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マスター:マメ柴ヤマト
シナリオ形態:ショート
難易度:やや難
形態:
参加人数:10名
サポート:0
報酬:通常
リプレイ完成日時:2011/12/6


オープニング


 山道を一台のバスが往く。
 バスに乗るのは、登山遠足に向かう小学生5年生二十名と女性教員、それに運転手の二十二名。
 バスの中では、教員が音頭をとって、生徒たちが歌っている。
 そんな中、後部座席に座っている男の子が、隣の席の女の子に話しかけた。
「ねぇ、知ってる?」
「何が?」
「ニュースになってないけど、最近、この辺で失踪事件が起こってるって」
「何それ、私を怖がらせようとして、作り話してるんでしょ!?」
「違うって、ネットで見たんだよ」
 女の子が怒り出したので、慌てて言いつくろう。
「で? それが今日の遠足と、何か関係あるわけ?」
 ジト目を向けられ、男の子は少したじろいだ。
「その失踪事件っていうのが、ただの事件じゃなく――」
 男の子が言いかけたとき、
「うわぁああああ!!」
 運転手が悲鳴をあげた瞬間、バスは急ブレーキをかけられたように急停止した。
「いったた……」
 前の座席に叩きつけられた男の子は、くらつく頭を摩りながら外を見た。
 バス全体が白い糸のようなもので覆われており、周囲の景色がまるで見えない。
 不意にバスが揺れ、車体ごと持ち上げられたような感覚に襲われた。
 みんなが不安げに辺りをきょろきょろ見回している。
 突然、フロントガラスに亀裂が奔って割れ、そこから虫の足のようなものが進入してきて、運転手を捕らえると、そのまま社外へと引きずりだしていった。
 声を上げる間もなく消えていった運転手を目の当たりにし、初めて自分たちが置かれている状況を理解した子供たちは、次々と泣き出した。
 唯一残った大人である教員も、すっかり腰を抜かしてしまい、子供たちをなだめるどころの話では無くなっている。
「あの噂、やっぱり本当だったんだ……」
 男の子は、目にいっぱいの涙を浮かべながら、そう呟いた。

●調査依頼
 山で失踪事件が起こっているから、それを調査してほしい。
 それが、この依頼の内容だった。
「調査依頼って、私らは警察かってーの!」
 その依頼の見出しを目にした女生徒が口にした。
「でも、ここに仕事が回ってくるって事は、それなりの理由がるんじゃない?」
 一緒に見ていた女生徒が答える。
 そこに書かれていた内容は、こういったものだった。

・車を使って山に入った住人が車ごと失踪。
・今月に入って、既に三例目になる。
・捜索に出向いた地元警察官が、山の中で巨大な生き物の影を見た。

「あー、つまり、この三つ目に書かれている内容ね。天魔事件の可能性が高いから、こっちにお鉢が回ってきたってことか」
「そういう事みたいね」
「どうすんの?」
「あたしはパスかな。虫とか嫌いだから、山って苦手なのよね……」
「私もー」
 結局、この女生徒たちは、別の依頼が書かれた紙を依頼受付所へ持っていった。


解説

===キャラクター情報===
・探査系ミッションです。OPの通り、これは天魔事件です。山を捜索して敵を倒し、失踪事件の元を断って下さい。
・生存者がいるなら、保護もよろしくお願いします。
・学園に依頼書が張り出された時点で、冒頭に登場したバスは、まだ襲われてません。
・山は広いです。
・携帯電話は圏外です。

===プレイヤー情報===
・敵は蜘蛛型のディアボロです。
・乗り物ごと、糸で人間を捕らえて食べています。
・持ち合わせた食料の有無などにもよるでしょうが、数日間なら捕らえられた車の中で生きている事は可能です。(つまり、バスの中にいる人間が生きている可能性は高いという事) ですが、時間を掛けすぎると、捕らえられた人間が餌にされていき、生存者の数は減っていきます。
・地元警察に行けば、バスのことや、巨大生物を見かけた場所や巨大生物の形状などを聞くことが出来ます。

●マスターより

みんなのワンコ、マメ柴ヤマトです。
良く、蜘蛛の巣に引っかかります。
蜘蛛って気持ち悪いですよね。
でも、害虫を食べてくれる有難い存在なんですよ?

山に遠足へ向かった子供たちを助けてあげてください。


現在の参加キャラクター


プレイング

撃退士・ヤナギ・エリューナク(ja0006)
鬼道忍軍
行動
まずは調査班と探索班に別れて行動。俺は調査班な。
とりあえず警察は元より、街でも調査してみっかね…俺は街を当たるゼ。
警察行ったヤツらとは携帯で随時連絡、判明した事をリアルタイムで連絡。
その後、探索班と合流して天魔退治と行くかね。

調査
結構でっけー事件になってそうだよな…図書館でも当たってみるか。
図書館で過去の新聞、雑誌、ネットを利用して事件の事を真偽問わず、
残らず検索してみっか。何処に真相が隠れてるか分かんねェからな。
その情報と警察行ったヤツらの情報を照らし合わせて真相に近付くゼ。
*調査内容*
・失踪事件の特徴
・警察官が山で見た影の正体の噂
・生存者の有無
・生存者有りの場合、その証言

戦闘
粗方調べ終わったら、警察行ったヤツらと合流。
探索班の狼煙が見えたら山へ入るゼ。こっからが腕の見せ所ってヤツだな。
ガチで行くゼ!初依頼とか関係無ェ!ぶっとばす…っ!徹底的にな。
仲間との連携は必須。但し突出厳禁…か。

撃退士・紅葉 虎葵(ja0059)
ディバインナイト
◆目的
ディアボロを倒す
生存者がいるなら生存者の救助

◆役割
探索班に所属し、山の探索を行う
〇事前準備
紙の地図を用意してあるか確認、できればコンパスも
山の天候を甘く見ず、「天候予測」を使い、雨合羽も用意
〇探索
人型であろうと草木にはある程度痕跡が残るもの
そう思い通った後や傷跡などがないか調査。
車などが通ったあとがあるならすぐさま報告

聞き込み班の合流を待ち予測を立て、の巣と思わしき場所の特定を行う。

〇戦闘
前衛壁型

攻撃を仕掛け、敵の攻撃をこちらに向けつつ戦闘行動を行う。
糸を吐いてくる場合、剣で受け止め、他のメンバーに攻撃を仕掛けるよう声を張り上げる攻撃は敵が攻撃を行う際に支点となっている部分を袈裟懸けに切り払うように

ただし、目の前に襲われそうになっている要救助者がいるのならそちらを優先
要救助者は後衛よりも後ろに。不安がらないよう声をかけておく

終了後
要救助者の救助
子供の無事を確認したなら背負って帰る

撃退士・坂月 ゆら(ja0081)
阿修羅
◆心情
何れ我が主が統治なされるこの国において、全ての民はお嬢様の財産に他ならぬ。
その財産を奪わんとするか、下郎!
(統治云々はゆら個人の妄想願望)

◆探索
・先行探索班
最新失踪現場の特定が目標。
山道沿いに進み、不自然なブレーキ痕・糸の付着・地面や周囲の木々に車を引きずった痕跡が無いかを探す。
糸を発見したらナイフやライターで強度や特性調査。
他班合流後は敵の所まで痕跡を辿る。
追跡時は特に糸には注意して行動、仲間にも獲物を捕らえる為の受信糸が張られている可能性を警告。

◆戦闘
糸を警戒し敵の後方や正面は避け、側面を捉えた状態を維持。
後衛の射線は遮らないように立ち回る。
攻撃は正面から受け止めず、力を逸らす要領で受け流す。
糸だけは回避か木などの遮蔽物を盾に利用。
仲間が糸に捕らえられた際は刀の刀身に油を塗布して焼き切る。
事前調査で切断で済んだり延焼率が高ければ火は不使用。

◆他
ナイフ・ライター・オイルの支給申請。

撃退士・冴島 悠騎(ja0302)
ダアト
●事前準備
学園出発前に、通信機の類を借りれないか事務に掛け合う。
「購買にも無いし…現場、山の中で圏外なので連絡手段が無いと困るんです」

●班分け
探索班:坂月、井沢、大上、軍司、紅葉、あおい
聞き込み班:冴島、澄野、桂木、ヤナギ

●聞き込み・探索
・警察にて
他の確認内容は澄野・絣(ja1044)のプレイング参照。
得た情報の他に、被害に遭っているのは車に乗っていた人だけかどうか念を押す。

他に被害が無いのなら、音で獲物を認識している可能性を推理。
「ということは…蜘蛛だし……音の可能性もあるか。なら引きずり出すことも出来なくはないね」

・合流
通信機を借りれていればそれで時間合わせ。
借りれていなければ分かれてから3時間後。
どちらの場合も、場所は最新の現場。

●戦闘
「生まれついての魔術師を嘗めてもらったら困るわね」
魔術(スキルに非ず)での直接攻撃。
人差し指で対象を指差し、指先に収束させた魔力を撃ち込む。

撃退士・桂木 潮(ja0488)
アストラルヴァンガード
広い山を無闇に探すのでは埒があきません。まず情報収集からですね。
警察への状況確認は他の方にお任せして、僕は色々買い込むついでに町の人に話を聞いてみましょう。
『山の中で妙なことがなかったか』変な影を見た、音を聞いた、草が不自然に倒れていた、何でも構いません。
現地の道路地図を入手し、聞き込みで情報が得られた場所を書き込み、敵の行動範囲を推測。
山の中で車、それも複数を安置できるような場所は限られます。ある程度平坦で開けた場所……そんな場所がないかも聞いてみましょう。

並行して怪我人がいた時に備え応急処置の道具を買い込み。絆創膏やガーゼに包帯、傷薬に水や携行食も少々……経費で落ちますよね?

戦闘時は唯一の回復手なので前に出過ぎないようにしながら後衛の人達をガード。三節棍を連結し棒にして使います。
無事倒せたらさらわれた人達の健康状態を確認。負傷者・衰弱者がいたら応急手当技能で対処します。

撃退士・あおい(ja0605)
阿修羅
探索班につく。
捜索場所は目撃証言などの現場。素早く移動できる手段があれば利用。
「普通と違うところ」がないか、重点的に探る。
合流後は得た情報を元に探るが、誰かの指示に従い、自分の考えで探りに行かない。
ディアボロに発見されないよう、大きな音を出さない等慎重に動く。

山道から山中の浅い部分の調査に留まり、本格的に山に入るのは聞き込み班との合流後。
ただし、救助者やディアボロを発見した場合は合流前でも山に入る。
狼煙の煙が見えたら、それを追い集合する。

ディアボロを発見次第、撃退。
防御より攻撃を重んじ、なるべく短期決戦を心がける。
邪魔な障害物も簡単に破壊できるものは片手間に破壊しておく。
救助者を巻き込まないように。

人の救助はなるべく撃破後。それまでは安全な場所に逃げさせる。
時には怪力を活かし担いで逃げる。ただ、相手は子供、デリケートに扱うこと。
手当てはできないので、他の方に任せる。

撃退士・大上 ことり(ja0871)
インフィルトレイター
■目的
生存者を見つけて、みんなで無事に帰ることだよー。

■準備
地元で地図を入手しておきたい。
スマートフォンで事前にダウンロードすれば圏外でも地図を見られるアプリがあるので、それも念のために使う。
二つの班に分かれて行動。自分は探索班。
聞き込み班と落ち合う時間、場所を決めておく。
移動中、時間があればネットで今回の失踪事件について調べてみる。

■行動
・探索
後で聞き込み班と合流して情報を共有するのであまり奥までは行かない。
とりあえず怪しいものがないか探すだけ。
目を瞑って音を拾ったり匂いをかいだりと、山の生き物になった気持ちで探す。
聞き込み班と落ち合ったら、それぞれ集めた情報を元に巨大生物のいそうな場所へ向かう。

・戦闘
後衛から援護射撃。
混戦している場合、相手を撃てる位置に回りこんで攻撃。
まずは物理と魔法攻撃どちらが効くか試してみる。よく効くようなら魔法攻撃、反応に差がなければ物理攻撃で。

撃退士・澄野・絣(ja1044)
インフィルトレイター
□目的
ディアブロの討伐
生存者の保護

□行動
聞き込み班。
主に警察さんとの対応を担当しようかと思います。
相手も人間ですし、見た目や年齢で対応が変わってくる……かもしれませんしねー。
一応、今回のメンバーの中では唯一の成人ですし。

「初めまして、撃退士の澄野絣と申します」
聞き込み前にはしっかり自己紹介。

警察さんから伺いたい内容は
・敵の情報(見た目や目撃位置)
・失踪現場の位置
・バスのルート
・バスに何人乗っていたのか
・いるなら生存者情報

生存者情報は地元住民の聞き込みに行っている方に携帯電話で連絡します。

□捜索
聞き込み後、捜索班と合流し、聞き込みの情報を元に捜索。
暗がりなどを調べる時にはペンライトを使用。

□戦闘
弓による攻撃で前衛を援護。
前衛が動きやすいように、敵の動きを牽制するような射撃を心がける。
近接戦闘になった場合は、剣で防御中心に時間稼ぎつつ、前衛と入れ代わる形で後衛に戻る。
「行きますっ!」

<つづく>

撃退士・井沢 美雁(ja1243)
ディバインナイト
地図、ライターを購入。探索班、聞き込み班に分かれる際は探索班へ。山道にプレーキ痕や車体やガラスなどが残っていないか、山道の脇に巨大生物が通ったと思われる獣道などはないかなどを調査。見付けた場合は地図に場所、何があったのかを記入。探索中は念のため周囲にも警戒、深入りはしない。
時間になっても聞き込み班があげる狼煙を確認できなければ一番怪しいと思われる場所で狼煙をあげる。聞き込み班の狼煙を確認した場合は急行。
合流後情報の共有、付近の探索。地図のその近辺に記載があれば見付けたものの詳細を伝える。残留物や獣道が残っていればそれを辿っていく。そういう物がなく発見の見込みがなければ現在地から一番近い地図の記入がある場所へ。
戦闘の際は前衛でカベ役。敵の攻撃を引き付けるようにする。捕らえられたバスの近くで戦闘することになった場合はバスから離れるように誘導する。糸で捕らえられた場合はライターで焼く。

撃退士・軍司 禅(ja3077)
ルインズブレイド
●心情
「なるほど、これが天魔事件って奴か。出来る限りはする。助けれる者は助ける。」

●目的
助けれる人は助ける。
邪魔をする蜘蛛型ディアボロスを叩き斬る。まず足かな。

●準備
場所を知りやすくするため地図を準備し地形・道等を頭に叩き込む(スキルの『地形把握』)。
山は暗い可能性もあるので懐中電灯を用意。
他の方の意見は聞く。

●行動
探索班で痕跡を探し行動。皆と離れすぎぬよう注意。
敵に発見されぬよう『隠密』し探る。
車の轍や車の破片、蜘蛛の糸等の痕跡を探す。
音などにも注意する。
相手は蜘蛛・頭上にも注意する。折れたり歪んだりしている木々にも注意。
発見したら皆と合流してから戦闘。

戦闘においては前に出て敵を叩き斬る。一般人に行かないよう動きを制限するべく足から確実に。
一般人が生きておる場合は蜘蛛と一般人の間に入るように移動する。他の方が一般人の守りに付いたら任せてた蜘蛛退治。
木々を盾にし糸の遠距離攻撃に備える。



リプレイ本文


 大水晶によって作られた巨大な六芒星魔方陣が設置されている部屋に、十名の新人撃退士が集められている。
「天魔が関わってるらしき謎の失踪事件ねェ……。 くくっ……、初の依頼に上等じゃねーの……真相突き止めてやるゼ」
 ディメンションサークルの準備が整うのを待ちながら、ヤナギ・エリューナク(ja0006)は不敵な笑みを浮かべて言った。
「出来る限りはする。助けれる者は助ける」
 腕組みをしながら、スフィアリンカーたちが魔方陣に魔力を送り込む様子を眺めていた軍司 禅(ja3077)が呟く。
「時間が経てばそれだけ生存者の救助が難しくなるでしょう。急がないといけませんね」
 おっとりした口調でそう言ったのは、桂木 潮(ja0488)だ。
「人の命がかかってるんだもん、絶対に成功させなきゃ。 誰かを守れてこその撃退士だって、わたしは思うんだ〜」
 明るく軽い口調でそう言った大上 ことり(ja0871)だが、その決意は固い。
「みんなの、助け、なる。私の、目標。 みんな、よろしく、お願い、します」
 やる気のないジト目で、あおい(ja0605)は、たどたどしく話す。
 目的地周辺の地図は、大上が事前にスマートフォンのアプリでダウンロードしているが、不測の事態に備えて紅葉 虎葵(ja0059)も紙の地図とコンパスも用意していた。
 やがて、魔方陣の中央に、蒼く輝く光の輪が現れ、輪の中に今回の目的地と思われる街の様子が映し出される。
「さあ、準備が整ったぞ」
 スフィアリンカーの一人が声を上げ、それを合図に新人撃退士たちは、次々と光輪の中へ入っていった。

 ディメンションサークルを抜けると、そこは民家もまばらな街の郊外だった。
「これがサークルの誤差というやつか」
 黒いマントを木枯らしではためかせている坂月 ゆら(ja0081)は、表情ひとつ変えず淡々とした口調で呟く。
「じゃあ、さっそく二手に別れよっか!」
 井沢 美雁(ja1243)がそう言うと、彼らは事前に決めておいた編成で、街へ聞き込みに向かうチームと直接山へ向かうチームに分かれた。
 

 ヤナギは、図書館で過去の新聞や雑誌、ネットを利用して失踪事件を解決するカギがないか調べる。
 とりあえず、ここひと月分の新聞と雑誌を積み上げ、足を組んでふんぞり返りながらそれらを閲覧した。
「お、これそうじゃね?」
 一週間前の新聞に、それらしい記事が載っていることを発見する。
 多重債務に悩んでいた中年夫婦が、山に向かったきり戻ってこないというものだったが、状況から事件性が薄いということで、地域記事の片隅に小さく掲載されている程度のものだった。
 その四日後の新聞には、山菜取りに向かった夫婦が姿を消し、翌日に捜索願が出されたらしい。
 事件自体がマイナー過ぎ、ここではそれ以上の情報を得ることは出来なかった。
 いっぽう、桂木は絆創膏やガーゼなどの買いものをしながら、街の若者に聞き込みをする。
「山の中で妙な噂を聞いたことはありませんか? 変な影を見た、音を聞いた、草が不自然に倒れていた、何でも構いません」
「噂ですか? う〜ん……、関係ないかも知れませんけど、よく女の子をナンパしては、山へドライブに連れ込んでいた男の子がいるんですが、五日くらい前からぱたりと姿を見なくなりましたねー」
 たまたま同じ薬局で買い物をしていた女子高生に尋ねたところ、彼女はそう答える。
「なるほど、それも怪しいですね。ありがとうございます」
 桂木が穏やかな口調で礼を言うと、女子高生は少しだけ頬を赤らめた。
 冴島 悠騎(ja0302)と澄野・絣(ja1044)は、事件の詳細や目撃情報を求めて地元の警察署へ向かった。
「初めまして、撃退士の澄野絣と申します」
 相手に少しでも安心感を与えるため、今回唯一の成人である澄野は、深く頭を下げて、丁寧に自己紹介をする。
「今回の失踪事件ですが、失踪場所や目撃された巨大生物のことなど、もう少し詳しい情報をいただけないでしょうか?」
 やってきた撃退士が二人とも容姿端麗な女性だったという事もあってか、地元警察はとても協力的だった。
 現在、警察に寄せられている山に関係する捜索願は三件。一番目は捜索対象者の背景を考慮すると、事件性が低いと判断されていた。二番目も失踪したのは、普段から素行に問題があった若者だったことから、警察もさほど関心を持たなかった。
 だが、三番目の事件で山中の捜索にあたった警察官の一人が、中型トラックほどの大きさはあろうかという巨大な蜘蛛を見たという。
「蜘蛛の姿はすぐに見えなくなったらしくて、何かを見間違えたんじゃないかっていう話になったんですが、このご時勢でしょ? 前の二件のこともあったし、だからあなた方に依頼が回ったんでしょう。ああ、場所でしたね。最初の二つは場所まで分かりませんが、三番目の事件は、失踪者が良く山菜取りに行く場所をご家族の方がご存知だったので、おおよその場所なら教えて差し上げられますよ」
 さほど事件を重く見てはいないのだろう。対応してくれた警察官は、笑顔を浮かべながら澄野に目印が付いた地図を渡し、目の前で鳴っている電話の受話器を取った。
「あまり、収穫はありませんでしたねー」
 澄野が冴島と顔を見合わせ、その場を立ち去ろうとしたとき、電話を取った警察官の顔色がみるみる変っていく。
「大変です。今、小学校から連絡がありまして、児童を乗せて登山遠足へ向かったマイクロバスが昨日から行方不明なんだそうです」
 警察官は、搾り出すように声を出した。
「これで天魔事件である可能性が非常に高くなりました。ここからは、私たちに任せてください。一つ、お願いがあるのですが、現場、山の中で圏外なので連絡手段が無いと困るんです。通信機をお借りできませんでしょうか?」
 冴島は、警察に協力を仰ぐ。
「もちろんです。バスには小学五年生の児童二十名と教員一名、運転手の二十二名が乗っているそうです。もしかしたら、まだ生存者がいるかもしれません。どうか、彼らを救ってください」
 警察の言葉に力強く頷いた冴島は、このことを街で調査を続けているヤナギと桂木に電話で伝えた。


 三件の事件とも、自動車ごと失踪していることから、捜索チームは道路に沿って捜索することにした。
 地形把握の特技を持つ軍司が紅葉から地図とコンパスを借りて、周囲の地形を頭の中に叩き込む。
「しばらく、雨の心配はなさそうだよ」
 紅葉は空を仰ぎ、雲の流れから天候を予測した。
 雨が降れば、地面に残された痕跡などが流れ消えてしまう可能性があるからだ。
 それぞれが道路脇のけもの道に車が分け入った形跡は無いか、注意深く観察しながら歩いた。
 ガラス片やブレーキ痕などを見かけては、周囲の調査をしてみるが、事件と関係あるものなのかまでは把握できない。
 森の中へは、あまり深入りしないよう注意しながら捜索をつづけた。
 あおいは、普通と違う場所がないか、周囲に気を配りながら歩く。
「山へ続く道は、これ一本みたいですねぇ」
 地図アプリを眺めながら、大上が言った。
「あれを見ろ」
 先頭を歩いていた坂月が、不意に声を上げる。彼女が指差した先には、まだ真新しいブレーキ痕。普通車より太いタイヤを履いた車のものであることが見て取れた。その周辺には、ガラスの破片も落ちている。事故現場にしては、そのほかのパーツ片は落ちていない。
「不自然だな」
 軍司が率直な感想を述べた。
「見て、あそこ、枝、折れてる。木、傷、ついてる」
「ビンゴかな? ここで狼煙上げちゃうけど、良いよね」
 井沢は、ポケットからライターを取り出すと、路上に落ち葉を集め、それに火をつける。
 水分を含んだ落ち葉は、もくもくと煙を上げて燻りだした。

 情報収集に向かっていた四人は、地元警察の好意にあずかり、現場までワンボックスタイプのパトカーで送ってもらっていた。
「街の人たちが妙に落ち着いていたのは、そういう理由だったんだね」
 桂木は、合点がいったと呟く。
 それぞれが仕入れた情報を総合すると、事件は一週間くらい前から2日おきに発生しているようだ。
「今までの流れからディアブロの捕食ペースを予想すっと、バスに乗ってるガキ共が生きてる可能性が高ぇな。これ以上、犠牲は出させねェ」
 ヤナギは、闘志を燃やしながら鈎爪を装着する。
「ねえ、あれ」
 冴島が指差した先に狼煙が上がっているのが見えた。

 現場の状況から、マイクロバスが襲われた場所である可能性が高いことが予想された。
 警察からトランシーバーを渡され、ここから森の探索を始めることにする。
 木々の間隔は数メートルほど。何か重たいものを引きずったような痕が森の奥へと続いていた。
 だが、それも途中から忽然と消える。
「上だ」
 軍司が樹木の損傷が高い位置に移っていることに気付き、みんなに知らせた。
「少し散開して捜索したほうが良さそうね」
 冴島がそう提案し、互いの姿が視認できる範囲で広がって捜索する。
「相手は蜘蛛らしいからな。受信糸には気をつけろ」
 坂月は、トランシーバーに向かって警告を出した。
 敵の不意打ちを避けるため、出来る限り気配を消し、大きな音を立てないように気を配りながら進んでいると、トランシーバーから「ちょっと、こっちに来て」という井沢の声が飛び込んでくる。
 彼女が見つけたのは、不自然にしなった木。
 全員が合流するのを待ってから、慎重にその木へと近づく。すると、透き通った糸が張り巡らされている場所へ出た。
 八本の太い木に糸が張り巡らされ、地面から四、五メートルくらいの位置に、まるでハンモックのように地面と水平に巨大な蜘蛛の巣が広がっている。巣には糸巻きにされた四つの塊。その一つは、他の三つより二回りほど大きい。
 巣の中央には四トントラック二台分あろうかと思われる巨大な蜘蛛が、血が滴っている糸巻きにされた小さな塊をむさぼっている。
 それを見たヤナギは、大蜘蛛との距離を一気に詰め、八つある大蜘蛛の目を狙って銃を発射した。
 撃ち出された銃弾は、大蜘蛛の胴にあたり、不意の攻撃を食らった蜘蛛は、口に運んでいた塊をぼとりと落とした。
 外敵の侵入に気付いた大蜘蛛は、それを排除するために巣から降りてくる。
「V兵器☆リボルバーの弾丸を、受けてみるのです! 」
 リボルバーに物理弾を込めた大上は、ヤナギの二発目の射撃に合わせて大蜘蛛を撃つ。
 そのいずれもが大蜘蛛に当たるが、大蜘蛛に怯む様子は全くない。
「時に殘月光冷やかに―狂疾に因りて殊類と成り、相仍りて逃がるべからず。爪牙、誰か敢て敵せん――オン バザラ アラタンノウ オンタラク ソワカ」
 大剣を掌で受けるように構えた紅葉は、気持ちを発奮させるための呪文を唱えると、そのまま正面から大蜘蛛に斬りかかった。
 それに合わせて動いた井沢も、紅葉と並び立つような形で蜘蛛を正面に立ち、三節棍で蜘蛛の顔を打ち据える。大蜘蛛の右側面に回りこんだ坂月は、足の関節を狙った居合い斬りを放つが、手ごたえはいまいちだった。
「生まれついての魔術師を嘗めてもらったら困るわね」
 大蜘蛛を指差し、そこに魔力を収束させた冴島は、それを大蜘蛛に撃ちこむ。
 炎のような揺らめきを放った光の弾に外皮の一部を砕かれた大蜘蛛は、甲高い雄たけびを上げてのたうった。
 大蜘蛛の鈎爪が、坂月と井沢を襲う。
 刀で相手の力を逸らすように受け流そうとした坂月だったが、予想以上の力とスピードに流しきれず、回避のタイミングを計り損ねた井沢は、腹部に鈎爪をまともに食らって吹っ飛ばされた。
 そして、大蜘蛛は腹部を逸らし、先端を紅葉に向けたかと思うと、そこから粘糸を放出させる。
 辛うじて剣で受け止めた紅葉だったが、持ち手ごと糸に巻き取られてしまった。
「みんな、今だよ!」
 紅葉がそう言うと、背中から三対の羽の形をしたオーラを浮かびあがる。
「お前を叩き斬る。そして地に帰れ!」
 軍司は、坂月と両側面から同時に攻撃をしかけ、大蜘蛛の足を関節から切断することに成功する。
「あおいちゃん、蜘蛛の後ろに回りこんで、巣への退路を断って!」
「ん、戦い、私の、取り得、がんばる」
 冴島の指示で背後に回りこんだあおいは、渾身の力を込めたハンドアックスを大蜘蛛の腹へと振り下ろした。
「行きますっ!」
 澄野は、木々の間から狙い澄まし、大蜘蛛の腹を射抜く。
「いったた……」
「大丈夫?今、癒すからね」
 井沢のもとへ駆けつけた桂木は、倒れた井沢を起こし、回復スクロールの力を解放した。
 満身創痍となった大蜘蛛は、木の幹に糸を巻きつけ、樹上へ逃れようと試みる。
「させるかよ!」
 逃げる大蜘蛛の下へと駆け込んだヤナギは、大蜘蛛の口腔内に向けて0距離射撃を試み、それに合わせて冴島、澄野、大上も遠距離からの集中砲火を浴びせた。
 たまらず地面に落下して、仰向けに転がった大蜘蛛へ、軍司、坂月、青いが止めの攻撃を浴びせると、大蜘蛛は、悲鳴のような雄たけびを上げ、足を二、三度痙攣させたあと動かなくなる。
「殺ったのか?」
 そう言いながら、ヤナギは大蜘蛛を足で揺すって確かめた。


 蜘蛛の糸は、意外にもライターの火でたやすく焼き切ることができ、一気に延焼するようなこともない。
 比較的小さな糸の塊には、すべてに乗用車が入っていたが、その中から生存者を発見できなかった。
 そして一番大きな塊に近づくと、中から子供たちのすすり泣く声が聞こえてくる。
「もう大丈夫だよ。今助けるからね」
 そう言いながら、大上はバスの乗車口と思われる場所へライターの火を近づけ、糸を焼き切った。
 冴島がバスの中に入り、子供たちの人数を数える。
「二十人。子供は全員無事みたいね」
「つー事は、最初に食われてたのは」
「教師か運転手だろうな」
 ヤナギの言葉に、坂月が淡々と答えた。
「もう大丈夫だよー。私たちがちゃんとお家へ返してあげるからねー」
 優しく微笑みながら、澄野が子供たちに声をかける。
 軍司は、トランシーバーを使って地元警察へ報告を入れた。
 その後、警察の協力を得て子供たち全員を家へ送り届けることになった。
 ヤナギは、子供一人ずつと目線を合わせ、「良かったな」と笑顔で言いながら、頭をポンと撫でた。
 目の前で運転手や引率の教師が食われるのを見てしまった子供たちは、心に大きな傷を負ったことだろう。
 坂月は、警察にカウンセラーの手配を要請した。
 今、彼らにしてやれることは、これくらいだ。
 桂木は、おもむろに懐から短冊を取り出して筆をはしらせた。
『木枯らしや 雲を払いて 山閑か』
 ひと仕事を終えた撃退士たちは、町で夕食を済ませたあと、久遠ヶ原学園への帰路についた。


依頼相談掲示板

相談テーブル
冴島 悠騎(ja0302)|大学部1年1組|女|ダア
最終発言日時:2011年11月24日 11:22
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2011年11月22日 08:57








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