥‥さて‥‥」
 発見の報告をしてよいものか悩ましい声色を発するコニーに、叶伊はなんともいえない返事を返した。
「と、とにかく見てそう思うのはこれだよ! 機械だし、夜露にぬれたりしても困るし、注意して私のリュックに入れとくね、あ、そうだ。向こうにも連絡しなきゃ! ええと、ど、どっちが先だろう、ここの片付けは‥‥」
「俺がいえることでもないが、とりあえず落ち着いて。手分けすればいいだろ、ほら端末こっちに渡して」
 慌てるまりあに琉は手を差し伸べる。
 ――しかし、そんな感動とも安堵とも取れる雰囲気に満ちた時間は極めて短かった。


●合わせ道
 そして時間は合流する。
 礼からは小事務所には塵一つ残っていなかったとが、まりあからは中事務所において目標を発見したことがそれぞれ報告として交わされた。更にそれとほぼ同刻。中事務所の周囲に仕掛けておいた音響罠がゴーレムの接近を知らせていた。
「くそっ!! 間に合え間に合え‥‥!」
「しゃべりながら、走らねぇ方が、いいと思うんだが、な」
 小事務所組は中央目掛け、障害物に気をつけながらも全力で走っていた。その道中、不思議なことに1体のゴーレムとも遭遇しない。それはそのはず、彼等が振り切ったゴーレム達は、中央というより近場の対象を選んでいたのだから。
「っ! 止まって‥‥! みえてきた。囲まれてる――」
 先頭を走っていた雪那が、中事務所から数メートル離れた位置での停止を求めた。暗がりでもなんとなくそれとわかる巨大なシルエットと、いくつかの煌きがそこで対峙している最中だった。
「4‥‥か。流石に多いな‥‥、向こうに到着したことを知らせてくれ、一転突破で脱させるかね」
 螢はスクロールを広げ、注意しながら敵背面へ近づいていった。
 ――剣戟が聞こえる。
「くぅっ‥‥まるで手ごたえがない‥‥!」
 対峙する敵を絞って、集中攻撃を仕掛けていたコニーが、ナックルダスターを通して拳に伝わる反応が鈍いことを呻いた。ダメージが有効なのか無効なのか、瀕死なのか快調なのかまったくわからない。
「とにかく隙を作って脱出しましょう、目標は確保したのですから!」
 叶伊は密接するゴーレムの拳を、その両手に構えたトンファーで受け止め、すぐに流す。拮抗するにも相手の力が大きく不利なのだ。
(‥‥頭部を狙う‥‥)
 もともと鈍い動作が、更には停止したところへ、琉のリボルバーから魔の弾丸が発射される。それは岩の頭部を突き抜け闇夜へ。だがそれでも彼の動作は止まらない。
「こ、こっちからも!」
 琉の更に後方に位置していたまりあが別の1体の攻撃に気付いた。各挙動を観察していたおかげで難なく回避。しかし背後には壁。これ以上下がることは出来ない。
(最悪は俺が盾になってでも‥‥)
 そんな覚悟を琉が考えた折、事態は好転した。
 咆哮と共に白刃が飛翔。それは風の様な速さで忍び寄るとゴーレムの頭部を粉砕した。ガラガラと大きな崩れ落ちる岩音の中で、軽快に着地したのは礼。
「あっぶねェ〜‥‥。ふう、大丈夫か?」
 ツーハンデッドソードを煌かせ、仲間の身を案じる。その横を駆け抜け、更なる1体に攻撃を仕掛けに疾駆する雪那。
「気を抜くのは早いよ! せめてもう1体‥‥敵を分断しないと!」
 はっ、と意気を発しながら放つ一打はゴーレムの表岩を削いだ。
「ほら、突っ立ってんな! 足場の岩に気をつけてこっちへくるんだ! ずらかるぞっ」
 完全に人型を失くした石塊の山を挟んで、螢が激と共に光を飛ばす。程なくその声に応じて、コニーが行く道の足場を照らした。
「先に抜けて! 私は後ろに続くから」
 そう言って目標を抱えるまりあと、琉を先に越えさせる。その後で叶伊を伴ってコニーも脱出。
「よし‥‥! これでお終い!」
 その間に雪那、礼、螢がもう1体のゴーレムの動作を封じ終える。あとは全員なりふりかまわず足元に気をつけて逃げるが勝ち。成功への転進だ。


●夜明け前
「これが実戦‥‥上手く出来てた、のかな?」
 初任務を終え戻ってきた斡旋所の休憩室で、雪那は赤くなった手のひらに目を落としながら呟いた。
「最初から色々欲張ってはだめですよ。私も初めてでしたけど、これでよかったんだと思います」
 そんな様子を目にした叶伊は、相手に言うように、自分に言うように一言諭す。
「そうそう。今の力とかもわかったわけだし、ね」
 緊張がほぐれたせいか、その隣に座っていたコニーの表情はわずかに緩んでいた。

 また、少し離れた座席において。
「しっかし、そんな重要ならなんで忘れるかね」
 任務完了の報告を終えた螢が、そんなことを言いながら煙草の煙を吐き出した。
「持ち出し当日、担当者が休みだったと言っていましたけど‥‥」
「でも間に合ったようでよかったじゃんっ」
 まりあと礼は、相手方の確認通知を思い出しながら応じた。夜通しの強行軍に疲れの色が見えたり見えなかったり。
「ま、対応もあれでよかったようだし、幸先いいと思うんだけども」
 琉は少し乱れた髪を整えながらそう返す。
 予想より早くデータを取れたと社員達は歓喜していた。会社が壊されてもこのデータを使った取引の利があれば痛手は少ない、頑張れるから、と。


依頼相談掲示板

探し物はなんですか♪
佐倉井 まりあ(ja0534)|高等部2年5組|女|ダア
最終発言日時:2011年12月10日 15:50
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2011年12月04日 21:34








推奨環境:Internet Explorer7, FireFox3.6以上のブラウザ