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マスター:クロカミマヤ
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
形態:
参加人数:8名
サポート:0
報酬:通常
リプレイ完成日時:2011/12/6


オープニング

●ラブレター、フロム……

親愛なるマイハニーへ

季節の変わり目、いかがお過ごしですか。
愛するハニーに会えないと、僕は心が寒くてしかたありません。
同じように寒がっているはずの君が、風邪をひいていないか心配です。

さて……本題です。
不肖ながら私、久遠ヶ原学園の編入試験をパスいたしました。
つきまして来月より、そちらの学生寮に入寮する次第。
まずは何よりご報告を、と思い、手紙をしたためております。

僕にも君と同じ能力が眠っていたなんて、本当に夢のようです。
やはり君と僕は同じ星の下に生まれた運命のパートナーなのでしょう。
半年近く続いた遠距離恋愛にも、ようやく終止符が打てそうですね。
僕が編入する日を、楽しみに待っていて下さい。

君の恋人 Yより

●久遠ヶ原学園、食堂の片隅

「これが、先月届いた手紙の全文です。
 うすら寒いと思いません? 内容もだけど、そもそも今時、ラブレターって発想自体が」
依頼人である中等部の女学生は、そんな言葉とともに大きなため息を吐いた。
机の上には開封された一通の手紙と、人数分の飲み物が置かれている。
自分の飲み物を両手で包みこみ、俯いたまま彼女はつぶやく。
「しかもね。もっと寒いのが……実はコイツ、彼氏でもなんでもないんですよ」
彼女はそこで言葉を区切ると、話を聞く者たちをぐるりと見回し、憎々しげに吐き捨てた。
「ストーカーですよ。前の学校から、編入してまで追いかけてくる程のね」

詳しい話を聞くに、差出人の『Y』は以前の学校のクラスメイトらしい。
一度、はっきりと交際を断ったにも関わらず、
相手の中では二人は年相応の付き合いをしていることになっているのだとか。
彼女が久遠ヶ原に入学した後も、どこから住所を調べたのか、こうして時折手紙を寄越していたのだという。
しょせん手紙だけだ、と、気味が悪いながらも放置していたが、
今度は本人がやってくるという――しかも、『生徒』として。
『生徒』になったということは、相手もアウルの力を有するということだ。
民間人相手ならば逃げ切ることも目をくらますことも容易だろうが、今回はそうは行かない。

「……お願い、あいつを遠ざけるために、知恵を貸してください。
 殺しさえしなければなんでもいい、とにかく、あいつが私を諦めるように仕向けたいの」
少女は同じ学園の生徒たちに、深々と頭を下げる。
気の強そうな美少女が、同じ立場の人間相手に下手に出るということは、おそらく切実に困っているのだろう。
その証拠に――彼女の瞳に、嘘や偽りは見えなかった。


解説

・時間は放課後。依頼人たちはこの後、相手をおびき寄せるために食堂から屋外に出ます。
・変態勘違いストーカー男の魔の手から、美少女を救ってください。
・男が接触してきた際に、彼女に「相手を幻滅させること」を言って(して)もらうのが効果的かと思います。
・基本的には穏便に解決するようにしてください。
・怒らせた場合、逆上した相手と戦闘になる場合があります。
・能力を得たばかりの相手ですが、油断は禁物です。
・黙らせるか、取り押さえれば依頼完了になります。倒す必要はありません。
・敵は変態ですが一応人間です。勢い余って過度に傷つけないように注意してください。

●マスターより

皆さま初めまして。
MSを務めさせていただきます、クロカミと申します。

変態紳士を書こうと思ったのに、なぜかストーカー電波男が出現してしまいました。
どうやら私も電波を受信しているようです。
ともあれ、奴が犯罪行為に及ぶ前に、諦めさせるかこらしめるか、してやってください。


現在の参加キャラクター


プレイング

撃退士・大谷 知夏(ja0041)
アストラルヴァンガード
●準備
・携帯を準備。所持者全員とアドレス交換、連絡が取れる様にする
・女生徒に、Yの外見や特徴を聞く。写真等があれば拝見する

●行動
・知夏は校舎裏の屋外に潜み、女生徒さんに釣られYが校舎裏に誘い出されたら
自主トレ中の運動部員を装い、2人を目視出来る程度に、少し離れた所で人払いを行い、無関係な人を近寄らせない様にしてみるっすよ!
ちなみに、人払いの際には「向こうで先輩が監督にお叱りを受けているので、武士の情けで近寄らないで下さいっす!」とか適当に理由を用意しておくっす!

・戦闘になった場合は、武器を出し現場に向かい、味方と連携し包囲網を狭め、逃走経路を塞いでみるっす!
女生徒さんや、味方が負傷して治療が必要な場合、里桜ちゃん先輩に初動はお任せして、知夏は回復中の所を狙われない様に援護に入るっす!
傷が深い場合や、スクロールが足りない場合は、変わって知夏が「回復のスクロールα」で治療するっすよ!

撃退士・レゾンデートル(ja0232)
アストラルヴァンガード
なんつーかさ。女に夢を見る男ってなんでこうも格好悪いんだろね
アイドルなら別に問題ないけどさー、アイドルでもない人に夢見るとかどんだけなの?
どうせならほしぞらに思いを馳せろよ。それならあたし惚れるけど

まあ……現実びしばし叩き付けてやんよ。さあケツを出せ!!
……これは違うか

作戦:
基本はちょっかい出しながら依頼主のそばに控えてようかと思うよ
移動中にでも追加で話聞いておきたいな
前の学校で取ってた態度とか、あれのストーカー具合とか
とりあえず幻滅してもらう事から始めないとって事で
今までのイメージ覆すような対応、だよね
イメージ真逆のリアル女子とか。スカートの下にジャージ。寒い時べんり
あと人前なのに鼻掻いたり携帯ずっといじってるとかそういう
やりたくないなら無理はさせんけど!

戦闘になった場合は依頼主を徹底的にかばう
その他に向かっていって欲しいもんだけどさ
回復スクロール使用は戦闘後。怪我はしっかり治しましょー

撃退士・羊山ユキ(ja0322)
ディバインナイト
基本サポート。携帯電話・武器携帯。呼び出す場所は校舎裏。美少女に『百合・腐女子(学園に来てから目覚めた)』設定で行動して頂く。その為BL本を早急に調達し、美少女&護衛役に渡す。同時に呼び出す場所決定の為に校内の人の少ない場所を探し携帯で相談・決定&Y特定の為Yの顔を撮り各PCに写メ。場所決定前にYと美少女が接触した場合「場所を変える」と決定した場所へ移動。
Yを校舎裏に呼び出し、Yと一定の距離を保ち護衛役と共にYに腐女子・百合について熱く語ってもらう間、ユキは呼び出し場所の校舎内1階にて清掃を理由に人払い。廊下側なら両端に物を置いて封鎖。教室側なら施錠で封鎖。怪しくない様に箒持って清掃。戦闘突入に備え1階の窓は開放。
戦闘突入時、先生を携帯で呼び出し窓から出てY確保に参加。足払いで転倒させて拘束。極力武器は使用せず。美少女の一連の行動の目撃者がいたら誹謗中傷を防ぐ為、全力で口止め。

撃退士・高瀬 里桜(ja0394)
アストラルヴァンガード
その名も百合&BL作戦!

私女の子が好きなの…。って設定で行ってみよー!

私はお姉さま役で!
強気な女の子が年上の女の子にでれでれになってたらストーカーも幻滅するんじゃない?
さらにBL要素もプラスすれば完璧!


作戦を開始したらメールで仲間とやり取りして現状をしらせる!
あ、緊迫してきたりメールする余裕がなくなったら
通話を繋ぎっぱなしにしてもいいかも♪

恋人(お姉さま)の役の時は依頼者にぎゅーっとくっついて、ラブラブっぷりをストーカーにみせつける!

撃退士・桜吹 雪(ja0460)
ダアト
ストーカー、迷惑な話だわ。

私は人払い班として行動するわね。
同じ班の人と被らない位置取りで携帯をいじりながら待ち合わせしている様に装うわ。
誰か来たら「待ち合わせをしているの。悪いけど外して貰える?」と言って追い払うわ。

後は携帯をいじるふりをしながら本命組の様子をチラチラと伺うわ。
百合に腐女子な、あまり関わりたくない事になっているけど。
まあ、それでも危険だと判断したら(仕方なく一応)直ぐに駆けつけるようにするわ。

もっとも穏便に済むのならそれに越したことわないのだけどね。
これをきっかけに女生徒がその道に目覚めなければいいのだけど‥‥まあ、その時は相談する場所と相手が悪かったと言うしかないわね。

そう言えば、彼女はこうなるもっと前に公的機関にストーカーの相談を出来たはずなのだけど、なぜそうしなかったのかしらね。
曲がりなりにもクラスメートを警察に突き出すのは気が引けたのかしら。
まあ、どーでもいい事ね。

撃退士・二階堂 かざね(ja0536)
阿修羅
美少女ちゃんの護衛及び同性愛演技のお姉さま役として行動
事を起こす場所は校舎裏がメインとなる



Yくんとの戦闘になった場合に備え武器にトンファー持参
美少女ちゃんには危害を加えようとはしないだろうけど、周りへの被害、こちらへ攻撃してくるようであれば戦闘もやむなし
また、最終的にYくんが暴れだすなどあった場合は取り押さえにも助力します
「美少女ちゃんの敵は私の敵だー!こらー!反省しろー!」
などと適度に寧ろ積極的にオシオキしてしまいそうです。やりすぎない程度に



○会話例など
「安心してください!私の見事な演技で美少女ちゃんを守りますからね!…ところで、この演技が終わった後も私のことをお姉さまと慕ってくれてもいいんですよー?え、あ、そう、間に合ってる?むー。じゃあ、終わったら最後に一回抱き着かせてね?」

「君のために新刊だっ!この本はいいものですよー?アレがそれでむふふですよー? よくわからないけど(ぼそっ」

撃退士・鈴代 征治(ja1305)
ルインズブレイド
○誘き出し
・二階に窓のある校舎裏の一角をY君との接触場所に決めて一時解散
・僕は潜伏班として、護衛班とメールし合って接触の場所を選定しそこで待機
・二階の窓の場所は空き教室が望ましいが、なければ廊下側でも可(窓は開ける

○接触
・依頼人と仲間のやり取りの間は窓から顔を出さぬよう注意しつつ様子を窺う
・Y君の表情や行動を注視し、Y君が納得せず逆上したら即座に窓から飛び降り、襲い掛かる攻撃を阻止

○戦闘
・武器を持っていたら武器。素手なら急所を外して肩か足を狙って攻撃
・仲間の加勢や回復スクロールに期待
「もう君はとっくにフラれたんだ! 目を背けるなよ!」

○説得
・戦闘時、もしくは終了時に話をしたい
・早く君の終わってしまった恋を、思い出にしてあげなくちゃ

○心情
・数ある依頼の中で、最初にこの依頼だけを希望したのにはやはり訳がある
・過去を乗り越えようとする僕と、過去に縋り付こうとしているY君

撃退士・ロック・ショート(ja2539)
鬼道忍軍
思い込みって怖いね

全体的な目的・方針は偽恋人とガッカリ演出でY君に依頼人を諦めさせる事。
もし逆上して暴れたら、危険だから抑える感じだね。

食堂を出たら少し距離を開けて、依頼人の後を追おう。
目的地は校舎裏。Y君が来るまでは人目を避けながら様子を伺う。
Y君と依頼人が接触したら、身を隠しながら苦無が届く位の距離まで近づくかな。
話し合いで解決できればベスト。百合婦女子にドン引いてくれる事を祈る。

交渉が決裂してY君が逆上、暴れだすなら危険なので取押さえなきゃいけない。
護衛班がY君とある程度距離を開けていたら、Y君が近づく前に二者間に牽制で苦無を投げ、一気に距離を詰めよう
狙われるのは依頼人か護衛班になる可能性は高いだろうので、下がらせるなりして安全を確保したい。
Y君取抑えるか後ろ護るかはその場の判断で決めよう。基本はドツいて抑える感じで。

一段落ついたら皆の様子を確認して、あとは場の流れ次第かな。



リプレイ本文

●食堂で待機
 部活動が活発になる時間。人が疎らになりはじめた食堂で依頼人の少女を励ましながら、二階堂 かざね(ja0536)は乙女ちっくにデコレーションされたスマートフォンを見つめていた。
「そろそろ連絡がきてもいいはずなのですが……っ」
 落ち着かない様子で画面とにらめっこを続けるかざねに、隣に座る高瀬 里桜(ja0394)が声をかける。
「大丈夫だよ、かざねちゃん! お菓子食べながらゆっくり待とう?」
 この時点で既にテーブルには大量の包み紙が投棄されていたが、甘いお菓子が大好きな女子たちの手は止まることを知らない。
 きらきら光る包みを広げながら、依頼人が不安げに呟く。
「本当にこの作戦で大丈夫でしょうか?」
「安心してください! 私の見事な演技で守りますから!」
 右手にスマホ、左手にお菓子を持ったままえっへんと胸を張るかざね。
「やば、かざねくんマジいけめん」
 菓子を弄ぶ手を止めて真顔で呟いたのは、小柄で青白い顔をしたレゾンデートル(ja0232)だ。
「……あ、ちなみに聞きたいんだけど」
 彼女は横に座る依頼人のほうへ視線を向けると、思いのほか真面目な質問をした。
「前の学校ではそのストーカー、どんな感じだったん?」
 依頼人は一瞬言いよどむような表情を見せるが、すぐに毅然とした表情で言葉を返す。
「学校帰りに後をつけられたり、待ち伏せされたりしてたの。先生には相談してたんだけど、その時もう久遠ヶ原に来ることが決まってたから、事を大きくしないでおこうって……。危害を加えられても撃退士の身体能力なら大丈夫って思ってたし、私も了承した。だけど状況は変わった。あいつも、私と同じ力を――」
 少女の言葉はそこで途切れる。かざねの手の中で、スマートフォンが着信を告げたのだ。
 それとほぼ同時に、里桜の携帯と依頼人の携帯も鳴りはじめる。
 四人の少女は顔を見合わせ、無言で頷いた。
「――はい、こちら護衛班!」

 一方その頃。
「かざねちゃん先輩っすかー? 校舎周辺の人払い、完了しましたよ! ……はい、了解っす! このまま待機してるっす!」
 いつもより少しだけ小さな声でそう告げると、大谷 知夏(ja0041)は通話を切り、携帯電話をポケットへしまい込んだ。
「さて、と」
 くるりと辺りを見回し、近寄る生徒の姿に目を止める。
「あっ、そこの方! 申し訳ないっすー! この先でとある先輩が世紀の大告白劇を繰り広げてるので、申し訳ないけど迂回してほしいっすよー!」

 知夏が奔走するちょうど逆側には、桜吹 雪(ja0460)が待機している。
「持ち場についたわ。中の2人から連絡が来たら開始して構わないわよ。……ええ、大丈夫。こちらこそよろしくね」
 通話の相手は依頼主だろうか。淡々と告げて、雪は通話を終える。
 ……と、手持ち無沙汰な様子でそのまま携帯電話をいじり続ける彼女の前に、2人の男子生徒が談笑しながらやってきた。
「ごめんなさい。ちょっと待ち合わせをしているの。悪いけど、外してもらえるかしら?」
 男子生徒たちは一瞬きょとんとした表情を浮かべるが――彼女のどこか凄みのある笑みを前に、頷きだけを返し立ち去るのだった。

 同じ頃、羊山ユキ(ja0322)と鈴代 征治(ja1305)は校舎内に残る生徒の追い出しに奔走していた。
「これからワックスがけを行うので別の棟に移動してくださーいっ」
 ようやく校舎内に人影がなくなったところで、2人は顔を合わせ計画の最終確認を行う。
「BL本も無事に調達できましたし、準備は万端ですね」
「それじゃあ予定通り、羊山さんは1階をお願い。僕は2階から様子を窺う」
「了解しました、それじゃあ里桜センパイに電話しちゃいますっ」
「うん。お願い」
 にこりと微笑み、征治は2階への階段を上っていった。その姿を見送ってから、ユキは携帯電話を取り出し交換したばかりの番号にコールした。
「もしもし、里桜先輩ですかー? 征治先輩とユキは準備完了です! 例の本も食堂出てすぐの木陰に隠しました。え? 違いますよ、ユキのじゃないですよ? クラスの子に借りたんです! ……はい、回収お願いしますね。お待ちしてますっ!」

●作戦開始!
 食堂で待機していた4人は、広げていたお菓子を片付けて一斉に席を立つと、そのまま集団で屋外へ踏み出した。
「よっしゃ、どっからでもかかってきやがれなのですよー!」
「大丈夫だよ、私たちが守ってあげるからね」
 上級生である高校生2人は特に気合い十分だ。その姿に依頼人の少女も勇気づけられたのか、怯えた様子は消えていた。
「……いや全く、女の子ってのは……すごいね」
 苦笑に近い笑みを浮かべ、彼女たちの様子を少し離れた席から見守っていたロック・ショート(ja2539)も、静かに腰をあげる。
「ま、俺もぼちぼち行くか」
 鬼道忍軍たる彼にとって隠密行動は得意中の得意。気配を消し、周囲に気を配りながら彼女たちの背を追う。

「かわいこちゃんの隣は貰ったー! とうっ!」
 屋外に出るやいなや、かざねは勢いよく依頼人の右腕を取り、自分のそれを絡めた。
「あっ、抜け駆けダメ! 私もっ」
 かと思えば今度は里桜が、反対側の腕に取りすがるようにくっつく。
「え、先輩方ちょっと……!」
 両腕にひっつく2人を交互に見つめ、依頼人の少女は顔を真っ赤にしている。
「大丈夫、女の子どうしだしフツーなのです」
「そうだよー! なんか妹ができたみたいで嬉しいなっ」
「なんなら今後もお姉さまって呼んでくれていいんですよー?」
「あっ、かざねちゃんずるい! 私のこともお姉ちゃんって呼んで!」
 あわてる少女を間に挟み、口を揃える高校生2人。彼女らを見つめ、レゾンデートルが一人小首を傾げていた。
「……えっと、演技?」
 その疑問、もっともである。
「ま、いいか。本も回収したし……」
 ぽつりと呟き、手元に視線を落とす。彼女の小さな手中には、肌色率のやたら高い男が向き合って頬を染めている、アレでソレな本がおさまっていた。
「……マジなんつーか、女子ってうちゅうの神秘だわ」

 賑やかに言葉をかわしつつ、4人と1人は無事に目的の校舎裏へと到着した。
「さて、このあたりで彼をおびき寄せられればいいのですが、どうしましょうか?」
 かざねが小さな声で呟く。周囲を見回せば、辺りに一般の生徒の姿はない。根回しをしておいた人払いは成功したようだった。
「案外、名前を呼べばひょっこり出てきたりして……」
「そんな馬鹿な」
「やるだけやってみればよくね?」
「……えっと、それじゃ」
 依頼人の少女が息を吸い込む。
「ヨ、ヨコシマくーん……?」
 返事はない。
「駄目じゃないですか」
 肩を落とす一行に、依頼人は必死に明るく振舞おうと声を張る。
「だ、大丈夫。まだ作戦はじめたとこだしっ」
 ――と、その時だった。
「っ、危ない!」
 何かに気づいた里桜が、依頼人の腕を思い切り引いた。その瞬間、彼女の頬を矢尻がかすめる。
「……ちっ、外したか」
 舌打ちに全員が振り向く。視界に飛び込んだのは、目測およそ10メートル先、弓を構えて佇む一見かわいらしい少年の姿だった。
「ちょっとちょっと! 女の子になんてことするんですかっ!?」
 きっと鋭い視線を向けるかざねに、少年はあからさまな居直りの姿勢を見せる。
「黙れ! さっきから見ていれば露骨にベタベタしやがって、僕たちの間に割り入ろうとは、貴様らどこの組織の手の者だッ!」
「……組織?」
「外見で騙せると思うな! 今時は男の娘とかいうやつが世に蔓延っているんだろう? 僕は知っている!」
 訳のわからないことを言い出した相手に呆然とする少女たち。
「えっと、男の娘ではないんだけどな……? っていうか、どっからどう見ても女の子な私たちにその言葉は失礼だと思わない……?」
 しかし少年は構わず、彼女たちを指さしながら、さらに訳のわからないことを叫び始めた。
「それに僕は見たぞ、さっき食堂のところで薄い本を拾っただろう! 禁書を! あの忌々しい禁書を……!」
 そもそも話し合いで解決できると思ったのが間違いだったのかもしれない。
「あああ嫌だ嫌だ、僕の彼女が腐女子だなんて考えるだけでもおぞましい! ……いいか、僕と彼女は結ばれる運命なんだ。彼女を汚すようなマネをしたら次は容赦なく当てる……!」
 駄目だこいつ早くなんとかしないと……。ていうか腐女子に謝れ、中二病(末期)。
 少年の意味不明な言葉に、全員が共通の認識を得る。

●暴走少年を止めろ
「……っ、駄目だ、もう見てられない!」
 しびれを切らし、はじめに行動に出たのは征治だった。
 待機していた校舎2階の窓からばっと身を乗り出すと、そのまま地面へ飛び降りて、少年へ向かって駆け出す。その手にはしっかりと打刀が握られていた。
「現実を見ろ! 君はもうとっくにフラれてるんだよ!」
 征治の叫び声と同時に、携帯電話を見つめていたユキも動いた。教師へのメールを送信し終えると、文字通り征治の後を追うように1階の窓から躍り出て、武器を手に敵へ接近する。
「もしもの時のために先生も呼びましたからね! これ以上悪さはできませんよ、センパイ!」
 駆け出した二人の背を見つめ、雪も同じく襟を正す。
「こっちに来ても無駄よ?」
 絶対に捕まえてやる、といった意気を感じる立ち姿で、敵の逃走経路を塞いでいる。
「……ッ、来るな……!」
 突進してくる2人の生徒の姿を見ると、さすがに劣勢を悟ったのか、ヨコシマ少年はほとんど苦し紛れに弓を引く。
 しかし手先が震えてまともに狙いを定められない。放たれた矢はあろうことか、依頼人の少女のほうへと、まっすぐ飛んでいく。
「させない!」
 少女を庇うように、里桜が身を挺して一撃を受けた。
「先輩!」
「大丈夫、このくらい平気だよ」
 依頼人に笑顔を向ける里桜だったが、かすった矢は思いのほか深く皮膚をえぐっていた。流れる血を見て、少女の顔が青くなる。
「里桜ちゃん先輩! 大丈夫っすか!?」
 そんな2人のほうへ駆け寄ってきたのは、敵の逃走経路を塞いでいた知夏だった。
「敵のほうは征治先輩たちに任せて大丈夫そうっすね。……待っててください、すぐ治療するっす!」
 笑顔を浮かべて、知夏は傷口の手当てに徹する。

 それとほぼ同時に、敵の背後に潜んでいたロックが動いた。
「悪いが、これ以上暴れられると困るんでな……!」
 彼の手から放たれた苦無は、少年の鼻先をすり抜けて、向かい端に植えられた木の幹に突き刺さる。
「――ッ!」
 少年が怯んだその瞬間。依頼人の傍に控えていたかざねが少年に接近する。そのまま油断し切った相手の横っ面に、容赦なく渾身の一撃を叩き込んだ。
「女の子の敵は私の敵だーっ! くらいやがれー! 反省しろ中坊ー!」
 勢いのままポコポコと殴り倒すかざね。一寸遅れてたどり着いたユキと征治が両腕を押さえつけると、少年は情けない泣き声をあげはじめた。
「いた、いたたたた! いたいいたいいたい! やめろ、やめろよぉ!」
「……かざねちゃん、そのぐらいにしといてやんな?」
 全力で少年を押さえにかかる3人の背後で、ロックがひとり苦笑していた。

●昨日の敵は今日の友
「本当は……迷惑がられてること、気付いてたんです。認めたくなかった。あなたの言う通りです」
 地に頬をつけ、涙を浮かべて語る少年。
 砂埃にまみれ倒れ伏す少年に手を差し伸べたのは、やはり征治だった。
「僕は彼女の話を聞いて……、真っ先に思ったんだ。君は、きっと昔の僕に似ているんだろうって」
 彼の紡ぐ言葉は、相手に語りかけるものであると同時に、自分自身に言い聞かせるものでもあるのだろう。
 過ぎ去った日に思いを馳せるように、目を伏せて、慎重に言葉を選んでいるようにも見えた。
「素直にフラれたことを認めようよ……早く、この恋を思い出にしなきゃ。じゃないと君は駄目になってしまう」
 その言葉に、少年がゆっくりと顔をあげる。
「……僕だって、変われたんだ。今は過去を乗り越えようって思えている。僕にできて、君にできないはずがない」
 膝を折り微笑みを浮かべる征治の後ろで、ユキと知夏が頷いた。
 遠巻きに少年の姿を見つめる里桜やかざね、雪、レゾンデートル――そして依頼人の少女も、征治の言葉に賛同するように、かすかに頷いたようだった。
「……長い人生、誰でも失恋の一つや二つある。そう落ち込むな」
 ロックは少年の前にしゃがみ込み、わしゃわしゃと髪を掻き回す。
「コイは相手を自分のもんにしたいって気持ち。相手のためを思うのがアイ」
 レゾンデートルの呟きに、ユキが苦笑する。
「好きって気持ちは複雑ですけど……でも、ユキはやっぱり人を好きになるのって素敵なことだと思います! だからセンパイ、次は恋だけじゃなく『恋愛』できるように頑張りましょう」
 少年はようやく納得したのだろう。俯き加減のまま、静かに頷いてみせた。
「あ、一応言っておきますけどぉ……さっきのアレコレは君を脅かすための単なる作戦で、この子が本当に腐女子とか、女の人が好きとか、誤解しないでくださいね?」
 少年の顔色を伺いながら、ユキが釘を差すように付け加える。その言葉に重ねるようにして知夏も口を開いた。
「そうっすよ、なのでくれぐれも、他の人に誤解を与えるようなこと言っちゃダメっすよー?」
 その言葉に、依頼人がくす、とかすかな笑い声をもらす。
「お困りの際にはまたお気軽に呼んでほしいっす! ……当然、ヨコシマ先輩も頼ってくれていいんすよ?」
 続けられた言葉によって場は一転し、和やかな空気に包まれる。
「お騒がせして、すみませんでした。怪我とかさせちゃったし……」
 少年の言葉に里桜は笑って答える。
「大丈夫、知夏ちゃんがすぐ手当してくれたからバッチリ元気! ……まあ、ちょっと痛かったけどね」
「ご、ごめんなさ」
「……なーんて冗談だよ! でも、二度と女の子に武器向けちゃダメだからね? 約束だよ!」
 少年の震える手を取り、里桜はもう一度笑った。
「これにて一件落着ですねっ! それじゃ報酬がわりに遠慮なく抱きつかせてもらうのだー! 覚悟ー!」
「って、ちょ、せ、先輩っ!? きゃああっ!」
 少女の悲鳴と連動するように、かざねのツインテールがぴょんと揺れる。
 こうして少女に迫る危機は去った――。

「ヨコシマ君。まずは部活に入って、友達を作ることから始めようよ。僕の部ならいつでも歓迎する。だから一緒に頑張ろう?」
 放心している少年に、征治がもう一度、手を差し伸べる。
 少年は感動したのか、目尻にうっすらと涙を浮かべて征治の手を取った。そしてゆっくり口を開く。
「非常に言いづらいんですが……、皆さん」
 きっちり一拍置いて、少年が呟いた。
「僕の名前、ヨコジマです……」

 久遠ヶ原の青空に、笑い声がこだました。



依頼相談掲示板

相談卓
大谷 知夏(ja0041)|中等部1年1組|女|アス
最終発言日時:2011年11月24日 15:51
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2011年11月18日 12:10








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